精神の束縛   作:笑う豆の木

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アリス参戦!
赤ずきんはマゾ気質強いけど(偏見)アリスはSでジャックの前だけMそう(偏見)


精神の束縛2

 

 

 

 その少女。アリスは仄暗い廊下の中を孤独に歩く。彼女には気になっていることがあった。それを確かめるために、静かな廊下を出来る限り音を立てないよう慎重に進んでいた。

 

 最近、最愛の血式少年が赤ずきんの部屋に入り浸ったっているという噂が立っていた。それも夜な夜な。 

 単によく赤ずきんの部屋に行く、というだけなら多少暗い感情が湧くくらいで、あまり気にしなかったかもしれない。ジャックと赤ずきんは最近ますます仲が良くなっているようだし、何か共通の話題や遊びを見つけただけかもしれない。

 しかし夜中となると、やはり猛った思いが実ってしまうのは仕方ないことだった。仲睦まじい男女が夜中、片方の部屋へ遊びに行くとは、例えばどんなことを意味するか。

 長らく監獄で過ごしてきたアリスとて知らないわけではない。

 噂の出どころなど分からないし、よくある誇張なのかもしれない。が、一粒の涙ほどでも“そういった可能性”があると考えてしまうと、それでもやはり気になってしまう。 

 

(まさか、本当だとは思ってないけど……)

 

 男女のちょっとしたことがおもしろおかしく誇張され、周囲に誤解された形で伝わったりするのは珍しくないだろう。アリスとしても、もちろんそう信じたい。

 でも、その噂を聞いてからというもの、日々の探索や戦闘中ですら身が入らない事態が多発した。生活の中でジャックと赤ずきんが談笑していたり、ただ側にいるだけでも嫉妬の炎に狂ってしまうのが、自分でも痛いほどよく分かっていた。

 

 何故、そんな感情や痛みが湧いてしまうのか。もう考える必要とか、自分に言い聞かせる必要なんてないのだろう。

 

(ジャックが大好きだから……)

 

 赤ずきんではなく、もっと自分を見てほしい。赤ずきんの部屋ではなく、自分の部屋に来てほしい。その愛らしい笑顔を見せる相手は、自分だけで良い。

 先程、ベッドに入った時。ずっと我慢していたからだろう。

 突然そんな屈折した想いが吹き上がってきて、その気持ちを抑えきることはできず、ほとんど無意識に赤ずきんの部屋へと向かっていた。

 もちろん、カチコミをかけるとか直談判をするとかではない。そんなことしたら、最悪赤ずきんとの関係性は崩れ、これからの戦いに支障が出るかもしれない。そうなったら悲しむのはジャックだから。

 少しだけ、ほんの僅かな安心が欲しかったのだ。

 赤ずきんの部屋を見に行って、ジャックが来ている形跡がないか確かめるだけ。そのまま少し待機して、本当に夜逢引しているのかを確認したいだけ。

 何も無かったら、少なくとも今日は眠れるはずだ。

 

 断片的に熱化している思考をどうにか整えつつ、件の部屋の前まで来る。

 単純に形跡を確認するだけなら廊下の角から覗き見るだけでも良かったのだが、やはり冷静ではなかったのだろう。気が付いたら扉の前にいた。

 

(はぁ……やっぱり変よ、私…………ん?)

 

 一瞬だけ、中から声が聞こえた。辺りは完全に寝静まっていて、他に音を出すような原因は自身の心臓以外どこにもない。

 一声二声程度だったが、それは高く、喘ぐような声だった気がする。部屋の主である赤ずきんがそんな甘えじみた声を出すとは思えなかった。

 もしやと思いもう一度念の為確認してみたが、扉札にはしっかりとした筆跡で“赤ずきん”と書かれている。

 こんな夜中だ。他の血式少女が訪ねてきている可能性も低いだろう。

 

(ま、まさか赤ずきんさん……いえ、赤ずきんさんといえど立派な女性。な、慰めたくなる日もあるわよね……)

 

 一人卑しい妄想をして、顔が赤くなってしまう。

 頼りがいのある皆のお姉さんとして振る舞い、男勝りかつ明るい性格で邪な気持ちを感じさせない彼女とはいえ、やはり我慢ならない時もあるのだろう。

 アリスだって、主にジャックのせいでそういうタイミングが来ないわけではない。それどころか、最近は嫉妬や不安がある種の原動力になってしまっているせいで。

 

(そ、それにしても扉を挟んだこちら側にまで聞こえてくるなんて……け、結構激しいのかしら)

 

