Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
第三回模擬試験で優秀な成績を収めた補習授業部。
第二次特別学力試験を控え、その準備を万全に整えた俺たちは、ハナコの提案で外出することになった。
補習授業部のメンバーは不要不急の事情以外での外出を禁止されているが、それを破ってでも外出を敢行したのは理由があった。
「試験の日時と場所に合格範囲が変更になる?」
「ええ、トリニティ上層部でそのような書類が通されたと、シスターフッドの情報網に引っかかったそうです。変更日は今日だと」
「今日ですか!? 開始時間はいつなんです?」
「27時、つまり深夜3時から……ゲヘナ自治区内の会場だそうです」
「ゲヘナ!? 嘘でしょ! そんな時間にゲヘナなんて行ったら、夜間警備の風紀委員に間違いなく止められるわよ!」
「……なるほど、これが桐藤ナギサの策というわけか」
「合格範囲は?」
「90点台」
「「90点!?」」
ヒフミさんとコハルが思わず声を上げる。
90点以上を取った生徒は補習授業部のメンバーではハナコだけ。
ヒフミさんですら取ったことのない高得点だ。
一次試験は普通の内容だったというのに二次試験から本気を出してきたらしい。
何が何でも補習授業部のメンバーを退学に追い込むつもりだ、。
特別試験は第三回まであるが、次の試験はどんな無理難題が突きつけられるか、わかったものじゃない。
「90点……私、そんな点数なんて……」
一番へこんでいるのはコハルだ。
補習授業部の中では今もなお最下位。
元々、正義実現委員会としてのプライドをへし折られての参加だったのも相まって、コハルは普段よりとにかく落ち込みやすくなっているのだろう。
だが、俺はテストの点数についての心配はしていない。
「コハル」
「……テツヤ?」
「お前はこの場にいる誰よりも成長した。俺は、俺たちはそれを誰よりも知っている。90点に怯えるな。でしょ、先生?」
「うん。コハルもみんなもよく頑張ってここまで来たんだ。できるよ、絶対」
「……そう、かな」
「コハル」
アズサが歩み寄り、コハルの肩に手を置いた。
「アズサ……」
「結果はやってみないとわからない。でも、私たちはこの合宿で確かに成長してきたはずだ……自分の力を信じてみよう」
「……そうね。まだ試験は始まってもないんだから!」
「はい。まずはその試験を受けるために頑張りましょう!」
「安心してください。ゲヘナで試験が行われることは予測済みです」
そう言ったハナコが案内したのは、合宿所内にあった使われてないガレージだった。
ここは絶対に使うことがないと思われたので、清掃は後回しにしていたはずだったのだが、俺たちが目にしたのは綺麗に整理整頓されたガレージ。
ガレージ内には二台のバイクと四輪の普通車輛が一台止められている。
「風紀委員の網をこれで突っ切りましょう!」
「強硬突破か……」
「ゆっくり潜入することもできますが、時間を掛け過ぎて試験開始に間に合わなければ本末転倒ですから。これが私たちが打てる一番確実な手です。私たちは二手に分かれて試験会場を目指します」
「ハナコ、組み分けはどうする?」
「ヒフミさんとコハルちゃん、先生とテツヤ君がバイクに乗って、アズサちゃんと私で車に乗ります」
アズサの言葉にハナコが答える。
「バイク組と車組ってことか?」
「はい。突入の合図は打ち上げ花火に合わせてください────では、行きましょう!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
夜の風が体を通り抜ける。
キヴォトスに来て受けた免許講習以来のバイクは、自分が思う以上にしっくりくる。
ハンドルを握る手は震え一つなく、運転も安定している。
「先生、後ろはどうですか?」
「ちょっとお尻が痛いけど、大丈夫!」
先生の様子を窺ったあと、バックミラー越しについてくるヒフミさんが運転するバイクを見る。
ヒフミさんは落ち着いているわけではないようだが、運転に支障はなさそうだ。
緊張しているのか、しきりにミラーを確認しているけれど。
「もうすぐ、ハナコの言っていた風紀委員の網です! もしもの時は指揮をお願いしますよ!」
「了解!」
「ハナコ! そっちはどうだ?」
『もうすぐで着きます!』
右耳のインカムからハナコの声が聞こえた。
「ヒフミさん! 突撃までもう少しだ! 気合入れて!」
『ど、どうやって入れるんですか……?』
「頑張って!」
『具体的な手段を聞いているんですけど!?』
「腹に力を入れる!」
他にもいろいろとやり方はあった気がするが、今はこれでいいだろう。
夜の道路は車通りが少ない。
このまま余計なトラブルに遭わなければいいのだが……いや、ここまで少ないものか?
