Blue Archive vol.AGITΩ   作:mukugawa

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アビドスに来たれ、先生

 

 首に感じる違和感には悲しいことに数日のうちに慣れてしまった。

 監視用のチョーカーをつけられることになった俺は、以前と変わらぬ日々を送っている…はずだ。

 ちょっと俺に向けられる目に圧があったりするけど。

 通学路を珍しく自転車で駆け抜けながら、俺は今後の身の振り方を考えていた。

 

「どうかしたの、テツヤ?」

 

 シロコがキョトンとした顔で自転車を漕ぎながら聞いてくる。

 助けてくれなかったことはあと1日くらいは根に持つからな。

 

「いや、別に。というか、自転車漕ぎながらずっとこっちを見るなよ。危ないだろ」

 

「私に死角はない。ちゃんと前も見ている」

 

 心外だと言わんばかりにフンと息をつくシロコ。

 ベテランのシロコに言うセリフではなかったかもしれない。

 

「大丈夫。似合ってる」

 

「やかましいわ」

 

 じゃあその視線をいい加減に俺の首輪から離せ。

 そんな他愛もないやり取りを続けていると、道路のど真ん中になんとも無様な姿を晒している先生の姿が見えた。

 なんか服も砂まみれだし、砂漠で遭難して何日も放浪してる人みたいになってるぞ。

 ペダルを漕ぐスピードを上げ、その容態を確認しに向かう。

 あれは間違いなく脱水症状で力尽きているな。

 

「テツヤ?」

 

「前を見なさい前を。要救助者が転がってるでしょ」

 

「ん。本当だ」

 

 呑気だなオイ。

 もしかしたらシロコには見慣れた光景なのかもと思いかけたが、そこまでアビドスは過酷な環境ではない。

 砂が一面に広がってる区画ならばともかく、住宅かその跡がある場所は比較的安全のはずだ。

 俺も脱水で倒れたことはない。

 それこそ水分補給を怠って徒歩で遠い距離を移動するなんて命知らずなことを───していましたこの大人。

 俺が差し出した給水ボトルをゆっくりと飲む先生を見て、思った以上の重症ではなかったことに胸を撫で下ろした。

 アギトでもない体で無茶をしないでほしい。

 

「んぐ……ふう。生き返ったよ」

 

「そりゃあよかったですけど。徒歩でアビドス行脚はきついですって。次はバスを使ってください」

 

「あはは……次からはそうさせてもらうよ」

 

 苦笑いを浮かべながらそう話す先生を見たシロコが、珍しいものを見る目で語りかける。

 

「あなたが先生?」

 

「うん。そうだよ」

 

「アビドスに何か用?」

 

「うん。テツヤとの約束だからね。遅れて申し訳ないけれど、何か助けになれることはないか聞きに来たんだ」

 

 それを聞いたシロコの視線がこちらを向く。

 

「ノノミたちに言ってないこと、まだあったんだ」

 

「言うな。絶対に言うな。先生も俺の話は出さないでください、一生のお願いですから」

 

「う、うん。わかった、わかったよ」

 

 これ以上怒らせたらどんなペナルティを背負わされるかわかったもんじゃない。

 これ(首輪)の時点で結構な精神的ダメージを喰らっているのだ。

 次はどんなものが待っているかなんて想像もしたくない。

 

「とりあえず、先生は俺の後ろに乗ってください」

 

「ありがとう。でも大丈夫?」

 

 シロコのようなバカみたいな体力はないが、これでもサイクリングで鍛えられているのだ。

 2ケツで学校に行くくらいなら造作もない。

 遠慮がちに乗った先生の体重を足先に感じながら、いつもよりも強くペダルを漕ぎだす。

 成人男性だけあって中々の重さだが、無理な範囲ではない。

 そんな様子の俺を見て、シロコが話しかける。

 

「きつくなったら私が変わる」

 

「ああ、そん時は任せるよ」

 

 シロコの言う通り、通学に無理をしたっていいことはない。

 彼女の提案を受け入れた俺は、アビドス高等学校への道を走り始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 一度シロコに交代してもらったが、なんとか先生を連れてくることができた。

