Blue Archive vol.AGITΩ   作:mukugawa

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聖園ミカ

 

「ハロー、救世主サマ☆」

 

 聖園ミカが何か言っている。

 アリウス撃滅作戦から5日。

 セイア伝いに聖園ミカに呼び出された俺は、再びトリニティを訪れていた。

 ティーパーティーが所有するセーフハウスの一つ。

 謹慎部屋にしては豪華な邸宅のベランダで、注がれた紅茶を飲む。

 うん、意外と美味いな。

 

「聞いてるのかな?」

 

「聞いてるよ」

 

 暗殺に現れたアリウス生たちは秘密裏に捕縛され、聖園ミカはセイアが適当な理由をつけて謹慎処分とした。

 確か、ティーパーティー所有の建造物を素手で破壊したという罪状だったはずだ。

 聖園ミカは反省のために謹慎を命じられ、この邸宅でしばらく過ごすことに。

 アリウスのスパイを引き入れ、セイアとナギサさんの暗殺をしかけたという本来の罪状はティーパーティー、シスターフッドの両名の手で握りつぶされた。

 深夜の暗殺騒ぎも、当事者たち以外は正義実現委員会や救護騎士団などの上層の者たちしか知らない。

 無罪放免も同然の境遇の聖園ミカが、今さら俺になんの用があって呼びつけたのか。

 

「で、なんかよう?」

 

「つれないな~、二人で拳を交わし合った仲なのに」

 

「そんな河原で殴り合う友情シーンみたいな微笑ましいものじゃなかったろ。俺は一発で、あんたはボコスカ殴った」

 

「過去のことを掘り起こして、ねちねち言う男の子はモテないよ?」

 

「だれが非モテのねちっこい男だって?」

 

「そこまでは言ってないけどな~」

 

「はあ……」

 

「うわ、ため息ついた!? 信じらんない。レディを前にすることじゃないよ」

 

 ため息もつきたくなる。

 表向きはただの謹慎でも事実は違う。

 聖園ミカはその生活を正義実現委員会に監視され、銃器も没収。

 外出も禁止され、この邸宅の中に押し込まれている。

 いってしまえば拘留中の犯罪者とほぼ変わらぬ扱いなのだ。

 そんな人間に面会を求められる身にもなってほしい。

 というか、前に堂々と「あなたのことが嫌いです」と言った相手をよく呼び出そうと考えられるな。

 俺なら気まずくて絶対に呼び出すことなんて考えもつかないぞ。

 

「あんた、俺のこと嫌いなんだろ?」

 

「うん。大っ嫌い☆」

 

「じゃあ、帰らせていただきますね」

 

 俺が席を立とうとすると、聖園ミカは慌てたように俺を止めようとする。

 

「わッ!? 待って待って、ちゃんとした理由はあるから」

 

「……ホントか?」

 

「うわッ、すっごい顔。本当だよ。じゃなきゃわざわざ呼び出さないって」

 

 なんだすっごい顔って。

 

「ほら、座って座って」

 

「…………」

 

 俺は椅子に座った。

 聖園ミカはその光景を満足そうに眺めるとその口を開く。

 

「なんで私と戦ってるときに拳を収めたの?」

 

「……なんでもいいだろ」

 

「質問の答えになってないよ。ちゃんと話して」

 

 話づらいことを聞いてくるな、コイツ。

 

「……見てられなくなったんだよ。あんたのことが」

 

「見てられない?」

 

「意地を張りすぎて、拳の落としどころも見当たらない。あんたが自分がやっていることが間違いだって気づいているから余計に胸が痛くなった」

 

「……そんなこと、私言った覚えがないな」

 

「言っているようなものだろ。俺を舐めるな。本気で戦っているかどうかわからないほど鈍感じゃない」

 

 戦いは隙だらけ。

 どうぞ倒してくださいと言っているようにしか俺には見えなかった。

 拳の重さ、構えの洗練さから強者だとわかってしまったら、なおさら聖園ミカの戦いは手を抜いていると理解できた。

 そもそも暗殺事件の黒幕として登場したらしいが、本当の黒幕は不用意に姿を現したりはしないものだ。

 たとえ自分の仲間がどれだけやられようと自分に危害が及ぶなら助けようなんてしない。

 本当の悪党とはそういうものだと俺は思う。

 

「セイアも言ってたが、こんなことになるなんてあんた自身も想定外だったんだろ」

 

「…………」

 

