Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
補習授業部、始動
連邦捜査部シャーレ。
我らが先生の率いるその組織は、連邦生徒会長が失踪する前に立ち上げていたらしい。
このキヴォトス銃のすべての生徒の協力を仰ぐことができ、同時にすべての生徒の駆け込み寺の役割をもっている。
顧問である先生がかなりのお人好し、かつ子供好き(変な意味ではない)なので、今のところ相談に訪れた生徒の悩みは解決できなかったことはないという。
先日もミレニアムに赴き、廃部寸前の部活を救ったともっぱらの噂になっている。
さすがは先生といったところだ。
俺は今、シャーレの本拠地であるD.U区内のオフィスビルにお邪魔させてもらっている。
なにを隠そう俺もれっきとしたシャーレの部員なのである。
シャーレの部員は1週間に1度くらいの頻度で先生の業務を手伝っているのだ。
ちょうど今日が当番の日だった俺がやってきた執務室の中には、机に積まれた書類の前で突っ伏している先生の姿があった。。
「今度は随分と溜まりましたね」
「テツヤ……手伝ってくれるかい?」
「いいですよ。早めに終わらせちゃいましょ」
以前、連邦生徒会長代理に提出した書類の制作時に先生と共同作業をして以来、俺はこうやって先生の書類仕事を頻繁に手伝うようになった。
先生の業務は数多く、ほぼ過労死寸前のサラリーマン。
ただでさえ書類仕事が多いのに生徒の相談までこなしているのだから、そうなるのも無理はないが。
アビドスに手を貸してくれたお礼のため、俺のコレクションの一つを渡しに行った時も似たような惨状だった。
最後まで俺の助力を渋った先生を押し切り、1日を使って書類の山を片付けたのだ。
それからもちょくちょく、当番以外の日も確認のためにシャーレを訪れているのだが、今回はまだマシな方だろう。
なにせ、書類の山を前にちゃんと意識を保っているのだ。
最初は徹夜だったのか意識が朦朧としていたし。
「ちなみに今日の予定は?」
「午後からトリニティに行く約束があるかな」
「じゃあ、ユウカさんも呼びますよ」
ミレニアムのユウカさんもこの執務室の常連である。
書類仕事で何度も顔を合わせる『先生の過労阻止同盟』の同士だ。
今日は確か予定が空いているといっていたから、電話すればすぐに来るだろう。
「いやそれは……」
「このままじゃ絶対に間に合わないですって。こういう時ぐらい人に頼ってもバチは当たりませんよ」
先生は確かに大人だが、この街には先生の仕事を手伝ってくれる大人はいないのだ。
だったら猫の手、もとい生徒の腕を借りなければ早々に過労で病院行きになってしまう。
連邦生徒会は連邦生徒会長の捜索に人手を回しているらしいが、先生を酷使しすぎではなかろうか。
今度七神さんに会ったら、人手を回してもらえないか聞いてみよう。
俺はポケットから取り出した携帯でユウカさんに援軍の要請を頼んだ。
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書類と格闘すること3時間。
「「終わった……」」
俺とユウカさんの声が重なった。
俺たちを見る先生は申し訳なさそうな顔をしながらも礼を言った。
「ありがとうね、2人とも」
「このくらいならまだ大丈夫ですけど……いい加減にアシスタントをつけたらどうです?」
先生は多忙なのだ。
連邦生徒会にそれくらいは言う権利があるはずだ。
俺の言葉に同調するようにユウカさんも携帯を取り出しながら口を開いた。
「テツヤくんの言う通りです。食事の時間どころか睡眠時間も怪しいじゃないですか。これは連邦生徒会に抗議するべき事案です」
「いやあ、でも私は大人だから……」
「「関係ありません」」
「うっ……」
「ユウカさんも七神さんに会うことがあったら伝えといてくれ。俺もそうする」
「そうね。先生は自分をもう少し労わるべきだわ」
「いつも以上に2人の押しが強い……」
「「先生はもっと自分を労わるように!」」
「はい……」
ここまで言わないと無茶ばかりするんだよな、この人。
俺のように無茶ができる体じゃないってことをいい加減に自覚して……いや、自覚した上で行動してるんだよな。
だからたちが悪いのだけど。
「私はこれで帰るけど、テツヤくんはどうする?」
「先生が午後から予定があるらしいからついていくよ」
「オーケー。先生が無茶しないように頼むわよ」
「お任せあれ」
できるオフィスウーマンのような美麗な後ろ姿でユウカさんは去っていた。
「テツヤ、予定は大丈夫なの?」
「空けてきたんで」
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そうしてやってきました、トリニティ総合学院。
