マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

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紆余曲折が合っての投稿になりました。

夏バテが考えが纏まらない。


武ちゃん何周目? 93式不知火開発裏話し⑭

 結果的にH8ロヴァニエミ・ハイヴ攻略は人類側に取って無惨な失敗に終わった。

 

 西ユーラシア大陸連合軍の損耗率は50%を越え、アメリカ軍のG弾攻撃と、ハイヴ内の主縦杭での【母艦級】2つと2個軍団規模のBETAの待ち伏せ攻撃を受け、突入部隊は4つの【母艦級】半数のBETAと差し違える格好で、突入部隊の9割が未帰還に。それを知ったアメリカ軍大西洋総軍はG弾の使用を決定。

 

 西ユーラシア大陸連合軍に新型爆弾G弾の使用を通告。

 

 全戦線から後方30キロまで後退するように通告。

 

 結果として全戦線に渡って混乱を生じ、《オーディン作戦》失敗に備えさせていた予備兵力の投入を躊躇わせ、多くの部隊の撤収に失敗させてしまう。

 

 西ユーラシア大陸連合軍司令部は、アメリカ軍大西洋総軍司令部に対して、前線部隊の撤収完了まで、新型爆弾G弾の使用の停止を求めたが、アメリカ軍大西洋総軍司令部は度重なる要請を黙殺してしまう。

 

 それでも一兵でも多く脱出させようと西ユーラシア大陸連合軍司令部は全力を尽くしたが、前線の最深部のBETAと乱戦状態に合った部隊の撤退に失敗。

 

 そして2発のG弾が【軽光線級】の迎撃をものとせずにロヴァニエミ・ハイヴに着弾。ハイヴのモニュメントを粉微塵にした挙句、数万のBETAと撤退に失敗した西ユーラシア大陸連合軍将兵を巻き添えにし、地上に存在する全てを事情の地平線の彼方へと分子レベルに分解し消し去った。

 

 そうG弾の正体は禁断の兵器。有人惑星では決して使ってはならないブラックホール兵器なのだ。

 

 黒光りする二つの光点が消滅した後、爆心地を中心に直径30km圏内には、何も存在していない。

 

 生き延びた西ユーラシア大陸連合軍将兵全員は、顔から血の気が引き青ざめた。

 

「こんな、こんな事って・・・」

 

「おい、逃げ遅れた味方はどうした・・・?」

 

 何人かが震える手でセンサーを動かす。

 

 一つでも多くの命が残っているかを確かめる為に。

 

 だが現実は残酷だった。

 

 どのセンサーにも生命反応はなかった。

 

「生命反応無し・・・・」

 

 残酷な結末が生存者を打ちのめす。

 

 自分だけが生き残れた事実に安堵する者はいない。

 

「何故、何故、こんな事が出来るんだ・・・」

 

「アメリカは、本当に俺達の味方なのか・・・」

 

 この問いに誰も答えられなかった。

 

 否、誰も答えたくなかったのだ。

 

 答えれば最後、アメリカへの恐怖と憎悪が一気に沸騰点に到達するからだ。

 

『司令部から前線各部隊に通達、《オーディン作戦》は事実上失敗した。残存各部隊は速やかに海岸線まで後退せよ。繰り返す前線の残存各部隊は速やかに海岸線まで後退せよ』

 

「オイ待て司令部、寝言を言う前にロヴァニエミ・ハイヴはどうするんだ?」 

 

『・・・ロヴァニエミ・ハイヴ制圧任務はアメリカ軍が引き継ぐ。従って前線の残存各部隊は速やかに海岸線まで後退せよ。以上だ』

 

 司令部からの通信はそこで途絶えた。

 

「おいちょと待て、前線の最深部の連中は俺達を逃がす為に自分達を囮にしたんだぞ。なのに、アメリカに後を任せるだとお!?」

 

 だが返って来るのはノイズばかりだ。

 

「く、くそォー!」

 

 腹立ち紛れにコンソロールを叩きつける。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ハイマン参謀長、大統領からもGOサインが出た」

 

「では、ティターンズ隊を出します」

 

「ああ任せる」

 

 ティターンズ隊とはアメリカ東海岸の保守派や富裕層の子弟を中心に編制されたアメリカン第一主義を標榜とする部隊で、ジャミトフ・ハイマン中将肝いりの部隊だ。

 