 衝撃的な事実(確認したわけではないが)を知ってしまい、僅かな間ジャックのことを忘れられたアリス。

 しかし、それもつかの間すぐにアリスは更なる衝撃に苛まれることになる。

 

「…………じゃ…………く……ぅ…………!」

「っ!?」

 

 途切れ途切れの発音ではあったが、ハッキリと、明らかに色情を含んだ声で最愛の名が叫ばれたのを、アリスは聞き逃さなかった。

 それに続いて。

 

「赤ずきん……!」

 

 人生で一番耳慣れた人の声──プツン──目の奥あたりで何かが弾けた。

 アリスは力強く扉を開け、部屋に入り込む。

 そこに広がっていた光景は、あからさまに奇妙なもので、意気揚々と飛び込んだその足は、一瞬にして固まった。

 アリスの想像では男女が裸体で愛を育む姿だったのだが、目の前にある事実は違ったのだ。

 

(だ、れ……? ジャックなの……?)

 

 ジャックが、ベッドの上で寝そべっている赤ずきんの首を絞めていたのだ。

 嬉しそうに、幸福を口角で表しながら両手で赤ずきんのそれを絞るジャックの姿は芸術すら感じるほど狂気的で。

 アリスは、これは悪い夢だと勘違いした。きっとあの際、布団に入ってモヤモヤしていた時、偶然にも眠りに入れたのだろう。そしてこれは、己の傲慢で歪んだ感情が見せるある種の罰であると。

 自然と涙が流れた。悲しいとか、辛いとか、そういうものが一緒くたに襲ってきたからだ。

 悪夢なら早く覚めてほしい。こんな光景、たとえ夢であっても許せない。いっそ自分も首を絞めて苦しめば、覚めてくれるだろうか? 

 

「ぁ、あり……ぃ……す…………!」

 

 呆然とするアリスを現実に引き戻してくれたのは、赤ずきんの、引き絞られたような苦声。

 夢とはいえ、自分の名前を呼びながら顔を歪まされる友人を見て、何もしないはずがなかった。

 

「ジャック! やめて……!」

 

 どうして、ジャックがこんなことをしているのかは分からない。でも、彼が赤ずきんを殺そうとしているというのは事実だ。そこにどんな理由があろうが、複雑な過程があろうが、夢であろうが、今は間に割って入ってやればいい。この惨状を終わらせればあとはどうにでもなるし、この先なんて見たくない。

 衝撃の連続に足取りは不安定だった。ふらつきながらもベッドに登ってジャックの脇の下に腕を入れて拘束する。そのままグッと後ろに倒れ込むように力を入れると、意外にも簡単に首から手が離れた。

 

「きゃっ……!」

 

 割とあっさり離れたせいで、そのまま背中から倒れ込んでしまう。幸いにもベッド上だったので強く頭を打ち付けることはなかったが、ジャックの身体が覆い被さってくる。

 そこまで重さは感じなかった。血式少女ゆえに少年一人の体重など大した重みではないのだ。しかし、あまりにリアルな感触と彼の匂いはアリスに一抹の不安を抱かせる。 

 

 果たしてこれは本当に夢か? 

 

 念の為拘束を継続しつつ、ジャックの後頭部越しに赤ずきんの様子を伺う。

 大きく深呼吸をしてからすぐに起き上がり、顔を真っ赤にしながらこちらを見た。その表情は悲しさなんかを全く感じさせない。先程までジャックに首を絞められていたというのに。

 姿勢を直して胡座をかいた赤ずきんはむしろ恥ずかしそうに目を逸し、頬を指で掻きつつ口をパクパクしていた。まるでイタズラを見られ、言い訳を考えている幼女のようだ。

 アリスはそれを見て混乱しているのだろうと思ったが、どうも様子がおかしい。危機的な状況下にあった割には、随分余裕があるように見えた。確かに赤ずきんはどんな状況下でも笑顔を忘れない傑物だが、例えそんな人でも愛する仲間から攻撃を受けて冷静なままでいられるだろうか。

 

 暫く静寂が流れたが、沈黙を破ったのは赤ずきんだった。

 

「あ、あはは……見られちゃったね、ジャック……」

 

 そう、観念したように呟く。

 

「み、見られた……?」

 

 そんな言い方では、まるであの首絞めが劇の練習か何かみたいではないか。見られてまずいものだったら、もっと深刻な反応を見せるはずだ。

 殺されかけていた被害者が、相手気遣うようなセリフを使うだろうか? 

