我はチヲハウハネ……モフるな!ヒーローを目指す者……モフるな! 作:モフモフノハネ
個性把握テストの次の日……その日から授業はつつがなく進行していった。午前にはプレゼントマイクの英語の授業を受けたり、ランチラッシュの料理に舌鼓を打つ。
そして午後の時間……ヒーロー基礎学。大本命の授業だ。
「わぁたぁしぃがぁ!普通にドアから来たァ!」
ヒーロー基礎学の教師は、ナチュラルボーンヒーロー、平和の象徴オールマイト!これに胸が躍らないヒーロー候補生はいない。
「すげぇ!オールマイトだ!」
「銀時代のコスチューム!」
オールマイトは滾る皆々へ目を向けながら、BATTLEと表示されたタブレットを向けて生徒たちへと声を掛ける。
「今日から行くぞ!ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を学ぶための科目だ!単位数も最も多いぞ!」
そう言ってオールマイトはじゃんじゃんと説明を続ける。そして、事の本題……今日の授業内容について触れ始める。
「早速だが今日はこれ!戦闘訓練!」
「戦闘訓練!」
その言葉にクラスはより一層たぎり始める。好戦的な者たちは、その目を既に狩人のような瞳へと変えていた。
オールマイトはコスチュームについての説明をするとグラウンド・βへと集まるように指示をする。だが、コスチュームは千翅には無用の長物。
千翅はコスチュームにウキウキする者たちを少し羨ましがりながら、迅速にグラウンドβへと向かうのだった。
(皆ウキウキして……我少しさみしい。)
□◇□◇□
グラウンドβに千翅が向かうと、そこには既にオールマイトが居た。千翅はどうすれば良いのか分からずに、とりあえず一つ頭を下げる。
「むっ!蒲生少年か……そうか、君はコスチュームは必要ないんだったね!」
「この姿そのものがある意味コスチュームみたいなものですから……」
そう言って千翅は目を細めて笑いかける。虫のような顔でも、その明らかに和らいだ表情を見ると、オールマイトも、笑顔を返してくれる。
すると、少し遅れて葉隠がやってくる……その姿は手袋とブーツがついているだけ。葉隠の個性派透明人間だと理解しているがそれはつまり……
「葉隠さんもコスチューム要らない感じ?」
「うん、私を生かすならこれが一番かなって!」」
かといって全裸はどうなのだろう?それは常人の発想……同じくほぼ日常的に全裸、というか全裸の感覚すらない異形の千翅にとっては……
「へぇ、そういうのもアリなんだ。」
「へへへ!」
そういうのもアリなんだ止まりだ。別に他人に迷惑をかけているわけでもないし、無理して止めるのも何かおかしいだろう。
しかし、全裸……千翅は毛のおかげで気温の変化には強いが、葉隠はそうはいかない。せめて何かしらの防寒具はつけるべきだろう。
今度、
やがて、生徒たちも集まってくると、オールマイトは早速授業内容についての説明を始める……カンペを読みながら。
ヴィランの出現率は屋外より屋内のほうが多い。真に賢しいヴィランは闇に潜む……とのこと。
ルールは、ヒーローとヴィランに別れて、2対2の屋内戦闘訓練を行う。シチュエーションとしては、ヴィランはアジトに核爆弾を隠している。
ヒーローは時間内にヴィランを捕まえるか、核爆弾を捕獲すれば勝利。
逆にヴィランはヒーローを捕まえるか、制限時間内まで核爆弾を守り抜けば勝利だ。
チーム組はくじ引き……5分間の作戦タイムが与えられる。
と、言うわけで早速皆々くじを引いていくわけだが、千翅のペアは……
「あ、蒲生くんだ!よろしく!」
「葉隠さんか、よろしく。我がんばるぞ。」
千翅はどんな縁があるのか、葉隠と同じIチームとしてペアになった。千翅としては、どんな人間とでも仲良くするつもりだったが……一番やりやすい相手が来てくれた。
たとえばあの金髪の荒々しい子……爆豪といったか。あの子と一緒になったら会話ができる気がしないのだ。コミュニケーションすら難しいと思う。悪い人ではない……と願っているが。
「さぁ!一試合目はAチームがヒーロー、Dチームがヴィランだ!それ以外の皆んなはモニタールームへ!GO!」
そんな風に思っていれば、早速その爆豪の試合だ……一体どうなるのか、千翅は内心ドキドキしながら事の顛末を見守るのだった。
始まった第1試合は、結果は酷い有様だ。
勝ったAチームのほうがボロボロで負けたDチームのほうが無傷……因みに建物もボロボロ、爆豪が派手に爆破したからだ。
状況は、Aチームの一人、緑谷がDチームの爆豪を相手取り、その間に仲間の麗日を核爆弾の方へと向かわせる。
緑谷は捨て身で麗日を援護して、その勢いに乗り麗日は核爆弾をゲットした……因みに、緑谷は保健室送りだ。個性把握テストのときもあの緑谷と言う少年は個性の制御が出来ずに指を腫らしていた。
(あの子いつも保健室に行ってるよな……我心配になるぞ。)
ヒーローの仕事はまず自分が死なないこと。でなきゃ誰も助けられない。早く緑谷も自傷しないでいてくれることを、切に願うのだった。千翅はこれで結構仲間思いなのだ。
そして二回戦目……ヒーローはBチーム、 ヴィランはIチーム……千翅の番が早くも回ってきたのだ。相手は、巨漢の障子と推薦組の轟……相手にとって不足はない。
