マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

16 / 19
武ちゃん何周目? 93式不知火開発裏話し⑩

《1993年4月上旬》

 

 ユーラシア大陸での不気味な小康状態が続く中、帝都・京都では前線そっちのけでの権力闘争が続く。

 

「斑鳩崇継よ。白銀武の命の安全の保証と、斯衛軍への【不知火】正式採用を認めるが故。だから、早急にこの事態を終息させよ」

 

 城内省元老院重鎮•煌武院雷電が、目の前で自分を冷ややかに見る斑鳩崇継に告げた。

 

 煌武院雷電は煌武院悠陽の父方の祖父で、今は煌武院悠陽の後ろ盾でもある。

 

 煌武院雷電の両脇には二刀の懐刀紅蓮醍三郎斯衛軍大佐、神野志虞摩斯衛軍大佐の2人が控える。

 

(やれやれ、この老人達を出馬させるとは。保守派も余程余裕が無いと見える)

 

 斑鳩崇継が《文春砲》にリークしたスッパ抜き特集号の号砲が鳴り響いた後、日本帝国政府は保守派への経済制裁を実施し、全ての銀行、証券、不動産会社が保守派との取引を停止させ、資産凍結へと踏み切った。その影響は直ぐに日常生活の悪影響と形で出た。銀行口座が閉鎖されてしまえば、食料品や日用品の買物にも困るし、大蔵省が『武家保守派に何一つとして売るな』とスーパー、デパート、下町小売店業界に圧力を掛け、食料品や日用品を買うにも困る事態にも発展。帝国議会も武家保守派非難決議を衆参両院で満場一致で可決してしまう。

 

 まぁ抜け道(裏帳簿等)はあるのだが、資金的に余裕が無い外様武家が早くも資金繰りに行き詰まっていた。

 

 斑鳩崇継の保守派潰しは徹底しており、京都府と大阪府の御用商人や商家にも手が回っている。

 

 帝都・京都内でも複数の武家保守派への抗議デモが発生、城内省と斯衛軍参謀本部の前は、抗議デモ隊が毎日訪れ、警戒に応じる警察官と憲兵隊が対応に苦慮していた。

 

 斯衛軍憲兵隊は小隊長以上は武家なのだが、その他の憲兵隊員は一般出身者が占める。

 

 憲兵隊は武家の中では不人気部署で、憲兵隊に配属されるのは事実上の左遷扱いで閑職&窓際族扱いだ。それだけに心情的には国民寄りが多い。

 

「さて、何の事でしょう?」

 

 煌武院雷電、紅蓮醍三郎、神野志虞摩の3人は保守派が支配する元老院の中では、政治に中立な立場の中道派。それと紅蓮醍三郎と神野志具摩が自身の剣術の師に当たること。自分の武家改革路線にも一定の理解を持つので、斑鳩崇継として出来る事ならこのまま中立の立場で居て欲しかった。

 

 やはり年代的に保守派寄りなのであろう。

 

「惚けなくても良い。全てはお前が仕組んだ事であろう」

 

「それは誤解に近いですな。多少の仕込みはしたのは事実ですが、燎原の火の如く、あちこちでの火災は、自然発火に近いとしか言えませんな」

 

 何よりも1番の頭痛の種は前線国家や喪失国家からの抗議が連日の如く日本帝国政府に殺到していた。

 

『日本帝国のブケホシュハが思想の違いから、天才発明家タケル・シロガネの謀殺を企むのは見過ごす事は出来ない。必要であれば、タケル・シロガネの身辺を守る特殊部隊を日本帝国に送り込む事も辞さないし、タケル・シロガネとその家族、親類縁者の欧州連合への亡命も受け入れる』

 

 との抗議声明が欧州連合議会で出された。もはや日本帝国国内の問題ではなくなってしまう。日本帝国陸軍参謀本部と外務省では武家保守派への罵詈雑言が僅か30分で百ダース程記録され、参謀本部は保守派への圧力を加える意味で改革派絡みを除き、予算全ての無期限凍結を城内省と斯衛軍に通達した。にっちもさっちも行かなくなった保守派は、沈黙を守り続けている3人に泣き付いたのだ。

