《1993年3月上旬》
戦術機増強2個大隊だけで、要塞級と軽光線級を多数擁する師団規模のBETAを撃退した『重慶の奇跡』で、日本帝国の技術力の高さが国際的に集まる中、日本帝国政府総理大臣の中根氏は日本帝国武家の頂点に立つ五摂家の一つ、崇宰公と帝都・京都の某高級料亭で会合していた。
「我が国は未だマシなほうですな。こうして高級料亭で海産物を食する事が出来るのだから」
中根総理は崇宰公に牽制球を投げる。海産物云々と言う点ではBETAが西太平洋に出て来ていない現在、まだ高級料亭で食せる分だけ、日本帝国が置かれている状況はまだマシなのかも知れない。
「中根総理、何を仰りたいのですかな?」
「崇宰公が何を目的にこの席を設けたのか分かっています」
「でしたら、話しが早くて助かります・・・」
「聞けませんですな」
「理由は聞いても・・・」
「今となっては【不知火】の開発計画の縮小も、実戦配備の遅延もあり得ないと言う事です」
「・・・・・・」
「従って、崇宰公が強く望んでいる【武御雷】開発計画の再開もあり得ませんな」
「中根総理。我々武家と斯衛軍は、皇帝陛下と千年の都・京都を守護する役目を担っているのですぞ」
「十分承知していますよ。ですから貴方方武家と斯衛軍に融通を色々と利かしていましたが、それは去年までの話し。今年からは、政府の方針に従って頂きますぞ崇宰公」
(本当にこの男は中根総理なのか?)
崇宰公は戸惑うしかなかった。中根総理の評価は良くも悪くも八方美人的性格で、何かと御し易い。だが、今目の前に居る男の目は、確固たる決意の目をしていた。
「中根総理。対米関係を考えたら、私共の提案を飲むべきではないですかな?」
日本帝国政府に取って、表面的には同盟関係にある対米関係は常に頭痛の種だ。
1993年1月にはアメリカ合衆国では新政権が発足したばかりなのだが、『重慶の奇跡』の詳細を知った新政権が早速日本帝国政府にアプローチを掛けて来た。
アプローチの内容は『日本の戦術機改修・開発計画に協力を惜しまないから、アメリカ独自の第3世代機の開発の見通しが終わるまで、日本独自の第3世代機【93式不知火】の実戦配備を延期して欲しい』との話しだ。
アメリカ独自の第3世代機開発候補には2機種有り、1機種はフランク・ハイネマン教授が日本に持ち込んだ【YFー23 ブラックウィドウⅠ】、もう1機種が【YFー22A ラプター】だ。
アメリカ政府としては最大限の譲歩であろう。日本の戦術機開発・改修計画にコミットして、日本の首に鈴の音を付けたがっていた。日本が戦術機開発で突出する事がない様に。
『重慶の奇跡』で一番驚きと危機感を持ったのが、アメリカ政府と軍産複合体だ。アメリカが見切りを付けて生産を止めた第一世代機【77式撃震・改】がアメリカ陸軍の最新鋭戦術機第2.5世代機【F-15E ストライク・イーグル】を凌ぐ機動力と即応性で、大暴れし活躍した事実が深刻な影響を齎していた。
アメリカ政府と軍産複合体からすれば、第1世代機の現地改修が限界を向かえつつある今、大金を投じて開発した第2.5世代機群を、アメリカにとって都合の良い言い値で大量に売り捌く予定だった。それが、日本が第1世代機を第2.5世代機と同等あるいは、それを凌駕する事に成功した今、第2世代機を買えない造れない国々に売れなくなってしまう。
日本帝国政府も第2世代機を買い揃えられない国々に、日本帝国独自の技術で少なくとも第2.5世代機への改修性能向上に協力する意向を示しているだけに、日本帝国がアメリカよりも先に第3・第4世代機を開発してしまうと、世界中がアメリカ製戦術機に見向きしなくなってしまう恐れが。
『このままなら、我々は破産してしまうぞ』
アメリカ軍産複合体関係者と投資家達は頭を抱える。
日本帝国はライセンス契約から、第1世代機と第2世代機の輸出は出来ないが、ライセンス契約に含まれていない新OSと新型CPU、水素エネルギー関連技術と強化部品関連の輸出は無制限に輸出可能なのだ。
『重慶の奇跡』で、日本帝国の新技術を使えば、戦術機の性能を一世代分以上の性能向上が可能にかるのが証明されてしまった今、アメリカの言い値で第2.5世代機を無理に買う必要が無くなったのだから。
当然の事ながらアメリカ側の危機感は強く、第1世代機と第2世代機は仕方ないにしても、第3世代機以降に関して言えば、日本帝国の戦術機開発・改修計画にブレーキを掛ける必要に迫られていた。
そこでアメリカ政府は親米派や完全民主主義派に頻繁に接触を行い、『戦術機開発・改修計画は、日米共同計画に持っていこう』とアメリカ側は積極的に動く。
『じゃあ一機辺りのお値段を下げればいいんじゃね?』の声がちらほらと聞こえるが、この場合アメリカ人労働者の人権費の高さがネックとなる。
アメリカは日本が考えている以上に労働組合の力が強く、1990年代前後からはアメリカ一強の様相なので、アメリカ人労働者の人権費は上がりたい放題だった。
今更一人辺りの人権費を下げる事が出来ず、迂闊に下げれば労働者の士気とやる気が下がってしまうし、ストライキが起きかねない。
今後もアメリカ一強の時代は続くと思われていたが、《白銀武》と言う名のイレギュラーの誕生で、アメリカ一強が覆される状況に陥りつつ合った。
日本帝国はアメリカ程労働組合の力は無く、人権費もアメリカより安く、そこに武が未来知識を活かして、部品や武器や弾薬を低コストで作れる3D技術の開発に成功して、やりたい放題を始めたらどうなるだろうか?
