マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

14 / 19
武ちゃん何周目? 93式不知火開発裏話し⑧

「【YF-23 ブラックウィドウⅠ】が日本に来る?」

 

 帝国陸軍技術廠から呼び出された武は、巌谷栄二からフランク・ハイネマンがアメリカが第3世代機として開発中の戦術機【YF-23 ブラックウィドウⅠ】の試作機2機と共に来日すると告げられた。

 

「ああ。しかも、テストパイロット込みでな」

 

「テストパイロットは誰ですか?」

 

「テストパイロットは2人だな。ミッキー・サイモン大尉とゲイリー・マックバーン大尉の2人だ。二人ともアメリカ海軍所属の現役パイロットだな」

 

「アメリカ海軍のパイロットが、アメリカ陸軍の戦術機のテストパイロットをやっているんですか?」

 

「どうやらフランク・ハイネマン教授のお気に入りのお抱えテストパイロットだそうだ。アメリカと言う国はその点に関して言えば融通が利く国でな。もしかしたらアメリカ海軍も【YF-23 ブラックウィドウⅠ】の制式採用を考えているのかもな」

 

「そうですか、でも正直に言って意外でした。アメリカが開発中の機体を外国に出すだなんて。しかもステルス機として開発中の機体をです」

 

 武は以前から【YF-23 ブラックウィドウ】には強い興味を持っていた。

 

 高機動型として開発予定の【93式不知火97型】は、外見だけを見るなら、【YF-23 ブラックウィドウ】に酷似しているからだ。

 

 これは【93式不知火97型】を高機動型として切り詰めて設計すると、高機動型はどうしても似た形状を持つ。

 

 【YF-23 ブラックウィドウ】の持つ特長として、アメリカ軍機でありながらも、近接戦闘と長刀の使用を前提にしている機体でもある。

 

 【YF-23 ブラックウィドウ】は、【不知火97型】の完成形とも言える。

 

 だからこそ武は惹かれる物が合った。

 

「だがこれで【不知火97型】の開発が一気に進むな」 

 

「ええそうですね。年単位で【不知火97型】の開発が一気に進むでしょう」

 

 武と巌谷栄二は【不知火97型】をハイヴ攻略機として使う気でいた。

 

 ハイヴ攻略は時間との競争だから、ハイヴ内でのBETAとの戦闘は極力回避し、反応炉の破壊を最優先とする。

 

 それにはどうしても高機動型が必要なのだ。

 

 ハイヴ内では満足に補給は受けられない。受けられない以上は、戦術機の連続稼働時間と航続距離を大幅に延ばすしかない。

 

 これまで進めてきた【不知火強化計画】は、ハイヴ攻略を前提にしたものだ。

 

 【YF-23 ブラックウィドウⅠ】が日本に来る事で、ハイヴ攻略専用機【不知火97型】の開発を前倒しにでき、年単位で開発スケジュールを短縮出来るのは越した事はなかった。

 

「ですが、アメリカ政府とフランク・ハイネマン教授の狙いと目的は何でしょうか?」

 

 こんな上手い話しには必ず裏があるのが常識だ。

 

「フランク・ハイネマン教授は、開発中の【YF-23 ブラックウィドウⅠ】を日本の技術を取り入れて、【ブラックウィドウⅠ】を完成させたいそうだ。それに協力をしてくれればステルス技術の供与と、【不知火】の高機動型の開発に協力を惜しまないと言って来ている」

 

 巌谷栄二がそう言うと肩を竦める。

 

「【不知火】の高機動型・・・どうしてそれをフランク・ハイネマン教授が知っているんです?」

 

 【不知火97型】に関する事は未だ世間に公表していない。知っているのは極一部の関係者だけだ。

 

「フランクの奴に先手を取られたな。どうやらこちらの計画をかなり精度が高い形で見抜かれているぞ」

 

「どうやらその様ですね・・・」

 

「アメリカ政府の方は、日本のアメリカ離れを阻止したいのが本音だろう。在日アメリカ大使館は、連日親米派との接触と会合を重ねているそうだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「で、どうする?」

 

「小学生の自分に聞きますか?」

 

「お前さんを、普通の小学生と見る奴はいないぞ」

 

「はぁ、そうですね」

 

 武にしたってここまでやってしまった以上、『僕は普通の小学生でーすー』と言った所で、真面目に取り合ってくれる者は一人もいないだろう。

 

「正直に言って断れないのが実情です・・・」

 

「ふむ、理由は」

 

「やはり今年の春までに、中国国内四川省辺りに新しいハイヴが建設されてしまうのは避けられないのが原因です」

 

 中国領四川省ではBETAとの激戦が続いており、寸土を争う消耗戦が続いている。中国軍も良く戦ってはいるが、戦術核が底を付いたのか、防戦一方を余儀なくされ、遂に国連や日本帝国政府に援軍の要請を出しており、もう既に国連軍や複数の義勇軍が現地入りして、中国軍と一緒にBETAと戦っている。

 

 多くの軍事専門家達は執拗なまでの四川省攻略を見て、BETAの新たなハイヴ建設予定地を四川省のどこかと見当を付けていた。

 

 日本帝国陸軍熊本第6師団が先遣隊として、本隊に先駆けて今月中に中国入りを果たす。

 

 熊本第6師団には改修された戦術機増強2個大隊96機が配属されていた。

 

 【89式陽炎】24機

 

 【77式撃震】72機

 

 改修機に取っても初めての実戦運用。帝国軍と国民の期待は大きかった。

 

 戦術機部隊には対重光線級対策として、試作92式155ミリライフル型狙撃砲を持たせた。

 

(熊本第6師団が戦列に加わっても、全体の戦況に与える影響力は小さいだろうなぁ。大陸派遣軍本隊が中国入りするのは4月・・・・間に合わない)

 

 史実通りなら四川省が陥落させたBETAは、翌年の春に再進撃を開始。北京にまで一気に押し寄せる事になるが、四川省防衛戦で戦術核を使い果たし、中国軍の再編も間に合わず中国の首都・北京が一気に戦場となる。

 

「やはり持たないか四川省は」

 

「えっ?」

 

