マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

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結局もう1本書く羽目に為ってしまった。



武ちゃん何周目? 93式不知火開発裏話し⑫

《1993年6月上旬》

 

「はあ、竹筋コンクリートだぁ~?」

 

 崇宰恭子が新政威大将軍に就任した翌日、帝国陸軍技術廠に出奔した白銀武が、今後の鉄資源不足を見込んで、今では殆ど作られていない竹筋コンクリートの大量活用を巌谷榮二少佐に提案した。

 

「はい、今後の鉄資源の不足を見込み、鉄筋の代替案として竹を積極的に活用した竹筋コンクリートの大量活用を提案します」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 武の突拍子もない言動に慣れているはずの巌谷榮二だが、予想外の武の提案に沈黙する。

 

「竹筋コンクリートを積極的に用いる事で、大量の倉庫や避難所を造るのです」

 

 竹を鉄筋代わりに使う。それ自体は、1940年代から存在していたのだが、第二次世界大戦後の高度経済成長で海外からの安価な鉄鉱石を大量輸入出来たので、竹筋コンクリートは地方の貧乏な村落でしか使われていない。

 

「竹の大量栽培それ自体、さほど難しくはありません。使用するのは年齢4年から5年の物を使い、少しでも多くの鉄を兵器生産に振り分けます」

 

 武は言いたい事を言うと、榮二の机の上に企画書を置く。

 

 竹の栽培を効率的に行うには、水捌けが良く水持ちが良い赤玉土+腐葉土の土地を見付けて、半日陰に置いて夏には水をたっぷり、冬にはそこそこ与えてやるのが良い。

 

 竹は一度土地に根付くと地下茎の方で勝手に広がって自生する性質を持つ。日本の地方の山間部は竹が自生しやすい土地が多いので定期的に伐採する必要がある。

 

 それを国策として竹の栽培を促進し、今後不足が予想される鉄筋の代わりに竹を使おうと言うもの。実際問題として5000万もの避難民を収容する避難所の建設、その為の機材や資材の倉庫問題はまだに未解決なのだ。

 

 国家総動員法令発布なのもあって、後1・2年後には日本中の兵器工場から、大量の兵器が溢れ出すだろう。それを大量に保管可能な大型倉庫が必要になる。そこで問題になって来るのが鉄筋不足と言う問題。

 

「ふむ、お前さんの言いたい事は分かるが・・・」

 

 武の企画書に目を通した巌谷少佐は難しい顔をする。

 

「難しいですか巌谷少佐?」

 

「いや、難しいと言うよりも、竹筋コンクリートでは耐久性に問題はないか?それに軍にあまり馴染みがないような…」

 

「いいえ耐久性には問題ありません。実際に軍でも第二次世界大戦中に建てた倉庫や兵舎に、竹筋コンクリートの建物があったはずで、今でも使われている建物があるはずです」

 

「武君、それは本当か?」 

 

「はい」

 

 それが事実なら政府としても軍としても朗報と言えた。

 

 5000万人の避難所をどうするかで頭が痛く、限られたリソースをどうするかで揉めているのが実情なのだ。

 

 鉄筋コンクリート建築か木造建築かでも揉めている。

 

 冬の寒さが厳しい東北や北海道では鉄筋コンクリート建築でないと厳しいのだが、鉄を1グラムでも多く確保したい国防省と軍需省が反発しており、かと言って避難所を木造建築にしてしまうと、日本中の山を全て禿山にしても足りない試算が出ている。5000万人の避難民の半数を国外に避難させても今度は外国のリソースを奪い合うのは確実だった。

 

 そして何よりも土地の確保だ。目ぼしい土地は大手企業が工場移転の為に確保しているのが実情で、半数の2500万人の土地の確保も危ぶまれている。

 

『不味い、このままでは避難計画は掛け声倒れで終わってしまうぞ』

 

 とある政府高官は焦りを隠さない。

 

 そして日本人は基本的に土着民族で、地方では先祖伝来の土地を捨てられないと、土地への愛着を隠さない。早くも地方の老人達からは反発されており、『どうせ死ぬのなら生まれ育った地元で死ぬ』との声が続出していた。

 

 更に深刻な問題は【母艦級】と命名されたBETAだ。

 

 まだ正式にその姿は確認された訳ではないが、重慶市攻防戦で全高全幅200mもの巨大大深度巨大トンネルが確認された事で、未確認種ではあったものの、その性質と特殊性から【揚陸級】と命名された。この【母艦級】の存在が深刻な問題となっていた。何しろ数百mから数千mもの大深度を地下深くトンネルを掘り進める掘削器。この掘削器の航続距離が不明である以上、いかなる楽観論も危険だった。

 

 そこで比較対象となるのがH1:喀什・ハイヴとH2:マシュハド・ハイヴの距離だ。距離は1500km程。往復を前提に造られているだろうから、【母艦級】の航続距離は少なくとも4000km前後と見積もられた。

 

 この推測は世界中に衝撃を持って向かえられた。

 

 BETAが地下深く掘り進む大深度掘削器を持っているとは見られていたが、航続距離は精々数百km程度と過小評価されていた。当初の推定数倍距離の地下掘削が可能なら話しは違って来るのだ。

 

 北海とドーバー海峡を挟んでBETAと対峙するイギリスに取っては死活問題だ。もはや海のアドバンテージは無いに等しく、BETAが保有している【母艦級】を使いイギリス本国の奥深くに侵攻して来るのではと恐怖に苛まされ始める。