2日ほど前にヒフミさんに会いに行ったので、新鮮味はない。
先生はトリニティにも行き慣れているようでスムーズに校舎の中へと通された。
「先生って神出鬼没ですよね。節操がないっていうか」
「節操がないは違うんじゃないかな……」
「生徒だったら誰でも助けに行くんですから十分節操なしでしょ」
2人並んで廊下を歩く。
先生はティーパーティーにお呼ばれしているらしく、今から面談らしい。
あくまでも付き添いである俺はその面談には参加できず、ティーパーティーの警護にあたっている正義実現委員会のメンツとお留守番らしい。
廊下をとことこ歩いて行けば、見覚えのない黒いセーラー服の生徒がいた、
「キヒヒヒヒヒ……」
なんか特徴的な笑い声の人がいる。
「久しぶりだね、ツルギ」
「……先生もお変わりないようで」
どうやら例に漏れず知り合いの生徒のようだ。
もうこの人の知らない生徒はいないのではなかろうか……
「ウヒヒ……はじめまして。剣先ツルギだ」
「どうも、新条テツヤです」
剣先さんと握手を交わす。
首に縫った跡のような特徴的な飾りをして────俺も首輪ついてるから似たようなもんか。
剣先さんは特徴的なオリジナル笑顔を浮かべたまま、先生をティーパーティーの桐藤ナギサさんが待つであろう部屋へと案内した。
「じゃあ、行ってくるね」
「気をつけて」
俺の言葉に苦笑した先生は扉の奥へと消えた。
「うくくく……」
「素敵な笑顔ですね」
見る者すべてを破壊しそうな顔だけど。
こういう人が味方にいると頼もしいんだろうな。
「くへッ!?」
「え?」
「んんッ! ……な、なんでもない」
そっぽ向かれてしまった。
しかし、このまま黙って待つのもアレだ。
剣先さんには話し相手になってもらおう。
「ご趣味は?」
「え、映画鑑賞……」
「おお、いいっすね。どんな映画をみるんです?」
「恋愛映画を……」
「なるほど。ちなみに純愛派ですか?」
「ああ……キヘ!?」
なるほど。
剣先さんは純愛派。
溢れるようなプレッシャーからは考えもつかないような趣味だが、立派なものだ。
しかし恋愛映画か。
あまり見たことのないジャンルだが、これを機に知見を広める意味でも一度見て見ようか。
「……新条の趣味は?」
「サイクリングですね。風を突っ切る感覚が癖になるんですよ」
「……そうか」
またオリジナル笑顔。
というか、時々大きく笑う以外は割と物静かな人だな。
最初の笑い声のインパクトが強すぎてテンションの高い人と誤解してしまった。
「新条」
「はい」
「私と戦え」
「……はい?」
この人もしや戦闘民族?
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「補習授業部か……」
ティーパーティーのナギサからの話は、トリニティ総合学院における『愛の必要な生徒』。
もとい、成績不振者たちを集めた部活『補習授業部』の顧問になってほしいとのことであった。
補習授業部の生徒は定期的に行われるテストで一定の成績を収めなければ落第になってしまうのである。
ナギサの提案を受けた先生は、その足を補習授業部の面々が集まっているという教室へと向けていた。
───その時、地面が揺れた。
「うわッ! な、なんだろう……」
廊下の窓ガラスには罅が入り、未だ揺れは続いている。
「キヒャヒャヒャヒャーー!!」
「この声は、ツルギ?」
特徴的な笑い声は間違いなく、正義実現委員会委員長のツルギのものだった。
先生は揺れる校舎を必死に走り抜ける。
走った先にあったのはトリニティ総合学院の広い校庭だった。
本来なら整地され、綺麗なはずの校庭は大災害に見舞われたかのようにあちこちが裂け、今も土煙が轟音と共に吹き上がっている。
「ウヒヒヒヒヒヒ、ギャハハハハハ!!」
「────」
そこには満面の笑みを浮かべたツルギと変身したテツヤが戦闘を繰り広げる姿があった。
遠巻きに眺めるギャラリーたちは恐怖の悲鳴を上げ、正義実現委員会の生徒たちは絶句した様子で眺めるばかり。
そんな観客の様子を気にも留めず、2人の戦いはさらに激しさを増していく。
テツヤの拳が地面を裂き、ツルギの蹴りが風を切り裂く。
「ギハハハハハハハハハハ!!」
ツルギがテツヤとの距離を急速に縮めながら両手に握るショットガンを撃ち放つ。
放たれた弾丸は立ったまま動く気配のないテツヤに当たると思われた。
「────」
テツヤは小さいステップを連続して繰り出すことでその弾丸の全てを避けた。
しかし、まだ動かない。
狂喜の笑いを浮かべながら突っ込んでくるツルギに対して構えすらとることなく、ツルギの攻撃を待ち続けた。
「死ねェッ!!」
ツルギは空中に飛び上がると一回転し、背の黒い羽根を滑空の道具に使いながらテツヤを強襲する。
2丁のショットガンから放たれた弾丸に追いつく勢いのスピードで飛び蹴りを繰り出した。