「ぶっ、あははは!顔に出ているぞ武君。お前は考えている事が顔に浮かぶから、実に分かり易い。あははははは!」

 

「申し訳ありません巌谷少佐」

 

「別に謝る必要はない。それがフランクの奴の申し入れを断れない理由か」

 

「はい・・・」  

 

「だが四川省が落ちても、四川省と我が国とは随分と距離は有るはずだが?」

 

 巌谷栄二の言った通りで四川省と北九州の距離は1600キロもある。四川省が落ちたからと言って、直ぐに日本が戦場になる訳ではないが・・・

 

「それは楽観的に過ぎません、四川省が落ちた時点で、日本も半分前線国家の仲間入りしたも当然かと」

 

「理由は?」

 

 巌谷栄二には武を咎める気はなかった、寧ろ奇抜的発想を期待さえしていた。

 

「BETAの一度の移動距離が未だに不明なのと、地中侵攻がどの様な手段で行われているのかも不明。これらが理由に上がります」

 

「ふむ、なる程な・・・」

 

 BETAと遭遇してから20年以上も月日が経つが、情けない事に人類は未だに、BETAの性能を正確には把握していなかった。何度も鹵獲作戦が行われ、大量のBETAを鹵獲はしたものの、BETAがどの様に大量に作られ、エネルギー補給を行っているのかえさえも。

 

 一応分かった事はBETAは何らかの手段で、ハイヴの反応炉からエネルギー補給を受けている事だけ。

 

 其処で疑われたのはBETAの地中侵攻だ。

 

『BETA共は地中にエネルギー供給拠点を設けているんじゃないのか?』

 

 地球は丸い。

 

 電波は真っ直ぐしか飛ばない。

 

 BETAの進撃距離がハイヴから遠ざかれば遠ざかる程、BETAはハイヴからのエネルギー供給は受け難くなるにも関わらず、BETAは一向にエネルギー切れをお越したりはしない。

 

 じゃあどうやってエネルギー供給をとなるが、ここで疑念を持たれたのが、BETAがせっせと作るトンネルではと疑いの目が行くのは必然だった。

 

 ある作戦でBETAの地中侵攻を何とか凌ぎきった後、トンネル内に戦術機部隊を送り込んだ。トンネルは予想外に頑丈に造られていて、機甲師団を送り込んでもそう簡単にトンネルが崩落する危険性は低かった。

 

 更に調査を進めると、深度を深めて行くにつれてトンネルは次第に大きく拡がっていくのが判明。最深部の広さは人類側の予想を超えて、最大幅は200mにも達した。

 

 そのトンネルの方向はハイヴへと向かっていた。

 

 結局その時はエネルギー中継点らしき物は発見出来ず終いだったが、次に浮かんだ疑問は、『BETAは要塞級を複数運べる巨大な地中掘削機械を持っているのでは?』だった。

 

 要塞級や光線級はBETAの中では鈍足で、多種に比べて進撃速度低く、随伴能力も高くない。問題はその要塞級や光線級が何の前触れも無く、唐突に戦場に姿を現すのだ。

 

「つまりBETAは噂に聞く巨大な地中採掘機を使い、一気に帝国本土へと上陸する可能性が出てくると、お前は言いたいのだな」

 

「はい、その可能性が出て来る以上、もし四川省がBETAに陥落し、新しいハイヴが建設されたら、最早帝国は安全な後方国家とは言えないでしょう」

 

 実際に正史でのBETA帝国本土大侵攻を行ったのは、重慶・ハイヴのBETAだ。日本に一番近いチョルウォン・ハイヴは中継基地の役割を果たしただけだった。

 

 BETAが次のハイヴ建設を行う場合、一番近いハイヴのBETAがハイヴ建設を行う先入観が、日本帝国政府と帝国軍のBETAの帝国本土大侵攻の時期を見誤らる原因に。

 

「予想される最悪のシナリオは、各ハイヴが地中のトンネルを使い繋がっている場合です。もしそうなら各ハイヴのBETA群の動向が把握困難と言えるでしょう。各ハイヴのBETAの数量は20万から30万と推定されていますが、各ハイヴの周辺に伏兵としてBETAを潜ませていれば、推定の見積もりも甘いと言うしかありません」

 

(恐らく正史での帝国本土大侵攻では、BETAはもう既に母艦級を帝国本土地下深くに、複数潜ませていたに違いない。チョルウォン・ハイヴを経由して、帝国本土に侵攻してきたBETA群は囮で、本命は地下からだ)

 

 これはもう立派な戦略や戦術と言えよう。

 

「・・・・・・・・・」

 

(もしこの世界でも同じ事をやられたら、果たしてBETAの帝国本土侵攻から、この国を守り切れるのか)

 

 武は自分の足元がガラガラと音を立てて、崩れ落ちるのを感じていた。

 

「お前の意見は分かった。俺からもお前の意見を上層部に伝えて、四川省がBETAに落ちたら、BETAの大規模地中侵攻の可能性が高くなるのを伝えよう・・・」

 

「あ、はい、お願いします」

 

「実はな、フランクの奴の申し入れを拒否すべきだとの声が国粋派を中心に大きくてな。俺も困っていたんだよ」

 

 帝国軍内では最新技術の海外流失を警戒し、国粋派を中心として、反対の声が続出していた。数々の新技術の開発で、アメリカへの大幅な依存度を減らせるのに、新型戦術機の開発にアメリカを関与させてしまったら、また振り出しに戻ると警戒心を隠さない。

 

「そうだったんですか?」

 

「ん、ああ、それでな、どうすれば良いか悩んでいた。お前をここに呼び寄せたのは、どうすれば反対する連中を納得させれるかの材料が欲しかったのだ」 

 

「それで自分を呼んだんですか?」

 

「ああそうだ、もしBETAが本当に巨大な地中掘削機を保有し、それを使い帝国本土に侵攻して来るのなら、それに対抗する為の【不知火】の高機動型がどうしても必要になる。フランクからの申し入れは、当に好機と言えるだろう」

 