実際にそれは間近に迫りつつあった。
数年後にはアメリカ軍産複合体と投資家達は、首を括るか飛び降り自殺する嵌めになるだろう。
アメリカ政府はフランク・ハイネマン教授の暴走を懸念していながらも、ステルス技術供与を含む技術提携の来日の許可を出した政治的背景がそこにあった。
「確かにアメリカとの関係を考えれば、【不知火】の実戦配備を数年間遅らせるのが正しいのでしょう。ですが、我々の戦争相手がBETAである以上は、【不知火】の実戦配備は最優先事項です。ですから【武御雷】の事は諦めてください」
「・・・【武御雷】があればBETA等物の数ではない」
「ではお聞きしますが、今から【武御雷】の開発を始めたとして、量産体制が整うのは何時頃ですか?それまで大陸の戦線が持っているとお考えなのですか?」
「余り認めたくはないが、白銀武のおかげで、第1世代機と第2世代機の性能は大幅に向上した。ならば【武御雷】が完成するまで【撃震・改】と【陽炎・改】の2機種で、大陸の戦線は持ち堪えられるのではないのか・・・」
大陸の戦況は3月に入っても小康状態を維持している。
ほぼ毎日では或るが、要撃級と戦車級の混成が、大隊規模で四川省防衛戦にやっては来るが、増強機甲戦術機部隊1個連隊144機(【89式陽炎・改】36機、【77式撃震・改】108機】、電子戦機改修型機【77式撃震・改・電】4機)の増援を受けた熊本第6師団が的確に対処。人類軍には目立った損害は出ていない。
【77式撃震・改・電】は重金属雲下での、BETAの索敵や部隊間の通信を管制をスムーズに行えるように開発された機体だ。新規に新たに索敵・通信・電子戦に特化された機体を開発する余裕が無いので、拡張性に余裕があり、日本国内で自由に生産が出来る【77式撃震・改】をベースにした機体。
世界初の赤外線通信やレーザー通信を可能にした。
コクピットを複座型にしているのが最大の特長で、新型対Gキャンセラーと、リニアシート、関節への合成樹皮ゴム等新技術の導入で、衛士に掛かる肉体的負担を減らし、それまでPCにしかなれなかった衛士未満も、戦術機に乗れる様にもなった。
試験的導入ではあるが、重金属雲下では、中長距離通信と電波索敵が阻害されがちの中での、部隊間の連携をスムーズにする為に開発された機体。これでもかと最新技術を詰め込んでの試験的投入だ。
『重慶の奇跡』で【77式撃震・改】は第2.5世代機、【89式陽炎・改】は第3世代機の評価を受け、【改】の文字が報じられた。実戦配備がまだされていない【93式不知火】に至っては早くも第3.5世代機との評価を受け、日本国民の【93式不知火】への期待は高まっている。
ただ、小康状態なのは余り歓迎出来る事ではない。
小康状態なのはBETAの大規模侵攻の前兆だからだ。
その証拠に毎日大隊規模のBETAが来る割には、突撃級や要塞級、光線級の姿が全く見えていない。
次にBETAが四川省防衛戦に大規模侵攻を行う時の推定数は最低30万、最大50万と見積もられている。
そして白銀武の予測通りにBETAのハイヴ建設予定地は重慶市で、誰もが見解を一致していた。
『次のBETAの大規模侵攻の戦いが、重慶市だけじゃなくて北京市の命運を左右する』
武は帝国陸軍広報部を通じて世界中のメディアにコメントをした。
帝国陸軍技術廠では《EMP兵器起爆装置》。帝国陸軍横浜衛士訓練校では《OS・XM3》と光菱重工横浜小机研究所では《3D・光プリンター》の開発がそれぞれ大詰めを向かえていた。発案者たる白銀武としては、この3つを駆使してBETAを大陸内部押し戻し、重慶・ハイヴと喀什・ハイヴを何としてでも陥落させたかった。
「これに電磁投射砲と高周波長刀を加えれば、00ユニットは必要ないし戦術機部隊のみだけで、重慶・ハイヴと喀什・ハイヴを落とす事が可能になる。絶対に帝国を戦場にしないし、純夏を00ユニットにしたりはしない」
それはBETAとの戦いで敗北し道半ばで散ってしまった数百、数千もの白銀武の悲願だった。
『重慶の奇跡』後、統一中華戦線と統一韓国政府は首脳会談を行い、日本帝国の最新軍事技術の技術供与を求める共同声明を出した。
オーストラリア政府、ASEAN諸国連合、オーストラリア・インド亡命政府も近日中にも協議を行なった上で、統一中華戦線と統一韓国政府と同じ声明を出すと、キャンベルとシンガポールの外交筋の話だ。
「崇宰公、貴方達は何を考えているのかをお伺いしたい」
「いいでしょう。我々武家保守派は、幕府制度を復活させたいと考えている」
「幕府制度ですと・・・」
中根総理は予想外過ぎる返答に唖然とした。
