彼はごく普通の少年だった。地元の中学校を卒業し、地元の高校に進学。三年の月日が経ち大学へと進学する矢先、彼の人生は唐突に終わりを告げた。
達の悪い病に侵され、彼は命を落とした。あまりにも呆気なく、唐突な最期だった。
そんな彼は奇妙な空間にいた。真っ白い光だけの空間……いや、正確には光の中に座布団とちゃぶ台が置かれ、片方に彼が。もう片方には捻れた角にコウモリの翼を持つ【悪魔】のような容貌の青年がいた。
「やあ少年。早速だが、君は自分が死んだ事は自覚しているかな?」
「ああ…………。で、あんたは?」
こんな見るからに怪しい人物に警戒心を隠せない。声色も鉛のように重々しく、今すぐにでも逃げられるように身構える。
「そう警戒するな。私は死んだ君に話があるだけだ」
「……何だよ、その話って」
「君に……転生してもらいたいのさ」
「転…………生?」
曰く、最近神々の間で人間を転生させ、転生者の人生をドラマや漫画のように観賞するのが流行しているらしい。
そして彼は【悪魔】の概念を司る神て、彼の外見も少年にわかりやすくこの姿をしている。
「で、どうかな? 私は悪魔の神だから、悪魔に関する力を特典としてプレゼントしよう」
「………………断った場合は?」
「何も。他の死者と同じく、あの世に行くだけだ。つまり強制はしないって事」
少年は口を閉ざし考え混む。彼の言葉を信じてよいのか。
疑問は尽きないが、少年の頭に一言だけ引っ掛かった。
人生をやり直せると。
形はどうであれ、もう一度人生を……単純に言えば生き返れるようなものだ。それはとてつもない魅力を感じさせる。
彼は天命をまっとうしたかった。大学に入学したらサークルで仲間を作り、彼女も欲しかった。両親のように普通に結婚し、子供も授かる人生を歩みたかった。
(そうだ。これはチャンスだ。俺は……)
少年は彼の方を見ると口を開く。
「転生する。但し特典はいらない。俺は人生をやり直したいだけだからな」
彼は意外そうに目を見開く。
「おや。大抵は力を得るのを喜ぶんだがな」
「人それぞれさ。それに、普通の人生を観賞するのも悪くないだろ? サザエさんとかそんなのを見るような感じでさ」
「…………ほう」
彼は少年を一別すると右手を上げる。
「まあ良い。とりあえず転生を了承してくれて嬉しいよ。君の人生、楽しみにしている」
彼が指を鳴らすと少年の姿は砂のように崩れ、跡形もなく消えてしまった。
「さて」
少年の姿が消えるのを見ると、彼はちゃぶ台の上にダイヤル式の黒電話を出現させ受話器を取る。
「私だ。ああ、こっちからも【役者】を選出した。今回も素晴らしいストーリーが展開されるだろうな」
彼は受話器を置き、ニヤリと笑みを浮かべる。
「彼も間抜けだな。悪魔が約束を守る訳がないだろ」
少年は目覚めた。記憶ははっきりしている。転生の事も、前世の事も覚えている。
「どうなっている? 転生したなら赤ん坊からじゃ……」
生まれ変わるなら新しい命として生を受ける、そう思っていた。例え前世の記憶を維持していたとしても、普通の人生を要望したのなら両親がいるはずだ。
だが少年の周りにあるのは木ばかり。おそらく森や山の中なのだろう。
「なんだよこれ?」
視点も妙に低い。黒いコートから覗く腕は幼く、自分が若返ったのがわかる。
「子供……だよな?」
『ええ、そうよ。貴方の肉体年齢は九歳、外見も転生するにあたって再構築したわ』
背後から声が聞こえる。スピーカーを通したような少女の声だ。
振り向くと赤い一台の大型スポーツバイクが停まっていた。まるで瞳のようなライトが特徴のバイクだ。
「バイクが喋った?」
『違うわ。私よ、わ、た、し』
バイクからスポットライトのような光が放たれ、そこから一人の少女が現れる。
黒い長髪に羊のような角、黒いワンピースに耳を包んだ少女だ。
『はじめまして。私はアゲハ。貴方のサポーターとして神から派遣されたの』
「サポーター?」
アゲハと名乗った少女はスカートの裾をつまみお辞儀する。
『転生者に転生先の世界や特典の説明のために相棒として作られたの。この世界なら、私達はデバイスに相当するわ』
「特典はいらないって……」
『残念ながら貴方は特典を与えられているわ。悪魔がちゃんと約束を守ると思って?』
