Blue Archive vol.AGITΩ   作:mukugawa

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休息①

 

 トリニティはお嬢様学校。

 というイメージがキヴォトスでは一般常識らしい。

 

「くひひひひひ!!」

 

 お金持ちで頭がよく、お淑やか。

 

「折るね☆」

 

 どこがじゃクソボケが。

 

「おのれらのようなお嬢様がいてたまるか……!」

 

 F1カーばりのスピードで迫りくる黒と白の姿を迎え撃つ。

 剣先さんの蹴りを左手で受け流し、ミカの拳を右手で受け止める。

 ミシリと嫌な音が右手に響く。

 受け止め方をミスった。

 舌打ちをしながら痺れる右手に力を込めて、掴んだままのミカを剣先さんへと投げつける。

 

「うげげげげぎゃはははははは!!」

 

 剣先さんは飛んできたミカの足を掴むと、そのまま武器のように振り回す。

 

「ちょ───」

 

「あっぶね!?」

 

 爆弾でも爆発したような轟音と共に地面に振り下ろされるミカソード。

 分厚い鉄の塊を叩きつけてもこんな音はしないだろう。

 

「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

 

 ミカソードによる攻撃は続く。

 縦横無尽に繰り出されるミカソードの攻撃を避けながら、俺はミカのボディに拳を叩き込む。

 新手の拷問みたいだな。

 というか、いいのか剣先さん?

 その人、謹慎中で名ばかりのティーパーティーだけど、一応はトリニティのトップみたいな扱いなのでは?

 本人が無礼講と言っただけでここまでの扱いをされるのか……余計なことを口走らないでよかった。

 しかし、ミカソードもただ振るわれるだけではなかった。

 

「フンッ!!」

 

 空中で踏ん張りも効かないだろうに上体を起こしたミカは、その圧倒的な筋力に任せて剣先さんの胸倉を掴み取り、地面へと押し倒した。

 

「おりゃあ!!」

 

「グゲ!?」

 

「仕返し!」

 

 ミカは押し倒した剣先さんを脇に抱えると、遠心力に乗せて俺へと投擲する。

 回避には間に合わないと考えた俺は、剣先さんを右回し蹴りで蹴り飛ばし、ミカが突貫しながら放ってくるサブマシンガンの銃撃を左手の籠手で受け止めながら右へと跳んだ。

 

「死ねェッ!!」

 

 砂埃に汚れた体で、剣先さんが俺の懐で両手に握ったショットガンをぶっ放した。

 

「うぐッ!?」

 

「それ!!」

 

 怯んだ俺の顔面を容赦なくミカのドロップキックが襲った。

 受け身をとって地面を転がる。

 なんでこの人たち銃を持ってるのに徒手空拳で襲い掛かってくるんだろ……いや、徒手空拳しか武器をロクに使わない俺が言えることではないけれどもさ。

 

「ジタバタしないで大人しく負けを認めたら?」

 

「ぐけけけけけけけけけ!!」

 

「言ってろ白ゴリラがッ!」

 

 再び三人での激突があった。

 こんな派手なバトルロイヤルになった原因は今から20分ほど前、トリニティ校舎内で剣先さんに呼び出されたことに遡る。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「手合わせですか?」

 

「……そうだ」

 

 口角を限界まで上げたオリジナル笑顔を浮かべる剣先さん。

 アズサから改めてアリウスの情報を聞き、整理しようと思った俺はミカを連れ出し、トリニティの校舎へと赴いていた。

 そこで偶然会ったのが剣先さんである。

 

「お前との戦いは実践訓練としては最適だ。破壊力、素早さ、耐久力……私はお前以上の存在に出会ったことはない」

 

「俺は構いませんが、大丈夫ですか? 確か前は校舎を壊しちゃったのが問題になったって聞きましたけど……」

 

 剣先さんを殴り飛ばして校舎に突っ込ませたのは俺なんだけどな。

 その場を剣先さんがとりなしてくれなかったら、俺はトリニティを追い出されていたかもしれない。

 剣先さんにはそういう恩があるので、できるだけ要望には応えたい。

 

「問題ない。前回もティーパーティーが校舎の修理代は払ってくれたからな。それに今回は校舎ではなく、専用のエリアを用意している。この前のような騒ぎにはならないだろう」