 アメリカ軍の中でも【F-15Eストライクイーグル】を3個連隊360機も保有し、予算も他部隊の2倍強も充てが割れているアメリカ軍のエリート部隊。専用の戦術機母艦アレキサンドリア級30隻も保有する。

 

 戦術機母艦部隊も対地、対空、対潜、対艦ミサイルを保有しており、ティターンズ隊はアメリカの富と力を象徴する部隊としての役割を、新政権から期待されてもいる。

 

 G弾2発投下でハイヴの地上モニュメントが跡形も無く粉微塵に吹き飛び、24時間過ぎても変化はなく、BETAにこれと行って動きもない。

 

 これまで収集した情報を元に分析をした結果、西ユーラシア大陸連合軍は、主縦杭で2つの【母艦級】と2個軍団規模の戦車級と要撃級の待ち伏せに遭い突入部隊はほぼ壊滅。

 

 だがBETAの【母艦級】を破壊し、2個軍団規模BETAも日本帝国から提供された兵器【純水素】【下瀬火薬】で大損害を与えた上に、G弾の使用で主縦杭のBETAは重力異常の多重干渉で事実上消滅したとの推測がなされた。

 

 反応炉は未だ健在の様だが、計算の上では30万以上のBETAを撃破したのは確実である以上は、反応炉の制圧も容易いと楽観的見通しが立った。

 

 アメリカ国防省と統合参謀本部は、渋る大統領とホワイトハウスを説得、エリート部隊ティターンズの全力投入が決まった。

 

 アメリカ軍大西洋総軍は出撃させたティターンズ隊を二手に分ける。反応炉制圧を目的とした1個連隊、BETAの掃討を目的とした1個連隊、G元素を集積所通称アトリエの制圧の目的とした1個連隊と部隊を分派させる。

 

 だが進めど進めど生きたBETAに遭遇しない、見渡す限り破壊された戦術機と、ミンチにされたBETAだけしか見当たらない。

 

「これがG弾の破壊力かよ・・・・」

 

 ジェリド・メサ少尉も息を呑む。敵も味方?も全て死んだ死の世界の静粛に、ティターンズ隊の誰もが黙る。

 

 地上で発生した高重力の衝撃波と重力異状の渦は、地下の一定の深さにも及んだ。

 

『連隊長より第3連隊各位に告げる。反応炉の制圧は第1連隊に任せ、我々はハイヴ内の残的掃討に当たる。以上だ』

 

「了解・・・・」

 

 友軍多数を巻き込んだ事に釈然としない心理的しこりを残しつつも、ティターンズ隊第3連隊は中隊事に散開し、ハイヴ内のBETA残的掃討の任に付く。

 

「やれやれ、世界初の反応炉制圧の栄光はカクリコンの奴に持っていかれたか・・・・」

 

 ジェリド・メサ少尉が呟いた時同じくして、第1連隊所属のカクリコン・カラーナ少尉はと言うと、

 

「どうやら運は俺の味方らしいな」

 

 と不敵に呟く。

 

 程なくしてティターンズ隊所属第1機甲戦術機連隊120機は全くと言っていい程に、BETAの妨害に遭わずにH8ロヴァニエミ・ハイヴの主縦杭に辿り着く。

 

『連隊長、レーダー、センサー共に異常無し。生命反応もありません』

 

『良し、予定通りだな。周囲への警戒を怠らずに、反応炉に真っすぐ向かうぞ』

 

 第1連隊長の命令で部隊は主縦杭へと降下を始める。

 

 その先に罠があるとも知らずに。

 

 BETAのハイヴには二つの特徴が有り、フェイズ5以上のハイヴには【門級】が存在し、容易に反応炉が存在する最深部の区画に入り込めない場所となっている。

 

 ティターンズ隊第1連隊は【門級】の存在を知らずに死の静寂が支配する主縦杭を降下するが、目敏い何人かがある事に気がつく。

 

「連隊長、何か様子が変です」

 

『様子が変だとは』

 

「G弾が使われたにも関わらず、主縦杭の内壁に何の異常も見当たりません・・・・」

 

 連隊長は急いでセンサーでチェックを仕出す。

 

『・・・確かにな、ここに来るまで崩壊した横杭で何度も足留めされたのとは違うな・・・』

 