「うっ…………」
そう言われると納得せざるを得ない。少年は諦めたように深いため息をつくと、その場に座る。
「まあ良いさ。使えるなら使う、危ないなら使わなきゃ良いだけだし」
『フフッ……』
彼が望んでいるのはまっとうな人生だ。しかしアゲハは彼を嘲笑うように微笑む。
「そんで特典は何なんだ? まさかそのバイクとこの顔か?」
バイクの機体に映った自分は、前世の容貌とは全く違った。水色の髪をした西洋人の子供となっていたのだ。
『まさか! そんなちゃちな代物じゃないわ。まずは……』
アゲハは自信満々に胸をはる。
『転生者のサポーターとして人工知能の私、アゲハと、私の機体でもありデバイスでもある大型戦闘用バイク666(トリプルシックス)』
「666…………か。そういえばデバイスって何?」
『あっ、この世界の事を説明してなかったわね』
アゲハが軽く咳払いをすると、彼女の隣に光の板のような物、ウインドウが展開された。そこには白い衣服を着た杖を持つ少女が映し出される。
『この世界はテレビアニメ、【魔法少女リリカルなのは】を元にした二次創作【魔法少女リリカルなのは 転生は刃と共に】ってネット小説の世界よ』
「えっと……つまり………………。アニメとよく似た世界って事か? その、魔法少女なんたらってのと」
『ええ。何人か転生者ってゆう設定のこの世界の住人がいるけど、世界の人口が違うくらいね。話を戻すけど、デバイスは魔法の補助道具や武器の事よ』
彼の顔色が変わる。彼女の言葉に酷く興味を引かれたようだ。
「補助道具……もしかして俺って」
『もちろん魔法が使えるわ。この世界では科学技術の一種だけど、前世と違い色んな事が出来るわよ。ああ、ちなみに魔法が使えるのはこの世界や類似世界に転生した転生者共通の肉体よ。貴方の特典は別』
「魔法……」
魔法が使える。その一言で大きく心が揺れる。
彼だって魔法や超能力に憧れた事はある。思わず息を飲み自らの手を見る。
「と……とりあえず特典の事を教えてくれ。しかし魔法か……」
彼は繰り返し魔法と呟く。
転生する時はひたすら元の生活に戻る事を望んでいたが、今考えるともっと要望を言うべきだったかもしれない。そんな事か頭を過る。
『貴方が与えられたのはテレビアニメ【ブラスレイター】に登場するペイルホースに感染した肉体よ。もちろん確実にブラスレイターとして覚醒出来るよう調整されてるわ』
「ブラスレイター? どんなアニメなんだ?」
『これよ』
アゲハは新しいウインドウを開き彼に見せる。インターネットのページらしきそれは、彼が元々生きていた世界に存在するサイトのページだ。
「………………」
彼はそのページを見ていたが、次第に顔色が悪くなってゆく。
「おいおい……何だよこれ」
そう、彼はそのおぞましい存在を理解し恐怖した。そして自分を転生させた者を思い出す。
「悪…………魔……俺が?」
手に入れたのは悪魔の力。金属や機械と融合する異形の存在。
「どうなってんだ!?」
思わず666を掴む。その瞬間……
「!」
666は光を放ち水色に変色。更に機械前部が肥大化し、前輪は二重になり翼がタイヤの隙間から伸びる。後輪の車軸は翼になり、それは生物のような異形のマシンへと変形した。
『666戦闘モード、起動。さぁ…………私に見せて貴方の新しい肉体を』
アゲハは微笑む。そのホログラムの少女の言葉は人工物とは思えないくらい艶で妖艶だ。
「う……あ…………ああ」
右手が水色の光を放ち、獣のような籠手へと皮膚が変化する。
『融合せよ、悪魔の力』
光は全身へと広がり、彼の身体は異形の怪物へと変身してゆく。
『運命に逆らい……呪われよ』
それと同時手足が伸び、全身の体格が変化。成人の肉体にまで成長する。
『さ迷い続けよ……ゆえに、闘え』
下顎から角が真上に向けて伸びる。顔はオレンジ色の半透明のバイザーに隠され、瞳は青い光を放つ。
『逃げられない闘いの連鎖が始まる』
至る所に何重もの円がある全身水色の装甲に包まれ、真上に伸びる角が悪魔のように鈍く輝く。
「あ……う……」
タイプXXVマルコシアス。それが彼の適合したブラスレイター。
『ハッピーバースデー、悪魔君』