Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
幕開け
ピーピーと、枕元でなり続けるスマホを掴む。
表示された時刻は6時。
予定通りの起床時間だ。
少し気だるい体を起こし、寝床を後にする。
通学バスの時間は7時20分発。
余裕を持って動けることを実感するたびにキヴォトスに馴染んだと思える。
朝食はパックの納豆に白飯、みそ汁……和風力を感じるメニューだ。
「いただきます」
自分がアビドス高等学校にやってきて3ヶ月が経つ。
これまで色々なことがあった。
セリカとの放課後のバイト。
ノノミさんとのウインドウショッピング。
アヤネとのトレジャーハント。
ホシノ先輩との夜警から、シロコとのサイクリング。
キヴォトスに来る前と比較してみると、ものすごく学生生活を満喫している。
転校する以前は、まさか自分がこんなにも満ち足りた青春を送れるなどとは夢にも思わなかった。
アビドスのみんなには感謝しかない。
アビドスの抱える借金問題や止まないヘルメット団の襲撃と、取り組まなければならない問題も山ほどあるが、みんなと一緒ならば乗り越えられると今ならそう思える。
3ヶ月の時間がかかったが、俺はようやくアビドスの一員として、自分のことを認められるようになった。
「ずずずず」
みそ汁を飲み干し、お椀をお盆へと置く。
「ごちそうさまでした……ん?」
ピロン、とモモトークの通知音が鳴った。
手に取って確認するとシロコからのトークが届いている。
『ニュース見た?』
『まだテレビつけてなかった』
『情弱』
『言ってろ強盗未遂犯』
やりとりをしながらテレビのスイッチを入れる。
今時珍しい、テレビ側面に電源のスイッチが入っている少し年季の入ったテレビだ。
『中継です! ご覧ください! D.U.において大規模なテロ活動が行われています!』
連邦生徒会長という役職の人がいる。
キヴォトスの実質的なトップである人物によって一応の平穏……不良が暴れる程度で済んでいたのが、その連邦生徒会長の失踪によって完全に崩れ去った。
キヴォトス内の犯罪率は跳ね上がり、アビドスの外へ踏み出すと不良が町を闊歩している姿をよく見かけるようになった。
まあ、仮初の平穏だったころからアビドスは似たような修羅場だったから、自分としては特に変わったことはないのだが。
キヴォトスの管理営業を担当する連邦生徒会。
そのお膝元の町であるD.U.までついに戦火が広がったらしい。
かといって、アビドス側からアクションを起こすことはない。
これまで幾度となく救難申請を却下されたアビドスのみんなの連邦生徒会に対する心情はとてもいいとは言えないからだ。
ざまあみろ、なんて思う人間はいないが、心の底から心配するような関係でもないのである。
「……いや、いい機会ではあるかもな」
スマホの画面へと指を走らせる。
連邦生徒会はトップを失い、実質の機能不全状態だ。
その状態で襲撃を受ければただでは済まないだろう。
大手の学校には支援要請をしているかもしれないが、うちにそんな要請がくることはないと断言できる。
だからこそ────
『ちょっと、D.U.に行ってこようと思う』
恩を売るなら、これ以上のタイミングはない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
危機に陥った連邦生徒会。
その危機に現れたのは、このキヴォトスで
連邦生徒会の拠点、サンクトゥムタワーに居合わせたゲヘナ学園の火宮チナツ、トリニティ総合学院の羽川ハスミ、ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカの助力を得た先生は、その卓越した戦闘指揮能力によって危機的な状況を打開し、集められた不良たちが狙う重要拠点を防衛すべく戦闘を続けていた。
敵の数は多数。
兵器が無尽蔵と出てくる状況での3人という小規模編成のチーム。
3人がキヴォトス最上位には及ばずとも高い実力を備えているとはいえ、その撃破能力には限界がある。
「あああああ! もううじゃうじゃと……!」
ユウカは愛銃であるサブマシンガンを撃ち放つ。
