我はチヲハウハネ……モフるな!ヒーローを目指す者……モフるな! 作:モフモフノハネ
入学試験が終わってからしばらくの間……千翅は自分でも驚くほどにのんびりと、安定した日々を過ごしていた。
普通なら合否が気になってそれどころじゃないのだろうが……千翅は、兎に角落ち着いていた。
今更ジタバタしてもどうにもならないというのもあるが、何よりも自分はベストを尽くせた。自分がやりたいことはやれた。
後は結果がどう転ぶかだ……その日も千翅はリビングでテレビを見ていた。のんびりと、体を低くしてリラックスした体勢で見ていた。
(あーー……暇だな。)
しかし、この間ヒマであることは事実。合否が気にならないというわけでもないし……兎に角のんびりと時間を消費することにしていた。
千翅がゴロリと寝返りを打ったタイミングで、玄関からどてどてと音を立てて千翅の母親――蒲生火花が封筒を持ってリビングにダイナミックに入ってくる。
「千翅!千翅!来てたよ!雄英から!書類!」
その手には確かに雄英高校のロゴが刻印された封筒が持たれていた。千翅はそれを見てようやくかと寝転がった体勢から起き上がる。
千翅はのそのそと火花の元へ近寄る……千翅よりも母親である火花のほうが明らかに緊張して封筒を開けていた……手元が震えているのか、封筒はビリビリに破かれている。
「母さん……緊張しすぎ、我より緊張してるじゃん。」
「だ、だってぇ……」
火花は子どものように言葉を漏らす。思春期男児にはキツイ物がある。
四十歳越えがどんな声を出しているんだというのも勿論あるが、それ以上に火花の見た目は普通に中学生でも通じそうなくらいには幼い。
子供の頃は何度姉弟に間違えられたか……それも相まって、千翅は母さんが苦手だ。
そんな余談はさておいて……そんな風に破かれた封筒から出てきたのは、一つの投影機だ。かなり金がかかっている。
「こ、これ投影機かしら?」
「っぽいね……これは……」
千翅が短い手でトントンと投影機をつついてみると、投影機から映像が映し出される。
その映像に映っていたのは……世界が羨む日本のナンバーワンヒーロー、ナチュラルボーンヒーロー、平和の象徴……
『私がぁ!投影された!』
「オオオオールマイト!な、なんで!?」
「オールマイトの出身校は雄英だから……OBとしての出演じゃない?」
慌てふためく火花に、千翅はそう言う予測を立ててみるが、意外にもそれは数秒後に否定された。
『言っておくが、これはOBとしての特別出演とかじゃないぜ!私、これから雄英高校で教師として働くことになってね!その挨拶も込めているのさ!』
「へぇ…………ゑっマジぞ!?それ!?」
「えっ……嘘ぉ!?」
千翅も火花もこれには驚きが隠せない。さらにさらに驚きは続く。
『さて、千翅少年……!単刀直入に言うと、君の敵ポイントは……50点!かなりのポイント数だ!しかし、我々が見ていたのは敵ポイントだけにあらず!』
千翅と火花は首を横に倒して傾げる……するとオールマイトは自慢げに説明を始める。
『我々が見ていたもう一つのポイント!それは救助ポイント!どれだけ人を助けたかのポイントさ、命がけで綺麗事実践するお仕事だから尚更ね!』
救助ポイント……そういえば、助けたあの娘は無事に雄英高校の門をくぐれているのだろうか?千翅は思わずそんな事を考えてしまう。
『君の救助ポイントは……30P!私達は見ていたぜ!君がただ一人0ポイント敵に立ち向かおうとしていたのも、人が倒れていると知れば危険を顧みず真っ先にそこに駆けつけてたのも!』
「千翅ぇ!あんたは自慢の息子だよ!」
「やめろ母さん抱きつくな!モフるな!」
千翅は体を震わせて火花を振りほどく。しかし、その表情筋のない虫のような顔でも、本気で嫌がっていない……照れ隠しだというのがわかる。