 

「・・・・・・・」

 

「それにこのまま手を拱いていれば、そう遠からずに無為無策のまま、BETAの帝国本土侵攻を迎え撃つ事態になるのは必然と言えましょう。 さすれば、間違いなく昨年度末に出たコンピューターシミュレーションの結果を迎えましょう。 BETAは常に我等人類の予測を超える行動を取る。 第2世代機の登場で一時はBETAを押し返す兆候が見えるなら否や、BETAは大規模な地中侵攻を繰り返し、西ユーラシア大陸と亜大陸の戦況を決定してしまった。 白銀武の予測に因ると、どうやらBETAには巨大な地中掘削器を保有し、それを戦術的に使い、人類側が破られたくない防衛線への奇襲攻撃を頻繁に繰り返している。それに対し、人類側は未だに有効な手立てを立てられていないのが現状で御座る。だからこそ白銀武を中心とした挙国一致体制、国家総動員体制を早急に確立しなくてはならない。それには保守派は単なる邪魔な存在でしかない」

 

「ならばそうするが良い。我々が責任を持って保守派を説得し協力させる。それならば貴様も文句もあるまい」

 

「言って置きますが、保守派の排除は確定事項です。これだけは譲れません」

 

「何故そうまでして保守派の排除に拘るのだ斑鳩崇継?」

 

「保守派の古い固定観念が、武家そのものを滅亡へと誘っているからですよ」

 

「言っている意味が良く分からないが?」

 

「助六郎よ、御老体達に例の書類を見せよ」

 

 斑鳩崇継は士官学校卒業後に自分の側役に選ばれた真壁助六郎を見やる。彼は常に沈着冷静との評価を受けている。が…

 

「宜しいのですか?崇継様・・・」

 

 そんな(沈着冷静と)評価を受けている彼が、珍しく動揺を見せる。

 

「今は百の論寄り、一つの証拠だ」

 

「分かりました崇継様・・・」 

 

 真壁助六郎は一礼をすると、鞄から大きな分厚い封筒を3通取り出して、無言のまま煌武院雷電、紅蓮醍三郎、神野志具摩の3人に一通ずつ差し出す。 

 

「これは何の封筒だ、斑鳩崇継よ」

 

「先ずは中身を御覧になって下さい」

 

 分厚い封筒を渡された3人は無言のまま封を切り、中身の書類を引っ張り出す。そして見た。

 

「これは一体・・・!?」

 

「これは事実なのか斑鳩崇継よ・・・!?」

 

 封筒の中身は3人に取ってメガトン級の破壊力を齎した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「神田大隊長、本当に静かですね」

 

 最前線での重慶方面では、熊本第6師団所属の第1機甲戦術機部隊48機がある物を探していた。

 

「嵐の前の静けさだ。油断するなよ。どこにBETAの伏兵が潜んでいるか分からないからな」

 

 神田少佐の言った通りで、ハイヴ周辺とは違い、自然や稜線が健在で、休眠しているBETAが、そこらかしこに潜んで居ても不思議ではなかった。

 

 BETAは比較的小型種を休眠状態にして潜ませ、人間が近付くと休眠状態から目覚めて、人間に襲い掛かるのが珍しくなかった。これが兵士級辺りなら、歩兵でも手持ちの火器で対処しようがあるのだが、戦車級や軽光線級だと油断していれば戦術機でも撃墜される危険度は跳ね上がる。

 

 ユーラシア大陸や亜大陸の戦線では、これで数多の犠牲を出していたのだ。

 

 だからこそ迂闊にBETAへの勢力圏への索敵や偵察活動は出来ないでいる。

 

 無尽蔵の生産力を誇るBETAなら、軽光線級一体、戦車級数体の犠牲は痛くも痒くもないが、戦力が有限の人類側はそうはいかなかった。

 

 だから今回の大隊規模でのBETA勢力圏への索敵、偵察、調査は異例中の異例に近く、通知を受け取った統一中華戦線と国連軍は真っ先に反対した程。

 

「しかし本当にBETAは地中深くを掘削する掘削器を持っているんですかね?」

 

