マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

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今回の短編は武ちゃんと唯依姫との絡み多いです。


武ちゃん3周目、もし1年以上早く来て至ら?

《2000年12月22日金曜日 帝国陸軍演習場》

 

「巌谷中佐、大伴中佐。本日はお忙しい中、時間を取って頂き感謝をいたしますわ」

 

 国連横浜基地副司令官の香月夕呼大佐待遇は恭しく2人の帝国陸軍中佐に頭を下げる。

 

「いやいや、横浜基地の方で何でも新しい戦術機用OSをお作りになったとか?」

 

「ふん」

 

 礼儀正しく応答したのは巌谷榮二中佐だが、もう1人の大伴國男中佐は不機嫌を隠そうとはしない。

 

「こちらの準備はもう既に整っていますが、そちらの準備は整っていますでしょうか?」

 

「ええ、こちらの方の準備は整っていますが・・・しかし・・・」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「見た所、そちらの機体は【吹雪】の様ですな・・・。てっきり【不知火】か【陽炎】で来るものかと・・・」

 

 帝国陸軍技術廠が用意したのは日本帝国最強と誉れ高い【00式武御雷】なのだ。国連横浜基地には、第二世代機の【89式陽炎】、第三世代機の【94式不知火】が多数配備されているので、てっきりそちらで来ると思っていたのだ。

 

 一応【97式吹雪】は第三世代機のカテゴリーに入るが、如何せん【吹雪】は練習機として開発されたので、主機の出力が低く設定されているので、【89式陽炎】に何とか対抗出来るのが実情なのだ。

 

「新しいOSの開発を担当した衛士が【吹雪】を至って気に入っておりまして、新OSの優位性を【吹雪】で証明して、【撃震】の後継機の問題と【不知火シリーズ】が抱えている問題を一挙に解決して見せると息巻いています」

 

 夕呼は自信満々にニッコリと微笑む。

 

「ははははそれは頼もしいですな。その新OSの開発担当衛士なのですが、一介の訓練生なのは本当なのでしょうか?」

 

「正確には訓練生でもありません。私の助手ですので」

 

「「はっ?」」

 

 巌谷榮二と大伴忠範は面食らう。

 

「本人の強い希望で、戦術機を使っての実証実験を担当させていたのですが、横浜基地内で色々と噂になりまして、仕方なく訓練生の立場を与えました。今回の新OS実証トライヤルに勝てば、正式な国連軍衛士として任官される予定です」

 

「な、なるほど・・・。そちらの準備も良い様なので、早速開始を致します」

 

「はい!」

 

 夕呼は楽しそうに微笑む。

 

 

 

「隊長、私1人で十分です。行かせてください」

 

「雨宮、そうは言うが・・・」

 

 そう意気込むのは帝国陸軍技術廠配属、帝国斯衛軍所属中隊ホワイトファング中隊副隊長の雨宮鞠子中尉だ。帝国陸軍技術廠は念の為にとホワイトファング中隊全員に新OSの実証試験トライヤルへ参加させていた。

 

 最初は中隊長の篁唯依中尉が出る予定だったが、副隊長の雨宮中尉が自分が出ると言い出した。

 

 実のところ帝国陸軍も斯衛軍も、国連横浜基地が戦術機用新OSの開発を行なっている情報を掴んでいた。掴んではいたのだが、伏魔殿の異名を持つ横浜基地から正確な情報を掴むのは不可能なので、新OSに関する正確な情報を掴みかねていた。そこに国連横浜基地の香月副司令官から新OS実証試験トライアルの申し入れがあり、帝国陸軍技術廠に駐留している斯衛軍が相手をする事に。

 

「話を聞けば相手はついこの間まで訓練生ではなく、多少の戦術機の操縦経験しか持たない技術者とか。なのに素人を相手に中隊長を出したとあっては斯衛軍の名折れです。ここは私1人で十分です!」

 

「分かった雨宮、お前に任せよう。相手が素人だからと言って油断するなよ」

 

「はっ、承知しております中隊長」

 

 雨宮中尉は一礼して小走りに自分の乗機へと向かう。

 

「さてと、始めるとしますか・・・」

 

 【吹雪】の搭乗者白銀武は対戦相手の【武御雷】が位置に付いたのを確認した後、【吹雪】を起動させる。

 

「両方共、準備が出来た様だから、さっさと始めて頂戴」

 

 夕呼の一声で、模擬戦が始まった。

 

 武は模擬戦開始と同時に、演習場で一番高層階の屋上に陣取る。

 

 それを見た雨宮中尉は鼻先で笑う。

 

「ふん、やはり技術者上がりの素人だな、姿が丸見えだ。直ぐに終わらせてやる」

 

 彼女は3点射撃の一撃で早々と終わらせる気でいた。

 

 だが無常にも、その射撃は空を切る。

 

「なっ!?」

 

「今ので位置が判明したな。十分と掛からずに終わらせてやるよ斯衛軍」

 

 武はスラスターを巧みに使いながら、着地をせずに地表すれすれを滑走して行く。

 

「雨宮、1回距離を取れ。後ろに周り込まれるぞ!」

 

 待機室でモニター観戦していた唯依はそう叫ぶ。

 

 唯依は今ので【吹雪】の搭乗者が一介の技術者の操縦ではないのを見抜く。

 

「くっ、もう後ろに」

 

 最小の機動で武は雨宮機の後ろに回り込み、突撃砲の引き金を引く、撃たれた36ミリ弾は雨宮機の左腕を確実にヒットした。

 慌ててランダム回避をしつつ建物と建物の間を縫う様に滑走して行く雨宮機。

 

『ホワイトファング2 、左腕損傷。左腕使用不能。小破と認定』

 

「くっ、今のでやられたのか。あれで本当に素人なのか?」

 

 雨宮中尉は悪質な詐欺に引っ掛かった心境だ。 

 

「追撃して来ない?」

 

 雨宮中尉は追撃が無いのを見て一瞬動きを止めてしまう。その時である。センサーが反応した。

 

「上!?」

 

 そう思った直後、武機が頭上に姿を現す。

 

「しまったー!」

 

「戦いの最中に、動きを止める奴がいるかぁー!」

 

 雨宮機は急いでバックステップしようとしたが遅かった。

 

 36ミリ弾の雨霰が雨宮機を襲う。

 

『ホワイトファング02に命中弾多数。撃墜認定。ジャッカル01機の勝利です』

 

 帝国軍側は重苦しい沈黙が支配する。ありのまま見たものが信じられないと。幾ら新しいOSを搭載していても練習機に過ぎない【吹雪】が、第三世代機最強と言われる【武御雷】に勝つ等あり得ないと。

 

「あら、もう終わり?」

 

 夕呼の一声で管制室の誰もがハッとなる。

   

「ちょっと白銀。こんなに簡単に早く終わったら、新OSの売込みにならないじゃない。もう少し手を抜いて上げなさいよ。これじゃあ可哀想じゃない」

 

『ゆ、・・香月副司令、これでも手を抜いていますよ。文句なら相手に言ってくださいよ。【武御雷】の性能を半分も出せていないんですから』

 

「あら、そうなの?」

 

『そうですよ、【武御雷】性能の高さに頼ってばかりいるから、【武御雷】の性能を半分しか出せないんです!』

 

「と言うのがウチのエースの評価です。そちらには【武御雷】の性能を最大限に出せる衛士はいないのですか?」

 

「香月副司令、ちょっと待って貰おう。急いで唯依ちゃんを呼び出してくれ」

 

 慌てた巌谷中佐は急いで唯依を呼び出す。

 

「分かりました、私が出ます」

 

 待機室にも武と夕子の会話はただ漏れだった。この雪辱を晴らすには、ホワイトファング中隊の隊長である自分が出て白銀武に勝つしかなかった。

 

 二年前の帝都防衛戦を始め、幾つもの実戦経験を積んだ彼女には分かった。相手(白銀武)も実戦経験者なのを。

 

「何が技術者上がりの助手兼訓練生だ。すっかり騙された」

 

 唯依は待機室から急いで飛び出し、駆け足で自分の乗機に向かう。この雪辱を晴らす為に。

 

「ジャッカル01より、CPへ。意見具申あり」

 

 雨宮機がハンガーへと引き上げて行くのを見た武はCPに回線を繋ぐ。

 

『こちらCP、どの様な意見具申でしょう』

 

「次の模擬戦の内容を変更したい」

 

『どの様な変更でしょう?』

 

「鬼ごっこに変更したい」

 

『・・・・・・・・・・』

 

CPの反応は無だった。

 

「もう一度言うぞ。普通の模擬戦から、鬼ごっこに変更したい。以上だ」

 

 管制室にいる全員が夕呼の顔を見る。

 

「いいんじゃない。本人がそうしたいと言うのなら、その方が普通の模擬戦よりも面白そうだし」

 

 夕呼は人の悪い顔を剥き出しで言う。

 

「こちら巌谷榮二だ。白銀武君、鬼ごっこへの変更目的を教えて欲しい」

 

『答えは簡単です。新OSの優位性とその目的を知って欲しいからです』

 

「目的とは?」

 

『新OSの目的とは、戦術機の運動性能を最大限に引き出すのが目的です。それを解り易く表現するには、新OSを搭載をした【吹雪】の運動性能が【武御雷】を常に上回るのを見せるのが手っ取り早いからです。戦術機のカタログスペックが必ずしも、勝利の絶対条件じゃないのを次で証明して見せます』

 

「しかしだなあ・・・」

 

 巌谷榮二には武の言いたい事も目的も分かるが・・・

 

『巌谷中佐、やらせてください!』

 

「ゆ、唯依ちゃん・・・」

 

『鬼ごっこで【武御雷】が最強の戦術機で在る事を証明して見せます !』

 

「だけどね唯依ちゃん」

 

『【武御雷】は今亡き父様が心血注いで開発した戦術機なんです。その戦術機がOS一つに負けたとあっては、父様の霊前に合わせる顔がありません』

 

 巌谷榮二は大事な事を失念していた。【武御雷】の開発責任者だった唯依の父親である篁裕唯は明星作戦で戦死しており、【武御雷】は彼の遺品とも言うべき機体なのを。

 

『お願いです。巌谷中佐』

 

 頭を抱えて悩む巌谷榮二だが、

 

「やらせてやったらどうだ巌谷」

 

「大伴・・・」

 

「【武御雷】なら、鬼ごっこで性能が劣る【吹雪】に負けるはずがなかろう。違うか?」

 

 大伴の一声で情勢が決まる。

 

「分かった唯依ちゃん。ここは唯依ちゃんの好きな様にやっていい」

 

『ありがとうございます巌谷中佐』

 

 そこで通信が切れる。

 

 武は唯依が出て来るまでの間、水分補給と推進剤の補給を行なっていた。

 

「ん、出て来たかな?」

 

 レーダに反応があり、武は自身の水分補給と機体への推進剤補給を止めた。

 

『待たせたな白銀武』

 

 唯依は闘志を滾らせ、真正面から対峙した。

 

(凄いな、機体越しでも怒っているのが良く分かる。だが逆に新OSの優位性を示す好機だろうな)

 

『じゃあ2人共、鬼ごっこ始めるけど良いかしら?』

 

「『はい!』」

 

 鬼ごっこ開始の合図があると同時に、唯依は【武御雷】を猛然と武機に突っ込ませる。だが武機は動かない。

 

(動かない、何故だ)

 

 全く動こうとしない武機に疑問を持ちながらも、唯依機は武機への突進を止めない。

 

(よし、タックル一発で仕留める)

 

 唯依がそう考えた瞬間、武機が視界から消え、次の瞬間唯依は自分の機体が宙に浮くのを感じた。

 

(えっ?)

 

 そして唯依機は地面に叩きつけられのを感じた。

 

「うわああああ・・・ッ!いったい何が?」

 

 いつの間にか機体は仰向けに倒れ、唯依本人は空を眺めていた。

 

「・・・・・・・・」

 

『ほらほら篁中尉。仰向けに寝ていたら、鬼ごっこにはなりませんよ』

 

 武は揶揄い気味に言う。

  

「くっ、こんな事が」

 

 慌てて機体を起こす唯依。

 

『丁度良いです。何故戦術機が人の形をしているのか、きちんと分からせて上げましょう唯依姫』

 

「唯依姫・・・」

 

 武の人を小馬鹿にした言い方に、堪忍袋の尾が切れた。

 

「貴様はどこのどこまで我々を愚弄する気だあー!」

  

 唯依はフルブーストで武機に掴み掛かる。が、闘牛士宜しく武機は華麗に交わしつつ、巧みな足捌きで唯依機をすっ転ばす。

 

「やーいやーい!猪娘、手の鳴る方へ!」

 

 武は今度こそ逃げ出し、唯依も機体を立て直して武機を追いかけ回す。

 

「逃がすかあー!」

 

 唯依は必死の形相で武機を追いかけ回すが、捕まる直前でどこぞの軽業師よろしく唯依機を躱し、絶妙なタイミングで唯依機を柔道や合気道の技を織り交ぜて転ばす。

 

 そして武は機体をダッシュさせ逃げ出し、必死になって追いかけ回す唯依機は、泥と埃に塗れ、機体の塗装が所々で剥げてして、装甲にデコボコと傷が出来てしまう。

 

「く、こんな、こんなことって、く、屈辱だぁー!」

 

 唯依は機体のコクピットで絶叫する。新OSの効果は嫌と言う程実感が出来た。追い掛ける【吹雪】の運動能力と反応速度は明らかに、自分の【武御雷】を一段も二段も上回っているのを。

 

「それじゃあ、私達が今までやって来たのは何だったのだあー!」

 

 本来練習機の【吹雪】がOSを換装しただけで【武御雷】を凌ぐ機体に変貌したのらなら、量産性、整備性を度外視してでもBETAの物量に対抗出来る高性能機の開発に固執して来た自分達が馬鹿ではないか。

 

「違う違う!私達は馬鹿ではない!馬鹿ではー!」

 

 管制室では誰もが唯依の絶叫を聞きながら一方的な展開に夕呼を除いて皆が唖然とし、夕呼はと言うと床を笑い転げて回っていた。

 

「ヒーヒー!白銀、やっぱりあんたは本当に面白い男だわ」

 

  

 副官のピアティフ中尉が夕呼を宥めるが、夕呼は笑い転げるのを止めようとはしない。

 

「・・・あの、巌谷中佐、まだ続けますか・・・?」

 

 誰がどう見ても、唯依に勝ち目が無いのは一目瞭然だったし、新OSの効果と優位性も確認出来た。【陽炎】よりも低スペックの練習機【吹雪】でも、新OSを使えば第三世代機最強の機体【武御雷】にも勝てるのも証明した。

 

(なるほど、不知火シリーズの技術的問題を新OSで解決して見せると豪語しただけの事はあるのか・・・)

 

(新OSを搭載しただけで戦術機の運動性能、反応速度が3割も上昇し、機体の硬直時間は0、間断なく連続立体機動を可能にする奇跡のOS。これこそが私が探し求めていた物ではないのか?)

 

(見たい物は見た。知りたい物も知った。これ以上続けるのは唯依ちゃんには気の毒な話だ。しかし、影行の息子が生きていたとはな・・・)

 

 巌谷中佐は武の父親・白銀影行とは旧知の間柄で、帝国陸軍が保有する戦術機開発で仕事を一緒にやった仲だ。

 

 BETAの地中侵攻で関東防衛戦が突破され、横浜市が壊滅したとの凶報を受けたと聞いた時は、白銀家全員の生存を絶望した。一応一縷の望みを持って影行の妻・楓の実家である親藩武家徳永家と一緒に捜索願いを出してはいた。だが、明星作戦後に横浜ハイヴ内で人間の脳髄が多数発見され、何処の難民キャンプでも発見されない事もあって正式に死亡認定されてしまう。巌谷も徳永家もそれを受け入れた。1年近く経っても見付からない、つまりそう言う事なのだと。

 

「そうだな。もうそろそろ、止めさせようか・・・」

 

 巌谷中佐は姪っ子が余りにも気の毒になった。

 

 そしてもう1人の大伴中佐は険しい顔している。

 

「おっ、面白い物を見っけ」

 

 一度唯依機と距離を取り、離れた武が見つけたのは長さ十数mの太めの電線だ。

 

「どこに、どこに、隠れたー!」

 

 最早自分に勝ち目は無く、ここで武機を捕まえも、自分の機体の惨状を見れば武の勝ちと判定するだろう。

 

 例えそうでも、唯依は武に一矢報わなければ気が済まなかった。

 

「鬼さーん、ここだよー」

 

 武機が唯依機の頭上を過ぎる。

 

「逃がすかぁー!せめて一矢だけでもー」

 

 唯依は必死になって武機を追い掛け回す。屈辱の余り視野狭窄を起こしていることや、罠の存在に気付かずに。

 

 武機はある区画を華麗なステップで曲がると軽くジャンプさせる。唯依機も曲がり角を曲がる。だが次の瞬間、唯依機は電線に足が引っ掛かり、派手に転んでそのまま坂道を下ってしまう。

 

「きゃああああああああ」

 

 慣性の法則で付いた勢いは簡単に止まらない、そのまま坂道下まで滑り落ちた。そして唯依の機体はシステムダウンしてしまう。

 

「・・・・・・・・」

 

 唯依はシステムダウンしたコクピット内で呆然し、そして次に・・・・

 

「う、うわあ、うわああああああ!」

 

 と、大泣きしてしまう。

 

『おい、唯依ちゃん大丈夫か?怪我はしていないか?』

 

 今の唯依には安否を心配する問い掛けの声も聞こえない。

 

 名門譜代武家篁家の当主として気丈に振る舞っていてもやはり二十歳前の十代の女の子。一度仮面が外れて仕舞えば年頃の女の子(来年の3月で17歳)としての素顔が表に出てしまう。

 

「父様ごめんなさい。唯依は唯依は、わあああああああ!」

 

 と、一向に泣き止む気配が無い。

 

「やべー、やり過ぎた・・・」

 

 泣き止まない唯依に武は困り果てる。

 

『白銀ぇ〜、女の子を泣かしてどうすんの?』

 

 冷やかし気味に夕呼は武を誂う。

 

「巌谷中佐、申し訳ありません。やり過ぎました・・・」

 

『あー白銀君。唯依ちゃんへのフォローは、身内の私に任せてくれて結構だぞ。多分君では逆効果だろうからな』

 

「ですよね、試験の方はどうします。まだ続行しますか?」

 

『いや、もう止めて置こう。君が相手では勝ち目は無いだろうしな』

 

「はあ、分かりました・・・」

 

 武にしても一向に泣き止まない唯依を見て、罪悪感を感じていたので巌谷中佐の中止を受け入れた。

 

 

 

 

 横浜基地への帰り道、装甲車の中は空気はやや重い物が。

 

「やはり夕呼先生の言った通り、XM3の正式採用には時間が掛りそうですね・・・」

 

 武はあの後、打ち合わせでもう1人の中佐、大伴中佐の反応と感触の悪さを見て、武は佐渡ヶ島ハイヴ攻略戦までに、作戦参加部隊全機へのXM3の搭載は間に合わないと判断するしかなかった。下手したら、横浜国連基地以外の部隊は従来の旧OSで戦うしかなくなると。

 

「だから言ったでしょう。あんたがどんなに強く望んでもXM3の普及には二・三年は掛かるって。まあ見ていなさい人間が自分達の既得権益を侵されるのをどんなに嫌うのかが良く分かるから」

 

「はい・・・・・」

 

「そんなに暗い顔をしないの。あんたにはA-01部隊の再建と横浜基地内での教導官と開発衛士としての仕事が山の様に待っているから」

 

「そうですね・・・」

 

 国連横浜基地では武の発案の元で、新兵装、新支援装備の開発が動き出していし、横浜基地限定ではあるが、新OSの先行配備も行われているので、余り外部のゴタゴタに関わっている余裕はないのだ。

 

 この後、夕呼の言葉は当たり過ぎる程に当たりだす。

 

 

 

 

「だいぶ落ち着いた様だな唯依ちゃん」

 

 巌谷中佐はそう言ったが、唯依の目は真っ赤なままだ。

 

「お見苦しい所をお見せしました・・・」

 

 唯依は顔を真っ赤にして俯く。

 

「まあ色々とショックだった様だな」

 

「はい」

 

 まさかOS一つで戦術機がここまで化けるとは誰が想像しただろうか?

 

「率直な感想を聞かせて貰いたい。唯依ちゃんは新OS・XM3をどう思う?」

 

「とても素晴らしいOSだと思います。出来れば、今すぐにでも採用すべきだと進言します」

 

「それに付いては同感だが、多分早期導入は難しいな」

 

「どうしてですか?」

 

「表向きの理由はXM3は未だ実戦運用経験がない。最低でも戦術機1個大隊が3ヶ月実戦で運用した実績が欲しい」

 

「つまり裏の理由が有るんですね巌谷中佐」

 

「そうだな、簡単に言えば縄張り争いが原因だ」

 

「・・・・・・・・」

 

「もしXM3が帝国陸軍技術廠で開発されたのなら、新潟戦線や九州方面軍で、実戦運用を行おうとするだろう。だが開発したのが外様に等しい国連横浜基地となると話しは全く別になって来る」

 

「つまり、国連横浜基地は嫌われているから、XM3がどんなに素晴らしいOSだと分かったとしても、早期に採用される事はないと仰りたいのですね」

 

 巌谷中佐は姪っ子の頭の回転の早さ、機敏の良さを高く評価はしている。だが、その反面彼女は気性が真っ直ぐ過ぎるので、兎に角曲がった事が嫌いなのだ。

 

「うん、まあ、そうだな。ついでに言うと、ここであのOS以上のOSを作れと言う話しになるかもしれないな」

 

「出来るのですか?」

 

「先程第三課の連中に聞いたのだが、発想と技術が十年以上も先に行っていて、今すぐは無理だと言っていたよ」

 

 巌谷中佐はお手上げポーズを取る。

 

 第三課とは精密・電子機器開発部で、【不知火】と【武御雷】で使っているOSとCPUは第三課で作られた。

 

 第三課は模擬戦の後、夕呼からXM3のデータを受け取ると即座に解析した。そして出た結論が、

 

『今の我々の技術水準では、デッドコピーすら作れない。発想と技術が十年以上も先に行っている』

 

 だった。

 

「ではどうするんですか?」

 

 唯依からすれば縄張り意識が原因で、あれ程のOSが手に入らない等理不尽に等しかった。

 

「だからと言って何もしない訳には行かないし、俺の許された権限内でやって行くしかない。そこでだ。篁中尉、貴官には国連横浜基地への出向を命じる事にした」

 

「自分が国連横浜基地に出向ですか?」

 

「そうだ。たが、まだ正式な決定ではない。これから今日の試験内容の上層部への報告と、貴官を出向させる為の交渉をしなければならないからな」

 

「何日間掛かりそうでしょうか?」

 

「そうだな、どんなに早くても年明けになるだろう。時期が時期だけにな・・・」

 

「出向目的はやはりXM3ですね?」

 

「それだけではない。俺が思うに、国連横浜基地は何かをやろうとしている。横浜基地の進んだ技術の会得だけに言うに及ばず、横浜基地の真意と目的を探って欲しい」

 

「分かりました。出向期間はどのくらいになるとお考えなのですか?」

 

「約3ヶ月間になると思っていてくれ」

 

「・・・アラスカはどうなさいますか?」

 

「XFJ計画はもう既に始まっている。開発予算も降り、アメリカ連邦議会の承認を得て、ボーニング社でもフランク・ハイネマン顧問教授が【不知火弐型】開発計画の最高責任者の就任を決めた。だから貴官には予定通りにアラスカに飛んで貰うつもりだ」

 

 【不知火弐型】開発計画とは、技術的行き詰まりから、新型戦術機開発が難航していたのを、アメリカの技術を取り入れて新型戦術機を開発しようと言うもの。

 

 元となる【94式不知火】は開発期間が僅か5年の短さとぎりぎりまで切り詰めた設計が災いとなり、拡張性が乏しい機体となってしまった。結果、トータルバランスが優れた機体として開発されたが、今後の発展性が見込めない機体となってしまう。

 

 だが世界的に見渡しても、戦術機開発は第三世代機で行き詰まっていた。この問題を解決する為に、戦術機開発はより大型化・大出力化する傾向になるが、益々新型戦術機がコストパフォーマンスに悪い機体になってしまう悪循環に陥っているのが実情。

 

 その結果前線国家の大半は、コストパフォーマンスが悪い新型戦術機を買うよりも、旧式機のカテゴリーに入る第一世代機の現地改修機を生産・使用する傾向が目立つ。

 

 それへのアンチテーゼでもあり答えがXM3と言う名のOSだ。

 

 何しろこのOSを搭載しただけで、戦術機の運動能力、反応速度が3割も上昇、機体硬直もなくなり、操縦者の体力と推進剤とバッテリーが切れるまで、連続して3次元立体機動を可能としたのだから。

 

 横浜基地での試験運用では、鈍重な【撃震】でも衛士の技量次第では、第三世代機の【不知火】に勝てるのを既に証明していた。

 

 大陸の前線国家から来た国連軍衛士の中には、XM3の1日でも早い実装を望む者も出始め、中には涙を流しながら夕呼に直訴する者も出ている始末。

 

 これに対し彼女は、

 

『だったらあんた達も白銀の手伝いなさい。新OSは未だに未完成なんだから通常部隊に実装出来る訳ないでしょう!』

 

 と返答。横浜基地の衛士達は、新OSを1日でも早く完成させる為に、開発主任衛士の白銀武に協力を申し出ていた。

 

 そして《XM3ショック》に襲われた帝国軍と斯衛軍ではXM3をどうするかで、夕呼が予想した通りに小田原評定と化していた。

 

「馬鹿な。あの【武御雷】が練習機の【吹雪】に負けた等あるはずがなかろう」

 

「そうだ、何かの間違いだ!そうに決まっている!」

 

「だがこの映像と模擬戦のデーターを見ろ。【武御雷】は間違いなく【吹雪】に負けている」

 

 会議室のスクリーンには、練習機【吹雪】にいいように弄ばれて転倒し倒され転ぶ【武御雷】の姿が。

 

 そして黙り込む一同。

 

「・・・【武御雷】の衛士が任官仕立ての新米パイロットなのでは?」

 

「馬鹿を言うな。【武御雷】の衛士は帝都防衛戦の生き残り衛士で、その後の関東防衛戦、明星作戦、西日本奪還作戦と主な戦いに参加をしている衛士だぞ。確かに年齢は若いが歴戦と言っても差し支えがない」

 

「で、では、体調が悪かったとか」 

 

「バイタルデータを見る限り、特に問題はないな・・・」

 

「で、では、【武御雷】に何か細工されていたとか」

 

「・・・それこそないな。【武御雷】は斯衛軍専用機で、専属の整備班が付くのだぞ」

 

「で、では、【吹雪】の方に何か細工が」

 

「その細工こそ、横浜基地が開発した新OSなのだろう」

 

「それこそ有り得ない。OS一つで【吹雪】の即応性が3割も上昇するだなんて・・・・」

 

「それこそ全くの別の機体ではないか・・・」

 

「たがこれで【吹雪】の実戦機としての配備が可能になったのではなかろうか?」

 

 練習機【吹雪】を旧式化した【撃震】に代わって、主力戦術機として実戦配備する計画は、【吹雪】の開発計画当初からあったのだが、機体の耐久性の問題が合ったので、【吹雪】の実戦使用機化は遅々として進んでいなかった。

 

「いや、そう決め付けるのは早急だ。新OSの効果で【吹雪】の即応性が3割も上昇は認めるが、機体の耐久性の問題が解決しない限りは【撃震】の後継機にはな・・・」

 

 【97式吹雪】は余分な装甲を排除されて開発された練習機なので、耐久性に難が合った機体だ。練習機としての運用は主基の出力を低く抑える事で解決は出来たのだが、実戦機としては機体の強度不足から来る耐久性の問題が解決に出来ずにいたので、実戦機としての配備は見送られていた。

 

 とはいえ、世界中を見渡してもいても、第三世代機の練習機を持つのは日本帝国だけだったが。

 

「他の機種はどうなのだ。横浜基地には【撃震】と【陽炎】も配備されていたはずだが?」

 

「横浜基地からは何も言って来てはいないが、【撃震】と【陽炎】に搭載しての運用テストはしているだろうな」

 

「横浜基地は何も言って来ないな」

 

 その一言に会議室に居る大半の将校は苦い顔をする。

 

 帝国軍内での香月夕呼の評判は最悪と言って良い。帝都防衛戦で香月夕呼指揮下の機甲戦術機部隊A-01部隊【不知火】1個連隊が帝国軍の指揮下で参戦していれば、むざむざと破れはしなかったの思いと、国連を錦の御旗にしては大金を掛けた【衛士】と【不知火】を横取りして行く彼女をBETA並に憎むのもいる。もし、佐渡ヶ島・ハイヴでも陥落させる結果を出していれば話しは違っただろう。

 

「ならば一層のこと、無視してしまえば良いではないか」

 