自身が製作した電磁バリアを用いて、タンクとしての役割をこなす彼女の攻防を援護するように今度はハスミの狙撃銃による射撃が発砲する敵の脳天を次々と撃ち抜いていった。
『落ち着いてください! そんなに慌てていては勝てるものも勝てませんよ』
敵の殺到する状況に苛立ちを募らせるユウカを宥めるようにチナツが拳銃での射撃を行いながら口にする。
本来後方で味方の治療にあたる彼女だが、射撃の精度は高く、狙撃を続けるハスミへと近づいていた敵を次々と撃ち抜いていく。
『ユウカ、少し後退して! 瓦礫で視線を切ったら不意を討つよ!』
「了解!」
先生の号令で作戦が動き出す。
不良がそこら中で暴れまわったせいで辺り一面は人が隠れられる遮蔽が数え切れないほど積みあがっている。
数で押しつぶす雑な作戦しかとらない不良グループは、戦況をリアルタイムで把握する先生の作戦にはまり、次々と撃破されていく。
戦況は変わりつつある。
3人の遊撃隊と1人の司令官が無数の不良グループに満ちる戦場をかき回していた。
しかし────
「あらあら、随分と楽しそうなことをやっておりますわね」
援軍の見込めないこの場で最悪の状況が訪れた。
狐坂ワカモ。
悪名高い七囚人の一人であり、単独で両の手では足らないほどの破壊行為を容易く行う最恐の生徒が姿を現した。
「狐坂ワカモ…!」
『この騒動を起こしていたのは彼女ですか……』
生徒であるユウカ達3人は戦況の不利を悟る。
彼女たちの学園自治区においても破壊活動を行い、治安維持組織に手を焼かせた彼女を対応できるほどの戦力は自分達にはないことを理解したからだ。
「彼女は、手強そうだね……」
そして先生もそれは同じだった。
慣れない戦地に立つ先生の刺激されつつあった野生のカンが、ワカモの持つ強大な戦闘力を知らせたのだ。
「うふふふ。骨のありそうな方が何人か……楽しめそうですわね」
「冗談じゃないわよ、とっとと帰りなさい…!」
「そんなにつれないことを言わないでくださいまし。さあ、楽しみましょう!」
───来る。
そう4人が身構えたその時だった。
「ここか……祭りの場所は」
場違いな男の声が戦場に響く。
「あら、いったいどちらの───」
ワカモの口が閉じる。
声の主は生徒とは思えぬ格好をしていた。
黄金の甲冑のような外殻。
二本の角。
赤い昆虫のような複眼。
戦場の誰もが呆気に取られた。
この異形の人物は何者なのかと。
黄金の異形は拳を構える。
「あなたは狐坂ワカモだ。手配書を見たことがあるよ……てことは、あんたが連邦生徒会の敵だな」
「それが────」
「俺はアビドス高等学校の新条テツヤ。あんたの───敵だ」
その言葉が戦いのゴングを打ち鳴らした。
ワカモは吹き飛び瓦礫の山へと突っ込んだ。
その一部始終を捉えるとこができたのはハスミだけであった。
勢いをつけて放たれたテツヤの拳がワカモの胴体に命中し、その体を何メートルも吹き飛ばしたのだ。
「ふっふふふ。アハハハハハ!」
瓦礫の山から轟く笑い声。
瞬間、積み重なっていた瓦礫の山が吹き飛ばされ、いくつかの瓦礫がテツヤめがけて降り注ぐ。
「………」
言葉はなかった。
雨の如く降り注いだ瓦礫は水を払うような動作でいとも簡単に払われていく。
この動作だけでその場にいる者たちはテツヤの規格外さを解らされることになる。
しかし、それでもワカモは動じなかった。
「乱暴なお方ですわね。ダンスの作法を知らないのかしら」
ニヤリと仮面の下で好戦的な笑みを浮かべながら、そう言い放つワカモ。
それに対してテツヤはこう答えた。
「無作法で悪いんだが、もう少し俺流のダンスに付き合ってもらうぜ、お嬢さん。胸を借りてもいいかな?」
「あら、大胆。そういう殿方は……嫌いではありませんわ!」
一息の間に距離を詰めたワカモは、発泡しながら足を叩きつける。
それを右手で捕まえたテツヤは再び瓦礫の山へとワカモを放り投げた。
「そういうとこだ。通りたいなら今のうちだぞ」
「…! 行くよ、みんな」
先生の指示に従い3人は前進する。
「テツヤ! ありがとう! このお礼は───」
「アビドス名義で出された救難申請。それに目を通して頂けると嬉しいです。先生」
「わかった! 必ず!」