 今度は黙った。

 さっきまでの流暢な喋りはどこにいったんだ。

 

「なんで、殴り返さなかったの?」

 

「それは今話しただろ」

 

「顔、まだ腫れてるじゃん」

 

 聖園ミカが俺の顔に指をさす。

 奴の言う通り、変身していたとはいえ、俺の体に蓄積されたダメージは大きかった。

 服の下も未だに青あざだらけ、顔にもまだサンドバックになったときの傷跡が残っている。

 聖園ミカが持っているであろう『神秘』のせいか、ここまで治りが遅い傷は初めてのことだった。

 おかげでアビドスに入れなければいけない定期報告で顔を映すことができない。

 こんな体で帰ったら、その時こそ俺はアビドスに閉じ込められてしまうだろう。

 行動力の塊の仲間たちだ、今度はどんな目に遭わされるかわかったものじゃない。

 五日も顔を見せていないことをあっちも気にしているが、携帯のカメラの調子が悪いでどこまで誤魔化せるだろうか。

 とっとと治さないと今後の学生生活の危機である。

 そんなことを考えている俺が見えていないのか、聖園ミカは俯きながら更に言葉を続ける。

 

「……救世主って反則じゃんね」

 

「はい?」

 

「こっちのことはなんでもお見通しで、誰でも助けちゃうなんてさ」

 

「俺は助ける人間は選んでるぞ」

 

「嘘つき。アリウスの子たちのところに行ったって聞いたよ……面倒も見るって言い張ったんだって」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 トリニティ内、ティーパーティーが所有する建物にアリウス生たちの拘禁場所がある。

 地下に広く広がったその建物は、かつてホテルとして使用されていたものだが、今は臨時の刑務所に使われているのだ。

 外観は変哲のない二階建ての建物だが、周りには正義実現委員会の生徒が巡回している。

 俺は門番をしている生徒の元へ行くと、首にかけているセイアに渡されたカードを見せた。

 なんでも、トリニティ内を自由に歩けるパスポートのようなものらしい

 

「拝見しました。どうぞ、お通りください」

 

 門番に見送られながら建物の中に入った俺は、案内の生徒に先導され、地下一階へと向かった。

 

「武器類は没収していますが、念のため部屋には近づかないようにお願いします」

 

「わかった」

 

 用があるのは味方から撃たれそうになったあのアリウス生。

 その彼女がいる部屋の前に俺は立つ。

 

「私は部屋の前で待機しています。もしも何かあったときはこれを」

 

 手渡されたのは一つのボタンが付いたリモコンだった。

 

「これは?」

 

「アリウス生に取り付けられた電気ショック装置のリモコンです。ボタンを押せば首輪型の装置から電流が流れ、動きを抑制します」

 

 とんでもない機械だった。

 俺は内心でドン引きしながらもリモコンをポケットにしまいこみ、部屋の扉を開ける。

 中にはベッドに座ったあのアリウス生がいた。

 

「……! きゅ、救世主様!」

 

 アリウス生は俺に気づくと笑顔でその場に跪いた。

 

「ストップ。救世主様はなしで。俺は新条テツヤだ。新条かテツヤで呼んでくれ」

 

「……で、では、テツヤ様」

 

「さんでお願いします。というか座ってくれ、こっちが落ち着かない」

 

 そこまで畏まれる身分ではないのだ。

 救世主にしたって、鳥と人が混ざったような怪物をやっつけたのは俺ではなく先輩なわけだし。

 アリウス生は困惑しながらも頷いてくれた。

 

「て、テツヤさん……で、よろしいのでしょうか?」

 

「それでお願い。君の名前は?」

 

「……立木マイアです」

 

「ここでの生活はどうかな?」

 

「快適です。三食食べられますし、ふわふわのベッドで雨を気にせず寝られるので……」

 

 アリウスの劣悪な環境が今の言葉で透けて見えた。

 食べ盛りの同年代が食事もまともにできず、雨風を凌ぐにも苦労する環境についこの間までいたことにふつふつと怒りが湧いてくる。

 ベアトリーチェはいったい何を考えているのだろうか?

