マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

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武ちゃん何周目? 93式不知火開発裏話し⑦

《1993年1月4日月曜日大安》

 

《夜、白銀家宅》

 

「え?斯衛軍専用【不知火】カスタム機を作る?」

 

「そうだ武。だがこれはあくまでも父さん達が勝手にやる事であって、武が関わる必要はない」

 

 帝都・京都から横浜の自宅に帰り、夕飯を食べた後、居間で武は父親から話しを切り出された。

 

 日本帝国は一部の物価は上昇傾向に有るが、東南アジア、オセアニア、北米、南米、アフリカ大陸南部が無傷な為、比較的物価は安定し、物不足は起きていなかった。

 

 日本帝国政府は年始の挨拶で、日本国内である程度自給が可能な水素エネルギーへの切り替えを積極的に進め、脱石油を目指す事を明らかにし、水素エネルギーを開発・実用化した武に感謝の念を日本全国に公表した。

 

 またBETAの本格的な東進が始まった事も公にし、西日本の帝国国民5000万人の避難計画の立案と準備を急ぐと共に、年内中に徴兵年齢の大幅な引き下げと、国家総動員法の成立を急ぐ事も年始の挨拶で公にした。

 

「だけど【不知火】のハードはもう完成していて、あれ以上は弄り様が無くて、斯衛軍仕様の近接戦闘特化機にしたらピーキーな機体になり過ぎて、それこそパイロットを選ぶ戦術機になってしまうよ」

 

「そう、それが狙いだよ武。元々からして【武御雷】は高い衛士適性が必要な機体だ。ピーキーと化した【不知火】を操縦出来る者が何人いるだろな」

 

 白銀影行は肩を竦める。

 

「でも【不知火】の強化案に反するよ・・・」

 

 【不知火】は開発を急ぐ余り、設計を切り詰めたゆえに発展性を犠牲にした犠牲にした戦術機だ。それを武が開発した新技術を用いて、拡張性から発展性を切り離して、発展性を持たせる事を可能とした機体だ。

 

 【武御雷】も似たり寄ったりで、【不知火】をベースにした機体なのに、機体を構成するパーツの大半が規格の異なるパーツにしてある。その上、近接戦闘に特化した機体にする為に、パーツ数も3割近くも多い機体。当然の事ながら【不知火】の上位交換機にも関わらず、【不知火】との互換率が低く拡張性並びに発展性を最初から捨てていた機体だった。

 

 武は今開発中の3Dプリンターで部品を量産しやすい様に95型から【不知火】のパーツ数を減らしつつ、部品の耐久性を高めながら【撃震】や【陽炎】との互換率を7割に増やす方針を固め、帝国陸軍技術廠や光菱重工横浜小机研究所の協力で動いていた。

 

 【77式撃震】の後継機として開発中の第3世代機【吹雪】に至っては、【93式不知火】との部品互換率は9割に持って行く予定でいる。

 

 帝国陸軍の兵站部門の期待も高く、帝国陸軍も全面的後押しを約束していた。

 

 本来なら斯衛軍専用【不知火】を開発している余裕は武達にはなかったはず。

 

「でもそんな機体を開発している余裕はあるの?父さんの所も、巌谷少佐の所も、富士教導団にも、そんな余裕はなかったはず、この後も電磁系や高周波系兵器の開発スケジュールもカツカツのはず」

 

 それだけではなく、リニアシート、全天周囲モニター、新型半導体、対Gキャンセラー、PHASE3の準第4世代機高機動型の開発、戦術機の長距離飛行移動を目的にしたフライトユニット開発等計画は目白押しだ。

 

 最終的には並の衛士が操縦しても第3世代機の性能を最大限に引き出せる様にし、衛士の合格基準の引き下げるのが目標。

 

 武家保守派や斯衛軍の計画とは真逆の要望を一々聞いていたら、第4世代機の開発へと繋げる【不知火強化案】の完遂は遠のく。

 

(それに帝国陸軍技術廠や富士教導団に迷惑を掛ける)

 

 最初は疑心暗鬼の目で見られていたが、今では武が新技術を開発し光菱重工横浜小机研究所で試作した物を、帝国陸軍技術廠や富士教導団は笑顔で受け入れ、帝国陸軍技術廠や富士教導団では正月休み返上で不平不満を言わずに、試作運用を繰り返し繰り返し実行している。