 

 イギリス議会と欧州議会では無理は百も承知で、二つのハイヴ、H8:ロヴァニエミ・ハイヴ、H12:リヨン・ハイヴを攻略すべきとの声が出始める。

 

 これに対してイギリス軍、欧州連合軍、国連欧州方面軍司令部は時期尚早の立場を取り、反対していた。

 

『もし実行に移すのなら、リヨン・ハイヴだけでも完全武装の機甲・機械化師団20個師団。新OS、新型CPU、マルチロックオン機能を搭載した機甲戦術機部隊10個連隊が必要となる』

 

 三軍上層部はそう試算する。三軍上層部は重慶市防衛戦での日本帝国軍の戦果と熊本第6師団主力が、殆ど損害を無しに速やかに撤退した結果に瞠目した。

 

 旧式の第1世代機をアメリカが第2世代機最強を自負する【F-15Eストライク・イーグル】を凌ぐ、高性能機にアップデートさせた日本帝国の技術力の高さを再確認し、神童白銀武の存在を意識せざるを得ない。

 

 それと同時に武の才覚を事実上独占している日本帝国への不満と憤りも。

 

「じゃあ聞くけど、外国は小学生の自分に、好き勝手に戦術機の開発させてくれるの?」

 

 大体が武の一言で黙ってしまう。それを容認出来るとしたら父親を含めた日本帝国が誇る戦術機開発の御三家ならぬ三羽烏の3人だけだろう。

 

 最もその3人も最初の内は疑心暗鬼だったが・・・。

 

 武にしても父親・影行の人脈の広さがあればこそと自覚している。

 

「分かった。大至急調査するとしよう。だが、今日ここに来たのはそれだけではないだろう?」

 

「はい、BETAの帝国本土侵攻を阻止出来た場合、東日本や北日本に建設をした避難所が無駄になってしまいます」

 

「ふむ、確かにな。だが、避難所の建設は最優先事項になっているぞ」

 

「ええですから、全く新しい建築案を提出したいのです」

 

 武はそう言いながら、ランドセルの中から、別の企画書を巌谷少佐に提出する。

 

「全く新しい建築案はアメリカで主流になっているブロック工程を参考にした建築案で、ツーバイフォーと名前を付けました」

 

「ツーバイフォー?」

 

 聞いた事がない英単語に巌谷少佐は首を傾げる。

 

「これまでは建物類の外枠は現場で造られていましたが、これからは工場で縦2m、横4mの規格で外枠を造り、トラックに積み込んで現場に運び、ブロック工法で積み上げて組み立てるんです。これのメリットは、貴重な建築資材の大幅なロスを無くせる事にあります。帝国本土へのBETA侵攻を阻止出来た場合、これをそっくりそのまま大陸の戦線へと持って行く事が可能で、大陸派遣軍の兵士に風雨や大陸の厳しい寒波を凌ぐ兵舎を与える事が出来ます」

 

 武は喉が渇いたのかコップの水を一気に飲み干す。 

 

「後は補給物資の野ざらしを防げるのと、戦術機や兵器の格納庫と整備施設を造ってやれるか・・・」

 

「はい、その通りです巌谷少佐」

 

「分かった。それも含めて、上層部に提出してやる」

 

「ありがとうございます巌谷少佐」

 

「なに、気にするな、それが俺の仕事だからな」

 

「はい・・・」

 

「で、後他には?」

 

「今回は二つの企画書の提出だけで来ました」

 

 それを聞いた巌谷少佐の顔が綻ぶ。

 

「そうか、次はこちらの話しだな。どうするか迷ってはいたのだが、丁度良かったよ!」

 

 巌谷少佐はそう言うと、しゃがみ込んでは机の右脇の段ボール箱を開封し始めて、中身を次々と机の上に乗せる。

 

「あの巌谷少佐・・・?」

 

 段々と積み上げられて行くファイルらしき物の束に不安感を覚える武。

 

「うん、これで全部だな」

 

「あの巌谷少佐、これはいったい何の・・・?」

 

「何って、お前さんの為に用意した見合い写真だ」

 

 胸を張って答える巌谷少佐。

 

 武からしたら『胸を張って言う事じゃない…』のだが。

 

「まあ最初は唯依ちゃんの写真からだな」

 

 そう言って武に見合い写真を見せる巌谷少佐。

 

 武は周囲に助けを求めるが、全員がそっぽを向く。

 

 篁唯依の見合い写真は複数枚あって、全部が違う写真だったりする。着物姿からワンピース型水着まで。

 

(何かやたらと力を入れているような・・・?)