 どうにも、アリスの中では疑問が支配していた。

 

「その……あ、アリス……離してくれるかな。わ、わけを話したいんだ」

 

 今まで沈黙していたジャックが口を開いた。その声色は困惑に近いものがあり、少なくとも殺人未遂犯が第一声で出すようなものではないように思える。

 ジャックのことは信じたいし、この奇妙に対する話は聞いておくべきだ。それに赤ずきんもこの様子なら、何か深いわけがあると考えるのが自然。

 それでもまだ警戒しているアリスはジャックから目を離さないようにしつつも、おとなしく拘束を解いて引きずるように身体を移動させ、他にスペースもないのでベッドの縁に腰掛けた。

 

「……それで、一体どういうことなの? どうして、ジャックは赤ずきんさんの首を絞めていたの?」

 

 あんなに楽しそうに。

 そう問うと、こちらに振り向いたジャックは申し訳なさそうに話しを始める。

 それはアリスにとっては有り得ないという気持ちと、ある意味では安心を覚えさせるような内容だった。

 

 ジャックが首絞め性癖に目覚めたのは二ヶ月ほど前。ある日突然、世界が変わったようにアリス含めた血式少女達の首に対して異常な執着と歪んだ愛を感じるようになったというのだ。

 この衝動は血式少女にのみ発揮され、ハルや博士といった男性はもちろん、視子などの普通の女性のそれを見ても特に興味を惹かれない。強い衝動が起こった際も血式少女以外は目に入らないほどで、どういうことか、アリス達のそれにだけ異常な感情を覚えてしまうのだ。

 確かに、思い返して見ると心当たりがあった。ジャックがぼーっと、物思いにふけるように自分や他の血式少女のことを眺める姿を何度か目撃したことがある。時にはうっすらとした笑みを浮かべながら。

 長い戦いと冒険の中、共に死線を潜り抜けてきたうら若き少女達に対し、純朴(だった)ジャックだとしても『男として』思うことはあるだろうし、よもや他虐的な妄想に耽っていたとは当時思うはずもなかった。なので、その行動をあまり深くは考えなかった。

 更に思い返してみればふと首を触ってきたこともあった。ゴミがついていたとか、血がついていたとか、そんな理由をつけて。

 純粋な善意と思っていたけれど、その話を聞くとそれにも裏があったのか、と。実際は、本当にゴミが付着していたこともあっただろうが。

 

 そうしたある日、ジャックはこの欲望を我慢することができず赤ずきんを襲ってしまったのだという。

 すべてを打ち明けた結果、これ以上の悪化を危惧した赤ずきんはそれを受け入れ、こうやって隠れてジャックの欲望を受け止めてやることにしたらしい。

 例の噂についても本当のことで、最近は欲求がより頻繁に発生してしまい、週に何回も赤ずきんの部屋に通う状態が続いているとのことだ。

 夜通うのはジャックのこの欲求が夜間に発生しやすいためで、草木眠る夜中とはいえ流石に頻繁過ぎたため、誰かに見られたのだろう。

 

 ここまで聞いて、アリスは今この世界が夢の中ではないことを確信すると同時に、色々と引っかかっていものが取れたような気がして、僅かではあるが安堵感も覚えた。

 

「ごめんね、アリス。こんな変態で……幻滅したよね……」

 

 ジャックは申し訳なさそうに言った。今にも泣き出しそうな調子だった。

 今日はかなり欲求が高ぶっていて、部屋に入るやいなや赤ずきんを押し倒して行為に及んでしまい、鍵をかけるのを忘れたのがそもそもの悲劇の始まりだ。

 ジャック自身、見られてしまったことにだいぶショックを受けているのだろう。しかも、相手はアリス。今まで支え合って生きてきて、相思の中である彼女にこんな最悪な部分を見られたとあれば。

 罵倒されるならまだ良いほうで、絶交もやむなしだ。

 

 しかし、アリスは首を横に振った。

 

「いいえ」

「えっ……」

「ま、まさかアリスもそっち側の……?」

 

 ジャックが驚いた顔をするのと同時に、赤ずきんが謂れもない疑いをかけてくる。

 もしもアリスもそっちの人間だった場合、赤ずきんは二人から責められることになるので心配になるのは分かるが、別にアリス自身変の気はない。

 ジャックの話を聞いて、遠い世界のお話に感じたくらいには。

 

 でも。

 

「……正直、かなり驚いているわ。今もまだ全部飲み込めていないくらいには……。でも、ジャックがそんなに苦しんでいるなら、私もどうにかしてあげたい、とも思ったの。人間、一つや二つ秘密や変わったところくらいあるわ。あなたにとってのそれが、その……首を絞めたいというちょっと危険なことだっただけだと思うの、それに……」