 ここに来るまでティターンズ隊はG弾の影響で崩落した横穴が原因で、幾度とルート変更を余儀なくされた。

 

 主縦杭だけが無傷なのは納得出来なかった。

 

 だが中腹からはBETAと西ユーラシア大陸連合軍の死闘の後が内壁にまざまざと残っていた。

 

 無数の偽装横穴と、【母艦級】の残骸らしき物の後も。

 

「どうやら【母艦級】は一つではなかった様ですね・・・」

 

『ああ・・・』

 

 どうやらロヴァニエミ・ハイヴには複数の【母艦級」が潜んでいたのか、全高全幅200m前後の巨大なトンネルが複数確認された。

 

(やはり上の判断は正しかったのか・・・)

 

 自分達アメリカ軍も西ユーラシア大陸連合軍と一緒にハイヴ内に突入をしていたら、複数の【母艦級】の攻撃とBETA雪崩に遭い、BETAの数に呑み込まれてしまったのは確実だから。

 

 西ユーラシア大陸連合軍は【母艦級】を全て爆砕には成功はしたが、次々と押し寄せるBETA雪崩に力尽きて呑み込まれてしまう。

 

 味方共々BETAをG弾で吹き飛ばす倫理的是非は兎も角としても、G弾の運用試験は期待通りに終わった。 

 

『連隊長、センサーに感あり。どうやら主縦杭の底に到着した様です』

 

「底だと・・・・・」

 

 数機が下に向けてサーチライトを照らす。

 

 下は明らかに底になっており、奇妙な門らしき物が存在していた。

 

「なんだこれは・・・」

 

「こんなもん、過去のデータには無かったぞ」

 

 これは【門級】と呼ばれる新種のBETAで、フェイズ5以上のハイヴのみに存在するので、フェイズ5以上のハイヴ攻略経験が無い人類側が知らなかったのも無理はない。

 

「これを直ちに司令部に伝達しろ。各種センサーでこの下のチェックを急げ」

 

『了解』

 

 この時アメリカ軍ティターンズ隊の指揮官は判断を誤ったと言えるだろう。本来なら即座に撤退すべきだった。

 

 ロヴァニエミ・ハイヴの残存BETAは【門級】の向こう側に再集結し、最後の軍団と合流している。

 

 即座に撤退すべき数分のタイムロスが原因で、ティターンズ隊はBETAの総反撃を受ける事に。

 

『連隊長、この門の向こう側にBETA反応多数。その反応数は4万以上!?』

 

「如何、連隊全機この場から緊急脱出だ!」

 

 言うなや否や、ティターンズ隊第1機甲戦術機連隊全機が脱出を計る。

 

 だがその判断は遅すぎた。

 

 『門級』の扉を開く。開いた先にはBETAの光線級属種が集結し、レーザーの束が集束しつつ合った。

 

「全機散開して、横穴に飛び込めー!」

 

 連隊長は咄嗟に叫んで手短な横穴に飛び込み、何機かが目に付いた横穴に飛び込むが、大多数は飛び込めなかった。

 

 集束されたレーザーの束が解き放たれた。

 

「ヒィィィ、た、助けてくれー!」

 

「ヒデブー!」

 

「ぎゃあああ!熱いー!」

 

「だ、誰かぁー!」

 

「アメリアー!」

 

 集束されたレーザーの束はG弾の影響で脆くなっていた地表部分を突き抜け、地表を明るく照らし出し、軌道衛星へと辿り着き、アメリカ軍の偵察衛星さえも撃破した。 

 

 

◇

◇◇

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◇◇◇◇◇◇

 

「コニリー閣下、ホワイトハウスから、全作戦中止命令が出ました」

 

 アメリア大西洋総軍司令官ジャミトフ・ハイマン中将は司令部の戦況マップを身動ぎせずに睨むジーン・コニリー大将に呟く。

 

「・・・既に撤退命令を出した・・・。最も何機生きて帰還を果たすのか不明だがな・・・」

 

 ジーン・コニリー大将は自嘲気味に呟く。

 

 この敗北は余りにも大きかった。投入された人類軍の総戦力は160万強。死者行方不明者の総数は40万超え。これだけの大兵力と損失を出しながらも、ハイヴ一つすら落とせなかった事実は余りにも大きく、死者行方不明者の大半はG弾投下による事実上の同士討ちにも関わらずにだ。