 先生には念のため、通り道にあった自販機で水分補給をしてもらった。 

 そのかいあってあわや死体といった形相が遭難者Aくらいのクラスアップを果たした。

 個人的な意見だが、死んでるように見えるかどうかは結構重要な気がする。

 主に初対面の印象アップのために。

 先生には大人らしいサポートを頼みたいが、セリカさんなんかは今さら外の人間の手なんか借りられないと反発するかもしれない。

 どんな完璧超人がきてもセリカさんは反対しそうな気がするが、ファーストインプレッションは重要だ。

 今後の付き合いも考えて、先生には頼りがいのある大人であるところを見せてほしい。

 と思う自分も先生のことは良く知らないのであるが。

 だが大将と似た雰囲気を感じる。

 まともな大人であることを俺は信じたい。

 

「おはよう」

 

 そう思いながら俺は、いつもより少し重く感じる対策委員会の扉を開けた。

 

「おはようございます~。……あら、そちらの方は?」

 

「先生だよ。一昨日に話した」

 

 俺の紹介を受けて、先生が一歩前に出る。

 

「どうも、ご紹介に預かった先生です」

 

 その言葉を聞いたアヤネが興奮を隠しきれずに立ち上がった。

 

「せ、先生ですか!? ついに私たちの要請が……」

 

「まーまー、落ち着きなよアヤネちゃん」

 

 いつの間に机から顔を挙げていたホシノ先輩がそう話す。

 それからは自己紹介の時間が訪れた。

 口火を切ったのはノノミさんだった。

 

「私は2年の十六夜ノノミです。そっちの猫耳がチャームポイントの生徒は1年の黒見セリカちゃん」

 

 セリカに気を使ったのか、ノノミさんが半ばその紹介を行った。

 密かにノノミさんへ親指を立てる。

 警戒心の強いセリカさんのフォローとしては完璧な対応だ。

 ノノミさんは俺のサインに気づいたのか、親指を立て返してきた。

 間に挟まれた先生から見たら自己紹介の後にグッドマークをする陽のものにしか見えないだろう。

 流石だ、ノノミさん。

 

「……よろしくお願いします」

 

 少し警戒心を露わにするセリカ。

 今思えば、俺の時の対応は優しい方だったんだな。

 外部の大人ともなればこうなるのも無理はない。

 今までのアビドスに近づく大人は、こちらをどう利用するかしか考えていない連中ばかりだったから。

 信用ばかりはこれからの先生の対応に期待するしかないだろう。

 すると次はアヤネが自己紹介を始める。

 

「アビドス高等学校1年の奥空アヤネです。この度はご足労いただきありがとうございます」

 

 セリカの義務的な対応に反して、アヤネは歓迎ムードのようだ。

 当然といえば当然だろう。

 連邦生徒会に嘆願をしてきたアヤネさんからすれば、やっと現れた助けだ。

 猫の手も借りたいアビドスの現状を鑑みれば、先生の来訪はこれ以上ないグッドタイミングである。

 こっちは特に問題はなさそうだ。

 最後にホシノ先輩が座ったまま、片手を振りながら軽い雰囲気で話しかける。

 

「私は3年の小鳥遊ホシノ。よろしくね~」

 

 ホシノ先輩の雰囲気に惑わされてはいけない。

 多分、アビドス1に警戒心が強いのはホシノ先輩だ。

 アビドスに怪しい商談を持ちかけた大人を撃退した時、あの鋭い言いっぷりと睨みつける横顔は忘れることができないほど衝撃的だった。

 その証拠に表面上は穏やかでも、目が笑っていない。

 セリカさんと打ち解ける以上に、ホシノ先輩と打ち解けるのは難しいだろう。

 頑張ってくれ、先生…!

 

「うん。よろしくね」

 

 先生が笑いながら答えたその時だった。

 すっかり聞き慣れてしまった銃声が次々と響き渡る。

 

「銃声!?」

 

 懐かしいな、先生のリアクション。

 俺はもうそこまで驚けなくなっちまったよ。

 

『アビドス高校の諸君! 今日こそこの学校を占拠させてもらうぜ!』

 

 ヘルメット団と思しき声が学校内にまで聞こえてきた。

 相変わらず元気なこって。

 校門前からここまで聞こえるその大声をまともな方面に生かそうと考えたことがないのか?