 

 武はその事で常々申し訳ないと思っている。

 

 必要な事とは分かっていても、果たして半ばインチキ紛いな事をしている自分が、大人達を扱き使って良いのかと。

 

「なあに、篁少佐と斯衛軍技術開発部が引き受けてくれるだろう。【武御雷】開発計画が頓挫した今、彼らは手ぶらで暇だからな」

 

「あっ・・・」

 

 武は盲点をつかれた。【武御雷】開発計画が頓挫した今、斯衛軍技術開発部は手ぶらで暇だった。

 

「だから武は斯衛軍と関わらなくていい。上とは私が交渉するからな。まぁ篁少佐なら、それとなくバランスの良い機体を開発するだろう。何しろ、常に辛口評価で知られているフランク・ハイネマン教授が認めた才能の持ち主だ。何だかんだでも上手くやってのけるさ」

 

「そうだね、篁少佐なら大丈夫だろうね・・・」

 

 武は別の世界線での【94式不知火】と同じ第3世代機で、【77式撃震】の後継機の開発が難航したのは、自分の父親と篁少佐の死が直接的に及ぼしていたのではと思った。

 

 父親の優れたデスクマネジメントと人脈の広さ、篁少佐の卓越した開発力の両方の喪失が、戦術機開発に悪影響を与えたのではと。

 

 戦術機開発ではフランク・ハイネマン教授のクリエイティブが有名だが、その才能を活かす為に、百名ものスタッフとそれを裏で纏めるデスクマネージャーがいるからこそ、フランク・ハイネマン教授の才能が活きると言ってよい。

 

 自らの才能とクリエイターとして自信からか、どうしても他人には辛口評価になってしまう。それだけでは百人の凡人集団は付いて来ない。どうしたって専門知識を持ち幅広い人脈を持つデスクマネージャーが必要なのだ。

 

 自分が今やっている事も、父親の理解と懐と人脈の広さをあればこそなのを、武は良く理解していた。

 

 ある年の忘年会で巌谷栄二は悪酔いしたのか、ぐだを巻いて篁唯依を困らせた事が遭った。

 

『唯依ちゃん。この国に本当に必要だったのは、祐唯と影行の2人だったのさ』

 

『中佐・・・・』

 

『あの2人が生きていたからこそ、短期間で相次いで戦術機の開発が出来たのさ・・・』

 

 日本帝国の戦術機開発速度は、後開発国なのを差し引いても異例の速度だった。

 

 【77式撃震】から始まり、【89式陽炎】を経て僅か数年で第3世代機【93式不知火】と【97式吹雪】に【00式武御雷】と、第3世代機の開発に入った途端に戦術機開発速度はかのアメリカを凌ぐ勢いに。

 

 だがBETAの帝国本土侵攻で、白銀影行が死に、翌年の明星作戦で篁少佐が戦死した後、日本帝国の戦術機開発は停滞期を向かえてしまう。

 

 BETAの帝国本土侵攻の被害も然る事ながら、日本帝国の戦術機開発の要の2人が相次いで亡くなったのも大きな痛手にもなった。

 

『中佐、酔っていますね・・・』

 

『戦術機開発の三羽烏等と言われていたが、俺は単に祐唯と影行の2人が開発した戦術機を乗り回していれば良かっただけなのさ』

 

『・・・・・・』  

 

 一向にぐだを止めない巌谷栄二に篁唯依は何かを言うのは諦めた。同席している帝国陸軍技術廠の古株達も、巌谷栄二と同じ心境なのか、しんみりとしている。

 

『この国が相次いで戦術機開発に成功したのは、祐唯の開発力と影行幅の広い人脈と調整力があればこそなのさ。残った俺1人ではどうする事も出来ない』

 

 時が経つにすれて2人の不在の大きさを痛感していた。

 

 巌谷栄二は酔った勢いのまま、熱燗を何杯も煽り、そのまま酔い潰れてしまった。

 

『叔父様は寂しいんですね。1人取り残されてしまって』

 

 篁唯依は巌谷栄二の心境を理解出来た。時間が経つに連れて今亡き級友達の不在の大きさを彼女も実感していたからだ。 

 

