魔法少女の世界に現れた悪魔   作:野良バイド

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進路考察

「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 少年の慟哭が木々を揺らし、深い闇色の夜空をい抜く。彼は悲鳴のように痛々しい声を上げながら、無我夢中で周囲の木を凪ぎ払う。

 彼の手には石突きがメイスとなった巨大な横刃の方天戟が握られており、その禍々しい凶刃は木を一瞬で両断する。

 劇中、ヘルマン・ザルツァが適合した個体は深紅の装甲にハルバードと鎌を組み合わせた武器を所持している。しかし彼は水色の装甲を有し、武器の形状も異なっている。おそらく適合者の個人差なのだろう。

 だが彼はそんな事はどうでも良い。今の自身の姿に恐怖し、混乱しているのだ。

『マルコシアスに適合するなんて……。貴方の身体はは空気の読める子みたいね』

 アゲハは楽しそうに声を弾ませる。彼女は彼の変貌に楽しんでいる。その苦悩に満ちた悲鳴に心配すらしていないようだ。

 当然彼がその態度に怒りを感じない訳がない。

「黙れ! 俺の身体がそんなに滑稽かぁ!?」

 切っ先を向け、憎悪と怒りが入り雑じった怒声をアゲハに向ける。だが彼女は微笑を浮かべながら彼を見詰める。

『滑稽? いいえ、むしろ素敵よ』

「何が素敵だ! 俺は化け物なんだぞ! こんな……こんな…………」

 柄を握る手に力が失われ、声も小さくなってゆく。

 彼は恐ろしかった。この姿が、身体に満ちる力に恐怖しか感じられない。

『ハァ……。貴方は選ばれた。それを受け入れ、適応しなさいな。人間になれないんだから、現実を受け入れなきゃ。折角の素晴らしい肉体が無駄になるわよ』

「受け入れるっても……」

 彼はそこから言葉を続けられなかった。なまじ人の心を保っているせいで余計に辛い。

 いっそ心まで化け物に堕ちてしまえば楽なのかもしれない。だが彼は人の心を保とうと必死だ。だからこそ苦しんでいる。

「………………なあ、俺はどうすれば良い? 」

 前世と違う姿、違う肉体、違う環境。そんな状況に一人投げ出され、たださ迷う事しか出来ない。

 彼は今世の家族も、頼る親族や友人もいないのだ。あるのはアゲハと666、悪魔となったこの身のみ。

『とりあえず貴方は世界の住人から生まれたのではなく、世界に組み込まれたタイプの転生者よね。だから……』

 アゲハは少し考えると街の方角へと視線を移す。

 街には彼の心とは裏腹に光が溢れ、夜の世界を明るく照らしている。

『先立つ物、お金かしら? 貴方の力ならATMのハッキングだって簡単だし、まずは生きる事が先決よ』

「俺に泥棒をしろと?」

 彼女の言う事もわかる。とにかく生きるには食料が必要だし、自然から得る為のサバイバル知識が無いねだから買うしかない。そして無一文で身寄りが無いのだから盗みを働くしかない。

 アゲハから教わったブラスレイター……融合体の能力なら機械と融合し操作が出来る。文字通り、物理的にハッキングが可能なのだ。

 生きる為に何をすれば良いか。良心と生への執着の狭間に彼は葛藤する。

『どうするの? 八神家に転がり込む手は使えない……って、リリカルなのはを知らないから言ってもわからないわね』

 アゲハはため息をつき、666は独りでに動き彼に近づく。

『さっ、早く決めなさい。生きる為に動くか、野垂れ死にするか……ね』

「…………卑怯だろ、それ」

 彼は肩を落としため息をつく。そして方天戟を光に変え右掌の紋章に収納、666に跨がる。

「仕方なくだからな。他の方法が見付かるまでだ」

『よろしい。じゃあ行きましょっ…………あっ』

 何かに気付きアゲハは口を閉ざす。

『そういえば貴方、名前はどうするの? 前世の名を名乗るのも違和感があるし』

「…………名前」

 今の彼は西洋人の肉体だ。前世の日本人の名は似合わない。

『貴方は死んだ。だから新しい名前が良いんじゃない?』

「じゃあアゲハが付けてくれ。……どうでも良いさ」

 半ばやけくそに言い放つ。親もいない、前世とも違う。色々ありすぎて、これ以上頭を働かせたら潰れてしまいそうだ。

『そうねぇ……。悪魔の名前と劇中の適合者、ヘルマン・ザルツァの名前から…………』

 ニヤついた笑みを浮かべ、爪先から角までじっくりと見詰める。

『マルコシアス・ザルツァ、ってのは…………』

「却下」

 アゲハが言い終える前に即答する。

「いくらなんでも、悪魔の名前は無いだろ。痛過ぎるっての。名字はまあ……妥当だろうけど。ん? マルコシアス?」

 彼はバイザーを撫でながら思考する。何度もマルコシアスと呟き、やがて閃いたとばかりに指を鳴らした。

「マルコ・ザルツァだ。マルコは男性名だし、これなら自然だろ」

『だったらヘルマ……』

「誰が地獄男なんて名乗るか」

 彼は知らないが、ヘルマンはドイツ人に多いごく普通の名前だ。違和感を感じるのは、彼が日本人だったからだろう。

「とにかく、俺は今からマルコ・ザルツァだ。異論は認めん」

『はいはい……。まっ、これからよろしくね、マルコ。貴方がこの世界で生き延びられるよう、全力でサポートするわ』

「ああ、よろしくなアゲハ。所で……」

 マルコは頭を掻きながら言いづらそうにハンドルから手を離す。

「これ、どうやって動かすんだ? 俺、二輪免許無いからさ…………」

『………………大丈夫なのかしら?』

 