この場の先生を除いた観客全員が、テツヤの敗北を疑わなかった。
それほどの精度をもった攻撃だった。
「───!」
しかし、テツヤはその攻撃を前にしても怯む気配すら見せなかった。
テツヤが強く拳を握りしめた途端、頭部にあった2本の角が花開くように6本へと数を増やす。
地面にテツヤの頭部をデフォルメしたような紋様が広がり、その輝きが握られた拳に収束された。
テツヤは迫りくる弾丸をその輝く拳で瞬く間に叩き落すと、飛んでくるツルギの顔面にその拳を叩きつけた。
「ハァッ!」
拳を受けたツルギは吹っ飛ばされ、校舎の一角を突き破る。
そして静寂が訪れた。
トリニティ最強と呼ばれる正義実現委員会委員長が敗北した。
目の前に広がるその事実がギャラリーのキャパシティをパンクさせたのだ。
「────!」
しかし、テツヤはなおも臨戦態勢を解こうとしない。
そればかりか再び拳に力を込め始め、追撃の用意を始めた。
「おい待て! もうこれ以上は───!」
正義実現委員会の生徒が声を上げたその時だった。
「ギギギギ……クヒッ! クハハハハハハハハハハ!!」
崩れた校舎の一角から静寂を切り裂く笑い声が響き、顔を血で濡らしたツルギが発砲しながらテツヤへと迫った。
「ハアッ! トアッ!」
銃弾を叩き落し、再び拳を振りかざすテツヤ。
対してテツヤに迫ったツルギは、両手の銃を投げ捨て、その拳を受け流した。
「───!」
「ギヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
ツルギはテツヤの背後に回るとその胴体を両手で掴み、そのままブリッジする体制となってテツヤを頭から地面に叩きつけた。
「ジャーマンスープレックス……」
衝撃と共に土煙が上がり、2人の姿が見えなくなる。
最初に姿を現したのは両手に銃を握ったツルギだった。
正義実現委員会を始めとしたギャラリーが歓声を上げる。
見事な逆転勝利だったとツルギを讃える声が響いた。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒ……」
だが、ツルギは未だ土煙が立つその場から離れようとはしなかった。
ギャラリーが不審に思う中、土煙が時間をかけてようやく晴れてくる。
そこには体にかかった土砂を払うテツヤの姿があった。
「嘘だろ……」
「委員長のアレを喰らってまだ動けるのか!?」
さらなる恐怖に包まれるトリニティのギャラリーたちとは引き換えに、
「グヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
体をはち切れさせんばかりの笑い声をあげるツルギ。
───まだ足りない。
───もっとやろう。
先生にはツルギがそう言っているように聞こえた。
テツヤもまた、ツルギに応えるようにファイティングポーズをとる。
2人が恐らく合意の上で戦闘を行っていることは先生もわかっていた。
しかし、誰がどう見てもやり過ぎであった。
「テツヤ! ツルギ!」
「「!」」
「今日はここまで!」
「「……はい」」
激闘の決着は先生の一声であっけなく終了した。
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「きひひ……いい戦いだった」
「こっちも勉強になったんで、ありがとうございます」
実りの多い戦いだった。
ホシノ先輩とはまた違うタイプの実力者。
ワカモとちょっと似ているような気がする。
あっちは破壊衝動が行動の元のような気がするけど、剣先さんはわかりやすいくらいの戦闘衝動で動き続ける。
それでいて行動に無駄がなく、射撃は正確、体術も申し分ない。
鍛錬を始める前の俺ならば、哀れなくらいにボコボコにされていただろう。
「また、やろう……」
「はい。その時はよろしくお願いします」
「すごいな。これがバトル漫画的コミュニケーション……」
「先生、忘れたんですか。ここキヴォトスですよ」
「前から思ってたけど、テツヤのキヴォトス像ってなんかずれてるような……」
キヴォトスはそんなもんです。
俺の方がキヴォトス歴は長いのだから、俺の姿勢を見習うべきだと思うのだ。
「先生、新条。私はここで……」
剣先さんは警護の仕事があるのでお別れだ。
警護なのに俺と戦っている暇があるのかと突っ込みかけたが、警護される桐藤さんからのご要望だったのかもしれない。
正義実現委員会は忙しいのだ。
去っていく剣先さんを見送った後、先生は桐藤さんとの面談の内容について話してくれた。
トリニティ内の不振者を集めた補習授業部。
その顧問になってほしいという頼みだったらしい。
にしてもテストで成績を残せなければ落第とは、有名校のレベルは高いな。