 

 ハイヴ内に戦術核を雨霰と撃ち込む作戦案もあったが、BETAの光線級が多数健在と判明した今、果たして何発の戦術核がハイヴ内、しかも反応炉まで届くのか分からない以上は戦術核の飽和攻撃は出来なかったし、結果としてハイヴを落としたとしても、重度の放射線汚染で自分達が使えなかったら本末転倒でしかない。

 

 ティターンズ隊はもう既に第1連隊は全滅、第2、第3連隊も衝撃の余波から来る崩落に巻き込まれ、全ての部隊との通信が途絶してもいる。

 

「駄目だ、これでは奴らに勝てない。奴らに勝つには新しい戦術が必要だ・・・・」

 

 そうコニリー大将は痛感した。今のBETA掃討を前提にした戦術では、BETAに悪戯に時間を稼がせ幾重もの防御陣を作らせるだけではなく、他のハイヴからの援軍を到着させるだけでしかない。

 

「閣下・・・・」

 

 ジーン・コニリー大将は自分達が余りにもBETAを知らなさ過ぎたのを思い知らされた。

 

 今新たに判った事は、G弾ではBETAに致命傷を与えられない。ただそれだけ・・・・。

 

 そもそもG元素はBETA由来の物質だ。G元素の取り扱いや長所短所を知り尽くしている。

 

 主縦杭から下は一種の核シェルターの役割を果たし、G弾でもそう簡単に貫通しない仕組みだ。

 

「閣下、G弾は未だ開発途上の兵器です。更に開発を進めて破壊力を増せば、ハイヴの反応炉を破壊する事がかないましょう」

 

「そうだったな、結論を出すのは早急だったな」

 

「はい、必ずやG弾なら、反応炉を含めたハイヴの破壊も何時かは可能になります。今はその時を待つべきかと」

 

「司令官、ハイヴ内から幾つかの部隊が脱出しました」

 

「何だと確認を急げ!確認と同時に残存部隊に撤退命令を出すんだ」

 

「はい」

 

「駄目だわ。この機体では奴らには勝てない」

 

 何とか崩落から免れて地上に脱出したティターンズ隊第2連隊所属エマ・シーン少尉は、撤退命令信号を受信し、一緒に脱出した僚機と共に撤退する最中にそう呟いた。

 

 幸いな事にBETAは反応炉の防衛を優先し、追撃をして来なかった。何とか地上に脱出した機体はBETAの追撃を受けずに済んでもいる。

 

 ティターンズ隊が採用している【F-15Eストライクイーグル】は第2世代機最強の触れ込みで、エマ・シーン少尉もそう信じて疑っていなかった。

 

 だがその自信がグラつき始めている。

 

(ストライクイーグルは確かに優秀な機体。だけどハイヴ攻略機としての何かが欠けている・・・・)

 

(生きて帰れたら、上層部に意見書を提出するしかない。ストライクイーグルの第3世代機化か、日本帝国の新型戦術機【Type93・Shiranui】の採用を)

 

 だがこの【Type93・Shiranui】の採用を求める意見書が上層部の逆鱗に触れ、ティターンズから追放される要因になろうとは、本人も解っていなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

《1993年9月下旬》

 

 日本帝国にH8ロヴァニエミ・ハイヴ攻略失敗の方は伝わるなや否や、H16重慶・ハイヴ攻略への疑問符を持たれると同時に帝国陸軍参謀本部大伴少佐を中心とした、国粋派が台頭し武や巌谷中佐を中心とした国際協調派の頭痛の種に也始めている。

 

「国粋派ですか?」

 

「ああ帝国陸軍参謀本部のエリートさん達でな、帝国陸軍士官学校を首席組の連中だ。警察省や公安に外事警察にも国粋派に参加している者が少なくないそうだ」

 

「・・・・その人達がいったい何を言い出したんです?」

 

 自分が開発した技術や装備を世界中に広めたい武からしたら嫌な予感しかしなかった。

 

「帝国が全面協力した【YF-23BlackWidowⅡ】が、不採用になった事で『それ見たことか』と言い出してな。他国間の技術交流や開発を全面的に禁止しようと動き出している・・・」

 

 巌谷中佐は肩を竦める。

 

「技術は使われてこそ意味があるんですよ・・・」

 