 第1大隊の目的はBETAが以前の戦闘で行なった地中侵攻跡地を調べ、BETAが地中深くを掘削する掘削器の存在を確認する事だった。

 

 その為に最新型の【92式地中探査ソナー】と、軍用特殊爆薬を大量に持参して来たのだった。

 

 熊本第6師団には、戦車旅団、重自走砲旅団、工兵旅団、機械化歩兵旅団、後方支援旅団のそれぞれ一個旅団が増援として到着している。

 

 ただ悩みがあるとしたら、自分達で消費する水は自前で用意しなければならない事。

 

 理由は長期化した対BETA戦争で、河川や地下水の汚染が酷いからだ。

 

 その為、帝国陸軍参謀本部と後方勤務本部は必要な水の確保とその輸送手段に頭を抱える事になる。

 

「見境なく戦術核や劣化ウラン弾を使うから、こんな事になるんだ!」

 

 帝国陸軍後方勤務本部長はそうヤケクソ気味に言う。

 

 帝国軍参謀本部では早くも重慶放棄論が囁かれる。

 

 重慶を放棄して、水の確保と兵站線が短く、上海の防衛がしやすい合肥まで後退し、合肥を拠点にして防衛戦の再構築すべきだと言う案だ。

 

 合肥後退案は一部から支持された。だがその場合四川省と重慶市が、BETAにあっさりと陥落してしまう危険性が最も高い。四川省と重慶市が陥落すれば、BETAの大規模侵攻を遮る地形と難所は無くなり、北のモンゴル、北東の北京への侵攻が容易くなってしまう問題が発生する。 

 

 また、統一中華戦線と国連軍は四川省と重慶市の防衛を諦めておらず、日本帝国独断での防衛戦の後退はし辛い。

 

 中国共産党政府は自国民の疎開と避難を認めていない。

 

 日本帝国政府にしても、中国からの無原則な避難民受け入れに消極的で、日本帝国陸軍が独断で後退すれば、中国人がパニックを起こして、日本に難民と化した中国人が大挙として押し寄せて来かねないと恐れ、合肥後退案を握り潰してしまう。

 

 その代わりとして日本帝国政府は中古車市場の2トン以下のトラック買い占めと、下町工場にトラックの荷台に搭載あるいは牽引可能な鉄製水タンク20Lの大量生産を命じる。しかし日本全国の下町工場群全てがフル生産体制に入っていたので、下町工場群の反発を招く結果に。

 

「御上連中は俺達を過労死させる気か!?」

 

 だが水の確保は急務なので、どうにかしたかった。

 

「あの、でしたら、プラスチック製のポリタンクはどうでしょうか?」

 

 白銀武は化学メーカーが開発したばかりのプラスチック製ポリタンクを見せる。

 

「そうか、その手があったか!」

 

 鉄・貴金属類の分配に頭を悩ませていた軍需省、産業省、国防省は天の啓示を聞いた思いだろう。

 

 プラスチック製ポリタンクは、熱や火に弱い弱点はあるが、鉄製やステンレス製に比べて安価で大量生産が可能だ。

 

 中東が陥落した事で、石油が不足していたが、90年代に入り南樺太、有明海、五島列島南沖、糸魚川沖、酒田沖、陸奥湾、稚内沖、根室沖で相次いで有望な石油、ガス田が発見され、日本帝国政府主導で急ぎ開発が進められていた。

 

 南樺太沖、有明海、五島列島南沖、糸魚川沖、根室沖はもう既に試掘が終了して、十分に採算が取れる油ガス田なのが確認されており、日本帝国政府としても、商業化を急ぐ。

 

 だがそこに冷水を浴びせる事態が起きる。

 

 それは水素エネルギーの開発実用化だ。

  

 今は軍事限定だが、今後も石油と天然ガスエネルギーが不足すると仮定した場合、石炭と水、数種類からの化学薬品で大量の水素エネルギーを低価格で抽出精製出来るのなら、石油と天然ガスエネルギーを脅かす新しい内燃機関の誕生と言える。

 

 その為、日本帝国のエネルギー会社は化学メーカーと一緒に国民向けにエネルギー産業の他業種化、他商品化を進める必要があった。

 