 BETAの地中侵攻が予測不可能以上、戦場に一分一秒でも早く急行出来る高機動型が必要。フランク・ハイネマン教授がその開発に協力してくれると言うのなら、見返りを容易してでも協力を仰ぐべきなのだろうと巌谷栄二は考える。

 

「そうですね・・・」 

 

「でだ、その巨大な掘削機に対抗するにはどうすれば良いと考える」

 

「そうですね。蓄電式地中埋設型の深度探知機と、電磁系と高周波系兵器が必要になります」

 

「ふむ、それはまだ先の話しだな。現状ではどうする?」

 

「現状では地中掘削機を見付け次第、脚が速い戦術機にS-11爆弾と今開発中の戦術機用無反動砲を持たせ、地中掘削機の開口部に攻撃を仕掛けるしかないでしょう」

 

 戦術機用無反動砲の後継は320ミリで、携帯弾数は8発。

 

 電磁系&高周波系兵器の開発には時間が掛かるので、その代用兵器として開発していた。弾頭は特殊爆薬S-11を使う。

 

 要塞級や母艦級を発見次第、S-11爆薬弾頭の320ミリ弾を数十発撃ち込もうと言う発想。

 

 ただ射程距離が僅か数kmと短いので、光線級の餌食になりやすい欠点を抱えている為、実用性に疑問を持たれていた。

 

「【不知火】がまだで或ある以上、【陽炎】の改修機にやらせるしかないだろうな」

 

「無反動砲の方はどうなっています?」 

 

「無反動砲自体は富士教導団の方で試験運用中だが、S-11弾頭の開発には今少し時間が必要だ」  

 

「そうですか・・・・」 

 

「そうがっかりするな。何とか持ち堪えて見せるさ」

  

「お願いします」

 

「ああそうだ、西ドイツ軍のキルケ・シュタインホフ少佐がお前に御礼を言いたいから、一度二人っきりで会いたいと言っていたぞ。どうする?」

 

「いいえ、遠慮して起きます」 

 

「そうか、美人からの誘いは断るべきだと思わないが」

 

 巌谷栄二はニヤニヤと意味ありげな顔をする。

 

「それよりも、欧州連合の【Tormado】の改修計画の方は順調なんですか?」

 

「ああそっちの方は問題ない。順調に進んでいる」

 

「だったら問題無いですし、会う必要は認めません」

 

 武からしたら、自分が開発した新技術を使って、戦術機の改修や兵器開発をしたいと各国が言い出すのは、まだ数年先の話しだと思っていた節が合った。

 

 新技術の性能には自信はあったが、実戦経験が無い新技術をここまで欲しがったりはしないはずだと考えていた。

 

 新技術採用から1年もしない内に、欧州連合とアメリカが動いたのだ。大陸で最良の結果を出せば、『ドミノ倒し』が起きるだろう。

 

(自分と言うイレギュラーが居る事で、歴史の流れが加速しているのか?)

 

 武は十分にあり得る事だと思った。

 

「童貞を卒業する好機だとは思わないのか?」

 

「思いません。て言うかまだ早いです!」

 

「後それな、唯依ちゃんとの結婚式で、唯依ちゃんには十二単とウェディングドレス、どっちを着て欲しい?」

 

「あの、帰っていいですか?」

 

「まぁ待て待て、そう慌てるな。後な、影行の奴から提案が合った斯衛軍専用【不知火】開発案の件だがな」

 

「はい・・・」

 

「間違いなく計画倒れに終わるぞ」

 

「どうしてですか?」

 

「あの大蔵省が、斯衛軍の為に追加予算を認めると思っているのか?」

 

「あっ!」

 

「戦術機開発には数千億円もの費用が掛かる。【不知火】のカスタム機とは言っても、簡単に費用をざっと見積もっても二千億の費用は間違いなく掛かる。これだけでも今の大蔵省が認める筈がないな。それで無くても大蔵省は2つの大陸派遣軍(中国戦線、東南アジア戦線)に、5000万人の避難計画、西日本防衛戦の構築と、平時なら絶対に認める筈がない莫大な出費を余儀なくされているんだからな」

 

「ですが武家保守派が諦めるとは思えませんが・・・」

 

「だったら武家保守派や元老院の年寄り共に金を出させればいいだけだな。まぁ出せたらなの話しだがな」 

 

 巌谷栄二はニヤリと意地の悪い笑みをする。

 

「ですが、人・物・金の調達を得意とする父さんが何とかしてしまうのではありませんか?」

 

「幾ら影行の奴が、そっちの方面が得意とは言え、二千億もの金を調達出来るとは思えないが・・・」

 

「大手銀行と大蔵省には、父さんの同期が何人もいますよ」

 

「そう言えばそうだったな・・・」

 

 ちなみに白銀影行は東大工学部卒で、武が言う同期とは同じ部に所属していた部活仲間だ。

 

 巌谷栄二も、篁祐唯も、白銀影行程の人脈の広さは持ち合わせてはいないのは自覚していた。

 

 過去いくども一緒に仕事をして来たが、何か問題が起きれば解決して来たのは、幅広い人脈を持つ白銀影行だった。

 

 そして自分達が武家や斯衛軍の狭い世界で生きて来たのを実感させられた。

 

 その2人が白銀影行に問い質した事があった。

 

『なぁ影行。どうやったら、そんなに幅広い人脈を持てる様になるんだ?』

 

『なあに簡単さ。東大生時代に夜通しで教授や学生の皆と卓上を囲んで麻雀やポーカーをすればいいだけさ。東大工学部を卒業する頃には、ノート数冊分の人脈が出来たし、あちこちに貸しを作らせたからな。ははははははははー!』

 

 そして2人は思い出した、白銀影行が矢鱈と卓上ゲー厶とポーカーに強かったのを。

 

「もしかしたら、忘れていました?」

 

「う、うむ、失念していたぞ・・・」

 

アホー、アホー、アホー、アホー

 

 その時、鴉の鳴き声が聞こえた。

 

「もう帰っていいですか?」

 

「待て待て、そう慌てて帰ろうとするな!まだ大事な話しが残っている!」

 

「大事な話しとは?」

 

「お前、唯依ちゃんと婚約しないか?」

 

 武は一瞬フリーズしてしまう。

 