 自分に都合のいい兵士として生徒を利用したいのならば、ある程度の整った環境でなければまともな戦力など育つはずがない。

 頑丈なキヴォトスの生徒でなければとっくに全滅しているだろう。

 そんな環境から切り離すことができたことを俺は喜べばいいのだろうか。

 

「その、テツヤさんに確認したいことがあるんです」

 

「何だ?」

 

「マダムを……ベアトリーチェを倒すって、本当なんですか?」

 

 不安げな表情で俺にそう聞く立木。

 その質問に俺は深く頷いた。

 

「ああ、奴を倒さないといつまでたっても何も変わらないからな」

 

「……そう、ですか……うぅ……」

 

 立木は俺の返答にいきなり泣き始める。

 

「やっと、やっと救われるんですね、私たち……!」

 

 期待が重かった。

 アリウス生はどれだけ救いを待ち焦がれたのだろうか。

 恐怖と暴力の支配する世界で、支配者の思惑で垂れ流す、来ないはずの救世主伝説を信じ続ける。

 辛かっただろう。

 苦しかっただろう。

 俺には想像もつかない絶望の中で生きてきた少女たちの唯一の希望。

 しかし、俺はそれを背負うと決めた。

 ベアトリーチェを倒し、アズサの仲間たちを……アリウスを解放する。

 それが、キヴォトスにきた俺が果たせることならば。

 

「テツヤさん、お願いします……スバル先輩を、みんなを助けてください……!」

 

 立木は涙ながらにそう話した。

 その時、廊下から叫び声が聞こえた。

 

「脱走だ! アリウス生が脱走したぞ!」

 

「なに?」

 

 扉を開けた先には、監視役だったと思われる生徒の首にナイフをあてがったアリウス生の姿があった。

 見覚えがあると思えば、立木を撃とうとして俺に倒されたあのアリウス生だった。

 

「動くな! こいつがどうなってもいいのか!」

 

「逃げ場はないぞ! 一人でここから逃げられるとでも───」

 

「うるさい、近づくな!」

 

 他の監視役の説得も虚しく、ナイフを振り回すアリウス生。

 俺は素早く犯人の前に出た・

 

「危険です! 下がってください!」

 

 後ろからかけられる制止の声を聞き流し、変身した俺はゆっくりとアリウス生の元へと歩き出す。

 

「あぎ……い、いや違う! 救世主がトリニティにいるわけがない!」

 

「まあ、落ち着け」

 

「うるさい、黙れ! この偽物が!」

 

「いいから落ち着けって」

 

 一息で距離を詰めた俺はナイフを握りつぶし、人質を無理やり引きはがす。

 

「うあッ!?」

 

「今だ! 取り押さえ────」

 

「それも待った」

 

 駆け寄ろうとした正義実現委員会の進路を塞ぐ。

 

「な、何を……」

 

「ここは俺に任せてくれ」

 

 それだけ言い残して、俺はアリウス生に向き直った。

 

「逃げてもいいぞ」

 

「「なッ!?」」」

 

「……何を企んでいる! 私の後をつける気か!」

 

「本当に帰りたいと思ってるんなら、帰ればいいじゃない」

 

 そう言われたアリウス生は戸惑った表情を浮かべて、その場から走り去ろうとする。

 だが、すぐにその足は止まった。

 

「……逃げて、どこに帰る……」

 

 そう呟いたアリウス生は、膝から崩れ落ちた。

 

「帰ったところで私は……」

 

 徹底的に生徒を道具扱いするベアトリーチェ。

 そんな奴の元に任務に失敗した彼女たちが帰ったところで、待っているのは労いの言葉でも暖かい夕食でもない。

 恐らくは躾という名の暴力。

 母校に戻るよりもトリニティに囚われていた方が、彼女にとってはマシなのだ。

 項垂れたアリウス生は抵抗する気力もないのか、監視役の生徒に黙って拘束される。

 

「……なんでだ」

 

「なに?」

 

「なんで今更現れたんだ! 私たちの敵として!」

 

 叫ぶアリウス生。

 腸の底から出た、聞く者を震わせる声はその場にいた全員を黙らせた。

 

「救世主ならなんで私たちを助けない! トリニティの味方ばかりして、救世主とは名ばかりじゃないか!」

 

 救世主と自称したわけではないが。

 だが、その名も背負うと決めたのは俺だ。

 その言葉に俺は意を決して口を開く。

 

「じゃあ、助けるよ」

 

「なに!?」

 

「ベアトリーチェをぶっ倒す。アリウスも立て直す。それ以外にやるべきことがあるなら、悪いが教えてほしい」

 

 今の自分が救世主としてやるべきだと思いついたのはこれくらいだ。

 他にあるなら是非とも教えてほしい。

 

「そんな……そんなことができるとでも思っているのか! お前はマダムの怖さを知らない!」

 

「じゃあ、マダムの怖さを知ってる君に聞きたい。俺とマダム、どっちが強いと思う?」

 

 これは戦力査定だ。

 俺がキヴォトスで出会った大人の中に俺に勝てる大人はいない。

 先生は丸腰だとたいしたことないし、黒服は殴り倒すだけなら簡単だ。

 しかし、ベアトリーチェが同じとは限らない。

 もしかしたらアギトなんか目ではないくらいのムキムキのマッチョの可能性もある。

 果たして、アリウス生の反応はどうだろうか?