 そこで浮かび上がったのは、従来の鉄製やステンレス製よりも軽くて持ち運びが可能なプラスチック製のポリタンクだ。

 

 試作品の発表直後から開発メーカーに問い合わせが殺到していたのだが、政府・国防関係者は失念していた。

 

 開発元の化学メーカーも「半年待って貰えたら、十分な量を用意出来る」と太鼓判を押す。

 

「ただプラスチック製のポリタンクは火と熱に弱いので、国防関係にはあまり向いていないかと・・・・・」

 

 開発メーカーの研究者や技術者は難色を示すが、前線からの『水』の催促に勝てず、政府と国防省は大量の発注を依頼する事態となる。

 

 そして半国営企業の大日本石油会社の専務が光菱重工横浜小机研究所に訪れた。

 

「いやぁ~貴方の御子息は本当に素晴らしいですな。3D光プリンターの開発といい、数々の発明や開発で我が国の国際的立場と地位は向上するばかりです」

 

「お褒めに戴きありがとうございます。して、大日本石油の専務がこの研究所に来られた要件はなんでしょうか?」

 

 白銀影行はどうも嫌な予感がしてならなかった。

 

「実は私の姪が白銀武君とお見合いをしたいと申しておりましてな。いやぁ~私も実に困っておりましてな。わははははははは!」

 

 影行は必至に目眩と胃痛に耐える。

 

 今年に入ってからと言うもの、政財界のお偉いさんから娘だの姪っ子だとの見合いの申し入れが絶えない。

 

 一人息子の武の年齢が小学生なのを理由に、全て断っているのが実情だ。

 

 だがそれも、もうそろそろ限界に近付いてもいた。

 

「専務、申し訳ありませんが、姪っ子殿の御歳を聞いて宜しいでしょうか?」

 

「おう、今年の12月16日で21歳になりますぞ。ああ、そう言えば、御子息と同じ誕生日ですな。これは運命の出会いと言っても良いのでしょうな。わははははははは!」

 

 専務はそう言って笑うが、影行からしたら笑い話しでは済まされないのだ。下手な見合い話しを家に持ち込めば、妻・楓の身も凍りつく笑顔が待っているのだ。それを思い浮かんだだけでも胃がキリキリする。

 

「武の年齢は9歳です。11歳も一回り年下の男の子とお見合いしたがる姪っ子殿の性格と性癖もかなり問題では」

 

 

 

ーーーーーー《閑話休題》ーーーーーー

 

 

 

「全機、もうそろそろ目的地に着くぞ」

 

 神田少佐の報せで、全衛士が各々の機体のハザードマップで確認をする。そして数分後、

 

「全機、着地体制に入れ」

 

 隊長機の号令で第1大隊全機か着地体制を取り、荒れ果てた大地に着地する。

 

「ひでえなあ。何も無いじゃないか・・・・」

 

「全くだな。ここが川崎市がすっぽり入る果樹園や葉茶の産地とは思えないぜ」

 

 BETAに蹂躙された土地は、徹底的に破壊され、生態系と自然が真っ平らな死の大地に変貌する。

 

 長期に渡ってBETAに制圧されている中央アジアとウラル山脈は完全荒廃し、生命も見る影もなく、目も当てられない死の大地に変貌していた。

 

 何故BETAがここまで徹底的に均一で真っ平らな死の大地へ作り変えてしまうのか不明だ。

 

 これまでに分かった事は、『BETAは地球人類を始めとする地球上に生息する生命体を生物と認識していない』だけしか判明していないのだ。

 

「全機、コンテナを開放。1キロ間隔で、所定の位置に設営するんだ」

 

『了解』

 

 48機の戦術機が小隊単位に分散し、指定された12箇所にソナーの設置作業を開始する。コンテナから出されたセンサーは、4脚を広げて真ん中の筒に先端にドリルが付いた棒状のセンサーが4脚に設置され、長さ200mの有線ケーブルが取り付けてある。安全ピンを抜くと、ロケット噴射と同時に先端のドリルが回転して地面に潜って行く仕組みだ。

 

「大隊長。ソナーの設置準備完了しました」

 

「よし、ピンを抜くんだ」

 

