《1993年3月下旬・皇居》
時間を少しばかり巻き戻して、斑鳩崇継は側役に選ばれた真壁助六郎を伴って皇居・皇帝陛下に拝謁していた。
「斑鳩崇継よ、これは事実であろうな・・・」
斑鳩崇継は、自分が緻密に調べ上げた武家の出生率の変化と低下の証拠を皇帝陛下に見せていた。
「残念ながら事実でございます陛下。 このまま何も手を拱いて傍観していれば、少なくとも過半数以上の武家は御家存続の危機に見舞われてしまうでしょう。 それは我ら五摂家も例外ではありません。むしろ親藩譜代武家以上の武家は、徳永家と助六郎の実家である真壁家を除いて、御家存続を通り越して断絶の危機に陥るのは確実かと」
「真壁家と徳永家は御家存続の危機と無縁な理由はなんだ?」
「真壁家と徳永家は、武家以外の血を取り入れるのに積極的なのが理由です」
崇継の言った通りで、真壁家と徳永家の現当主夫人はいずれも武家の人ではなく、真壁家当主夫人は元日本帝国空軍の戦闘機乗りで、助六郎の母親も元日本帝国空軍の戦闘機パイロットだった人で、美人三姉妹として知られていた。
長女が正妻で妹2人が、まぁ愛人なのだが。
無論真壁家当主・真壁零慈郎の節操の無さと色恋はなにかと世間の噂と批難を呼んだが、真壁零慈郎はそれがどうしたと言わんばかりに三姉妹との間に子作りに励んで、十人兄弟を儲けた。
『ふん、誰がどう言おうと、私は3人の妻達を愛しているし、3人を平等に扱って来たぞ。まあそれなりに大変では合ったがな』
文春砲のインタビューにそう太々しく答えている。
そこで問題になって来るのが、男子の出生率の低下だ。
女子は産まれてくるのだが、真壁家と徳永家を除いて、主だった武家は深刻な出生率の低下と、男子不足に苦しむ。
五摂家も後継男子が産まれて来たのは、斑鳩家と斎御寺家の2家だけで、煌武院家、九条家、崇宰家は女子のみだけ。
「皇室とは違い、我ら武家は長年に渡る因習に基づいて血族婚を繰り返してきました。その弊害が我らの世代以降の出生率低下。特に男子が生まれなくなっています・・・」
現日本帝国皇帝と先帝のお后は平民(とは言え、それなりに格式が高い家の出。鑑家は皇位継承権者は持たないが、れっきとした皇室の3つの分家の末席の家。これらの家は皇室の遺伝子プールの意味合いが強い。木を隠すのなら森の中と、鑑家は横浜市に隠されている。伊勢神宮と皇室との繋がりは深く、歴代の巫女はいずれかの3つの分家に嫁ぐのが慣例となっていた・・・)
皇室に何故3つの分家が存在しているかと言うと、皇室の三種の神器【
日本の皇室は【武】ではなく【祭】の家系だ。【祭】の家系であるが為に、【祭事】や【
鑑純夏の00ユニットへの適合性の高さは、先祖返りだったのかもしれない。
「・・・そなたと対立している保守派は、この事実に気が付いているのか?」
「・・・気が付いている者はいるのでしょう。ですが、自分達の血統主義、復興主義、伝統主義の間違いを認めたくないのでしょうから、知らぬ存ぜぬと洞ヶ峠を決め込んでいる者が多数でしょう」
皇帝陛下の顔が途端に苦々しくなった。
「なんと、愚かな。して、斑鳩崇継よ、今後はどうするつもりでいる・・・」
「保守派を排除します。排除なくして、我ら武家の未来はないでしょう」
斑鳩崇継が皇帝陛下と謁見したとの報せを受けた真壁零慈郎はほくそ笑む。
「時既に遅しだな斑鳩崇継よ。もっと早く打てる手を打っていれば最悪の事態は回避出来たかもしれないが・・・」
零慈郎は武家制度の崩壊はそう遠くないと見ている。
彼は十人の息子はいるが、他家へ養子に出す気は更々なかった。
「数十年後に残りそうな有力武家は、この真壁家と徳永家位なものだな。残りの家は数十年後に御家存続の危機を向かえるのは確実だな」
真壁家は長男、次男、三男が自立し、武家以外の女性と結婚して妻子持ちになってはいた。無論、元老院や保守派からの反発覚悟の上、自由恋愛結婚を認めた上でのことだ
長男は現職の婦人警察官、次男は看護婦、三男は民間航空会社のスチュワーデスと。
四男は女子校の女性教師と婚約したばかり。四男が非制服系女性と婚約した事で、息子達全員が制服フェチズムで無い事が分かり、零慈郎は内心『ホッ』と安堵した。
「息子も孫息子も絶対に養子に出さん。100歳まで生き抜いて、大勢の孫や曾孫に囲まれて、『あの爺さん漸くくたばってくれたか』と、憎まれ口を叩かれながら、くたばるのが儂の人生計画の終わり方なのだからな」
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日本帝国陸軍熊本第6師団が、重慶市の命運を決定付ける戦いに突入した頃、光菱鉱山開発会社が長野県白馬村において、日本帝国の国家のエネルギー戦略を大きく左右する鉱物資源とエネルギーの試作採掘に成功していた。
その速報は光菱重工横浜小机研究所に齎された。
「やりましたね白銀主任!これで純水素爆弾と新型下瀬火薬の開発の見通しが立ちます」
20代半ばの若い研究員が興奮気味に話す。
「それどころか、一気にエネルギー革命が進むわよ!」
(武の予測通りか・・・・)
長野県白馬村で発見された鉱物資源とエネルギー資源は以下の3つになる。
①純粋水素鉱物
②高純度ヘリウム
③高純度メタン