「左様。私に言わせれば、民主主義や社会主義等は、自らの精神と社会を堕落させ、貶めるだけの制度でしかない。だからこそ大陸の国々はBETAとの戦いに負けたと言える。BETAに負けない為にも、この国を堕落させるだけの民主主義を完全に廃止し、我々武家がこの国の頂点に立たねばならない。だがその為にも武家の支配権を確立させる為の象徴が必要なのだよ中根総理」
「その為の【武御雷】と?」
「その通りだ中根総理。【武御雷】を要する我々武家と斯衛軍が来たるべき本土決戦に置いて、皇帝陛下の御前にてBETAを撃退し、我々武家こそがこの国の頂点に立つのを証明したい。我々武家がこの国の頂点に立ってこそ、この国の安寧は保たれるとは思わないかね?」
「本土決戦ですと!?」
中根総理は目をひん剥く。
「左様」
「貴方達は昨年の末、帝都大学がありとあらゆる最悪の事態を想定し、BETA帝国本土侵攻が齎す被害想定シュミレーター予測を御存知無いのですか!?」
BETAの帝国本土侵攻が起こった場合、日本国土の半数が焦土と化し、総人口の3割が失われるコンピューター・シミュレーション結果は、日本帝国政府内と日本帝国軍に武家改革派に大きな衝撃を齎したのは記憶に新しい。
だからこそ日本帝国政府と日本帝国軍は本土決戦に備えながらも、BETAの侵攻を朝鮮半島北部で防ごうと死力を尽くす予定でいた。
だが武家保守派は全く正反対の考えだ。
「存じておる」
「崇宰公は存じていながら、敢えて本土決戦を行うと言うのですか?」
「戦いと勝利に犠牲は付き物だよ。中根総理」
崇宰公の言葉に中根総理の目を剥いた。そして頭中が急激に沸騰した。
「西日本全域の5000万人もの国民を、貴方達武家保守派の為に犠牲にしろと言うのですか?」
「現実的に5000万人の避難等不可能であろう・・・?」
日本帝国政府と日本帝国軍は対BETA戦の継戦能力を維持しながら、中部地方を含む5000万人もの日本国民の避難計画の立案を急いでいた。
当然の事ながら一番矢面に立たされるのは大蔵省だ。
大蔵省は史上困難にして二律背反の命題に取組まざるを得なかった。
年末年始そっちのけで、予算捻出と計画予算に取組む。
『我々大蔵省は知りたくなかった。あの様なシミュレーションの結果なぞ』
だが知った以上は、公僕である彼らには現実逃避が許されなかった。
そして馬鹿みたいに予算食いの『武御雷開発計画』潰しへと繋がる。
新規に中央官庁に入省した公務員達に、入省の訓示を述べた管理職達は口を開いて異口同音に言った。
『後方の最前線へとようこそ。君たちは楽が出来るとは決して思わない事だ。嬉しい事に君たちには、史上困難な計画に参加をして貰う事になる。過労死の覚悟を決めたまえ』
西日本全域5000万人の避難計画の遂行は、非現実的に見られていたが、『だからと言って知ってしまった以上は、やるしかねえだろう。それとも何か、迫りくる破局と絶滅を黙って見ていろと言うのか?』5000万人避難計画を立案推進する《政府統合避難計画推進部》参加した責任者の一人が、『余りにも非現実的な計画だ』と非難する野党とマスコミにそう反論した。
「やって見なくては分かりますまい。【武御雷開発計画】の再開も認めませんし、【不知火】の実戦配備と大陸での試験運用は予定通りに行いますぞ」
中根総理はそう言うと、席を立つ。
「もうお帰りですかな?」
「これ以上貴方と話しをしても、意見が合うとは思えませんですからな。時間の針を過去に戻そうとしている崇宰公とは特に」
中根総理はそう言うと部屋から出て行った。
総理官邸に戻った中根総理には、外務大臣の榊是近と斑鳩崇継と崇宰恭子の3人が待っていた。
「中根総理、崇宰公との話し合いはどうでしたか?」
「どうもこうもない、完全に決裂だ。時計の針を過去に戻す為に、国民の犠牲を前提にした本土決戦なんぞ、とても正気の沙汰とは思えんよ」
中根総理は3人に会談の中身を吐き捨てる様に、3人に一部始終を話した。
「父がそんな事を・・・」
会談の中身を知った崇宰恭子は、ショックを隠せないでいた。
彼女は自分の父親が古い思想の持ち主なのは知ってはいたが、まさかここまでとは思ってはいなかったのだ。
「して、総理はどうお考えなのですか?」
外務大臣の榊是近が話しを促す。
「認めるわけにはいかない。確かに5000万人もの避難計画は非現実的かもしれないが、だからと言って諦めるには早計であろう。だからこそ斑鳩崇継君」
「はい総理」
「君のやりたい様に遣って構わない。全ての政治的責任は私が取る。武家保守派を徹底的に潰したまえ」
「総理はそれで宜しいのですね?」