「大伴中佐何を?」

 

「あの女狐の事だ。こちらが困り果てて下出に出るのを待っているに違いない。だったら無視すべきだ」

 

 沈黙が会議室を支配する。

 

 だが1人が口を開く。

 

「新OSはどうするんだ?」

 

「帝国陸軍技術廠第三課に技術者を掻き集めて、あのOS以上のOSを作らせればよい」

 

「だが、そう簡単に上手く行くのか?」

 

「国連の虎の威を借る女狐に縋るのか?不知火弐型の件でアメリカに大幅な譲歩と屈辱的な契約を結ばれ、今度は機体の頭脳とも言うべきOSまでもが国連に支配されるのだぞ。これでは我々はますますアメリカと国連の言いなりになるしかないではないか」

 

 大伴中佐はやるせない表情を浮かべる。

 

「アメリカと国連が我が国に対して行った非道をもうお前らは忘れたのか?」

 

「それは・・・・」

 

「我が国が劣勢に立たされ、佐渡ヶ島にハイヴを建設をされるなら否や、連中は真っ先に逃げ出したではないか」

 

 アメリカ軍と国連第11軍司令部は、アメリカ政府の安保条約破棄と同時に、日本帝国から逃げ出した。アメリカ軍ならまだしも、国連第11軍司令部が逃げ出したのは、当時の第11 軍司令官を始め司令部のスタッフの過半数以上が、アメリカ人で構成されていたのが大きい。そしてその事が国連軍の増援部隊の到着を遅らせる要因となり、関東防衛戦の相模川第二戦線の構築出来ずにBETAの地中侵攻を許し、横浜の惨劇へと繋がった。

 

 国連本部もこれには顔色が青ざめてしまい、第11軍司令官を始めアメリカ人スタッフ全員を更迭、国連第11軍司令部はグアム島に在りながらも、アメリカ人が1人もいない奇妙な事態に。

 

 だがアメリカ政府とペンタゴンは、明星作戦で帝国軍、斯衛軍、国連軍11軍、大東亜連合軍にアメリカ人が1人も居ないのを好機と見たのか、新型5次元効果爆弾G弾の使用を横浜・ハイヴに対して使用を決定。戦局が人類側が不利に為った時に、成層圏の彼方から投下し味方諸共横浜・ハイヴを吹き飛ばしたのだ。横浜の地が二度と植生が不可能となる重たい後遺症を残して・・・・・

 

 裏には近年アメリカ東海岸で勢力を拡大させている旧約聖書派が起ち上げた【キリスト教恭順派】の唆しが合ったと噂が立つが、真相は闇の中だ。

 

 キリスト教恭順派は旧約聖書の教えに基づいて、『BETAは神の使徒としであり、BETA禍は神が人類に与えた試練であり、現世に苦しむ人類に死の救済を等しく与える。』を教義にしている新興宗教。最初は小さなカルト宗教だったのがマスターと呼ばれる指導者を新しく出迎えた事で、アメリカ東海岸で爆発的に勢力を拡大させた。

 

 キリスト教恭順派はアメリカ東海岸のパブリック・アイビー(東海岸名門大学層)な富裕層、特に政財界との繋がりが強いアメリカ一国主義者、アメリカ至上主義者との繋がりを狙い浸透を開始。言葉巧みに彼らを誑し込んでは、裏では資金援助を行う等で選挙に勝たせて来た。

 

 アメリカ政財界への一定の影響力を持ち始めた後、ホワイト・ハウス、ペンタゴン、ラングレー内にも自らの息が掛かった者達を中枢に送り込んだ。特に現大統領が中庸で且つ煩悩で『ユーラシア大陸でアメリカの若者を戦死させない』を選挙公約にして、大統領選に勝ったのも大きかった。キリスト教恭順派も選挙協力を惜しまかったと言う。

 

 日本の古い言葉で言うと、

 

[庇を貸して母屋を取られる]  

 

 だった。

 

 そう言った意味ではキリスト教恭順派の指導者(マスター)たるテオドール・エーベルバッハは優れた天性のネゴシエータだったのだろう。表と裏の顔を巧みに使い分けて、アメリカ合衆国を手の平の上で動かしているのだから。  

 

 表の顔は難民救済を唄いつつ、裏ではカティア・ヴァルトハイムの正しさを認めなかったばかりか、彼女を暗殺した世界を憎み滅ぶのを願った。

 

 カティア・ヴァルトハイムはドイツの東西統一とユーラシア難民救済に奔走した。国連UNHCR協会の腐敗した実態と強制徴兵を告発しようとした矢先に、スナイパーに頭を撃ち抜かれて亡くなってしまった。彼女が妊娠3ヶ月だったにも関わらずにもだ。

 

 世界への復讐を決意したテオドールは、嘗ての仇敵だった地下に潜伏していたシュタージの残党と手を組んだ。自国の難民問題に苦しむ東欧社会主義同盟及びワルシャワ条約機構、ウクライナ・ベラルーシ独立党、バルト三国独立派らの支援を得て、アメリカ合衆国を裏から支配しようと弱小カルト宗教《キリスト教恭順派》に目を付けて内部に入り込む。

 

 彼こそが天性の乱世の奸雄だったのかもしれない。彼が《キリスト教恭順派》を内部から掌握するのはあっという間で、《キリスト教恭順派》を手に入れた彼は水を得た魚の如く暗躍しだした。

 

 カティア・ヴァルトハイムと言う希望を失ったユーラシア難民達は先鋭化し、武装勢力難民解放戦線を結成。腐敗した国連UHNCR協会と、国連を隠れ蓑として裏で暴利を貪るアメリカ・メジャー企業群と敵対する事になる。

 

 

 

ーーーーー閑話休題ーーーーー

 

 

 

 だがそんな裏事情は散々理不尽な目に遭って日本帝国にとってはどうでも良い事。

 

 大伴中佐もまた、アメリカと国連第11軍司令部の裏切りで多くの同期と部下達を失っている1人だ。

 

「横浜基地で作れた物を、帝国陸軍技術廠第三課で作れないはずがなかろう。それでも足りなければ、帝国中から研究者や技術者を総動員すればいい。アメリカや国連が信用出来ないのをいい加減学んだらどうなんだ!お前達は」

 

「・・・大伴中佐、2年の時間を貴官に与えよう。それで駄目なら国連横浜基地が開発したOSを採用する。いいな!」

 

 会議の議長がそう締めくくった。  

 

 

 

「と、言う話しなの。分かった?」

 

 武は年末に夕呼の口から帝国陸軍のXM3不採用の連絡を受けた。

 

「つまり、帝国陸軍はあくまでも独自開発に拘るのと言うのですね」

 

 セクションナショナリズムの弊害は聞いてはいたが、ここまで酷いとは思わなかった。武としては落胆するしかない。

 

(父さんは『そう簡単には上手く行かないぞ武』って言ってたけどまさにその通りだな)

 

「そう言う事、そう落胆しないの。XM3は当面ここ単独で進めるしかないわね」

 

「はあ、仕方ないですね。あれはそう簡単に真似出来る物では無いのですが・・・」

 

 武が彼女に作らせたのは量子力学の現象に『量子の重ね合わせ』や『量子もつれ』を利用しての並列処理計算を行わせる量子コンピュータなのだ。 つまり、この世界(2000年末の現時点)では全く存在していないばかりか、基礎理論の段階にも到達していない未知のコンピュータ。 武が元いた世界ではコンピュータ開発に集中投資が出来たから、開発出来た代物だった。 BETA大戦の悪影響と被害で、兵器開発や軍需に投資が集中している為、『量子コンピュータ』の開発をやっていたのは夕呼1人。 先日帝国陸軍技術廠にXM3に関する基礎概念の情報は渡したが、量子コンピュータに関する情報は渡していない。 つまり、量子物理学の専門家にして天才の彼女だから作れた代物だ。 彼女に提供した量子コンピュータの設計図は元の現物よりも数段性能向上型。 たったの2年やそこらで、真似出来る代物ではない。例えデッド・コピーが作れたとしても、戦術機に搭載出来る小型化でできない。 今の精密機器製造技術では、XM3に求められる情報処理を行うとしたら、普通乗用車並のサイズになる。 しかも製造ラインは自分達しか知らない場所にしかない。二人と(武と夕呼)も御丁寧にそれを教えてやる気はなかった。

 

「こっちはこっちで粛々とやって行くしかないわよ」

 

「そうですね・・・」

 

「後は、207B訓練生達。予定通りに1月下旬にこの横浜基地に来るわよ」

 

「そうですか。でも彼女達の事は暫くはまりもちゃん任せですね。こっちは、2月のBETAの新潟侵攻のに備えるのが先ですから」

 

 2月中旬に師団規模15000から20000弱のBETAが佐渡ヶ島から新潟県に上陸して来る。上陸した先の目標はここ横浜基地だ。帝国軍は新潟県の第12師団、長野県北部の第14師団、長野県南部の第16師団、偶々冬季訓練で第14、第16 師団と合同演習中だった富士教導団の精鋭部隊と報せを受けて急遽駆け付けたA-01部隊が防衛戦に参加、何とか長野県でBETAの侵攻を食い止めた。

 

 このBETAの侵攻をXM3を搭載した横浜基地の戦術機部隊が食い止め、帝国軍の被害を減少させる形でBETAを撃退出来れば、風向きが変わるのを期待するしかなかった。

 

 ただ武としては、何の罪もない兵士達を大勢犠牲にしなければならないのが憂鬱だった。

 

 武が去った後の執務室で夕呼は呟く。

 

「これだから、脳筋集団は困るのよ・・・・」

 

 

 

 

 

[2001年1月5日、国連横浜基地、午前11時]

 

「本日から国連横浜基地にお世話になります白銀少佐殿」

 

「ようこそ国連横浜基地へ。篁唯依中尉殿」

 

 居並ぶハンガーで戦術機のXM3搭載機への改修作業を監督していた武の元に、夕呼の副官イリーナ・ピアティフ中尉の案内で、3ヶ月間の技術研修を名目で国連横浜基地に出向してきた唯依が武に着任の挨拶をしていた。

 

「でもまさか、本当に来るとは思っていませんでしたよ」

 

 これは武の本音だ。帝国陸軍の反応の悪さから見て、まさか帝国斯衛軍の軍士官が、技術研修名目でここに来るとは思っていなかった。

 

「巌谷中佐の尽力で来る事が出来ました。この横浜基地の優れた先進的技術を学びに」

 

「篁中尉にとって、実りある研修なるのを祈っているよ」

 

「ハイ・・・早速なのですが、何をなさっているのでしょうか?」

 

「ああ、この基地に配属される戦術機の改修作業の真っ最中なんですよ」 

 

「改修作業って、まさかXM3ですか?」

 

「ああ、そのとおりだよ。あっと、今はピアティフ中尉に基地の案内されているんだったね」

 

「あっ、そうでした」

 

「ピアティフ中尉、他に案内する所はあるのかな?」

 

「いいえ、基地内の主だった場所への案内は終わりました白銀少佐」

 

「じゃあ、後は自分が引き受けるから、自分の仕事に戻ってくれて構わない」

 

「はっ、では後の事をお願いします。では、篁中尉、自分はこれで失礼します」

 

「基地の案内ご苦労様でした、ピアティフ中尉」

 

「はい」

 

 唯依の基地案内から解放されたピアティフ中尉は、自分の本来の仕事へと戻って行く。

 

「まあ色々と聞きたい事はあるんだろうけど、俺個人に関しては言えない事の方が多いから、あまり根掘り葉掘り聞かれても答えられない方が多い」

 

「そうでしょうね・・・」

 

 唯依は横浜基地に来る前に白銀武に関して、巌谷榮二と城内省と斯衛軍、武の母親の実家・親藩武家・徳永家から一通りのレクチャーを受けている。

 

 白銀武は神奈川県横浜市神奈川区柊木町生まれ。父親の名前は白銀影行、母親の名前は白銀楓(旧姓徳永楓)。中学2年生の冬休みに14歳になったので、京都の斯衛軍男子衛士訓練校で衛士適正検査を受け、余裕で歴代1位の成績で衛士適正検査を合格。あまりにも異常な数値だったので、3回も受け直させたのだが4回とも同じ数値で、4回目に至ってはシミュレーターの中で寝ていた・・・・・。

 

 4回目は寝ていた事で怒られはしたが

 

『これは生まれながらにして、衛士になる為に生まれて来た子だ』

 

 との高評価をされ、斯衛軍に衛士候補生として予備役登録された逸材だ。BETAの帝国本土侵攻が無ければ、今頃は誰よりも将来性を期待された斯衛軍の衛士になったはず。

 

 本来なら白銀家は真っ先に保護対象だったのだが、BETAの帝国本土侵攻。帝都・京都の陥落。その後の政府機関の移転と斯衛軍の再編。止められないBETAの侵攻。佐渡ヶ島の失陥。アメリカ政府の一方的な日米安保条約の破棄。それに伴う在日米軍、国連第11軍司令部の撤退。国連第11軍司令部のグアム島への撤退。等の混乱で国連軍の援軍の到着が遅れる等の不運が重なってしまう。

 

 その直後に関東防衛戦の一角が崩され、そこにBETAの地中侵攻がダメ押しとなり、横浜市がBETAの侵攻の直撃を受けて全滅。横浜市民の9割が犠牲となってしまった。

 

(そう言えば俺の母さんも、京都出身だったよな。あちらとの付き合いがあまり無かったから、すっかり忘れていたよ)

 

 武は自分の迂闊さを悔やんだ。と同時に【かぐや】に居る両親を少しばかり恨んだ。

 

(そう言う大事な情報はもっと早く言って欲しかったなあ)

 

 夜、唯依は充てがわれた一室で帝都陸軍技術廠宛の報告をまとめていた。

 

「ふう、実に濃密な1日だったな。しかし、意外と開放的だったな白銀少佐は・・・」

 

 唯依は武が自分を警戒して、技術情報を開示しないのでは警戒していたのだが、拍子抜けする程に開けていた。

 

「XM3搭載機は駆動、間接部の磨耗と消耗が激しいか・・・」

 

 実際の運用データーと磨耗した部分を見せて貰い、自分の目で確認した。その磨耗状態には唯依自身も驚いた。

 

「OSの性能に、新しい高規格の部分を作る必要あり。その為には徹底した品質管理制度が必要で、横浜基地では戦術機に適応した高品質の部品を作製。その代表例として駆動関節部用小型電磁モーター。 蚕の糸からヒントを得た新型電磁伸縮炭素帯を開発。 小型電磁モーターは人間の身体の軟骨に辺り戦術機の振動や揺れを大幅に抑制し、効率的で柔軟性な動きをさせるのに必要不可欠。新型電磁伸縮炭素帯も従来の電磁伸縮炭素帯と比較した場合の寿命は20対1の差で、新型電磁伸縮炭素帯に軍配が上がる」

 

「この様に国連横浜基地の先進性と技術開発力の高さは明らかであり、我を張らずに国連横浜基地との技術交流を積極的に行う事こそが帝国の国益になると具申する次第です」

 

「これが伯父様の援護になれば良いのだけど・・・」

 

 唯依は軍本部で孤軍奮闘を余儀なくされている巌谷中佐の事を考えると溜息しか出て来ない。

 

 今の帝国軍中枢は保守派と国粋派が主導権を握り、巌谷中佐の様な国際協調路線派は少数派でしかない。

 

「もし【XFJ】が失敗すれば伯父様は間違いなく失脚してしまう・・・」

 

 唯依としては何としてでもそれだけは避けたかった。

 

『裕唯と影行の2人が生きていたらな~。新型戦術機の開発は2人に丸投げして、私は唯依ちゃんを世話する事だけを考えれば良かったよ』

 

 末の忘年会の事を思い出してしまう。

 

『あの2人は本当に名コンビだったよ。祐唯は開発構想力にの才能に溢れ、影行は常に全体を見渡して、開発チームに足りないものを見付ければ、即座にどこからかモノを持って来る才能に長けていた。あの2人のコンビがあったからこそ、『82式瑞鶴』が誕生し、僅か開発期間5年で第三世代機【不知火】が誕生したとも言える。俺はただ、あの2人が作った戦術機を乗り回していれば良かった。だけどあの2人はもういない。3人の中で一番使えない俺だけが生き残ってしまったんだよ』

 

 どこか疲れ切った顔をしている巌谷中佐を見て、唯依は何も言えなくなってしまう。

 

【82式瑞鶴】は日本帝国の戦術機開発の黎明期に開発された戦術機なのだが、技術の蓄積が未だ不十分だったのにも関わらずに、第一世代機だったF-4系列の【撃震】を徹底的に軽量化させて、準第二世代機として開発した戦術機だ。

 

「今から見れば無理に近い仕様要求だったのが分かる」

 

 軽量化とは簡単に言うが、戦術機それ自体が機械工学の粋を集めて完成された機体である以上、安易な軽量化は機体バランスを崩壊させ事故が多発する要因になるし、実際に他国では機動性に優れた戦術機を求める余り、軽量化に失敗し戦術機の墜落事故が多発した過去がある。日本帝国も全く無事故とは言えないが他国に比べたら事故は少ない方だ。

 

「父様達がどれだけ神経をすり減らして、戦術機開発に取り組んでいたのが今なら分かる・・・」

 

『そう言えば影行の奴は、ちょっとどころではなく、全く違う方向性から、戦術機開発を見ていたな。今から考えれば影行の方向性は未来の見通していたのかもな』

 

『どんな方向性でしょうか?』

 

『曙計画に参加していた皆が、フランク・ハイネマンの師事を受けていたが、アイツだけはボーニング社の品質管理部門の責任者で統計学者だったエドワード・デミング氏の師事を受けていたんだよ』

 

 唯依は目を丸くした。【曙計画】に参加をしているのなら戦術機開発の父と言われるフランク・ハイネマンの教えを受けるのが普通なのに、よりによって全く畑違いの人物を教えを請おうと言うのはどんな考えで?唯依は考えてしまう。

 

『それは一体どんな考えで?』

 

『そう、そう思った俺と裕唯は影行の真意を聞いた。「いったい何を考えでいるのだ?」とな、そしたら彼奴にっこりと笑って一冊の本を見せたのさ』

 

『本ですか?』

 

 唯依は益々分からなく為った。

 

『それはな、エドワード・デミング氏が書いた[統計学に基づく品質管理の仕方]の本さ。そして次に言ったのが、「何故日本帝国はアメリカとの戦争に負けたのかが書いてある。この本の意味を理解すれば、今後の日本帝国に必要な物が分かって来るんだよ」とね』

 

『はあ・・・』

 

 唯依は途方に暮れた。そして技術廠の皆聞く耳を立てる。

 

『だから俺と祐唯の2人はフランク・ハイネマンに相談したところ不快な表情はしなかったばかりか、にっこりと笑って「彼は良い所に目を付けましたね」と肯定したのさ。流石にこれには俺も裕唯も驚いたさ』

 

『そ、そうなんですか・・・』

 

『今じゃあ品質管理なんて当たり前の世の中だけど、影行が統計学に基づく品質管理の概念を持ち込んだから、戦術機の開発と量産が上手く言ったのさ。当時は影行の行動を奇行種扱いしていたけど、影行には未来が見えていたんだろうな』

 

 唯依はこの忘年会の後、品質管理に付いて勉強した。

 

 そして痛感したのは自分の勉強不足と認識の甘さだ。

 

『私は驕っていたのではないか。「斯衛軍に居れば、高品質にして高性能の戦術機が回って来て当然だ」と。戦術機を一機作るのに、どれ程の労力と品質管理が必要なのか少しでも分かっていなかったのではないか』

 

『量産性、整備性が悪いと言われいる【武御雷】だが、統計学的品質管理を製造元の富嶽重工、遠田技術が取り入れた後から克服しつつある。来年の今頃は年間60機の生産が可能になるはずだ。そう考えると惜しい人を亡くした。御存命なら人類と帝国の為にどれ程貢献しただろうか、伯父様が惜しむ気持ちがよく分かる』

 

『帝国が4大工業地帯を失いながらも、まだBETAと戦う力を失わないでいるのも、白銀影行氏の貢献が大きいのだろうな・・・』

 

 日本帝国は4大工業地帯を失いながらも、京葉工業地帯、鹿島臨海工業地帯、宇都宮工業地帯、常磐道工業地帯、仙台工業地帯、陸奥湾工業地帯、函館臨海工業地帯、石狩臨海工業地帯他、長万部市、室蘭市、苫小牧市、日高市、旭川市、帯広市、釧路市、根室市、旭川市、稚内市に軍需生産拠点を移して兵器生産と供給を絶やさない。徹底した品質管理が工業水準を落とさないでいた。

 

 日本は良くあれ悪くあれ職人気質の国で、親方体質が強く上意下達だったが、白銀影行は品質管理向上の為には、かねてから下意上達も必要と考えでおり、エドワード・デミングの理論を取り入れ、日本産業界全般の品質向上と底上げを狙っていたのだ。白銀影行は帰国後に戦術機開発と同時進行で統計学的品質管理に取り組んだ。半年後には光菱重工全般で目に見えて生産性と品質が向上した。こうなって来ると右へ倣えとばかりに、統計学的品質管理体制が日本全産業界全体で導入される事になる。

 

 そこでどうしてもクローズアップされるのが【武】だ。

 

 城内省も斯衛軍も先日の模擬戦の衝撃的だったらしく、対応に追われていた。

 

『まさか【武御雷】が、練習機相手にここまで一方的に負けるとはな』

 

『OS一つで即応性が3割も上昇だと。何かの間違いではないのかね』

 

『いや、間違いではない。観戦していた者全員が同様の証言をしている』

 

 模擬戦の結果を知った城内省と斯衛軍は、急遽数人を帝国陸軍技術廠に派遣し聴き取り調査を行った。そして観戦していた全員が同じ証言を行う。

 

『これは最早別の機体と言っても差し支えがないのでは?』

 

『機体の硬直性を無くし、推進剤とバッテリーが続く限り3次元立体機動を可能にした新型OSか。正に奇跡だな』

 

 その呟きに会議室の各所からうめき声が出る。

 

『待ってくれ、一番肝心な所は、この新型OSを搭載した戦術機相手では【武御雷】が負ける可能性が高い事だ。しかも新型OSを搭載した戦術機は、【武御雷】の近接戦闘性能のお株を奪ってしまう。これでは何の為に外部の批判を無視して【武御雷】を開発したのか分からぬではないか』

 

 城内省と斯衛軍は【武御雷】を第三世代機最強を自負しそう宣伝をしていた。その看板には偽りはなく、98年のBETAの帝国本土侵攻でも、【武御雷】の試作機4機が一騎当千の働きをして批判を封じ込めて来た。だが今や第三世代機最強の看板を撤去しなくてはならない様だ。

 

『今から無かった事には出来ないのか?』

 

『そんな事は出来ないだろう。人の口には戸は立てられぬよ!』

 

『もしこの事が世間に知られたら、我々は世間の笑い者ではないか!』

 

 殆どの者が焦りを隠せない中、1人だけ微笑を浮かべる者がいた。

 

『ならば、この新OSとやら、採用すれば良いのではないか』

 

 そう切り出したのは、五摂家の一つ、斑鳩家当主の斑鳩崇継。

 

 彼は斯衛軍中佐で、斯衛軍最精鋭として名高い第16大隊隊長を務める。

 

 容姿は美丈夫で、頭は切れ者で、衛士としての技量は日本帝国内では五本指に入る。 少年時代から『麒麟児』とも言われて来たが、彼を良く知る者からは『乱世の奸雄』とも見られており、常に警戒もされている人物。 保守派が大勢を占める城内省と斯衛軍内では改革派の筆頭だ。 徹底したした実力主義の旗を掲げて才能と実力があれば、一般からでも部下に取り立てる事が知られ、直属の機甲戦術機部隊第16大隊の2人に1人は彼がスカウトした者ばかり。 それを苦々しく思う者は多いが、実際の所はそうでもしなければ斯衛軍の戦力維持は不可能に近い。西日本防衛戦、旧帝都防衛戦、その後の北陸道と東海道防衛戦、関東防衛戦、明星作戦に西日本奪還作戦で、数多の人材を失い過ぎていたのだ。 しかも量産性、整備性最悪と言われている【武御雷】だが、一般衛士向けに開発された低スペックのC型が【武御雷シリーズ】の中の機体では、一番量産性と整備性が高く稼働率が高いのだから何を言わんやらだ。

 

 武家村も大きな岐路に立たされていた。多くの当主や子弟達が倒れてしまったので、戦災孤児を養子として引き取り育て様とする動きが外様武家の間で活発化していた。

 

『斑鳩公、いったい何を言い出すのです』

 

『必要とあらば、その新OSを我が16大隊で採用したい』

 

『何故』

 

『搭載しただけで戦術機の即応性を3割も上昇させるのだぞ、この奇蹟のOSを採用しない理由がない』

 

『それはそうですが・・・』

 

『それに私はこの【吹雪】の衛士を知っている』

 

『ご存知なのですか?』

 

『名前は白銀武。確か14歳になった直後に、斯衛軍衛士訓練校で衛士適正検査を受け、過去の記録を塗り替えて合格。晴れて斯衛軍衛士候補生として、予備役登録をされていたはずだが』

 

 そこから一騒動が起きた。城内省と斯衛軍は、慌てて過去の記録を引っ張り出し、武が親藩武家先代当主•徳永実義の初孫なのだと素性を知ると上から下への騒ぎになる。

 

「問題は白銀少佐が本当に白銀影行氏の実子なのか、どうかだか・・・」

 

 この問題で城内省と斯衛軍の一部関係者が神経をピリピリさてせいる情報は唯依の耳にも入っている。

 

「一番神経をピリピリさせているのは親藩譜代武家の徳永家か。無理もないが・・・」

 

 城内省、斯衛軍参謀本部、徳永家は国連横浜基地に武の素性の問い合わせをしているが、国連横浜基地は軍事機密を盾に明確な返答をしていない。

 

「伯父様はこの問題では無理はするなと仰るが・・・」

 

 だが城内省、斯衛軍参謀本部、徳永家からすれば、生きていた人間をあえて死人扱いをさせるのかが理解出来ない。

 

 特に一番納得が行かないのは親藩武家徳永家先代当主の徳永実義氏だろう。 徳永実義には3人の子供(1女2男)がいたが、帝都防衛戦からの果てしない消耗戦で長男が戦死、次男も明星作戦で再起不能の重傷を負った。 家督問題は生き延びた次男が継げば問題はないが、武家の家である以上は誰かが家を代表として斯衛軍に入らないといけない。 長男と次男の子は共に小中学生なのでまだ早く、分家や遠縁の子らも名代候補に上がったが、いまひとつぱっとしない為に候補だけに終わる。 もし武が健在なら徳永家名代候補に上がったのだろうが、明星作戦後に国連軍横浜基地から彼の死亡が公式に確認されたとの通知を受け、武の予備役登録を抹消してしまう。それから1年、もう1人の白銀武が現れたのでもう一騒動になった訳。

 

 要するに国連横浜基地の白銀武が本物なら『返せ』と城内省と斯衛軍と徳永家は言いたかった。

 

 斯衛軍は6個連隊18個機甲戦術機大隊を擁するが、半数の部隊は書類上だけの存在に過ぎず、戦力の大半を第一連隊、第二連隊、第16大隊が所属する第六連隊に集中させているのが現状だ。つまり人手不足。人手を増やしたくても、帝国政府の財政は逼迫しており、金食い虫の【武御雷】が原因で戦力を増やしたくても増やせない。どうしても増やしたければ自前で金を調達するしかない。

 

 さて、そこに【XM3】と言う金のなる木が目の前にぶら下がったらどうなるだろう?