だった。
「武の予測通りなら富士
「はい。これで新型爆弾だけではなく、核融合炉の開発にも弾みが付きますよ白銀主任!」
「厚かましいオイルメジャー達の顔が、顔面蒼白になるのを思い浮かべるだけでも痛快だな!」
「全くだ!」
研究所の職員から一斉に笑い声が聞こえる。
中東の油田地帯失陥後、石油不足は深刻で、エネルギー価格の高騰が続く。日本帝国政府は樺太、カムチャツカ半島、アラスカ、オーストラリアからの輸入増大で凌ぎ、インドネシアとパプアニューギニア島、ソロモン諸島、ビスマルク諸島、マダガスカル島での調査開発を進めてはいる。だが、やはり有望な場所はもう既に、強い政治力を持つオイルメジャー勢が有利な立場に立ち、日本勢は遅れ気味で残念な事に後手に回っているのが実情だった。
強い政治力を持つオイルメジャーとのエネルギー価格交渉では、日本勢は劣勢に立たされている以上、オイルメジャー勢とのエネルギー価格交渉で優位に立つ為にも、日本国内と近海での自前のエネルギー資源の確保は急務なのだ。
その風向きが変わって来たのは《重慶の奇跡》の後だ。
日本帝国が独自開発した水素電池、水素燃料、水素プラズマジェットエンジンが戦場で実用に耐えられる代物なのを証明した移行、日本帝国へのエネルギー価格交渉圧力がトーンダウンし始めた。
『水素エネルギーの実用化で、風向きが変わった・・・』
エネルギー価格交渉に当たっている日本帝国政府代表団の1人がそう呟く。
日本国内の全ての自動車メーカーと重機製作メーカーは水素自動車、天然ガス自動車の開発へと動き出している。光菱重工は戦車や装甲車や自走砲向けの水素電池や、水素エンジンの開発に動き出していた。
オイルメジャー勢にしろ、エネルギー資源輸出国にしろ、日本帝国が水素エネルギーの実用化で、石油に見切りを付けて自国内と
日本帝国政府にしても大掛かりなエネルギー政策転換の準備は整ってはいないが、水素エネルギーの実用化と、核融合エネルギーの開発条件が整いつつあり、今後のエネルギー交渉を有利に行う条件が整い始めた。
画してニューヨーク・マンハッタン島では、産軍複合体と並んで頭を抱える一団が新しく誕生する事に・・・
「北海道と南鳥島でも、有望なレアメタル鉱山が発見されたと言いますし、本格的な採掘が始まれば、価格交渉でも優位に立てるでしょうしね」
「主任、余り嬉しそうではなさそうですね?」
女性職員が怪訝そうな顔をする。
「まあそうだな・・・・・」
社会的立場で言うのなら、喜ぶ出来事なのだろうが、今や国を挙げて『神童』だの『麒麟児』と持て囃される武の父親としては心境は複雑だった。
(武には、年相応の生き方をして欲しかったのだが・・・)
武の年代なら、未だに親のすねをかじるのが当たり前で子供としての当然の権利だった。
それでなくても武は国内外に敵が存在し、国内の敵からは公然と命を狙われていた。
影行は複雑な内心を整理する為に、喫煙室に向かう。
普段は余り煙草を吸わない彼だが、今回ばかりは煙草を無性に吸いたい気分だった。
(これで武にまた新しい敵が出来るな・・・)
影行は父親としてやり切れない思いだ。自分の1人息子がBETAの脅威から必死になって人類と、この国を守ろうと懸命になっているのに、既得権益に固守する者達から自分達を脅かす危険な存在と見做され、結果を出す度に息子の命を狙う者が増えて行く。
「理不尽だな全く・・・」
イギリス、アイルランド、イベリア半島の一部を除いて西ユーラシアと欧州が陥落。
中近東もシナイ半島と紅海に面したアラビア半島の一部を除いてBETAに制圧され、H9アーバンル・ハイヴから北アフリカへの全面侵攻がいつ始まっても不思議ではない。
亜大陸も戦況は日に日に悪化しているが、インドが辛うじて持ち堪えているので、東南アジアはビルマ国境の守りを強化する時間的猶予は与えられてはいる。だが、H14ドゥンファン・ハイヴを造られしまったので、インドネシア半島北部の防衛強化と一般人の疎開により大表れの状態で、ベトナム北部国境線でBETAとの小競り合いが続く。国連とオーストラリアは国連軍と義勇兵をベトナム北部に送り、共同戦線を構築中だ。
そんな状況にも関わらず、人類は一致団結をしてBETAと戦えないでいる。
前線からは連日の如く『日本帝国の新技術を採用した戦術機を1日でも早く送ってくれ』との悲鳴が届いてあるにも関わらずにもだ。
日本帝国を含む後方国家では、前線の窮乏と悲鳴そっちのけで既得権益に固執する各勢力が内ゲバを繰り広げる。
取材をした週間文春砲の記者は余りもの酷さに皮肉ってこう言った。『人類内ゲバ7割、対BETA3割』と。
「・・・いっそのこと、武に全てから手を引かせて、普通の子供として小学校に戻すか・・・今まで武が開発あるいは関わっていた関連技術も全部凍結して取り上げてしまうか。無くても向こう2・3年は総崩れにはならないはず。総崩れになって始めて人類は武の存在の有難みを理解するのではないか・・・」
自分の思考がネガティブを通り越して、陰々滅々になって行くのを影行は自覚した。煙草を数本吸った彼は、首を左右に振って喫煙室を出て仕事に戻った。