 

「それは……」

 

「それは?」

 

「…………」

 

 沈黙。

 それが何よりの答えであった。

 ベアトリーチェは俺よりも弱い。

 それさえわかれば十分だ。

 

「なら、全部任せろ」

 

「……お前は、本当にマダムと戦うつもりなのか?」

 

「ああ」

 

「殺されるぞ」

 

「死なない」

 

 死に際は笑って死ぬと決めている。

 

「殺されてなんてやるものか。お前らの面倒が見れなくなるだろ」

 

「……バカなやつだな」

 

 そう言ったアリウス生は、大人しく牢屋代わりの自分の部屋へと帰っていった。

 最後にほんの僅かな笑みを残して。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いや、かっこいいね~。捕まっちゃったアリウスの子たちも安心したんじゃない? 救世主サマがお助けくださる~って」

 

「あれだけで安心してくれたらいいんだけどな」

 

 そううまくはいかない。

 アリウスでの教育は彼女たちの心に深い傷を残している。

 現状を幸福であると感じられる者は少なく、ベアトリーチェに裏切り行為とみなされることに恐怖を感じている生徒の方が多い。

 やはり元凶のベアトリーチェを倒さなければ、彼女たちが本当の意味で解放される手助けにはならない。

 

「アリウスをベアトリーチェから奪還する。それが俺が今やるべきことだ」

 

「そっか……本当に救世主になろうとしてるんだね」

 

「何を他人事みたいなことを。あんたも手伝えよ」

 

「私が? 冗談言わないでよ。アリウスにまんまと嵌められてこんな立場に追いやられた私が、この期に及んでアリウスを助けると────」

 

「でも、恨んではいないんだろ」

 

 聖園ミカ……いやもうフルネームで呼ぶのも面倒くさいからミカでいいか。

 ミカは俺の言葉に図星をつかれたのか黙り込む。

 

「なんで、そう思うの?」

 

 愚問である。

 ミカは最初から自分以外の誰も責めていない。

 自ら悪役として姿を現し、俺に倒されようとしたこと。

 自分の罪を認め、アリウスに対して一切の責任を押し付けなかったこと。

 こいつは自分の不手際を責めるばかりで、他人に一切の責任を求めていないスーパー自己完結人間だ。

 短所はやっていることを誰にも相談しないこと。

 

「あんた、優しい人間だろ。ちょっと不器用で、猪突猛進なところがあるだけで」

 

「…………」

 

「今でも捕まったアリウス生たちを気にしてるのが、なによりの証拠だろ」

 

「あ~もう……なんで君はさ……」

 

「どうせ暇だろ。元ティーパーティー」

 

「まだ辞めてないよ!」

 

「セイアとナギサさんに許可は取ってきたから、働け」

 

「……私のことが必要?」

 

「ああ。正直、あんたがいてくれると心強い」

 

 アリウスに襲撃をかけるにしてもミカの戦闘力は頼りになる。

 剣先さんとミカと俺が並んで倒せない敵はいないと思うのだ。

 エデン条約が締結されれば、そこにゲヘナの空埼さんも加わるかもしれないのだから向かうところ敵なしである。

 

「あんたが必要だ。聖園ミカ。あんたのことは俺が守る。だから────」

 

「アリウスの子たちのために戦ってくれ……かな?」

 

「そうだ」

 

 俺はミカへと右手を差し出した。

 

「……まあ、ここに引き籠ってるよりはマシかな」

 

 ミカは俺の右手をとった。

 

「痛い痛い……おい」

 

「てへッ☆」

 

「てへじゃない……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 私がアギトについて知ったのは、ある日のアリウス自治区で、サオリとの話し合いのあとのこと。

 アリウス自治区内にある廃教会の中で、一人跪いて祈りを捧げる少女の姿を見つけた。

 顔を隠す特徴的なマスクをしたフードを被った少女は、私の姿を見つけるとすぐにその場を離れようとした。

 