テツヤら走り去る4人の影を見送ると体勢を立て直していたワカモへと向き直った。
「待ってくれてありがとう」
「いいえ。二人きりの逢瀬ですものあの方たちも見所はありましたが……うふふ」
「何がそんなにウケたんだ?」
「ああ、ごめんなさい。馬鹿にしてるわけではありませんわ。ただ────」
ワカモは凶喜の感情を隠そうともせず、テツヤに向けて言い放った。
「似た者同士、仲良くできるのではないかと思って」
ーーーーーーーーーーーーーーー
手強い相手だ。
七囚人なんて名前で呼ばれるだけのことはある。
「ハアッ!」
銃撃の合間に織り込まれる蹴りを避ける。
一度受け止めてわかったが、この人のパワーはかなりのものだ。
下手したら素手でも武装した軍隊を相手取れるのではないかと思う。
「やりますわね…!」
「そっちこそ」
銃弾が痛い。
この3ヶ月でわかったことがある。
アギトになれば銃弾程度では傷がつかないと思っていたが、それはキヴォトスでは通じなかった。
一人一人で差があるのだが、特に強い人間の銃弾を受けると体力が削られるのだ。
試しにシロコに撃ってもらった時も、籠手越しに撃ってもらったとはいえ相当の衝撃を感じるとともに体力を奪われるような感覚を覚えた。
どうもキヴォトスの住人は特殊な弾丸を使っているらしい。
本人たちはいたって普通の弾丸だと思っているようだったから、もしかしたら何か特別な能力を持っているのかもしれない。
元々角だの羽だの、共通してヘイロー(光輪)がある人たちなのだからありえないこともないだろう。
目の前にいる狐面に顔を隠した狐坂ワカモもそうだ。
銃弾を受ける度に体力を削られる。
七神さんの言っていたように無理をせずに逃げることも考えたが、そううまくも行かない。
「さあ、さあ! 貴方様の全てを見せてくださいまし!」
うわあ、ぞっこんだ。
美人(推定)にそんなことを言われてうれしいなー。
などと考えている場合ではない。
割とマズイ。
ホシノ先輩より強いとは思わないが、手加減をして勝てる相手ではないのだ。
「ふぅ……」
拳を握りしめる。
いつもより強く、確かな意思を持って。
「ッ!?」
右の拳が狐坂ワカモの体の芯を捉えた音がした。
続いて左の拳でその狐面を叩き割る。
「グッ!?」
態勢を崩した狐坂ワカモの懐に滑り込むように体を走らせて掴み、螺旋を描くような形で瓦礫の山目掛けて放り投げた。
音を立てて瓦礫の山に突っ込む狐坂ワカモを追うように飛び上がる。
「しまいだ」
飛び蹴り。
空中でひねりを効かせた飛び蹴りは瓦礫の山を粉砕し、狐坂ワカモを───
「───待っていましたわ」
「ッ!?」
───打ち砕くことはなかった。
既に瓦礫の山から抜け出し、血に濡れた顔を凶喜の笑みで彩った狐坂ワカモが後ろへと回り込み、その銃口を押し付け引き金を引いた!
「グッ、ウオオオオオオ!?」
体を弾丸が削る!
衝撃が体を何度も何度も奔り、その体力を次々と削っていく───!
まずいと思ったがもう遅い。
腕を後ろ手につかみ取られて抜け出すことができない!
なんて怪力だ。
華奢な体からは予想もつかないほどのこのパワーは!
力任せに暴れることは未だ火を噴き続ける銃口が許さない。
猛るような火力が背中を焼き、俺の限界へと突き進もうとする!
「もっと! もっとですわテツヤ! まだあなたには晒していない暗部がある!」
この女……!
「見せてくださいませ! あなたの暴力性の権化を!」
いい加減にしろ!
「ウオオオオオオオオオオオオ!!」
ゴキリッと嫌な音が掴まれた左腕から響いた。
「!? まさか、腕を────」
「離れてもらうぞ!」
関節を外すことで無理やり拘束を解いた。
めちゃくちゃ痛いが必要経費!
この女を倒すには何が何でもという気概が必要だと今、やっと理解した。
銃口から体を離し、右足で狐坂ワカモの土手っ腹を蹴り抜く!
「ぐう!?」
「もう一発!」
右の拳を勢いに乗せて振り抜く!
「がはッ!?」
吹っ飛んだ狐坂ワカモは3回ほど地面でバウンドして倒れる。
「ふ、ふふふふ……」
嘘だろ、これでも倒れねえのか。
ホシノ先輩のような異次元のフィジカルがあるわけでもない。
「アハハハハハ!」
気力だ。
この女、ガッツだけで体を動かしてやがる!