やるべき事は山積みだ。何とか夏までには、ターボ機能が付いた新型の水素プラズマジェットエンジンと、それを搭載し運用を前提にしたフライトユニット。突撃級の強固な外殻を正面から真っ二つに出来る高周波長刀開発。それらを秋に予定している大陸での実戦運用試験に間に合わせたいのだ。ただフライトユニットを使うとなると、機体の強度不足と反応がピーキになり過ぎて極一部のエースパイロットやベテランでないと使えなくなる危険性から、その運用を前提にした95型の開発を急ぐ必要性も。95型では今現在開発中の新型装甲【発泡金属装甲】が使われる予定だ。
「発泡金属装甲が実用化出来れば、95型の強度不足と耐久性の問題点は解決出来るか・・・・」
それはそれで新しい問題点を引き起こすのが目に見えていた。それと同時並行で、発泡金属装甲を採用する第3世代練習機【吹雪】、【撃震】の後継機にして【吹雪】の兄弟機とも言える【雪風】の開発も進めなくてはと。
「前線で戦う兵士達には罪はないが・・・」
彼の1人息子は最近それを口にする様になった。
「父親としては毎日純夏ちゃんと一緒に学校へ通い、毎日純夏ちゃんと遊んでくれれば、それで良かったんだがな」
影行は壁に貼られているポスターを睨みながら一人呟く。ポスターの内容は毎日政争に明け暮れる帝都・京都の観光旅行推進キャンペーンだ。
『帝都・京都に新型新幹線で旅行へ行こう@国鉄』
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その頃重慶市西部では、熊本第6師団の野戦重砲兵連隊とロケット砲連隊が、BETAに対して絶え間なく砲弾とロケット弾の雨を降らせていた。
突撃級のモース硬度15の外殻を打ち破れて、要撃級と戦車級の表皮を溶解して炎上させてしまうよう若干改良された下瀬火薬二型は、期待通りの性能と破壊力で旅団規模の突撃級の数を一方的に減らしていた。
「すげえ燃えているぜ。BETAが一方的に破壊され、融解して消滅している・・・」
下瀬火薬は摂氏数千度の恒温で、大型戦艦の装甲を融解し破壊するのが目的で開発された特殊火薬だ。
以下なBETAが強靭な外殻と表皮を持とうと、大型戦艦の装甲を融解し破壊するのが目的で開発された下瀬火薬の恒温と爆発力に敵わないでいる。ただ下瀬火薬はその破壊力を引換えに強い毒性を持っているので、敵軍に『敵は毒ガス兵器を使用した!これは虐殺行為だ!』等の抗議の口実を与えかねない。そのため、第一次世界大戦以降事実封印されて来た火薬だったが、武の提案で燃焼率と恒温を高める事で対BETA戦限定での復活と為った。
「まさか水素技術が毒性を押さえ、燃焼率と恒温を高めて殺傷範囲の拡大に使えるとはね」
日本帝国海軍の全面協力で試射試験で出した結果に武は満足に頷いた。
とはいえ毒性は完全に押さえられなかったので、遠距離砲撃と大深度地下でしか使えないのが玉の傷。
試験的ではあるが、純水素爆弾も熊本第6師団に持たせていた。
地形的問題でBETAが広範囲に部隊の展開が出来ないでいたので、熊本第6師団には余裕が生じていたのと、合肥に駐屯している愛知第10師団、群馬第12師団が増援として到着するまで、持ち堪えていれば勝てるとの算段も合った。
「大深度地下トンネルを潰せたのは朗報だったな・・・」
熊本第6師団師団長の八代少将は呟いた。
「ええまったくの同感です」
熊本第6師団参謀長の下島大佐も同意した。
BETAとの本格的戦闘に入る前に、熊本第6師団は戦術機部隊増強一個大隊を使い、試験的に持ち込まれていた純水素爆弾と下瀬火薬二型、合計数十トンを使い、BETAが潜伏していた大深度地下トンネルを吹き飛ばした。
吹き飛ばした大深度地下トンネルには、要塞級や重光線級が百以上潜伏し、その護衛には師団規模の要撃級や戦車級も潜んでいた。
それらを出し惜しみ無しで大深度地下トンネル共々吹き飛ばす事に成功した。
戦術機部隊は12機が中破したが、何とか全機帰還を果たしてもいた。
人類はBETAの大規模地下侵攻に幾度となく煮え湯を飲まされていた。何しろ人類はその都度、有利に進めていた戦闘をちゃぶ台返しの憂き目に合い、戦線崩壊を招いていたのだから。
ただ破壊力があり過ぎて、地下の大崩落を招いたが。
「でも喜べないな・・・」
「ええ・・・」
だが、喜んでばかり要られないのも確かだ。武が言った通りBETAには、人類に知られない形での大深度を掘り進む巨大掘削装置が存在し、そのトンネルを通ってBETAが随伴能力が低い要塞級と各種光線級を事前に攻略目標地点の地下に送り込んでいたのがはっきりとしたのだから。
「最悪の場合、各地のハイヴは大深度地下トンネルで繋がっている可能性が高い。中間補給基地を設けて、軍団規模のBETAを各ハイヴに送り込む事も可能か・・・しかし、これでは際限がないではないか」
八代少将は何かに八つ当たりしたい心境だった。各ハイヴの生産力は不明だが、下手したらこちらの戦力が回復する前にほぼ毎日軍団規模のBETAとの戦いを余儀なくされてしまうのだ。
「こんな馬鹿げた話しが合ってたまるか!」
「ですが八代師団長、これは現実です。常に最悪の事態に備えませんと」
とはいえ下島参謀長にも妙案がある訳ではない。
(とはいえ、BETAが作ったトンネルは本当に1本だけなのか?)