 

 一歩違えば死もあり得るのだから、ちょっと危険という話ではない。しかし、あえてそう表現したのはジャックの心情への配慮だろう。

 アリスは一度そこで言葉を切る。次の言葉を迷っているというよりも、勢いをつけて言いたいという様子。

 意を決したのか、震えるジャックの手を取って口を開く。 

 

「ズルい……とも思ってしまったの」

「ず、ずるい……?」

「私とじゃなくて、赤ずきんさんとそんな秘密を共有しているのが……ズルいなって、う、羨ましいなって……!」

 

 その言葉を聞いて、赤ずきん的には察するものがあった。

 まぁ確かに、ジャックと自分だけしか知らない二人だけの世界を夜な夜な楽しんでいたのは事実だったからだ。

 血式少女皆から愛される彼を自分は独り占めできるという幸福感と優越感は、心のどこかでずっと覚えていた。

 自分にしか見せてくれない一面も、表情も、優しさも怖さも。自分だけが独占していた。少なくとも他の子に比べて、自分はずっと彼のことを理解してあげていた。だから、この関係を続けていた側面もあるのかもしれない。  

 

 アリスはそれをズルいと感じたようだ。最愛の彼のすべてを独占したいという気持ちは、赤ずきんよりも強いのだろう。

 そうなると、少し寂しい気持ちにはなるが、次にどんな展開が来るのか赤ずきんには容易に想像できた。

 

「だから、その……いっそのこと、私の首も締めてみない、かしら……?」

 

 秘密の共有。

 恥ずかしさをごまかすように笑いながら言った言葉は、ジャックからしてみれば悪魔の囁きですらあった。

 普通の人間なら、ここで去るなり通報するなりしていただろう。だが、この話を聞いたあとのアリスにそんな選択肢はない。

 ジャックを助けてあげたいし、何よりもっと距離を縮めるチャンスだ。それこそ自分に跨らせて首を絞めさせてやれば、もう解けないほど厚く硬い糸で結ばれるに違いない。

 

 アリスが選んだのは、狂気と狂愛に沼に堕ちてみることだった。

 ずっと一緒に生きてきたジャックがそんな深く濁った沼に沈もうとしているなら、自分もそれに付いていって、一緒に堕ちてやるべきだと思った。 

 例え窒息してしまいそうだったとしても、どんなに痛みを感じても、彼が良ければそれが自分の喜び。

 そういった結論に辿り着いてしまうアリスも、また類は友を呼ぶ狂人なのかもしれない。

 

「えっ、あっ──」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ジャックの瞳は最愛の女の子の首だけが映る鏡になった。

 ドクドクと心臓が脈動する度に、昏く粘着質な欲望がゆっくりと全身に広がっていく。ビリビリと神経が痺れるような、甘く熱い衝動が脊髄やら脳やらを侵食していった。

 アリスを傷つけてはいけないと本能レベルで刻まれているはずなのに、照れたような笑顔でそんな許可をもらったらもう抑えが効かない。

 

「あはは……ジャックってばスイッチ入っちゃったみたい。でもいいの? あたしが言うのもなんだけど、一度やったら戻れなくなっちゃうよ?」

 

 沸々と湧く黒い感情を抑えつつ、赤ずきんはそう言った。

 本心に従うならこの関係は二人きりのものにしたい。でも、今のアリスなら拒絶するだろうし、なにより彼女を輪の中に入れたほうがこの問題はずっと楽に解決する。

 なら、そうしたほうが懸命なはずだ。それに、一度バレてしまったということは、また別の誰かに知られる可能性が浮上したというのとでもある。その時アリス(一応視子もいるが)もいたほうが色々言い訳とかしやすいだろう。

 

「いいの。あなたが望むことは何でもしてあげたい……だからね、ジャック。どんなに暗く濁った欲望でもいい。私で、それを満たしてほしい……」

 

 赤ずきんに手を引かれ、隣同士ベットに横になりながら、優しい声音で言った。それはもはや愛の告白と同義に見えた。

 ベッドに敷かれた白いシーツが、まるでウエディングドレスみたいに彼女を包み込んで、綺麗だった。

 だからもう、ジャックは我慢できなかった。愛する彼女に馬乗りになって、一度指の先が折れそうなほど細い首に触れると、そこからは一気に進んだ。

 親指をその中心線辺りで交差させ、血脈を塞ぐように押し込み、手は周囲に囲むように首を包んで一気に圧迫する。

 