 

 

 

 夜中の人影一つ無いスーパー。いや、一人いた。

 水色の装甲に身を包み、一対の角を生やした異形の悪魔。マルコがいた。

 彼がレジに触れると、手がレジと融合する。そして独りでに開き、中に納められていた大量の金が姿を現した。

[どう? これが融合体の力よ。監視カメラをハッキングし、レジも開けられる]

 頭に直接声が響く。この世界の魔法の一つ、念話だ。

[完全に犯罪者だな。まぁ、これでしばらく食うに困らないが]

 レジの中にある紙幣をわしづかみにし、店を後にする。 店の裏口では666が停まっており、マルコが近づくとエンジン音を抑えるように振り向く。

『お帰りなさい。収穫は上々かしら?』

「犯罪自慢なんかするかよ」

 666に乗り、街の外れの森へと走り出す。眼球のようなヘッドライトが夜道を照らし、街から一刻も早く逃げようとスピードを上げた。

 人目から逃げるように裏道を進みながらマルコは右掌の紋章を見る。

「で、これからどうするんだ? 666に乗る為に変身したけど、そろそろ戻りたいんだが」

『街を出るまで我慢しなさい。子供の姿だと体格が合わないんだから。それよりも今後の生活をどうするかね』

 マルコに背を向け腕を組んで考え込む。

(金銭の確保は容易だから、食、衣はなんとかなるわ。簡単に死ぬ事は無いけど、介入はどうしようかしら?)

 彼女は物語の介入を目的としている。

 神は彼ら転生者を鑑賞する為に力を与え転生させた。神に生み出されたアゲハが介入を試みるのは当然。彼女は役者として観客の神々を楽しませる事が仕事なのだ。

(八神はやての家に……いや、この物語の主人公がいるわ。高町家もまず不可能。【原作】はもう始まっているし)

 チラリとマルコを見る。

 彼は介入する気は無い。そもそも人生をやり直すのが目的で転生したのだ。物語の介入をせずとも神を楽しませられるだろう。だが介入するのが一番だ。

(ヴォルケンリッターに襲撃されるのが……でも主人公が問題よねぇ)

 あらゆる方法を考えるが、どれも確実性に欠ける。

 アゲハが必死に介入手段を考えていると、人気の無い海岸沿いの車道に出て停車、マルコがポツリと呟く。

「よく見ると、666って格好良いな。バイクに興味ないんだけど、これはなかなか……」

『気に入って頂けて良かったわ』

 この身体は気に入らない。だが666は別物だ。

「ブラスレイター……だっけ? そのアニメには他にも666みたいなバイクが出るのか?」

『ええ、勿論。ガルムって言う戦闘用バイクがね。そうだわ、ちょっとアニメでも見てみる?』

「本当か? 見てみたいな」

『待っててね……。私のお気に入りの三話でも流しましょ』

 アゲハの姿が消え、代わりに一本のアニメーション動画が映し出される。

 二十分強の動画が終わると、再びアゲハが姿を現す。

『この頃はヘルマンはまだブラスレイター化していないけど、物語全体の雰囲気とか…………どうしたの?』

 マルコは口を閉ざしたまま何かを考えている。

「…………いや、ガルムも格好良いなって」

『そう。じゃあもう行きましょ。人に見られる前にね』

「そうだな」

 666を走らせ、マルコ達は人目の付かない森を目指す。

(化け物……差別……)

 劇中でマシューの言っていた言葉がマルコの中で繰り返される。人間でなくなった者の恐怖、絶望、そして暴走が明確に描かれていたのだ。

(俺もああなった方が楽なのか?)

 人間の心があるから苦しい。人間でいようとするから悩む。

(…………いや、俺はああなっちゃいけない。なってたまるか)

 絶望してはいけない。堕ちてしまったら、本当に化け物になってしまう。

「俺は…………」

『ッ! マルコ、上!』

「上……ってぇ!?」

 666が急に走り出し、彼らがいた場所に何かが飛び掛かった。

「ちょっ……何だ?」

 そこにいたのは巨大なカラスだ。振り向いたカラスは嘴に鋭い牙が生え、足も数十センチはある爪が伸びている。そして何より、額に青い菱形の宝石が異質な光を放ち、マルコの心臓を握るような威圧的を漂わせていた。

「アゲハ、何だこの化け鳥は」

 右手に橙色の光が伸び、一本の方天戟が握られる。

『……ラッキー』

 アゲハはマルコに聞こえないように呟く。

 このジュエルシードを手に入れば物語への介入が容易になる。彼女にとっては願ってもない状況だ。

『これはこの物語に登場する怪物……ね。詳しい説明は後にするから、今はあれを潰しましょ。ほっといたら街に向かうわよ』

「でも……」

『私がサポートするから。ぼさっとしていたら、貴方も殺されるわよ』

 怪物は空高く飛翔し、マルコ達をじっと睨む。

 戦わなければならない。自分の為にも、この街の為にも。

「わかったよ……やってやる!」

 マルコが跳躍するのと同時に666が回転しながら変形。前輪が左右に分かれ後輪が九十度回転、飛行形態に変形した。

「行くぞ!」

 666に飛び乗り、怪物目掛け飛び立つ。

 その手に握られた方天戟の刃が光を放ち、眼前の怪物を一別した。

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