疑い出すと切りがないのだが、こうなって来ると、南のH14ドゥンファン・ハイヴの動向が気になる。
(各ハイヴに巨大掘削装置が存在するのなら、H14ドゥンファン・ハイヴにも、巨大掘削装置があると思うべき。一応、警告を出して置くべきか・・・・)
「八代師団長」
「なんだね下島参謀長?」
「南北全軍に巨大掘削装置の警告を出すべきです」
「理由は?」
「BETAの地下トンネルが1本とは限らないのと、各ハイヴに巨大掘削装置が一つあるのなら、南のドゥンファン・ハイヴにも巨大掘削装置が存在している可能性が高いからです」
下島参謀長の言葉に八代師団長は渋い顔をする。
が、八代師団長は下島参謀長の進言に頷き、中国大陸の各戦線に向けて、巨大掘削装置を使っての大規模地下侵攻の警報を出した。
「師団長、戦術機部隊の各大隊から出撃許可要請が出ています」
「下島参謀長どう思う?」
「戦術機部隊一個大隊を出撃させましょう。一度戦線を押し戻すと同時に、BETAの手札を探る必要があります」
「分かった。師団直下の第2大隊を出撃させよう」
命令が出ると同時に待機していた第2大隊48機の戦術機部隊が出撃した。
「後は合肥の第10、第12師団の到着を待つだけです」
「ああそうだな。だが国連軍と統一中華戦線の動きが鈍いのはどういう訳だ?」
当初の予定では、国連軍と統一中華戦線も左右から帝国陸軍への支援砲撃を行う予定だったのだが、両軍共に沈黙をしている。
「支援砲撃要請はしているはずなのですが・・・」
「再度の支援砲撃要請を出そう」
「分かりました。通信士官、国連軍と統一中華戦線に支援砲撃要請を出してくれ。我が軍の火砲だけでは手数が足りないとな」
「はっ」
言われた通信士官は即座に支援砲撃要請を出したが、国連軍と統一中華戦線は弾薬不足を理由に、熊本第6師団からの支援砲撃要請を却下した。
確かにこの時期国連軍も統一中華戦線も砲弾の数は不足していたのは確かだ。だが、これには絡繰りがあった。
国連もといアメリカ政府と北京政府が日本帝国陸軍を矢面に立たせて、戦後を睨んで自軍の戦力を温存し、日本帝国陸軍の戦力を減らしたい思惑が潜む。北部戦線の統一中華戦線は北京政府色が強い中華人民解放軍が主体で、国連軍上層部はアメリカ軍からの出向組が大半。そしてアメリカ政府の意向で司令部がそっくり入れ替わったばかりで、国連本部の命令ではなく、ホワイトハウスの命令を重視する傾向が強い。
そして今のホワイトハウスとCIAはキリスト教恭順派の強い影響下にある。
「しかし本当に宜しいのでしょうか神父様。日本帝国軍への支援砲撃要請を却下をしてしまって」
「問題はありません大統領。国連軍の装備と軍需物資の大半はアメリカ国民の税金で賄われています。それをどう使うかの判断はアメリカ政府が決めるべきなのです。それに日本帝国軍は強い。強い日本帝国軍を矢面に立たせて、今暫く戦って貰うのが1番良いのです。アメリカ国民の税金を無駄に浪費する必要はありません」
「分かりました神父様。貴方の仰る通りにしましょう」
「主は大統領貴方を見ています。きっと貴方の判断を是となさるでしょう」
「分かりました神父様。そして私はアメリカ合衆国大統領として、何をすれば宜しいのでしょうか?」
「そうですね。日本帝国との同盟関係の見直し、特に戦術機関係のライセンス契約の見直しは早急にするべきかと」
日本帝国政府と軍人達が聴けば、憤慨するであろう。
「それはまた何故?」
「今のライセンス契約はアメリカ合衆国にとって、著しく不利だからです。もし日本帝国政府がライセンス料の値上げ見直しに応じなければ、ライセンス契約を結んでいる第1、第2世代機の生産を認めないと言えば良いのです」
とてつもない悪辣な提案だ。戦術機関連ではアメリカ由来の技術を使っていない軍隊は世界中に存在していない。
アメリカがライセンス契約料の見直しを行い、一方的な値上げに踏み切れば、国家財政が逼迫される国々が続出する。
元から産業基盤が弱い国は、自国での戦術機の生産を中止に追い込まれるだろうし、嫌でもアメリカが提示する高額な値でのアメリカ産戦術機を買うしかなくなってしまう。
アメリカ大統領が去った教会の礼拝堂で、赤髪の神父は冷笑を隠さないでいた。
(ふん、神が本当に実在をしているのなら、BETAの侵略と跳梁跋扈を赦しはしまい。しかし愚かな事だ。神頼みの優柔不断な男がこの国のトップとはな。まあだからこそ、神輿にしやすかったとも言えるが。・・・カティア、君は私の行いを決して認める事はないだろうな)
赤髪の神父は神を存在を信じてはいなかったが、神を利用する術は知り尽くしていた。
(日本帝国は強くなろうとしている。私の計画の障害になってしまう前に、危険な芽は早めに潰しておかねばな・・・)
彼が選んだ手立ては、日本帝国政府の財政状況を大きく逼迫させて内部分裂に追い込む事だった。
(『重慶の奇跡』か。これさえ無ければ、日本帝国を放置していただろうな・・・)