 H16重慶・ハイヴ攻略が最終準備に入りそうな段階での余計な横槍は願い下げの2人だった。

 

「俺の口からもそう言ったんだがな、『帝国の(戦術機を含む)技術や装備を国家機密を理由に、外国に何一つとして使わせるな。高価なアメリカ製兵器(戦術機)だけを使わせればいい』と言って憚らないと来ている」

 

「その人達、頭の中正気ですか?」

 

 武は冷ややかな目で巌谷中佐を見る。

 

「まあそう言ってやるな。連中はアメリカに何度も煮え湯を飲ませれて来たからな。【YF-23BlackWidowⅡ】が正式採用されていれば、今度こそアメリカに煮え湯を飲ませられたと溜飲を下げた事だろうな」

 

 武にしても理想的な第3.5世代機に仕上がった【YF-23BlackWidowⅡ】が不採用になるとは思ってはいなかった。

 

 もし採用されていれば莫大なライセンスやパテント料が苦しい帝国の財政を潤した事であろう。

 

「アメリカは自国の国家安全保障を守り抜く為に、ビスやナットの1本とも他国に依存はしないですか?」

 

 【YF-23 BlackWidowⅡ】が不採用にした理由についてのアメリカ政府と国防省の統一見解は、終始徹底して自国の国家安全保障の論理だった。

 

 流石にこれはアメリカ国内でも賛否両論を招き、フランク・ハイネマン教授も失意のどん底に落ちたのか、引退を周囲の仄めかしていると言う。

 

 アメリカ国内でもフランク・ハイネマンの時代は終わりフランクリン・ビダン(YF-22Aラプターの開発者)の時代の始まりとも言われている。

 

 フランクリン・ビダン氏は伝統的な保守層の出身で、アメリカ大統領とは懇意の関係だ。

 

 フランク・ハイネマン教授が『第2.5世代機ではBETAに勝つ事は出来ない』と考え、第3世代機の開発にシフトチェンジしたのに対し、フランクリン・ビダンはアメリカの軍事ドクトリンに忠実で第2.5世代機の開発に力を入れていた。

 

 また、フランク・ハイネマン教授は戦術機開発の国際的ネットワーク構築に力を入れていたのに対し、伝統的保守層出身のフランクリン・ビダン氏は国際的ネットワークには『アメリカの国益に反する』として徹底して反対の立場。

 

 この政治的姿勢の違いがアメリカ政府とペンタゴンの【YF-23BlackWidowⅡ】不採用に繋がったが、ワシントンDC外交筋の一致した見解。

 

 日本帝国の最新軍事技術を大量に取り入れた【YF-23BlackWidowⅡ】不採用が日本帝国政府、帝国国防軍参謀本部、警察省の中堅、若手を強く刺激した。

 

『そら見た事かと、帝国の軍事技術流失させた国際協調路線は事実上失敗に終わった』

 

 これにH8ロヴァニエミ・ハイヴ攻略失敗と、アメリカ軍の無差別攻撃で国粋派勢力拡大へと繋がる。

 

「まあここで大伴達とアメリカの利害関係が一致すんだがな。これがまた・・・・」

 

「何故利害関係が一致するんです?」

 

「大伴達はお前さんが開発した新技術や新装備の数々を帝国の独占物にして、アメリカや他国に触れさせたくない。その中には帝国の戦術機も入る」

 

「はい(聞きたくない聞きたくない)・・・・」

 

 と心の中の声が囁く。

 

「アメリカは大金を投じて開発した第2.5世代機をアメリカの良い値で売ろうとしている。ここで大伴達とアメリカの利害関係が一致する訳だ」

 

 武は胃の中がムカムカ仕出す。朝食が食道を逆流しそうになり出す。

 

「大伴達は純正アメリカ製戦術機が、帝国の戦術機よりも劣るのを証明したがっているし、アメリカはアメリカで自国製の最新型戦術機を自国の都合の良い高値で売りたい」

 

 榮二は肩を竦める。

 

「そんな事をして何になるのです巌谷中佐?」

 

 武の全身から脂汗が流れ出す。

 

「な・ん・に・も・な・ら・ん・だ・ろ・う・な」

 

 巌谷中佐は他人事の様にバッサリと切り捨てる。

 

 武は身を乗り出す。

 