「俺、まだ小学生ですよ・・・」

 

「許嫁を持つには丁度よい年齢だ。十年後には男なら誰もが振り向く美人さんになるぞ」

 

「前は兎も角、後ろに付いては同意します」

 

「うんうん」

 

 腕を組んで自慢気に頷く巌谷栄二。

 

「ですが、あの子は譜代武家篁家の跡取りですよね?他家に嫁には行けないはずです。自分も一人息子ですので、婿養子には行けませんよ」

 

「ああその件なんだが、もう間もなく解決するはずだ。解決すれば唯依ちゃんが白銀家に嫁ぐ事が可能になる」

 

「あの、言っている意味が理解出来ないんですが?」

 

「壁に耳あり、障子に目ありだ。だから耳を貸せ」

 

 武は言われた通りに巌谷栄二に耳を貸し、巌谷栄二は密々と話し出す。

 

 そして武はその内容に驚き、目を大きく見開き、そして絶叫を上げそうになった。

 

 そして巌谷栄二に絶叫を出そうな口を塞がれた。

 

「大きな声を出すな。この件はまだ極秘だからな」

 

 そして武は口を塞がれたまま、うんうんと頷いた。

 

 

 

 

 

 そして数週間後、帝都・京都の篁家本宅で、妻子に土下座謝罪している篁祐唯。その後ろで控えている金髪碧眼の女性(祐唯の不倫相手であるミラ)と不信感を隠さない中学生位の少年(祐唯とミラの間に生まれた息子のユウヤ)。それを見て溜息を吐く奥さんともう間もなく思春期に入る(今年の4月に小学四年生)な娘は父親に軽蔑の視線を投げる。

 

「父様、不潔です。軽蔑します」

 

「グハッ!!!」

 

 

 

 

 

「祐唯の奴、今頃平謝りしているだろうな」

 

 富士教導団での管制室では、巌谷栄二のニヤニヤが止まらないでいた。

 

「性格悪いですよ巌谷少佐・・・」

 

 武は今頃、修羅場になっているだろう篁家を考えると笑えないでいた。

 

「なあに、アイツには良い薬さ」

 

「エイジ、タケル。私は日本語が分からないが、まあ大体理解しているよ」

 

 フランク・ハイネマン教授は肩をすくめた。

 

 金髪碧眼の女性(ミラ•ブリッジス)中学生位の少年(ユウヤ•ブリッジス)は、ハイネマン教授が日本へと連れて来たのだ。篁家入りさせる(祐唯に責任をとらせる)為に。

 

「ハイネマン教授、本当に【ブラックウィドウⅠ】をここまでキーピー機体にしてしまって、良かったのですか?」

 

 武は話題を変える事にした。

 

 武と帝国陸軍技術廠の技術者達は、フランク・ハイネマン教授の要望通りの機体へとチューニングしたが、出来上がった機体を見て顔をしかめた。

 

『こんな過敏に仕上がった機体を、アメリカ人テストパイロットは本当に満足に操縦出来るのかよ?』

 

 疑問の声がいくつも出た。ハイネマン教授が求めたのは即応性を機体限界の極限まで高めた機体だった。で、結果として非常にバランスが悪い機体に仕上がってしまう。

 

「ああ大丈夫だタケル。私が連れて来たテストパイロットの2人は、アメリカ軍でもトップテンに入るトップガンだ。そう時間を掛けずに、生まれ変わった【YF-23 ブラックウィドウⅠ】を扱える様になるさ」

 

「・・・分かりました・・・」

 

 戦術機開発の大御所にして鬼才とも言われている本人がそう言うのなら、武としてはそう信じるしかない。

 

(フランク・ハイネマン教授が連れて来たテストパイロットの両大尉は、シミュレーターでも高水準の結果を出していたんだから、信じるしかないんだよな)

 

「タケル」

 

「はい」

 

「君が考えた新OSを始めとする新技術は素晴らしい。全く正反対のアプローチで技術的限界の壁をあっさりと越えさせただけではなく、戦術機開発を一気に十年も進めてみせた。本当に素晴らしい。君こそが本物のクリエイターだ」

 

「ありがとうございます教授・・・」

 

 これにはアメリカ人スタッフの方が驚いた。滅多に人を褒める事をしないハイネマン教授が、『クリエイター』であるのを強い自負心を持つハイネマン教授が、『クリエイター』と言う表現を使って褒めたのだから。

 

 この件に関しては日米両政府共に、決して歓迎している訳ではなく、ハイネマン教授にはアメリカ国防省情報部DIAの監視は付いていたし、巌谷栄二にも帝国陸軍参謀本部と情報部の監視が付いていた。

 

 日米両政府共にハイネマン教授と巌谷栄二の暴走を警戒してもいた。

 

「では、2人の準備も整った様出し、テストを始めよとしましょうか」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

《ニューヨーク・マンハッタン島》

 

 マンハッタン島の面積は僅か59.1平方kmなのだが、世界経済の富の50%以上を占有し、国際政治を動かす影響力を持っている。

 

 その島の某所のオフィスでは、オイルメジャーの主だった幹部達が集結し、面白くもない顔をしていた。

 

「やはりこれ以上のエネルギー価格の上昇は見込めないか」

 

「NIHONでの水素エネルギーの実用化の影響だな・・・」

 

 日本帝国政府が年始での挨拶で、水素エネルギーの開発成功と実用化の両方で発表。水素電池と水素燃料を使った戦術機のデモストレーションを行い、水素エネルギーの持続的開発と主要エネルギーとして取り扱うのを公約とした。

 

 その直後から、石油と天然ガスのエネルギー価格の上昇が止まってしまった。

 

 石油と天然ガスのエネルギー価格の上昇は、ソ連のチュメニ油田、バクー油田、ペルシャ湾油ガス田地帯がBETAに制圧されたのが原因とも言える。

 

 チュメニ油田、バクー油田、ペルシャ湾油ガス田地帯を失った後、世界はグリーンランド、アルゼンチン、メキシコ領カルフォルニア湾、アメリカ領アラスカ、コロンビア、ベネズエラ、ニューカレドニア、オーストラリア、ボルネオ島、マダガスカル島西部での石油・天然ガスの開発を急いで、チュメニ油田、バクー油田、ペルシャ湾油ガス田地帯を失った影響を最小に留める努力はしたが、やはりエネルギー価格の上昇は押さえられなかった。