『重慶の奇跡』は彼に取っても衝撃的だった。優れた元衛士だったからこそ、無視出来なかった。僅か100機未満の戦術機部隊だけで師団規模のBETAを殲滅してしまった。しかも自軍の損害は0で。これまでの常識ではあり得なかった。
かつて自分が所属していた戦術機部隊は幾度もなく、レーザーヤークトを成功して来たが、東ドイツ軍全軍の協力と誘引があればこそだ。第666中隊単独だけでは、レーザーヤークトの成功は不可能に近い。
支援砲撃無し、国連軍や統一中華戦線の協力と誘引無しでの要塞級十数体倒してのレーザーヤークトの成功。彼に与えた衝撃は大きかった。
(まさかOS一つで、レーザーを回避させる機動性能を戦術機に与えるとはね)
先行入力とキャンセル、あらかじめ戦術機にレーザー攻撃の回避パターンを入力し、キャンセルに寄よて、即座にレーザー攻撃を回避機動。BETAにレーザーを空撃ちさせたばかりか、僅か数秒で地上すれすれの時速800km超えの高速でレーザー級陣地に突入させ、レーザー級を僅か数分で全滅させてしまう。
(自分達の時代とは雲泥の差だな)
第666中隊が使っていた戦術機は元を正せば、F-4系列の機体でそれを徹底的に軽量化し、高機動化した機体だったのだが、それでも時速500kmに届けば良い方だ。
もし既存機を含む全ての戦術機が、日本帝国陸軍の戦術機部隊と同じ事が可能になるのなら、戦術機の運用思想が根底から覆す。正しく革命だ。もし自分が衛士として現役時代に新OSを含む新技術が合ったのだとしたら、欧州戦線は持ち堪えていたのではないかとそう思わせた衝撃。後数年もすれば戦術機に求められる理想が実現するのではと。
彼のスポンサーである東欧社会主義同盟も『重慶の奇跡』以降何かと騒がしくなっている。
アメリカと国連の共倒れを画策する彼からすれば無視は出来なかった。
ならどうすれば良いか、日本帝国と白銀武に新技術を発明開発させなければ良い。暗殺やテロが1番手っ取り早く思えるのだが、人種が異なる日本帝国に工作員を送り込むのは一苦労二苦労に加え、文春砲の白銀武暗殺計画のスッパ抜き以降日本帝国政府は白銀武や関係者全員と主要施設への警備を厳重にした為に、暗殺やテロでの妨害を断念。今のところは面倒でも時間を掛けて日本帝国政府の財政状況を悪化させる手段を取るしかなかった。
(ままならないものだな。本当に・・・)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
出撃した熊本第6師団直下の戦術機第2大隊はBETAの第一陣を無視して、第二陣へと向かう。BETAの第一陣は改良された下瀬火薬を使った遠距離砲撃で事足りると判断したからだ。
「全くの雲泥の差だな。まさか第1世代機が、速度700kmも出せるとはな・・・」
第2大隊の第2中隊長がそう呟く。
時速700kmは第2世代機の最高速度で、強化される前の【93式不知火】の最高速度750kmに近い速度だ。
「【撃震・改】でこれなら、強化された【不知火】はどれ程の最高速度を出すんだ?」
【93式不知火】のテストを試験運用を続けている帝国陸軍技術廠と富士教導団から、漏れ伝わって来る情報では、最高速度950kmを出すのも可能。夏には更に出力強化型の水素プラズマジェットエンジンと、それを搭載した長時間の飛行を可能にしたフライトユニットも。新OSも強化され即応性が旧OSから30%から35%も上昇すると言う夢物語的な話しも聞こえて来る。
『中隊長、新型機に乗れるまで死ねませんね』
「いいかお前ら、新型機に乗りたいのなら、何としてでも生き延びれよ」
『『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』』
『大隊長から大隊各機へ。もう間もなくBETAの第二波と索敵をする。周囲への警戒怠るな。戦闘開始と同時に小隊単位で散開せよ。以上だ。見えた。戦闘開始!』
練度が高い第2大隊は即座に散開し、BETAの第二波との戦闘が始まる。第二波の戦闘集団はやはり突撃級。今までなら正面から突撃級とやり合うのは危険だったが、突撃砲には下瀬火薬二型を用いた120ミリ無反動砲弾、155ミリバズーカ砲弾があった。射程距離と携帯弾数に制限こそあったのだが、モース硬度15の硬さを持つ突撃級の外殻を正面から破壊出来る破壊力を持つ。
正面の最初の集団が次々と破壊されると、BETA突撃級の次の後続集団が最初の集団と多重衝突事故を発生させる。
『いいか、腹を見せたり、横転した突撃級は敢えて破壊するな。脚を36ミリ弾で撃ち抜いて、動けなくすればいい。それだけで後続集団の脚は止まる。後は長距離重砲で殲滅させる事が出来る』
重慶市西部は狭隘な地形が多く、BETAと言えど左右への展開は難しく、数の利点が活かせない。案の定BETAの後続集団の脚は止まる。
『PCより第2大隊へ、これより支援砲撃を開始する。現在地より2キロ後退せよ』
第2大隊は脱兎の如く2キロ後退を開始。その直後に熊本第6師団の各砲撃部隊からの砲撃が始まる。
無論、下瀬火薬二型も多数含まれる。