「自分が聞きたいのはそんな事ではありません!!」

 

「まあ落ち着け。当面はこちらも動き辛いし、改修された【撃震・改】【陽炎・改】に【不知火シリーズ】は運用と整備は全て日本人限定となった。つまり他国への輸出も提供も許さんが国防省と参謀本部からお達しだ。今後は政府と国防省に厳正され許可された人物以外の接触は禁止だそうだ」

 

 巌谷中佐は今は静観していろの顔で武を見る。

 

「・・・それで良いのですか?」

 

「良い訳ではないが、重慶市が陥落しハイヴを造られた原因は、国連軍の作戦行動に一々干渉するアメリカ政府にあるんだしな。今度の作戦でも国連軍は作戦の主軸から排除されているし、アメリカ政府もロヴァニエミ・ハイヴ攻略の失敗でこちらに一々干渉する元気もない。おかげで国粋派の連中は元気一杯だよ。『これで公然とアメリカと国連の影響と内政干渉を排除出来る』とな」

 

 地上での作戦では国連軍は排除されてはいるが、低軌道からの軌道爆撃は国連宇宙軍が主力だ。

 

 ロヴァニエミ・ハイヴ攻略の失敗で、国連軍内部は四分五裂で、北米東岸を拠点とする国連軍第1軍、第2軍はイギリスとアイルランドに留まり、国連軍総司令部の北米への帰還命令を拒否している。

 

 アメリカの暴虐に激怒したイギリスとフランスは、自国の原子力潜水艦を所在不明にした。

 

 国連としては自分達の信用回復の為に、H16重慶・ハイヴ攻略は成功させねばならなかったし、戦術機を含む新装備と新兵装を国連軍の標準装備として、正式に採用したい旨を非公式ルートで打診をしているが、帝国政府と軍部は冷ややかに見ているだけでしかない。

 

 帝国政府にしても国内の反対を押し切って技術協力をしたはずの【YF-23BlackWidowⅡ】不採用で、アメリカへの態度を硬化するしかなくなっている。

 

 アメリカはアメリカで同じ保守派同士のワイアット大将派とコニリー大将派の対立は深まり、大統領は大統領で益々態度を硬化している始末・・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「所で話しが変わるが、お前はそんなに重慶・ハイヴ攻略戦に参加をしたいか?」

 

「はい、参加したいです」

 

 重慶・ハイヴは今現在フェイズ2未満とされているが、ロヴァニエミ・ハイヴがフェイズ3ではなくフェイズ5だったのが判明した今、重慶・ハイヴがもう既にフェイズ2だったとしても不思議ではない。

 

 何よりもロヴァニエミ・ハイヴ攻略が無惨な失敗に終わってしまった以上、重慶・ハイヴ攻略は何が何でも成功させなくてはならなかった。

 

「斑鳩崇継少佐からも、作戦に万全を期す為にも、お前さんの参加は必要不可欠と再三再四そう言って来ている」

 

「斑鳩少佐がですか?」

 

「ああ・・・・・・」

 

 帝国政府も軍部も武に何があっては一大事扱いで、『頼むから発明や開発に専念してくれ』が本心だ。

 

 戦術機乗りとしての技量も極めて高い水準なのは誰もが知る所。

 

 適性試験では過去の記録を全て塗り替え、4度目に至っては退屈なあまり居眠りまで、富士教導団の精鋭がシュミレーター限定とは、一対一では誰も勝てない。

 

『この子は戦術機乗りになる為に生まれて来た子だ』

 

 戦術機黎明期から戦術機を乗って来たベテラン衛士が震え声で言ったとか。

 

『しかしまあ天は残酷な事をするさね、この坊やに巨大な二物を与えたんだから・・・・』

 

『何故だ?』

 

『そりゃーこの国取ってこの子の巨大な二物は嬉しい限りなんだろうけどさ』

 

『・・・・・・・・』

 

『でもこの子の生きる道は地獄さねえ。この齢の子に修羅として生きる決意させ、しかもこの子が生きる地獄道で戦いのはBETAだけではなく、人の姿をした魑魅魍魎、悪鬼悪霊共がこの子を殺そうとして立ち塞がる未来しか見えないさね』

 

 白銀武に関して言えば、【武御雷】開発計画が中止になった事で、武家保守派が武を逆恨みをして、武を謀殺しようとした記憶が真新しい。

 

