我はチヲハウハネ……モフるな!ヒーローを目指す者……モフるな! 作:モフモフノハネ
パラドックス、と言う言葉をご存知だろうか?逆説と和訳されるこの言葉の意味は、ある前提や倫理から、納得しがたい結論が出ることだ。
人類8割が超常能力「個性」を持つ超人社会たる現代にも、そんなパラドックスが起こる事が度々ある。例えば……こんな例を紹介しよう。
両親が個性を持つある家庭があった。父親の個性は「蛾」蛾に出来ることなら何でも出来る個性だ。そして母親の個性は「ライター」指先から炎を出せる個性だ。
個性を持つ者同士の子供の個性は、片方の個性の因子が色濃く出るか、両親の個性を混じり合わせたものが出る事が稀にある。
先ほど紹介した二人の子供は、先程の前提に従うのなら蛾の能力を持った子供か、炎を扱う個性を持った子供か……あるいを炎を操る蛾なんていうファンタジーに登場するような個性を持つ場合もある。
しかし、二人から生まれてきた子供は、そのどれにも当てはまらない奇っ怪な姿をしていた。
身体は真っ白い毛で覆われており、尻尾は何故かトカゲの尻尾を持っている、蛾の様な羽が生えているが空は飛べない。
……まるで恐竜と蛾の合わせ子の様な姿を持つ異形の子供が生まれた。おおよそ人間から生まれたとは思えない存在だ。
しかし、その姿はよく見れば羽や顔つきに蛾の要素が見られ、炎を巻き上げる事のできる……2人の個性が順当に混じり合った結果なのだ。
このように一見結果が可笑しく見えても、良く見てみるときちんと理にかなった結果になる……これがパラドックスだ。
この物語の主人公は、そんなパラドックスの元に生まれた一人の異形の少年の話だ。
□◇□◇□
『ハイ、スタート。』
少年の実技入試は、そんな、間の抜けた始まりの合図から始まった。ここは雄英高校……個性を悪用するヴィランと呼ばれる犯罪者に立ち向かうヒーローを養成するための学校だ。偏差値は79、倍率は毎年300倍は行くとされている。
……今行われているのは、そんな雄英高校の入試実技試験だ。ルールは単純、ポイントに割り振られた仮想敵を撃破していき、制限時間内までにどれほどポイントを稼げるかの勝負だ。
そんな実技試験は、先程述べた通り試験官の一人プレゼント・マイクの間の抜けた声で始まった。
少年も、その声に困惑する側だ。スピーカーからはプレゼント・マイクが受験生たちを催促する声が流れている。
その言葉に活気ついたのか、受験生たちは一斉に走りだし、試験を開始した。
「さて、我もぼちぼち行きますか……」
……単弓類を思わせるようなフォルムをした蛾の様な少年は、その大きさとは思えないほど俊敏に動きはじめる……しかし、背中に生えたその立派な翼は使わずに、四足歩行になり地を這う様に進んでいく。
その姿を見て、他の受験生たちは吹き出しそうになったり二度見したりする……しかし、人よりも少し遅れてスタートしたのにも関わらず、普通に走る受験生たちに追いつかんばかりの勢いで駆け抜けていた。
やがて、少年の前にも標的たる仮想ヴィランが現れる。
「ヒョウテキハッケン!ブチコロシタル!」
「口悪っ!?」
少年は攻撃を仕掛けてくる仮想ヴィランの攻撃を受ける前に、その体に炎を纏い……突進するように仮想ヴィランへ突っ込む。
仮想ヴィランは、熱と突進の衝撃によって破壊され崩れ落ちていく。衝撃は羽根を伸ばして体を震わせる……
「ブチコロシテヤル!」
すると、少年の後ろからまた新たな仮想ヴィランが飛びかかってきた……次の瞬間、『
……少年の体重は92kg、そんな重さの物に飛びかかられては、試験用のロボットは異音を立てながら地面と少年に挟み込まれて潰されてしまう。
「……なんか心が痛いな。我、ダイエットしようかな。」
少年はそんな風に呟く。
だがむしろ、少年の異形と言える巨体を考慮すれば92kgはむしろ軽いくらいだ。……と、そんな物思いにふけっている場合ではない。
少年は、俊敏な動きでカサカサと地面を這うように移動しながら次々と迫りくる仮想ヴィランを撃破していった。
見た目は蛾と恐竜の合わせ子、動きはゴキブリのようで攻撃の際には炎を巻き上げる。もはや何が何だか良く分からない。
しかし、それが故に少年の存在はパラドックスと言えるのだ……少年は順調に仮想ヴィランを倒していく。