 部下からの報告を受けた神田少佐は、ソナーの安全ピン抜けを命じる。

 

『了解』

 

 安全ピンを抜かれた【92式地中探査ソナー】は起動して地中へとのめり込んで行く。

 

 【92式地中探査ソナー】が150mの地下に到達するとソナーは自動的に地中にピンガーを発信し、地下1000m迄の音波探索を開始する。

 

 すると僅か数分もしない内に、地下500mの地下深度に直径200m幅のトンネルを発見した。

 

『大隊長。どうやらここで間違いない様ですね』

 

「ああ、師団司令部に緊急通信。『我、当該目標で間違いなしの未確認トンネルを確認せり。調査を続行』と」

 

『了解』

 

『しかし、縦横直径200m規模の大型トンネルですか・・・。これなら要塞級も重光線級も、群れを作して地下トンネルを通れますね』

 

「しかもこちらに気付かれずにだ、チッ」

 

 神田少佐は舌打ちを禁じ得なかった。

 

 随伴能力が遅く、鈍足な要塞級や重光線級が何故、唐突に姿を現すのかは謎扱いだったし、地中深くを掘削する巨大掘削器の存在が、これで裏付けられた格好だが、決して喜べる調査内容ではなかった。

 

 白銀武の言った通りの事態でBETAの大規模侵攻は、目的地付近への地中掘削作業が完了し、何時でも要塞級や大小光線級の地上展開が可能の合図なのだから。しかとこの地下トンネルを使い、BETAは幾らでも好き勝手に活動が可能なのだから。

 

「全機、大至急地下トンネルへの入口を探せ。そう遠くない場所に地下トンネルへの入口がある筈だ」

 

『了解』

 

 神田少佐の背中に冷や汗流れる、もし本当にBETAが巨大な掘削器を使い、大深度を自由に掘り進めるのだとしたら、東シナ海の海底を掘り進みながら、日本本土への直接侵攻が可能なのだから。

 

 神田少佐の脳裏にBETAの大規模地下侵攻の奇襲攻撃で炎上する帝国本土の姿が浮かぶ。

 

「冗談じゃないぞ、全く」

 

 程なくして数キロ後方に、地下トンネルへの入口を第1大隊所属の戦術機が見付けた。

 

『どうやらここが入口ですね』

 

「ああ、有線ケーブルを用意しろ。準備が出来次第、第1中隊と第2中隊でトンネルの中に入るぞ!」 

 

『はっ!』

 

「さて、入ったら何が出て来るかな?鬼が出るか、蛇が出て来るか。いずれにしても碌な物は出て来ないな・・・」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その頃ブランク・ハイネマン教授は富士教導団での自室で頭を捻っていた。

 

「やはりどう考えても合わない。これがとても9歳の子供が考える事なのか? エイジは見たまま感じたまま受け入れろと言うが。だかその御蔭で、【ブラック・ウィドウ】の第3世代機化が上手く行っている訳だが、それすらもタケル・シロガネの手のひらの上か・・・・」

 

 日本帝国の最新技術を手に入れ、【YF-23ブラック・ウィドウⅠ】の第3世代機に改修させる計画は順調に進んでいた。

 

 最初は新OSと新型CPUを搭載して、問題点を炙り出す作業から始め、次に強化パーツを使って機体を新OS・XMシリーズの対応機へと改修。次に水素電池と水素プラズマ・ジェットエンジンを使っての再改修を行う。これを毎日毎日繰り返しながら、問題点を洗い出しては、ネガを次々と潰しす。地味な作業の連続だが、この地味な作業を年単位で繰り返して行く事で、戦術機は完成されて行く。

 

「この調子なら、6月を待たずに改修作業を終了して【ブラック・ウィドウⅠ】を【Ⅱ】に引き上げれるのは間違いない。ならあの少年が何者なのかに関しては目を瞑るべきだろう」

 

 後はコクピットブロックの改修作業であるブロック3を前倒しにするかどうかだ。

 

「これなら【YF-22Aラプター】を圧倒出来る自信はある」

 

 【YF-23ブラック・ウィドウⅠ】は、アメリカ軍機としては珍しく近接戦闘と砲撃戦の両方を両立させようとした次世代試作戦術機だった。

 