 

「どうだ、気に入ったか?」

 

「彼女は譜代武家の女の子でしたよね?」

 

「そうだな」

 

「だったら同じ武家同士の家の方が良いのでは?」

 

「ああそうか、お前さんは知らなかったんだな。実はな向こう3代までは武家間の結婚は禁止になったんだ」

 

「え、そうなんですか?」

 

「うん、その結果、幾つもの縁談が破談になってな。だったらで、お前さんに集中した訳さ」

 

 悲喜劇こもごも・・・が、帝都の武家間で・・・。

 

「あの俺、未だ小学生なんですが・・・」

 

 武は小学生を理由に逃げようとするが・・・。

 

「まあ今更お前さんを普通の小学生扱いはできんよ。ん!」

 

「それはそうですが・・・」

 

「まあ取り敢えず見ていけ。見るだけ見たら、車に乗せて家に持ち帰るんだな」

 

「見合い写真を家に持ち帰ってどうしろと?」

 

「無論、両親と相談して、どの子と見合いするのかを決めればいい。ただし」

 

「ただし?」

 

「唯依ちゃんとはいの一番でお見合いするんだぞ」

 

「巌谷少佐、確認したい事があります」

 

「うん、なんだ?」

 

「XM3の使用型新型シュミレーターと、ヴォールク・データーの見直しはどうなっています」

 

「あああっちの方か。来週中には新型シュミレーターとハイヴ攻略データーが出来上がる。出来次第、ウチのテストパイロット達に試させた上で、問題がなければ来月中にも、富士教導団と横浜基地に納入させる予定だ」

 

「そうですか、それは良かったです」

 

 武はホッと胸を撫で下ろす。横浜基地でも試したが、今のシュミレーターでは【XM3】には十全に対応が出来ず、武的には不満が残っていた。それはかねてから予測していたので巌谷少佐を通じて、【XM3】に十全に対応可能な新型シュミレーターと、帝国陸軍上層部が重慶市攻防戦で【母艦級】の存在を認識してくれたので、偽装横杭からの【母艦級】の待ち伏せ攻撃と軍団規模の奇襲攻撃を加えたハイヴ攻略シュミレーションを作らせていた。

 

「お前は本当にBETAが主要縦穴で【母艦級】を使ってくると思っているのか?」

 

「間違いなく使ってきます。その上で偽装横杭から最低でも2個軍団規模のBETAの襲撃も想定して下さい」

 

「分かった。お前さんがそう言うのならそうしよう」

 

「ありがとうございます巌谷少佐」

 

「実はなここだけの話しだが、大陸の向こう側では、H8ロヴァニエミ・ハイヴ、H12リヨン・ハイヴ同時攻略の話しが持ち上がっているらしいぞ」

 

「それは本当ですか?」

 

「かなり角度の高い話しだ。非公式だが我が国にも純水素爆弾や下瀬火薬の提供を求めて来ている」

 

 肩をすくめる巌谷少佐、大量の見合い写真を挟んでハイヴ攻略を話し合う光景は中々シュールな味がある。

 

「それは構いませんが、欧州連合軍の戦術機には新OSと新型CPUが搭載されていませんよね?」

 

「どうやら【母艦級】の存在が、あちらさんの尻に火を付けさせてしまったようだぞ」

 

 

 

ーーーーーー《閑話休題》ーーーーーー

 

 

 

 だがイギリス議会も黙ってはいない。こんな事をしている間にも、BETAの大深度地下侵攻が間近に迫っているかも知れない恐怖が増大していく。

 

「軍は準備不足を理由にハイヴ攻略に消極的になるが、だったら我々は何時まで待てばよい」

 

「最低2年は待って貰いたい」

 

 議員の問い掛けにイギリス軍高官は苦しそうに言う。

 

「何故2年も時間が掛かるのだ?」

 

「新OSの性能を最大限に活かすには、新型CPUも必要だからです。問題なのは、日本帝国にしか新型CPUの製造ラインが無いからです。そして日本帝国政府は、自国軍と東ユーラシアへの製造ラインの割り当てを最優先しているのが原因で、イギリス軍を始めとする欧州方面の各軍に十分な量が回って来るのは、来年の今頃だと・・・」

 

「新型CPUはイギリスやカナダ東部では大量生産出来ないのか?」

 

「技術と発想が十年以上先を行っている為、デッドコピーすらも生産が不可能との結論が出ています」

 

 軍高官の発言でイギリス議会の反応は二つに割れる。

 

 ざわめきと絶句の二つだ。

 

 更に発言が続く。

 

「日本帝国政府から提供された新OSを、既存のCPUで試す事はしましたが、その都度バグやエラーを引き起こし、機体が機能不全に陥り事故が起きました。幸い死者は出ませんでしたが、ダイヤモンドよりも貴重なテストパイロット数名が病院送りに」

 

「では何故、日本帝国は高性能CPUの開発に成功した?」

 

「とても信じて貰えないのでしょうが、新OSも高性能CPUもいきなり姿を現したのです」

 

「は?」

 

 問答している議員は鳩が豆鉄砲を喰らったかの様な間抜け顔をする。

 

「最初は私達も信じたくはなかったのですが、日本帝国が誇る天才少年タケル・シロガネが7歳の時に新型CPUの設計図のみならず、製造データーも技術者の父親に提供したのが発端だと・・・」

 

 次第にイギリス軍高官の発言は尻すぼみに。

 

「そんな与太話をここに居る議員全員と国民に信じろと言うのかね?寝言は自宅のベッドの上でして欲しいんだが」

 

「残念ながら事実です。新OSも新型CPUも水素技術も強化部品も全て天才少年タケル・シロガネが考え、全く何も所から、製造データも作ってしまったのです。出なければ僅か数年でここまで出来ませんよ。本来なら十年は時間が掛かる代物だらけです」

 

 イギリス軍高官は事実上の御手上げ宣言を出す。

 

「ではどうすれば良いのだ。このまま日本帝国に余裕が出て来るのを待たなければならないのか」

 

 代わり応対したのはイギリス外務省高官だ。

 