 級友達が生きてくれれば、自分の負担は大きく減ったはずだろうと。

 

 

 

ーーーーー《閑話休題》ーーーーー

 

 

 

「父さん」

 

「ん、なんだ武?」

 

「そう簡単に死なないでよね・・・」

 

「大丈夫だ、父さんはそう簡単に死んだりしないさ」   

 

 そう言うと白銀影行は1人息子の頭を撫でた。

 

 武は自室のベットの上で【XFJ計画】を思う。

 

「XFJ計画は米ソの謀略戦が原因で、計画の9割近くを消化しながら中止に追い込まれたんだっけ・・・」

 

 【94式不知火】改修と【77式撃震】の後継機の開発に行き詰まった日本帝国陸軍は、巌谷中佐の提案で、国連太平洋方面第3軍が中心となって進めていた戦術機開発計画『プロミネンス計画》に便乗する形で、アメリカ企業ボーニング社の技術協力の元、【94式不知火】の改修機を開発。それを基盤にして戦術機開発の技術的問題を解決し、旧式化しつつあった【77式撃震】の後継機開発を促進しようとする計画。

 

 改修機の開発はキリスト教恭順派のテロ等の紆余曲折がありながらも、計画それ事態は順調だったが、それを喜ばないアメリカ国防省情報部DIAと、ソビエト赤軍所属中央軍開発局の陰謀と妨害で、【XFJ計画】それ事態が無かった事にされてしまう。

 

 無かった事にされてしまった以上は、【XFJ計画】の中心人物巌谷栄二中佐の責任問題には発展しなかったが、巌谷栄二中佐の発言力と求心力の低下に繋がってしまう。

 

 その直後に国連横浜基地が戦術機用新OS・XM3と新型戦術機用CPUを開発。桜花作戦後に、国連横浜基地副司令官の香月夕呼博士は、長年に渡って蓄積した技術情報を開示。日本帝国陸軍はそれを奇貨とし、戦術機の開発・改修計画を再開する。

 

 戦術機の大規模な改修をしなくても、新OSと新型CPUを搭載しただけで、戦術機の即応性と機動力を3割も上昇させる新技術は帝国陸軍を狂喜乱舞させた。

 

 その一方で【不知火弐型】は忘れされ様としたが、2005年1月に、アメリカ合衆国で対外融和政策を取る新政権が発足。その新政権から一度は中止に追い込まれた【XFJ】再開が打診され、再び脚光を浴びたが、国連横浜基地の全面的な技術協力でアメリカの技術を使わなくても、戦術機の再改修・開発が可能に為った日本帝国は見向きもしない。

 

 巌谷栄二中佐はその頃には、帝国陸軍技術廠から、北部方面軍の補給基地の基地司令官に移動になっており、事実上の左遷扱いで、彼はもう2度と軍中央に返り咲く事はなかったと言う。

 

 篁唯依中尉は斯衛軍に復帰し桜花作戦に参加したが、その後は鳴かず飛ばずの日々を送ったと言う。斯衛軍上層部が彼女を表舞台に出すのを嫌ったのと、何とかして【XFJ】計画を再開させたいアメリカ政府が彼女に近付いた為、斯衛軍上層部は篁唯依中尉を事実上退役に近い予備役送りにし、半ば軟禁に近い生活を強いられせた。

 

 アルゴス試験小隊も強制解散させられ、小隊の面々も原隊復帰となったが、アメリカ政府と国連本部の圧力で彼等も原隊では冷遇扱いされ、鳴かず飛ばずの失意の日々を送った。

 

 技術顧問だったフランク・ハイネマン教授のその後の足取りも掴めていない。アメリカ政府とCIAが口封じ狙いで暗殺したとも言われてはいるが、2005年に発足したアメリカ合衆国政府新政権も調査は行ったが、前政権とCIAには『フランク・ハイネマン教授は暗殺されていない』と、1年後に調査結果を発表し、前政権とCIAは白認定。フランク・ハイネマン教授のその後は誰にも知られていない。

 

 その頃には『【不知火弐型】は関わった人間が全員不幸になる』と呪われた呪物扱いで、【XFJ】計画の再開を打診しに来たアメリカ政府を罵倒するだけに終わる。

 

