我はチヲハウハネ……モフるな!ヒーローを目指す者……モフるな! 作:モフモフノハネ
雄英高校入学式当日。
千翅は、自身のクラスである1-Aの教室で固まっていた。そのあまりに巨大な扉に付いてだ……異形型の個性の人間向けのバリアフリーな構造だ。
因みに、千翅は体の構造状制服が、どう頑張っても着れないので、校章のあしらわれたスカーフを首に巻いている。カバンは普通に首にかけている。
千翅はこんな構造の建物が初めてで、ここで普通に他の人間と一緒に授業が受けられるのだと思うと嬉しくなってくる。
同時に、これまでは異形型の個性の子向けの宅別教室で授業を受けていたのもあって、ちゃんと馴染めるのか不安になってくる。
しかし、不安がってるだけじゃ何も始まらない。千翅は勇気を出して扉を開いた。
扉を開くと、わかってはいたが真っ先に自分に視線が飛び込んでくる。……わかっていた。目線がこちらへ向くのはわかっていた。しかし、いざ来ると結構クる物がある。
席は……どうやら一番後ろのようだ。名前順であるのを完全に無視しているが……これはしょうがない。この大きさだと下手に前にいると邪魔くさくてしょうがない。
他人に迷惑をかけるのはゴメンだ。
千翅が鞄を下ろして色々と準備をしていると、そんな千翅に声をかけてくる少女がいた……透明な身体に制服が浮いている。
その特徴的な姿から、以前入試で助けたあの少女であることは想像に難くなかった。
「えっと……!おはよう!君も受かったんだね!」
「あぁ!入試の!……ええっと、名前……」
「葉隠透だよ!よろしくね!」
そう言って少女……葉隠は(見えないが)笑顔を向ける。千翅も自己紹介をする。
「我は蒲生千翅だ、よろしく。」
そう言って千翅は手を出すと、葉隠は握手で答えてくれる。千翅は嬉しそうに羽を擦り合わせた。こうやってクラスメイトと仲良くすることすら、千翅はこれまでの人生叶わなかったからだ。
「お友達ごっこがしたいなら余所行きな。ここは……ヒーロー科だぞ?」
千翅が葉隠と話していると、扉付近でそんなふうに声のあげる芋虫的な人がいた……いや違う。寝袋だ、寝袋に入ったまま動いているのだ。
少し騒がしくなるとまた静寂が部屋全体を包む。すると、その寝袋の男はのそりと寝袋から出ると言葉を紡ぐ。
「はい、君達が静かになるまで8秒掛かりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。……君達の担任になる相澤消太だ。よろしくね……早速で悪いが、体操着着てグラウンドへ出ろ。」
担任と名乗る相澤消太と言う男は、それだけいうとスタスタとその場から去っていく……質問を投げかけようとしても、「却下」の一言で切り捨てられる。
「な、何か強烈な人だね……」
「確かに。でも我ああいうタイプ嫌いじゃない。」
千翅にとって相澤と言う男は、良くも悪くも全てを平等に見てくれるような人間の気配がした。どうやら、ヒーロー科の先生としては、好ましい人材が先生になったようだ。
「さてと、我は体操着着れないし行きますか。」
「……その身体つきだと、服自体きれなさそうだよね……」
「無さそうじゃなくて着れないんだよ……この巨体の上に羽まであるから、ね?」
そう言って千翅は目を細めるのだった。
□◇□◇□
「「「個性把握テストォ!?」」」
グラウンドに着くやいなや、担任の相澤消太から言われたのはそんな言葉だった。
「入学式は!?ガイダンスは!?」」
「本気でヒーローになりたいのなら、そんな行事出る暇ないよ。」
相澤はバッサリとそう言って切り捨てた……簡単に言えば、これから行われるのは個性を使用して行われる体力テストだ。
種目もソフトボール投げ・立ち幅跳び・50m走・持久走・握力・反復横跳び・上体起こし・長座体前屈と普通の体力テストと変わらない。そこに個性アリの条件が付け加えられるだけだ。
ともあれ兎に角手本を見せなければ、相澤は辺りを見回すと、白羽の矢が立ったのは千翅だ。
「千翅、個性アリで良い。ソフトボール投げやってみろ。」
「……わかりました。」
千翅は相澤からボールを受けとると、ノソノソとした擬音がつきそうながらも、けして遅くはない動きでソフトボール投げの円の中へと入る。
千翅が円の中へ立つと様々な反応が見られる……だが、少なくとも千翅を恐れたり蔑んだりするような視線は一つもなかった。
「異形型の個性かな?」
「モフモフやね……!」
「羽に尻尾が付いてる!」
「蛾なのか恐竜なのか……」
さすがにヒーロー科、異形と言うだけで蔑むようなバカヤロウはいないらしい。流石にその辺は志が高い人間が多い……こんな環境にいられる自分はきっと幸せ者だ。そう千翅は感じた。
しかし、個性使用可と言われてもいきなりどうしたらいいのか悩む。