「どっちにしろ私は、任期満了で総理の座を退くだけではなく、派閥を榊君に譲って政界から引退する予定だ。だから私に遠慮する必要はない。思い切りやりたまえ」
「感謝に堪えません中根総理」
数日後、泣く子も黙る文春砲が炸裂した。
『武家保守派、天才少年白銀武君を謀殺か!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《1993年3月中旬》
「良し、出来たあー!!!」
文春砲が炸裂した翌日、警戒厳重な帝国陸軍横浜訓練校での一室で、武に取って目的の一つ、《新OS・XM3a》の完成を瞬間だった。
「長かったぁー!」
苦節2年、幼馴染の鑑純夏に『武ちゃん、純夏とちっとも遊んでくれなくなった』と言われようが、母国を守りつつハイヴ攻略を成し遂げるには《新OS・XM3》は必要不可欠なのだ。
マスターディスクを握り締めながら喜びを噛み締める。
「良かったわね武」
武の母親が武の頭を撫でながら祝う。
「うん、ありがとう母さん」
帝国陸軍技術廠からの出向組みの専属スタッフからも拍手と「おめでとう」の賛辞が起きる。そう彼らも《XM3》の誕生が何を意味するのかを理解し歓喜している。本当の意味での戦術機運用の革命が起きるのだから。
帝都大学からは、《新OS・MX3》が正常に機能させる為の戦術機用《新型・CPU》の試作品が出来たとの報せが入ったばかりなのだ。
後は帝国陸軍技術廠の方で、試作機【93式不知火】に搭載し実際に正常に機能するかの段階に入る。
それと並行して量産型《XM3b》版を作る事になる。
(でも、やる事は山積みだ)
試作機【93式不知火】12機で《XM3》の運用データを収集しながら、大隊規模の先行量産機48機に《XM3b》版を搭載し、大陸に派兵する。そこで期待通りの結果を出して初めて上手く行ったと言えるのだから。
それ以外にも戦術機の航続距離を大幅に伸ばすフライトユニットの開発に、高周波長刀、各種電磁投射砲、地中埋設型マイクロ波発生装置、ガンマ線レーザー砲、対レーザー撹乱膜、対レーザー電磁シールド、ラムジェット砲弾、1200ミリ超水線砲、超水線砲を搭載する飛行船、全天周囲モニター、リニアシート、対Gキャンセラー、純水素爆弾、水中戦用戦術機、衛士の空間認識能力を最大限に拡大させるバイオセンサー、より軽量かつ強度を増した発泡金属装甲、補給用コンテナを前線に運ぶ人形二足歩行輸送、電磁投射砲2門を搭載した上半身戦術機自走砲等の開発計画が続く。
湯水の如く沸いて出て来る兵器開発構想に、白銀武専属スタッフ達は畏怖を感じてもいた。
『はっきり言って異常だ。だが今の日本帝国に取って、彼の才能は必要だった』
と専属スタッフが後日談で述べている。
BETAの帝国本土侵攻に備えて、5年以内にフライトユニット、高周波長刀、各種電磁投射砲、地中埋設型マイクロ波発生装置、対レーザー撹乱膜、純水素爆弾、水中戦用戦術機は実用化に漕ぎ着ける必要があった。
ゆっくりと休み、小学生に戻っている暇などないのだ。
その頃光菱重工横浜小机研究所では、白銀景行と篁祐唯とミラ・ブリジッスの3人が眉間にしわを寄せていた。
「カゲユキ。やはり無理があるわよこの計画・・・」
この計画とは白銀影行が1人息子武の身の安全を五摂家と斯衛軍から保証を買う為に、強化された【93式不知火】をべースにした近衛軍専用機【93式不知火・近接戦闘型】を作る案なのだが、早くも基本設計の段階で躓いていた。
「あぁやはり無理があるな。【不知火】はバランスの良い機体ではあるが、開発期間の短さと、切り詰めた基本設計から来る拡張性の無さは致命的だ。斯衛軍の要求通りの近接戦闘型を造るとなると機体のさらなる大型化が求められる」
【93式不知火】は基本設計の段階から近接戦闘を重視した設計だったが、斯衛軍が求める戦術機は、【不知火】以上の近接戦闘重視型だ。機体の細部に至るまで近接戦闘仕様要求なのだ。
【不知火】でその仕様要求を満たすとなると、【不知火】の大型化が求められてしまう。
大型化すれば一機辺りの調達コストが数割跳ね上がる。
何故跳ね上がかと言うと、それ専用の新しい製造ラインが必要になるし、部品の調達数も増える。
機体全体を近接戦闘仕様に変更しなければならず、駆動部と間接部の機構も複雑な仕様となり、量産性、整備性、互換率も悪くなる。
そして何よりも近接戦闘仕様【不知火】の開発費が当初見積もっていた2千億円ではなく、軽く3倍に達しようとの見積もりが設計部から出た。
『主任、あれ程否定的だった【武御雷】を我が社で造るつもりなのですかと?』
設計部から嫌味が出た。
「これじゃあ【武御雷】の二の舞だな・・・」