「で、この教室の中に生徒がいると」
「うん」
俺たちは件の生徒たちが集められている空き教室の一つに辿り着く。
先生がドアを開くと、そこにはヒフミさんが待っていた。
「あ、あはは……こんにちはせんせ───テツヤさん?」
「ヒフミさん……とうとうシロコの甘言に乗って────」
「ち、違います! 私はただ、ペロロ様のゲリラ公演に参加するためにテストをサボっただけで────」
「やらかしてんじゃねえか」
「う、二人ともそんな冷たい目で見ないでください……! ちゃんと試験の日程は確認していたんです、これは手違いというか……あうぅ、ごめんなさい」
謝られても困るんだが。
トリニティの成績不振って厳しいんだな。
テスト一回サボっただけでこんな不名誉な部活に押し込まれるなんて……
「テツヤさん、そんな可哀そうなものを見る目は止めてください……! 私がここにいるのはナギサ様に頼まれたからなんです」
「ティーパーティーの桐藤ナギサさん?」
なんでそんな偉い人から頼み事なんかされるんだろう。
頼み事ってそれなりに頼りになる人じゃないとできないと思うんだけどな。
ヒフミさんはティーパーティー専属のエージェントかなにかで?
「私は補習授業部の部長として他の皆さんのお手伝いを……」
「部長なんだ」
「はい。まあ、全員が落第を免れれば自然消滅する部活なので……。先生は担任を務められると聞いたのですが、テツヤさんは当番の?」
「ああ、護衛と思ってくれればいい」
「わかりました。じゃあ早速、他の生徒のところに案内しますね」
「まだ集まってないのか?」
「あはは……これから集めにいかないといけないんです。正義実現委員会へ向かいましょう。ついて来てください」
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正義実現委員会の部室。
綺麗に整頓された部屋は高級ホテルのフロントみたいな豪華さだった。
この部室に限らず、さっきの空き教室もそんな感じだったけれども、この部屋は特に清潔感がある。
さすが正義実現委員会といったところだろう。
そんな部の中に落第寸前の生徒がいるというなのだろうか。
ヒフミさんが誰かいないかと声をかけると、黒い帽子を被ったピンク髪の小柄な生徒が現れた。
「…………」
「あ、あの……」
「…………」
ピンク髪の生徒はヒフミさんと目を合わせたまま一言も喋らない。
人見知りかな?」
「だ、誰が人見知りよ!」
「テツヤさん、心の声が漏れてます……!」
「ナンデモアリマセン」
「もうちょっと隠す努力をしてください!」
ごめんヒフミさん。
「な、何なのよアンタたち! バカにしにきたの!?」
「違います! あの、ここに悪いことをした人がいると聞いて……」
「あら? それって私のことですか?」
その声に顔を向けた全員が固まった。
空気が凍り付いたといってもいい。
なにせその発言をした人物は、水着だけの格好で部室を練り歩いていたのだから。
「寒くないのか?」
冷房も効いてるのによくあんな格好で出歩けるな。
「テツヤ、そこじゃないよ」
「お気遣いありがとうございます。この水着には保温性の高い素材が使われているので、普段着としても優秀なんですよ?」
「なるほど……」
ミレニアム製だろうか。
水着で普段着とは相変わらずのニーズの広さに感心する。
「な、なんであんたが外に出てんのよ!? その格好で出歩かないで!」
「何故です下江さん。この格好になんの問題があるというのですか?」
「あるに決まってんでしょ!? いったいどこの世界に水着で学校内を徘徊する生徒がいるのよ!?」
「ここにいますね」
「だな」
「あんたもあんたで何でこいつの存在を受け入れてるわけ!? おかしいと思わないの!?」
「でも銃は背負ってるじゃないか。横がはみ出てる人がいるのに今さら水着なんて……」
「よ、横? はみで……だ、駄目! エッチ! このエッチーー!!」
今の発言だけでわかる辺り、この下江さんは妄想力が豊かなようだ。
とはいえ、俺一人だけがエッチ扱いなのは心外なので訂正させてもらおう。
「下江さん、今の僅かな発言だけでわかる君もエッチだ」
「だ、だ、誰がえ、エッチよ!!」
「慌て過ぎて草」
「テツヤさん、煽らないでください!」
「この────」
下江さんが何かを言いかけた時に部室の扉が開かれた。
入ってきたのははすみさんと知らない正義実現委員会の人だ。
「ただいま戻りました」
「任務完了です! 現行犯で白洲アズサさんを確保しました!」
「白洲アズサって、ええ!?」
縛り上げられて連れてこられたのはガスマスクを被った白い髪の生徒だった。
そういえばこのキヴォトスでガスマスクを見たのは初めてだな。
ヘルメットよりも希少価値が高い。
ヒフミさんは驚いているようだが、知り合いだろうか?