 

「テツヤ、これって要請の中にあったヘルメット団の襲撃だね?」

 

「その通り。じゃ、先生。カッコいいとこ見せてくださいよ」

 

 俺の発言に室内の全員の視線が先生に集まる。

 直接見たわけではないが、生徒の指揮能力は高いと聞いたし、その情報はみんなにも共有している。

 手っ取り早く生徒に認められたいのならその実力を示してくれ。

 あなたはきっと、それができる大人だ。

 

「みんな! この戦闘の指揮を私がとってもいいかな?」

 

「な!? 何を勝手に───」

 

「まあまあ、セリカちゃん」

 

 反発しようとしたセリカを制止するホシノ先輩。

 その視線が真っすぐにこちらを向いている。

 俺はその視線に応えるように大きく頷いた。

 

「……お手並み拝見ってね」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 えげつねえ。

 先生の指揮を横目で見ていた俺はそう思った。

 べつに源義経の馬を使った崖の駆け降りのような突飛な作戦を立てているわけでもない。

 ただ、正確。

 その一言に尽きる。

 戦況の把握はオペレーターによるドローンや戦闘員の報告によって行われるが、先生の場合その必要がない。

 まるで戦場を手のひらの上において見渡すような指示の前にヘルメット団の攻勢はあっという間に瓦解した。

 砂の多いアビドスの地理を生かした砂煙を用いての奇襲にトドメを指されたヘルメット団は敗北したのである。

 今は哀れにもシロコの前でダウンした赤いヘルメット団が目に向かって銃弾を連射で浴びせられている。

 ところで死体撃ちはもうそこまでにしてやれよ。

 見ろ、先生がドン引きって感じでお前のことを見ているぞ。

 

「いてててててて!? やめ、止めて!?」

 

「さっさと帰って」

 

「わ、わかった! 帰る! 帰るから!」

 

 拷問に耐えかねたリーダー格の赤いヘルメットはついに降参した。

 なお、キヴォトス以外の人間なら死んでいる模様。

 そりゃ先生もドン引きするわ。

 

「お、覚えてろー!!」

 

 赤いヘルメットは他にダウンしていたヘルメット団たちを伴って、小悪党のような捨て台詞を言い放って逃げ去っていく。

 帰れ帰れ。

 二度と帰ってくんな。

 実害を被っている側からしてみればただの害獣と変わらんのだよお前らは。

 益獣になってから出直してこい。

 

「や、やるじゃない……」

 

「いや~、セリカちゃんはツンデレだね~」

 

「何を言ってるんですか!?」

 

 実力を示した先生を認めたセリカをホシノ先輩が茶化している。

 それに続くようにノノミさん、シロコ、アヤネも輪の中に加わっていく。

 

「テツヤの期待には応えられたかな?」

 

 いつの間にか俺の隣に立った先生はそう話した。

 俺の浅知恵はとっくにお見通しだったらしい。

 

「ええ。十分です。今後ともよろしくお願いしますね、先生」

 

「うん。こちらこそ」

 

 俺が差し出した手を先生は迷う素振りなど一切とらずに握り返した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 と、先生を交えての最初のお仕事はうまくいったのだが……

 

「これまで学校の問題は私たちで何とかしてきたじゃない! なのに今さら外から来た大人を頼るなんて……私は認めない!」

 

 そう言い捨てるとセリカは走り去っていく。

 当初の懸念通りの事案が発生した。

 先生の持つ特権……シャーレの力を借金返済のために尽力するという流れになった結果だった。

 セリカも先生の助力を得る必要性はわかっている、

 だが、頭で正しいと理解できても、これまでアビドスが乗り越えてきた苦難を外様の先生に解決させるというのは、誰よりもアビドスであることに誇りを持ったセリカには受け入れ難いことだった。

 

「ごめんなさい。セリカちゃんは───」

 

「大丈夫だよ、ノノミさん。セリカもわかってくれる」

 

 そうは言ったものの、あれから先生側からのコンタクトは悉く弾かれた。

 セリカにも火がついてしまったのか、バイト中にさりげなく聞き出そうとすると耳を立てて威嚇までする始末。

 こうなったら強引だが、先生には紫関ラーメンに来てもらうしかないだろう。

 バイトのことを知るのは俺とホシノ先輩だけだが、こうなっては致し方ない。

 そう思った俺はいつも通りの塩対応にしょんぼりする先生を尻目にホシノ先輩にアイコンタクトで了承を得ようと試みる。

 

