Blue Archive vol.AGITΩ   作:mukugawa

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ちょっと短めです。


ノノミさんは頼りになる

 

 休日である。

 基本、休日を部屋の中で終える自分だが、あまり出不精なのも健康に悪い。

 ということで、アビドスの郊外までやってきた。

 アビドスの中心街はラーメン屋のバイトのついでに散策していたが、郊外には足を踏み入れたことはなかったからだ。

 正直、中心街よりも人も店も多い。

 以前に住んでいた田舎町も、駅前の中心地が寂れる傍ら、郊外のデパート街が賑わっていたことを思い出した。

 不穏なので別のことを考えることにする。

 どうやら他の学区の生徒であろう制服の姿もある。

 秋葉原の電気街のような雰囲気の店もあるから、レアな基盤とかを探しに来ているのかもしれない。

 機械にあまり詳しくない自分の予想でしかないが、良い線を言っていると思う。

 今も買い物袋を抱えた白い制服の生徒がホクホク顔でバス停へと駆けていった。

 

「あれ、テツヤくんじゃないですか」

 

「んえ?」

 

 声の方を振り向くと、買い物袋を手に下げたノノミさんがこちらに手を振っているのが見えた。

 

「奇遇ですね! テツヤくんも郊外まで買い物ですか?」

 

「ああ、うん」

 

 距離が近い。

 いつものことだが、どうも彼女には驚かされる。

 気がつけば近くにいるというか。

 実は忍者か何かじゃないかと最近は思い始めているほど、自然に自分の距離の内側に入ってくるのだ。

 これが距離感オバケというやつなのか……

 

「ノノミさんは……ダンベル?」

 

 よくよく見ると片手に黒く輝くダンベルを持っている。

 

「はい! 40個ほど買いました~」

 

 はあ、40個。

 ……40個?

 なんで?

 

「何に使うの?」

 

「……? もちろん筋トレです」

 

 それはわかります。

 わかるんですけどなぜ40個も買ったんですかノノミさん。

 俺もダンベルは持ってるけど2個だけだよ。

 40個も一体何に使うつもり?

 ダンベルを20個づつ積み上げてトレーニングでもする気?

 聞いてみたい気がするけど聞くのが怖い。

 何で話している間も右手にダンベルを握りしみているんだノノミさん。

 ここは流すに限るな……

 

「そ、そうか。ノノミさんもショッピング中みたいだな」

 

「はい。テツヤくんもなにか目当てのものがあるんですか?」

 

「いや、そういうわけじゃない。郊外に来たことがなかったから、ちょっと探検に……」

 

「じゃあ、私が案内しますよ☆」

 

 え?

 ノノミさんもせっかくの休日だろうに。

 

「いや俺は……」

 

「じゃあ、あっちのショッピングモールに行きましょう」

 

 聞いてない。

 でもまあ、いい機会だ。

 一人で目的地もなくぶらつくよりも案内役がいてくれた方が心強いか。

 

「わかった。よろしく頼むよ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ショッピングモール。

 白い柱が2つ連なった入り口が目の前にある。

 正直、別世界の光景のような気もする。

 小さいデパートしかない世界で育った地方民である自分にとって、ここまででかい、それこそモールと言われる場所は緊張を隠せない。

 映画で見た海外の博物館がこんな入り口だったような気もする。

 

「さあ、行きましょう!」

 

 ノノミさんの案内に従って足を踏み入れた。

 建物の中は吹き抜けになっていて、4階まで店があるのが見える。

 中は子供なら親の手を放してしまえば一瞬で迷子になりかねないレベルでごった返し。

 人ごみは得意ではないが、案内を頼んでしまった手前、ここで引き返そうと言い出せるほど俺の心臓は強くない。

 先導するノノミさんの背中を見失わないように進む。

 

「外からのお引越しと聞きましたけど、何か足りないものはありますか?」

 

「足りないものか……」

 

 あまり部屋を飾り付ける気は無いが、机、本棚、テレビ、クローゼットという最低限のものしかない部屋を思い浮かべるとちょっと味気ない気もする。

 

「生活雑貨かな。あったものは前の家にほとんど置いてきたから、部屋が結構殺風景なんだ」

 

「わかりました。じゃあ、2階に行きましょう」

 

 エスカレーターを上ると、目的の場所にはすぐに着いたようだ。

 白い内装に彩られた店内は明るい。

 小さい収納ケースなどの普通の生活雑貨から、こくこく首を振る人形といった何に使うかわからないイロモノまで揃えているようだ。

 さて、何を買おうか。

 収納の類はもう大体揃っているから、小さいインテリアでも探そうか。

 

「これなんかどうですか?」

 

 ノノミさんが持ってきたのは髑髏をアニメキャラ風にデフォルメしたぬいぐるみだ。

 

「いいかも……スカルマン?」

 

「ももフレンズのキャラクターですね、ほら」

 

 彼女の指さす方にあったのはモニターだ。

 なにやらファンシーなキャラクターたちが戯れて……いや、なんか変なのが紛れているな、何だあれは。

 鳥の変死体をキャラに落とし込んだのか?

 悍ましいにもほどがあるだろう。

 

「ノノミさんあの鳥?のキャラクターは」

 

「ペロロ様にご興味が?」

 

「うお!?」

 

 誰だ君は。

 背後から聞こえた声の主はノノミさんではない。

 白い制服を着た小柄な少女。

 無論、知り合いではない。

 声をかけられるような謂れはないはずだが……

 

「テツヤくんテツヤくん」

 

 ひそひそとノノミさんがこちらを手招きしている。

 なんだと近づいてみると俺の耳にそっと近づいてノノミさんは囁いた。

 

「この人、おそらくガチファンの方なので気をつけてください」

 

「え?」

 

 それだけ言うとノノミさんは離れていった。

 ガチファン?