「ヒフミ、もしかして……」
「はい、先生……水着の浦和ハナコさん。あの白洲アズサさんが、補習授業部のメンバーです」
「へー」
浦和さんはともかく、現行犯で捕まった白洲さんは結構な問題児のようだ。
今も拘束されながら「拷問には慣れている」なんて歴戦の兵士みたいなこと言ってるし。
これはヒフミさんも大変そうだな。
「先生にテツヤさんですか。何か正義実現委員会にご用が?」
「補習授業部の子を迎えにきたんだ。2人を引き取ってもいいかな?」
先生の言葉に心当たりがあったのか、少し考えるそぶりをするカスミさん。
「……わかりました、補習授業部の話は私も聞いています。引き取ってもらってかまいません」
「ありがとう」
「はあ!? 良いんですかカスミ先輩!」
「コハル。先生はティーパーティーからの依頼で補習授業部の担任を任されています。私たちが反対する理由はありません」
「……ま、まあ、良いんじゃない! 露出狂の変態に生粋の悪党! それが『バカ』で一括りにされるんだから! トリニティの治安も良くなるわよ! 私はそんなことになったら恥ずかしくってたまらないけどね!」
勝ち誇ったように笑う下江さん。
その様子を気まずそうに眺めていたヒフミさんが口を開いた。
「最後の一人は下江コハルさんです……」
「……え?」
見事なフラグ回収であった。
俺は拍手して下江さんの成した異形を讃える。
「おめでとう。ペロロ様マニア、水着の露出狂、生粋の悪党、そしてただのバ────」
「テツヤさん!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
そして錚々たるメンツが空き教室に揃えられた。
一人目、ペロロ様のためならなんでもやります。
自称平凡な高校生、2年の阿慈谷ヒフミ。
「うう……わ、私がしっかりしないと」
二人目、水着徘徊の常習犯。
変わったファッション、2年の浦和ハナコ。
「ではここに揃っているのが補習授業部のメンバー……うふふ、楽しいことになりそうですね」
三人目、そのガスマスクそろそろ外したら?
テロリスト、2年の白洲アズサ。
「シュコー、シュコー……」
四人目、見事なフラグ回収お疲れ様です。
むっつりスケベ、1年の下江コハ────」
「誰がむっつりよ! というか、なんなの先から! 格闘技の選手紹介みたいな発言は止めなさい!」
「いや、この世の終わりみたいなメンツが揃ってるからやってみたくて」
「大体あんた何なのよ! トリニティの生徒じゃないわよね!」
「テツヤはシャーレに所属する生徒なんだ。今日は私のお手伝いにきてくれてるんだよ」
「その通りだ。言葉には気を付けるんだなノーマルバ────」
「テツヤ」
「はい」
先生は怒らせると怖いからな。
少し大人しくしておこう。
「とりあえず、先生に教わりながら地道に学力上昇を目指しましょう」
そう言ったヒフミさんは用意していたプリントを全員に配っていく。
浦和さん、白洲さん、下江さんの前にプリントを置くと、なぜか俺の前にもやってきた。
「どうしたの?」
「私から頼んだんだ。テツヤもテストに参加させてほしいって」
俺の疑問に答えたのは先生だった。
なんでだろう?