「今現在日本帝国は重慶市が陥落した事で、自国がBETAの攻撃圏内に入ってしまったと認識し、自国民の40%を東日本と国外に脱出させる計画を進めている。その為、欧州に割く国家的リソースは全く無いと思われ、当然イギリスやカナダ東部に割く国家的リソースは全く無いと思われます。欧州連合が日本帝国との軍事技術協定で、幾つかの技術的結果は出ていますが、ただ日本帝国側は製造データの提供には応じる気配は見せておりません」

 

 キルケ・シュタインホフ少佐の試験小隊の【タイフーン】の改修作業では、欧州側が望んだ通り【タイフーン】の第3世代機化には成功したし、日本を離れる際には、大量のスペアパーツが欧州側に引き渡されはした。だが、欧州側が強く望んだ製造データの引き渡しには、日本側は最後の最後まで首を立てには振らなかった。

 

 日本側からしたら、新技術の製造データは貴重な外貨稼ぎのドル箱だから。

 

 日本帝国政府からしたら、ユーラシア大陸の輸出市場がBETA対戦で破壊され、輸出産業が悲鳴を上げていたのも大きいのだ。

 

 望むと望まぬにしても、日本側からすればいかなる製造データの引き渡しには応じる事には出来ない。

 

 ただ【タイフーン】のデータを元に、欧州独自の時期主力第3世代戦術機【EF-2000】の開発の目処が立ったのも確か。

 

 早ければ年内には最初の先行試作機がロールアウトする。

 

 それでも開発段階で大幅に性能を強化された【不知火】に比べたら、平凡な出来になるのは目に見えていた。

 

 キルケ・シュタインホフ少佐が持ち帰った強化型【タイフーン】に欧州側は飛び付いたのは言うまでもない。

 

 だが飛び付いたのは良いが、待っていたのは随所に渡る技術各差の壁だ。

 

 十年以上先を行っている技術格差の壁は厚く、今の自分達ではデッドコピーすら作れない現実。特にソフトウェアの差はなんともしがたない。

 

 頭を抱えていた所に、日本帝国が更なる新型OS【XM・3】と戦術機用新型CPUの開発に成功したとの追い打ちに等しい情報が入る。

 

 その証拠として、【XM・2】を搭載した富士教導団所属の戦術機部隊【89式陽炎・改】12機と、【93式不知火】の先行量産機12機との公開模擬戦を実施。結果は【93式不知火】が第3世代機に進化した【89式陽炎・改】12機を圧勝してしまった。

 

 日本に駐在している各国の駐在武官と、各国のジャーナリスト、新政威大将軍•崇宰恭子の前で。

 

 公開御前模擬戦の結果を見た新政威大将軍•崇宰恭子は高らかに宣言。

 

『この結果を踏まえ政威大将軍•崇宰恭子は宣言します。【93式不知火】を日本帝国軍及び斯衛軍の主力戦術機にする事を』

 

 崇宰政威大将軍は、勝ったチー厶に斑鳩崇継の顔を見た途端に険しい顔になる。

 

「・・・あなたがどうしてここに居るのかしら?帝都の留守を任せていたはずよ・・・」

 

「なぁに、ただの退屈凌ぎと、自分の乗機となる【不知火】の性能を直接確かめたかっただけよ」

 

 胸を張って一向に悪びれない斑鳩崇宰。

 

 悪びれない斑鳩崇継を見て顔を真っ赤にする崇宰恭子。

 

 そして周囲ははらはらする事に。

 

 

 

 

ーーーーーー閑話休題ーーーーーー

 

 

 

 

「どうりで日本人の奴ら気前が良かった訳だ。奥の手を隠していたんだからな」

 

 自分達が開発中の次世代主力第3世代機【EF-2000】の性能を【89式陽炎・改】と同等の性能を見込んではいた。だが、日本側も【89式陽炎・改】をアップデートしていたらしく、【EF-2000】を凌ぐ高性能機に仕上げ、なおかつそれを圧勝してしまう【93式不知火】。

 

 新OSのみならず水素系技術も未発達。日本帝国はもう既に純水素爆弾を開発し、純水素爆弾を使いBETAの大深度地下トンネルを、潜んでいたBETAの大集団もろとも木っ端微塵に吹き飛ばした。無論トンネルも大崩落してしまったが。

 

「これでは【EF-2000】は中途半端な機体になってしまうぞ」

 

 百歩譲って【93式不知火】に勝てないにしても、元第2世代機【89式陽炎・改】に勝てないでは話しにならない。

 

「電子・精密関係でも大きな差があるな・・・」

 

「せめて強化パーツだけでも何とかならないか?」

 

「駄目だ、工作機械の精度が違い過ぎる。短期間で強化パーツを造りたければ、日本製の工作機械と3D光プリンターが必要になるぞ」

 

「お国柄が出ているな。ミリ単位での調整が可能だ。この精密さは日本帝国ならではだ」

 

 ある技術者は感嘆を隠さない。

 

「それだとコストパフォーマンスが悪くないか?」

 

「いや、精度だけではなく、部品の寿命も長いな」

 

 強化パーツの過負荷を掛けた実験データーを見て呟く。

 

「もしこれが大量生産出来たら、部品一個辺りの値段も安くなるだろう・・・」

 

 これは白銀影行の苦労の成果と言えるだろう。

 