最悪だ。
この手のタイプは気力が尽きるまでの耐久戦か、気力の元である芯をへし折るしかない!
そんなことがこの俺にできるのか───いや、やるっきゃない!
「いいよ。わかった。そっちがその気なら────」
決意したその時だった。
『新条テツヤさん! こちらの目標は完了しました! 撤退してください!』
七神さんの声と共に複数のヘリのローター音が聞こえる。
先生が目的を果たし、サンクトゥムタワーの実権とやらを握ったのだろうか?
援軍のものなのか、足音も無数に聞こえてくる。
「相変わらず無粋な連中ですわね、連邦生徒会。でもまあ、収穫はありました……」
「?」
「また会いましょうテツヤさん。次は、あなたの本当の姿を晒してくださるのを楽しみにしてますわ」
そう言い残し。狐坂ワカモは去っていった。
「……次はごめんだ」
……戦略的勝利、といえるだろうか。
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「いやあ、みなさん無事なようでなにより」
「「「いや、誰?」」」
「テツヤだよね」
「はい。先生……でいいんですよね?」
「うん。そうだよ」
癖っ毛だが、精悍そうな顔つきの男性は苦笑いしながら答えた。
キヴォトスの一大事に呼ばれた大人と説明されたから、いったいどんな顔つきの猛者かと思えばまともそうな男の人だ。
同性。
同性である。
女子比率が異常なこのキヴォトスに男の人がついに……
「あ、あの。ちょっといいかしら?」
趣味は合うだろうか?
どうせなら話が合う人だったらいいなと希望を膨らませる自分に、長い菫色の髪をツーサイドアップにしてまとめている人が話しかけてくる。
白いジャケットを黒いブレザーの上に着たあの人は……確かミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカさんだったか。
「どう見ても……さっきの姿と一致しないんだけど、あなたが新条テツヤくん、なのよね?」
「はい。さっきは変身してたので」
「変身……つまり、あなたは戦闘中に姿が変わるのですか?」
黒いセーラー服に身を包んだこれまた黒い長髪の羽川ハスミさんが会話に混ざってくる。
「はい。そういう体質なので」
「体質で済ませていいのでしょうか? あの戦闘力はもしかしたら委員長にも……」
「ご質問はそこまででよろしいでしょうか」
膨らみそうになった会話を打ち切るように七神さんが割って入ってくれた。
助かった、このまま質問攻めにされたらどうしようかと不安なところだったのだ。
「七神代理。彼についての情報はこちらに共有されなかったのはなぜです?」
「彼の参戦は急遽決まったことでしたから。こちらも最低限の情報しか伝えていませんし……」
「途中で逃げ帰るかもしれないからいう必要もない、と」
「……そんなことはありません」
最初に来た時の対応も結構事務的というか、行けるものならどうぞ行ってくださいって感じだったもんな。
生徒の印でもあるヘイローを持たない自分を戦力として数えないのは正しい選択だ。
実際、戦闘中は変身しないと役に立たないし。
「まあ、事態は解決したってことで良いんですよね? 七神さん」
「ええ。ご協力に感謝します。それと、新条テツヤさん」
「はい」
「連邦生徒会宛てにアビドス高等学校から連絡が入っていたのですが、そちらには入っていませんか?」
「……あ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
アビドスは怒りに燃えていた。
などと考えている場合ではない。
どうにかしてこの状況を打開しなければ、俺の明日は真っ暗闇に包まれる…!
「何か言い残すことはありますか? テツヤくん」
ノノミさんの笑顔が怖い。
事前に戦闘の許可を得ていたとはいえ、狐坂ワカモに負わされた背中の痣に気づかれたのはまずかった。
そこからは流れるように全員に詰め寄られることになり、今は弾劾裁判のような有様である。
正直、詰みだ。
こっからどうやって巻き返せばいいっていうんだ。
口でノノミさんに勝ったためしがない。
「じょ、情状酌量の余地はありませんか?」
「認めません」
「そんな馬鹿な……」
いつもとは違う強い否定の言葉には明らかに怒りが込められていた。
自分を心配してくれるがゆえの怒りであることはわかっているし、ありがたいのだがちょっと過保護がすぎないか?