 

 目敏く算盤を弾いた者がいた。そして眉間に皺を寄せる。

 

 そして特許庁にXM3関連の問い合わせをしたら、XM3関連の他にも、小型電磁モーター、新型電磁伸縮炭素帯、水素燃料、液晶画面、リニア関連、発泡金属装甲などなど本来なら未開発分野の技術が、白銀武の名前で登録されていた。

 

『現物はあるのか?』

 

 日本の特許制度は現物主義だ。現物が無いと特許庁への登録申請は受理されない。

 

 城内省は特許庁に現物を問い合わせたら、

 

『ええ、国連横浜基地で現物確認をしましたので、特許申請を受理しましたよ』

 

 とは特許庁の返答。

 

 そして城内省と斯衛軍は切れた。

 

『あの糞女狐め、トンビに油揚げをしやがった!』

 

 もうこの辺りは誤解なのだが、香月夕呼はその誤解を全く解こうとはしない人物。武は横浜市出身だし、AL4が正式にスタートした時の基地は横浜。その横浜基地と武の実家は徒歩15分しか離れていない。武の天才的な才能をいち早く知った彼女が、BETAの横浜襲撃を利用して、武を死んだと偽装したと誤解したのだ。いや、状況からしてそう解釈するしかなかった。貧すれば鈍するのかもしれない。

 

『いいかい唯依ちゃん。唯依ちゃんを国連横浜基地に行かせるのは、技術交流が可能かどうかを確認する事だ。国連横浜基地の秘密を暴く事ではないのだから』

 

「はあ〜」

 

 思考が堂々巡りに陥り掛けた唯依は机の上に突伏する。

 

「全ては【XFJ】計画を成功させるためだ。【XFJ】を成功させるには、この横浜基地から、一つでも多くの技術情報を得ることが鍵を握るか・・・」

 

 唯依が幾ら名門譜代武家の当主とは言っても、政治的バックボーンの無さは自覚しており、巌谷榮二と言う政治的後ろ盾が無ければ、早晩に立ち行かなくなるのは目に見える。

 

「その鍵を握っているのは白銀少佐かぁ。明日【吹雪】の予備パーツを流用した【XM3】対応型【吹雪改修型】2機がロールアウトすると言っていたな。その時に色々と込み入った話しが出来ればいいが・・・」

 

 

 

 

「で、初日の感触はどうなの?」

 

 ほぼ同時刻夕呼の執務室では武と夕呼が話し中だ。

 

「兎に角勉強熱心の一言でした」

 

「そう、それ以外には?」

 

「何かを知りたがっていましたね。大方俺の秘密なんでしょうけど」

 

「あんたも厄介な親戚を持っていたのね」

  

「正確にはこっちの白銀武ですね。俺も母さんが京都出身なのを失念していたのは落ち度でした。母さん方の親戚付き合いとかは余りなかったもので」

 

「仲が悪かったの?」

 

「さあ、思い出せる範疇ですと、母さんには2人の弟が居たんですが、仲は良くなかったとは聞いています」

 

「ふうん、それで親戚付き合いを避けていたのね」

 

「間違いなくそうかと」

 

 武的にはこちらの世界の白銀家も同様だと見ていた。父方の親戚とは頻繁ではないが、年始年末の挨拶程度は合ったが、母方とはそういった思い出はない。隣家の鏡家との家族ぐるみでの付き合いの方が多い。

 

「その弟達なんだけど、兄の方は戦死、弟の方は重傷を負って衛士としては再起不能よ。それで状況が変わって、あんたを引き取りたがっているようね。親藩譜代武家の名代として斯衛軍に入れたがっている所かしら」

 

「はあ、そんな事を言われましても。それにしても、何でこっちの両親は、斯衛軍の衛士候補生として、白銀武を予備役登録をさせたんでしょうね?」

 

「普通に考えて斯衛軍の方が政治的に帝国軍よりも上の立場からでしょうね。ついでに言うと斯衛軍は外征をしない軍隊だから、いずれ軍役に付かないといけないにしても、斯衛軍の方が戦死する確率は低いと判断した。こんな事じゃあないかしら?」

 

「成る程、そう言う事ですか・・・でも、この問題このまま放置と言う訳にもいかないですよね?」

 

「そうね、2月一杯まで時間を稼ぐとして、2月のBETAの佐渡ヶ島からの侵攻を、国連横浜基地の部隊が撃退した実績を背景に、政治的優位を勝ち取りましょう。あちらを黙らせるにはそれしかないわ」

 

 夕呼としては武と言う切り札を捨てる気は更々ない。もう既にここ(横浜基地)とAL4は、白銀武を中心に動いているのだから。

 

「了解です」

 

「明日は、あの娘に【吹雪改】で度肝を抜いてやりなさい」

 

「こっちの技術力の高さを見せ付けて、ルーレット場の掛け金をどんどん上積みして行くんですね」

 

「分かっているんじゃない。まあ、あんたが持ち込んだ技術なんだから、精々高値で売り付けてやりなさい」

 

 二人はニヤリとと笑い、社霞はそんな2人を見てドン引きしてしまう。

 

 

 

 

 

「武さん、あーーーん」

 

 翌朝PXで朝食を武、霞と一緒に食べていた唯依は、目の前の今や国連横浜基地名物毎朝恒例行事の《あーーーん》を見て固まる。

 

「だから何時も言っているだろう霞。自分の分は自分できちんと食べなさいと」

 

「だから武さん、あーーーん」

 

「霞は唯でさえ食が細いから、きちんと食べないと背が伸びないぞ」

 

「だから武さん、あーーーん」

 

 一度言い出したら梃でも動かない考えを変えないのは横浜基地に居る者なら、皆知っている事である。そして必ずと言っていい程に武が根負けするのも。

 

「社、白銀少佐の言う通りだぞ。自分の分は自分できちんと食べないと。少佐も困っている」

 

「おおおおおおおおおお」

 

 まるで勇者の発見宜しく、唯依の苦言にPX内で驚きと驚愕を含めた声が上がる。

 

「えっ!えっ?」

 

 唯依は驚いて目を点にしながら周囲を見る。

 

「迷惑ですか・・・」

 

 唯依の苦言で霞の目はうるうるに。

 

「いや、迷惑と言うよりもな」

 

「でしたらはい」

 

「・・・・・・・・」

 

 隣の霞からのうるうる涙目の圧を受け、武は進退窮まってしまう。

 

 そして前の席からは唯依からのジーっと圧。

 

(なんで飯を食うだけでこんなプレッシャーを受けなくてはならないんだ?)

 

 武は戦術的反撃を移る事を決意。

 

「霞、人参残しているぞ」

 

 霞は自分のトレイに目を移す。よく見ると、苦手な苦手な人参が隅に分けてある。

 

「人参嫌いです」

 

 霞は武の戦術的反撃を前に「あーーーーん」攻撃を断念、養殖鯖を口にする。

 

 PX内各所で拍手が沸き起こる。

 

「霞。好き嫌いを治さないと、背が伸びないぞ」

 

「でも人参は嫌いです・・・」

 

「そうだぞ社。食べ物の好き嫌いは農家の人にも厨房の人にも失礼だぞ」

 

 食べ物の好き嫌いに関しては厳しく躾けられて来た唯依からすれば、単なる我儘でしかない。

 

 だからつい口を挟んでしまう。

 

「うぅ~」

 

 霞は恐る恐る人参を口にする。人間とは不思議な者で、苦手意識を持つ食べ物を口にすると、どういう訳か不味く感じる者らしい。

 

 霞は苦い顔をして無理矢理に喉に押し込む。 

 

「えらいぞ〜霞」

 

 武は霞の頭を撫で撫でする。 

 

 唯依がやれやれと思いながらプラスチック製のコップを手に取り水を飲もうとした時、霞の反撃を強かに食らう。

 

「唯依ママの意地悪」

 

《ブーーーーーーーーーーーーー!》

 

 唯依は水を武に向けて全開で吹き出してしまう。

 

「篁中尉・・・・・」

 

「も、申し訳ありません少佐殿!」

 

 唯依は顔面びしょ濡れになった武を見て顔面蒼白になる。

 

 

 

 

 

「篁中尉。まぁそう落ち込まないで、気にしていないから」

 

「そ、そう言われましても・・・」

 

 唯依は【吹雪改修型】機が運び込まれているハンガーで武に気にするなと言われるが、名門譜代武家篁家当主として自分に厳しくあろうとして来た彼女からすれば、霞の悪戯言葉で水を噴き出しただけじゃなく、上官に水を吹き掛ける等言語道断だった。

 

「もしかして、ああいった冗談や毒舌は馴れていない?」

 

「はい・・・」

 

「『硬いなぁ』って、良く言われない?」

 

「言われます・・・」

 

「もう少し肩の力を抜いた方がいい。次はアラスカの国連軍基地への出向なんだろう?」

 

「はい・・・」

 

「アラスカの国連軍基地はここ以上の多国籍軍基地だ。それじゃあっちで孤立してしまうぞ」

 

「うっ・・・」

 

「まあいいさ、ここで慣れて行けばいい」

 

「はい・・・」

 

「さて、御目当ての【吹雪改修型】のお目見えだ」

 

「はっ!?」

 

 トレーラ2台の濃い緑色のシートが外され、透明なビニールシートに包まれた【吹雪改修型】機が姿を見せ始める。

 

「これは・・・」

 

 【吹雪改修型】機の特長は頭部と上半身の仕様変更だ。頭部に取り付け型20ミリバリカンポット、肩部には姿勢制御ノズルと空力制御のカナード翼が取付けて有る。

 

「よし、ビニールシートを「待ちなさい、それは私がやる事にやっているの!」はっ?」

 

 作業指示を出す整備班長に待ったをかけたのは、デカい鋏を持った香月夕呼だった。

 

「またですかい?」

 

 整備班長は呆れた顔で対応する。

 

「うっさいわね、これが私の楽しみなの!」

 

 夕呼は拗ねた顔をしながらさっさとトレーラの荷台の乗ると、持って来た鋏でビニールシートを剥がし始める。

 

「あの、白銀少佐、これはいったい・・・?」

 

 唯依は頭を抱えてそっぽを向く武に聞く。

 

「ああ。これね、ゆ…香月副司令の趣味見たいなもんだよ」

 

「趣味ですか?」

 

「ああやって、ストレス解消目的でビニールシートを破り捨てるのがね」

 

「はあ・・・・」

 

 

 

 

「全天周囲モニターですか?初めて見ますね・・・」

 

 唯依はハンガーに固定された【01式吹雪改修型】のコクピットに座り、武の説明通りに機体の電源を入れた。すると、コクピット周りに周囲の光景が映し出され唖然とする。

 

「そう、全天周囲モニターの採用で操縦者に死角が無いようにしたんだ。周りが手に取る様に分かるだろ?」

 

「はい、これは本当に凄い技術ですね」

 

 唯依はコクピット内をキョロキョロも見回す。

 

(本当に、どういう仕組みになっているんだ?)

 

 唯依はやや戸惑いを覚えながら言う。コクピット正面のコンソールパネルを仕様書を読みながら操作をする。

 

「基本操作は従来の戦術機とは変わらないから、XM3の過敏な反応に慣れれば、篁中尉なら直ぐに操縦出来るさ」

 

「はい・・・」

 

 本当だろうかと疑問に思う唯依。

 

「全天周囲モニターは従来のCPUとは違う数万倍もの情報処理演算機能を持つ、【重力制御型量子コンピュータ・梓】と新型センサーと高性能ディスプレイの開発で可能になったんだよ」

 

「あ、あの【重力制御型量子コンピュータ・梓】とは?」

 

「量子の縺れ・・・とは言っても解らないよな?」

 

「はい、私はそちらの分野には疎くて・・・」

 

 もう唯依はこれだけでヘコみそうになる。

 

「分かりやすく言えば、1台の最新型コンピュータに従来型コンピュータ数千台分の機能を、圧縮してギュウギュウに詰めて効率的に情報処理を行わせると思ってくれればいい」

 

「は、はあ・・・」

 

「XM3も新型コンピュータがあればこそだよ。従来型コンピュータでは、バグやエラーを起こしまくって機体が機能不全になるのは確実だな」

 

(ゴクリ)

 

 武の説明に思わず息を呑む唯依。

 

「香月副司令の話しでは、新型コンピュータがこから先どんどん発達すれば、光の速さを超えた量子通信で双方向惑星間超光速通信が可能になるんだそうだ」

 

「そんなにですか・・・」

 

「このモニターもそうさ。従来型の液晶パネルの数千倍の映像解析度を持つ、新型センサーと組み合わせれば、アメリカ御自慢のラプターだって丸見えだよ」

 

(ゴクリ)

 

 再び息を呑む唯依。

 

「最終的に無人機開発も視野に入れているし、型落ちの第一世代機での運用を考えている」

 

「無人機ですか?」

 

「BETAが高性能なコンピュータに反応するのは知ってはいるだろう?」

 

「はい・・・」

 

「その習性を利用して、梓を搭載した無人機でBETAをトラップポイントに誘導するんだよ。そしてトラップポイントにS-11爆弾を地下に設置して置くんだ。そうしたらどうなると思う?」

 

「!あっ、誘導したBETAを一網打尽に出来ます」

 

「そっ、人が乗っていないからそう言った使い方が可能だ」

 

「それが可能なら、必ずしも高価な戦術機である必要性もないですしね」

 

「そう言う事、2月上旬には、小型戦術機の試作機【震電】が出来るから見せてあげるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 武が言ったのは全長8mの小型戦術機で、有人・無人の2機首を開発中。有人は機甲部隊直掩を目的とし、無人機は陽動や誘導に自爆戦術を目的にしている。有人機は対BETA戦車級に特化している一面はあるが、55口径25ミリ機関砲2門を取り付け、両肩部に多連装ロケットを装備、特殊兵装として30ミリ電磁加速狙撃砲2門の取り付けが可能。短時間ではかるが小型跳躍ユニット2基を取り付けての跳躍飛行を可能にしていた。基本3次元ではなく、2次元的な機動がメインな訳で、衛士としての適正が低い兵士でも操縦が可能。

 

 『本当はもっと小型化したかったけど、今の製造技術では8mが精一杯か・・・・』

 

 とは武の弁だ。武としては6mまで小型化したかったのが本音だったが、製造技術が壁となり8mになってしまった。

 

「あっ、ちょっとこのまま待ってて。整備班長に聞いて来る事があるから」

 

「は、はい・・・」

 

 武はそそくさと唯依を1人残して立ち去って行く。

 

「はあああああああああ」

 

 唯依は大きく溜息を付くとメインパネルに突伏する。

 

「何度私を驚かせてくれるのだろうこの横浜基地は・・・」

 

 唯依は経ったの2日でおどろ木桃のきさんしょの木を思う存分に味わらせられていた。

 

「ここ横浜基地が発想と技術が十年以上先に行っている意味がよく分かった気がする・・・巌谷の伯父様には、何が何でもここ横浜基地の先進的技術を1日でも早く取り入れる様進言しなくては。【XFJ計画】の成否はこの横浜基地に掛かっている・・・・」

 

 唯依は気を取り直して、仕様書を捲る。

 

「装甲は発泡金属装甲で従来の複合装甲の重量の4割から5割も軽いだと、それでいて装甲強度は3割増しで一機辺りの調達価格は4割安?機体バッテリーは水素燃料電池で従来型バッテリーの半分程度の大きさで機体稼働時間は5割増し、跳躍ユニットは水素プラズマジェットエンジンで行動半径は3倍に伸びる?最高時速は亜音速を予定だと!」

 

 もうこうなって来ると訳が解らなくなって来る唯依。

 

「もしかしてこの機体は【吹雪改修型】とは名ばかりで中身は完全な新型機ではないのか?でも何故吹雪の形にする?」

 

 新型機ともなれば機体の形やフレームに至るまで大幅な仕様変更為されるのが普通だ。だがこの【吹雪改修型】は新機軸満載にも関わらず、機体の形状からフレームまで【97式吹雪】の形に拘っているのだ。

 

「あーそれはね、既存の生産ラインを生かす為だよ」

 

 武がひょっこりと唯依の目の前に顔を出す。

 

「✗◆♣②ⅾ✩❂Ⅲ⑧⁉Ⅴ☆Ⅱ」

 

 唯依は驚きの余り目を大きく広げ仕様書を胸に抱えてリニアシートにのめり込む。

 

「しょ、しょ、しょ、少佐あああ!」

 

「あっ、ごめん、そんなに驚くとは思わなかった」

 

 半分涙目になった唯依を見て武は罪悪感が湧く。

 

「さっき言った通りで既存の生産ラインを活用する為だよ」

 

「き、既存の生産ラインをですか?」

 

「そうだよ、今の帝国には、新型機専用の全く新しい生産ラインを用意する余裕はないからね。多少の技術的不便さは感じているが、むしろ新技術の多用途、汎用性の高さを証明する好機だと思っている。生産ラインを整えるまで今暫く時間は掛かるだろうけど」

 

「そうですね・・・・」

 

 新型機が出来たからと言って、必ずしも新型機の大量生産が始まる訳ではない。どんなに急いでも1年から2年近くの時間が掛かってしまう。武はこれを何とかしては半年に縮められないかと思案中。

 

(オノゴロ島を使うしかないのか・・・・)

 

 異世界オーブ連合首長国オノゴロ島の地下施設を使えばこの手の問題は一気に解決するが、そうなるとあちらの世界の存在が公になってしまうので、現時点ではあちらの世界の存在を公にしたくはなかった。

 

(帝国だけならまだしも、アメリカの動きは読めない)

 

 唯依にしても【01式吹雪改修型】がカタログスペック通りの機体なら、最早旧式と言っていい【77式撃震】の後継機として理想的過ぎる程の機体だった。

 

 その一方で大きな問題を引き起こすのも分かった。

 

(【吹雪改修型】機の大量生産が可能なら、【不知火弐型】や【武御雷】不要論が必ず出てしまう。それ程の高性能機)

 

 何せこの【吹雪改修型】機だけでハイとローの両方を実現可能なのだから。カタログデータスペックだけなら、【武御雷】の性能ですら凌いでいるのだから。

 

「ああそうそう、整備班長からの伝言で、機体の最終調整は今日中に済ませるそうだから、明日から【01式吹雪改修型】機の試験運用を2人でしてみないかな?」

 

「えっ?良いんですか?」

 

「出来る限り早くこいつの量産に漕ぎ着けたいし、他にも新兵装や支援装備のテストもしたいからね。君さえ迷惑「やります、是非ともやらせてください!」

 

 唯依としてはこの機会を逃したくはなかった。上層部の政治的思惑は兎も角、【01式吹雪改修型】が【79式撃震】の後継機として実戦配備されれば、多くの帝国軍将兵と国民の命が助かるのだから。

 

(政治は忘れよう。今は衛士としての本分を全うしよう)

 

 唯依はそう決めた。

 

「あーその、一言言っていいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「もうそろそろ、その驚いた格好止めて欲しいんだけど」

 

「あっ!」

 

 唯依はそこで自分がリニアシートに縮こまった姿勢に居たのに気付いた。そして顔が真っ赤に。

 

 

 

 

 それからニ週間後、唯依は武と一緒に【01式吹雪改修型】機の試験運用に取り組んでいた。演習場には、廃棄された鉄筋H鋼が無造作に立てられ、BETAの突撃級の外殻が多数鎮座していた。突撃級の外殻はモース硬度15の強度を持つ。この外殻を30ミリ電磁加速突撃砲や高周波長刀で破壊するのが今回の目的だ。

 

 真冬の寒空の中、帝国陸軍巌谷中佐、大伴中佐以下参謀本部付き士官数人。その他には帝国斯衛軍斑鳩崇継大佐、真壁介六郎少佐が訓練を見に来ていた。

 

 彼らは【撃震】の後継機に当たる新型機の話を聞き付け、一緒に見に来た。

 

『篁中尉、これからフライトユニット装備及び30ミリ電磁加速突撃砲及び高周波長刀のテストを行います。準備は出来ていますか?』

 

「準備は出来ている。何時始めても構わない」

 

 30ミリ電磁加速突撃砲はBETAの突撃級の外殻装甲を正面から撃ち破るのを目的に開発され、射出される弾頭に問題が無ければプラズマ化された弾頭は厚さ10センチものニッケル・クロム・モリブデン特殊複合鋼数枚を瞬時に撃ち破る性能を持つ。使用には莫大な電力を必要としたが為に、レールガンの小型化は難しいとされた。だが国連横浜基地は武が持ち込んだ技術を使い、レールガンの小型化に成功した。単発撃ち、フルオートの使い分けが可能だ。

 

『では、機体をリニアカタパルトに接続を』

 

「了解!」

 

 唯依はすっかり自分の身体に馴染んだ【01式吹雪改修型】をリニアカタパルトに接続させる。接続させると同時にカタパルトの両側に電磁加速装置が2本がカタパルト沿いに迫り出される。フライトユニット装備の【01式吹雪改修型】は腰部の跳躍ユニットを外し、日本刀をモチーフした高周波長刀を両脇に装備、脚部外側に姿勢制御ノズルを装備した脚部に換装した。フライトユニットそれ自体には2基の水素プラズマジェットエンジンを搭載、戦術機に時速1000キロ超えを可能にした。

 

「こちらホワイトファング1、リニアカタパルト接続完了。白銀少佐。お先に失礼をします」

 

『了解だ。へまを踏むなよ』

 

『カウントダウン開始・・・・・』

 

「大丈夫です。やってのけて見せます」

 

 唯依は気合いを入れる。

 

『3.2.1.ホワイトファング1発進!』

 

「ぐっ」

 

 オペレーターの発進の報せと同時に唯依の身体がリニアシートにのめり込む加速Gが襲うが、即座に対Gキャンセラーが作動しG圧を緩和、むしろ機体事カタパルトから押し出される感覚を味わう。機体がカタパルト発進し海上に出ると、フライトユニットの翼が展開し、フライトユニットの水素プラズマジェットエンジンが噴射し【01式吹雪改修型】機がふわり浮き上がり、唯依の機体は空中へと華麗に舞う。

 

「私は自由だ。自由に空を飛んでいる・・・皆と一緒に空を飛びたかったな・・・」

 

 ふと頭に思い浮かべてしまうのは斯衛軍訓練校で苦楽を共にした同期達。あの時の同期達の3人に2人は鬼籍入りしているのが実情だった。今日に至るまでに多くの武家出身の衛士達が倒れ、多くの武家が存続の危機に瀕している。城内省と五摂家は武家存続の為に戦災孤児を養子縁組として迎える様推奨、支援し、御家存続の危機に瀕している外様武家は養子縁組に積極的に動いていた。中には家長、長男、次男が相次いで戦死した家もある。だが、譜代武家以上は家の柵もあってそうもいかない。唯依も父親が明星作戦で戦死をした為に1日でも早く婿を迎える様言われているが、唯依自身は前向きにならないでいた。どうしても恋も知らずに戦死した同期達の事が頭にチラついてしまうからだ。唯依は頭をぶんぶんと左右に振る。

 

「しっかりしろ篁唯依。今日は伯父様が見に来ているんだから・・・。戦死した父様の名を辱めない様に」

 

 

 

「ほう、戦術機があの様に自由に空を飛べるとはな・・・」

 

 斑鳩崇継は素直に感心した。これまでの戦術機は対地上戦闘を重視して空を自由に飛ぶ事を想定していなかった。何故なら自由に空を飛ぼうとしたら、BETAの光線級の餌食になり撃墜されていくからだ。それを国連横浜基地はこれまでの常識を否定するがの如く、戦術機を自由に空を飛ばそうしていた。

 

 そうこうしている内に白銀機が唯依の機体に並ぶ。

 

『ホワイトファング1。気持ち良さそうに飛んでいるが、本来の目的は忘れてはならないぞ』

 

 感傷に浸っていた唯依はハッとしてしまう。  

 

「ジャッカル1。大丈夫です。忘れていません」

 

『じゃあ始めるとしよう篁中尉』

 

「はい・・・」

 

『吼えろ吹雪改』

 

 その直後に武機はもう加速を駆け全速飛行に入る。そして唯依も後れを取るまいとフットペダルを踏み、フライトユニットの直列式2基の水素プラズマジェットエンジンに最大出力にして加速を駆ける。

 

「ぐっ・・・」

 

 唯依の身体は一瞬リニアシートに押し込まれるが、即座にコクピット内の慣性制御が働き、コクピット内のG圧が緩和される。

 

「大したものだこの慣性制御装置は」

 

 慣性制御装置が戦術機全般に普及すれば、衛士合格基準の緩和が可能になるのではと唯依は見ていた。

 

 今の帝国は徴兵年齢を16才に引き下げ、最早強制動員で辛うじて衛士の数を確保しているだけに過ぎない。衛士合格基準は未だに厳しく、衛士の世界の門は狭い。横浜基地で作られた新技術の数々が、衛士の合格基準を大幅に引き下げる事が可能になるかもしれないと、唯依は考えている。

 

『なら、国連軍を積極的に使えばいいじゃないか』

 

 雑談の中で武が唯依に言った言葉だ。

 

『それはそうかも知れませんが・・・』

 

 唯依も武の言葉は正しいと認識しながらも、帝国軍と斯衛軍の主導権を握る国粋派を考えると躊躇いを覚えてしまう。唯依自身の中にもこれ以上自国内での国連軍の影響力拡大を好まない感情が存在している。何しろ国連の後ろには常にアメリカの影が付いて回り、アメリカが国連を隠れ蓑にして世界中で介入しては、アメリカにとって都合の良い傀儡を作っているのは世界の共通認識だ。

 

『国連の全てがアメリカの傀儡や手先ではないよ。アメリカの遣りたい放題を苦々しく思っている人も多い。この横浜基地だってそうだ。決してアメリカの言いなりだけにはならない覚悟と信念を持っている人は多い。自分や香月副司令も同様さ』

 

『ですが・・・』

 

『じゃあ【XFJ計画】はどうなんだい?』

 

『それは・・・』

 

 唯依は痛い所を武に突かれた。アメリカと国連を嫌悪していながら、次期主力戦術機開発にアメリカの技術と国連軍最大の基地、アラスカ・ユーコン基地で開発を行う。正に矛盾の塊だ。しかも戦術機の心臓と肺に当たる主基と跳躍ユニットはアメリカ製なのだから。背に腹は代えられないとは言え唯依は自分が情けなくなって来た。

 

『もし【不知火弐型】の開発を横浜基地に任せてくれれば、半年かそこらでより高性能な【不知火弐型】を開発出来る自信はあるよ篁中尉』

 

『そ、つ』

 

 唯依はつい「それは本当ですか?」と言いそうになった。

 

『しかも『吹雪改』は純国産で、ここで開発した技術は全て帝国企業に還元して、新兵装や新装備の大量生産の管理は帝国陸軍技術廠に任せるつもりでいるんだけど』

 

 唯依はぶんぶんと首を振る。

 

(余計な事は考えないで集中しないと)

 

 飛行高度限界迄上昇した2機は、浦賀水道を抜け太平洋上にまで出た。太平洋上にまで出れば佐渡ヶ島からの光線級の狙撃を恐れずに高度5000mまで上昇は可能だ。2機は太平洋上でフライトユニット装備の【1式吹雪改】の飛行性能試験を開始する。

 

『では、このまま最高速度に挑戦するぞ』

 

「了解です」

 

 唯依はフットペダルを踏み、【1式吹雪改】を更に加速させる。もうこの時点で両機の速度は800キロを超えていた。

 

「ぐうううう」

 

 幾ら慣性制御が付いているとは言え、速度800キロを超えだすと操縦者にも加速Gが襲い掛かる。

 

「負けるものかぁー!私は恭子様や皆の無念を晴らすまで、絶対に負ける訳には行かないんだー!」

 

 唯依は更にスロットルを引く。アフタバーナ゙ー吹かせ、エンジン性能の限界に挑む。武も唯依機と並行距離を取りながらも、最高速度の限界に挑んでいた。

 

「おいおい、あんなに速度を出して大丈夫なのか?」

 

 2機の動きをモニターし続けていた横浜基地司令部では、更に加速を続ける2機に対して不安の声が出た。

 

 国連横浜基地司令官のパウル・ラダビノット准将は香月夕呼副司令官に声を掛ける。

 

「大丈夫なのかね?」

 

「大丈夫ですわ基地司令。そう簡単に空中分解する様な軟な機体は作っていませんわ」

 

「・・・・・・・・」

 

「外見は【練習機吹雪】ですけど、中身は全くの別物。むしろ限りなく第4世代機に近いと思って下さい」

 

「分かった。博士を信じよう」

 

(唯依ちゃん、頼むから無理はするなよ)

 

 司令部でモニターで状況を見つめていた巌谷中佐は、自分の被保護者たる唯依の無事を祈った。

 

「もう既に両機の最高速度は1000キロを突破しました」

 

「「「「「おおおおおお!(えええー!)」」」」」

 

 司令部の中で感嘆と驚きの声が各所で出る。過去の最高速度のコース・レコードをあっさりと更新したからだ。

 

「問題はここからですわ」

 

「両機の最高速度更に上がります、1050、1080、更に上がります・・・1100を突破!」

 

 女性オペレーターの声は最早悲鳴に近い。

 

「そんなバカな!戦術機がジェット戦闘機並みの速度だと!?」

 

 同じく詰めていた帝国陸軍参謀本部の士官達から驚愕の声を出す。

 

 ジェット戦闘機とは違い戦術機は機体形状からして、時速1000キロ以上は出せないとされて来た。だが、生まれ変わった【吹雪】はこれをあっさりと打ち破る。  

 

「1120、1130、これ以上は危険なのではありませんか?」

 

 女性オペレーターがこれ以上は危険と判断。司令官と副司令官の2人に中止を進言をする。

 

「白銀、まだやれそうかしら?」

 

『大丈夫です。機体の状態はまだ万全です。篁中尉?』

 

『大丈夫です。まだやれます。やらせて下さい!』

 

「だ、そうよ」

 

「分かりました、1150を突破」

 

「流石に加速は落ちて来ましたな」

 

「ええ、ですが、目標である1200は到達出来るかと」

 

「1170、1180」

 

 最早全員がモニターに釘付けに為っていた。

 

「1190、1200!」

 

 目標である1200を出した時点で、危険信号を報せる警報が鳴り響く。

 

『篁中尉、これ以上は危険だ。巡航速度800まで速度を落とせ』

 

『了解です』

 