 世界的に゙マイナー扱いされている《統計的品質管理》をアメリカから日本に持ち帰り、中小企業を中心に品質管理を徹底解説を行い、時にはアメリカから《統計的品質管理》の著者エドワーズ・デミングを日本に招き、賛同者の協力の元で日本各地の製造現場で講演して貰いもした。

 

 すると、あれよあれよで僅か数年で製造効率を500%も上昇した上に、不良品の発生率も数十万分の一に激減に成功。

 

 日本帝国の品質のばらつきを是正し、長期的な戦術機の開発、生産、運用に必要な日本製造業の底上げにも成功。

 

 影行は品質管理の第一人者と言われ、大学生時代から築き上げた人脈を駆使して、無理と言われた【82式瑞鶴】の開発成功の基礎土台を作った人物でもある。

 

 でも何故か、当時武家保守派からは評判は悪かった。

 

 今は彼の1人息子、白銀武が上積みしている最中。

 

「じゃあどうしたら良い?これじゃあ欧州奪還は夢のまた夢で終わるぞ」

 

「こうなったら仕方なかろう。日本製の工作機械や噂に聞く3D光プリンターとやらを大量に購入するしかない」

 

「だがそれだと、今以上に日本帝国に自分達の弱みを見せ付ける事にならないか?」

 

 日本製の工作機械や3D光プリンターを大量に購入すれば日本帝国に主導権を握られてしまい、日本製工作機械や3D光プリンターの輸出を止められてしまえば万事休すだ。

 

「そんなの今更だろ、違うか?」

 

 重苦しい沈黙が一同の間に漂う。

 

 その後キルケ・シュタインホフ少佐から、欧州各国の言語に翻訳された《統計的品質管理》の本と、白銀影行が彼女が日本から離日する前日に手渡した《品質管理》の記録が欧州連合の技術者に渡り、アフリカや南米、メキシコで苦労していた生産性の向上に役に立つ事になる。

 

 日本帝国から離日した十月十日後、キルケ・シュタインホフ少佐は一児の男子を出産したが、父親が誰かに関しては硬く口を閉ざして沈黙を守り抜いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 アメリカ合衆国首都ワシントンDCでは、【母艦級】の存在を頑なに認めたくない人物が1人いた。

 

 その人物はアメリカ合衆国大統領だ。

 

「そんな馬鹿な【母艦級】の航続距離は3500kmから4000kmで、全高全幅が200m弱、全長は2km近くもあると言うのかね?」

 

 ペンタゴンから提出された、かねてから存在が噂されていた【母艦級】に関する予測データーを見て、大統領は顔面蒼白になった。

 

「はい。重慶で発見された大深度巨大地下トンネルの大きさ。H1喀什・ハイヴとH2マシュハド・ハイヴ間の往復距離から、導き出された数値でもあります」

 

「しかもBETAは【母艦級】を複数保有している可能性が高く、最悪各ハイヴに一つは必ず配備している可能性も」

 

「アメリカ合衆国にとって最悪の事態は、BETAがH8ロヴァニエミ・ハイヴを起点にして、アイルランド、グリーンランド経由で、北米東岸に侵攻して来る事です」

 

「その事で、国連、カナダ、欧州連合、イギリスでは『H8ロヴァニエミ・ハイヴ、H12リヨン・ハイヴを早期に攻略すべき!』との声が続出しており、アメリカ合衆国の参戦を求めています」

 

 アメリカ合衆国政府はユーラシア大陸からの撤退を決めていたのだが、大深度地下を掘り進む【揚陸級】の存在が撤退し難い状況を作り出していた。

 

 それでなくても国連を利用して、味方の脚を引っ張ろうとするアメリカの評判はすこぶる悪かったし、北京政府は『重慶市陥落の責任はアメリカ政府の度重なる介入が原因だ!』と、非難の声明を再三再四出している。

 

 日本帝国政府も榊外務大臣を渡米させて、アメリカ政府に真相の公表とライセンス料の一方的な引き上げ阻止に動いてもいた。

 

 このライセンス料の引き上げの対象は日本だけではなく、全ての国を対象にしアメリカ政府は通告を行う。

 

『アメリカ合衆国は世界に対して余りにも無償に近いサービスをし過ぎた。この過剰なサービスが原因で世界は勘違いをしてしまった。アメリカを打ち出の小槌か何かと』

 

 ライセンス料の大幅な引き上げを『何故この時期に一斉に行うのか?』と、記者団から質問されたホワイトハウスの報道官はそう説明をした。

 

 無慈悲とも言えるライセンス料大幅な引き上げは、アメリカに依存しない独自の技術形態を築きつつある日本帝国よりも、産業基盤が弱い国々と前線喪失国家の財政を直撃をする形に。

 

 国によってはアメリカの技術にほぼ100%依存していたからだ。

 

 アメリカに抗議をする国が続出し、全ての国の外務大臣が渡米する有様に。

 

 これに対してアメリカ政府の対応は冷たかった。

 

『それでしたら、アメリカ製の兵器を買えば良いだ。違いますかな?いつまでも、旧式の第1世代機に固執する理由はないはずですが』

 

 対応に当たったアメリカ政府担当官は、第2世代機、第2.5世代機のパンフレットと使用説明書にライセンス料金を含む契約書を提示した。

 

『これは・・・』

 

 内容を見た各国の大臣、外務次官は絶句した。契約内容が一方的過ぎたから。

 