 

 オイルメジャー各社は新しい油田・ガス田の開発には金が掛かる以上は、ある程度のエネルギー価格の上昇は容認して欲しかったのが本音になる。

 

 だが一番安定していたドル箱市場とも言える日本帝国から冷や水を浴びせられた。

 

 水素エネルギーの開発と実用化だ。

 

 日本帝国が次世代エネルギーとして、水素エネルギーの開発をしていたのは知ってはいたが、それはまだずっと未来の話しだと思っていたのだが、いきなり戦術機のバッテリーや燃料として使い出すとは思ってはいなかった。

 

 水素エネルギーを用いた結果、戦術機の連続稼働時間は2倍に伸び、航続距離は3倍に伸ばしてしまう。

 

 上昇するエネルギー価格が原因で、燃料の確保に頭を悩ませていた前線国家には、これ以上の無い朗報はない。

 

 一度水素燃料の量産体制が整うと、水素燃料の価格は従来の石油燃料の1/5の価格で大量調達が可能となる。

 

 水素エネルギー技術を採用すれば、戦術機の実機訓練時間を今の3倍に増やし、作戦行動時の燃料補給の負担も格段に減らせらる。燃料の確保を至上命題とする各軍隊や組織に取って救世主とも言えよう。

 

 そして日本帝国政府は非公式に、赤字にならない形で水素エネルギー技術の公開と提供を前線国家に通達していた。

 

 その提案に真っ先に飛び付いたのは、こともあろう比較的エネルギーの調達が可能な欧州連合なのは皮肉だ。

 

 石炭と水と幾つかの化学薬品があれば、水素燃料を大量生産が可能なのだから。石炭産出国のイギリス、カナダ両政府の意向も強かった。

 

 世界有数の石炭輸出国オーストラリア、南アフリカ、インドネシア、ベトナムも、もう既に水面下で日本帝国政府との協議を初めていると言う。

 

 そしてもう一つの悩みの種は、アメリカ石炭協会が日本帝国の水素エネルギー技術に強い関心を持ち、水素エネルギー技術の積極的導入を唱えて、息が掛かった議員達を使いロビイスト活動を行い、裏でフランク・ハイネマン教授と手を組みホワイト・ハウスに、バイ・アメリカン法の対象外にするよう圧力を掛けていた。 

 

 今直ぐエネルギー価格が下がる状況ではないが、水素エネルギー技術が、ユーラシア大陸の戦況の好転に寄与すれば、水素エネルギーの人気と需要が上がり、水素エネルギー開発ブー厶が巻き起こるだろう。

 

 ペンタゴン内でも水素エネルギー技術を積極的に取り入れるべきとの声が、次第に高まりつつ合った。

 

 上昇するエネルギー価格が原因で、実機よりもシュミレーターでの訓練が増えている。シュミレーターでの訓練も悪くはないが、実機での訓練に勝る物は無く、整備や補給の兼ね合いで数倍には増やせなくても、間違いなく実機訓練を今の倍以上に増やせるのは確実なのだから。

 

 日本帝国への最高軍事機密たるステルス技術の供与と、フランク・ハイネマン教授が【不知火・高機動型】開発への参加が認められた政治的背景がそこにあった。

 

 フランク・ハイネマン教授の老獪にして狡猾ここにあり。

 

「しかし何故、この様な技術が突然実用化されたんだ?我が国でも水素エネルギー技術は、基礎理論の段階に過ぎなかったはずだが・・・」

 

 知っていながら知らない振りをする某社幹部。

 

「水素エネルギーを開発・実用化したのはTAKERU・SMOWと言う9歳の子供だ。知っているのに、知らない振りをするのはよせ。この木偶の坊!」

 

「私が木偶の坊なら、君は顔面表層雪崩だろうが!」

 

「なんだとおー!」

 

「やめんかあー!我々はこの問題を協議する為にここに集まったのであって、喧嘩をする為に集まったのではない!」

 

「そういう貴方には、名案はおありか?」

 

「ないな・・・」

 

「だいたいおかしいではないのか、9歳の子供が出来る事ではないはずだ。TAKERU・SMOWは本音に9歳の子供か?」

 

「発明の世界は年齢は関係ないが、まあそう言いたい気持ちは分かる」

 

 何しろ水素エネルギーは1年前まで、姿形がなかった代物だったのだから。

 

 僅か9歳の少年が開発・実用化した等、誰が信じ切れるだろうか。

 

 この水素エネルギーの開発・実用化で、新規の油田・ガス田の開発に必要な資金の確保も難しくなる。

 

 ユーラシア大陸の主要油田・ガス田がBETAの支配権に入りつつある今、余計金が掛かる海底油田・ガス田の開発に注力するしかない。その為には開発資金が必要なのだ。

 

「明らかに普通ではないな。この少年の存在は、悪魔の悪戯か神の御業としか言い様がない」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

《中国領四川省》

 

「隊長、また新手です。しかも推定2個旅団以上」

 

 中国領四川省では、連日の如く押し寄せるBETAの侵攻を阻止せんと、中国軍、国連軍、義勇軍が何時終わるか分からない寸土を争う消耗戦を繰り広げていた。

 

 1973年4月に中国領喀什にBETAの最初の(ハイヴ)が建設されてから早20年。四川省の大地は荒れ果て、中国有数の穀倉地帯は死んだも当然だった。

 

 四川省は処理出来ないBETAと兵器の残骸だらけだ。

 

「司令部司令部、支援砲撃はどうした?こっちはもう限界だぞ。支援砲撃無しに戦線維持は不可能だ」

 

『こちら司令部、砲弾、ロケット弾は残余は0。繰り返す、砲弾、ロケット弾の残余は0。従って支援砲撃は出来ない。繰り返す支援砲撃は出来ない』

 