 これに対して【YF-22Aラプター】は、これまでのアメリカ軍の軍事ドクトリンに忠実な機体で、砲撃戦メインの戦術機。

 

 フランク・ハイネマン教授は、アメリカ軍の軍事ドクトリンに対して以前から疑問を持っていた。

 

 ユーラシア大陸諸国と根強いパイプを持つ教授は、リアルタイムに近い形で各地情報が入る。

 

 アメリカ軍は戦術機には非常事態を除けば、戦術機には近接戦闘を禁じていた。

 

「これでステイツの目を開かせるはずだ・・・」

 

 フランク・ハイネマン教授は今のアメリカに危機感を抱いていた。今年に発足したばかりの新政権は、閉鎖的なアメリカ一国主義的・モンロー主義的色合いが強い政権だ。

 

 何しろ大統領選挙で、『アメリカ本国が戦場に為らない限り、対BETA戦争やユーラシア大陸の戦場で、アメリカ国籍の若者を戦死させない』を公約に掲げての当選だった。無論アメリカ国内で賛否両論を招いたが、結局は歴史的に見て、『これ以上ユーラシア大陸諸国の為に、何故アメリカ国籍の若者の血を流さなくてはならない?』と忌避的感情が勝ってしまい、激戦の末に新政権が勝ってしまう。

 

 アメリカ新政府は国連軍や義勇兵の育成に、前線国家の支援は行うが、アメリカ軍の直接的な対BETA戦争直接参戦はしないとの方針を固めつつあるし、第2世代機や第2.5世代機の開発協力や技術支援を一方的に凍結をした。

 

 無論、前線国家や喪失国家は抗議したが、アメリカ政府新政権は冷笑を浮かべるだけで一向しないばかりか、門前払いも珍しくもない。

 

 要するに『アメリカ製戦術機をアメリカの言い値で買え』だ。

 

 実際問題として国連は90年代に入り欧州戦線と中近東に亜大陸の戦線崩壊に伴い、喪失国家の増大からアメリカへの依存度が高くなっているので、アメリカに対し余り強くは言えない。

 

 前線国家や喪失国家の主力戦術機は第1世代機が主力戦術機の国は多く、それら(第1世代機)の改修も最早限界で、アメリカの良い値で第2世代機、第2.5世代機を買うしかないと苦渋の決断寸前の所までに追い詰められてもいた。

 

 だがそこに日本帝国が新型OSと新型戦術機用CPUを開発。それを搭載しただけで、戦術機の性能が一世代分性能が向上したとの夢みたいな朗報が舞い降りた。

 

 そしてそれが偽りでは無かったのが『重慶の奇跡』で証明されてしまう。前線国家と喪失国家は狂喜乱舞した。

 

 これで無理をしてまで、アメリカ製戦術機をアメリカの言い値で買わずに済んだと。

 

 前線部隊の指揮官達は自国政府に前線の窮乏と、日本帝国の新技術の早期導入を訴え、訓練教官達は慟哭した。

 

『新技術が10年早く開発されていれば、教え子達は死なずに済んだかも知れない』と。

 

 前線国家と喪失国家は藁にすがる思いで日本帝国の新技術に飛びついた。いや、正確には飛び付くしかなかった。

 

 アメリカ製戦術機を買う資金的余裕が無い国は、アメリカからの圧力で、自国軍を強制的に国連軍の傘下に入れ、避難先で辛うじて生き延びている自国民を、国連軍に強制徴用させる半歩手前にあった。 無論国連軍に入れば、3食飯付きの衣食住が保証はされるが、アメリカ政府の要請と言う名の実質的命令には逆らえない立場に置かれる。自国民の損失を恐れるアメリカとしては、自国民の盾となって戦うか戦死をする使い捨ての兵士が大量に必要なのだ。

 

 だがこれに冷水を浴びせたのは若干9歳の日本人少年だ。

 

 前線国家と喪失国家の中には、アメリカの傲慢な態度とやり口から、アメリカ製戦術機の購入を早くも見送りやキャンセルに出る国も出始めている。

 