「あっ……ふ……くっ……!」

 

 ジャックは笑っていた。長年一緒に生きてきたアリスですら、見たことのないドス黒い笑み。でも、見れて良かった。

 彼は相当上手かった。気道がギリギリ塞がっていないので辛うじて息が出来、窒息の不快感はない。その一方で脳へと至る血管はしっかり締めているので徐々に脳が酸素不足に陥り、フワフワとした感覚に襲われる。

 初めての体験であったアリスには、色んな感情や感覚に苛まれていた。その中にはもちろん怖い、恐ろしい……死への意識。そんなものもある。 

 だけどそれらはすぐにジャックへの狂愛に塗りつぶされていき、どんな苦しみですら次々と彼への愛情へと書き換えられていった。

 

(なん……だろう…………くびを、しめられているのに……満たされている……?)

 

 未知の体験で、頭の整理が追いつかない。行為が始まって十秒を超えた頃には恐怖心も無くなり、ジャックへの甘く鋭い感覚で埋め尽くされていた。 

 これが他ならぬジャックから与えられているものだと思うと、赤ずきんの言う通り戻れそうになかった。

 

(悦んでくれている……ジャックが、わたしで……)

 

 ドス黒い笑顔だったが、それだけ彼も悦びを感じてくれているのだろうと考えると、嬉しさが止まらない。

 本来、愛なんて感じない。感じてはならないはずの首絞めという奇行を受けているのに。苦しいだけなのに、痛いだけなのに。

 どうして、こんな感情が湧いてくるのか、今のアリスでは上手く理解出来なかった。しかし、気が付くと、アリスは愛おしそうに彼の頭を撫でていた。

 

「はーい、ストップ」

 

 それから少し。

 恐怖を緩和するためにアリスの手をずっと握っていた赤ずきんが、ジャックの手の甲を叩く。

 これがストップの合図で、そうすると、徐々にジャックの手から力が抜けていく。

 

「……っ、ごめん、アリス……苦しかったよね」

 

 彼はいつも通りに戻って、また申し訳なそうに謝る。

 幸せやら初めての感覚やらで頭がいっぱいなアリスはそれにハッキリとした言葉で答えられなかったが、彼の頬を撫でてやることでそれに返答する。

 ジャックの両手は未だにアリスの首に軽く触れたままであり、その視線もまだその場所へと向かっている。興奮が収まらないようで、汗が頬を伝ってアリスの手を濡らす。

 表情は柔らかいのに、その目の色はケダモノそのもの。

 

 ケダモノ。ジャックはケダモノ。でも今はそれでいい。

 

「もっと……やる?」

「だ、大丈夫なの……?」

 

 ここで辞めようと言わない辺り、本当にジャックは染まってしまっているのだろう。アリスもアリスで辞める気はなかったが。

 

「危なそうだったらちゃんと合図送るし、もうやるところまでやっちゃいなよ。でも、アリスだけで満足しないで、あとでちゃんとあたしにもやってよね。さっき中断されて不完全燃焼なんだから」

 

 意外と“素質のある”表情で微笑んでいるアリスを見てヤキモチを焼いてしまったのか、釘を刺すように言った。

 あれ以降何度も繰り返された結果、赤ずきんは完全にマゾに目覚めてしまい、別に意味でジャックを求めるようになってしまっていた。

 目隠しや手錠をこっそり入手して、どこかのタイミングでプレイに投入しようと画策していたほどだ。

 ただし、快楽の対象はジャックだけで、戦闘中敵から攻撃を受けて悦んだりはしない。(狂)愛があるからこそなせるわけで、流石にそこまで墜ちてはいないのだ。

 

「赤ずきんさんもこう言ってるし……ね、ケダモノさん? 何も気にしなくていいの。私を好きに使って、たくさん、気持ちよくなって……!」 

 

 そんなことを言われてしまえば、ジャックは自らの意思で欲望を押さえ込むことはできなかった。

 再び、ジャックの手に力が込められる。

 

「…………っはぁ……じゃっ……く、す……きぃ……!」

 

 アリスは彼とより深く繋がれたことにこの上ない幸せを感じながら、乱れきった陶酔に耽けていく。

 もう戻れない。墜ちていく。堕ちていきたい。戻れなくていい。

 

 夜はまだ長かった。

 

 次の日、起きてこないのを心配した親指姫が、ベッドの上で仲良く並んで眠る三人を見てひと悶着あったのは、また別のお話。

 

 

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