「……」

 

 笑みを浮かべたホシノ先輩の首肯がOKのサインだった。

 俺たちはセリカが欠席した定例会議を終えると紫関ラーメンに向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「な、なんでここにあんたがいるのよ!?」

 

「あはは……どうも」

 

 セリカは予想通り混乱の最中にいるようだ。

 しかし、ここで塩対応はご法度。

 お客様にそんな対応をすることはセリカの店員としてのプライドが許さないだろう。

 

「テツヤ先輩、まさか……」

 

「さ、席にどうぞ。オススメは紫関ラーメンです」

 

「やっぱり…!」

 

 そんな目で俺を見つめないでくれよ。

 意固地になった君を相手にするなら搦め手しかなかったんだ。

 先生のアプローチに一切の反応を示さないならこうなるかもって予想はしていただろう。

 

「いや~、驚いたな~セリカちゃんがここでバイトしてるなんてね~」

 

「先輩、白々しいです。もっと隠す努力をしてください」

 

「まあまあ、テツヤくん。まさか君の行きつけの店に偶然セリカちゃんがいるなんて夢にも思わなかったし、しょうがないんじゃな~い?」

 

「くう……」

 

 ここぞとばかりにセリカを弄る先輩に躊躇いなどなかった。

 だが残念だったなセリカ、お前の味方は残念ながらここにはいないんだ、悪く思うなよ。

 

「ご、ご注文は?」

 

「「「「「特製ラーメン一つ」」」」」

 

「じゃあ、私もそれで」

 

「ご、ごゆっくりー……」

 

 これでもかというほどの苦い笑みを浮かべたセリカは注文をまとめるとそそくさと立ち去った。

 その後、運ばれてきたラーメン。

 先生の前に置くときだけキッと目つきを鋭くしたセリカは「どうぞ」の一言を残して厨房へと入っていった。

 先生は終始苦笑いだったが、ラーメンには目を輝かせて味わっていた。

 楽しんでくれたようで、俺もバイトの1人として鼻が高い。

 それ以上のコミュニケーションは望めなかったものの、これで逃げ切れないことはセリカも十分わかっただろう。

 事の成り行きを静かに見守ってくれた大将も一言言ってくれたらよいのだが……

 そう思っていた次の日のことだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 セリカが学校に来なかった。

 休みの時は誰かに連絡をするだろうし、意地を張っていたとはいえ学校まで休むとは到底思えない。

 非常事態であることは目に見えて明らかだ。

 

「セリカちゃんの部屋を確認したのですが、制服も鞄もなくって……」

 

 アヤネは不安げに語る。

 大将から昨日のバイトはあがったと連絡があったから、何かあったとしたらその後か……

 

「ネットワークにアクセスして、セリカの携帯の位置を把握した!」

 

 対処に困っていた俺たちの暗い空気を切り裂いたのは、先生の告げた朗報だった。

 なんでも先生にはインターネットが絡むなら何でもできる助手がついているらしい。

 

「移動しているみたいだ……」

 

「まさか誘拐!? 一体だれが……」

 

「誰でもいい。今はセリカを助けることが優先」

 

 ノノミさんの疑問を打ち消すようにシロコが答える。

 恐らくはヘルメット団だろうが、そんなことはどうでもいい。

 重要なのはセリカが攫われて、どこかに連れていかれそうだってことだ。

 

「先生、俺のスマホに位置情報ください!」

 

「わかった!」

 

「テツヤくん、行くんだね」

 

「はい。俺が一番足が速いですから」

 

 ホシノ先輩にそう答えた俺は窓を飛び出し、空中で変身を完了する。

 スマートフォンに写る位置情報はアビドスの砂漠地帯に移動しているようだった。

 

「ふざけんじゃないぞ────」

 

 後輩に手を出したツケは、必ず払ってもらう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ガタンっと、ひときわ大きな振動によって、セリカはその目を覚ました。

 

「ここは……」

 

 思い出すのはバイトを終えた帰宅中のこと。

 一人で夜道を歩いていたセリカはヘルメット団に襲われ、その数には敵わず倒されてしまったのだ。

 絶えず襲う振動によって、ここが車内であることを知ったセリカは、自分が誘拐されてしまったことを理解する。

 