 国連内部でも『日本帝国の先進的最新技術を積極的に取り入れて、アメリカへの依存度を減らすべきだ』との声が前線国家と喪失国家から出始めた。

 

 その音頭を取り始めたのが、西ドイツ陸軍出身者にして国連軍中佐のクラウス・ハルトウィック氏だ。

 

 『重慶の奇跡』を知った彼は、直様詳細な情報を集めて以前から計画していた『プロミネンス計画』を始動させる。

 

 賛同国や協力者、企業等のスポンサー集めに苦労するかと思いきや、国連上層部を始め、賛同国や協力者に企業等が諸手を挙げて協力すると言い始めたのだ。

 

 これまでのオルタネイティヴ計画が上手く行かなかった反省点を踏まえて、クラウス・ハルトウィック中佐の『プロミネンス計画』に賛同する声が続出する事態に。

 

 これで尻に火が付いたのはアメリカ政府と産軍複合体とアメリカ連邦議会だ。

 

 アメリカ政府新政権もこれは不味いで、足下を見たフランク・ハイネマン教授の提案である日本帝国との技術協力案が例外中の例外で扱いで通った。日本帝国の首に鈴を付ける意味合いも強いが。

 

 それ程までに日本帝国の戦術機を始めとする新兵器や新装備の開発に危機感を持った。 

 

 その代償としてアメリカのステルス技術供与とフランク・ハイネマン教授が、【93式不知火高機動型機】の開発に全面的に協力し、アメリカ政府はそれを承認するとの確約を得た格好だ。後は裏で《ミラ・ブリジッス母子》の国外出国と日本帝国への移住と言うか、譲渡された。

 

 ミラ・ブリジッスはフランク・ハイネマン教授の嘗ては助手だったが、F-14の開発の事実上の副責任者の立場にあった。白銀影行曰く『本当の意味での開発の天才で、嫉妬する事事態馬鹿馬鹿しい』と言わしめた。逸材だった。

 

 そのミラ・ブリジッスは日本帝国の戦術機【高等練習機吹雪】、【即応性重視型第3世代機雪風】、【水中戦用戦術機深海】、【補給機呑龍】の開発に深く関わって行く事になる。

 

「ミラ、どうやらタケル・シロガネが君の才能に相応しい舞台を用意して暮れるそうだね。マサタダと幸せにな」

 

 フランク・ハイネマン教授は、そう呟いた後、自分の仕事に没頭する事にした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「あん畜生、やっぱりいやがったなぁBETAのモグラどもは。ご丁寧に要塞級と重光線級もだんまりと、やはりこういう仕掛けだったのかよ」

 

 地下トンネルを発見し、地下トンネルに降り立った熊本第6師団所属の第1戦術機大隊は、地下トンネル内に無人偵察機を喀什・ハイヴ方面へと飛ばした。

 

 そしたら案の定、1時間もしたらBETAの大集団が地下トンネル内奥深くに潜伏していたのを発見。どうやら休眠状態なのか無人偵察機には反応しない。

 

『大隊長どうします?』

 

「第6師団司令部に緊急連絡。『地下トンネル内に置いてBETAの大集団を発見せり、総数は不明』とな」

 

『はい』

 

「それと第3中隊にも連絡。『持って来た爆薬を全部持って地下トンネルに降りて来い』とな。『トンネル共々BETAのモグラ擬きを纏めて吹き飛ばす』と」

 

『えっ?』

 

「どうした、何かあったのか?」

 

『熊本第6師団司令部から緊急連絡です。『喀什・ハイヴからBETAの大集団が出現。もう既に旅団規模の突撃級が東進を始めている』と』

 

「なんだと・・・?」

 

 満を持してのBETAの東進が始まった。その総数は優に50万を超えていた。

 

 そして熊本第6師団の地獄の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当はもっと書きたい事が一杯有るのだけど、文章にすると書き足りない事だらけだ。

これ無事に風呂敷を畳められるのか不安に為って来た。

武ちゃんの影が薄くなって、斑鳩崇継お坊ちゃんが主人公的立ち位置に、唯依ちゃんも武ちゃんに全く絡んで来ないし(汗)

どうしてこうなった?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。