 司令部から帰って来た返事は最悪だった。前線で戦う戦術機部隊はどこも定数割れし、機体は損傷が目立ち稼働機数は低下し続ける一方だ。それでも戦術機は光線級が現れなければ飛んで逃げられるだけマシで、地上歩兵はそうはいかなかった。中国軍も国連軍も、地上歩兵が戦場から逃げ出さない様にする為に、前線の近くには輸送トラックとバスを置かない様にしていた。非常ではあるが、地上歩兵の屍を山を築いてでも、戦線を維持しなくてはならなかった。

 

 何故なら四川省が突破されたら、中国領内にはBETAの東進を食い止める為の自然防御壁が存在していない。もし四川省が陥落し新たなハイヴが建設されたら、一気に中国領首都・北京にまで押し込まれるのは確実だからだ。  

 

 だから、何としてでも屍の山を築いてでも四川省を守らなくてはならなかった。

 

 だがそれも、限界点に到達しそうであった。

 

 中国軍は戦術核を使い切った後、防戦一方を余儀なくされている。もし国連軍や義勇軍がいなければ、とっくに四川省はBETAに制圧されていただろう。

 

「だったら後退の許可をくれ。もうこれ以上の戦闘続行は困難だ」

 

『後退は許可出来ない。現有戦力で持って、現防衛戦を死守せよ』

 

「支援砲撃無し、補給無し、弾無しでBETA相手にどうやって戦えと言うんだ?」

 

『隊長!』

 

「なんだぁ」

 

『新手のBETA群の中に要塞級を確認。しかも更にその後方に軽光線級も複数確認』

 

「なんだとクソッタレ!最悪のタイミングで要塞級と光線級が来やがった」

 

『ど、どうします?もう弾数も推進剤も、残量3割を切っています』

 

「どうするって・・・」

 

 もし自分達が撤退すれば、後方に四川省重慶が無防備な姿を晒していた。中国政府は民間人の避難を認めていない。

 

 一度でも避難を認めてしまえば、統制が取れなくなってしまう恐れと、東ドイツ革命の再現という悪夢が中国共産党幹部達の脳裏を支配する。その一方では、中国共産党幹部達は四川省防衛戦が持ち堪えている間に、国外脱出の準備を裏で密やかに進めていた。

 

「迎え撃つしかねぇだろう。ここで俺達が逃げたしたら、他の歩兵部隊や重慶市民は全滅してしまうだろうが」

 

 中国軍の機甲戦術機部隊の指揮官は腹を括った。ここが自分達の死に場所なんだと。

 

 だがそこに援軍が遣って来た。

 

『良く持ち堪えた中国軍。後は我々に任せろ』

 

 国際救難回線を通じて無線が入った。

 

「な、どこの誰だ!?」

 

『日本帝国陸軍機甲戦術機部隊だ。後は我々に任せろ!』

 

 その時、中国軍の戦術機【滅撃8型】の後方警戒レーダーにもの凄い速さで向かって来る戦術機の一団が捕捉された。

 

『こちらはまだ到着したばかりで、敵味方の識別コードが登録されていない。だから誤って撃つなよ』

 

「わ、分かった。救援に感謝する」

 

 

 

「こちら指揮官神田鉄雄中佐より部隊全機へ、合図と一緒に12式多弾頭ミサイルを一斉にぶっ放せ。敵の前衛を吹き飛ばしたら、【陽炎】全機で光線級突貫を開始。後の雑魚は【撃震】全機に任せる。いいな」

 

『了解ー!』

 

 作戦参加第一大隊、第二大隊、合わせて熊本第6師団所属機甲戦術機部隊全機から、元気の良い返答が返る。

 

「全機12式多弾頭ミサイル発射!」

 

 【89式陽炎】24機、【77式撃震】72機から、各4発ずつ計384発の12式多弾頭ミサイルが発射された。

 

 低空から発射された384発もの12式多弾頭ミサイルは、低空をBETA群を覆い尽くす形で飛翔。BETA群の間近に近付くとポップアップ。BETAの軽光線級がポップアップした12式多弾頭ミサイルを迎撃するが、殆どのミサイルが内蔵していた子弾頭を広範囲に投網の如くばら撒いた。

 

 このミサイルはアメリカ海軍のフェニックスミサイルをコピーした物だ。

 

 フェニックスミサイルはアメリカ海軍では最重要軍事機密扱いではないが。巌谷栄二少佐が個人的ルートでフェニックスミサイルの設計図を入手。1から新しいミサイルを開発する余裕が無いため、そっくりそのままコピーした。

 

 まあ精密度では本家を上回るが。

 

 ばら撒いた子弾頭はBETAの先頭集団の大半を鏖殺に成功し、突破口を切り開く。

 

 日本帝国陸軍の戦術部隊は減速せず、長刀を背部から取り出してそのまま要塞級群へ突入して行く。

 

「無茶だあー!」

 

 それを見た中国軍の隊長は絶叫したが、強化された日本帝国陸軍の戦術機は、2機一組で要塞級に襲い掛かり、あっという間に20体以上の要塞級を切り倒した。

 

「そんな馬鹿な・・・」

 

 これまでの常識なら、要塞級一体を倒すのに、1個小隊4機の戦術機が必要だったのだが、日本帝国陸軍の戦術機は2機一組で、要塞級をばらばら切り刻んだ。BETAに反撃の暇を与えずに。

 

 要塞級を全て無力化した日本帝国軍はその勢で光線級突貫を開始。【89式陽炎】24機は上昇を開始した。

 

「止めろー!光線級の餌食になるだけだぞー!」

 

 BETAの軽光線級は即座に反応。【89式陽炎】24機にレーザー予備照射を開始するが、【89式陽炎】24機はそれを待っていましたと言わんばかりに全機急降下、その直後に放たれた無数レーザーは全て空撃ちに終わる。

 

 急降下した【89式陽炎】24 機は地表スレスレで飛行して軽光線級に襲い掛かった。敢えて乱戦に持ち込んで長刀と突撃砲でBETAの軽光線級と、護衛の戦車級を次々とミンチへと変えて行く。

 

 乱戦に持ち込まれた軽光線級群は、同士討ちを恐れているのか、効果的な反撃も出来ず3分も持たずに、軽光線級は撃滅されてしまう。

 