『いくら何でもアメリカに取って一方的に過ぎませんか?』

 

『技術はタダではないんですよ』

 

『ですが、いくら何でもこれはない!』

 

 他国がアメリカ製戦術機を購入した場合、アメリカ軍が購入するよりも一機辺りの価格が5割増しかほぼ倍の値段が表示価格されているばかりか、現地使用に改修する場合、その改修にもアメリカ政府と連邦議会の承認を得る事。アメリカ軍需産業も必ず参加させ、アメリカ軍需産業主導の元で行う事が記載されていた。

 

 アメリカとしては、第二第三の『タケル・シロガネ』の登場を何としてでも阻止したい思惑が透けて見える。

 

 武が表舞台に出て来た事で、アメリカの兵器産業は土俵際まで追い詰められ、オイルメジャーも日本帝国のまさかの先祖返りならぬ、石炭回帰で儲からなくなってしまう。

 

 世界全体を見て石油よりも石炭の埋蔵量の方が多く、石炭産出国では露天掘りも出来る。石炭の安定的な輸出先は今や日本帝国しかない為、アメリカの石炭業界は安易な値上げに応じようとはしなかったのである。

 

『我々、石炭業界がアメリカ政府に望むのは、日本との安定供給契約である』

 

 アメリカ石炭業界はそう声明を出して、他の業界とは一線を置いていた。

 

 で、話しをホワイトハウスに戻す。

 

「アメリカは二つのハイヴ攻略戦には参加しない」

 

 大統領は断言をする。彼は『アメリカの若者をユーラシアで1人も戦死させない』を政治公約のスローガンを掲げて大統領選挙に勝った以上、絶対に譲れない最後の一線。

 

 だが地中奥深く掘り進む【母艦級】の存在が最後の一線を揺るがしていた。

 

「ですが、H8ロヴァニエミ・ハイヴを放置すれば、BETAはアイルランド島からグリーンランド島経由で北米東岸に侵攻して来る可能性が高いのです」

 

 アメリカもBETAが頻繁に地中侵攻して来る用になった1980年代半ばから、【母艦級】存在を疑っていた。しかし、その証拠が見付からないので、あくまでも未確認種の位置づけでしかなかった。だが、日本帝国陸軍が決定的な証拠となる大深度地下巨大トンネルを発見し、そこに潜伏していたBETAとの戦闘を行って事で、【母艦級】の存在はほぼ確信に近い形でペンタゴン内で受け止められていた。

 

 そしてシミュレーションした結果、BETAがH8ロヴァニエミ・ハイヴを拠点にして、アイルランドからグリーンランドを経由して北米東岸に侵攻して来た場合、その侵攻を防ぐのは事実上不可能の結論で一致してしまう。

 

 誰かが悔しげに呟く。

 

『【母艦級】の数はそう多くはないはずだ。重慶で【母艦級】の一つや二つを潰していたら』

 

 『もし、たられば』を言ってもしょうがないのだが、アメリカ軍が纏まった戦力を重慶市防衛戦に参加させていたのなら、重慶市の失陥はなかったばかりか【母艦級】を潰せていたのかも知れない。

 

『・・・もしかしたら我々は千載一遇の好機を逃したのかも知れないな』

 

 もし【母艦級】の破壊や鹵獲に成功していたら、BETAの全容を掴める突破口になり得たかも知れない。

 

『ですが大統領は・・・』

 

『ああ分かっている。大統領1人の責任ではない。前政権の頃から我々はアメリカ軍から順次撤退しては、その穴を国連軍に埋め合わせをさせて来た。アメリカ保守層の『アメリカの若者をユーラシアで死なせるな!』の声に押されてだ。現大統領はその伝統的保守層ネオコンサーバディズムを始め、アメリカンファースト主義層、モンロー主義層の支持を受けて当選した以上、彼らの支持を失う政策は取れないのはな』

 

『ですが、【母艦級】の存在が両大洋の壁の意味を失わせてしまった以上は・・・・』

 

 太平洋方面はまだしもだが、大西洋と北極海方面はもはや待った無しだ。BETAがその気になれば、何時でもアイルランド島からグリーンランド経由で北米東岸に攻め込む事が可能な以上、早急に手を打つ必要があった。

 

『当面はグリーンランドとアイルランドの守りを固め、G弾の開発を急がせよう。日本帝国がどんなに戦術機や兵器の性能を向上させようが、所詮は戦術レベルの話しだ。我々が戦略レベルでBETAと日本帝国を圧倒すればいい』

 

『ですが、ロスアラモス研究所では、依然としてG弾の開発に否定的な声も多いのですが』

 

『知っているよ。基本的原理すら分かっていないBETA由来の物質(G元素)を大量破壊兵器に転用するのは危険だと言っているぐらいはな・・・』

 

『それでもですか・・・』

 

『それでもだ。G弾を開発して、ユーラシア大陸の全てのハイヴを破壊する』

 

『我々がG弾を先に開発するか、BETAの北米東岸への侵攻するのが先か、ですか。楽しい未来図ですね』

 

 さて、話しを再びホワイトハウスに戻す。

 

「だが誰も【母艦級】の存在を見た訳ではないはずだ」

 

 アメリカ大統領はそう断言する。

 

「ならば曖昧な情報を元に、アメリカの若者を死なせる作戦に同意する事はない!」

 