 日本帝国陸軍は半ば骨董品扱いだった【77式撃震】を第3世代機【77式撃震・改】として復活させ、世界各国の度肝を抜いた。それを皮切りに、第3.5世代機【89式陽炎・改】、第4世代機【94 式不知火・改】と【97式吹雪・改】、第4.5世代機【彩雲】に第5世代機【烈風】の開発へと繋げて行く。

 

 第3世代機として生まれ変わった【77式撃震・改】は運用性と整備性に優れ、新しい戦術機を開発する余力が無い前線国家にも人気で、最終的に6000機が製造されたベストセラー機となり、日本帝国政府に国家再建に必要な外貨を大量に齎した。

 

「問題はそのフランク・ハイネマン教授が、近い内に日本に来日して来るんだよな。俺に会う為に・・・・」

 

 そう考えると武の気分は重くなる。フランク・ハイネマン教授への対応は、日本帝国政府と日本帝国陸軍が担当する事にはなってはいるのだが、フランク・ハイネマン教授が武との面会を強く望んでいる以上は、武は全く会わない訳には行かなかった。

 

 武はフランク・ハイネマン教授に、自分の正体と能力を完全に誤魔化せる自信はなかった。

 

 一番の問題は、自分の正体と能力を知ったフランク・ハイネマン教授がどう動くか予測出来ないのだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

  

「ハイネマン教授、本当にこの機体をNIHONに持って行くつもりなのですか?」

 

 スタッフがとあるハンガーの中にそびえ立つ2機の戦術機を見上げながら呟く。

 

「ああそうだ、この機体をNIHONで完成させたいのだ」

 

「しかし、良くワシントンD・Cがこの機体を国外に出すのを許可しましたね。絶対に許可しないと思っていました」

 

「ワシントンD・Cの化石頭連中でも、このまま指を咥えていれば、戦術機開発でNIHONとの競争に負けると理解したんだろうね」

 

「少し言い過ぎなのではありませんか?」

 

 スタッフはフランク・ハイネマン教授が大の政治嫌いなのは知ってはいるが、幾ら何でも化石頭は言い過ぎだろうと。

 

「ああそうだね。ではシーラカンス頭にしといてやろう」

 

 化石頭とどう違うのか突っ込みたかったが、無意味な問いだと思い胃の辺りを擦りなからやめた。

 

「もし私の予測と見立てが正しければ、タケル・シロガネはこの機体を欲するはずだよ」

 

「その根拠は?」

 

「今NIHONが進めている戦術機開発計画には、亜音速飛行可能な機体開発が間違いなく含まれているだろうからね」

 

「戦術機で亜音速飛行ですか?流石に無理なのでは?」

 

 戦術機が人の形状をしている以上、空を飛ばそうとすれば空気抵抗の壁にブチ当たり、どうやっても最高速度の限界は1000kmとされている。

 

 しかもそれはパイロットの安全性と燃費の悪化を目を瞑っての話しだ。

 

「私に言わせれば、その考え方は古いと思うよ。タケル・シロガネは本気で、技術の壁を突破して第4世代機を造るで気でいるよ」

 

「・・・・・・・」

 

 このスタッフはフランク・ハイネマンが以前言った通り戦術機開発は第3世代機で行き詰まる考えに同意した。

 

 それは戦術機が人の形態をしているから来る技術的問題を解決出来ないからだ。無重力空間の宇宙ならいざ知らず、1G重力下での地球上では、人の形態が大きな技術的制約を与える。

 

 だが日本帝国がこの形態から来る技術的制約を解き放つ事に成功していたとしたら・・・・・

 

 そう思考を進めたスタッフの背中に冷や汗が流れる。

 

(もしそうなら、その技術をステイツに持ち帰らないと大変な事になる。それを釣る餌としてのステルス技術の供与なのだろう・・・)

 

「ふふふ、タケル・シロガネ、君に会えるのが本当に楽しみでならないよ」

 

 フランク・ハイネマンは逸る心を抑えきれないでいた。

 

 そびえ立つ2機の戦術機は、アメリカ合衆国が国家の威信を賭けて開発中の次世代ステルス戦術機なのだ。

 

    名は【YF-23 ブラック・ウィドウⅠ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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