白銀影行と篁祐唯の二人は、城内省と斯衛軍上層部の仕様要求が無茶に等しかったのを痛感させられた。
「これなら最初から【不知火】を《XM3》対応機への改修した方がずっとマシね」
ミラ・ブリジッスの提案に頷くしかなかった。
《新OS・XMシリーズ》に問題点があるとしたら、鋭敏過ぎてしまう操縦だ。慣れれば大した問題ではないのだが、旧OSに慣れてしまったベテランパイロット達からは、操縦系の遊びの無さを何とかして欲しいとの苦情が幾つもよせられていた。
この問題解決に帝国陸軍技術廠、富士教導団、斯衛軍技術開発部&教導隊、キルケ・シュタインホフ少佐の小隊が富士教導団で協力し合うことで解決に当たっている。
先行量産機の実戦配備には何とか間に合う見込みは建ってはいた。
ちなみにキルケ・シュタインホフ少佐の部隊は、部隊全体からの要望で、日本への派遣期間は一ヶ月延長された。
部隊全体の要望とは、温泉と炬燵だった。
冬の間にすっかり日本ナイズ・・・
いや、懐柔されてしまった彼らは、温泉と炬燵から離れるのを嫌がってしまう。
部隊長であるキルケ・シュタインホフ少佐はこれには頭を抱えるしかないのだが・・・。
『隊長だって、すっかり炬燵派じゃないですか!』
と部下に言われる始末だ。
何しろ自分の部屋に畳に炬燵、猫に蜜柑や日本茶を置いているのだから。
『別にいいじゃない、猫と炬燵ぐらい』
ーーーーーーーー(閑話休題)ーーーーーーーー
「アメリカ人の私が言ってはいけないんでしょうけど、ジョウナイショウと
ミラ・ブリジッスはバッサリと切る。
白銀影行と篁祐唯もこれには頷くしかなかった。
「タイプ93もタケル・シロガネが開発した幾つもの新技術で性能が大幅に強化されたにも関わらず、ジョウナイショウと
初期案よりも大幅に性能強化された【93式不知火】は関係各所の全面協力で最高時速950キロ、連続稼働時間は2倍、行動半径は3倍、機体の反応速度は3割増し強と、これでもかと強化され、フライトユニットが実現すれば、最高時速が亜音速へ到達し、更には長距離飛行も可能になると言われている。
気の早い一部の外交筋からは『タイプ93は本当に第3世代機なのか?本当は第4世代機では?』と見られている。
それ程までに武の案と開発技術に沿って強化された【93式不知火】は高性能機になった。しかも量産性、整備性、互換性を持つ形で。
武本人はと言うと『【93式不知火強化型機】はあくまでも第3世代機であって、第4世代機ではない。厳密に言うと強化された【93式不知火】今の技術力では第3.75世代機に留まる』と、帝国陸軍広報部を通じて自身の見解を発表している。
これに対して城内省と斯衛軍上層部からは、『【93式不知火】を凌駕する近接戦闘仕様の世界最強の戦術機を何年時間が掛かっても造れ』だった。
要は四の五と言わずにさっさと世界初の第4世代機【武御雷】を造れだ。
これを聞いた白銀影行と篁祐唯の二人は鼻白む。
篁祐唯は日本に来たばかりのミラ・ブリジッスにも協力を要請。彼女も篁家に席を置く以上、何かしら早急に功績を立てる必要があり、二つ返事で引き受けた。
ミラ・ブリジッスには篁祐唯との間に男子が居り、名前はユウヤ・ブリジッスで年齢は14 歳になる。
城内省でもユウヤ・ブリジッスを正式に篁家の嫡男として認められるかどうかで一悶着が起きかけたが斯衛軍中等科編入試験で、ユウヤ・ブリジッスが衛士としての適性検査を受けた際、何の予備訓練を受けずに白銀武と同じAAの数値を出した事で中斯衛軍中等科に一発で合格。城内省と斯衛軍上層部は白銀武の対抗馬として、ユウヤ・ブリジッスを篁裕也として育成をする事を決断した。
こうしてユウヤ・ブリジッスは篁裕也として斯衛軍中等科に合格編入となる。
しかしこうなって来ると、微妙な立場に立つのが篁祐唯と正妻・篁栴納との間に産まれた娘・篁唯依だ。
篁唯依は早くも美少女にして、剣術の才能の持ち主として評判が高く、未だ小学生にも関わらず、幾つかの婚姻の申し入れが来ていた。が、彼女は1人娘にして、譜代武家篁家の次期当主の立場だったので、婚姻の申し入れをやんわりと断る事が出来た。
だがブリジッス母子が日本に来日し、連れ子のユウヤが、正当な篁家の嫡男に認められた事で、篁唯依の次期当主としての立場は微妙な立場に。
城内省は『篁家の次期当主の問題は篁家で解決すべき』の姿勢ではいるが、城内省と武家保守派は、『あのあの生意気な横浜の小僧こと』白銀武の対抗馬に育てる以上、篁裕也には篁家次期当主に育って貰わなくてはならないのだった。
そしてその帝都での空気を冷ややかに見る巌谷榮二。