痣ぐらいなら1日もすれば治るというのに。
「ノノミ先輩」
スッと手を挙げたのはアヤネだった。
「テツヤ先輩の発言は信用できないので、今後はその行動を監視するためにGPSを取り付けることを進言します」
「GPS!?」
「よい意見だと思います」
「待ってくれ! ちゃんと俺は行く許可をみんなに求めたし! みんなもそれを許してくれたんじゃないのか! これは横暴だぞ!」
「黙ってくださいテツヤくん」
駄目だ駄目だ!
こんなことは許されない!
GPSなんて犯罪者の監視みたいじゃないか!
そんなことをされる謂れはないぞ!
「無茶はしないでくださいって言ったじゃないですか! なんですか、狐坂ワカモと1対1って!」
「そうなっちゃったんだって……」
「ふん! どうせ先輩のことだから、ピンチの人たち助けるために無茶をしたんでしょ!」
いつも以上に棘のあるセリカくんの声が痛い。
「そ、そんなことはナカッタヨー」
「棒読み! せめて隠そうとしてください! 嘘が下手にもほどがあります!」
アヤネさん、しょうがないんだよ、声が上擦るんだ。
昔から隠し事には向かないんだよ。
「大体先輩には前科があるんですからね! 私たちに黙って賞金首狩りなんやったことは忘れてませんから!」
「うぐ、それは……」
それを突かれると痛い。
相談もせずに自分のできる金稼ぎのアイデアを実行した結果、みんなを心配させたのは言い訳のしようもない俺の失敗だった。
「その通り。テツヤは大人しくアビドスでゆっくりするべき」
「共犯者のシロコ先輩は黙っててください!」
「ん……」
シロコはダメだ、あてにならない!
ノノミさんに睨まれたら一瞬で引っ込ん…なんで俺の影に来る!?
今詰められてるのは俺だぞ!
助けてくれよ!
「物品はこちらに用意していますので」
アヤネがチョーカーのようなものを取り出して……いや、つけるって首輪かよ!?
普通こういう監視用のGPSって足とか腕に着けるもんじゃないのか!?
というか、デザインが本当に犬とか猫に着ける首輪なんですけど!?
「アヤネさん止めよう! その外観は俺の尊厳を著しく損なう!」
「GPS以外にも脈拍や血中酸素濃度といったバイタルを測ることが可能で……」
「無視!? 俺の話を聞いてくれよ!」
ガシっと、後ろから羽交い絞めにされた。
「シロコ!? 離せ、何をする!?」
「ごめん、テツヤ。私はあなたを助けない」
「薄情者め! 人の尊厳を賭けた戦いなんだぞ! いいのか? 同級生がペットの首輪をつけて登校してくるんだぞ? あらぬ噂が立つかもしれないんだぞ!」
「私は見たい」
「嘘だろシロコ……」
そんなことを言われたらどう反応すればいいのかわからないじゃないか。
お前の趣味にはどうこう言うつもりはないが、人を巻き込むのだけは本当に勘弁してくれ。
首輪なんてパンクなファッション……いや、ペットの首輪だからパンクですらない奇抜な格好は俺には荷が重すぎる……!
そうやって俺たちが2人でばたばたしている間に、ノノミさんがアヤネから首輪を受け取っている。
「では、テツヤくん」
「ひ……ほ、ホシノ! ホシノ先輩! 助けてください!」
今まで一言も発言していない先輩しかもう頼る人がいない。
夜は一緒に戦っているじゃないですか!
俺の体にだってこの場にいる誰よりも理解があるはずでしょう?
何か一つでもいいから、とにかくこの状況を止めることを言ってください!
「──ノノミちゃん」
「はい」
ホシノ先輩は素晴らしい笑顔を浮かべながら、
「やってよし」
地獄行きのサインを出した。
「ホシノ、せんぱい……」
「テツヤくん、ごめんね。おじさんもテツヤくんの最近の行動は、ちょっと目に余るかな~」
コツ、コツと靴を鳴らし、
そして────
「ほ~ら。きっと似合いますから───ね」
俺の首に、黒いアクセサリーが着けられた。
・ミレニアム製首輪型デバイス
ミレニアムの無駄に高度な科学力で作られた首輪だ!
スマートフォンと連動して、装着者のありとあらゆる情報を把握することができるぞ!
防水耐性はもちろん、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない耐久力を備えている!
トレーニング中の身体コンディションの確認にはオススメの一品だ!