 

「それはよかった……今日ですか?」

 

「そちらの都合が良いのなら」

 

「オーケーです。行きましょう。でも、その前にちょっと時間をもらっていいですか」

 

「きひひひ……わかった」

 

「おーい、ちょっとちょっと」

 

 ミカが俺の肩を叩いてくる。

 

「私も混ぜてよ。見てるだけじゃ暇だし」

 

「……あー、剣先さん」

 

「私は構わない」

 

 とんとん拍子で三人のバトルロイヤルが決まり、今に至る。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ちょっとーー!! もう終わりにしませんかーー!!」

 

「「えーー!?」」

 

「えーー、じゃない!! もう二時間経ってんですよ!!」

 

 正直、もう限界だ。

 体力的な意味でなく、精神的な意味で。

 ホシノ先輩のスパーリングだって長くて30分だぞ、二時間もぶっつけで戦い続けるバカがいるか。

 

「……まあ、ここら辺りがちょうどいい時間か」

 

「うーわ。日が暮れそうになってる……熱が入り過ぎちゃった」

 

 銃を下げた二人を見て変身を解くと、体に棚上げにされていた疲労がドカッと押し寄せた。

 ふらついて倒れそうになった体を最後に残った気力で無理やり立たせる。

 剣先さんとミカはまだ余裕がありそうだ。

 この体力オバケ二人を相手によく戦ってこられたものだと思う。

 

「よしッ! まだお店空いてるね」

 

「何の話?」

 

 携帯を取り出して時刻を確認したであろうミカに問いかける。

 

「今度行こうって言ってたカフェだよ」

 

「ああ、新しくトリニティにオープンしたってやつか?」

 

 確かカップケーキが評判になっていた店だ。

 

「そう! ツルギも一緒に来る? どうせなら三人で行こうよ」

 

「……では、ご一緒させてください」

 

「じゃあ、決まり!」

 

 俺たちは汚れた服装を着替えたあと、ミカが案内した喫茶店でコーヒーとカップケーキを注文した。

 

「うまい」

 

 疲労の溜まった体に糖分が染み渡る……しつこくない甘さはがいい。

 甘ったるいのは苦手だからな。

 

「コーヒーってあんまり飲まないけど、ケーキに結構合うね。今度ナギちゃんに飲ませてみようかな……」

 

 俺も何度かお茶会に招いてもらったけど、ナギサさんはコーヒーを口にするタイプなのだろうか?

 紅茶過激派はコーヒーを毛嫌いしていることもあるらしいし、そこは慎重に行くべきだと思うが、ミカは言っても止まらないだろう。

 まあ、過激派だったとしてもロールケーキを口に突っ込まれるくらいで済まされるだろうから、心配することはないだろうが。

 ミカが話を三回遮った時にナギサさんにロールケーキを瞬く間に突っ込まれた時はさすがに笑った。

 

「くきききききき……うまい」

 

 剣先さんも満足そうでよかった。

 相変わらずのオリジナル笑顔だが、慣れると普通の笑顔に見えてくるものだ。

 カップケーキを貪りながら、剣先さんに今日の戦いの感想を聞いてみる。

 

「今日はどうでしたか? 前よりは戦えてたと思うんですけど……」

 

「……確かにそうだ。以前よりも手強くなっていた。別人といってもいい」

 

 コーヒーカップを置いた剣先さんがそう呟く。

 

「だが、お前には一つ弱点がある」

 

「……それは?」

 

「被弾を気にしないことだ。勇猛といえば聞こえはいいが、お前は弾丸への対応が少し疎かになりがちだ。私は平均以上の再生能力を持っているが、基本的に被弾は避ける。お前もずば抜けて頑丈な体を持っているが、それも永続的に続くわけではないのだろう?」

 

「……はい」

 

「もっと銃を怖がれ。お前は私たちのように弾丸に対して強い耐性を持ってはいない。もし、お前の装甲を突き破る弾丸があったのなら、命に関わるのだから」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 誰か助けて。

 

「ンーー!」

 

「しー。あなたには黙秘権はない。弁護士を呼ぶ権利もない」

 