 一体何の────

 

「どうやら、ももフレンズにご興味があるようですね」

 

「ええ……まあ、はい」

 

「素晴らしいです! 中でもペロロ様に注目されるとは────」

 

「ペロロ様? ああ、あの鳥の────」

 

 その時、電流が走った。

 あたりの景色がスローになり、自分の発言も中断される。

 ……嫌な予感がする。

 言うことを間違えてはいけない。

 何かはわからないが、ここの選択肢を間違えたら1日が潰れるというはっきりとした確信がある…!

 

「──キャラクターのことかな?」

 

「はい。ペロロ様はももフレンズの代表的なキャラクターなのです。これはお近づきの印に……」

 

 スッと少女が差し出したのは缶バッジだった。

 ペロロ様と呼ばれるキャラクターが刻印されている。

 

「いいの?」

 

「ペロロ様の、ひいてはモモフレンズに興味を持っていただけるのであれば」

 

 どうやら正しい選択肢を選んだようだ。

 差し出された缶バッジを受け取り、Yシャツの胸に着ける。

 

「それではまた」

 

 少女はそれだけ言うと足早に去っていった。

 離れたところでことの次第を見守っていたノノミさんが駆けてくる。

 

「危ないところでしたね……彼女はきっと、ももフレンズのガチファン布教勢の一人です」

 

「ガチファン布教勢?」

 

「どこからともなく現れてはももフレンズの布教をしていく方たちの総称です」

 

 暇なのか?

 

「ノノミさん」

 

「はい?」

 

「逃げたね」

 

「……なんのことでしょうか?」

 

 いつもながら強かな人だなあなたは。

 さて、結局何を買おうか……うん。

 

「スカルマンと……ペロロ様のぬいぐるみにしょうか」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ショッピングモール中を回っていたらあっという間に日が暮れた。

 暗くなった道をノノミさんと2人で歩く。

 結構たくさん買い込んでしまった。

 というか商品をその日のうちに自宅に送れるシステムなんて初めて聞いたぞ。

 

「ふう、今日はたくさんお買い物をしてしまいましたね……」

 

 ダンベル40個買った人が言うことは違うな。

 ていうかなんだあの金ぴかのカード。

 買い物の度に出してたけど、出すだけで店員が総出で商品の準備に入ってたぞ。

 何かの会員証か?

 

「今日は助かったよノノミさん」

 

「いえいえ。私も買い物に付き合ってもらったので気にしないでください」

 

 ノノミさんが抱える袋には生活雑貨と新発売のお菓子が入っている。

 なんでも、対策委員会室に備え付けのお菓子といった物品の調達はノノミさん一人で行っているらしい。

 終始俺の買い物に付き合わせる形にならなかったので、こっちとしてもノノミさんが買い物をしてくれて良かった。

 貴重な休日を俺のために使ってもらうのは気が引けるが。

 

「……テツヤくんは、どうですか? アビドスの生活は」

 

 ノノミさんが尋ねてきた。

 

「ぼちぼち慣れてきていると思うよ。バイトも始めたし、いいスタートを切れたんじゃないかと思う」

 

「そうですか、それは良かった」

 

「ノノミさんが俺を気にかけてくれるおかげだよ」

 

「そんなことは……」

 

「ある」

 

 断言できる。

 学校にいる間も、学校の外でも。いつもノノミさんがいろいろなことを教えてくれるから、俺は迷いの少ない生活を送ることができている。

 ノノミさんなくして、俺のアビドスの生活は成り立たない。

 

「この恩は──」

 

「駄目ですよテツヤくん」

 

 俺の言葉を遮るようにノノミさんは言った。

 

「私たち、もう仲間なんですから。そういう堅苦しいのはなしです」

 

 強い言葉だった。

 胸をドンと貫かれるような衝撃があった。

 ……その言葉に俺は、

 

「……」

 

 うん、と言い返せない自分が嫌になる。

 アビドスで日々を送る中でとっくにわかりきっていたはずなのにそれを認められない自分がどこかにいるのだ。

 

『お前、アギトだったんだ』

 

『早くどっか行ってくんないかな』

 

『怖いんだよ、お前』

 

 いつか友達だと思っていた誰かに言われた言葉が頭の中で蘇る。

 拒絶と排他。

 それが二言目には飛び出すんじゃないかって、不安を拭うことができない。

 そんな自分を軽蔑する。

 そんなことはありえないと、とっくにわかっているはずだろうに。

 彼女たちだけは絶対にそんなことを言わないってわかっているのに。

 最悪を想定し続けることで、必死に自分の心を守ろうとしている。

 ……現実はこんなものだって。

 

「テツヤくん」

 

「あ、ごめん。なに?」

 

 考え込んでいたようで、ノノミさんは不安げな表情でこちらを見ている。

 これ以上気を使われたくはない。

 

「ゆっくりで、いいですから」

 

「!」

 

「アビドスはあなたの居場所だって、そう思える日を私たちはずっと待っていますから」

 

「……ありがとう」

 

 それ以上の言葉はなかった。

 明日の予定やバイトのこと。

 他愛もない話をいくつか繰り返したあと、ノノミさんと別れて家路につく。

 いつか、いつかはきっと。

 

『私たち、もう仲間なんですから』

 

 あの言葉に、心から頷けるように。

 

 

 

 

 

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