彼はその空気を利用して、武と唯依の婚姻を目論む。
白銀影行に
『しかし栴納さんがミラ母子の篁家入りを許したなあ』
白銀影行からしてそれ事態が奇跡に思えた。時期的に見て篁祐唯と鳳(旧姓)栴納との婚約が成立した後の浮気だったので、100%非が篁祐唯にある以上は、ミラ母子の篁家への受け入れは無いと見ていた。
『まあ栴納さんも、跡取り息子を産めなかった負い目をずっと持っていたからなあ・・・』
昔ほどではないが、武家村では未だに男子家督相続の意識が根強く残る。
ミラ母子を受け入れる事は、男子を産めなかった自分自身の立場を危うくしかねない。
『まあミラも栴納さんもしっかりとした女性だよ。なんのかんのと言われるだろうが、上手くやっていくさ』
『俺なんか浮気をしたら、『浮気相手を俺の目の前で、笑顔で殺してあげる』と楓に言われているんだぞ』
『お前は浮気したら駄目だろに。楓君はいつまで経っても女子高生で通るんだからな。武君も気にしていたぞ。楓君と一緒に外を歩いていたら、母子じゃなくと年が若干離れた姉弟にしか見られないと』
『いやあれでも成長したぞ。なんせ初めて出会った時は、一瞬小学生かと勘違いしたんだからな。今ではご近所からは女子中学生に見える様になったと言われている』
何も知らない第三者が聞けば、眉を顰めたくなる会話が平然と二人の間で続く。白銀楓は容姿と年齢が全く一致しないので『外見詐欺』『合法ロリ』で有名だった。
白銀楓が屈強な二人の兄と同じく衛士志願した時、周囲は大反対した。武芸に秀でた彼女だったが、身長が150cmに届くかどうかな彼女が、衛士になれるとは誰も思っていなかったのだ。
だが周囲の予想に反して、白銀楓は衛士としての適性がとても高く、人の数倍の努力で体格の無さを克服をし、【89式瑞鶴】のテストパイロットにも選ばれた逸材だった。
だからこそ、白銀影行と結婚すると聞いた城内省元老院と武家保守派は大反対した。当時真剣に白銀影行を謀殺する動きもあった。それを知った白銀楓は、城内省元老院に真剣と薙刀を持って城内省元老院にヤクザのカチコミ・・・・(ゲフンゲフン)・・・・怒鳴り込んだ。
『あの時は肝を冷やしたぞ。彼女を怒らせて無事で済む男は皆無だったんだからな』
『あははははははは』
『そう言えばキルケ・シュタインホフ少佐は、楓君にどことなく似ているなぁ』
『皆良く言うが、そんなに楓に似ているかあ?』
『人種の違いを除けば、顔立ちや背格好は似ているぞ』
『だが楓は彼女ほど胸と尻は大きくないが』
巌谷榮二はこの時、白銀影行の鈍感に感謝した。と同時に欧州連合情報部の優秀な調査能力に恐怖した。
(影行の奴が鈍感でなければ、間違いなく横浜に血の雨が降っていただろうな)
今回の技術提携と交流では欧州連合は期待通りの成果が出ていると言っていいが、キルケ・シュタインホフを使って影行をハニトラに引掛付けるのには失敗はしている。
キルケ・シュタインホフ少佐が訪日訪問部隊の隊長に選ばれたのは、顔立ちと背格好が楓に良く似ていたからだ。
キルケ・シュタインホフ少佐本人も、影行との接触を命じてられていたのか、最初の頃は何度も影行との直接的な面会許可を求めていたのだが、日本帝国側のガードが堅くて会う事は出来ないでいる。
欧州連合としては情報にデバフが入るであろう日本帝国政府経由ではなく、影行経由で武に関する情報を入手したかった。そう言った意味では、半分失敗と言える。
日本帝国政府の方は未だ手付かずの資源が眠り、農業に適した肥沃な大地を持つマダガスカル島の開発と資源と農作物の日本への最優先輸出権利を手に入れた意味は大きい。
日本帝国政府はもう既に数百人規模の調査団をマダガスカル島に向かわせている。
BETAの直接的脅威に曝されていない日本帝国は、北半球しかもユーラシア大陸に面している国にも関わらず天然食品が手に入る国だ。だがそれが何時までも続くと言う保証はないので、BETAの直接的な脅威に曝されていない南半球の国々から資源と農作物をどうやって調達するのかが最優先使命だ。
そう言った意味では日本帝国の方が実利があったと言えなくもない。
(しかし判断に迷うな、影行の性癖は。楓君一筋と思えば良いのか、それとも本人に自覚の無い真性のロリコンか・・・)
アメリカに技術研修に行っていた時、不思議と白銀影行はあちらの女性にモテていたが、本人に全くその気が無いのかほぼ毎日資料庫に籠もり切りだった。巌谷榮二も篁祐唯もあの頃は、白銀影行は生真面目一点張りの性格だと思っていたのだが、どうやらそうではなかったようだ。
『ミラ達は何かと大変だろうが、上手く日本の生活に順応してくれるのを祈るしかないな』