 72機の【77式撃震】も負けじと要撃級と戦車級を、これまでの戦術機なら到底不可能と思える機動と反応速度でBETAを倒して行く。

 

『隊長、俺達夢でも見ているんですか?』 

 

「ああそうだな。これが夢なら覚めないで欲しいな」

 

 2個旅団規模のBETAが一方的に撃ち減らされて行く。

 

 これまでの常識なら、戦術機1個連隊を擁する機甲師団が最低2個師団が必要だったから。

 

 が、現実問題としてそんな贅沢は許されなかった。

 

 だからこそ歩兵部隊を生きた肉壁として扱い、磨り潰して来ながら戦って来た。

 

 それにも関わらず、日本から遣って来た援軍は、僅か100機未満の戦術機の数で、2個旅団のBETAを一方的に蹂躙し掃討して行くではないか。

 

「日本人はどんな手品を使って、こんな事を可能にしていやがるんだ・・・」

 

 日本の戦術機は動きを全く止めずに、『変化自由自在』、『蝶のように舞い、蜂のように刺す』の言葉がしっくりと来る戦いを続行し続けながら、BETA2個旅団を殲滅した。一機の損失を出さずに。

 

 四川省防衛戦の崩壊を防いたこの戦いは、『重慶の奇跡』と言われ、日本帝国の軍事技術と、それを実現した白銀武の才能を一躍有名にした。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

《1993年2月中旬・帝都・京都》

 

「全く士官学校卒業論文作成で忙しいのに、何のようなの崇継」

 

 崇宰恭子は自分の目の前で優雅に紅茶を飲んでいる幼馴染の1人、斑鳩崇継に不機嫌を隠そうとしない。隠さなくても何時も飄々としている男には、全く通じないのだから。

 

「2週間前に熊本第6師団所属の機甲戦術機部隊が引き起こした『重慶の奇跡』の詳しい戦闘詳報が手に入ってね、恭子、君に詳しい内容を教えたくて呼んだ」 

 

 斑鳩崇継は㊙の印が押された文書を崇宰恭子に渡す。

 

「呆れた…それって帝国軍の第一級機密文書でしょう。どうやって手に入れたのよ?」

 

 渡された崇宰恭子は呆れた顔を浮かべる。

 

「なに、帝国陸軍巌谷少佐殿経由でな」

 

 帝国陸軍熊本第6師団所属の機甲戦術機2個増強大隊の大活躍は、早くも日本国民の戦意高揚に使われた。部隊関係者のみならず、その奇跡の立役者たる武の名前がマスコミが使わない日は無いと言っていい。今は先遣隊の本隊熊本第6師団主力と、日本帝国政府が手配した補給と増援部隊が到着し、何とか前線は一息付けてはいた。

 

「巌谷少佐が何故貴方にこれを?」

 

 情報のリーク先が五摂家とは言え、やっている事は機密漏洩と同じだ。崇宰恭子から見たら、危険極まりない行動だ。

 

「巌谷少佐殿は味方を増やそうと懸命だからね」

 

「味方を増やす?」

 

「恭子、惚けるのは止めた方がいい。君の御父上の一派が白銀武君を亡き者にしようと企んでいるそうだね」

 

 崇宰恭子は急激に室内の温度が下がるのを感じた。いつも飄々としている男からは、冷気の殺気を感じ始めた。

 

「っ!」

 

 彼女は巌谷栄二が味方を増やそうとしている意味を理解した。そして話しは、五摂家と武家の分裂へと向かっていたのも。目の前の男が、隠し持っていた刀を武家保守派に対して抜こうとしているのも。

 

「恭子、私と手を組まないか?保守派の下らぬ企みを阻止する為にだ」

 

「具体的にどうするつもりでいるの?」

 

「君の御父上と斉御司経盛政威大将軍を失脚させる」

 

「崇継、あなた・・・」

 

「その上で君には、崇宰家の当主と政威大将軍を兼任して貰う」

 

「・・・・・・」

 

 崇宰恭子はこの部屋に鏡が無かったのを感謝すべきだ。

 

 それほどまでに、彼女は間抜け顔をしていた。  

 

「他に選択肢は存在していない」

 

「ちょっと待って。なんで私が政威大将軍にならないといけないのよ?崇継、貴方がなればいいじゃない」

 

「捻くれ者の私では、国民の信任と支持は得られんよ。今必要なのは、国民に解りやすく明確な姿勢を打ち出せる者でなければ、この国難を乗り切るのは不可能だ」

 

「だからと言って・・・」

 

「煌武院悠陽殿が後十年早く生まれていれば、彼女を次の政威大将軍に据える事が出来た。だが残念な事に煌武院の姫はまだ9歳だ。据えるには十年早すぎる」

 

「だから私だと言うの」 

 

「その通りだ恭子。そして君には、武家を代表し、武家の総意として、白銀武の支持と支援を表明して貰う。でないと我々武家は国民を敵に回す」

 

「どう言う意味よ」

 

「言った意味のままさ。この事態を放置すれば、君の御父上達の企みが世界中のマスコミにリークされる」

 

「っ!」

 

「四川省防衛戦の崩壊を防ぎ、『重慶の奇跡』を演出した立役者たる白銀武君を謀殺する計画を国民が知れば、先ず国民は我々を赦すまいよ」

 

 もしも四川省防衛戦が崩壊し重慶が陥落する事態になれば、予備戦力が枯渇していた中国軍と国連軍は、戦線を中国領首都・北京全面まで後退するしか無かった。

 

 僅か増強2個機甲戦術機大隊96機で、四川省防衛戦崩壊と重慶陥落の二重の危機を防げたのは、武が開発した新技術の数々だった。この危機を防いだ事で日本帝国の軍事技術の高さへ注目度が高まり、武は今や国民的英雄だ。その武に害をなそうと国民が知れば、国民は武家を許さないだろう。

 

「君の御父上を始め、化石頭の保守派や元老院の年寄り共は国民を敵に回す意味をどうも理解していない様だがね」  

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

《アメリカ合衆国・ラングレー》

 