 モニターには次第に速度を落とし始める両機が映し出されていた。

 

「介よ、今のはどう思う?」

 

「はっ、戦術機の新しい可能性を見せたかと。技術の発達で拡張性と発達性が無いとされた【不知火】系列の機体でも、大幅な性能向上を可能せしめたかと」

 

 斯衛軍の真壁介六郎少佐は斑鳩崇継大佐の質問に淀みなく答えた。

 

「見ろ、国粋派の大伴中佐の屈辱に満ちた顔を」

 

 崇継は冷笑しながら言う。

 

「閣下、余り意地の悪い言い方をなされない方が」

 

「ふん、あの者のせいでXM3の採用話しが遅れているのは知らぬ訳ではあるまいよ」

 

 大伴中佐が国連やアメリカへの個人的な私怨から、大蔵省に手を回して、帝国軍や斯衛軍へのXM3導入をさせまいと、予備予算を独自開発に回したのは軍関係者の間で有名だ。軍隊もまた官僚組織である以上は予算の制約に縛られる。 新しい物好きな斑鳩崇継は新OS・XM3を予備予算を使って斯衛軍にXM3を導入しようとしたが、大蔵省官僚と根強いパイプを持つ大伴中佐が、その予備予算の軍枠の大半をごっそりと持って行ったので早期導入を断念するしか無くなった。 一応城内省には裏金もあるにはあるが、斯衛軍の再編と武家村の建て直しが優先され、城内省と斯衛軍にしても実戦経験が無いOSの為に、予算を割く訳にも行かなかった。 まあ長年二重帳簿して大蔵省を誤魔化して来た裏金ではあるが・・・。

 

「大伴中佐にも意地はございましょう。ですが、経ったの2年であれ以上のOSを作れるとは思えません。帝国陸軍技術廠からは、絶対に無理と言う声が聞こえておりますが」

 

「ふん、その詰まらない意地とやらで、この稲穂の国を窮地に曝す様では、城内省と煌武院家の老害共と変わらぬよ。伝統なのだと喚き立てては既得権益の死守に拘って、新しい可能性を幾つ潰すつもりなのだ」

 

「ですが、流石は横浜基地です。最早この時点で【1式吹雪改修型】機は帝国最優秀機なのは確かです。閣下が心血を注いで開発した【武御雷】を凌ぐ高性能機なのは確かかと」

 

「はっきり言うな御主は」

 

「詭弁を弄しても致し方ないかと。普通でしたら、時速1000キロを超えた時点で空中分解は必然です。それが1200キロまで耐え抜いた事実は、【吹雪改修型】機の高性能機なのは確かではないでしょうか?」

 

「あれが【撃震】の後継機なら、【不知火】の後継機はあれ以上の機体性能を求められる。巌谷中佐殿も難儀な事だ。私なら【不知火弐型】の開発は横浜基地に任せるけどな」

 

「もう既に予算が下り、ボーニング社との契約が成立した以上は、一方的な契約破棄は無理かと。ですが【不知火弐型】があれ以上の高性能機になるとは思えません。一機辺りのコストパフォーマンスも【吹雪改修型】の方がお得かと」

 

「当に今の帝国に取って理想的な戦術機よ。限りなく第4世代機に近い機体ながら、第2世代機で最もコストパフォーマンスに優れているF-16と同じ調達価格なのだからな」

 

「長い目で見れば、F-16より安い機体になるかと。新装甲と新燃料は特に」

 

「ああ、あの数字を見た時、流石の私も二の句を言えなかったからな」

 

 崇継と介六郎の2人が特に注目したのは、発泡金属装甲と水素燃料の調達価格の安さだ。

  

 発泡金属装甲の重量は従来の複合装甲に比べて4割から5割も軽く、それでいて装甲強度は3割増しで、調達価格も4割も安く複合装甲よりも製造し易いと言う。

 

 水素燃料代はガソリン燃料代に比べて数分の1も安く、水と石炭さえあれば幾らでも作れる。最終的には石炭無しでも水素燃料を大量生産は可能になると言う。日本帝国は水と石炭は豊富にあるのだから、水素燃料系技術は何が何でも欲しい技術のはずだ。現に北海道の石炭業界も活気付いていると聞く。

 

 最終的には石油エネルギーからの脱却も夢ではないのだ。

 

 2人の皮肉を込めた話しを聞いていた巌谷中佐にしても心境は複雑だった。

 

(せめてこれが一年前、いや、半年前に分かっていたのなら日米共同開発【XFJ】計画をゴリ押ししなかったのだが。しかし、見事な物だな【1式吹雪改】は・・・・)

 

 実際に自分の目で確かめるまで半信半疑だったが、唯依が言った通りだった。

 

 何しろ、自分達が計画している日米共同開発【XFJ】計画はここまでの高性能機ではないのだから。

 

(もしこの機体を【撃震】の後継機にした場合、【XFJ】計画はこれ以上の成果を求められるか。唯依ちゃんが言った通り横浜基地を【XFJ】の中心に据える必要性と計画の見直しが必然か。だが問題は横浜基地が【XFJ】計画に参加をしてくれるかどうかだが・・・)

 

 巌谷中佐はこれこそ難題に思えた。横浜基地からすれば折角苦労して開発した新技術を、タダ当然でアメリカや他国に公開するに等しい。【XFJ】計画遂行の為に、虎の子の技術をタダ当然で使わせて欲しい等と、口が裂けても言えるはずがなかった。

 

 最初、唯依経由で『横浜基地で開発した技術は帝国企業に還元して、【吹雪改】を純国産戦術機として量産しても構わない』と聞いた時は最初は驚き狂喜乱舞した物だが、これに政治・外交・軍事・経済か絡むと話しは違って来る。帝国軍衛士達に【吹雪改】に劣る戦術機に乗れとは言えるはずもない。しかしだからと言って、

 

(・・・今、帝国の方からアメリカとの契約を一方的に破棄すれば、米日関係更に悪化し、後戻りが出来なくなる。私自身の進退問題はどうでも良い。米日関係のこれ以上の悪化だけは阻止しなくてはならない・・・。どうも堂々巡りだな)

 

 それ以上に複雑かつ憤懣やるせないでいたのは大伴中佐本人だった。

 

(これでは私の立場が無いではないか・・・)

 

 眼前に映るモニターには、2機の【1式吹雪改】が30 ミ電磁加速突撃砲で突撃級の外殻を撃ち破り、高周波長刀でH鋼を斬り裂く映像が映し出される。

 

「これなら【撃震】の後継機に相応しい」

 

「期待以上の機体じゃないか」

 

「素晴らしい、何と素晴らしい機体なのだ」

 

「この機体は本当に【吹雪】なのか。これが夢なら覚めないでくれ」

 

 連れて来た参謀本部の将校は口々に【1式吹雪改】の試作機とは思えない完成度の高さに称賛を惜しまない。

 

 大伴中佐からしたら宛が外れた格好だ。本来ならケチを付けるだけ付けて、【1式吹雪改】を不採用に持って行くはずだったのだが、帝国軍か保有する既存の戦術機を全て上回る機体を見せ付けられたのでは、個人的な私怨や好悪で【1式吹雪改】を不採用に持って行きようがなかった。

 

「大伴中佐、巌谷中佐、どうでしょうか。この横浜基地で作った【79式撃震】の後継機【1式吹雪改】の性能は?」

 

 香月夕呼が自信満々に2人に話しを掛ける。

 

(この女狐め、嫌なタイミングで話しを掛けやがって!)

 

 大伴中佐にしろ巌谷中佐にしろ、【1式吹雪改】の高性能に戸惑いを隠せない。帝国軍では【94式不知火】がハイローミックスの高機動戦のハイを担当し、【79式撃震】は防御戦のローを担当していた。極端な話しになるが【撃震】の後継機なら【不知火】と【陽炎】の中間機で良かった。それに新型OSと新型装甲と新型跳躍ユニットさえ有れば【撃震】の後継機として合格だった。だかこれを飛び越えて近接戦闘なら第三世代機最強の呼び声が高い【00式武御雷】すらも凌ぐ新型機を、ローを担当する【撃震】の後継機として紹介されても戸惑うばかりなのだ。

 

 立場の違いが遭っても、自分達の考えが纏まらない内に声を掛けて欲しくはなかったのだ。

 

 そして斑鳩崇継は興味津々に見ている。

 

(腹を括るしかないか・・・)

 

 巌谷中佐は毒も食わらば皿までもと。

 

「見事なの一言です。横浜基地の技術力の高さを確認させて頂きました」

 

「それはありがとうございます」

 

 香月夕呼は敬々しく頭を下げる。

 

「【吹雪改】を【撃震】の後継機として正式採用する報告で調整に入る事を御約束致します」

 

「!おい巌谷!」

 

 大伴中佐が血相を変えるが、巌谷中佐が手で制する。

 

「ですが、今すぐには無理です」

 

「理由をお聞かせ願えますか?」

 

「【XM3】も【吹雪改】も素晴らしい出来栄えです。ですが残念な事に、その両方もその他の兵装も支援装備も実戦経験がありません。その辺りをどうお考えなのでしょう香月副司令?」

 

「その辺りも心配しておりませんわ巌谷中佐」

 

「ほう、心配をしていない、とは?」

 

「何故なら2月中旬に、佐渡ヶ島ハイヴからBETAが新潟に上陸するからです」

 

「なっ!?」

 

 香月夕呼の発言に司令部に居る全員がギョッとし、香月夕呼に視線を集中させる。

 

「BETAの攻撃目標はこの横浜基地と帝都なのも既に判明しており、BETAの新潟上陸に合わせて、横浜基地の技術力の高さを証明したいと思っています」

 

 

 

 

「ねえ、本当に来るのよね?」

 

 帝国軍、斯衛軍組が帝都・東京に帰った後、香月夕呼は武に問い質す。

 

「・・・来ますよ、特にBETAに干渉とかしていないですよね?」

 

「していないわよ、ただ、あれだけ大見得を切った後で、BETAが来ませんでしたでは困るのよ」

 

 夕子は肩を竦めて言う。

 

「心配は無用ですよ。BETAは間違いなく来ます」

 

「そう、わかったわ。それと《オノゴロ島》から連絡があってシュヘンベルグ型太陽炉の開発と、その搭載機【1式デストロイ】の組み立てが終わったそうよ」

 

「代用ODLの方は?」

 

「まだだそうよ。後一ヶ月は欲しいと」

 

「そうですか、やはりそう簡単には行きませんか。そうなると純夏は暫くはあのままですね」

 

 武は太陽炉の開発と【デストロイ】壱号機の組み立てが無事に終わった事で良しとした。代用ODLはODL液の成分分析に難航していた。脳髄だけとなった人間をどうやって生き延びさせられるのかさえも分からないのだから。ハイヴのODL液を使えば、人類側の情報が00ユニットを介してBETA側にダダ漏れになってしまう以上、代用ODL液の開発それ自体も《オノゴロ島》でやるしかないのだ。

 

「私も《オノゴロ島》に行きたいわね。その方が色々と捗りそうだわ」

 

 夕呼は肩を竦める。

 

「あそこに行けば、煩わしい地上の政治のごたごたから解放されるしね」

 

「今はまだ駄目ですよ。もしあちらの存在が公になればBETAそっちのけのあちらの争奪戦が始まります」

 

「分かってるわよ、冗談よ。例の機体は使わないの?」

 

「まだ使う状況ではないです。あれは佐渡ヶ島・ハイヴ攻略まで取って置きます」

 

 

 

 

 

 

《2001年2月15日木曜日》

 

 日本帝国政府は新潟県に第12・第14・第16の3個師団の他に帝都防衛師団と富士教導団からそれぞれ1個戦闘団を、帝国斯衛軍からは最精鋭の第16大隊を、在日国連軍横浜基地からはA-01部隊第9中隊・第12中隊他、新OS-XM3への換装と駆動部と間接部の強化を終えた第1から第4機甲戦術機大隊を、4個戦車大隊・4個砲兵大隊・4個工兵大隊を支援部隊と共に新潟県に集結させた。 富山県には第18・第20師団、山形県には第22・第24師団を集結させ遊撃戦力として待機させ。BETAの小型種一匹足りとて、新潟防衛戦を突破させまいと重層陣地を構築をした。沖合には大和級戦艦4隻もいる。これならと帝国本土防衛軍司令部は息を巻く。

 

 推定されるBETAの数は6個旅団約3万と。

 

 何しろ戦術機の数だけでも予備機も含めると1000機にも達するし、国連横浜基地からは地中探査も可能な早期警戒偵察衛星【きぼう】からの佐渡ヶ島・ハイヴ内の最新情報がリアルタイムで提供され、横浜基地から提供された4k3D立体映像装置でBETA群の移動把握が可能。ただ海底に潜られると、探知が出来なくなるのが欠点だが、宇宙からハイヴ内に関する情報をリアルタイムで把握出来る様になったのは大きい。

 

「この最新鋭の映像技術も凄いが、国連横浜基地はどうやって、ハイヴ内の情報をリアルタイムで掴める様になったのだ?」

 

 帝国本土防衛軍司令官の塚原大将は疑問を口にする。  

 

 なんせハイヴ内を隈無く探知出来る探知技術の開発はどこの国でもしているが、既存の技術では無理とされ、精々熱探知でBETAの直前の動向を把握するのが関の山でしかない。

 

「何でも光の量子化と指向性に成功したので可能になったと言う話しですが、基本的原理に関してはちんぷんかんぷんでして・・・」

 

 帝国陸軍技術廠の士官が申し訳なさそうに言う。

 

「つまり何も分かっていないと言う事か」

 

「はい、残念ながら。ですがこれで地球上の全ハイヴの構造と反応炉の位置が手に取る様に分かるのは確かかと」

 

「やれやれだな、横浜基地は何を手に入れたんだね?最近矢鱈と、新技術を幾つも開発したと元気な様だがね?」

 

 その疑問に答えられる者は司令部にいなかった。

 

『斑鳩大佐、申し訳ありません。利用させる形になってしまいまして』

 

「良い、気にいたすでない白銀武よ。私は逆に嬉しくさえ思っているのだからな」

 

『はあ・・・』

 

「何年振りだろうか、こんなに心が躍る思いは」

 

 斑鳩崇継の戦術機【武御雷】は本人の強い希望で、XM3への換装のみならず、コクピットも全天周囲モニターへと換装され、間接思考制御装置も新型に換装。武装も新開発の高周波長刀と30ミリ電磁加速突撃砲を持つ。斑鳩崇継は生まれ変わった【武御雷】を操縦した時の感想は『歓喜』だった。

 

 人目を憚らずに大笑いし、お側役の真壁介六郎に乱心游ばせたと勘違いさせてしまう程だ。

 

「白銀武よ、そちのことだ。切り札は別に用意してあるのだろう?」

 

 斑鳩崇継は嘘も韜晦も認めない顔で武を見る。

 

『用意してあります斑鳩大佐』

 

「やはりな。して、それが有効に働いた場合、まさか私の【武御雷】に出番は無いと言うまいな」 

 

 今度は意地の悪い顔で武を見る。

 

『そんなに【武御雷】で斬り込みたいのですか?』

 

「おおうよ!生まれ変わった【武御雷】の真骨頂をしかと味わいたいのだ」

 

 武としては頭を抱えたい心境だ。切り札として面制圧を目的とした120ミリ電磁投射砲6基、270ミリ電磁投射砲3基、対要塞・重光線級用120ミリ電磁加速狙撃砲6基を持って来ており、第4大隊に集中的に配備。これにA-01部隊と第16大隊に優先的配備した30ミリ電磁加速突撃砲数十基が加われば、殆ど斬り込みの必要性を感じていないし、30000程度なら数斉射で片が付く。これに戦車大隊・砲兵大隊・戦闘工兵大隊をそれぞれ4個大隊連れて来ているので十分お釣りが出る。

 

 弾薬、砲弾の数も武が横浜基地に持ち込んだ3Dプリンター技術で優に5、6回戦分も用意出来た。

 

 横浜基地からは《オノゴロ島》の技術協力で耐久性と命中率が大幅に向上した超水平線砲1200ミリOTHキャノン12門の火力援護射撃が予定されている。弾頭にはクラスター弾100発が内挿されており、時限信管式でBETAの頭上で子弾頭が大量にばら撒かれる。その他にもハイヴの横杭破壊を狙った徹甲弾や面制圧を狙ったS-11弾頭弾が存在している。 

 

 もし佐渡ヶ島・ハイヴから光線級の攻撃が始まれば、衛星軌道上で待機させてある日本帝国宇宙軍のHSST部隊からレーザー撹乱膜を佐渡ヶ島上空目掛けて投下させ、一定時間BETAの光線級を無力化し帝国海軍と一緒にBETAの光線級を徹底的に排除する方針なのを《かぐや》の名前を伏せながらを説明する。

 

 レーザー撹乱膜弾は各戦闘工兵大隊に大型トラック2車両ずつ一度に12発の投射は可能で、4個戦闘工兵大隊で一度に48発ずつ投射が出来る。これを計3回144発持参した。88式地対艦ミサイルを改造した為、射程距離も150キロと長い。

 

「白銀武よ。私を利用するだけ利用して、私の【武御雷】に出番を与えないと言うのか?それは悲しいではないか」 

 

『申し訳ありません斑鳩大佐、味方の損害を極力少なくする為です。我慢をして下さい、お願いします』

 

 武は【1式吹雪改】のコクピットで平身低頭謝る。

 

 そんな2人の会話に唯依と介六郎の2人は呆れていた。

 

 武はせめて【XM3】と強化パーツ類だけでも帝国軍と斯衛軍に受け入れて貰おうと、4週間前に崇継に協力を請いたのだ。崇継は即答で引き受けその条件として、斯衛軍第16大隊と唯依のホワイトファング中隊を、帝国軍・斯衛軍の中で真っ先に強化する様要請した。

 

 武はこれを了承し旧横浜市内のどこかに設置した地下工場を24時間中フル稼働させて、斯衛軍第16大隊分だけでも新型シュミレーターも含めて何とか間に合わせた。唯依はホワイトファング中隊も参加の希望したが、【XM3】を搭載していないのと、全く未訓練を理由に唯依以外は認めなかった。その唯依にしても【1式吹雪改】での参加だ。

 

 【XM3】専用CPUや強化パーツの大量生産は、正式採用が前提条件とされながらも、光菱重工、大日本電気通信機器社の協力を得られそうなのが朗報と言えるだろう。

 

 その辺りの口利きも崇継にして貰い、今や武は崇継には頭が上がらないでいた。

 

『閣下、お巫山戯もそれ迄にして下さい。そろそろBETAの侵攻が始まります』

 

「むっ、そうか。ではな武、また後でだ」

 

 崇継は介六郎からの通信が入ると、介六郎との秘匿回線へと切り替える。

 

『閣下?』

 

「介六郎、お前はどう思う?」

 

『どうと言われますと?』

 

「あの者が、まだ切り札を隠しているかどうかだ」

 

『隠していると思うべきでしょう。どうも我々は、白銀少佐が敷いたレールの上を走らされている印象は拭えません』

 

 介六郎は武への警戒心を隠さない。『彼の後ろには巨大な何かが隠れ潜んでいるのでは?』、と日を追う事に増しているのが実情なのだ。まるで打ち出の小槌を持っているがの如く夢の新技術を創り出しては排出するのだから。単純に才能だけでは片付けられない何かを感じるのだ。

 

「やはりな。でなければ、こうもこちらの都合通りに行くはずもないか・・・まっ、その辺りは後日の楽しみにしよう」

 

『CPより作戦参加全部隊に通達。佐渡ヶ島・ハイヴ内からBETA群多数出没。突撃級第一派が海に向かって進撃を開始した模様。作戦参加全部隊は第一級戦闘態勢に入れ。繰り返す第一級戦闘態勢に入れ。オールウェイザ・ウェンポンズフリー』

 

「さて、皆のもの聞こえた通りだ。あの異星起源種共が神州八州を再び穢そうとしている。これ以上奴等の跳梁跋扈を許してはならぬ。そして奴等に思い知らしめよ!我等人類は黙って滅ぼされるのを座して止まぬ!必ずや異星起源種共をこの母なる星地球から駆逐して見せると!」

 

 崇継の激励に斯衛軍・国連軍の混成部隊から一斉に雄叫びが上がり士気も上がった。

 

 

 

 

 

 

「では、第4大隊の皆さん、宜しくお願いします」

 

『安心しろシロガネ少佐、日本人が殆どいない第4大隊に、最新式の装備を回して暮れたんだ、期待に応えてやる』

 

 国連軍横浜基地機甲戦術機第4大隊隊長サウス・バニング少佐は自信満々に応えて見せる。

 

サウス・バニング少佐は武に感謝さえしていた。自分の第二世代機乗機【89式陽炎】を、【94式不知火】を上回る運動性と即応性に勝る機体にしてくれたのだ。新OS【XM3】は古い機体であればあるほど恩恵は大きく、第一世代機の【79式撃震】も第2.5世代機へと変貌を遂げたのだ。今や新OS【XM3】を搭載した【陽炎】も立派に第三世代機のカテゴリーに仲間入りしたと言える。

 

 この上更に、3種類もの電磁砲を第4大隊に全て回し、BETA殲滅の先鋒を任せてくれたのだ。サウス・バニング少佐からすれば感謝しきれないだろう。

 

『ふん、帝国のお高く止まったエリートさん達も、漸く俺達の価値を認めたんですかね?』

 

 第4大隊第2中隊長ベルナルド・モンシア大尉は面白くなさそうな顔をして毒付く。

 

『モンシア、口を慎め』

 

 そう咎めたのは第4大隊副隊長兼第1中隊副隊長を兼用するアルファ・A・ベイト大尉だ。

 

 モンシア大尉とベイト大尉の性格は水と油に近く、決して混じり合う事はないのだが、不思議と訓練兵の頃からずっと同じ部隊で戦っていた。

 

『そうは言うけどよ、4種類の電磁砲内3種類も任せて置きながらよ。残りの一つと高周波系はシロガネ少佐のA-01部隊(ハーレム部隊)日本帝国斯衛軍(インペリアル・ロイヤルガード)に持って行かれちまったんだぜ!』

 

 彼は不満なのだ。【XM3】を始めとする新兵装、新装備の実戦テストをするのなら、全て自分達第4大隊に任せてくれればよい物をと言いたい。

 

「モンシア、シロガネ少佐にも立場がある。近接戦闘なら日本帝国斯衛軍(インペリアル・ロイヤルガード)の方が上なのは確かだ。その辺の問題なら俺も納得済みだ。それにもう時間だぞ、大隊各機主機に火を入れろ。おい出でなすったぞ」

 

 

 BETAの第一波が上陸を開始した。

 

 

 栗島寄りに布陣を展開していた日本帝国海軍の戦艦部隊は何となく釈然としない思いでいた。

 

「本当に我々は何もしなくて宜しいのでしょうか?」

 

 作戦参謀の1人が呟く。

 

「仕方あるまい、今回は佐渡ヶ島のレーザー級攻撃が始まるまでは、我々の出番はないそうだ」

 

 今回の迎撃作戦の主導権を握っているのは、BETAの佐渡ヶ島侵攻を事前に察知した国連横浜基地だ。

 

 その横浜基地からは、佐渡ヶ島から光線級の攻撃が始まるまでは、敢えてBETAに手出しをしないで監視だけに留めて欲しいとの話し。

 

 国連横浜基地は運用試験を行いたい兵器や装備の数々と性能を見せられ、一応承諾はしたものの何処か釈然としないものがあった。推定されるBETAの数が約3万前後の為、本来なら爆雷攻撃と艦砲射撃で地上部隊を援護する所なのだが国連横浜基地からは不要とされた。

 

「これは・・・」

 

「どうした?」

 

 CICルームに居たオペレーターが困惑を隠さない。

 

「上陸したBETAの第一波消滅しました・・・」 

 

「そんな馬鹿な話しがあるか、きちんと確認しろ!」

 

 新潟県に上陸するBETAの各波の数は5000から6000だ。それが上陸早々消滅するなど過去の常識から照らし合わせても無い話しだ。

 

「小澤長官これはいったい・・・?」

 

 オペレーター達が機器を操作するが結果は変わらない。

 

 そうこうしている内に第二波も上陸するが、ほんの僅か数分で第二波も消滅してしまい。

 

「なるほど、これが電磁砲の威力か・・・」

 

 国連横浜基地が今度の迎撃作戦で、新型戦術機を始め複数の新兵器と新装備を持ち込んだのは知っている。その中で横浜基地が強調したのは、新OSと4種類の電磁砲とレーザー撹乱膜だ。

 

 横浜基地が持ち込んだ電磁砲が容赦なく威力を発揮していたのだ。

 

『すげえよコウ、この電磁砲の威力!』

 

「ああ本当に凄えな・・・」

 

 コウ・ウラキ少尉は、僚機が放つ120ミリ電磁投射砲の威力に呆れる程関心をしていた。

 

 第4大隊はA-01部隊と第16大隊の援護の元で、120ミリ電磁投射砲と270ミリ電磁投射砲を2度投射したのだが、蝗の大群宜しく上陸して来たBETAが次々と粉微塵に粉砕されてしまうのだから。正面からの破壊は困難とされたモース硬度15の硬さを持つ突撃級も例外ではなかった。

 

『今の内に弾倉コンテナの交換を急げ!』

 

「あっハイ!」

 

 電磁投射砲は威力は絶大なのだが、砲弾の消費が早いのか唯一の欠点なのかもしれない。2斉射でコンテナの砲弾の大半を使い果たしてしまう。

 

「キース、急いでコンテナの交換をするんだ」

 

『でもよ、これさえあれば、悲願のヨーロッパ奪還はなるかもしれないぜ』

 

「分かったから、急いでコンテナの交換を急ごう」

 

 

 

 

 

「まさかここまで圧倒的とはな・・・・」

 

 帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団所属の狭霧尚哉大尉は自分達の目の前で繰り広げられ蹂躙劇を、圧倒される思いで見ていた。

 

 戦闘開始から2時間ほど経つが、帝国軍には損害らしい損害が出ておらず、BETAは誘蛾灯に引き寄せられるが如く国連横浜基地部隊と帝国斯衛軍第16大隊に全て向かい、合同部隊に毎々殲滅されていた。

 

「国連横浜基地が新OSや新型機の開発に成功していたとの情報は耳にしていたが・・・・」

 

 まさかここまで圧倒的だとは思ってはいなかった。

 

『すげぇ〜、電磁砲の一斉射撃でBETAの奴等ミンチに引き裂かれて行くぜ』

 

 帝都防衛軍戦闘団部隊の衛士の1人が呆れた様に呟く。

 

『何でBETAの奴ら、あっちばかりに向かうんだ?そりゃあこっちは楽で良いけどさ』

 

 何しろBETAは新潟県に上陸すると同時に、斯衛軍第16大隊と国連軍の合同部隊に真っしぐらに向かい、他の帝国軍は完全に無視しているのだ。帝国軍の各部隊からはCPに対して攻撃許可を求める通信が引っ切り無しだが、CPからは依然として待機命令しか出て来ない。

 

『そんなもんBETAの連中に聞けよ』

 

『・・・・・・』

 

 狭霧尚哉大尉は自分が知る限りのBETAに関する情報から推察して行く。

 

(BETAは確か、人間の生命反応と優れたコンピューターに反応するのだったな・・・。今回のBETAの行動は人間の生命反応を完全に頭から無視している。ならば、合同部隊にはより高性能なコンピューターを持っている証ではないのかな?もしかして噂に聞く新OSと新型CPUが原因か?)