「個性使用可……」
「より具体的に言えば、円からでなけりゃ何やってもよい。」
「なるほど。」
相澤の言葉に納得した千翅は、その小さい手でボールを持って……力いっぱい、
次の瞬間、千翅は羽を思いっきり羽撃かせて、
「うおっ!?風やべぇ!?」
「風と言うよりもぼうふうだな!」
やがて、相澤の持っていた端末に、結果が表示される……988.8m。それが千翅のボール投げの記録だ。
「自分を最大限知る。それがヒーローへの第一歩だ。」
「900m超えってハンパねぇな!?」
「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!」
「何これ!すっごい面白そう!」
重荷が外れたのか、一斉に騒ぎ出す面々。しかし、その言葉を聞くやいなや、相澤は不敵な笑みを浮かべる。そして、静かに、凍てつくような視線を向けてつぶやいた。
「面白そう、ね。卒業までの3年間そんな腹づもりで過ごすつもりなのかい?………そうだな、よし。トータル成績最下位の者は見込みなしとみなして除籍処分にしよう。」
相澤は、さも当然かのようにそう言い放つ。すると、生徒たちはまた唖然とした声が上がる。千翅は話を横耳に聞きながら……これがヒーロー科かと、益々胸の闘志が燃えてくるのがわかった。
「生徒の如何は先生の自由。……これが雄英高校ヒーロー科だ。」
そう言って、相澤はまた不敵な笑みを浮かべるのだった。
第1種目は50m走
千翅はスタートラインに立ち、合図を打たれると早速炎を身にまといニトロチャージをして素早さを上げながら突進する……
『4秒68!』
「炎まで扱えるのかよ!?」
「これが古代活性です。」
「古代活性って何!?」
ニトロチャージが真価を発揮するのは、持久走のようにもっと長い距離を走る場合だ。50m走ならこんなものだろう。
続いて第二種目は、握力。
こちらは普通にビルドアップを六回行い持ち前の
「壊れちまった……すいません!我の握力計壊れたんですけど!」
「測定不能って書いとけ。」
「はいー。」
当然のように流されたが……500kgを普通に測定できる握力計がぶっ壊れるとは現実的ではない。その異常な光景に皆は驚く。
「いや握力計ぶっ壊すとかどれだけだよ!?」
「これがビルドアップです。」
「ビルドアップなんだと思ってんの!?」
第三種目は立ち幅跳び……これは普通に千翅は前に向けて
「デカいのに意外と俊敏!?」
「すげぇなアイツ!?」
「これが我の古代活性。」
「さっきからなんなんだよその古代活性って!?」
古代活性の意味を聞くやつに古代活性は理解できない!それが、千翅の持論である。
第四種目は反復運動。
ニトロチャージで制限いっぱい加速しまくれば、巨体に見合わずいい成績が残せる。ここまで来ると、さすがに周りも引いてくる。
「なんか人魂みたいになってるし……」
「これが古代活性……!」
「もう良いよ古代活性は!」
第5種目のボール投げ……は、千翅は見学である。先程投げたから当然だ。すると、先程までの派手な記録と見た目のおかげか、何人か人が集まってくる。
「あぁ!さっきから観てたけどすげぇ記録の連発だな!……あっ!俺は切島鋭児郎、よろしくな!」
「私芦戸三奈!よろしく!」
「我は蒲生千翅だ、よろしくね。」
……そう言って千翅がお辞儀した瞬間、二人は思わず千翅のモフモフな体をつかむ。次の瞬間、千翅はビクリと体をはねて少し後ろに下がる。
「な、何もモフってんだ変態!」
「あぁワリィ!その……余りに気持ちよさそうで……」
「私も……ごめん……!」
「全く!気をつけてくれよ、あんまりモフんな!」
「そ、そんなに嫌だったのか!?すまねぇ!」
そう言って赤髪の少年、切島は深々と頭を下げる。千翅はそこまでするほどじゃないと慌てて顔を上げさせる。
「いや……いきなり身体揉まれたら誰だって嫌だろ?同じことだよ。」
「な、なるほど……!確かに……ごめん、気をつける!」
「あぁ、本当に悪かったな!」
「いや、そこまで深々としなくてもいいけど……」
千翅がそんな言葉を呟きながら目を細めている……緑髪の少年が指を腫らしながらもボールを投げて700m以上の記録を出した。
先まで全く振るわなかったのに……いきなりとんでもないパワーだ。何故か金髪の荒々しい男の子が荒れていたが、先生に抑えられて、ボール投げは順当に終了した。
そのまま個性把握テストは順々に進んで行き……最後の結果発表……千翅は2位。1位の座に君臨できなかったのは悔しいが……まぁ、致し方あるまい。これからの3年で巻き返していけばよい。
「因みに除籍は嘘な。」
その言葉に、クラス一同は騒然となったという……千翅も、せっかくのクラスメイトが誰も減る羽目にならなくて、一安心したとさ。