「ですが世界はもう既に【母艦級】の存在を認知しています。なのに我が国だけが認めない訳には・・・」

 

「何度も同じ事を言わせるな。アメリカ合衆国大統領である私に【母艦級】の存在を認めさせたければ、【母艦級】と言う輩を捕獲したまえ!」

 

「ッ」

 

「返事は」

 

「分かりました。それでは早速、【母艦級】の捕獲計画を立案てましょう」

 

「言って置くが、アメリカ軍を使うのは認めない。私は国民に約束したのだからな。『アメリカの若者をユーラシア大陸の対BETA戦争で戦死させない』と」

 

 ホワイトハウスの大統領執務室から出た彼らは、大統領が出した難題に頭を抱えた。

 

 対BETA戦争の政治的主導権を握る為にも、アメリカ軍単独で【母艦級】の鹵獲なり捕縛する必要性がある。だが、大統領は頑なにアメリカ軍を使うのを認めないのだから。

 

「・・・他の国にやらせるか・・・」

 

「何処の国にやらせるんだ?こんな無茶を通り越して無謀に等しい案件を引受ける国がどこに存在する?」

 

「まずは、自力で優秀な戦術機を調達出来て、単独で運営出来るのが前提条件になるな・・・」

 

 その一言で一つの国が頭に浮かぶ。

 

「日本帝国か・・・」

 

「あの国しか出来ないだろうな」

 

 逆に言えば、日本帝国で駄目なら、他の国でも駄目。

 

「だがこんな無鉄砲な依頼を日本帝国が引受けるか?」

 

「そもそも【母艦級】は普段はハイヴの中に潜んでいる可能性が高いのだろう。なのにどうやって・・・」

 

「日本帝国は、秋には大陸で【タイプ93】の実戦テストをする予定なのだ。打って付けの実戦テストになるはず」

 

「それはそうだが、【母艦級】が普段どこにいるのか分からないのに、どうやって捕縛させるのだ?」

 

「無論政治的見返りは用意するし、新しく組織中の国連第11軍を援護に付けさせる。作戦期間は約1年。1年の間に例の【母艦級】を捕獲に成功すれば、ライセンス料契約見直しの対象外とするのはどうだ。ここで少しでも日本軍の戦力を削り落としたいしな」

 

「名案かもしれないが、もし本当に、日本帝国が成功させてしまったらどうするのだ?」

 

「その心配はない」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「【母艦級】は普段はハイヴに格納されているはずで、そう数も多くない。何処のハイヴに潜んでいるかも不明だ。ハイヴの最深部に格納されているのなら、成功する可能性は限りなくゼロだ」

 

「だがそれでは大統領を説得出来ないぞ」

 

「そうだ。BETAが直接アイルランド、グリーンランドへの大規模侵攻が可能と分かった今、少なくともH8ロヴァニエミ・ハイヴだけでも何とかしなければ」

 

「心配をしなくても良い。秋にはアメリカの若者を死なせずにロヴァニエミ・ハイヴを攻略出来る手段が手に入る。ロヴァニエミ・ハイヴを絶好の実験所にすれば良い。ここで上手く行けば例の【母艦級】の捕縛も可能だろう」

 

 一同にざわつきが起きる。

 

「つまり日本帝国を出し抜こうというのか?」

 

「その通りだ」

 

 そう提案した男は、ようやっと分かったかと笑みを浮かべる。

 

「日本帝国が東ユーラシアで不様に失敗と醜態を曝している間に、G弾(新兵器)でロヴァニエミ・ハイヴを攻略し、【母艦級】も手に入れてしまうのさ。そしてアメリカ合衆国こそが世界ナンバーワンの超大国なのを証明する」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「すまぬな、日曜日だと言うのに押し掛けてしまって」

 

 斑鳩崇継は側役の真壁助六郎を伴って7月上旬の日曜日に白銀宅に来訪した。

 

 側役の助六郎は崇継の脇に立つ。武の両親は台所のテーブル椅子に座り様子を伺う。

 

 崇継と武の会談は白銀家宅のこじんまりとしたリビングで始まる。

 

「いえ、ご要件は伺っておりますので、頭を上げて下さい」

 

 要件とはアメリカから突き付けられた無理難題だった。

 

 ニューヨークとワシントンDCを往復しながら、各国の大臣、次官、国連大使と会合を重ね、アメリカのライセンス料の大幅を止めさせかを話していた最中に、アメリカ政府国務省から呼び出しを受けた榊外務大臣は、アメリカから無理難題を突き付けられた。

 

 日本帝国がハイヴ内に潜んでいる【母艦級】の捕縛に成功したら、日本帝国だけライセンス料の大幅引き上げの対象外にして良いと。

 

 この無理難題を突き付けられた榊外務大臣は最初は驚き、次は沸点しそうになったが、辛うじて水蒸気爆発するのを抑え込んで、『貴国の要求は本国に持ち帰って検討させて頂ききます』とそう一言残して帰国の徒に。

 

 アメリカからの要求に政威大将軍•崇宰恭子を始め、政府閣僚全員が激怒したが、日本帝国政府にしても向こう2、3年の時間が欲しかったのも確かだ。2、3年の時間があれば戦術機の完全国産化が可能なるからだ。更に言えばその2、3年時間を稼ぐかの妙案が無く困っていたのだから。

 

「ふむ、なら話しは早い。今の戦力で重慶・ハイヴ内に突入して【母艦級】の捕縛ないし破壊は可能か?」

 