 

 国連横浜基地が新型OSの開発と同時進行で、新型CPUの開発も同時進行でやっていた事実を公表していた。従来の常識を根底から覆す新型CPUと、専門家から高評価されているのを彼も知っていた。

 

 そのOSとCPUを組み合わせれば、全ての戦術機の即応性を3割も上昇させると言う非常識な物だと言う。横浜基地はそれらの情報を逐次公表し、搭載した【撃震】と搭載していない【陽炎】の模擬戦や、昨年末の【吹雪】と【武御雷】の鬼ごっこや、1月下旬の【吹雪改修型】機の機動テストの内容を包み隠さず公表した。その【吹雪改修型】機もこの戦闘に参加していると言う。

 

(それしか考えられないな・・・。だが見事だ・・・)

 

 国連横浜基地が合同部隊に持たせた電磁砲は4種類、その内の3種、120ミリ電磁投射砲、270ミリ電磁投射砲、120ミリ電磁加速狙撃砲が遺憾無く性能を発揮、馬鹿正直に正面から突っ込んで来るBETAを掃討し続けている。要塞級も上陸して来てはいるが、120ミリ電磁加速狙撃砲に狙い撃ちされてしまい、展開する間もなく頭を撃ち抜かれて撃破だ。

 

(あれでは中にいる軽光線級も一溜りもあるまい)

 

 要塞級の厄介や所は、中に数体の軽光線級を内蔵し、上陸後に軽光線級を吐き出す所にある。佐渡ヶ島でも多数の要塞級の上陸を許したばかりに、軽光線級を要塞級に展開されてしまったばかりに、沿岸部の防衛線が崩壊、佐渡ヶ島失陥の最大原因に為ってしまった。

 

『ヘッドクォーターより作戦参加部隊各位へ、もう間もなく支援砲撃と佐渡ヶ島への攻撃が開始される。射線軸や効果範囲内から退避せよ』

 

 そう通信が届いたが、帝国軍部隊の殆どは待機位置から動いてはいない。

 

 そしてデーターマップが届く。それを確認する狭霧大尉。

 

「・・・やれやれ、ようやっと砲兵部隊の出番か・・・」

 

 帝国軍、国連軍の砲兵部隊に砲撃開始命令が下る。それと同時に弾頭を換装した88式地対艦ミサイル部隊にも佐渡ヶ島上空への、ビー厶撹乱膜の展開が命じられる。ビー厶撹乱膜はオノゴロ島から提供されたアンチ・ビー厶爆雷の改良型で膜に指向性を持たせ、大気圏内でも一定時間空中散布を可能にした代物だ。オノゴロ島の方で《????部隊》に持たせて実戦テストを行い、《????部隊》隊長に、

 

「へぇ~、これは使えるね」

 

 とお墨付きを貰った横浜基地御自慢の新兵装だ。

 

 これによりオノゴロ島の方でも、実弾系兵器の見直しが始まっており、オーブ連合首長国では50口径20インチ電磁砲3連装5基を持つ24万t級戦艦【超ヤマト級戦艦】の建造計画が始まっており、国連横浜基地も技術協力をしていた。

 

 その横浜基地からは超水平線砲1200ミリOTHキャノン砲12門が火蓋を切り、衛星軌道上からは装甲駆逐艦からはビー厶撹乱膜を搭載した大気圏再突入カーゴが切り離される。

 

 大気圏再突入カーゴは一定の高度に達すると、ビー厶撹乱膜を展開しながら降下を継続、最後は分解する様に仕組まれている。

 

 それを知らないBETAは降下して来る再突入カーゴをレーザーで迎撃するが、BETAの重軽光線級のレーザーは無力化され地上から発射されたビー厶撹乱膜を搭載した88式地対艦ミサイル第一波の効果も加わり、BETAのレーザは無力化されてしまう。

 

「おおおおおお!」

 

 それを目の当たりにした帝国海軍将兵達から、感嘆と驚きの声が各所で出る。

 

「小澤提督、国連軍の白銀少佐から連絡です。『帝国海軍は当初の予定を変更して予備作戦、佐渡ヶ島・ハイヴの光線級斬新作戦を開始されたり』との事」

 

 当初の予定では佐渡ヶ島・ハイヴからの重光線級のレーザー攻撃が始まるまでは、帝国海軍の手出しは無用とされてはいたが、陸上での戦闘が予定通りに進み過ぎたので、武は重光線級を炙り出す予備作戦、佐渡ヶ島・ハイヴへの先制攻撃に切り替える事にした。

 

「通信士官、『承知し』と伝え給え。足立君全艦に通達、『』とな」

 

「はっ!全艦砲撃戦用意、攻撃目標佐渡ヶ島ハイヴ!」

 

 そこへ国連横浜基地からの攻撃第一射撃が届いた。1200ミリ砲弾はビー厶撹乱膜を使うし、大量の子弾頭をばら撒いて地上に居たBETA群はミンチに変えてしまう。

 

「おおおおおお!」

 

 その光景がリアルタイムでCICに映像で伝わり、再び驚きと感嘆の声が上がる。

 

「急げー!手柄を全部横浜基地に持って行かれるぞー!」

 

 

 

「白銀少佐、何とか無事に終わりましたね」

 

 夕方、阿賀野川沿いにあるばかうけ稲荷の真ん前で機体から降りていた武に声を掛ける唯依。

 

「そうだね・・・。当初の予測を上回るBETAの上陸があったお蔭でとも言えるけど」

 

 最終的に新潟県に上陸して来たBETAの総数は5万。一個軍団規模にも達した。

 

 そのお蔭で【XM3】【吹雪改】【ビー厶撹乱膜】【電磁砲】【高周波刀】【超水平線砲1200ミリOTHキャノン】等の実戦テストが出来たとも言える。

 

「佐渡ヶ島・ハイヴの重光線級や要塞級の大半も潰せましたし、帝都も暫くは安全ですね」

 

 唯依はにこやかに語る。佐渡ヶ島・ハイヴのBETAの被害想定数は約8万と見られ、要塞級、軽重光線級の大半を潰せたと国連軍、帝国軍、斯衛軍は確信していた。

 

 それに対して国連軍、帝国軍、斯衛軍の損耗率は5%程度に抑えられ、3軍の死傷率は更に低かった。

 

「そうだね・・・」

 

「白銀少佐どうしたんですか、嬉しくないんですか?」

 

 あちらこちらからは3軍将兵達が勝利の雄叫びを上がっていた。永きに渡るBETA大戦で、ここまでの一方的な勝利は殆ど無かったであろう大勝劇だった。3軍将兵達に浮かれるなとは言えないだろう。

 

 今回の予測と大勝利でオルタネイティブ4計画の価値は更に上がるだろう。帝国軍と斯衛軍内の保守派や国粋派も横浜基地の技術・開発力の高さ、方向性の正しさを認めるしかなくなるだろう。

 

 唯依としては今回使用された兵器類や装備類を横浜基地は完全国産化を約束してくれたのが大きい喜びだ。日本帝国はこれで他国に対して大きな軍事的・技術的アドバンテージが取れる上に、苦境に喘ぐ多くの避難民の衣食住を与えられる好機になれると見ていた。軍需産業への偏重にはなってはしまうが、軍需産業界が今以上に活発になり、輸出が増えれば自然と仕事が増え、アパートを借りられる様になり、今の雨風寒さを凌ぐだけの避難民キャンプでの生活から離れられるかも知れないのだ。それが物凄く嬉しかったのだ。

 

 唯依はこの戦いで風向きが変わると確信している。【吹雪改】を始めとする新兵装と新装備は間違いなく採用され、帝国軍と斯衛軍の戦闘力は格段に上昇し、夢にまで見た佐渡ヶ島ハイヴの攻略も可能になると。

 

 だが武は浮かれる事は出来なかった。BETAの正体と適応能力の高さを知るがゆえに。

 

 そして今度の勝利を一番喜ばないのがアメリカなのを。

 

(横浜に帰ったら夕呼先生に、HSST墜落事故が早まる可能性に付いて話さないとな。その時こそ、???隊長から託されたあの機体の封印を解く時なのかもしれないな)

 

「あ、あの、白銀少佐?」

 

 唯依は次第に険しくなっていく武の顔を見て、遠慮しがちに声を掛ける。

 

「ん、あぁ、ごめん篁中尉。何か気に障る事でも?」

 

「いぃえ、先程から顔が険しくなっていきましたので」

 

「あぁごめん、少し考え事をしていただけさ。気にしないでくれ」

 

「はい・・・(とてもそうには見えなかった)」

 

「本命を捕らえる事が出来なかったから、少々残念に思っているだけさ・・・」

 

「本命ですか?」

 

 唯依は首を傾げる。

 

「今回の作戦の本当の目的は母艦級の捕縛に合ったんだ」

 

「母艦級とは・・・?」

 

「地下を突き進む巨大なシールドマシンさ。地下トンネルをひたすら掘削するBETAの未確認種。それを自分とA-01部隊で捕縛する予定だったのだけど、結局佐渡ヶ島・ハイヴの中から出て来なかったな」

 

 武は肩を竦める。

 

「・・・・・」

 

 武から具体的な説明を受けて、唯依も以前に母艦級に関する噂話は聞いた事がある。BETAの大規模地中侵攻の影には地中奥深くを掘り進む何かが存在しているのではと。

 

「本当にその様な物が存在しているのでしょうか?」

 

「しているさ。実際にBETAの大規模侵攻の際に最初存在が確認されていなかった要塞級や光線級が、突然として防衛線の間近に現れるのがその証拠さ」

 

(だとしたらBETAの地中侵攻を防ぐ術はない・・・) 

 

 BETAの中で随伴能力が低い筈の要塞級や光線級が何故いつも唐突に現れるのか、全くの謎扱いだった。帝都防衛線では突如として姿を現した要塞級や光線級のせいで、3重もの防衛線があっという間に瓦解したのは、唯依にとって苦い経験として記憶に残っている。

 

(もし少佐の仰った通りなら納得が行く)

 

 唯依の中で点が線となり、線が面となり、次に足下が崩れそうな気分に見舞われた。そして膝から崩れ始める。

 

「おい、大丈夫か篁中尉?」

 

 武は膝から崩れそうになった唯依を思わず抱き締めてしまう。

 

「も、申し訳ありません少佐」

 

 唯依は思わず武を抱き締め返してしまう。

 

 そして近くの木の枝には烏が一羽が止まる。

 

「あらあ、オノゴロ島から送られて来た烏型電子ペットロボットを飛ばしたら、面白い物が見れたわね」

 

「武さん・・・」

 

 国連横浜基地の司令部では、武と唯依の男女のラブシーンらしき映像を捉え、あちこちで冷やかしの声が出ている。

 

「ゴホン。香月副司令、覗き見はあまり関心しませんぞ」

 

 基地司令官パウル・ラダビノット准将が軽く咳払いし、夕呼に注意を促す。

  

「ピアティフ、もっとしっかりと写真と映像を取ってね。広報部に宣伝材料に回すから」

 

「ええ、良いんですか?」

 

「構わないわよ。白銀にはこれからは横浜基地の顔として役に立って貰う予定なんだから」

 

「分かりました」

 

 ピアティフは『どうなっても知りませんよ』と言った顔で現地で烏達の操作を行っている偵察部隊に伝える。

 

「やれやれ」

 

 ラダビノット准将は呆れるしかなかった。

 

(この戦いの結果は世界中に波紋を投げるわね。連中の慌てふためく顔が目に浮かぶわね)

 

 

 

 

 

《新潟県防衛線から1週間後》

 

 ニューヨーク・マンハッタンの中心街にある某オフィスビルの会議室に集まった面々は深刻な顔をしていた。1週間前の新潟県防衛線の最新の映像を険しい顔をして見ていた。

 

「馬鹿な有り得ない。何かの間違いではないのか?軍団規模のBETA相手に損耗率が5%で、その殆どが武器弾薬の消耗だけで死傷者の数が3桁で済んだだのと!?」

 

 これまでの常識なら、軍団規模のBETAが相手なら、迎え撃つ側も数個師団を磨り潰す覚悟が必要だった。だが新潟県防衛線はその常識を覆した。

 

「私も信じたくはないのだが、全ての報告が損耗率の低さを事実だと証明している」

 

「JAP共は超電磁砲(レールガン)高周波長刀(ハイフリークウェンスィーソード)を実用化したと言うの・・・・」

 

 1人が悔し紛れに言う。アメリカでもレールガンとハイフリクウェンスィーソードの研究開発は行っているが、中々結果を出せずにいたので臍を曲げた大統領が研究開発予算を大幅に縮小したので、アメリカ軍も細々とした研究開発しか出来なくなった。だからこそ、日本帝国が出した結果に衝撃を受けていた。

 

「有り得ない。あの物真似しか出来ない黄色い猿共が、我等アメリカを差し置いて、新兵器の開発に成功する等」

 

 1人が両拳を握り締めて悔しがる。

 

 ペンタゴンと国連本部から取り寄せた映像には、電磁砲の一斉射撃で旅団規模のBETAが一掃され、海上に姿を現した要塞級が即座に破壊され、接近戦では高周波長刀に正面から真っ二つに斬られる突撃級の姿が映しだされている。

 

 モース硬度15の硬さと避弾経始に優れた突撃級の外殻は120ミリ滑空砲でも破壊が難しいとされ、アメリカ陸軍の主力戦車M1A1エイブラムスでも正面からの戦いは避ける傾向にあった。

 

 それを豆腐を斬るかの様に、正面から真っ二つに斬り裂くのだから、驚くなと言う方が無理がある。

 

「余り感心せんなそんな言い方。日本人は世界に先駆けて第三世代機を開発した国だぞ」  

 

「ふん!」

 

「だが笑える状況ではないぞ。ビー厶撹乱膜と言い、タイプ97の改修型機と言い、どうやら日本人共はブレイクスルーに成功したらしいな」 

 

 会議室内に重い空気が漂う。会議室内に居る者達全員にとって新潟県防衛線の大勝を喜ぶ者は居ない。この勝利を自分達の既得権益と国家的極秘プロジェクトを脅かす勝利と位置付けている。せめて日本帝国の辛勝なら少しは話しは違ったのかも知れないだろうが。

  

「日本人は新型機の開発に行き詰まって、我々アメリカ合衆国に泣き付いて来たばかりではないか。タイプ97の改修型機はどう見ても、日本人が求めているタイプ94改修型機開発計画の性能要求を超えているではないか・・・」

 

「最高速度がマッハ1ぎりぎりまで出せて、巡航速度が800キロは何の冗談なのかね。これでは我が国の最新鋭戦術機F-22Aラプターを凌ぐ高性能機だぞ」

 

 今までの常識なら機体形状からして戦術機の最高速度は900キロ前後が限界とされ、1000キロを超える戦術機は開発不可能とされてきた。だが国連横浜基地が独自開発した【吹雪改】は時速1000キロの壁をあっさりと越え、不可能とされたマッハ1の領域ぎりぎりまで出した。

 

「日本人はどんな魔法を使って、こんな事が出来る様になったんだね?」

 

 この場に居る全員がそれを知りたかった。映像には国連第11軍と帝国軍が好き放題に爆撃砲撃する映像が映る。佐渡ヶ島には多数の重レーザー級が居たらしいが、ビー厶撹乱膜で大出力を誇る重光線級のレーザーが無力化され、横浜基地からの超遠距離砲撃と帝国海軍の艦砲射撃と地対艦ミサイル部隊の攻撃で、位置を特定された重光線級が一方的に撃破されてしまう。

 

「BETAの奴等も存外不甲斐ないな。JAPの奴らのやりたい放題を許すとはな」

 

「口の聞き方に気を付けろと言ったはずだ。我々の敵は日本人ではなくBETAなのだぞ」

 

 窘めたアメリカ陸軍大将の階級を付けた50歳前後の男は苛立ちを隠さない。

 

「はん、あんたも随分と優しいな。あの人擬きの猿共をBETAと同列に扱わないなんて」

 

「キサマ、いい加減にしないとここから叩き出すぞ!」

 

 アメリカ陸軍大将は自分の目の前に座るアメリカ宇宙軍中将には非好意的なのだ。

 

(こやつが明星作戦で勝手にG弾を使ったばかりに、アメリカの大量破壊兵器の管理体制に疑問を持たれたのだぞ)

 

 明星作戦で頓挫仕掛けた時は、G弾を使って逆転勝ちを狙っていたのは確かだが、まさかホワイト・ハウスの承認を得ない内にG弾を横浜・ハイヴに撃ち込み、本来味方で有る筈の帝国軍、斯衛軍、国連軍、大東亜連合軍、オセアニア連合軍を多数巻き添えにしてしまった。

 

 結果としてアメリカ政府・軍はヨコハマ・ハイヴに関する全ての権利を放棄するしかなくなり、BETA研究に間しては日本帝国や国連に遅れる結果となってしまう。

 

 辛うじて横浜・ハイヴは日本帝国独占ではなく、国連の管理下に置くに持って行くのが精一杯で、それも日本帝国への大量の食糧援助と引き換えにだ。

 

「キサマの暴挙のせいで、我々は数年間身動きが取れなくなったのだぞ。少しは反省したらどうだ!」

 

 陸軍大将は宇宙軍中将の更迭を求めたが、東部と南部の保守層を支持基盤を持つ大統領は東部の名門出身の宇宙軍中将を更迭しなかった。更迭しなかった代わりに、宇宙軍からはG弾を取り上げたが。

 

「ふん」

 

 宇宙軍中将は陸軍大将の怒声に堪えないばかりか、鼻先で笑うだけだった。

 

「どうやら日本人は新しい金属装甲と、新型燃料の開発に成功したらしいな。それが原因だろうな」

 

 会議の参加者の1人が強引に話しを戻す。

 

「新型の金属装甲と新型の燃料だと?」

 

「詳しい詳細は未だだが、新しい金属装甲は従来の複合装甲寄りも40%も軽量かつ30%もの強度を持ち、新型燃料は野球ボール1個分の大きさの量で、ガソリン20リットル分のエネルギーを得ると言う話しだ」

 

「つまり日本人は新型の金属装甲と新型の燃料を開発に成功したから、タイプ97の性能を大幅に向上させる事に成功したと言うのか?」

 

「そう考えれば、辻褄が合って来るのではないか?」

 

「確かにな、そう考えれば全ての辻褄が合うが・・・・」

 

 どこか腑に落ちないものを感じる者もいる。本当にそれだけなのかと。

 

「兎に角だ、この問題放置は出来まい。日本人が何かの方法で技術的ブレイクスルーに成功し、F-22Aラプターを凌ぐかも知れない高性能機を開発した事実は無視出来ない。日本帝国にアメリカの技術的優位性を見せ付ける事で、日本帝国を押さえ込むプランが御破算しかねない状況なのだからな」

 

「ラングレーは何をやっているんだね。日本帝国が裏でラプターを凌ぐ新型機の開発をしている情報は掴めなかったのかね?」

 

 会議室に居る全員がCIA長官を見遣る。その内の半数の目は批判的なのは錯覚ではあるまい。

 

 【XFJ計画】は何方が一方的に計画を破棄出来ない契約内容なのだが、日本帝国が単独でラプターを超えられる高性能機を開発出来る技術を持って居るのなら、今後のアメリカの技術的優位性が崩れかねない。

 

「正直に言えば我々CIAは日本帝国がタイプ97の改修型機を開発して居たのを知ったのは、2月に入ってからでしかないのだ」

 

 CIA長官は憮然として問いに応えた。

 

「それはどう言う意味だ?」

 

「あの新型機は今年に入ってから、突如として姿を現した」

  

「そんな筈はなかろう、あれ程の高性能な機体なら、少なくとも数年前から開発が進んていただろうし、昨年度中に試験運用は何度も行なわれていたはずだ」 

 

「事実だ。タイプ97の改修型機は今年に入ってから、突如として姿を現したのだ。だから我々も驚いている・・・」

 

 CIA長官は話しを続ける。

 

「それにあの機体は国連横浜基地単独で開発された機体で、開発元は日本帝国軍ではない」

 

 会議室内にざわめきが起きる。

 

「防諜対策が笊に等しい国なのに、あの横浜基地だけはほぼ完璧に等しい。我々CIAも何度か工作員を送り込んだが、全員即座に音信不通となり行方不明になっている。全員極秘裏に始末されたと思っていい」

 

「まあ生きていないのは確かだろうな・・・」

 

 スパイの世界は非情だ。潜入工作に失敗すれば即座に切り捨てられる運命だ。

 

 まさか『そちらに潜入させた内の工作員が行方不明なのですが、知りませんか?』等とは口が裂けても言えない。

 

 そんな事を一言でも言えば、満天下に恥を晒すに等しい。

 

 世界中の嘲笑の種にされ、アメリカに恨みや敵対組織を横浜基地に靡かせてしまう。

 

「それに日本帝国の様な有色人種国家だと、送り込める工作員はどうしても日系人主体になるし、日系人にしても数は少なく優秀な者達が多いから使い捨ての工作員にはし辛い」

 

「つまり?」

 

「暫くの間はお手上げだ」

 

 CIA長官は両手を広げてお手上げポーズを取る。

 

「そして現状入って来た情報では、帝国軍も斯衛軍もタイプ97改修型機の開発が横浜基地で行なわれていたのを全く知らなかったのは確かだ」

 

「それはつまり、横浜基地単独で行っていたと言うのか?」

 

「その通りだ」

 

「そんな事が可能なのか?」

 

「事実だからどうしようもない・・・」   

 

「横浜基地と言えば、XG-70の提供を強く求めていたな。あれを使って、横浜基地から情報を引き出せないのか?」

 

 XG-70とは1975年からアメリカで始まったHIーMAERF計画に基づいて開発された機体で、全高が戦術機の6. 5倍も有る大型機。開発目的は単独でのハイヴ攻略を前提にした機体で、戦術機と言う機体と言うよりも戦略機と言っても良い。いかにもアメリカ好みの航空機動要塞機仕様機。だが開発は難航し技術的な問題点や、テストパイロットの相次ぐ事故死で1985年に開発が中止された。

 

 香月夕呼はここに目に付け、オルタナティブ4計画を立ち上げたとも言われている。つまり人間に操縦出来ないのなら人間の身体をコンプセントにした人造人間00ユニットを開発をして、00ユニットにXG-70を操縦させようと言うもの。

 

 つまり人造人間00ユニットにXG-70を操縦させ、ハイヴに接近させた後に反応炉をリーディングさせBETAに関する情報を引き出させ、XG-70の主兵装荷電粒子砲でハイヴを破壊してしまおうとしていた。

 

『が』

 

「それに付いてはかなり雲行きが怪しくなって来た」

 

「怪しくなって来たとは?」

 

「ドクター・コウヅキはXG-70はもう要らないとアメリカ政府と国連本部に言って来た」

 

「なっ」

 

「それは本当か?」

 

「真意は不明だが、ハイヴ内を隈無く調査可能な技術が確立したからだろう・・・・」

 

 実際に新潟県防衛戦では高高度軌道に配置された新型偵察衛星・曙を使い、佐渡ヶ島・ハイヴ内を隈無く調査し、BETAの動向を隈無く探知した。探知した情報を元に帝国軍、斯衛軍、国連軍はBETAを迎撃し、侵攻をして来た軍団規模のBETAを尽くを殲滅。佐渡ヶ島・ハイヴの重光線級の大半と数万の要撃級、戦車級を撃破した。軽光線級は確認されなかったが要塞級の腹の中で、120ミリ電磁加速狙撃砲と戦車砲と重砲で撃破されたと推測されている。

 

 この結果には国連と前線国家が全てが狂喜乱舞した。

 

 国連を始め全ての前線国家が新型偵察衛星・曙を使ってのハイヴ内の調査・探査を強く望んだ。中には資源・食糧をバター取引にしてでも、【偵察衛星・曙】の優先的使用権を求める前線国家も。

 

「それでは取引材料が無いではないか・・・」 

 

「だが、ハイヴの破壊と攻略はどうするのかね?」

 

「それについてだが、ドクターコウヅキは、ビー厶撹乱膜の応用で指向性を持たせた気体気化爆薬の開発に乗り出すと国連本部に通達して来たそうだ」

 

「気体気化爆薬だと?」

 

「そうだ、地上のBETAを掃討した後に、気体気化爆薬をハイヴ内に流し込んで、反応炉まで充満させてから、一気に反応炉ともどもハイヴ内を破壊するとな。どうやらビー厶撹乱膜の成功で味を締めた様だ」

 

「00ユニットの開発はどうするのだ?」

 

「それも同時並行でやるそうだ。夏までには全ての準備が整うとドクター・コウヅキは言っている」

 

「・・・不味いぞ、このまま佐渡ヶ島・ハイヴ攻略を許してしまえば、我々の計画、オルタナティブ5計画は失敗に終わるぞ」

 

「だがハイヴ攻略は人類の悲願だぞ。それを表立って邪魔は出来ないぞ」

 

「だったら事故に見せ掛けて横浜基地を破壊すればいい」

 

 CIA長官はばっさりと言い切る。

 

「どうやって横浜基地を破壊すると言うのだね?アメリカ軍は使わせないぞ」

 

「アメリカ軍を使う必要性はありません。国連の装甲駆逐艦2隻も有れば十分です陸軍大将」

 

 CIA長官は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「我らが偉大なる指導者マスター、ご機嫌麗しゅうございます」

 

『何時もながら、君の献身的な働きを感謝しているよ我が忠実な下僕バトラーよ』

 

「はっ、ありがとうございます。マスター例の件ですが、首尾良く運びましたと御報告申し上げます」

 

『そうか、これで国連横浜基地《ヨコハマ・べース》も終わりだな』

 

 マスターと呼ばれた男は満足気な笑みを浮かべる。

 

「はっ、如何に堅牢に造られた横浜基地と言えど、S-11爆薬を満載した装甲駆逐艦2隻に突入されては、横浜基地は跡形も無く吹き飛び、直径30キロ四方は破壊し尽くされてしまうのは確かかと」

 

『例の女狐は8月下旬には、全ての準備が整い佐渡ヶ島・ハイヴを落とすと言っている。それまでには横浜基地を破壊したい。アメリカのオルタナティブ5計画遂行の為にもね』

 

「はっ、ありがたき御言葉、通常戦力でハイヴを落とそう等ととても正気の沙汰とは思えません。ハイヴを落とすにはG弾の使用が不可欠なのは、横浜・ハイヴで証明済みなのは明らかだと言うのに」

 

『そう馬鹿にしたものでもないが、諦めが悪いのだろう。まあその方が人間らしいじゃないかバトラー』

 

「左様でございますが、その諦めの悪さが、人類を苦しめ死の救済を先延ばしているのは言語道断かと」

 

『・・・そうだな、君の言う通りだ、我々には人類の死の救済と言う崇高な使命があったのだな・・・』 

 

「はっ、マスター」

 

『国連横浜基地の方はそれで良いとして、アラスカ・ユーコン基地とトウキョウの方の工作は順調なんだろうね?』

 

「そちらの方も滞りもなく順調でございますマスター」

 

『実に見事だバトラー。君の献身的働きには私は何時も感謝と敬意を持っているよ』

 

「勿体ない御言葉ですマスター」

 

 バトラーは感動のあまりに身を震わす。この御方こそ自分の真の主なのだと。 

 

『そこでだバトラー。君にもう一働きをして欲しい』

 

「はっ、なんなりと我がマスター」

 

『ヨコハマ・べースの破壊と、トウキョウでのクーデターを同時に行えないだろうかバトラー』

 

「はっ?それはまた何故でしょうか?」

 

 マスターの真意が分からず首を傾げるバトラー。

 

『なに、簡単な事だよバトラー。面倒事は一度に片付けるには越した事はないし、アメリカ太平洋総軍は、出来るだけ日本帝国から動けなくなる様にしたいだけだよ』

 

「なるほど、特にアメリカ太平洋艦隊はですねマスター」

 

『その通りだバトラー』

 

 アメリカ太平洋総軍には3つの太平洋艦隊(第3、第5、第7)が存在し、日本には第7艦隊、ソ連には第3艦隊、アラスカには第5艦隊を押さえに回している。マスターはその3つを全て日本の押さえに回したかった。 

 

 先ず最初に帝都・東京で不満分子にクーデターを起こさせた上で、2隻の装甲駆逐艦を横浜基地に突入させて横浜基地を破壊する二段構えの作戦だ。

 

 この二段構えの作戦で日本帝国を混乱と争乱の渦に叩き込む事でアメリカ太平洋総軍の中核部隊、3つの太平洋艦隊と海兵軍2個師団を日本帝国に足留めさせようとしている。

 

 そうする事でアメリカの耳目全てを日本帝国に向けさせ、アラスカ・ユーコン・べースでの大規模破壊活動【レッド・シフト】を発動させるテロ計画も立てていた。

 

 もう既にキリスト教恭順派は国連アラスカ・ユーコン基地の地下深くを起点に、南北に数千発の水爆がBETAの北米侵攻に備えてセットされているのを知っている。そしてその近くには秘密BETA研究所が在り、数千ものBETAが保管されているのも、その中には軽光線級数十居るのも。

 

 そのBETAをアラスカ・ユーコン基地を襲撃すると同時にBETAを解き放し、レッド・シフトを発生させ、数千発もの水爆を一斉爆破させ、アラスカを消滅させる段取り。

 

(そうすれば北太平洋プレートは崩壊し、太平洋プレート沿いで巨大海底地震を起こさせ、巨大津波が太平洋沿岸部に襲い掛かるだろう。上手くやればイエローストーンの破局的大噴火とサンアンドレアス断層の巨大地震を誘発させられるはずだ。これで人類は間違いなく滅亡へと向かう)

 

 マスターは感無量の思いだった、自分の恋人が自分の子を宿したまま、暗殺と言う非業の死を遂げてから言うもの、復讐の思いを隠し続け、自分達の正義と信念の正しさを信じて疑わない者達を心の奥底で冷笑しなから、彼らを裏で操って来た。

 

(だが、それももうすぐ終わる。いや、終わらせる)

 

『どうだいバトラー、出来そうかい』

 

「はっ、難易度は上がりますが、不可能ではありません」

 

 CIA長官であるバトラーは通信先のマスターに恭しく頭を下げる。

 

「では任せたよバトラー』

 

「はっ」

 

 そこで通信が途切れた。

 

「ふぅ~」

 

 通信が途切れた先でキリスト教恭順派の指導者テオドール・エーベルバッハは椅子の背凭れに身体を預ける。

 

「これでようやっと全てを終わらせる事が出来る・・・」

 