 何を恐ろしいことを言ってんですかこのシロコ。

 アビドスの自宅で眠りについたと思ったら、これである。

 手足を椅子に縛り付けられ、口にはバンダナが嚙まされている。

 懐かしい対策委員会の部室は真ん中の俺を囲むように机が配置され、さながら魔女裁判のような雰囲気を醸し出している。

 

「では、判決です。有罪!」

 

「ンンーーー!!」

 

 訂正する。

 ようなではない。

 これは間違いなく現代に蘇った魔女裁判だ。

 裁判長のアヤネがガンッとガベルを机に叩きつけ、罪状すら言わずに俺に有罪を叩きつける。

 

「裁判長。被告人がなにか言いたげなので口を開放してもよろしいでしょうか?」

 

「ンンンンーー!!」

 

「許可します」

 

 ノノミさん。

 俺はあなたを信じていたぞ。

 席を立って近づいてくるなんか笑顔が怖いノノミさんの手によって、俺の口は解放された。

 

「ぷはぁッ!! いったいなんなんだ! ここまでされる謂れはないぞ!」

 

「定期連絡」

 

 俺の傍らに立ち続けるノノミさんが呟く。

 定期連絡なら欠かさずに入れていたはずだ。

 

「俺は一度もサボっていない!」

 

「カメラで自分の姿を映さなかったのは何故ですか?」

 

「カメラの調子が悪かったんだ」

 

「おかしいですね~、よーく見えますよ☆」

 

 ノノミさんが俺の携帯で俺の顔を撮ってる。

 パスワードかけてるのになんで使えるんですか?

 

「昨日、修理に出したのが帰ってきたんです!」

 

「へー、そうなんですか」

 

 椅子から立ち上がったシロコとノノミさんが俺の服を急に脱がし始めた。

 身動きするが抵抗できない。

 まずい、ミカに殴られた傷は治ったけど、今日の傷はまだ────

 

「……わあ、綺麗な青あざですね」

 

「外出禁止」

 

「待って! これは無茶したからついた傷じゃない!」

 

「正義実現委員会の委員長さんと手合わせしてできた傷だよね~」

 

 なんで知ってるんですかホシノ先輩。

 

「先生にテツヤくんの動向は逐一報告してもらっています」

 

 プライバシーゼロ?

 先生だったら俺の情報を守るべき立場ではないのか。

 

「補習授業部の活動についてもヒフミちゃんから聞いてます」

 

「セリカ……」

 

「派手にドンパチしたことも知ってるんですから! 先輩はもうアビドスから出しません!」

 

「セリカ待って!」

 

「待ちません! テツヤ先輩はアビドスの生徒なんですからアビドスで暮らすのが常識でしょ!」

 

「ちょっと出張してるだけだから、あまり気にしないでもらえると……」

 

「じゃあ、これは何なんですか!」

 

 バッとセリカが一枚の紙を突き出す。

 俺の顔写真と所属が書いてあるから学籍情報のようだが……

 

「これが何?」

 

「所属の所をよく見てください!」

 

「ん……アビドス高等学校2年と……トリニティ総合学園2年!?」

 

「先輩はいつからトリニティになったんですか!?」

 

 無論、そんな覚えはない。

 怪しい書類の類にサインした覚えも────

 

「あ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「確認書類ですか?」

 

「ええ、ミカさんをシャーレ所属の生徒であるあなたの監督下だと証明するための書類です」

 

「わかりました」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ナギサさんに渡された書類、一枚にしてはちょっと分厚かったような……

 

「あ、ってなに?」

 

 近いよシロコ。

 

「まさかトリニティに行く気ですか~?」

 

 怖いよノノミさん。

 

「そんなことないよね。私、信じてるから」

 

 そのショットガンを置いてくださいホシノ先輩。

 

「「……」」

 

 セリカとアヤネは無言で俺を縛るのを止めてくれ。

 

「……どーしよ」

 

 この後、めちゃくちゃ話して納得してもらった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ティーパーティーのセーフハウスの一つにて。

 夜の茶会を開く三人の姿があった。

 

「悪いねー、ナギちゃん。あんな手段で囲おうとするなんて」

 

「有力者にラインを築くのは当然のことですから」

 

「強引な手法だが、いい判断だったと思うよ」

 

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