「私、こんな……」

 

 最悪の気分だった。

 どこかへと動き続ける車の行き場所を砂の上を走る音で理解してしまったからだ。

 

「砂漠に向かってるの!?」

 

 拘束を解こうともがくがほどける気配はない。

 最悪の予想が徐々に頭の中を侵していく。

 このまま砂漠に行ったら、自分はどんな目に遭わされるのだろう。

 ヘルメット団は私を盾にアビドスに攻め込むのか。

 それとも交渉材料にされることなく砂漠のどこかへ捨てる気なのか、

 

「うぅ、ぁああ……」

 

 セリカは今頃、自分を探しているだろう仲間たちの姿を思い浮かべる。

 そのたび、自分の不甲斐なさに堪らなくなるのだ。

 目じりに現れた弱さを隠したいのに隠すための手が縛られている。

 泣きたくなかった。

 冷静に打開策を考えなければならないのに……

 そんな負のループを絶ったのは耳を劈く轟音だった。

 

「きゃあ!?」

 

 轟音に続くようにして車が急停止する。

 セリカは縛られたまま転がることになった。

 

「なんなのよ、いったい……」

 

 ガキン、という音が車の扉から聞こえた。

 セリカはその方向を向いた。

 その時、ドアが外へと吹き飛んでいった。

 呆気に取られたセリカの前に現れたのは、

 

「大丈夫か、セリカ」

 

 アギトとなったテツヤだった。

 

「はい……はい!」

 

「ちょっと失礼」

 

 セリカの拘束を無理やり破るテツヤ。

 自由を取り戻したセリカへ、手元にあったセリカ自身の愛銃を手渡すと、テツヤはセリカに語りかけた。

 

「動けるか?」

 

「大丈夫です!」

 

「上々。俺がセリカを抱えて先輩たちのところまで突っ走る! 援護頼むぞ!」

 

「はい!」

 

 セリカを肩に抱えたテツヤは勢いよく車外へと飛び出した。

 

「出てきたぞ!」

 

「撃て撃て撃てー!」

 

 テツヤは周りに止まっているヘルメット団の車を踏み台にして、目的地までの移動を試みる。

 そのスピードをヘルメット団は捉えきれず、あらぬ方向に射撃していた。

 セリカの射撃が敵の包囲網に穴を開ける。

 

「くそ、ゴキブリみたいに撥ねやがって!」

 

「どこ行きやがった!」

 

 もう遅い。

 既にテツヤたちはこの場を脱し、ホシノたちとの合流地点に到達していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ん、泣き顔のセリカを確認」

 

「な、泣いてません」

 

「セリカちゃん!」

 

「ああ、セリカちゃん。そんなに寂しかったんだね〜」

 

「う、うるさい!」

 

 目元をゴシゴシとこするセリカ。

 一人で狭いところに縛られて放置されていたのだ、それは泣きたくもなるだろう。

 彼女の場合、自分がどうなるかという不安より、ヘルメット団に負けて囚われた自分の不甲斐なさを恥じるタイプだろうが。

 

「じゃあ、あとは連中を始末するだけだな」

 

「地獄を見てもらう」

 

「2人とも、張り切ってるね〜、おじさんも頑張っちゃおうかな」

 

「絶対に許しません…!」

 

 アビドスは血の気の多い者の集まりだ。

 それを怒らせるとどうなるか、身をもって味合わせてやる。

 最初に飛び出したのは俺だ。

 一歩で敵との距離を縮めた俺は、ヘルメット団の顔面を容赦なく殴り飛ばす。

 吹っ飛んだヘルメット団の足を空中でジャンプして掴み取り、意識を失ってだらんとしたその体をロケットランチャーを構えていたヘルメット団目掛けて投げつける。

 既にトリガーを押していたのかあらぬ方向へと弾頭は飛んでいった。

 次の手を打ったのは先生だ。

 みんなに俺がこじ開けた突破網を示し、そこを起点に敵陣へと攻め上がる。

 砂の大地は起伏が多く、隠れ場所には適しているか関係ない。

 潜伏している敵も先生の目から逃れることはできず、その位置を知らされたシロコたちが素早く撃破する。

 射撃戦で遮蔽物の長所を潰されるのは致命的だ。

 特に撃たれ弱いヘルメット団のような連中には。

 ヘルメット団はなすすべなくシロコたちの勢いの前に呑まれ、みるみるその数を減らしていく。

 その先を行くように俺はヘルメット団のものであろう車両を掴み上げ、後退しようとするヘルメット団たちに向けて放り投げる。

 逃しはしない。

 この程度で俺たちの怒りを鎮められると思うな。

 