着弾と同時に大型戦艦の装甲すら融解破壊してしまう数千度もの恒温の破壊の嵐が吹き荒れ、BETAの第二波も第一波と同じく粉砕されてしまう。
それを見た衛士の1人が呟く。
『良くもまあ、こんだけの下瀬火薬を用意出来たなあ』
「詳しい事は知らないが、下瀬火薬は原料は石炭だそうだ。石炭なら、日本国内でも必要な量の確保が可能だと話しを聞いた事はある」
『へぇ~、と言う事は例によって石炭王子様の発案かあ〜』
「まあそうだろうな。と言うか、あの『神童』しか中々思い付かないだろうな」
1970年代に入り日本帝国内の石炭産業業界は、海外の安い石炭、石油、天然ガスに押され、日本帝国内でも原子力産業の勃興が原因で、石炭産業業界は衰退しつつ合った。
だがBETA対戦の勃発と、中東とソ連の主要なエネルギー資源供給地帯が、BETAに制圧された事で、日本国内の石炭産業業界が見直され、再編成された復活し始めた。
そこに武が表れて水素を始めとする新技術や、下瀬火薬の復活で石炭を効果的利用。国内の石炭産業業界は息を吹き返したと言っていい。
日本国内の石炭産出量だけでは絶対量は足りないが、それでも水素燃料や下瀬火薬二型の生産に必要な量の確保は十分に可能だった。
今年度の石炭産業業界の利益は1960年代に匹敵する利益が得られる見込みが立っている。
完全に息を吹き返した石炭産業業界は、白銀武に『石炭王子』のニックネームを与えた。
『センサーに感あり。BETAが突き抜けて来ます』
第2大隊各機のセンサーに反応があると同時に、第2大隊は戦闘態勢を取る。
『あの火炎地獄を突き抜けて来るBETAがいるのかよ』
だが火炎地獄を突き抜けて来たBETAは少数で、外殻や外皮が融解し、ドロドロと化し、脚や手や衝角が黒焦げやもげて、行き悶え状態だ。逆に言えば、良く突き抜けて来られて来たとさえ言っていい。
『大隊長どうします?』
部隊の1人が大隊長に攻撃するかしないかの意見を問う。
『攻撃を許可する。ただし無駄撃ちはするな』
熊本第6師団は最先鋒なので他の師団に比べて弾薬や砲弾には余裕はあったが、無駄撃ちが出来るかと言えばそうではない。
国内では火薬と砲弾の生産供給体制はアメリカ並みに整えられつつはあったが、やはり予算と言う壁が立ちはだかる。
この問題を解決する為に、人件費が極端に安い戦争難民を受け入れるかどうかの議論が帝国議会と世論の両方は割れていた。
戦争難民に衣食住を保証する代わりに、最低中の最低賃金で、兵器生産に従事させる。
この案を巡って帝国議会と世論は賛否両論に別れた。
だがこの論争を終わらせたのは、武のコメントだ。
『せっかく3D光プリンターを開発したのだから、3D光プリンターで銃弾、砲弾、部品を大量生産すればいいと思うよ。日本全国に3D光プリンターが広まれば、難民労働者達を低賃金で雇う必要はないし、世界中の戦線に銃弾、砲弾、部品の供給が可能になるよ』
横浜の自宅前で珍しくテレビ局の取材に応じた武のコメントが、地上波を通じて日本全国に流れるとこの論争はピタリと止んだ。
日本帝国政府は3D光プリンターを日本全国の中小零細企業が扱える様にしようと、低価格でのレンタル制度を導入。
日本全国の中小零細企業がこれに飛び付いた。多少時間は掛かりはしたが、ほぼ数年で3D光プリンター技術が広まり、日本の生産力向上に貢献する事に。
本国の論争はどうであれ、前線の兵士達は引き金を引く。
もし重慶市が陥落し、ハイヴを建設されたら、BETAが例の巨大掘削装置を使って、日本本国への直接的侵攻も想定されるからだ。
一匹たりとて四川省防衛戦を抜けさせる訳には行かない。
「何だと、次の戦闘から統一中華戦線も参加するだと」
「はい、次の戦闘から支援砲撃だけではなく、戦車隊と戦術機部隊も出すと言って来ています」
「どういう風の吹き回しか?こっちの支援砲撃要請を散々無視していながら・・・」
熊本第6師団はBETAの侵攻を第四波までBETAの侵攻を防ぐ事に成功はした。が、別の悩みが浮上する。砲弾とロケット弾の欠乏と、道路網未整備から来る春の雪解けが原因での河川の増水に泥濘が理由で、愛知第10師団、群馬第12師団の到着が遅れてしまっていた。
下瀬火薬弾頭の砲弾とロケット弾の残弾数を心配しなければならなくなったが、ここに来て統一中華戦線が支援砲撃だけではなく、戦車隊と戦術機部隊を出すと言って来たのだ。
助かると言えば助かるのだが、下瀬火薬弾頭の在庫も残り少なくなって来たのと、合肥からの援軍到着も河川の増水と泥濘と泥濘で時間が掛かる上に、援軍は下瀬火薬は持っていない。偵察衛星からの情報では喀什・ハイヴからBETAが沸いて出ており、長蛇の列となってこの重慶市を目指していた。
だから統一中華戦線の政治的思惑は別として、急に勤労意欲に目覚めたのは有難いと言えば有難い。国連軍の方は司令部が相変わらず惰眠を貪っているが。
「下島参謀長、どう思う?」
「北京政府がこれ以上の我々の活躍を良しとしないのでしょう。我々帝国陸軍だけで重慶市を守り切れば、我々帝国陸軍の武名が上がるだけで、北京政府の面子は丸潰れですし、もし守り切れなかった場合は、本国で大陸撤退論が出るのは確実ですからね。まあ政治的判断を最優先したかと」