『そうだな・・・・』
何はともあれミラ・ブリジッス母子の日本での生活はこうして始まりはした。前途多難要ではあるが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はあ、電磁投射砲は必ずしも戦術機での運用は必要ないと言うのか?」
帝国陸軍技術廠で《XM3a》版のマスターディスクを白銀武から受け取った巌谷榮二は、今後の兵器開発スケジュールの調整の打ち合わせをしている最中に、武本人の口から電磁投射砲の運用に関する意見を述べられる。
「はいそうです。BETAの東進が本格化して来た今、一刻も早く電磁投射砲を開発する必要があり、必ずしも戦術機での運用前提にした開発をすべきではありません。寧ろ今はBETAの東進を阻止する事を優先し、電磁投射砲を2門搭載した半自走砲【玄武】の開発を優先すべきかと」
そう言った武は電磁投射砲2門を搭載した【玄武】の設計図と模型を巌谷榮二に見せた。
「これは上半身が戦術機で、下半身が戦車か・・・・」
「はいそうです。電磁投射砲はBETAの東進と帝国本土上陸を水際で阻止する兵器としての位置づけである以上、一刻も早い開発と実用化が急務です。その為にも運用が難しい戦術機での運用ではなく、戦車兵でも扱える自走砲式が望ましいかと」
「それでこれか・・・」
巌谷榮二は武が提出した設計図と模型を好奇心旺盛な目で交互に見る。
(しかし今更ながら、武君の発想の違いと柔軟な思考には感心させられるな)
武が巌谷榮二に見せたのは上半身が【撃震】、下半身が戦車と言う傍から見たら、使い道に困りそうな代物だが、対BETA戦に限って言うのなら、有効な面制圧兵器と言える。
両腕には突撃砲を持たせ、固定装備には対小型種用20ミリから25ミリの機関砲を両腕に固定装備させる。
乗員は2名、車体の方には操縦士が乗り、上半身に車長兼砲術士が乗り込んで、役割を分担させて負担を減らす。
(ふむ、これなら普通の戦車兵でも扱えるな。やってみるる価値はあるのか)
「見た所、上半身は【撃震】の様だが・・・・」
「はい。開発期間を極力短くしたいのと、出来るだけ既存の生産ラインを活用したいからです。それに何と言ってもF-4系列の機体は頑丈で、電磁投射砲の強い反動に耐えられらそうなのが強味になるかと」
F-4系列は重装甲なので『鈍重』『鈍亀』と揶揄されがちな機体なのだが、武はむしろ重装甲から来る頑丈さに着目したと言える。【77式撃震】の上半身が電磁投射砲の砲座として使えるのなら、開発期間は非常に短くて済むのと、1台辺りの生産コストも安くて済む。アメリカはもう既に第1世代機の生産を打ち切っているので、F-4一機辺りのライセンス料は本当に銭ゲバ主義のアメリカかと疑いたくなる程、安く済む。
(結局は単なる貧乏性なんだろうな、うん)
何しろアメリカとは違い開発予算は限られている。既存の生産ラインを活用出来るのなら、とことん生産ラインを使い潰すまで使うべきだろう。
「いいだろう。統合幕僚会議に貴様の案を提出しよう」
「本当ですか、巌谷少佐?」
「ああ、これが実用化出来れば、BETAの数に対抗出来る様になるからな。やってみる価値はある」
巌谷榮二はこれまでの実績もあるので、【玄武】の開発案は通ると見ていた。何よりも戦車兵科にとっては、面制圧が可能な機甲戦力が手に入るのだ。これを逃す筈がないの確信を持つ。
「ありがとうございます。巌谷少佐」
「しかしまあ意外だったな」
「何がですか?」
「《戦術機馬鹿》の異名を持つお前の事だから、てっきり【高等練習機吹雪】や【不知火高機動型】の方に食い付くと思っていたんだがな」
そう言って肩を竦める巌谷榮二。今、帝都・京都は《文春砲》の炸裂で荒れ初めていた。武家保守派と武家改革派の対立は最早引き返せない所に来て、日本帝国政府内も官房府、大蔵省、国防省の3省対城内省、斯衛軍参謀本部の対立も明確になってしまう。
今の城内省と斯衛軍参謀本部は武家保守派が実権を掌握している。
帝国議会は政党の立場はどうであれ、武家保守派が時間を巻き戻して、武家が権利を支配する幕府体制の復権を認めるつもりはなかった。
中根総理は帝国議会の全政党の代表を総理官邸に招集し、議会政治と民主主義の堅持への協力を要請。全政党代表は中根総理の協力と要請に応じた。
官房府、警察省、情報省、帝国軍は白銀家とその隣家鑑家の護衛の強化に乗り出し、大蔵省は武家保守派の金融資産の凍結へと動き出す。
「崇継、この後どうするつもりでいるの?」
「何、あちこちに火を付けるだけさ」
「消化の準備は万端なんでしょうね?」