ある時は先程のように炎を纏って突進して素早さを上げる技ニトロチャージや、ある時はその短い手足で
「よし、ポイントは稼げてるはず……この調子でいけば……」
合格も夢ではない……そう言おうとした瞬間突然大きな地響きが鳴り響いた。少年や受験者たちはなんだかんだと辺りを見回す。
その地響きとともに合わられるのは、設置された市街地をもしたフィールドのビルよりも遥かに大きな仮想ヴィランだ。……そう言えば、試験説明でこのような説明もされていた。
お邪魔虫のギミックとして0ポイント仮想ヴィランが居ると……あれがそうなのだろう。たしかにお邪魔虫のギミックだが、限度があるだろう。
少年は上半身をくわっと持ち上げて0ポイントの仮想ヴィランを見上げる。……そうしたらなかなかの巨体で、頭頂まで2m以上はあるんじゃないかというほど大柄だ。
それを見た受験者達は、こちらにも0ポイント仮想ヴィランにも驚く……忙しいことだ。
「ここにもデカいのがいる!?」
「なんでデカいのしかいねぇんだよ!?」
逃げる受験者のやけっぱちな声が聞こえる。……逃げる、それは確かに正しいし合理的だ。0ポイントとされている仮想ヴィランに立ち向かっても、得られるものは何もない。
だったら、逃げて他の仮想ヴィランを倒すほうが建設的だ……間違いない。
(でも、そうじゃないだろう?)
もし、ヒーローになって誰かに助けを求められても、相手が大きいからって無様に逃げ出すのか?
(そんなの、我はゴメンだ。)
少年はプライドが高かった。故に逃げ出すのは癪に障る……無茶で無謀と嘲笑われようと、仮想でも、
少年は、自身の身体に力を込める……一回目の
やがて二回目のビルドアップ……三回目……四回目……仮想ヴィランはどんどんと近づいてきていた。だが、少年は力を溜め込むのをやめない。
五回目――六回目のビルドアップを終えれば、0ポイント仮想ヴィランは直ぐ目の前にきていた。
(今ッ……!!)
少年は、足腰を踏ん張って0ポイント仮想ヴィランに攻撃を仕掛けようとした。
そしてその次の瞬間……少年の目に映ったのは、遠くのほうで足を怪我して動けずに四苦八苦している服だけが浮かび上がった少女の姿だ……まるで、透明人間のようだ。と言うか、そのままズバリ透明人間。
「っ!?……畜生!」
少年はそう叫んで、全身に炎を纏わりつかせてニトロチャージを行い少女の方へ突進した。
「いてて……!?う、うわっ!?」
少女は突然炎と共に現れた少年の姿を見て、激しく驚いた。
まぁ、明らかに人間とは思えない姿をした、蛾と恐竜の合わせ子の様な人物が、炎を纏って自分の元へやってきたら、大なり小なり唖然とする声は出るだろう。
少年は、少女の体を持ち上げるとスタスタと先程よりも更に速いスピードで逃げ出した。少女はそんな風に駆け出す少年の体を振り落とされないようにしがみつく。
走りながら、少女は声を掛ける。
「あ、ありがとう……あのまま潰されちゃうかと思った……」
「気にするな。それに謝るのは我の方だ……もっと早くに気付けなくて申し訳ない。」
(我……?)
少年の変わった一人称にハテナを浮かべながらも、少女は見えない顔を振るって呟く。
「大丈夫だよ……と言うか、すごいもふもふだね!」
「どさくさ紛れにモフるな!変態!」
「わぁぁぁ!ごめん!」
少女は少年に声を荒げられ咄嗟に謝ってしまう。
ある程度離れると、0ポイントヴィランらは動きをゆっくりと止めて、スピーカーから声が響き渡る。
『試験終了!』
その合図と共に、受験者達は一息ついたり、その場にへたり込んだりする。
少年もまた、少女を下ろしてふぅと一息ついた。少女はその場に腰を下ろすと、少年を見上げて再度頭を下げる。
「本当にありがとう……!」
「どさくさにモフったのは兎も角、無事で良かったぞ。」
「そ、そんなにモフモフされたくないんだ……ごめんね?」
「……まぁ、故意じゃないなら良いさ。」
そう言って再度地面を這うような体制になる少年――彼の名は『
個性の変異、パラドックスが起きて生まれた異形型の少年だ。後に呼ばれるヒーロー名は……『チヲハウハネ』
パラドックスの古代の力をその手に宿して戦う英雄!になるかも知れない少年だ。