すると、投影機の中のオールマイトは更に驚くべき言葉を口走った。
『よって合計80P!……なんとこれ実技入試1位だぜ!文句なしだ!』
「まじ……か……」
がむしゃらここまでやってきたが、それがようやく実を結んだ……千翅は、ここまでそのあまりの異形さに人から忌避や好奇の目を向けられていた。
子供に泣かれるなんてのはしょっちゅうだったし、同級生にいじめられるのも日常茶飯事……ある程度身体が大きくなってからは、もはや一種の化け物を見るような目で見られてきた。
それでもヒーローを目指そうと思えたのは、支えてくれた父さん母さんのおかげだ。どんな異形でも、変わらずに自慢の一人息子として育ててくれたおかげだ。
感謝してもし足りない……しかし、まだだ。まだスタートラインの蜃気楼が見えてきただけ、千翅のヒーローアカデミア、目標の達成への道はここからはじまるのだ。
千翅の目標……それは、自分のような個性のパラドックスを起こした異形を救うこと、どんな異形でもヒーローになれる証明。普通に暮らしても良いと言う証明。
それを証明する為に、千翅は今ヒーローへの道を目指している。
『千翅少年、来いよ!ここが君のヒーローアカデミアだ!』
オールマイトのその言葉に、胸の闘志が燃え上がるのを感じた。
□◇□◇□
「実技総合成績でました!」
時間は少し巻き戻って、雄英高校の会議室、プロヒーローであり、雄英の教師陣が試験の映像を見ていた。話題に上がるのは、上位勢と敵ポイントなしレスキューポイント60で合格ラインへと立った緑髪の少年についてだ。
「敵ポイント無しで合格とは……」
「途中までは典型的不合格者の動きだったのにな。」
「思わずYEAHって叫んじゃったぜ!」
「反対に救助ポイント無しで2位……」
「後半他の面々が鈍っていく中、1人だけ動きが変わらなかった。スタミナ管理がしっかりしている証しだな。」
と、それぞれの分析が進められる中……目立つのは、やはり異形の中の異形とも言える実技1位、蒲生千翅についてだ。
「しかし、実技1位の子……中々に特異な個性よね。」
一人の言葉に一同がうなずく。
「単なる異形型にも見えるが、炎を操る事も出来ると。」
「個性名は……古代活性?なんだそりゃ。」
千翅の個性……調べれば調べるほど謎が深まっていく。個性名からは能力は想像がつかない。
個性の説明の欄には『異形の見た目と炎を操る能力。追記、電気もある程度発生させられる。追記、毒の類も散布できる。追記.羽ばたいて風も起こせる。追記、なんか光線もでた。』と、追記だらけで要領も得ない。
「つうかあんな立派な羽があるのに飛べねぇのか!」
「父親の個性は蛾、母親の個性はライターか。」
「見た目蛾なのか恐竜なのかわかんねぇぞ!」
「本人は格闘道場に通っていたことがあるらしい。」
「カオス!」
カオス……確かに、千翅の個性を表すうえでこれ以上のものはない。しかし、何でもできるがそれぞれが大きく伸びるわけでもなく……所謂器用貧乏なステータスに近いようだ。それでも、あのできることの幅の多さは異常だ。
「個性の特異点、いや……パラドックスか。」
誰かが静かにそうつぶやく。そう……千翅の存在はパラドックスだ。間違っているように見えて、逆説的に正しい存在。それが、千翅だ。しかし、強い個性だからと言って良いことばかりではない。
「しかし、災難だな……あの異形の所為で普通の学校生活は出来ないらしい。異形専門の特別学級で長年過ごしてきたそうだ。」
異形型個性に対する差別はいまだ根強い……いくら同じ人間でも、その姿が一つ違うだけで人は大きく区別したがるのだ。
「今まで普通に扱われなかったのなら、これから普通に、同じ様に大切に扱っていけばいいのさ!彼も大切な未来を担う子どもたちだからね!」
そんな校長の一言に、教師陣一同は深くうなずいたと言う。