Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
「テツヤくんは報連相が足りないね」
トリニティでの模擬戦の傷が癒えた頃。
後輩たちの目線が冷たいことに心を痛める日々を過ごしていたら、ホシノ先輩に話しかけられた。
俺は「そんなことはない」と否定したかったけれど、傷を隠したままにして連絡を怠ったことは事実だから口を開けないままでいた。
「人のために頑張ってるのはわかるけど、もう少し私たちの気持ちを考えてほしいな」
耳が痛い。
先生の護衛としてついていって、成り行きで補習授業部のみんなに協力するようになって。
最終的にはティーパーティーメンバーの暗殺阻止という大事に関わってしまった。
ただのシャーレ当番として向かった俺が、急にシャーレに住み込みになって、何日も学校に通ってこなくなれば心配されるのも仕方がないだろう。
「今回の件は、俺も申し訳なかったと思ってます。今後は行動する前にみんなに相談しますね」
「うん。それでよろしい……見守りはつけたままだけど」
満足げに微笑むホシノ先輩は俺の耳元で囁いた。
見守り制度。
俺の行動に業を煮やしてアビドスの仲間たちが作り上げた新条テツヤのための制度。
俺の学校生活から私生活まで、仲間たちが監視……いや、見守ってくれる。
あの思い出の首輪も無期限で装着することになったから、ありとあらゆる意味で俺にプライバシーはなくなったのである。
「さ、今日もがんばろっか」
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「んーー……」
久しぶりの授業は肩が凝る。
キヴォトスの学校はブルーレイディスク式だから余計にだろうか。
黙って画面を見続けるにも体力は使うのだ。
「今日はどこ行くの?」
体を伸ばしていると、ホシノ先輩がやってくる。
「補習授業部に呼ばれてるんで、トリニティに行きます」
「みんなで行く?」
今はエデン条約でトリニティ全体がピリピリしてるから、あまり人数が多いと警戒されそうだ。
「いえ、できれば二人だけで」
「お、おお……わかった。行こっか」
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「テツヤさん! ホシノさん! こっちです!」
トリニティ自治区内のデパート。
そのフードコートでこちらに手を振るヒフミさんの姿が見えた。
俺は手を振り返し、補習授業部のメンバーが集うテーブルへと足を進める。
「ずいぶん仲良くなったね~」
「まあ、苦楽を共にした仲ってやつですよ」
思えば、補習授業部との生活は中々に色濃いものだった。
インパクトの強いメンバーの集結から始まり、初めての勉強合宿。
最終的にはアリウスと肩を並べて戦うことになった。
これは戦友と言ってもいいだろう。
「だからトリニティに入っちゃったんだ」
「それに関しては本当にごめんなさい……」
そう、今の俺は書類上、アビドス高校二年でありながら、トリニティ総合学校の二年ということになっている。
「じゃあ、早くトリニティから抜け出してくれないかな?」
プレッシャーを感じる笑顔で俺の制服の袖を引っ張るホシノ先輩。
「……今は、ちょっと待ってください」
立木を始めとしたアリウス生との約束がある。
トリニティに所属することは、今後の活動の上でも色々と便利なのだ。
この事実が明るみになって、俺はすぐにナギサさんに連絡をとったのだが……
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『アリウス解放のために戦うことはミカさんから聞きました。そういうことならば私にもお手伝いできると思うのです』
ナギサさんは落ち着いた声で俺にそう言った、
俺は周りを鋭い目つきのアビドスのみんなに囲まれていて生きた心地がしないというのに、ナギサさんは紅茶を優雅に飲んでいる姿がありありと想像できる。
いったいなんてことをしてくれたんだ、と叫びたい気持ちを我慢し、俺はナギサさんの真意を問う。
「お手伝いと俺の学籍がどう関係があるんですか…?」
『恐らく、今後もアリウス…ベアトリーチェは私たちに何らかの手段で策を講じてくるでしょう。その時、トリニティに所属していれば色々と動きやすいのでは?』
「う……」
ナギサさんが言わんとしていることはわかっていた。
今回はシャーレの生徒ということで終始ゴリ押しでトリニティに滞在したが、俺はあくまでアビドスの生徒である。
シャーレの生徒が自由に他校へ出入りできるのはあくまで先生の護衛としてだ。
逆に言えば、先生がいなければ他校に自由に出入りすることは難しいのである。
学校同士の抗争が起こったりもするキヴォトスでは、他校の自治区に長期滞在することは姉妹校など親密な関係値がある学校の生徒同士でないと許可が下りない。
ナギサさんなら頼めば許可してくれそうでもあるが、学校運営を預かるティーパーティーとしても、エデン条約締結を控えて緊張した空気がある今は余計にそういう許可を出すわけにはいかないのだろう。
つまり、このままでは俺はエデン条約が正式に締結されるまでトリニティへの出入りを厳しく制限される。
観光客に与えられるような時間では、何か事件が起こった時に対処することができないだろう。