「う、撃て! 撃てーー!!」

 

 もう一つの車両を掴み、適当にぶん回せばヘルメット団の1グループが地面を何度もバウンドして倒れる。

 数の多さが命取りだ。

 こっちにはロケットランチャーより、手榴弾よりも凶悪な武器があるんだからな。

 敵との立ち回りを続けていると、後方からシロコたちの姿が現れた。

 

「待った?」

 

「いいや、いいタイミングだ」

 

 あとは倒し損ねた敵を片づけるだけだ。

 ホシノ先輩が盾を構えて特攻する。

 

「痛い目を見てもらうよ」

 

 敵の射撃を防ぎながら進んだホシノ先輩は、そのまま盾を振りかぶりヘルメット団の1人を吹き飛ばす。

 その後も右手に構えたショットガンが火を噴き、あっという間に敵グループを撃破した。

 

「バカめ! 突っ込んできやがった!」

 

 そんなホシノ先輩に向けて、敵が包囲しようと動き出すが、

 

「させません!」

 

 ノノミさんのミニガンによる掃射がそれを許さない。

 回転する砲身から射出される弾丸の嵐。

 迂闊に前に出てきたヘルメット団はたちまち地面に崩れ落ちることになった。

 

『シロコ先輩! 補給物資です!』

 

「ありがとうアヤネ。確かに受け取った」

 

 その間にアヤネからの物資を受け取ったシロコがドローンを作動。

 

「やられた借りはここで返してやるんだからーー!!」

 

 突っ込んでいくセリカと共に並走し、それぞれの武器で敵を各個撃破していく。

 セリカのアサルトライフルが、シロコのドローンによるミサイル攻撃が既に半壊している敵の陣形を粉々に打ち砕いた。

 

「く、くそ! 撤退だ! 物資を持てるだけ持って」

 

「まあ、待て」

 

 ここでダメ押し。

 既に戦闘不能の敵から掻っ払ったロケットランチャーの照準を今にも逃げ出そうとする敵車両に照準を合わせる。

 

「歩いて帰んな」

 

 俺は迷わずにそのトリガーを押し込んだ。

 

「う、うわあああ!!」

 

 ドカンと爆発が響く。

 敵の持つ最後の車両がオシャカになった音が、なんとも心地よかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「く、くそーー!!」

 

 覚えてろと発言する余力もないのか、ボロボロの体を引きずって去っていくヘルメット団を見送る。

 あれだけ物資も滅茶苦茶にしてやったんだから、もうしばらく…いや、二度とアビドスの地を踏まないでほしい。

 今回はアビドス生全員の地雷をガッツリ踏んだのだから、再起不能にならなかったことを幸運に思ってほしい。

 多分、無理だろうけど。

 

「よかったです、セリカちゃんが無事で……」

 

「ノノミ先輩…」

 

「うん。無事で何よりだよ」

 

 先生がやってくるとセリカは強張った表情になる。

 しかし、何かを決意したのか先生の目を見て話し始めた。

 

「私一人でもどうにかなったけど……でも、ありがとう。先生」

 

 セリカが振り絞ったその言葉に先生は優しく頷いた。

 

「お~、セリカちゃんがデレた」

 

「んなッ!? 何を言ってるんですか!」

 

「セリカのデレは珍しい」

 

 いつものやり取りが何故か嬉しい。

 からかうホシノ先輩と反発するセリカ。

 そこに飛び込んでいくシロコ。

 それを微笑ましく見守るノノミさんとアヤネ……そして先生。

 アビドスらしい砂が混じった風が、新しい流れを運んできている。

 そうあってほしいと俺は思う。

 

 

 

 




・A.R.O.N.A
 先生の持つシッテムの箱というタブレット端末に搭載されたOSだぞ!
 朝の目覚ましから防御シールドの展開までこなす万能秘書だ!
 好物はカステラとイチゴミルクだ!
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