Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
休日である。
朝食として用意した納豆をかけたご飯を貪りながら考える。
今日はどこに行こうか。
市街地は一通り歩いて回ったような気がする。
途中、何度か時代遅れのスケバンやリーゼント型のアンドロイドに絡まれたが、変身して撃退した。
日中は人通りもそれなりに多い市街だが、不良との遭遇率は高いように感じる。
自分がキヴォトスのアビドス以外の町に行ったことが無いから、もしかしたら他の町もこんなものなのかもしれないが、以前に住んでいた田舎町と比べれば天と地の差があると言っていいだろう。
つくづく、ただの人間が生きるには敷居が高い町だと思う。
砂狼さん曰く、朝方が不良の発生率が低いらしいが、何でだろうか。
「ん」
みそ汁の豆腐を口に運ぶ。
考えが逸れた。
今日はどこに行こうかと考えていたのだった。
とはいえ、明確な目的があるわけでもないし……
「……!」
思いついた。
ここは初心に戻るというのはどうだろうか。
みそ汁を飲み干し、お椀を机の上に置く。
「ごちそうさまでした」
今日の目的地はアビドス高等学校。
中断していた学校探検を再開しよう。
そうと決まればと身支度を始める。
といっても、Yシャツの上に制服を羽織る程度のことなのだが。
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バスを降りる。
アビドス高等学校のバス停は校舎から少し離れた地にある。
歩けば10分ほどの位置ではあるが、普通の学校前のバス停は校舎の目の前にあるのではないかと今さらながら疑問に思った。
その疑問も奥空さんに聞いた話を思い出したことですぐに氷解する。
そういえば、今使っているアビドスの校舎は元々本校舎ではなかったのだったな。
砂漠化の影響で本校舎が砂に埋もれてしまってからは、自治区内の別館に移ったらしい。
別館でも学校としてはそれなりに立派な建物だが、砂に埋没したという本校舎はどれぐらいのものだったのだろうか。
そんなことを考えていると校舎の前に着いた。
玄関を開けて中に入る。
休日の校舎には人の気配はない。
休日だから当然といえば当然のことなのだが、アビドス高等学校の抱える生徒数の少なさから平時との気配の差はない。
静かな廊下に自分の足音だけが響く。
快晴のためか窓から入る光がいつもより眩しく感じる。
外にある砂に反射しているから余計にアビドスの校舎は明るい。
節電のために校舎の電灯は一部の日が差さない部屋以外は元から切られているらしい。
「きゃああああああ!?」
悲鳴のあとにドタンっと何かが落ちたような音がした。
「な、なんだ!?」
音が聞こえたのは図書室の方だ。
無人のはずの学校に響いた悲鳴。
新手の泥棒?
まさかヘルメット団が留守を狙って?
いや、推測を立てるのは後でいい。
今はこの悲鳴の正体を突き止めなければ。
廊下を駆け抜け、問題の図書室へ──!
「変身! 入るぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
奥空さんの声だ。
一体何があったのか。
瞬時に変身を終え、図書室のドアを開いた。
そこには───
「あ、あああ」
「……ん?」
変てこな格好で数多の本に埋もれる奥空さんの姿が──!