 彼は恋人カティア・ヴァルトハイムが暗殺された後、ずっと死に場所をさがしていた。

 

「だが、そう簡単には死なない。この世界を道連れにするまでは。・・・主よ、哀れな仔羊達を導きたまえ」

 

 そう呟いた後、国連横浜基地の調査報告書に目を通す。

 

 その中でつい最近、横浜基地に姿を現した1人の若者、白銀武の存在が気になって仕方なかった。

 

「タケル・シロガネ17歳、フッ、若いな。この歳で少佐とはな、技術開発部所属で開発主任衛士か・・・」

 

 報告書にはタイプ97改修型機の開発責任者と記されいた。

 

 

 

 

 テオドールは何故か、この日本人の若者が気になって仕方がなかった。

 

「まあいいさ、どの道にしろ後数ヶ月の命だ。気にしても仕方がない・・・」

 

 テオドールは横浜基地に関する報告書を暖炉の炎の中へと放り込んだ。

 

「精々、人間の愚かさを知りながら、天国へと旅立つがいいタケル・シロガネ」

 

 

 

 

《更に一ヶ月後、東京都多摩湖》

 

 帝国本土防衛軍帝都防衛軍第一師団所属の狭霧尚哉大尉は帝国本土防衛軍司令部参謀本部所属の大伴國男中佐に内密な話しがあるからと、東京都大和市多摩湖に呼び出されていた。

 

 窮乏に耐える帝国国民を湧かせた新潟県防衛戦の大勝利から一ヶ月余りが過ぎ、流石に落ち着いた感はあるが、帝国国民の顔色は明るく佐渡ヶ島奪還間近との噂話が流れ数人集まれば、新潟県防衛戦の大勝利の立役者たる国連軍少佐白銀武の話題には事は欠かなかった。

 

「白銀武少佐か、彼は何者なのだ?」

 

 彼は自分で調べられる範囲内で調べはしたが、調べれば調べる程彼の正体が分からなくなる。

 

 一応表に出ている内容では、国連横浜基地の立ち上げと同時に横浜基地副司令官の香月夕呼博士と出会い、彼女に認められて戦術機開発に携わる様になった。その後横浜基地内で彼女の指導の元で頭角を表し、開発技術者として衛士として【97式吹雪改】の開発や全ての戦術機の即応性を3割も向上させた新OS【XM3】を発案。開発主任衛士として八面六臂の活躍をし、【練習機吹雪】で第三世代機最強の異名を取る【00式武御雷】に土を付けさせた。

 

 これだけでも偉業とも言えるのだが、彼の開発分野での活躍はそれだけに留まる事を知らない。

 

 全天周囲モニター・リニアシート、水素燃料や水素電池にプラズマ・ジェット・エンジンの開発、各種電磁砲、高周波刀、新型電磁伸縮炭素帯等、挙げればキリがなかった。

 

 そして新潟県防衛戦での活躍。

 

 帝国国民は新しい英雄の誕生に狂喜乱舞した。

 

 だからこそ違和感を隠せない。

 

「彼はあまりりにも若すぎる」

 

 狭霧大尉は若さがどうたらとは言わないが、若干17歳で少佐は異例中の異例だ。

 

「国連軍は才があれば厚く重んずるとは言うが、若干17歳に与える階級ではない。将来性を見込んで中尉なら話しは分かるが。ふぅ~」

 

 今日は日曜日とも合って家族連れが目立つ。多摩湖周辺は遊歩道が完備されているので、近辺の住民が家族の憩いの場として利用している。

 

 遊歩道を行く先々での帝国国民の顔は明るかった。どの家族連れも連日喧伝される白銀武の話題が付きない。

 

「僕もいつかかきっと白銀武少佐みたいな立派な軍人になってみせるんだ!」

 

 親の前で格好つけている子供の姿を見て、狭霧大尉は苦笑するしかなかった。

 

「やはり国連横浜基地は佐渡ヶ島・ハイヴ攻略に乗り出すのだろうな」

 

 新潟県防衛戦以降、帝国政府と国連横浜基地の間のやり取りは活発になってい。早くても8月末には国連第11軍と帝国軍は佐渡ヶ島・ハイヴ攻略に動くとの噂が飛び交う。

 

「新兵器と新装備の実証試験運用が合格し、後は十分な数を揃えれば一気にか・・・・」 

 

 狭霧大尉は何処か釈然としない思いだ。彼も帝国軍軍人である以上、BETAに占領され続けている佐渡ヶ島奪還は賛成なのだが、作戦の主導権が国連軍に握られているのが釈然としない理由でもある。

 

「・・・落ちぶれたものだな我が国も。帝国は今や名ばかりでしかないのか・・・」

 

 自分達の国の国土を奪還する作戦ですら、自分達で主導権を握れず国連に主導権を握られている有り様に、最早憤りを通り越して呆れるしかなかった。

 

「それもこれも今の政府が国連やアメリカに弱腰だからだ」

 

「今の政府が続く限りは我が国はアメリカと国連の言いなりの属国でしかない」

 

 彼は足を止めて、晴れ渡る空を見上げる。

 

「狭霧大尉、ここだ」

 

 狭霧大尉は自分の名を呼ぶ方を振り向くと、帝国陸軍国粋派の中心人物大伴國男中佐がいた。

 

 

 

「すまないね狭霧君、日曜日だと言うのに態々この様な場所に呼び出してしまって」

 

 大伴中佐は簡単に挨拶を済ませると話しを切り出す。

 

「いいえ、内密な話しだと言うので仕方ないかと・・・」

 

「一応聞いて置くが、ここに来るまでに尾行とかはされていないだろうね?」

 

「はい、尾行とかの気配は感じられませんでした」

 

「なら結構。もう既に知っているとは思うが、帝国軍は先の戦いの結果を踏まえて、国連横浜基地が開発した新技術の数々を正式採用する事を決定した。しかも国連横浜基地の方から、完全な国産化を約束する形でだ」

 

「そうですか、それはとても良かったです・・・」

 

「企業の方には国連横浜基地からもう既に、設計図と製造データーの試作品が渡され、製造に取り掛かっている企業も出ているし、新しい工場の建設やラインの増設を検討している企業もある。それが叶えば新しい雇用が生まれよう。今でも避難所生活を余儀なくされている避難民にも、朗報と言っていいだろうな」

 

「ええそうですね・・・」

 

 狭霧大尉は大伴中佐の言の正しさを認めるしかなかった。避難所生活をしている避難民の大半はその日暮らしが多く、経済的困窮から犯罪に走る者も多く、元から居た地元住民との間に亀裂が生じている。地元の住民と警察の中には、避難民を厄介者と見なし地元から追い出そうとする者も。真面目な者程故郷を守ろうと帝国軍に志願をする為、避難所には不真面目な者や徴兵拒否者が残る傾向が強く、そう言った者達が自分達を守ろうと自警団や愚連隊を作っては、地元住民や警察と敵対行動を取ってしまう悪循環に陥っている。

 

 帝国政府も警察も徴兵拒否は認めないと取り締まりを強化してはいる。だが、BETAの帝国本土侵攻で、多くの市町村が壊滅してしまっているので、西日本全域での住民の個人情報は無いに等しく、徴兵拒否者向けの偽戸籍や偽住民票が闇市場で売買されてしまっていた。基本闇市場は認められてはいなかったが、帝国政府の配給所と比べて品揃えが豊富なので多少高値であっても、砂糖や塩や日用品が自由に買えるとあっては、人々はそちらの方に流れてしまう。まあ中には利益を貪ろうと、最初は安く売りながら、次第に値を上げて行く悪徳業者も後を絶たない。客の奪い合いから、闇市場間の抗争も幾度か起きている。

 

「恐らく8月末には佐渡ヶ島奪還作戦が発動されるだろう」

 

「やはりですか・・・」

 

 日本帝国に取って佐渡ヶ島奪還は悲願そのものだ。佐渡ヶ島がBETAに支配されている限り、日本列島は楔を打ち込まれ、常に東西に分断され続けている様な状態だ。

 

 明星作戦、西日本奪還作戦、山陰地方防衛戦を経て佐渡ヶ島を除く軍事的失地は回復はしたものの、静岡県、愛知県、三重県、岐阜県、滋賀県、高知県、鹿児島県を除けば一般人の帰郷は許されていない。許可が降りた県にしても、直ぐに逃げ出せる状態であればこそと、経済界からせめて中京工業地帯だけでも、復興出来ないかとの強い要望が合ったから他ならない。

 

 佐渡ヶ島奪還さえできれば、中部地方全域、条件付きながらも近畿地方、四国地方への里帰りや帰郷が叶うかも知れないのだ。

 

「だが、それも国連の主導で行われるだろう。我が国の国土を奪還する作戦がだぞ」 

 

「ッ」

 

 狭霧大尉の中でやはりかとの思いが過ぎる。大陸ならまだしも、自国内の作戦でも国連に主導権を握られている現状に忸怩たる思いだ、例えBETAの動きを的確に予測出来るとは言ってもだ。

 

「佐渡ヶ島奪還作戦の大筋は未だ決まっていないが、主役は国連軍であって我々帝国軍は陽動役、悪く言えば被害担当役の囮だ。馬鹿げているよ全く、そしてこれが今の我が国の現状でもある」

 

 大伴中佐の言葉に憤りや自嘲の感情が入っていなければ嘘になるだろう。

 

「大伴中佐・・・」   

 

「我々は何時から国連やアメリカの走狗になってしまったのだろうな。狭霧君、君はこのままで良いと思うかね?私は思っていない」

 

「私にどうしろと?」

 

「君の力を借りたい。正確にはこの国の英雄に、民を導く存在になって欲しい。我々には、生粋の日本人にして愛国者の烈士の英雄が必要なのだよ狭霧君」

 

「私がですか?」

 

「そうだ。常に国を憂い、民の和らぎを願い、兵や民を率いる救国の英雄にだ」

 

「・・・・・・」

 

「間違いなく佐渡ヶ島奪還作戦は、国連主導になるだろう。今の政府の無能と弱腰外交では避けられない。だが反応炉制圧の成果まで国連に譲ってやる必要はない」

 

「まさかとは思いますが・・・」

 

「そのまさかだよ狭霧君。君に【不知火】部隊を率いて佐渡ヶ島・ハイヴの反応炉を制圧して欲しい。それが叶えば佐渡ヶ島・ハイヴのG元素を我が国が独占出来るし、そのG元素を使ってG弾を開発しアメリカと国連の我が国への干渉を跳ね除ける事が可能だ。私の私的ルートでアメリカ東海岸を直撃出来るICBMの開発も進んでいる。後は足りないのはG元素だけだ」

 

「G弾を搭載したICBMですか・・・」

 

 明星作戦に参加した狭霧大尉の脳裏に、あの禍々しい2つの黒光りが蘇る。アメリカが事前通告も無しにG弾を使用した為に、多くの同胞・友軍が巻き添えとなり戦死した忌むべきG弾。それを日本帝国も持とうと言うのだ。

 

「そうだ。アメリカ東海岸に最低でもG弾を搭載したICBMを百発撃ち込める態勢を整えたいのだ。狭霧君、協力をしてくれるね」

 

「・・・他に方法は無いのですか?」

 

「無いな。狭霧君、君が躊躇う気持ちは分かる。だが大量破壊兵器を持っていなければ、また再びG弾を帝国内に撃ち込まれてしまうのは必然的だと思っていい。それを避けるにはアメリカと国連に、相互確証破壊の恐怖を与えなくてはならないのだよ。どうか解って欲しい」

 

 

 

 

ーーー《閑話休題》ーーー 

 

 

 

 

 

 

 この2週間余り、国連横浜基地は帝国軍、斯衛軍、国連第11軍の戦術機部隊と国内外の軍関係者、マスコミを招いては【XM3】と【CPU・梓】を始めとする新技術のアピールを積極的に行っていた。

 

 その中で一番目立つのは帝国政府公認に為った武と唯依のカップル?がテストパイロットを務める新型戦術機【1式吹雪改】だ。1週間前にはたったの2機で、富士教導団の精鋭不知火1個中隊を思う存分に蹴散らしたのだから。帝国軍上層部のショックは大きく、【吹雪改】を【撃震】の後継機にする事と早急に【XM3】と【梓】の導入を決める。 

 

 新潟県防衛戦では戦術機1個大隊でBETA数個旅団を殲滅してしまったので、戦術機が対BETA戦の主力兵器の位置づけられた。

 

 国連横浜基地は【1式吹雪改】を一般公開し、コクピットの全天周囲モニター・リニアシートに慣性制御技術は、訪れた軍関係者の興味を強く引いた。全天周囲モニター・リニアシートで事実上死角無しで、アメリカ御自慢のステルス技術が無力化され、慣性制御技術でパイロットに掛かるG圧を半減化出来ると合っては興味も引こう。訪れたアメリカ軍関係者は苦虫を噛み潰した顔をしていたが。

 

 何よりもコクピット関係で多くの特許を持つアメリカ企業マーキン・ベルガー社が持つ特許に、全く侵害しないのがより興味を引かせた。そのマーキン・ベルガー社からは『そちらの良い値で良いから、横浜基地の技術を買わせて欲しい』打診が来たが、開発者?の武は丁寧にお断りをしている。

 

 さらに2つの団体が横浜基地の技術力の高さを取り込もうと動く。

 

 一つは【XFJ計画】の主要提携先であるアメリカ企業ボーニング社だ。【不知火弐型】に【吹雪改】の技術を使いたいから、国連横浜基地と技術提携を結びたいと申し入れた。ボーニング社としては、もしかしたら第四世代機のテストヘッド機なのでは噂が出る程の【吹雪改】の誕生で、【不知火弐型】の開発成功に社運を賭ける決断をした。もし【不知火弐型】の性能が【吹雪改】より劣れば、他の機種寄り高性能でも事実上の失敗に等しい。【吹雪改】誕生で【XFJ計画】は何が何でも成功させなければならないプロジェクトと化した。

 

 もう一つは国連アラスカ・ユーコン基地だ。アラスカ・ユーコン基地では戦術機改修計画【プロミネンス計画】が進んではいるのだが、中々思う様に結果が出ていない。たがそこに新潟県防衛戦の結果と、新型機、新兵装、新装備に関する数多の情報が入り仰天してしまう。最初は半信半疑だったそうだが、全て本物だと知ると、ボーニング社と同様に国連横浜基地の技術力を取り込もうと動き出した。

 

「どうかね、ハイネマン教授」

 

 国連アラスカ・ユーコン基地副司令官クラウス・ハルトウィク大佐は、国連横浜基地と日本帝国陸軍が公開した情報映像を食い入る様に見る戦術機開発の父と呼ばれるフランク・ハイネマン教授に声を掛ける。が、ハイネマンの顔は険しいままだ。

 

「個人的見解で宜しければ・・・」 

 

 ハルトウィク大佐は国連主導の【プロミネンス計画】の最高責任者だ。

 

 公開された情報は昨年末の帝国陸軍演習場での【練習機吹雪】と【00式武御雷】模擬戦と鬼ごっこ。今年一月下旬に行われた【1式吹雪改】の試作機2機のお披露目訓練。2月中旬の新潟県防衛戦。3月中旬から行われた新OSを始めとする各種トライアルテスト等が映像公開された。

 

 今や世界中の軍関係者が注目し騒然としている。

 

「構わないよ、遠慮なく言いたまえ」

 

「発想と技術の両面で二十年以上先を行っています。方向性は異なりますが2人の天才が手を組んだ事で、二十年先の発想を技術体系に組み込めたとしか・・・・」

 

「保留かね?」

 

「こう言って良いのか分かりませんし、技術者失格なのかもしれませんが・・・」

 

「ふむ、」

 

「そう、まるで、未来に存在している技術を、過去に持って来たかの様な印象を持ってしまう・・・」

 

「そう言う根拠はあるのかね?」

 

「新技術と言う物は簡単に創り出せる物ではありません。それこそ基礎理論の構築に3年から5年掛り、そこから基礎研究が始まり、更に5年近く掛ります。更にそこから実証や何やらで数年掛ります。ですが、戦術機の即応性を30%も向上させた【新OS・XM3】。戦術機のコクピットに搭載可能な【量子コンピュータ・梓】。装甲の更なる軽量化と強化に成功した【発泡金属装甲】。この三つを見ても、いきなり姿を表したのです。これは我々の常識に反する事なのです。そうまるでタケル・シロガネとドクター・ユウコ・コウヅキの2人は未来を知っているかの様な」

 

「それは少し考え過ぎではないかね?」

 

 ハルトウィック大佐は苦笑するが、彼本人も否定出来ないのも確かだ。

 

「・・・なら良いのですが、もしアメリカで【量子コンピュータ・梓】を造るのなら、ダンプカーサイズになるのは避けられないでしょう」

 

「それをいきなり戦術機のコクピットで使用可能なサイズにしてしまったか。確かに驚異的な技術力だな・・・」

 

 ハルトウィック大佐も衛士上がりなので、技術的な問題にもある程度精通しているし、幾人かのコンピュータ技術者とも知己の間柄。その幾人のコンピュータ技術者に問い合わせをしたが、今のコンピュータ技術では、戦術機にあの様な連続3次元高機動を持たせるのは不可能と言われた。   

 

「だからこそ【XM3】の発案者シロガネ少佐と、そのプログラムを組んだカスミ・ヤシロ少尉。この2人をアラスカ・ユーコンに招聘したいのです」

 

「国連本部に掛け合って見よう・・・」

 

 ハルトウィック大佐にしても日米共同戦術機開発計画【XFJ計画】成功は今や至上命題だ。もし【1式吹雪改】よりも性能が低ければ失敗と見做されてしまい【プロミネンス計画】そのものが頓挫しかねないからだ。

 

 ハイネマン教授が部屋から去った後、ハルトウィク大佐は自分に忠実な秘書官レベッカ・リント少尉に話し掛ける。

 

「君はシロガネ少佐とヤシロ少尉の招聘が上手く行くと思うかね?」

 

「上手く行くと思いますハルトウィック大佐」

 

「根拠は有るのかね?」

 

「根拠は有ります」

 

「ほう、どのような根拠なんだね?」

 

「【XFJ計画】の日本側の責任者が、シロガネ少佐の恋人ユイ・タカムラ中尉だからです」

 

「ふむ」

 

「彼にしても自分の恋人が責任者の計画が失敗には終わって欲しくはないはずです。恋人が責任者たる【XFJ計画】を必ず成功させようと、協力を惜しまないはずです」

 

 武と唯依の関係が恋人同士なのか勘違いなのだが、夕呼の悪戯と策略で『2人は恋人同士』の誤解が世界中に広まってしまっていた。武と唯依は目下全力で否定中なのだが、帝国政府、城内省、斯衛軍、五摂家、帝国軍、国連第11軍上層部にとっては、その方が都合が良いので、日本帝国と国連の融和と協調の恋人2人として喧伝されているのだ。

 

 ちなみに武には【XFJ計画】に参加する気はない。

 

「そこまで手が回んねえよ」

 

 が本心だからだ。武の予定は開発が一段落したので、まりもが悪戦苦闘している207B訓練小隊の人間関係を改善する為に今季の207訓練部隊の臨時教官をやる予定なのだ。

 

 無論、武は9月末にアラスカで大規模なテロが発生するのを知っているので、それまで佐渡ヶ島・ハイヴとオリジナル・ハイヴを攻略し返す手のひらで、アラスカに救援に駆け付けるつもりではいる。その為にオノゴロ島で武専用機として開発されたMS・ZGMF・X10G◆◆ー◆◆・MarkⅢが国連横浜基地90番ハンガーに格納されているのだ。

 

 設計・開発の責任者はエ◆◆・シ◆◆◆とア◆◆ー◆・ハ◆◆◆◆◆の2人だ。

 

 Xー10G◆◆ー◆◆・MarkⅢを難無く使いこなす武を見た共同開発者2人の弁は以下の通り。

 

「「君(あなた)は本当にナチュラルか(なの)?」」

 

 だった。

 

「「戦闘訓練を受けたコーディネイターだって、この機体を扱えるのは5人といないよ(いないわよ)」」

 

 とも言われた。

 

 慢性的人手不足からブラック職場と敬遠されているコンパスのモビルスーツ部隊隊長◆◆・◆◆◆准将からは、仕切りにコンパス隊入りを勧められたのだが武の方で断ったのだ。

 

 

 

ーーーー《閑話休題》ーーーー

 

 

 

 

「・・・結局は情しかないのか・・・」

 

 ハルトウィク大佐は溜息を吐く、何と無く自分が情け無くなって来たからだ。十代の若者の色恋沙汰を利用して【プロミネンス計画】の延命を図る。これ程みっともない話しはないであろうと。

 

「お気に召しませんか大佐?」

 

 リント少尉も自分の上官が情を利用するのは機の進まない性格なのは知っている。しかし、中々思い通りに結果が出ない【プロミネンス計画】が中止しかねない現状から、消去法で情を利用するしかないと割り切っていた。

 

「いや、そうとも言って要られないからな。気は進まないのは確かだが、割り切って利用するしかなかろう。見返りとして佐渡ヶ島・ハイヴ攻略に協力する形を取るとしよう」

 

「はい!」

 

 自室に戻ったフランク・ハイネマン教授は、更に考え込んで呟いた。

 

「カゲユキ・シロガネ。君の息子は何の力を手に入れた?」

 

 彼は武の父親とは面識はあるが、巌谷榮二や篁祐唯とは違いそれ程深い交流はなかった。だが、白銀影行の人なりはそれなりに把握はしていた。

 

 普通の日本人とは違い自由奔放な性格で、同じ事をやるのではなく違う事を見付けては、そちらの方に目と力を注ぎ込むタイプなのだ。その息子である武が、技術的な問題点を解決する為に、ハードではなくソフトウェアに目を付け力を注ぎ込むのは当然の流れに思えた。

 

 フランク・ハイネマンはかねてから戦術機開発は第三世代機で行き詰まると予測していた。実際に主要国の戦術機開発は技術的な問題で第三世代機で行き詰まっていた。日本の【シラヌイ】にしろ、欧州の【タイフーン】にしろ、アメリカの【ラプター】にしろ、拡張性が乏しく発展性が無いと言われている。その壁を打ち破るには技術的革新ブレイクスルーが無ければ無理なのだと。そしてその壁を打ち破る役割を果たしたのが白銀武だ。

 

「だが極端過ぎる。確かにカゲユキの息子らしいと言えばらしいのだが、手に入れた力が余りにも、時代を先取りし過ぎている。まるで未来を知っている・・・まさか本当に未来を知っていると言うのか彼は?」

 

 自分が達した結論にハイネマン教授は慄然とした。

 

 そう考えれば全ての辻褄が合い、点が線となり、線が面と成って、パズルが完成してしまうのだ。

 

「もしタケル・シロガネが本当に未来を知っているのなら、迫りくる破局を避ける為に何かをしようとしているのなら、是が非でも彼と会わなければならない。彼には何が何でもアラスカに来て貰わなくはな」

 

 ハイネマンは筆を取り手紙を書き始める。 

  

 宛先は国連横浜基地副司令官の香月夕呼だ。

 

 アラスカ・ユーコン基地の講堂には巨大画面が在り、そこには帝国陸軍戦術機部隊と国連横浜基地所属戦術機部隊の模擬戦の演習が映しだされていた。講堂にはアラスカ・ユーコン基地に集う各国の開発衛士や基地防衛部隊所属の衛士達が食い入る様に見ている。

 

「へぇ~、これが噂に聞く新OS・XM3の効果かい?」

 

 アルゴス試験小隊に所属するイタリア出身の衛士ヴァレリオ・ジアコーザ少尉が感心した様に呟く。

 

 巨大画面には国連横浜基地所属第一世代機の【撃震】の1個中隊が、富士教導団所属の第二世代機【陽炎】を1個中隊を、30%も向上した反応速度と瞬発力を発揮して翻弄、次々と【陽炎】を撃破して行く。

 

「とても第一世代機には思えねよ。なんか機体性能が俺達の【ストライク・イーグル】に負けていないんじゃねぇ?」

 

 同じくアルゴス試験小隊に所属する山岳民族クルガ族出身のタリサ・マナンダル少尉の言葉に、PXに集まっていた衛士達の大半が同意する。

 

「本当に凄いわねこの新OS。けれど新OSの効果だけじゃなくて、CPUも高性能な新型を搭載しているわね。機体の回避能力と射撃能力の高さが、それを証明しているわ。よほど賢い戦術機用CPUを開発したんだわ」

 

 そう論評したのはスウェーデン出身のステラ・ブレーメル少尉だ。

 

「ようステラ、御自慢の狙撃で新OSと新CPUを搭載した戦術機を狙撃出来る自信あるかい?」

 

 ジアコーザ少尉が冷やかし気味に言う。

 

「正直に言って余り自信はないわね。これに高性能なレーダーとセンサーを搭載されていたらお手上げかしら?」

 

 ブレーメル少尉は肩を竦めて言う。

 

「へぇ~、お前さんがそう言うとはね」

 

「CPUが賢すぎるのよ。ほら、今の見たでしょう。戦術機が反転宙返りしながら射撃姿勢を迷わずとったでしょう、あれは衛士の技量以前に高性能CPUの補正があればこそなんでしょうけど」

 

「本当だ。しかも機体硬直も無しに、直ぐに次の機動に入っていやがるぜ」

 

「私が見た所、回避行動と射撃行動の大半は、CPUがやっていると思っていいわね」

 

「んじゃあ何か、衛士は引き鉄を引いているだけか?」

 

「その内、衛士そのものも要らなくなるんじゃない?このシステムを考え開発した人達は、間違いなく戦術機の無人機化を視野に入れているはずよ」

 

 2人の会話を聞いていた周囲の衛士達は微妙な顔になる。

 

 技術の発達で死傷者の数が減るのは歓迎だが、だからと言って自分達がお払い箱になるのは御免だった。

 

「なあイブラヒムの旦那、このシステムが回って来るのは何時なんだよ。早く俺の機体に搭載したいんだけど」

 

 マナンダル少尉に旦那と呼ばれたのはトルコ出身にしてアルゴス試験小隊小隊長イブラヒム・ドーゥル中尉だ。

 

「慌てるな、今、上の方で交渉中だ。だがそう遠くない内にこのシステムを搭載を前提にした機体にお目に掛かれるはずだ」

 

「え?本当?」

 

「あぁ、機密故にまだ詳細は話せないが、このアラスカ・ユーコン基地で新型機の開発を行う話しが進んでいる。新型機の開発に合わせて、このシステムを考えた人物を招聘する話しもだ」

 

「ヒュー、そいつはすげえや」

 

「やったぁー!で、そいつの名前は?」

 

「国連第11軍横浜基地所属で階級は少佐。名はタケル・シロガネと言うそうだ」

 

「あら、少佐なら何処かの部隊長なのでは?」

 

「いや、横浜基地では技術開発部の主席衛士で、特定の部隊を指揮する身ではないそうだ」

 

「開発衛士?じゃあ俺達の仲間?」

 

「まあそう言う事になるな、横浜基地ではF-4シリーズの後継機の開発を担当しているそうだ」

 

 

 

 

 

 

 その頃帝国陸軍技術廠は、身動きが取れないでいた。 

 

「まさかな、この様な結果になろうとはな」

 

 巌谷中佐は陸軍技術廠の自室で憮然としていた。

 

 理由は【XFJ計画】の見直しが帝国陸軍参謀本部での幕僚会議の通達が来たからだ。

 

 【XFJ計画】そのものは行われるが、【XFJ計画】に武の参加は疎か、国連横浜基地が開発した新技術の採用は認められず、国外への持ち出しを禁ずる措置を取られたのだ。

 

 この決定は国連横浜基地にも通達されたのだが、国連横浜基地からの返答はまだない。

 

「大伴め、裏で手を回したな」

 

 自分の同期生だが、長年の政敵でもある大伴中佐の顔を思いだしては毒付きたくもなる。

 

 【XFJ計画】を成功させるには、国連横浜基地と武の全面協力が必要なのだが、早々と釘を刺されてしまう。日本帝国がアメリカへの軍事的技術的優位を確保する為にも、国連横浜基地と武が開発した新技術の数々は、軍事機密を理由に国外に持ち出されては困るのだ。

 

「それでなくても【XFJ計画】に反対していたしな」  

 

 大伴中佐が【XFJ計画】を潰そうと躍起になっている姿が巌谷中佐の脳裏に浮かぶ。

 

「やはり吹雪改の成功が余りにも鮮やか過ぎたか・・・」

 

 それでなくても【XFJ計画】成功基準のハードルが高くなっているのにと、頭を抱えたくなる。

 

 あそこまで鮮やかに成功されてしまうと帝国陸軍技術廠の面目丸潰れなのだが、巌谷中佐は細やかな問題として気にしないし、横浜基地との積極的な技術交流で挽回すれば良いと考えていた。

 

 その一方では国連横浜基地の価値の見直しと、帝国陸軍の下で横浜基地を管理化に置いてしまおうとする動きもある。それを企図しているのが大伴中佐だ。しかも政治力に長けているので、政治に疎い巌谷中佐は大伴中佐の動きを察知出来なかった。