そう考えた俺の目に風紀委員の検問が映った。
「おい! 止まれ、そこのバイ────」
風紀委員の警告を遮って空に上がり、音を立てたのは打ち上げ花火。
それに風紀委員の注意が向いた。
『「今!」』
バイクが加速する。
ミレニアム製の高級バイクはアクセルをひねった時の加速も段違いだった。
検問のバリケードを勢いにまかせて正面から打ち破る。
「ヒフミさん!」
『大丈夫です! 通り抜けました!』
「ハナコ、そっちは!」
『問題ありません!』
よし、第一の関門は無事に突破できたようだ。
だが安心はしていられない。
風紀委員の追跡が始まる────と思ったのだが。
───ドカーン!!
後方で爆発音が響いた。
「ヒフミさん、何かした?」
『わ、私じゃありません!』
後方に広がる黒い煙から現れたのは、デザートカラーのジープだった。
乗っているのは四人……いや、後部座席になぜか縄で簀巻きにされた人が乗せられている。
いったいどういうことなんだ?
『あ、あれは!』
「知り合いかヒフミさん!」
『ゲヘナの美食研究会です! つい最近、ゴールドマグロをトリニティから奪い去った方々です!』
ただの泥棒じゃねえか!
美食研究会なんてよく言えたもんだな。
ていうか、ゴールドマグロってなに?
金のマグロか、金のマグロなのか?
絶妙に食いたくないラインの奇怪なマグロがこのキヴォトスにはいるのか?
……いや、そんなことはどうでもいい。
いったい何をしにきたのかが重要だ。
「あら、先生ではありませんか?」
助手席に乗っていた銀髪の女が指を指している。
「先生! 知り合いですか?」
「うん。ゲヘナに行ったときに出会ったんだ」
「どうしたのですか、こんな時間帯に?」
バイクの隣にきたジープから、銀髪の女が話しかけてくる。
「これからゲヘナに用事があるんだ」
「あら、そうなのですか……ちょっとタイミングが悪いかもしれませんね」
「温泉開発部が市街地のど真ん中をドカン☆とやっちゃったみたいでめちゃくちゃな状態なんです」
運転席に座る金髪が衝撃の事実を話した。
つまり今の風紀委員は相当殺気立っており、見つかれば戦闘は避けられないということか。
───ドカ―ン!
『う、後ろが爆発しました!!』
「大丈夫かヒフミさん!」
『なんとか!』
『ちょっと、風紀委員の他にも温泉開発部まで追ってきてるわよ!?』
嘘だろ?
なんで市街地を爆発させるイカレた連中が追ってきてんだ!?
「テツヤ! 前にスパイクベルトが!」
その声に急ブレーキをかける。
スパイクベルトは海外の警察が使っているイメージの強いタイヤをパンクさせる道具だ。
いくつものスパイクが付いた帯を道路に敷くことで、その上を通過した車両のタイヤをパンクさせる。
車両を捨てなければ突破は難しいが、まだ会場には距離がある。
バイクをここで失うわけにはいかない。
ならば────
「変身」
検問を敷く風紀委員を力ずくで排除するしかない。
そう思って変身したその時───ふしぎなことが起こった。
バイクが光り輝きはじめ、白かったボディがその姿を変えていく。
白から金へ。
まるでアギトの姿を象ったような、流線型のフォルムに変化したのだ。
「バイクが、変わった!?」
「かっこいい……!」
両手に握るハンドルからその力が伝わってくる。
このバイクがどんなもので、どれほどの力を秘めているのかがわかる。
俺は一気にアクセルをひねり、スパイクベルトとバリケードが敷かれつつある検問目掛けて突っ込んだ。
「バカが! 真正面から突っ込んできやがって!」
「行け!」
スパイクベルトの上を通過する。
タイヤはパンクしない。
より強靭な形に変化したバイクはスパイクベルトを力強く踏みつぶした。
仰天する風紀委員たち。
俺はそのままバリケードを粉砕し、5人の風紀委員を跳ね飛ばした。
「ヒフミさん!」
『はい!』
後続のヒフミさんが検問の跡を通過するのを確認すると、その後を追うように走り出す。
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時刻は2時30分。
試験会場に指定されたビルに到着した俺たちは、別働体であるコハルとアズサを待っていた。
遠くから車の音がすると、車に乗った二人の姿が見えた。
連絡により、道中で問題が多発したことは聞いていたが、どうやら無事に辿り着くことができたようだ。
「みなさーん! お待たせしましたー!」
「2時30分……間に合ったようだ」
二人がボロボロの車を降りて走ってくる。
あちらも相当の激戦があったのだろう。
しかし、その表情は明るい。
試験に支障がでるほど消耗したわけではなさそうだ。
「美食研究会のおかげで、こちらの手勢が減ってくれたので助かりました」
「少し回り道をしたが、余裕のある時間に到着できてよかった」
なるほど。
どうやら思わぬ形で美食研究会に助けられたようだ。
彼女たちは途中でロケット弾を避けようとして川に落っこちてしまった。