「恭子昔から言うだろう、あちこちに火を付けたがる者程消火の準備は万端だと。だけど私は一度も消火の準備は万端だとは言っていないよ」
「貴方ねー!」
「だがこれだけはハッキリと言える、このまま旧態依然の体質を引き摺れば、明確な策を持たずにBETAを帝国本土で迎え撃つ事に事になる。これでは先の大戦の過ちを繰り返すだけだ」
「だから、父達保守派の暴発を誘発すると・・・」
「君のお父上には誘蛾灯の役割を果たして貰うだけさ。老人共と保守派を一掃する」
崇宰恭子は古い考えに固執する父親に憐れみすら感じた。
「それで崇継、貴方は本当に政威大将軍になる気はないのね?」
「ないよ。私が政威大将軍になったら、怠け根性をフルに発揮して自堕落な日々を送るだろうね。仕事は全部周囲に放り投げてさ」
「分かったわよ。私がやるわよ政威大将軍を」
(済まないね恭子。君にはこの国最後の政威大将軍になって貰わないと困るんだ)
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巌谷榮二は裏で常に『乱世の奸雄型』との評判が付き纏う斑鳩崇継と連絡を取り合っている。
その斑鳩崇継からは、暫くは白銀家や隣家鑑家を帝都・京都に近寄らせない様と頼まれていた。
『どんなに遅くても一月以内に蹴りを付ける』と。
「【高等練習機吹雪】と【不知火高機動型】の開発にも関わりますし、実際に【吹雪】の実機に乗るつもりでいます」
【93式不知火】の実戦配備が始まれば、【89式陽炎】生産は順次縮小され、数年後には部品供給を除いては生産は事実上停止され、全て性能を大幅に強化された【93式不知火】へと機種転換が進む。
余剰機体となった【89式陽炎】は一部を除いては、国連軍に回す予定だ。
問題は【77式撃震】の後継機だ。新技術の導入で【77式撃震】の延命は出来たので、引き続き【77式撃震】の生産は継続される事が決まったのだが、世界初の第3世代機を開発した国が、いつまでも第1世代機を使うのも軍の沽券に関わるで、【高等練習機吹雪】をべースにした実機型を造るのが決まっている。
武は【高等練習機吹雪】を使い、全天周囲モニター、リニアシート、耐Gキャンセラー、小型化した水素燃料電池、肩部と脚部に姿勢制御ノズルを導入したかった。
【吹雪】に関して言えば、設計の段階から武は関わっていたので、開発への自由度が違う。最初からある程度の拡張性を【吹雪】に持たせてもいる。
もし【高等練習練習機吹雪】で、上記の技術が上手くいけば、この後予定している【93式不知火1型】【93式不知火高機動型】【吹雪】の実機型【雪風】でも使う予定だ。
【吹雪】の実機型の名前を違う名前にするのは、ただ単純に間際らしさから来る。
「しかしまあ相変わらず厳しいスケジュールだな。全部5年以内に開発しろとは」
スケジュール表を見た巌谷榮二の顔が渋くなる。
「そうですね。でもやるしかないですね」
そうやるしかなかった。大陸の戦線は後5年も持てば良い方との悲観的な見方が強まる。
中国軍とソ連軍の予備兵力の枯渇が原因で、今の戦線が突破されたら、BETAは1年以内に北京に到達され、モンゴルも制圧されるのは確実視されている。
統一韓国軍は比較的健在だが、統一韓国軍には第2世代機は一部の特殊部隊にしか配置されておらず、統一韓国軍の戦術機は旧OSのままだ。
統一韓国政府からは、新OSと関連技術の技術供与を求められるているが、日本帝国政府とは無償か有償かで揉めているのと、日本帝国にしても新OSと関連技術は漸く生産体制が整ったばかりで、統一韓国や他国への技術供与体制が整うのは年明けに。だがBETAの脅威に怯える統一韓国政府は、『今ある生産ラインを全て統一韓国軍に振り向けろ!』と感情的に喚き散らすので、嫌気が差した日本帝国政府との外交交渉は暗礁に乗り上げてしまう。
『日本帝国政府は我が国を対BETAの防波堤に利用しているにも関わらず、我が国への支援を出し惜しみしている』
と連日の如く対日批判のボルテージを上げて行く。
早ければ1998年の夏頃にBETAの日本帝国への侵攻が始まると、日本帝国政府と帝国軍参謀本部は予測する。
だからこそ焦りもする。ここまで来たら、武の頭脳頼みでしかなくなる。
「その事何だがな。上の連中はお前さんには発明や開発だけに専念をさせて、戦術機には乗せるなと言って来ている」
「えっ・・・!」
「お前さんに何があったら国家の一大事だとな。『精々シュミレーターしか扱わせるな』との御達しだ」
「そんなあ・・・」
その日、武に最大級の衝撃が襲う。
後2・3話で❲93式不知火開発裏話し❳を終わらせる予定でいます。