「待って! ちょっと話を────」

 

 私の呼びかけに少女は答えなかった。

 走り去っていく背中を眺めながら、私は廃教会のあるステンドグラスに目を惹かれた。

 

「……綺麗」

 

 ボロボロの廃教会の中で、一際輝くそのステンドグラスは一切の傷がない。

 定期的に誰かが磨いているのか、汚れすらついていなかった。

 そのステンドグラスには奇妙な絵が描かれている。

 黄金の鎧を着たヘイローのない戦士が、天使の羽が生えた異形の怪物と戦う絵だ。

 黄金の戦士の後ろにはヘイローを持った人々が武器を手に持ち、異形の後ろには鳥や蜥蜴などの様々な動物の頭をした怪物たちが同じく武器を持って構えている。

 

「……なんの絵なんだろう」

 

 私が知るキヴォトスの歴史にこんなものは存在しない。

 しかし、キヴォトスで学ぶ歴史には地域ごとで少し異なっている。

 自治区を行き交うたびに景色が変わるのもそのためだ。

 成り立った歴史が違えば、学ぶ歴史も異なる。

 ならば、アリウスにだけ伝わる伝説があってもおかしくはない。

 

「……ここにいたのか」

 

 私は呼びに来たサオリにステンドグラスのことを聞いてみた。

 最初は何も答えてくれなかったけれど、何度も聞き続けていれば観念したようで、少しづつステンドグラスのことを教えてくれた。

 遥か昔、キヴォトスを襲った大災厄。

 外から現れた救世主『アギト』。

 キヴォトスの住民たちはアギトの力を借りることで、その厄災を倒し、キヴォトスに平和を取り戻したという。

 

「その救世主はどこにいったの?」

 

「知らん。厄災を倒した後は、いずこかに姿を消したと言われている」

 

「じゃあ、私たちがその後を継ぐことになるのかな? この話がうまくいけば、アリウスをもっといい場所にできると思うし」

 

「……後を継ぐ、か」

 

 そう言ったサオリの後ろ姿がなぜか強く記憶に残った。

 そして、セイアちゃんが死んだと聞かされて、後戻りができなくなった私はナギちゃんの暗殺計画を進めた。

 そんな時、キミの話を聞いた。

 新条テツヤ。

 シャーレの先生と共に現れたアビドスの生徒。

 

「──あれは」

 

 ツルギと戦いを繰り広げるその姿が、ステンドグラスに映った戦士だと私は確信した。

 あのツルギ相手に一歩も引かない戦いを繰り広げる彼は、まさしく────

 

「遅いよ……」

 

 呟いたその言葉はギャラリーの喧騒にかき消され、誰にも届くことはなかった。

 私は遅すぎた救世主をトリニティから追い出すことに決めたんだ。

 

「俺もあなたのことが嫌いだから、あなたの言うことは聞きません。じゃあ、さようなら」

 

 直接帰ってほしいと伝えた時は一蹴された。

 補修授業部に手を貸し続けるキミは、私の罵倒を意にも解さなかった。

 今度は私の人脈を使って襲わせたけれど、キミはそのすべてを打ち払った。

 驚いた。

 ……それ以上に嫉妬した。

 補修授業部のことだってそう。

 急激に成績を伸ばした話は私だって聞いた。

 その前のアビドスのことだって調べたんだ。

 関わる人が幸せを掴む救世主(キミ)と関わるものを不幸にした魔女(私)。

 そして結局、セイアちゃんもキミに導かれて私の前に現れた。

 

「セイッ!」

 

 セイアちゃんの拳は見た目より重かった。

 私は地面を転がり、仰向けに倒れる。

 私が心から欲したその罰をキミが運んできた。

 ずるい。

 本当にキミはずるい。

 

「これで一件落着ってことで」

 

 キミは、取り返しのつかなかったはずの私の間違いをすべて持って行ってしまったのだから。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ねえ、テツヤくん」

 

「なんだ?」

 

「キミってやつはさ……本当に気に食わないヤツだよ」

 

 心からの嫉妬を込めて呟く。

 

「あ? 喧嘩売ってんの?」

。

 キミに抱く感情は複雑で一言では表せないから、どういう態度でいればいいのかわからない。

 でも、ひとつだけ言えることは、

 

「ありがとう……よろしくね」

 

「え、なに急に」

 

 この無愛想なヒーローを私は心底好いている、ということだ。

 




難産の日々。
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