「問題は戦力として数えて良いのかどうかだが・・・・」
国連軍にしろ統一中華戦線にしろ、戦力の回復は大きく遅れていた。熊本第6師団が居なければ、とっくの昔に重慶市は陥落していただろう。
「正面戦闘は我々が引き受けるしかないでしょう。統一中華戦線には、側面からの遊撃に徹せさるしかないかと」
「そうだな、それしかないか・・・(クソッ!BETAめ、嫌な時期に攻めて来やがって、せめて大地が固まるまで大人しく出来なかったのか)」
国連軍はアメリカ頼みで、部隊の編成•訓練•補給の大半をアメリカに依存し、そのアメリカが西ユーラシアと北アフリカ優先を名目に、増援と補給を出し渋りし、現地司令部には戦力回復迄までいかなる手出し無用で、日本帝国陸軍を矢面に立たせ戦わせる様命令が出ている。この件でニューヨークの国連本部が越権行為だとアメリカ政府を批難しているが、現地の国連軍司令部のスタッフの大半が、アメリカ軍からの出向組なので、国連軍総司令部の命令よりもアメリカ政府の命令を最優先させていた。
国連本部も表向きはアメリカ政府に抗議しつつも、最大のスポンサーでもあるアメリカ政府には強く抗議は出来ない。
北京政府にしても国連軍が自分達と同様に、日本帝国陸軍に丸投げで動かないでいたとは、全く想定していなかった。
流石にこれは不味い。日本帝国陸軍に大陸から撤退されでもしたら、全戦線の崩壊は時間の問題となる。
よもやアメリカと国連の共倒れを画策する『
だが『
「さあタケル・シロガネ。君はこれをどう切り抜けるのか、お手並み拝見させて貰うとしよう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「フランク・ハイネマン教授、計画は順調の様で何よりだ」
そう言ってフランク・ハイネマン教授の部屋に入って来たのは、アメリカ国防総省国防情報局の諜報員デイル・ウェラー捜査官だ。
「何のようかね?」
アメリカ本国への報告書の作成と纏めを邪魔をされてフランク・ハイネマン教授はやや不機嫌な顔をする。
この捜査官はアメリカ政府がフランク・ハイネマンに付けた監視役だった。
「何、定期的に君の顔を見るのが私の仕事でね。君が我がアメリカ合衆国の国益に反する事をしていないかをね」
「君達を見ていると、いったい何と戦っているのか、分からなくなって来る時があるんだがね」
「私の仕事はアメリカの国益と法を守らせる事にある」
「大陸の最前線では、毎日大勢戦死をしている。その事をどう思っているんだね?」
「それは私の関与する事ではない。私の仕事はアメリカ合衆国の国益と法を守らせる事だ」
デイル・ウェラー捜査官はフランク・ハイネマンを元から信じていないし、幾ら日本帝国の最新の軍事技術が欲しいからと言って、大金を叩いて開発したステルス技術を日本帝国に供与する事に反対の立場。
昨年、ソビエト連邦のスフォー二社が新型戦術機【Su-27ジュラーブリク】を開発した時、その形状と内部構造が【F-14トムキャット】に酷似している為に、アメリカ国防総省内で機密漏洩疑惑が持ち上がり、フランク・ハイネマン教授も疑惑の対象となった。だが、疑惑を決定付ける証拠が何一つとして出て来なかった。アメリカ国防総省としても、相手が相手なだけに無理は出来なかった。だから今回のお目付け役と言うか、監視役を自ら駆って出ている。
「君の職務への忠実は高く評価するが、このまま行けば後十年を持たずにして、ユーラシア大陸はBETAの手に落ちてしまうだろう」
「・・・・・・」
「ユーラシア大陸が陥落をすれば、次はアフリカ大陸とオーストラリア大陸が主戦場となる。もし両大陸がBETAの手に落ちれば、南北アメリカ大陸は孤立する。その時になって後悔したって私に言わせれば遅いの一言だ」
「だから日本帝国に、我が国の最新技術を供与すると?」
「日本帝国は本気でBETAに勝つ気でいる。その為にもタイプ93の高機動型を造り、その為に必要な技術を欲しているだけに過ぎない。技術は使われてこそ意味を持つ。私に言わせてもらえれば、眠らせているのはただの死蔵に過ぎないよ」
「既に我が国合衆国はユーラシア大陸から完全撤退する方向で動いている」
「知っているよ。愚かな決定をしたなと思っているよ。BETAにユーラシア大陸を与えてやるとはね・・・」
今のアメリカの政界は東海岸のモンロー主義者や国粋派が主導権を握る。
彼らは伝統的にユーラシア大陸への忌避感が強い。アメリカ合衆国の現政権は、モンロー主義者や国粋派が裏で手を組んだ為に出来た政権とも言っていい。無論両者を裏で手を組ませたのは、赤毛の神父だ。
ウェラー捜査官はモンロー主義派に属する。
「日本帝国は兎も角としても、ユーラシア大陸諸国は我がアメリカ合衆国に寄生するだけの寄生虫に過ぎない。そんな連中の為にアメリカ合衆国の国益を損ねる等、論外に過ぎないのだよフランク・ハイネマン教授。そもそも長きに渡るBETAとの戦争の原因も、ソ連と中国の無能が原因だよ」