「長官。以上が一ヶ月前の中国領四川省の戦闘に関する手に入った戦闘詳報です」

 

「ありがとう。下がってくれて構わない」

 

 一ヶ月前の四川省での戦闘での衝撃的な内容は、アメリカ合衆国政府中枢にも届いていた。

 

 崩壊しかかった四川省の防衛戦を僅か増強2個機甲戦術機大隊で防いだだけではなく、侵攻して来たBETA2個旅団を相手に一機も損害を出す事もなく撃退殲滅してのけた。

 

 過去の常識であるならば、最低でも2個中隊は間違いなく喪われていただろう。しかもただ単に防いだたけではなく、レーザー回避を行いながら光線級への突貫を実施し、軽光線級集団殲滅までもやってのけた。BETAはあれ以来、ユーラシア大陸東部戦線では沈黙を続けている。何か異常を察知したのだろう。

 

 ただBETAの沈黙は次の大侵攻の前触れなので、BETAの沈黙は必ずしも歓迎は出来ないのだ。

 

 歓迎は出来なくても、体勢を立て直す時間を与えられたのは確かで、中国政府は四川省防衛戦の立て直しに、国家の全力を投じていた。

 

「しかし日本も余計な事をしたものだな」

 

 アメリカ合衆国では大統領選挙が終わったばかりで、アメリカ至上主義とモンロー政策を掲げる新大統領が僅差で国際協調路線を掲げる現職大統領を破り、新政権の誕生が確定したばかり。

 

 そしてCIA新長官に抜擢されたメルダースも、アメリカ至上主義者だ。彼の特長は、ものの見事なスキンヘッド頭だ。

 

「せっかくBETAがユーラシア大陸の頭痛の種を無くしていると言うのに、余計な事をする」

 

 アメリカ至上主義者の彼からしたら、ユーラシア大陸は呪われた大地に過ぎなかった。アメリカが頼んではいないにも関わらず、勝手に戦争を始めては、自分達で収集を着けられなく為なり、こちらを巻き込んでは、我が国の若者達を死に追いやるだけの呪われた大地だ。

 

 今回のBETA大戦にしてもそうだ。BETAの降着ユニットが喀什に降着した時点で、アメリカと国連に助けを求めていれば、ここまで酷い事態にはならなかった。

 

 BETAの科学技術を独占したい中国政府は、頑固なまでにアメリカと国連の介入を拒否し続けた。BETAが西ユーラシア大陸のほぼ全てを制圧し、中国全土を飲み込もうと動き始めてから漸く国連に助けを求め始めた。

 

 アメリカ至上主義達からすれば、そんな連中の為に自国の若者を死地に追いやる気が出ないのも無理はない。

 

 共産主義アレルギーからも、中国が負けるのを期待するのも少なくないのが実情。

 

 それをBETAが無くしてくれると言うのだから、表向きは兎も角としても、裏の本音は『良くやってくれた』との思いが保守派、モンロー主義派、アメリカ至上主義派の本音だった。

 

 その彼らが僅差とは言え、大統領選挙に勝った意味は大きかった。大統領選挙の勝利をアメリカ国民の総意にすり替えてはアメリカ軍を、ユーラシア大陸から撤退させる事が可能になったのだ。

 

 だが日本帝国で起きている奇妙な現象が、彼らの計算をどうやら狂わせ始めていた。

 

「針が飛ぶ予兆だな。タイムラインで是正しないと。やはりマスターの指示通りに、グリーンヒル中将とクブルスリー少将の2人を更迭しなくてはならないか」

 

 グリーンヒル中将とクブルスリー少将の2人は、前政権時代のアメリカ政府の推薦で、国連東ユーラシア大陸方面軍司令官と参謀長に就任した。派手さこそはない2人だが、堅実な作戦運用と手腕に定評があって、中国軍に比して寡兵にも関わらず、四川省防衛戦を守り抜いていた。

 

 日本帝国陸軍の機甲戦術機部隊を、防衛戦が崩壊仕掛けていた中国軍に送る判断をしたのもこの2人だ。

 

 この決断をした事で、アメリカ軍内での評価は高まった。

 

 そして国際協調派の2人は、新政権にとっては目障りな存在となった。

 

「代わりの人選もマスターの指示通りに、ロックウェル中将と厶ーア少将の2人にするか・・・」

 

 ロックウェル中将と厶ーア少将の2人の評価は悪く、メルダースの目から見ても、どうしてアメリカ軍の将官になれたのか不思議でならなかった。本来ならば、国連軍の将官にしてはならないのだが、日本帝国で起きている奇妙な現象がそう考えさせる。  

 

 ロックウェル中将は後方勤務の経験しかなく、巧みに前線勤務を拒否し続けた。厶ーア少将はベトナム戦争経験者なのだが、捕虜や民間人虐殺の容疑で逮捕された経験を持つ。軍事法廷では証拠不十分で、無罪判決が出たのだが、それを苦々しく思う者は少なくなかった。

 

「まぁいい、マスターの指示は絶対だ。前政権が大統領選挙で勝っていたら、間違いなく予備役に降格した2人だ。国連軍送り込んだら、こちらの期待通りの働きをするだろう」

 

 マスターの目的は、国連軍に日本帝国軍の足を引っ張らせては、日本帝国軍を疲弊させる事に或る。

 

 あわよくば日本帝国を戦場にさせて、日本帝国そのものに甚大な被害を与え、アメリカ新政権はアメリカ軍需産業の1人勝ちに持って行きたいのだ。

 

「使えるカードはそう多くはないが、それは最大限に使わなくてはな。その為にも新型爆弾を開発しなくては」

 

 メルダースはそう呟くと一つの書類の束に目を通す。

 

 その書類の表紙にはこう記されていた。

 

   《G弾開発計画案》   

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何か奇妙な事に為っている。連載物にする気はなかった筈なのに、気が付いたら奇妙な連載物に為って、登場人物達が勝手に動き始めている。なんでだ?



純夏「武ちゃん、純夏の出番全然無いんだけど」

武「いいんだよ、お前の出番はなくてさ」

純夏「なんでえー?」

武「その方が日本国内は平和だって証拠だからさ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。