 

 大伴中佐は国連横浜基地に、帝都防衛軍第一師団第一機甲戦術機連隊と憲兵隊1個大隊を進駐させようとしていた。横浜基地の軍事技術を全て押さえ込む為に。  

 

 ほぼ同時刻、帝都城の一室では煌武院悠陽政威大将軍がある報告を受けていた。

 

「鎧衣、これは本当なのですか・・・」

 

「はい、大伴中佐は北海道の稚内市で、G弾の研究とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を極秘裏に進めていた模様ですな」

 

 帝国政府情報省外務二課課長の鎧衣左近から、大伴中佐が極秘裏に北海道稚内市で、大量破壊兵器の研究開発を行っているとの報告を受けた。

 

「しかしどうやってそんな事が?」

 

 煌武院悠陽が持つ稚内市の印象は道北の外れの市で、日本帝国領南樺太への玄関先で、軍港要塞都市だった。だが稚内市と南樺太は今の日本帝国に取って貴重なエネルギー資源の供給先で、南樺太海底油ガス田、宗谷湾油ガス田の2つを失えば日本帝国は早晩にエネルギー切れを起こしてしまうかもしれない重要拠点。日本帝国政府は亜庭湾から網走市に掛けての範囲と、根室市から得撫島、苫小牧沖、内浦湾、石狩湾、青函海峡、天売・焼尻島近海での油ガス田の開発を進めてはいるが、結果が出るのはもう少し先だ。

 

「稚内市が軍港要塞だったのが裏目に出ましたな」

 

 そう言われて煌武院悠陽も気付く。対BETA戦の激化に伴い南樺太をBETA侵攻から守る為に、稚内市を早急に軍港要塞都市化が急がれ、守りが堅い軍港要塞都市へと変貌。結果一般人の出入りは厳重化され、稚内市民でもない限りは稚内市内に立ち入るのは難しくなった。稚内市に入るには国道40号線、国道238号線、国道106号線、宗谷本線の4ルートしかないので、軍としても管理しやすい土地なのだ。これ程何かを隠したい土地は早々もなく、後は険しい山沿いをひたすら歩くしかない。またあそこは北海道有数の熊の生息地。

 

 大伴中佐はこの稚内市の地形的特徴に目を付け、G弾の研究とICBMの開発を密かに行っていたのだ。

 

「しかし大伴中佐は良い所に目を付けましたな」

 

 鎧衣左近は冗談交じりに言う。帝都・東京から距離が合って政治的な注目度が低く、それでいて帝国軍の厳重な管理化にあるのだから。まさかアメリカも、こんな所で自分達を狙う大量破壊兵器の研究開発が行なわれているとは夢にも思わないであろう。

 

「鎧衣、感心している場合ではありません!早急にG弾の研究とICBMの開発を中止させなくてはなりません」

 

「ですが、そう簡単には行きますまい。大伴中佐への協力者と協力企業の多さが気になりますな」

 

「確かにそうですね。まさか帝国本土防衛軍の主要幹部に光菱重工、河崎重工、富嶽重工まで協力していたとは。でも何故これ程の協力者と協力企業が?」 

 

「根底にあるのはアメリカへの恐怖ですな」

 

「恐怖?」

 

「そうです殿下、アメリカが明星作戦で無通告で新型爆弾G弾を使ったのは記憶に新しいかと。そのアメリカがまた我が国にG弾を使うかも知れない恐怖が、大伴中佐の計画に多数の協力者や協力企業を出す原因に為っているかと」

 

「ICBMは兎も角として、G弾の方はどうするのです?G元素は全て国連横浜基地で管理しているはず」

 

「どうやら大伴中佐はその横浜基地に帝国軍を進駐させる腹積もりでいるらしいですな。それにここに来て佐渡ヶ島・ハイヴ攻略にも前向きになっているとか」

 

「つまり大伴中佐はG元素を国連横浜基地と佐渡ヶ島・ハイヴから手に入れようと言う訳ですね」

 

「はい、その通りです殿下。いやぁ~しかし困りましたな、あちこちで不穏な事を考える者が後を絶たないと言うのも。あははははは!」

 

「鎧衣、笑い事ではありません。大伴中佐の計画は早急に中止させます、宜しいですね」

 

「はっ、承知しました殿下」

 

 鎧は恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

《2001年4月12日金曜日 アメリカ合衆国 ネバダ州 グルー厶レイク基地》

 

「ユウヤ・ブリジッス少尉。君を本日付けを持って、アメリカ陸軍を代表として、国連アラスカ・ユーコン基地への出向を命じる」

 

 週末の金曜日の終業時間間際に上官から呼び出しを受けたと思ったら、唐突過ぎる出向命令にユウヤ・ブリジッス少尉は一瞬固まってしまう。

 

「・・・・・・・理由を説明してくれ」

 

「アラスカ・ユーコン基地で次期主力新型戦術機の開発計画が始まるからだ。そしてお前はその主席開発衛士に抜擢されたと言う訳だ。それが理由だ」

 

「何で俺がそんなもんの為に、アラスカへ行かなくてはならないんだよ。他の奴でも構わないだろ?」

 

「並の機体なら態々お前を出したりはしない。だがその機体が世界初の第四世代機になれるポテンシャルを秘めていたらどうする?」

 

「それは本当か?」

 

「国連日本支部が開発した第四世代機のテストヘッド機タイプ01フブキ・カスタムの事は知っているだろう?」

 

「ああ、映像で嫌と言う程見たからな」

 

「そうだ、アラスカ・ユーコン基地で開発される新型機はフブキカスタムの上位機種として開発予定機だ。どうだ、少しはやる気が出たかブリジッス少尉」

 

「間違いないんだろうな、その話し」

 

「今、その事で、ボーニング社とペンタゴンが国連日本支部と交渉中だ。何でも国連日本支部の全面協力が無いと難しいらしい」

 

「なんだよそれ、期待を持たせやがって。国連日本支部が協力を拒んだら、出来ないって話しじゃないか」

 

 ユウヤ・ブリジッス少尉は少しでも期待した自分が馬鹿だったの顔をする。

 

「まあそう言うな。新型機開発のゲストとして、新OS・XM3の発案者にしてフブキ・カスタムの開発衛士タケル・シロガネ少佐と、その助手で天才コンピューター・プログラマー・カスミ・ヤシロ少尉を招こうと言う話しも出てる」

 

「随分と豪華な話しの様だが、確定じゃあないんだろ?」

 

「だが上の方はかなり自信が有る見たいだぞ」

 

「根拠は?」

 

「新型機開発の日本側責任者が、タケル・シロガネ少佐のフィアンセたるユイ・タカムラ中尉だからだ」

 

 この件に関しては全くの誤解で誤報なのだが、最早噂話と新潟県防衛戦直後に隠し撮りされたハグ写真が証拠として取り扱われ、皇帝陛下と煌武院悠陽政威大将軍殿下から祝辞され、もう引込みが付かない状況下に2人は置かれている。

 

 ちなみに巌谷中佐はニコニコ顔で、

 

「唯依ちゃん、結婚式は和式、洋式どっちがいいかね?」

 

「あのですね伯父様、変に噂を広めるのは辞めてくださいと何度も言っていますよね?」

 

「でも唯依ちゃんなら十二単でも、ウエディングドレスでもどっちでも似合うな。うん」

 

「人の話し聞いています?」

 

「でも今時の若い男は、ウエディングドレスの方を好むと言うしな。悩むなぁー」

 

「伯父様ー!!!!」

 

「唯依ちゃん、もう既に皇帝陛下と煌武院悠陽殿下からも2人の婚約は承認され、祝辞も貰っているんだよ」

 

「それは伯父様達が一方的に!」

 

「それに栴納さんもすっかりその気だぞ」

 

「母様まで・・・」

 

 もうすっかり半分涙目になっている唯依だった。

 

 

ーーーー《閑話休題》ーーーー

 

 

「・・・つまり何か、自分の婚約者が責任者の立場に立つプロジェクトの失敗を黙って見ているはずがないと?」

 

「少なくとも上はそう見ている。自分の婚約者の失敗を望む程薄情ではないはずだと。既存の技術の応用では、フブキ・カスタムより低スペックの機体しか出来ないからな」

 

「まあそうだろうけど・・・」

 

「それにこれはアメリカの威信が掛かった国家的プロジェクトだ。上としては何が何でも成功させたいだろうさ」

 

「国家的プロジェクトって大袈裟だろう?」  

 

「いや、大袈裟じゃない。これはまだオフレコだが、二日前にインフィニティーズがシロガネ少佐の部隊に、模擬戦で一方的に負けた」

 

「インフィニティーズって、第65戦闘教導団だよな。ラプターだけで構成された。それが負けたって、そんなバカな」

 

「二日前にヨコハマで模擬戦をやってな。4戦共全敗だったそうだ。ラプター御自慢のステルス機能も、フブキ・カスタムには通用しなかったそうだ」

 

 上官は肩を竦め、ユウヤ・ブリジッスは唖然とする。

 

 アメリカ陸軍第65戦闘教導団インフィニティーズは、武の戦術機試験運用小隊シルバー隊4機と、午前、午後、夜前半、夜後半の計4回の模擬戦を行い、4回共全敗してしまった。全天周囲モニターと高感度センサーの前に、ラプターのステルス機能は全く通用しないばかりか、ハッキングしてのウイルス攻撃も全く通用せず、機動力と即応性で圧倒的に勝る【1式吹雪改】に追い掛け回され、一機、また一機と撃墜認定をされて敗北しただけだった。最後の4回目はウイルス攻撃を学習した【CPU・梓】がウイルス・カウンターで、ラプターのCPU機能を阻害し、ただただ蹂躙されるに終わった。

 

 夕呼曰く、

 

「私がチンケなウイルス攻撃に弱い【CPU】を作ると思っていたの?舐めてんじゃないわよ!」

 

 終始怒ってばかりだったと言う。

 

 シルバー小隊の面子は以下の通り。

 

 1番機兼小隊長→白銀武少佐

 

 2番機兼副隊長→篁唯依中尉

 

 3番機→七瀬凛少尉

 

 4番機→大上律子少尉

 

 七瀬凛少尉と大上柚香少尉の2人は、【吹雪改】3番機と4番機の完成に合わせて、新しいテストパイロットを欲しがった武の要望に応える形で巌谷中佐が手配し帝国軍から国連横浜基地に出向、昨年の春に任官した衛士。

 

「これで解っただろう。日本帝国軍次期主力戦術機米日共同開発計画が、アメリカの国家の威信を掛けたプロジェクトになったのが」

 

 そう、この結果に一番慌てているのがワシントンD・Cだった。

 

 複数の従軍記者が模擬戦を観戦していたが、その中にはワシントンポスト紙の記者が居て、今朝の朝刊でインフィニティーズ惨敗の記事を掲載してしまう。

 

 そもそも今回の模擬戦はアメリカの国粋派や対日強硬派のゴリ押しで実現したもの。

 

 それ故に自信満々だった彼らは、生意気な日本人に教育してやると、横柄かつ横柄な態度が目立ち、従軍記者達のヘイトを買っていたのだ。

 

 従軍記者の殆どがユーラシア大陸の地獄の惨状を目の当たりにして来ただけに、BETAではなく人間に敵意と傲慢な態度を見せる国粋派・対日強硬派軍人に対して不快感を持ってしまう。

 

 『正式な発表があるまで、記事にしないでくれ』といった懇願やら脅しやらを頭から無視してしまいスッパ抜き記事を掲載した。

 

 それと同時にアメリカ産軍複合体は深刻な悩みを抱えてしまう。

 

 深刻な悩みとは【吹雪改】本体一機辺りの調達価格が第二世代機F-16と同価格なのと、【XM3】と【CPU・梓】の価格が安すぎるのが原因だった。

 

 【吹雪改】の価格がラプター並なら、そう深刻な問題にもならなかったのだろうが、第二世代機で最もコストパフォーマンスに優れているF-16と同価格で、アフターケアがしっかりしていれば他国軍の購入意欲を唆るだろう。

 

 【XM3】と【CPU・梓】の価格はセットで普通乗用車と同じ価格なのだ。これを使うだけで第一世代機を、2.5世代機並に性能を引き上げられる。これでは第二世代機を大量に売り捌きたいアメリカ産軍複合体からすれば、アメリカ製戦術機が全く売れなくなってしまう。世界中で使われている戦術機の半数近くが未だに第一世代機で、現地生産改修型機が大半を占めるが、それも限界に近付いていた所に、第一世代機を一気に2.5世代機にアップデート出来る技術が出て来たらどうなるだろうか。それに食い付くのは自明の理だ。

 

 大きな痛手を被るかも知れないアメリカ産軍複合体からすれば、

 

『イエローJAPめー、余計な事をしやがってー、くたばれファック・ユー!』

 

 普段の毅然とした紳士然はどこえと行ったやらで、ニューヨークの産軍複合体のオフィスビルの会議室では、最初の1時間は国連日本支部への悪口雑言罵詈雑言が記録されたに留まった。そして彼ら産軍複合体はオルタナティブ5派と裏で手を組んで、HSST2機を使っての国連横浜基地の破壊に協力する事になる。

 

 

「ああ良く解ったよ、まさに俺向きの仕事だと言うのがな。レオン達の失敗の帳尻を合わせて来てやるぜ」

 

「その意義だトップガン、期待している」

 

 

 

 

 

《そして国連横浜基地では・・・》

 

 斯衛軍の月詠真那中尉は困惑をしていた。困惑をしているのは彼女だけではなく、自分の部下3人も同様に困惑を隠せない。隠せないでいたのは、今期の第207訓練部隊の訓練兵10人と訓練教官の神宮寺まりも軍曹も同様だった。

 

「今日から君達訓練兵の臨時教官を務める事になった国連横浜基地所属技術開発部主任開発衛士の白銀武少佐だ。宜しく頼む」

   

「真那様、これはいったい?」

 

 部下の1人巴雪乃少尉が困惑しながら聞いて来る。

 

「知らない、私も聞いていない。何故あの男が、冥夜様達の臨時教官になるんだ?そもそも少佐の仕事ではないはずだ」

 

 月詠真那の言った通りで、国連軍なら下士官の仕事だし、帝国軍、斯衛軍でも訓練兵の教官職は大尉までだ。なのに遠巻きにして見ている面々の前で、堂々と臨時教官を務めると言ってのけた。困惑するなと言う方が無理がある。

 

 白銀武に関しては色々と怪しく胡散臭い事この上ないが、帝国に新技術の開発で政治・軍事・経済の三面で様々な恩恵や利益をもたらし、新潟県防衛戦では近年稀に見る対BETA戦大勝利に貢献した人物。いわば若き救国の英雄で、皇帝陛下と煌武院悠陽政威大将軍殿下の憶えも良い。斯衛軍中尉と言えど滅多矢鱈と手が出せる相手ではない。

 

「あの男には、アラスカ行きの話しが出ていたはずだ」

 

 訓練兵達は困惑をしながらも、神宮寺教官の号令で一人一人自己紹介を始めている。

 

(もしあの男がアラスカに行かないのなら、婚約者の篁中尉はどうなるんだ?)

 

 【XFJ計画】の成否は、【XFJ計画】に必要な技術特許を数多く持つ武に掛かっているとも言っていい。当の武本人は【XFJ計画】に参加する予定は最初からなかったので参加する気は更々なかった。もう既に国連本部にはシベリアのブラゴエスチョン、韓国の鉄原(チョルウォン)、日本の佐渡ヶ島、ソ連のオリョクミンスク、ハタンガ、ヴェルホヤンスク、エヴェンスク等。日本を取り囲む各ハイヴをどうにかしないと身動きが取れないと。

 

 武にそう言われて国連本部は顰め面をする。

 

 BETAの生態に付いては未だに謎だらけ、どれだけ航続距離があるのも解っていない。各ハイヴの反応炉がエネルギー供給源なのだけははっきりしているのだが。

 

 もし日本を取り囲むハイヴから、日本に向けて一斉に侵攻を開始したら、今の日本帝国軍と国連軍の戦力では、到底防ぎ様がないのだ。

 

 武にしても当初自分が決めたスケジュールを変更する気は全くなく、【XFJ計画】の顛末を知っている武からすれば参加する気は全くなかった。

 

(キリスト教恭順派と難民解放戦線の大規模テロ。それに米ソの謀略に巻き込まれ篁中尉の暗殺未遂事件は起きるし、テストパイロット・ユウヤ・ブリッジスが【不知火弐型】強奪する事件引き起こしてソ連の女衛士と駆け落ちして行方不明になる。結果として政治的妥協として【XFJ計画】は無かった事になるからなあ〜。巌谷中佐も軍中央から追われて北海道に左遷だ。一応二回目の最後の前日に【不知火弐型開発計画】再開と【XM3】の採用するように報告書へ記していたけど、その後どうなったかについてはさっぱり分からないし)

 

 キリスト教恭順派と難民解放戦線への監視は、社霞がCIAとキリスト教恭順派の本部をハッキングしながら監視をしている。その副産物でHSST2機墜落事件を始めとしてCIAが企むアラスカ・ユーコン基地への大規模テロ、第2帝都でのクーデターへの関与等の詳細羅列と証拠を手に入れる事になるのだが。

 

「どうします真那様?」

 

「私が直接対応する、お前達は何もするな」

 

「「「はい」」」

 

 

 

「待ってください伊隅隊長、碓氷大尉」

 

夕方、定時訓練を終えたA-01部隊は解散しようとしたが、イスミ・ヴァルキリーズ中隊副隊長速瀬水月中尉が、2人の中隊長を捕まえる。

 

「なんだ速瀬?」

 

「例の新型機、まだこちらには回って来ないんですか?」

 

 伊隅大尉と碓氷大尉の2人は顔を見合い苦笑する。 

 

 速瀬水月の堪え性の無さが始まったと。

 

「香月副司令には掛け合ってはいるが、こちらに回って来るのは未だ先だそうだ」

 

 例の新型機とは【1式吹雪改】の事だ。

 

「そうなんですか・・・」

 

「だから暫くの間は、今の【不知火】の改装で我慢しろとの追ったしだ」

 

 A-01部隊が使用している戦術機は【94式不知火】だ。世界初の第三世代機で、トータルバランスに秀でた機体。

 

 新潟県防衛戦直前に【XM3】と【CPU・梓】と駆動部と間接部に小型電磁モーターを搭載し、より瞬発力と即応性に優れた機体に変化を遂げた。

 

 新潟県防衛戦直後に第二次改装でコクピットを全天周囲モニターやリニアシートに改装。慣性制御機能も付きセンサー類も【吹雪改】と同じ物へと交換。電磁伸縮炭素帯も【吹雪改】と同じ物に。部分の強度も大幅に強化され、電池も水素バッテリーに交換で連続稼働時間は倍に。5月中旬には、量産型水素・プラズマ・ジェット・エンジンと高周波長刀付きフライトユニットの初期生産型が、A-01部隊に回り第三次改装が始まる。

 

 この三度に渡る改装で【94式不知火】は実質準第四世代機に変化を遂げると言っていいだろう。

 

 更にこれを上回る純正第四世代機たる【1式不知火改】とも言うべき2機が近々ロールームアウト予定。

 

 帝国陸軍技術廠がこれを知れば卒倒するだろう。

 

 なんせ横浜基地の不知火改修計画案は初期の案の【不知火弐型】案を上回る高性能機になるからだ。 

 

 これが実現すれば、【XFJ計画】は必要なくね?

 

 にもなりかねないのだ。巌谷中佐の進退問題に間違いなく発展するだろう。

 

 当然の事ながらA-01部隊隊員達の間には不満はない。ただ1人を除いて。

 

「速瀬中尉はそんなに【吹雪改】に乗りたいのか?」

 

 碓氷大尉は冷やかし気味に言う。

 

「乗りたいですよ。あの【YF-22Aラプター】に圧勝した機体ですよ。早くも世界初の第四世代機の声もある機体。戦術機乗りなら誰でも乗りたいですよ」

 

「開発の責任者白銀少佐の話しだと、未だ第四世代機未満との事だ。不知火をべースにした本当の第四世代機は今開発中で5月頭に試作機2機がロールアウトするそうだ。誰を乗せるかは未だ決めていないと言われたな」

 

「まあ一機は白銀少佐、もう一機は斯衛軍の篁中尉で決まりでしょうけど」

 

 そう言いながら肩を竦める碓氷大尉。出来る事なら自分が乗りたいと言いそうな顔をしている。

 

「はいはい、自分が志願します。もう一機のパイロットに志願します」

 

 速瀬中尉が右手を挙手して志願をする。

 

 伊隅大尉は右手でこめかみを押さえながら『この戦術機バカ』と内心毒付く。

 

「・・・分かった、香月副司令と白銀少佐に話しは通して置く・・・」

 

「本当ですか!」

 

 目をらんらんと輝かせる速瀬中尉。

 

「だが、必ずしも通るとは限らないぞ。白銀少佐は自分専属の開発部隊を持っているんだからな」

 

「分かっています!」

 

 速瀬中尉はもう自分で決まったと早とちりして、軽やかなスキップをして会議室を立ち去る。

 

 だが第四世代機の開発衛士は別な所で決まりそうだった。

 

「えっ、バニング少佐、それは本当ですか?」

 

「嘘は言っていないぞウラキ少尉。5月になったらお前達2人はディック・アレン大尉と一緒に、白銀少佐の開発部隊に移動となる」

 

 コウ・ウラキ少尉とチャック・キース少尉は信じられないと互いの顔を見やる。

 

「理由は何でしょうか?」

 

「5月になれば篁中尉がアラスカ・ユーコン基地に移動になるのと、白銀少佐本人も開発部隊ばかりの仕事をしていられなくなるからだ。その穴埋めなのと、第四世代機のテストパイロットの仕事を任せたいそうだ」

 

 その話しを聞いたウラキ少尉は身を乗り出す。

 

「第四世代機って、それは本当なのですかバニング少佐!」

 

「おいおい疑り深い奴だな。俺は嘘は言っていないぞ」

 

「あ、申し訳ありませんでした少佐」

 

「もう既に、アレンの奴が白銀少佐と打ち合わせ中だ。詳しい事は後日話す。白銀少佐から、数日以内に【高等練習機吹雪】を使い機種転換訓練を受けさせる通知が来ている」

 

「やったぜコウ!新型機の開発部隊って、俺達エリートコースに入ったんぜ!」

 

 チャック・キース少尉は喜びの余りガッツポーズをするが日系人のコウ・ウラキは複雑な心情だ。

 

「自分は日系人ですが日本人ではありません。親がBETAの東進と同時に祖国を見捨てた親の子です。それでも大丈夫なのでしょうか?」

 

 コウ・ウラキ少尉の背後事情は複雑だ。BETAの東進開始と同時にオセアニアや北米で暮らしていた日本人の中には早々と日本を見捨てて、外国に帰化した日本人の一団が存在していた。

 

 日本帝国政府も日本資本及び日本人研究者・技術者の国外退避を進めていた最中なので、国外に居た日本人の帰国を厳しく制限をしていたのもあって、後方支援国家への帰化を止められないでいた。

 

 コウ・ウラキ少尉はその二世の立場だ。

 

 BETAの大侵攻で数百万人もの日本人が北米、南米、オセアニア、フィリピン、ボルネオ島に避難。避難した国に帰化するかどうかで揉めている最中でもある。

 

 

「お前の身の上話しは、俺ではなく白銀少佐に話した方がいいだろうな。まあアレンの奴も、幾ら国連軍でも日本人ではない自分達が、日本人向けに開発される戦術機のテストパイロットをやって良いのか気にはしている」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「だが白銀少佐に言わせるとそんな余裕はないそうだ。BETAの大侵攻後日本帝国軍は教導隊、斯衛軍、試験部隊等根こそぎ動員し続け人材が払底しているそうだ」

 

「つまりテストパイロット候補が不足している」

 

「まるっきり居ない訳ではないらしいが、ニイガタ、サンイン、キタキュウシュウ、カラフトの最前線からは外せないそうだ」

 

「だから自分達を抜擢した訳ですね」

 

「そうだ、納得したかウラキ少尉」

 

「はっ、テストパイロットとして全力を尽くします」

 

 アレン大尉との打ち合わせが終わった武は、無造作に雑木林の中へと入って行く。そして立ち止まる。

 

「月詠中尉、そろそろ出て来たらどうですか?」

 

「・・・流石ですね白銀少佐、いつ頃からですか?」

 

「途中から気付いていましたよ、それに人の後ろを監視や尾行をするのなら、光を反射しない色を着ていた方がいい。赤色は案外目立ったり、反射したりするんですから」

 

「指摘感謝致します。次からはそうしましょう」

 

「で、御要件は何です。こう見えても多忙の身何で、斯衛軍の探偵ごっこに付き合っている暇はないのですが」

 

「ではお聞きします。その多忙な方が、何故訓練兵の臨時教官のお仕事をしているのです?」

 

「・・・月詠さんは未来が見えていますか。いえ、見据えていますか・・・」

 

「それはどう言う意味なのだ?」

 

「言ったまんまの意味ですよ。このまま悪戯に戦い続けつても悪戯に人材を浪費し、最後は十歳の子供まで強制徴兵するしかなくなります」

 

「そんな馬鹿な。そんな事があるはずがない!」

 

「そう言い切れる証拠はあるんですか、俺はありますよ」

 

 武はそう言うと胸ポケットからUSBメモリーを取り出して月詠に向けて指で弾く。

 

 真那は弾かれたUSBメモリーを受け取る。

 

「これは・・・」

 

「日本帝国政府の向こう十年間の戦争動員態勢が入力されています。まあ非合法のハッキングで入手した情報ですが」

 

「ッ・・・!」

 

「日本帝国政府は明らかに徴兵年齢を十歳まで下げる事を本気で考えています。徴兵した子供に成長促進剤を投与して、対BETA戦争に駆り立てる計画です。これが証拠です」

 

「・・・・」

 

 真那は自分の手の平のUSBメモリーを凝視する。

 

「これが俺の答えですよ、今がぎりぎりのボーダーラインなんです。ここでBETAを押し戻さないと、十歳の子供を強制徴兵して成長促進剤投与しながら、戦術機に乗せて戦わせる悪夢が実現してしまう。だからこそ、訓練兵には戦力になって貰わないと困るんですよ」

 

 真那は何も言い返せなかった。それどころか水を含んだ真綿で首を絞めらる心境だ。

 

「大丈夫ですよ。あの子達の能力は高い。きちんとした指導をすれば一人前の衛士になれます」

 

「だが神宮寺教官がいる。少佐がする必要は・・・」

 

 彼女は身体の奥底から声を絞り出して反論する。

 

「こう言っては何ですが、神宮寺教官ではあの子達の指導は荷が重いと思っている。実際にあの子達の後ろの政治的背景を気にするあまり、どうも手心を加えているようだ。現場に政治を持ち込む方も問題ですが、政治に振り回されている神宮寺教官も教官です。佐渡ヶ島ハイヴと喀什(カシュガル)ハイヴの攻略を間近に控えた今、1人でも即戦力が必要です」

 

「佐渡ヶ島と喀什(カシュガル)だと。無謀だ!」

 

「いいえ、無謀ではありません。国連横浜基地は総力を上げて年内中に佐渡ヶ島と喀什(カシュガル)を落とします。そしてあの子達には、空いた欠員を補って貰わない困るんですよ」

 

 武も流石に無傷で2つのハイヴを落とせると思う程楽天家ではない。今からでは佐渡ヶ島とカシュガルには間に合わないのは分かっているが、せめてその穴埋めを埋める衛士になって貰わないと困るのだ。

 

「では冥夜様達はハイヴ攻略戦には参加させないのだな?」

 

 真那は安堵の顔を浮かべる。

 

「まあスケジュールがタイト過ぎるので、彼奴等の2つのハイヴ攻略戦参加は諦めています。もしかして、俺があの子達を2つのハイヴ攻略戦に強制参加させる気でいると思っていました?」

 

「ああそうだな・・・」

 

「ですが、その後に予定している鉄原(チョルウォン)とエヴェンスクの両ハイヴ攻略戦には参加させます。これは決定事項だと思ってください」

 

「ッ・・・!」

 

「そんなに心配なら、月詠さん達もハイヴ攻略戦に参加すればいいじゃないですか?」

 

「なっ」

 

「こう言ってはなんですが、【武御雷】は持って入れば嬉しいコレクションではないんです。兵器は戦う為に存在している以上は、対BETA戦で躊躇わずに使うべきなんだ。幸いにして【武御雷】はハイヴ攻略戦に売って付けの機体なんです。月詠さん達にその気があれば【武御雷】の強化に協力は惜しみませんよ」

 

「白銀少佐・・・」

 

 斯衛軍は斑鳩崇継の号令で、【武御雷】の強化改修に乗り出しており、第16大隊、ホワイトファング中隊、第19独立警護小隊の強化改修が進んでいる。強化された【武御雷】の高性能化を目の当たりした他の部隊は、生産ラインの段階から【強化型・武御雷】の実戦配備を望む声が出ている。