……え、どういうこと。
「み、見ないでください……」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「で、なんであんな格好に?」
床に落ちた本を棚に戻しながら聞いてみる。
奥空さんは恥ずかしいのか顔を逸らしながら、
「ほ、掘り出し物がないか探していたんです」
「掘り出し物? 古書とかプレミア付きの絶版本とか?」
「はい。アビドスの校舎を散策して、よさげなものがあったら買い取ってもらおうと思って」
なんでもアビドスは歴史が古いゆえに掘り出し物が出る確率が高いらしく、前には絶版となった小説を高値で買い取ってもらえたことがあるらしい。
本来の校舎である砂に埋没した建物にも数多くの掘り出し物があるらしいのだが、砂に埋まった校舎の中へ侵入すること自体が難しく、人手も足りないために探索も思うように進めることができないんだとか。
力仕事なら変身できる俺にも出番があると思うのだが、目下進行中のヘルメット団との攻勢に今は集中したいとのことで本校舎の探索は保留となっている。
本当にロクでもないなヘルメット団。
「なるほどね」
「休日の予定がない日を使って探しているんですが、中々見つからなくって……」
「まあ、それはね……」
個人的な感想だが、掘り出し物はひょんなことから現れるから掘り出し物なのだと思う。
探そうと思って探してみると案外と見つからないものだ。
特に本なんかは日焼けや傷といった状態の良し悪しによって価格も乱上下する。
祖父の遺品整理の時、古本なんかを売りに出したときなんかそれぞれの価格に違いがありすぎてびっくりしたのを今も覚えている。
『売れそうなコミック本が100円程度で、こんな句集が2万円……?』
それ以降、ちょっとの間掘り出し物探しにはまったこともあったっけ。
それこそ奥空さんのように高いところのものを無理に取ろうとして落っこちたこともあったな。
幼いころのことを思い出しながら、崩れた本棚を整理していると、何か変な本がある。
茶色く色褪せた紙が挟まっているようだ。
試しに手に取ってみる。
「……地図、か?」
建物の名前を指すであろう部分は文字が滲んでしまって見えないが、どうやらかなりの大きさの建物の地図のようだ。
3階分の地図がまとめて描かれている……これは学校か?
今の校舎とは間取りが違うようだが。
「…! テツヤ先輩! それはまさか」
「え、何?」
「ちょっと貸してもらってもいいですか?」
「ああ、どうぞ」
地図を受け取った奥空さんは血相を変えて眺めている。
この地図はいったい何の地図なのだろうか?
「……間違いありません! これはかつてのアビドス本校舎の地図です!」
「それって役に立つ?」
「立ちます! 本校舎の探索をする上ではこれ以上の手がかりは───あ、すいません。つい大声を……」
「いや、いや。気にしなくていいよ。役に立つものが見つかったなら良かった」
「ヘルメット団の件が片付いたらこれを元に本格的な本校舎の探索をしましょう」
何はともあれヘルメット団。
一度も負けたことがないとはいえ、懲りずに何度もアビドスを襲撃する奴らの魔の手を完全に跳ね除けなければ、アビドス復興の次の段階へはいけない。
いや本当に許せねえなヘルメット団。
事情を知れば知るほど怒りがこみ上げてくる。
「もしかしたら他にも何かあるかも。今日は俺も手伝っていいかな?」
「いいんですか、先輩?」
「もちろん。今日は予定がなかったしね」
「ありがとうございます。じゃあ、先輩はそっちの棚を確認してください」
「オーケー、わかった」
そのあと小一時間ほど本棚と睨めっこしたが、残念ながら収穫はあの地図だけだった。
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「今日はありがとうございました。校内の清掃にも付き合ってもらっちゃって」
「俺も……アビドスの生徒だから。当然と言えば当然なんだけどね」
日が暮れそうな時間。
だが、1日をかけた学校探検の甲斐はあったと思う。
例の地図は奥空さんの手で保管された。
来るべき日までは眠りについてもらうほかないからだ。
図書室の探索が終わった後も、倉庫に行って掘り出し物がないか探してみたが、2人で調べられる範囲は中々狭いもので、その半分も調べ終わる前に時間が来てしまった。
次の探索があるとすれば、倉庫の方から始めることになるかもしれない。
「あの、テツヤ先輩」
「何? 奥空さん」
「その……できれば、名前で読んでもらえませんか? 私、名字であまり呼ばれることが無いからちょっと、変な感じがするんです」
意外な提案だった。
そんな頼みごとをされるとは思ってもみなかった。
「いいのかい?」
「……セリカちゃんは名前で呼んでるじゃないですか」
……そういえばセリカさんからも同じことを言われたな。
あっちはバイト中に名字呼びだと変な感じがするからって言われたけど。
「わかったよ、アヤネさん」
「はい! ……あの、もしよかったらまた手伝ってもらってもいいですか?」
「いいよ。その時はモモトークに一報入れてくれ」
モモトークはキヴォトスで幅広く使われている連絡手段の一つだ。
既にアビドス生徒全員の連絡先が追加されているのは言うまでもない。
「はい。ではまた」
「うん。またね」
校門の前で俺たちは別れ───なかった。
「そういえば俺たち2人ともバス通学だったね」
「……言わないでください」