「無理です」

 

 武は率直に言う。崇継はその率直さが嫌いではない。寧ろ好みと言っていい。

 

「率直言うな。この度の作戦では、突入部隊には180機の戦術機。支援として3個機甲戦術機師団。地上30個師団60万が動員される予定だ」

 

 この捕縛作戦には日本帝国陸軍と北京政府派統一中華戦線及び統一韓国軍の三軍が動員される予定だ。編制中の国連第11軍は当てにはしていない。

 

 

「ハイヴ攻略の本番は、ハイヴ内、しかも主要縦穴に突入してからになります。地上制圧はただの前座しか有りません」

 

「貴公が作らせた新しくハイヴ攻略シュミレーションを実際にやってみたが、ヴォールクデータよりも難易度が遥かに上がっているのは何故だ?」

 

「ヴォールクデータははっきり言って古いですし、BETAも人類を研究し戦略と戦術を学びつつあります。従ってBETAがハイヴ防衛の為に、偽装横杭から【母艦級】を使っての奇襲攻撃はしてくるでしょうし、2個軍団規模の待ち伏せ攻撃は当然予想されるべきです」

 

 崇継も数度突入部隊を指揮して突入をしたが、偽装横杭が沸いて出て来るBETA津波に部隊がゴリゴリと削られてしまった。そこに偽装横杭から飛び出して来た【母艦級】に部隊を分断。その上、止めと言わんばかりに無数に沸いて出て来た戦車級と要撃級の赤い津波に飲み込まれ、突入部隊は全滅認定されてしまった。  

 

 主要縦杭に入る迄は比較的順調だったのだが。

 

「ハイヴ内では補給もままならない上に、通信も妨害電波らしき物が使われて潤沢に使えないと来ている。正直に言って御手上げでな。アメリカ政府からも『返答を寄越せ』と煩くて敵わん」 

 

 要は時間切れが迫っていた。ハイヴ内では期待された純水素爆弾、下瀬火薬は味方を巻添えしてしまうので、怖くて使えないのが判明してしまう。

 

「やり方を変えて下さい」

 

「やり方を変えろとな?」

 

「ハイヴの中では補給を受けず、最短距離で反応炉を目指して欲しいのです」

 

「話しを続けてくれ」

 

「はい、ひたすら高速でハイヴ内を駆け抜け、BETAとの戦闘は極力回避。偽装横杭からの【母艦級】の突撃も、BETAの雪崩が起きる前に、ハイヴの反応炉に突入し、反応炉を純水素爆弾か下瀬火薬で破壊するのです。それしか方法はございません」

 

「つまり従来の戦いを否定しろと言うのか。白銀武よ」

 

「はい、その通りです斑鳩公。ハイヴ内で一々BETAと戦闘していては、補給が続かなくなり、水素燃料も持たなくなってしまいます。寧ろハイヴ内では補給を受けない事を前提にした作戦を立てて欲しいのです」

 

「無茶だ、補給無しだなんて!突入部隊に全滅しろと言うのか君は!?」

 

 武の意見に反論したのは、助六郎だった。

 

「それに反応炉を破壊しても、他のBETAに退路を断たれてしまう」

 

「いいえ、反応炉を破壊されたBETAは、そのハイヴを放棄して、1番近い反応炉を目指します。そうでないとBETAの方がエネルギー切れを起こすからです」

 

「何故そう言い切れる」

 

「BETAは、その要にプログラムされている自動機械オートマトンだからです」

 

「なっ・・・!?」

 

 武は真っすぐに斑鳩崇継の目を見据える。

 

「BETAの本当の正体は、生物を模してして作られた自動機械オートマトンです。斑鳩公」

 

「根拠はあるのかな・・・?」

 

「アレを生物とは思えますか?」

 

「いや、そうとは思えないな。あんなグロテスクなのは生物とは思いたくないが正解だ。では、BETAとは何なのだ白銀武よ」

 

 1時間後崇継は白銀家を後にした。

 

「崇継様は、あの様な話しを信じるのですか?」

 

「私は信じるよ。白銀武は嘘を言っていない目をしていた。それだけで十分だ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

  

 自分の主人は信じると言ったが、どうにもこうにも助六郎的には半信半疑だ。

 

「1週間後には、白銀武は重慶・ハイヴ攻略の為にアドバイザーとして我々の訓練に参加してくれる。早急に彼の受け入れ準備を整えよう」

 

「分かりました。ですが最初は【母艦級】の捕縛だったのがいつの間に重慶・ハイヴ攻略に変わっていますが」

 

「どちらにせよ重慶・ハイヴは攻略せねば、帝国にBETAが押し寄せて来るが分からない故にな。それに」

 

「それに、とは?」

 

「傲慢なアメリカの鼻の穴を潰さなくては、私の気が済まないのだよ助よ」

 

「ハァ、分かりました…」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 1993年8月上旬、アメリカはG弾の起爆テストに成功した。

 

 1993年8月中旬、アメリカ合衆国政府はG弾を使ってのH8ロヴァニエミ・ハイヴ攻略を許可。

 

 1993年8月下旬、北米東岸各所から国連軍主力第1軍、第2軍が出撃した。イギリス軍を主力とした欧州連合軍及び義勇軍がイギリス沿岸に集結。

 

 作戦名『オーディン』を発動した。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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