多分、風紀委員会に捕まっているのだろう。
やっていることはただの泥棒集団だが、今だけは感謝しておく。
「ここがゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の一階……途中で送られた連絡通りの場所です」
ゲヘナまでいく道中でトリニティから届いた情報は、ハナコが手にした情報と全く同じものであった。
もしハナコが早めに情報を他に入れられていなければ、俺たちは慌ててゲヘナに向かっていたのかもしれない。
試験時間までは30分。
戦闘の緊張を収めるには十分な時間だ。
「では、テツヤ君。手筈通りに」
「ああ」
「あれ? テツヤさんは一緒に来ないんですか?」
「ちょっと見回りにな」
ビルへ入っていくヒフミさんたちと別れた俺はビルの外周を見渡す。
今のところ人はいないが、ハナコの予測通りならば外からの妨害が入るはずだ。
俺はビルの周囲に点在する廃墟の屋上に立つと、ビルへ近づこうとする者がいないか監視していた。
試験時間は近づいているが、今のところ動きはない。
「がんばれよ」
テストさえ受けられればこっちのものだ。
特別試験で合格点を出すのは桐藤さん自身が決めたクリア目標だ。
それを曲げるような真似はトップにはできないだろう。
テストそのものを許さない仕掛けがあるならば、この手で粉砕してやる。
「……きたか」
そうやって監視を続けていると、テスト会場の周りで白いヘルメットを被った集団がうろついている。
走行中に襲撃してきた、ゲヘナの温泉開発部の連中だ。
「このあたりでいいんだよな?」
「ああ、情報によればこの辺りに源泉が眠っているらしい……」
そんなわけがあるか。
俺は爆弾の準備を始める温泉開発部を確認するとすぐさま廃墟の屋上から飛び降り、一人の側頭部に蹴りを入れて黙らせる。
「な、なんだおま────」
爆弾を準備している二人の温泉開発部員の頭を掴んで叩き合わせる。
残っている敵には拳と蹴りを見舞った。
壁に叩きつけられて動かなくなる温泉開発部たち。
俺は設置されかけた爆弾を回収し、試験へと臨んでいるであろう補修授業部の武運を祈った。
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午前4時。
試験開始から1時間が経った。
そろそろ試験を終えて出てくるはずだが……
「なかなか出てこないな……」
居ても立っても居られなくなった俺はビルの入口へと向かう。
中に入ろうとしたちょうどそのとき、ヒフミさんを先頭に中に入っていた全員が出てきた。
空気が重い。
誰一人として口を開かない雰囲気に俺は試験結果を悟る。
なんと声をかければいいのかわからない。
が、無言で帰るわけにもいかないだろう。
「……まあ、次は────」
「ばばーん!」
奇天烈なハナコの言葉と共に補習授業部のメンバーが答案用紙を突き出したきた。
「ヒフミさん98点、コハル90点、アズサ92点、ハナコ100点……いや、受かってんじゃねえか! 紛らわしい雰囲気で歩いてくんじゃねえ!!」
「ご、ごめんなさい……ハナコちゃんがどうしてもって」
「うふふ……」
うふふじゃない。
心臓が悪いにも程がある。
「見てくれテツヤ、最高得点だ!」
「……ああ、よくやったなアズサ。それにコハルも」
「まあ、私なら当然の結果よ……いろいろ、手伝ってもらったから」
コハルとアズサは最初に比べて見違えるような成長を遂げた。
この二人の点数を見て、少し前まで落第予備軍だったなどと誰が思うだろうか。
本当に二人とも、よく頑張った。
それはそれとして、確認しないといけないことがある。
「ハナコ、中にはあったか?」
「ええ、時限式のものが複数仕掛けられていました」
ハナコがバッグからこのビルに仕掛けられていたであろう爆弾を取り出す。
───このビル自体を攻撃し、試験そのものを受けさせないようにする。
ハナコの予測は正しかった。
外の温泉開発部が失敗したら、この爆弾で会場ごとテストを台無しにする予定だったのだろう。
まあ、その策も無駄に終ったわけだが。
「30分も時間がありましたからね。全部解除するには十分でした」
「ハナコちゃん、試験前に見かけないと思ったらそんなことをしていたんですね……」
こいつの有能さが恐ろしい。
水着徘徊から爆弾解除までできるハナコに死角はあるのだろうか。
つくづく味方でよかったと実感する。
こうして、俺たちは意気揚々と合宿所へと戻っていった。
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『第二次試験についてのお知らせ
ゲヘナ自治区第15エリア77番街で実施された試験についてですが、受験者の不正行為の発覚により失格とします。
第三次特別試験については別途で通達します』
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「……どうする、これ」
「……うふふ」