千翅と葉隠は早速核爆弾を保護しているビルへと訪れると、作戦会議を始める。
「よっしゃ!私も本気出すよ!」
その言葉の後、葉隠は唯一身につけていたブーツと手袋も取っ払って完全に透明になる。これが、葉隠の戦闘携帯(形態)なのだろう。
千翅を体を起こして戦闘準備を整えていた。そして、葉隠に声を掛ける。
「……葉隠、我は作戦を立てた。」
「おぉ!早速だね……」
「作戦成功の鍵は葉隠さんだ……」
そして、千翅は作戦の説明を始める。葉隠はその作戦を受け入れると、力強く胸を叩いた。
「なるほどね……いいね!まっかせてよ!」
「そう言ってもらえると有り難い!……さて、そろそろ始まる。」
そう言って、千翅は扉の方へと地を這いながら振り返る……心の中では、とある一つの思いが浮かんでいた。
(……
□◇□◇□
やがて始まる戦闘訓練。
障子と轟はビルの中へと入ると、障子は耳を複製して索敵を開始する……だが、いくら耳を澄ませども一切合切足音が聞こえない。
「動きはないな……警戒されているようだ。」
「関係ねぇよ……悪いが、外に出てってくれ……すぐに、終わる。」
障子はその言葉に多少の違和感を覚えながらも、素直に外に出る……すると次の瞬間、ビル全体が一瞬で凍結された。
その光景は夢物語のようだが、現実だ。現実に起こっていることだ。
その光景を見た者たちは皆絶句する……入試1位と推薦組……どれほど格の違いがあるのか、それをわからされた気分だ。
轟は悠々とビルの中に入っていく……無論警戒を怠っているわけではないが、多少なれども弱体化はしているだろう……そんな自信が見て取れた。
千翅が炎を出せるのは知っているが、近くには葉隠が居るはず。ならば迂闊に炎を巻き上げて仲間を傷つけることはできない……ある程度の弱体化はしているはずだと、轟は考えていた。
しかし、通常の理論では通じないからこそのパラドックス……逆説なのだ。
轟と障子がビルの中を進んでいると、不意に大きな音と衝撃が鳴る。
……その音はちょうど二人の後ろから響いた。咄嗟に二人が振り返ると……そこには
「なっ!?蒲生!?どうやって……」
どこからやってきたのか?その答えは廊下の天井を見ればわかる……そこには、ちょうど千翅が通れるほどの穴が空いていた……無理やりぶち抜いたのだ。
「知ってるか、鍛えられた肉体の一撃は氷を砕くんだよ。」
「っ!」
轟は咄嗟に足から氷を放って、千翅を氷結させようとする……しかし、それよりも早くに千翅は動いた……
轟の懐へと潜り込み、一撃を食らわせようと振りかぶる……轟は咄嗟に地面を蹴って後ろへと下がってしまう。
障子は轟を援護する体制に移るが……次の瞬間、捕獲用のテープが宙に浮いているのを見た。
障子は咄嗟にその事を伝えようとするが……それよりも早く。体が何かにのしかかられる感覚に襲われた、それと同時に、声が聞こえる。
「確保ぉ!!」
「ぐぁっ!?は、葉隠!」
障子は、飛び掛かられた葉隠に呆気なくテープに巻かれてリタイア……障子は事の顛末を理解する。
千翅は、であいがしらで大きく振りかぶった瞬間に、葉隠を後方の障子の方へ飛ばしたのだ。それまではテープは千翅の毛の中に隠して、葉隠は千翅の背中にしがみついていたのだろう。
随分と荒々しいやり方だ。
……そして、轟の懐へと潜り込んだ千翅は全身に力を込める。そして、己の防御をかなぐり捨てた渾身の連撃を叩き込む……即ち
「SHAAAAAAAA!!!」
千翅は人間のものとは思えない鳴き声を上げながら、その体を使って連撃を食らわせる。
「ちぃ……!」
轟は流石にこれを食らってはまずいと、咄嗟に地面についた半身で氷を柱のようにして千翅へと向かわせる。
だが、千翅はインファイトで生成された氷を砕きながら前に進む……防御を完全にかなぐり捨てた攻撃的なスタイルだ。その短く可愛らしい手足とは裏腹に出される一撃一撃の威力はとてつもない。
(こいつ……!)
轟は内心目の前の異形の力に驚きを見せていた……しかに、パニックになる訳ではなく、冷静に次にすべき行動を見極める。
(なら……近づかせて!)
どんどんと接近してくる千翅、轟は敢えて懐に誘い込む……轟は咄嗟に氷を氷壁にして繰り出した。繰り出された一瞬の氷壁は、千翅の体を包みこんで凍結させる。
だが、次の瞬間氷はだんだんと溶け始める……千翅の体に炎が纏わりつく……ニトロチャージで氷を溶かしているのだ。燃え上がる炎を纏うその姿に一瞬轟の脳裏には……恨むべき父親の面影がちらついた。
(っ!?……くそっ!)
轟は内心口悪く吐き捨てる。だが、次の瞬間、千翅は氷壁から抜け出して猛スピードで轟に
「が……はっ……!」
腹に良い一撃をもらった轟は、口から苦悶の声を上げながらも、なんとか踏ん張り反撃しようとする……轟にも意地があるのだ。
だが、次の瞬間後ろから何かが巻きつけられる感覚が轟の身を包んだ……そこには、テープが轟の身体に巻かれていた。
「こっちも確保!!」
「よし!」
轟はあっけらかんとしていた……こんなあっさり終わったのかと、ただ只管に唖然とした。
『勝者!ヴィランチィィィィィム!!!』
千翅に取っての勝利宣言、轟にとっての敗北宣言がビル一帯に大きくこだまするのだった。