 

 月詠真那の第19独立警護小隊の【武御雷】も、新潟県防衛戦後に横浜基地で大改修作業が行われ、生まれ変わったに等しい【武御雷】に身震いを憶えた。

 

 帝国軍の方は帝都防衛軍と富士教導団が最優先され、前線部隊の方は後回しにされている。これは参謀本部の大伴中佐の意向に拠るものだ。その大伴中佐は横浜基地で開発された技術は、全て帝国の財産で知的所有権は帝国に帰属しなければならないとし、新技術は疎か、ナットやビス、ボルト一本すら認めない徹底振りだ。新技術の海外流出を防ぐ名目で横浜基地への帝国軍強制進駐の動きを隠そうとはしない。隠さない事で国連日本支部に圧力を加えている。

 

 この大伴中佐の動きと圧力には流石の夕呼も顰め面にならなざるを得ない。

 

「大伴中佐を巻き込んだのは大失敗だったわね。そりゃあ強度を高めたボルト一本から、新技術の性能が推測されてしまうけど、私も何も新技術を安売りするつもりは無いのに」

 

 と愚痴るしかなくなっている。そもそも大伴中佐を最初に巻き込んだのは、《既得権益》の問題を武に理解させる為だったのが、今では飛んだ藪蛇になろうとしている。

 

「あの大伴中佐は経済を分かっていないのね。技術をある程度付加価値を付けて売らないと、更なる新しい新技術を作る為の予算が確保出来ないと言うのにね。はぁ~困ったわねあの御仁にも」

 

 大伴中佐はアメリカと国連の影響力を完全に排除し、朝鮮半島と東シベリアを確保し帝国本土の安全圏を確保する事を政治目標にしている。この考えは帝国内の保守層の一定の支持を得ていた。それ故に煌武院悠陽も榊首相も、力付くでの大伴中佐の排除を難しくさせている。

 

 大伴中佐の行動は国連主導計画【オルタナティブ4計画】に出資している他国からは、抗議の嵐が日本帝国政府に殺到していた。出資国からしたら自国が抱えている難民問題や諸問題を後回しにしているのだから、国連日本支部が開発した技術は出資国全てが恩恵を受けるべきと考えて当然だ。

 

 日本帝国の独占は許さないと連帯の動きを見せる。

 

「殿下と榊首相の方で軍上層部は押さえていますので、押さえられている間に佐渡ヶ島の奪還を御二人は強く望んでいます香月博士」

 

 大伴中佐の動向を報告しに来た鎧衣左近が進言をする。

 

 大伴中佐を軍中央から排除するには、大伴中佐には絶対に出来ない実績が必要だからだ。  

 

 その為にも佐渡ヶ島ハイヴをと言う訳だ。

 

「言う方は気楽でいいわね〜。こっちの苦労なんて理解しようとしないんだから」

 

「まあまあ博士も落ち着いて。後、白銀武の問題ですが」

 

「それに付いては、もう解決したはずよ。白銀本人には斯衛軍に入って母親の実家の名代を務める気はないと」

 

 夕呼にしても自分の付加価値をどんどん高めて暮れる武を手放す気は更々ない。上官としても女としても。

 

「やはり博士も1人の女でしたか、まあ気持ちは分からなくはありませんが、子種の独占はどうかと思いますよ」

 

 これにカチンと来た夕呼がデスクの引き出しから拳銃を取り出して身構える。

 

「さっさと帰らないと撃つわよ」

 

「おおっと、これは失礼。ここはさっさと帰りましょう」

 

「あーそうそう、思い出しましたよ」

 

 鎧衣左近は態とらしく何かを思いだした顔をする。

 

「なによ?」

 

「昨年末から市場に純度が高い金や銀、希少金属が流通し始めているのですが、何かご存知ありませんか?」

 

「何の話しよそれ?」

 

 夕呼の顔が一瞬険しくなるのを鎧衣左近は見逃さなかった。

 

「会社名は【相模カンパニー】と言いまして、商社らしいのですが、その会社がどの様なルートで仕入れたのか分かりませんが、やたらと純度が高い金や銀、戦術機の製造に必要不可欠な希少金属類鉱物、工作機械類を手広く売り捌いている様です」

 

「それと私が何の関係があるのよ?」

 

「いや、その会社が利潤だけを求めず、適正価格で売買して下さるので、希少金属鉱物輸出国やアメリカ機械製造メーカから足元を見られなくなったのは大助かりでしてね。しかも格安のライセンス料で工作機械の委託生産も任せる気前の良さに、各方面から驚きの声がでているんですよ」

 

「随分と良心的な会社ね。私も肖りたいわ」

 

「その会社、国連日本支部と密接な関係にある御様子。何か存じておりませんかな?」

 

「私が知る訳ないでしょう・・・」

 

「はぁ~、分かりました。取り敢えず今日は帰りましょう」

 

「あら、珍しく随分と聞き分けが良いのね」

 

「何、下手に藪を突いて猛獣を怒らせたくないだけです」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

ーーーー「閑話休題」ーーーー 

 

 

 

「まあ今すぐ決めてくれと言うつもりはありません。あの子達が任官するまで日はありますし、任官したからと言って直ぐにハイヴ攻略戦には参加させませんから。ただ今は優秀な人材を遊ばせている余裕がないだけです」  

 

 武は自分でも甘いとは思う。夏にハイヴ攻略を行うと決めているのは、今期の207訓練部隊を出来るだけハイヴ攻略から遠ざけたいから他ならない。

 

(未練だよなあどう考えても・・・)

 

「分かった。白銀少佐、貴官を信じよう・・・」

 

「・・・いいんですね・・・」

 

「ああ、冥夜様の事を頼む」

 

「分かりました。お引き受けします」

 

「よろしく頼む白銀少佐。それと先程の提案だが、私の方から斯衛軍参謀本部に意見具申しよう」

 

 武は軽い驚きを持つ、斯衛軍の性格からして、ハイヴ攻略には直接参加をしたりはしないと思っていたからだ。

 

「斯衛軍は白銀少佐に借りを作り放しだ。斯衛軍内からハイヴ攻略部隊への戦力抽出に反対はしないはずだ」

 

 真那の脳裏に斑鳩崇継の顔が浮かぶ。

 

(あの御仁なら、自分から率先して、ハイヴ攻略に参加をすると言いかねないな)

 

 性格に全く掴み所がなく、何処か悟っていて、自堕落的な一面を持ち、もう二十代半ばと言うのに、誰とも結婚をしないでいるばかりか、遊郭通いを止めようともしない。退屈を誰よりも嫌い、退屈凌ぎで火中の栗を拾いに行きたがる改革派の中心人物斑鳩崇継。

 

(案外、この男と気が合うかもしれんな)

 

「月詠中尉、どうしました?」

 

「ああいや、何でもない。それともう一つ話しがある」

 

「何でしょうか?」

 

「少佐は【XFJ計画】は参加をしないのですね?」

 

「参加しませんよ。そんな予定は最初から無いので」

 

 武にはニューヨークの国連本部、アラスカの第3軍、シアトルのボーニング社から、霞と一緒に【XFJ計画】の参加要請が届いていたが、武はBETAの脅威を理由に参加を拒否し、霞は保護者の夕子が断りを入れている。

 

「婚約者の篁中尉が日本側の責任者なのだぞ」

 

「ああそれですね。俺と篁中尉は婚約をした憶えは無いのですが・・・・」

 

「だが皇帝陛下と煌武院悠陽殿下からは、婚約を祝う祝辞が出ているが?」

 

「それって、篁中尉を俺に宛てがって、俺を縛り付け様としているだけですよ。気持ちは分かりますが、些かやり過ぎなのではありませんか?」

 

 純夏の問題を抱えている武としては、別の女性との婚約は論外だった。武としては、篁中尉と婚約しなくても、自分が出来る範囲内で、帝国への協力は惜しまないのだ。

 

 だが武の影響力が日に日に増して来る中で、帝国政府上層部内では武が国連軍内に居るのを問題視する声が増え続けているのが実情。武が何者かは別にして、武に女数人を宛てがって地位や情で帝国に縛ろうとする動きが出ている。この時期の武は自分が持つ影響力を過小評価していた。

 

「・・・・・・」

 

 真那も名門武家の出なので、政略結婚は普通でしかない。

 

 上に武との政略結婚を命じられたら、個人的な心情は別として武と政略結婚に応じるだろう。今の武にはそれだけの価値があるからだ。目敏い者なら武の背後には、とてつもない巨大組織が付いているのに気付く。その組織が何を意図と目的で武を後援しているのかは不明だが、少なくとも今の余裕がない日本帝国政府に取っては有り難い存在。

 

 その組織との根強いパイプを持つ武をどんな手段を講じてでも取り込みたいのだ。 

 

 そしてもう1人の当事者たる唯依は城内省と斯衛軍参謀本部からの通達に頭を抱えていた。

 

「はー、白銀少佐と結婚かあ・・・・」

 

 城内省と斯衛軍参謀本部からの通達は、『2人の婚約と結婚は既定路線だから、素直に従え』の無情の通知だ。

 

 唯依は名門譜代武家篁家当主として、いずれは政略結婚しなくてはならないのは分かっているし自覚もしている。そして自分が逃げようとしているのも。

 

「でも年内でなくても・・・」

 

 皇帝陛下と煌武院悠陽殿下の公認の元で、武と唯依の結婚が婚約をすっ飛ばして進んでいるのも。

 

「それだけ白銀少佐の存在が帝国に取って必要不可欠な存在になっているのか・・・・」

 

 唯依は武に好意を抱いているかいないかと言われたら、間違いなく好意は抱いていると答えるだろう。

 

「だけど白銀少佐に想い人が居る。名は知らぬが」

 

 武と一緒に行動する様になってから早3ヶ月が過ぎた。

 

 その間唯依はずっと武を観察していた。そして、武が口にはしないが、何と無く女の感で武に異性の想い人が居るのを感じ取ってはいた。

 

 だから唯依は城内省に問い合わせ武の過去を遡ってまで女関係を調べた。自分で何を遣っているのだろうと思いながら。

 

 調べて行く内にで該当する女の子が1人居た。

 

かがみ()すみか(純夏)、か・・・・」

 

 この名前を口にする度に心の中でドス黒い感情が沸く。

 

 武の隣人で幼馴染の女の子鑑純夏。

 

「なんなのだこの感情は、私が何故この様な感情を」

 

 純夏の名前に辿り着いた唯依は、純夏がBETAの地中侵攻が原因で関東防衛線の一角が突破され、BETAが横浜を蹂躙した時にMIA(行方不明)になっている。

 

「対BETA戦でMIAになるのはそう言う事だ」

 

 BETAの帝国本土襲撃で、日本帝国は総人口の3割にあたる3,600万を弔った。その中には後日、行方不明になった日本国民も多数含まれた。

 

「私は鑑純夏を知らない。だけど、その娘が常に白銀少佐の心を掴んで離さない」

 

 武が時折遠くを見る眼差しをするのは知っている。1人廃墟と化した横浜市を一望出来る訓練校の屋上で1人寂しく佇むのを知っている。

 

「ッ、何で私がこんな思いをしなければならない」

 

 自分が帝国陸軍技術廠に居ないのを良いことに、武と唯依を結婚させようとしたり顔で、唯依の外堀と内堀をせっせと埋めている巌谷榮二の顔を思い出して唯依は腹が立つ。

 

「そうよ、全部伯父様が悪いのよ!」

 

「伯父様が、国連横浜基地に行けというから、こんな事になっているのよ」

 

 国連横浜基地に着任して早3ヶ月が過ぎたが、着任してからと言うもの勉強、訓練、開発、試験の繰り返しの毎日だった。

 

 濃密過ぎる3ヶ月だったので、時間が経つのを忘れる程。

 

 そうして後一ヶ月でこの横浜基地を離れ、遠いアラスカ・ユーコン基地での【不知火弐型開発計画】に日本側の責任者として携わる事になる。

 

「責任重大だなぁ〜。ハア〜」

 

 元々【不知火弐型開発計画】は旧式化した【72 式撃震】の後継機として開発される予定だったが、白銀少佐が【1式吹雪改】を開発した事で、急遽【不知火弐型開発計画】は【94式不知火】の後継機として開発される事に変更された。

 

 1号機と2号機は従来の技術を用いての開発とされ、ボーニング社のタコマ工場で組み立てが行われ、3号機と4号機は武が保有する新技術を用いての開発に落ち着きそうだ。

 

 ボーニング社で組み立てられる【不知火弐型】はフェイズ2とされ、帝国陸軍技術廠で組み立てられる【不知火弐型】はフェイズ4となる。

 

 フェイズ3の方は幻の戦術機【YF-23ブラックウィドウⅡ】の技術を用いた高機動型だと言う。

 

「ただこの件に関してはアメリカ議会が揉めていて、そうそうに実現しそうに無い事だが・・・・」

 

 何しろ【YF-23ブラックウィドウⅡ】は、ステルス技術を用いられて開発された機体。国家安全保障問題では、神経質過ぎる程過ぎるアメリカ議会がステルス技術の流出を恐れて中々承認しないと予想され、日本側も期待はしていない。

 

 だが【YF-22Aラプター】が横浜で【1式吹雪改】に一方的に4戦全敗で敗れた事で、技術の急激な進歩で、アメリカ御自慢のステルス技術も無敵ではないと世界中が知った。アメリカ政府、連邦議会、世論もこの結果に揺れに揺れていた。

 

 最後は帝国陸軍技術廠で組み立てられた機体と、タコマ工場組み立てられた機体の何方が優秀なのか、2対2の模擬戦形式の対戦が予定された。

 

 だからこそボーニング社は【YF-23ブラックウィドウⅡ】の技術をフェイズ3に使い、帝国陸軍技術廠で組み立てられた機体に勝とうとしている。

 

「それだけアメリカも必死なのか・・・」

 

 その一方でアメリカ政府とアメリカ議会は、日本帝国政府と国連日本支部に対して、食糧及びエネルギー支援の増大を確約するから、日本帝国の先進的技術の移転を要求し始めていた。これに対して大伴中佐を中心とした国粋派は猛反発を始めており、国内世論も反米一色になろうとしている。

 

 小規模ではあるが、国内各所で反米デモが発生中。反米デモを監視する警官隊との衝突は起きていないが、一触触発の気配満々。

 

 一歩、いや、半歩対応を誤れば日本帝国が何時分裂しても不思議ではないのだ。

 

「白銀少佐は【XFJ計画】に、自分や国連日本支部が保有する技術は自由に使って良いと言ってくれた。それに対して、売国奴の謗りを受けてまで使う覚悟と度胸は自分にあるのだろうか?」

 

 余り自信が無い唯依で合った。

 

 

 

《2001年4月下旬》

 

 

 

 早霧尚哉は国内各所で発生している反米デモを複雑な心境で見ていた。帝国軍はもう既に8月末に実施されるであろう佐渡ヶ島奪還に向けて、戦準備に取り掛かっており、作戦参加予定の全戦術機部隊の【OS・XM3】と【CPU・梓】及び駆動・間接部の強化を開始している。

 

「出来る事なら、今すぐにでも民衆の味方をしてやりたいのだが・・・」

 

 BETAに占領され続けている佐渡ヶ島奪還は帝国に取っても悲願であり、何が何でも成し遂げなければならない。

 

 ましてや【将道派】である彼に取って煌武院悠陽政威大将軍殿下の勅命命令とあっては、優先順位は自ずと決まる。

 

 同士となった大伴中佐からも、今は佐渡ヶ島奪還に専念をしてくれと言われているので、決起のタイミングを中々掴めないでいた。

 

 

 

 

《2001年5月中旬・太平洋上》

 

「上の連中は何を考えているんです!?」

 

 アメリカ海軍太平洋艦隊総旗艦【ブルー・リッジ】の会議室では第7艦隊副司令官クゼ少将が怒っていた。

 

 それはホワイト・ハウスからの命令が原因だ。

 

 日本帝国内では日増に反米デモが拡大し、それを規制し監視をする警官隊との小競り合いが続き、騒乱罪で逮捕される者が出始めているだけでなく、親米家の政治家、企業経営者、知識人、評論家、官僚も襲撃された。幸いにも殺された者はいないが、病院に運び込まれる者が連日出ており、駐日大使館や領事館に家族と一緒に逃げ込む者もいる。当然の事ながら大使館や領事館も反米デモ隊の標的に。

 

 日本帝国政府も警察省めデモ隊をアメリカ大使館や領事館に近付けさせまいと、夜間外出禁止や大使館や領事館に通じる道への交通規制を開始するが、日頃の耐久生活への鬱憤も加わり逆に火に油を注ぐ格好になっていた。

 

 煌武院悠陽政威大将軍殿下はデモ隊にデモの沈静化を訴えるが、一度火が付いたナショナリズムはそう簡単に沈静化したりはしない。

 

 ここにサンディエゴの太平洋総軍司令部の命令もあって、アメリカ太平洋艦隊全3個艦隊中の7割の艦隊戦力と第一海兵軍団2個師団+2個旅団を強襲揚陸艦群に乗せて房総半島と南鳥島の中間海域に集結させていた。

 

 そんな彼等に下された命令は、第二帝都・東京の制圧だ。

 

 アメリカ合衆国政府は、日本がもう既に無秩序状態に陥り現日本帝国政府は統治機構を失ったと判断。

 

 次の命令があり次第、太平洋艦隊司令部は第二帝都・東京を占領し暴徒を鎮圧。日本帝国の法と秩序を回復せよとの命令をホワイト・ハウスから大統領命令が出ている。 

 

 暴徒の鎮圧にはガス弾を使っての無力化が望ましいが、それで暴徒の鎮圧が不可能なら実弾の無制限使用を許可する内容だった。

 

 太平洋艦隊総旗艦【ブルー・リッジ】の作戦会議室に集まった主だった将官達の顔も重く暗い。

 

「一つ間違えればベトナム戦争の二の舞になる」

 

 太平洋艦隊の将官達の大半はベトナム戦争の経験者だ。ベトコンゲリラ相手にジャングル戦の悪夢が脳裏を過ぎる。

 

「だが大統領命令には従わなければならない・・・」

 

 太平洋艦隊司令長官グリーン・ワイアット大将は気乗り薄な心情が顔に出ている。彼はオルタナティブ5派では在るのだが、東海岸の強硬派とは違い穏健派に属する。だから内心では第二帝都・東京の制圧には反対だし、大統領を丸め込んだ強硬派の暴走を苦々しく見ている。

 

(東海岸の連中にも困ったものだ。オルタナティブ4計画が上手く行く筈がない。半導体150億個を手の平サイズになど、そんな物が出来るのなら、我がアメリカ合衆国が既にやっているはずだ。だから横浜の女狐の自滅を待てば良いものを)

 

 だが今年に入ってからどうも風向きが変わる。国連日本支部が相次いで新技術や新型戦術機の開発に成功、2月の新潟県防衛戦で一方的にBETAを撃退、BETAの光線級の無力化に成功し、80000ものBETAを撃滅した。国連横浜基地副司令官の香月夕呼大佐は、オルタナティブ4研究の副産物的成果と喧伝。つい二日前には戦術機としては史上初となる音速突破機【1式不知火改】を公表。デモンストレーション飛行を行い世界中の度肝を抜く。

 

 BETAも新潟県防衛戦の結果に驚いたのか、全てのBETAをハイヴへと撤退。各ハイヴの守りを固めて鳴りを潜めている。反撃の好機と見た国連と欧州連合は、今月に入りイベリア半島に上陸。つい昨日イベリア半島の奪還を宣言。夏には北フランスとベルネクス3国を奪還する【Dデイ作戦】の準備を進める。

 

 アフリカ連合と中東連合は共同でシナイ半島奪還の準備を始めており、大東亜連合、オセアニア連合はシナイ半島で前線の押し上げを開始。前線国家群の間で反撃の機運が高まりつつ合った。

 

(流石の私もあれには驚かされたが、たかが戦術機だ。戦略兵器には鳴り得ないだよ。それなのに慌ておって・・・)

 

 今度の計画にはオルタナティブ5派だけではなく、大統領の根強い支持基盤の一つ産軍複合体の強い意向が働いているのも知っている。産軍複合体からすれば、自分達の利益に反する行動を取る国連横浜基地存在そのものが邪魔で許せなかった。だからCIAの提案に協力し、貴重な装甲駆逐艦2隻にS-11爆薬を満載させ、国連横浜基地に突入させて横浜基地を跡形も無く消滅させようと言うもの。計画通りに運べば目障りな横浜基地の消滅は疎か、東京湾一帯に直下型大地震を引き起こし東京湾全域を壊滅させる。そこへアメリカ軍が乗り込んで救世主宜しく救助活動を行い、法と秩序を回復し親米派の傀儡政権を誕生させると言う段取りな訳。

 

 だがそんな計画が裏で進んでいる等部下達に言える筈もなく、極一部の側近だけが知る。グリーン・ワイアット大将が知ったのも付い数日前でしかない。最初は反対したが、もう既に東京湾壊滅計画は始まっているから、計画の中止は出来ないと言われ今に至る。

 

「諸君、我々はアメリカ合衆国の軍人だ。不満はあるかもしれぬが、アメリカ合衆国大統領の命令は絶対だ。我々は次の大統領の命令があり次第、日本の法と秩序を回復すべく首都東京を占領する」

 

 そこへ1人の士官が慌てて入って来る。

 

「会議中失礼します。サンディエゴの太平洋総軍司令部から緊急通信が入りました!」

 

「読め・・・」

 

「はっ、サンディエゴ太平洋総軍司令部発。平洋艦隊司令長官グリーン・ワイアット大将宛へ。『エドワーズ空軍基地から発進した2機のHSSTが当初の軌道を外れ、日本帝国東京湾に向かって降下を始めている』との事」 

 

「事故か?」

 

「どうやらHSST内でトラブルが発生したらしく、2機とも連絡が取れないと」

 

 作戦会議室がざわつく、HSST2機がもし東京湾に墜落したら、それだけでも大惨事は免れないからだ。 

 

「作戦参謀、当艦隊からでも迎撃は可能か?」

 

 グリーン・ワイアット大将から迎撃は可能かと問われた作戦参謀は考え込む。

 

 だがそこに更なる凶報が舞い込む。

 

「失礼します!新しい情報が入りました」

 

 もう士官がもう1人飛び込んで来る。最初の1人目寄り顔色が悪く顔面蒼白だ。

 

「読め」

 

「はっ、当該のHSST2機には、大量のS-11爆薬が満載されているとの事。『太平洋艦隊は必要以上の日本帝国領内への接近を禁止する』との連絡がサンディエゴ太平洋総軍司令部から入りました」

 

「何だとそんな馬鹿な!S-11爆薬は海上輸送が原則な危険物なんだぞ!エドワーズ空軍基地の連中、何をやっているんだ!」

 

 クゼ提督は驚きの余り立ち上がり怒りだす。

 

 

《ほぼ同時刻・東京湾上空・高度10000m》

 

「実に分かりやすいよな〜全く」

 

 武は自ら用に開発されたMS・ZGMF-X10GフリーダムMarkⅢのコクピット内で呟く。

 

 フリーダムMarkⅢの肩にはAQM/E-03ランチャーストライカ390ミリ超高インパルス砲【アグニ】の改良型で、背負式から担ぎ型に改良され出力は1000メガワットを超える。正式名称は【スーパー・アグニ】。エネルギーパック装着とフリーダムMarkⅢのからもエネルギー供給が受けられる。武が対超重光線級兵器としてモ☆☆☆レー☆社に開発して貰った兵器。

 

 霞にCIAとキリスト教恭順派の動きをリサーチして貰った結果、二日前に発覚。2回目の時は敢えて止めたが、今回は敢えて証拠集めの為に止めなかった。 

 

「【不知火改】の開発で連中が動くのは予測していたけど、ここまでやるかねぇ〜普通」

 

 武はフリーダムMarkⅢの火器管制の安全装着を外し、【スーパーアグニ】の発射態勢に入る。

 

 レーダーでロックオンし、狙撃しようとした瞬間、フリーダムMarkⅢのレーザー警報が突如鳴り出す。

 

「なっ!?」

 

 驚いた武は急いで回避行動を取る。

 

 だが数条のレーザーはフリーダムMarkⅢを無視して、大気圏に突入寸前のHSST2機を掠める。掠められた2機のHSSTの軌道は大きくズレ、太平洋上へと墜落して行く。

 

 そう、アメリカ太平洋艦隊に向けて。

 

「レイ、何処からだ?」

 

 武は回避行動を取りながら、急いでサポート・コンピューター【AI・レイ】を使って大出力レーザーの発射地点を探る。

 

『マスター出ました』

 

 レイは電子音で大出力レーザーの発射地点の算出出来たと武に告げる。

 

 モニターに出た表示を見て武は絶句した。

 

「エヴェンスク・ハイヴ?」

 

「まさか【超重光線級】がもう完成しているのか!?』

 

 

 

 《ほぼ同時刻太平洋上》

 

 グリーン・ワイアット大将は大気圏内へと突入した2機のHSSTを【ブルー・リッジ】のCICルームで、多くの日本人の冥福を祈った。

 

 CICルームでは2機のHSSTの国連横浜基地への墜落を阻止しようと、ハッキングをする等して、墜落コースの変更を試みるが上手く行かない。

 

 そうこうしている内に2機のHSSTが大気圏内に突入を開始。『もう駄目だ』と思われた時、2機のHSSTが突如としてコースを変更してしまう。

 

「どうした、何があった?」

 

 グリーン・ワイアット大将は沈着冷静に聞く。

 

「分かりません。2機のHSSTが突如として軌道を変更しました。少なとも日本帝国内への墜落は免れそうです」

 

 CICルーム内にはホッとした空気が流れる。最悪の事態は免れたと。だが次の瞬間、

 

「待ってください!!!再度軌道計算をやり直したら、2機のHSSTは太平洋上我々の頭上に落ちて来ますぅー!」

 

 オペレーターの声にCICルーム内は一瞬沈黙したのち、直ぐにパニック状態に。

 

「なんだとそんなバカな!直ぐに軌道計算をやり直せ!」

 

 作戦参謀の声に数人のオペレーターが直ぐに軌道計算をやり直す。 

 

 だが、どの計算も結果は同じだった。

 

「全艦に対空迎撃命令を出せー!」

 

「閣下、直ぐに艦隊に退避命令を!」

 

 グリーン・ワイアット大将はもう手遅れだと思った。

 

 何故なら2機のHSSTは大気圏突破後に、突入角度を変えて加速し、マッハ10の速度で突っ込んで来るからだ。

 

 これを撃墜出来る迎撃システムは存在していない。

 

「策士策におぼれるとはこの事か・・・」

 

「全艦回避行動を取りつつ、ありったけの対空ミサイルを発射しろ!HSSTの墜落を阻止するんだ。まだ間に合う!」

 

 作戦士官達の怒号がCICルーム内に飛び交う。

 

「HSST更に加速!エンジンを噴射して、艦隊に一直線に向かって来ますー!」

 

「閣下ぁー!こんな筈では!?」

 

 真相を知っている側近の1人が絶叫する。例え上空で撃墜しても、HSSTに満載しているS-11の爆薬が一斉起爆すれば海上の艦隊全てが爆発に巻き込まれてしまう。助かるのは海中に身を潜めている12隻のロサンゼルス級原子力潜水艦ぐらいなもの。海上にいる第3、第5、第7艦隊と第一海兵軍団と強襲揚陸艦群は助からない。しかもそれが2機なのだ。

1機は確実に海上に墜落するだろうと。

 

「こんなバカな話しがあってたまるか、こんなバカな!」

 

 それがグリーン・ワイアット大将が残した最後の一言。

 

 何隻かのイージス艦から対空ミサイルが発射されたが、マッハ10の加速が付いたHSST迎撃に失敗。二機のHSSTはそのまま慌てて回避行動を取るアメリカ太平洋艦隊を嘲笑うかの如く、艦隊のド真ん中の海上に激突した。

 

 HSSTに満載されているS-11の爆薬が一斉に起爆。

 

 一発に付き戦術核に匹敵するS-11の爆薬が一機辺り数百t分爆発、しかもそれが二乗。爆発の直撃から免れても、巨大な爆圧や海面隆起に耐えられる筈もなく、海中に身を潜めていたロサンゼルス級原子力潜水艦12隻も巻き添えに。しかも何が起こったのかも分からず、残骸となって太平洋の深海深さ数千mの太平洋の底へと消えて行く。

 

 この日、アメリカ合衆国は対BETA戦始まって以来の最大級の損害を被った。

 

 総旗艦《ブルー・リッジ》以下、モンタナ級戦艦2隻、原子力空母6隻、ロサンゼルス級原子力潜水艦12隻、百数十隻物水上艦、第一海兵軍団全てを全て失った瞬間だった。

 

「ッ・・・・・・・・・」

 

 武は高度を下げた雲の中から、アメリカ太平洋艦隊壊滅を黙って見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の話しどうしようかな?

風呂敷を広げるのは有る程度得意だけど、畳むのは苦手なんだよな。
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