ナギサさんの言う通り、名義上でもトリニティの生徒になってさえしまえばこれらの問題は一気に解決する。
頭に浮かんだ数多くのメリットが、俺が考えていた抗議の言葉を思考の霧の中へと隠してしまった。
『ご心配には及びません。トリニティに毎日通う必要はないですし、試験も毎月一回受けていただければ結構です。アビドスでの生活に苦労をおかけするつもりはありません』
「いいんですか? 他校に所属する生徒を受け入れるなんて……」
『アリウス分校の問題は我が校の問題です。むしろただの他校の生徒のままでは公になった時に困るのですよ。トリニティにも面子というものがありますから。あなたには関係者であってもらわないとならない』
正論が俺の胸に突き刺さる。
そう、アリウス分校は元々トリニティ総合学園の一部。
因縁があるのはトリニティであって俺でもアビドスでもない。
トリニティの問題をアビドスの生徒でしかない俺が解決してしまえば、トリニティの面子は丸潰れだ。
『表向きは交換留学生という形になります。期間は……そうですね、1年ということにしましょう』
「留学生ですか……」
『必要な手続きはすべてこちらで済ませています』
「でしょうね」
もう学籍情報にトリニティの文字があるんだから。
「こういうのって本人の許可をとってからするもんでしょ?」
『では、なかったことに?』
「……いえ」
「「「「「は?」」」」」
ちょっと待って。
縄を持った全員を手で制しながら、俺は言葉を続ける。
「あくまで、留学生ですから。それを忘れないでくださいよ」
『ええ、勿論です。これからよろしくお願いしますね、テツヤさん』
ナギサさんとの連絡はそれで終了した。
俺はギラギラと目を輝かせるアビドスのみんなを前にして、最終手段を解禁する。
「て……」
「「「「「て?」」」」」
「てへッ」
俺はもみくちゃにされた。
ミカ式の誤魔化し作戦は大失敗であった。
おのれ聖園ミカ。
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「交換留学生ですか。いい大義名分を手に入れましたね、テツヤくん」
チーズケーキをフォークに刺しながらハナコは話す。
「これで大手を振ってトリニティを歩けますね。デートします?」
「お互い水着でって枕詞がつくんだろ……お前、美人なんだから、そういう冗談は言うなよ」
「むう、冗談ではなかったのですが……」
不服そうな顔には騙されんぞ。
お前が人をからかう癖を持っていることは多大な犠牲(コハル)のおかげでわかっているんだ。
「俺のことよりもそっちのことだろ。結果は大方予想がつくが、一応聞く。三次試験は合格したんだな?」
「もちろんよ! 当たり前じゃない!」
俺の言葉に自信満々な様子でコハルが答える。
アリウス襲撃の後始末のため、延期されていた第三次特別学力試験。
俺は急遽アビドスに帰らなければならなかったため、その場に居合わせることができなかったが、予想通りの結果で終わったようだ。
「だろうな。お前らならやってのけると思ったよ。おめでとう」
「うん。ありがとう、テツヤ」
試験合格の報酬であろうモモフレンズキャラの一人、『スカルマン』のぬいぐるみを満足げに抱えながらアズサが答える。
「テツヤさんは大丈夫……」
ヒフミさんは俺の首輪を見て「あっ」と呟くとホシノ先輩の方を向く。
無言で微笑むホシノ先輩。
「……だったみたいですね。安心しました」
「ああ、毎日監」
「こほッ、こほッ」
「じゃなくて、身辺警護をしてもらってるからな。枕を高くして眠れているよ」
ボロッと出かけた本音は渾身の咳払いでホシノ先輩に潰された。
スルースキルが高くて何よりだなヒフミさん。
もし首輪について発言していたら、ホシノ先輩の「アビドス流行りのアクセサリーだよ~」十連発が火を噴くところだったぞ。
「なら、俺の奢りで今日は祝勝会でも開くか」
「いいんですか?」
「大丈夫、任せとけ。最近、バイト以外にもちょっと稼ぎがあってな」
「それはもしかして、合宿中に話していた万事屋アビドスのことか?」
「その通り」
アズサの問いに笑顔で答える。
アビドスに残された数少ない資産を有効的に運用する方法、それが万事屋アビドスである。
アビドスには自由に使えて、なおかつ絶対に消えない資産がある。
それは戦力である。
アビドスはその少ない生徒数ながら、ゲヘナの風紀委員会やカイザーの傭兵とも互角に張り合えるだけの力がある。
その戦力を提供するのが、万事屋アビドスだ。
連邦生徒会長の失踪後、治安は先生のおかげで落ち着きつつあるが、それでも荒れている学園は数多くある。
その話を先生から聞いた俺は、他校の治安維持のために戦力を提供することを考えたのである。
結果として、万事屋アビドスは中々の好スタートを切った。
アヤネが作った特設サイトには初日にして4件の依頼が来たのだ。
徐々に収益も伸びつつあり、ちまちまと賞金首を狩るよりも安定した収入源になりつつある。
「なので、問題なしだ。遠慮せず好きなものを食べなさい」
「好きなものか……夢が広がるな」
その後の話し合いで、祝勝会はヒフミさんの薦めるレストランに決まった。
ホシノ先輩と俺は、途中で合流した先生と共に補習授業部の祝勝会を楽しんだ。