ウェラー捜査官の認識は間違っているとは言い難い。
BETAの科学技術の独占を狙った中国とソ連が、アメリカと国連の介入を嫌い、アメリカ軍と国連軍の参戦を拒否したのが原因とも言えるのだから。
中国もソ連もBETAを過小評価していたのだろう。
その過小評価の代価はユーラシア大陸中央部の焼け野原と焦土化だった。
ユーラシア大陸中央部は完全に真っ平らにされ、嘗ての山嶺の姿はない。BETAは支配地域の大地の動植物を根刮ぎ食い尽くし、全ての生物を根絶やしにした。
BETAは人類どころか、地球上の全ての生物を根絶やしにしようとしているのだ。
戦闘開始から5日目。熊本第6師団司令部は重慶市からの撤退を決断した。
国連軍司令部がBETAの地下侵攻の直撃を受け、壊滅してしまい、国連軍が総崩れに・・・・。
このままでは脆い側面をBETAに突かれ、熊本第6師団も総崩れになるのが必然だからだ。
熊本第6師団は戦術機部隊と機甲部隊に遅滞防御をさせながら、国連軍の残兵を収容しながら撤退を開始。重慶市民の避難と脱出は統一中華戦線に任せた。
だが撤退は困難を極めた。重慶市民がパニックを起こして主要幹線道路に溢れ、退路を塞がれたからだ。
熊本第6師団二万余の将兵は最早これまでかと玉砕を覚悟したその時、愛知第10師団、群馬第12師団直下の戦術機部隊と独立第5機甲戦術機連隊が到着した。
熊本第6師団は援軍の到着で息を吹き返したが、新手の数百もの要塞級、軽重光線級集団を確認された為に、相当数の損害覚悟での数度の光線級突貫を敢行。全戦術機部隊の3割弱を失いながらも光線級突貫には成功はしたが、最早戦局全体の劣勢はどうしようもなく、武器、弾薬、砲弾、ロケット弾の欠乏が著しく、熊本第6師団司令部はこれ以上の戦線維持は不可能の結論に達した。
上海の大陸派遣軍第7軍司令部からも撤退命令が下り、比較的避難民の数が少ない湖南市方面へと日本帝国陸軍は無念の思いを抱きながら撤退した。
・・・・その後BETAは重慶市を制圧占領した。
だがBETAも二度の光線級集団の壊滅で、慎重になったのか追撃は全くなく、全く無かった事で重慶市民の8割弱が脱出に成功。河川の増水と洪水に泥濘に途中で足止めを受けていた愛知第10師団、群馬第12師団主力に保護され、合肥方面への脱出に成功。日本帝国の軍事技術の高さが改めて再評価されたのは皮肉としか言いようがない。
1993年5月下旬、BETAは十六番目のハイヴ、重慶・ハイヴの建設を開始した・・・。
日本帝国陸軍の大陸での初戦は様々な不協和音を撒き散らしながらの苦い敗戦で終わった。
「やっぱり落ちてしまったのか・・・」
早朝の自宅で両親と一緒にテレビのニュースで重慶市の陥落の報を見た白銀武は呟くしかなかったと言う。
(これでこの国はBETAの攻撃圏内に入ってしまった)
そうさせない為に、かなり無理をさせて、熊本第6師団に純水素爆弾や改良させた下瀬火薬を持たせたのだから。
(重慶が落ちてしまった今、BETAの東進を妨げる狭隘な地形が存在していない。このままでは、来年の今頃は北京が落とされてしまう)
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《1993年5月下旬》
重慶市陥落から程なくして、新たに日本帝国政威大将軍に就任した崇宰恭子は帝国議会に置いて演説。
国家総動員法令を発布。帝都・京都を含む西日本全域5千万人もの日本国民の国内外への避難計画と徴兵年齢を15歳まで引き下げる、国家総動員法令発布と同時に、日本帝国政威大将軍に国家機能の全権限集中方針を発表。
それと同時に帝国陸軍20個師団体制から、戦時動員体制での帝国陸軍60個師団。独立機甲戦術機連隊を最大20個連隊に増強を決定。帝国海軍も50口径20吋砲3連装3基を搭載した全長360m、基準排水量10万8000屯級大型戦艦『超大和級』4隻の建造の他、主砲弾の射程距離を数倍に伸ばすラムジェット砲弾の開発に乗り出すと発表。
帝国議会は賛成多数で帝国政府の対BETA戦争計画を承認した。
大蔵省では中管理職が今後予想される天文学的な赤字国債発行額を見て、胃潰瘍で倒れる者も。
この日、日本帝国は国家の総力を挙げてBETAとの全面戦争へと突入する事になる。
尚、立役者の斑鳩崇継は、政威大将軍となった崇宰恭子の命令で、斯衛軍総監部軍監に就任した。本人は苦虫を噛み潰したような顔をして拝命したのは言うまでもない。
「やれやれ、面倒な事は恭子に全部押し付けて、第16大隊で強化された【不知火】を乗り回す予定が狂ったな。まあ仕方ないな。向こう十年間は恭子に扱き使われるとしよう」
尚、武家保守派の大半(年齢的理由以外)は謀反を企んだ罪で、懲罰部隊送りにされ、大陸の最前線へと放り込まれる事になった。城内省元老院議長に煌武院雷電翁が就いた。それに伴い元老院の過半数が若返りを名目に入れ替わる。
そして榊外務大臣は、崇宰恭子の政威大将軍就任演説と対BETA戦争計画の承認を得た後、直様機上の人に。
目的地はアメリカ合衆国首都・ワシントンDC・・・・。