俺はトリニティの生徒ではないのだが……
「テツヤ、最近のテストの調子が悪いって聞いたから」
「げ。誰に聞いたんですそんなこと……」
「ノノミから。格闘教室に行くのはいいけれど、最近は勉強が疎かになってるってね」
アビドス高等学校の面子は全員がシャーレに所属している。
それゆえにこうやって個人情報が先生に漏れやすいのだ。
しかしノノミさん、どうやって俺のテストの成績を……
「なので、テツヤも参加するように。合格点を取れないなら、格闘教室に行くのは禁止です」
「う……わかりました」
反論のしようもない。
確かに最近は鍛錬に熱を入れ過ぎて、昼間の授業中に居眠りすることもあった。
学生の本業は勉強だ。
それを疎かにするのはよくない。
俺は観念して空いている席へと着いた。
「人のこと言えないじゃない」
「ぬう……」
俺の補習授業部での活動は、こうして始まった。
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補習授業部での勉強は先生の補習授業と自習によって成り立つ。
先生の授業でとったノートの確認を誰かと共有して自習に望むのは俺にとっても初めての経験だった。
「テツヤくん。ここの数式からおかしくなってますよ」
「あ、本当だ。ありがとうハナコ」
「アズサちゃん、この公式は────」
「なるほど、理解した。復唱する」
「いやそこまでしなくても……」
「……」
「コハル、そこの文法、主語が抜け落ちて変なことになってんぞ」
「わ、わかってるわよ……」
なんというか楽しい。
アビドスではここまで勉強会らしいことはしたことなかったな。
この件が片付いたら誘ってみようか。
「テツヤさん。この読み方って合ってましたっけ?」
「えーと……」
───時間はあっという間に過ぎ去り、俺たちは第一回目の試験の日を迎えた。
「よし、そこまで」
先生の合図と共に全員の手が止まる。
回収されたプリントは先生の手によって10分ほどで採点された。
「テストは100点満点中、60点で合格です! たとえ高得点は取れなくても、そのラインを超えられれば大丈夫です」
ヒフミさんが本番の試験の内容について語る。
しかし随分と温情のある試験だな。
90点以上とか要求されるものだとばかり思っていた。
「それに内容も簡単でしたし……では、今回の結果発表と行きましょう! 先生、お願いします!」
「じゃあ、まずはヒフミから。ヒフミは82点。おめでとう、本番もこの調子で頑張って」
先生が点数の発表と共にヒフミさんにプリントを渡した。
「あ、ありがとうございます。よかったです! では次は……」
「アズサは……38点」
「……はい!?」
ヒフミさんの驚いた声が教室に木霊した。
点数をとった張本人はというと……
「ちっ、紙一重だった」
随分とぶ厚い紙だな。
惜しいというには随分な点数不足だが、本人的には健闘した結果だったらしい。
あ、ヒフミさんが頭を抱えている。
「ちょ、ちょっと待ってください! 紙一重どころか、結構足りてないですよ!?」
混乱するヒフミさんに苦い笑いを浮かべた先生が、次の生徒の点数を発表する。
「コハルは……23点」
「コハルちゃんんんっ!?」
「こ、これはその……」
「前のテストは2年生用のテストを受けたから低かったって言ってましたよね! 今回用意されたのは間違いなく1年生用のテストですよ!?」
言い訳にももう少しいい理由があったろうに。
プリントを渡す先生もどうフォローしたらいいのか困り果てている。
「ハ、ハナコちゃんの点数は……」
「……ハナコは、2点」
「「2!?」」
……嘘だろ。
勉強の時はすごく頼りになったハナコが2点?
「2点!? むしろなにが正解だったんですか!? というかハナコちゃん、自習の時は物凄く頼りになる感じでしたよね!?」
「確かに私、そういう雰囲気あるみたいですね。まあ成績は別なのですが」
混乱するヒフミさんにハナコさんがそう答えた。
雰囲気で俺の疑問に答えてたの?
結構難しい問題を聞いたはずなんだけど、それ全部雰囲気で答えてたのか?
嘘だろ?
「あうぅう……て、テツヤさん。テツヤさんは……」
待てよ、嫌な予感がする。
俺、結構ハナコに色々なところを教えてもらったんだけど、めちゃくちゃテストの中にも出てきてたんだけど……!
「せ、先生……」
「テツヤは……98点」
「マジで!?」
「テツヤさん! うぅぅ、私は信じていました!!」
……あれ、てことはハナコさんの教えたところは全部あってたってことだよな。
「うふふ」
───この人、本当に2点なのか?
ということで、エデン条約編開始です。
ここから原作との乖離が激しくなるかも。