 しかも今度の作戦では懲罰部隊送りになった武家保守派が数十名も参加する。何も起きないとは楽観視出来ない。

 

 武を亡き者にしたいと考えているのは武家保守派だけではなく、アメリカの産軍複合体も同様らしく、ヒットマンをもう既に在日米軍基地横田基地に送り込んでいる。

 

 ただ日本帝国側の監視と警戒が高過ぎるので、中々暗殺に踏み切れる事が出来ないだけだ。

 

 だが凄い話しである。自国の最重要人物を殺す気満々の他国の軍事基地が、直線距離にして35kmから40kmの至近距離に存在しているのだから。 

 

 大伴少佐を始めとする国粋派が、公然と国連とアメリカの干渉と影響力排除へと動くのは当然の事かも知れない。

 

 国粋派はアメリカがいずれ何らかの形で、武の暗殺に動くのは時間の問題と見て、在日米軍基地横田基地とアメリカ大使館や在日公館への監視を強化し、24時間体制で監視所を複数設けて張り込みを露骨に行っている。

 

 在日米軍基地とアメリカ在日公館施設に出入りをする全てをチェックし、基地や在外公館から出て来た者が出て来たら尾行しては日本人なら、職質は勿論の事、家や家族構成まで調べ上げては圧力を加えて行く。

 

 個人事業者や零細会社なら、汎ゆる公共事業から排除に実行に移し、取引先会社にも取引中止の圧力を加える。

 

 でないと次に公共事業から排除されるのはお前達だと。

 

 無論各所から抗議の声は出るのだが、国粋派は冷笑するだけで、監視と圧力を止める気配は全く無い。

 

 アメリカ大使館と在日米軍にしても本国から送り込まれて来たヒットマンの扱いには苦慮していた。

 

 内心の本音は兎も角としても、日本帝国は東アジアでのアメリカ合衆国の数少ない軍事同盟国だ。本国の産軍複合体の一方的な都合で、同盟国の最重要人物を暗殺する政治的、軍事的リスクは当然の事乍避けなくては為らない。

 

 日本帝国内の知米派や親米派からも、『まさか本当に白銀武君の暗殺を考え、実行しようとしているんじゃないだろうな?』の問い合わせが殺到していた。

 

『そんな事は考えてもいないし、暗殺を実行する気なんて更々ない』

 

 アメリカ在日外交筋はそう問い合わせにはそう返答はしているが、本国のワシントン政府とニューヨークの産軍複合体の本音は全く異なるのを知っている。

 

 もし失敗し尻尾も証拠も掴まれでもしたら、日本帝国及び東アジアでのアメリカの影響力は間違いなく失墜する。

 

 ヒットマンを持て余している彼らは肩を寄せ合ってヒソヒソ話しをする。

 

『どうだ、一掃のこと、ヒットマンの存在そのものを無かった事にしないか?週間文春砲に気付かれたら全て終わりだ』

 

 この一言に反対する者はいなかった。

 

 だが遅かった。

 

 週間文春砲がアメリカ政府と産軍複合体の『白銀武暗殺計画』を郊外として炸裂したからだ。

 

『口外、口外だよ!今度はアメリカが白銀武君を暗殺しようとしているよー!』

 

 東京23区、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、福岡市で週間文春砲の数百万枚のビラが大量にばら撒かれたのだ。

 

 在日アメリカ大使館前で大量にばら撒かれたビラを震える手で拾ったアメリカ大使館員が呟く。

 

『全ては遅かった。これで両国間は最悪な局面に入る事になるぞ・・・』

 

 ビラを拾った斑鳩崇継は呟く。

 

『下に恐ろしきは文春砲よ。あ奴らに掛かれば、我ら五摂家も形無しよ・・・』

 

 文春砲のビラにはアメリカ政府と産軍複合体の白銀家暗殺計画の全貌が書かれており、暗殺者の顔写真と素性と経歴と家族構成さえも掲載されていた。

 

『素性バレした暗殺者なぞ怖くもない。暗殺者やテロリストは無名の方が恐ろしいのだからな』

 

 斑鳩崇継は拾ったビラを見て呟く。

 

 その日の内に在日アメリカ大使館及び在日在外公館及び在日横田アメリカ軍基地は、あっという間に国内外のマスメディアに包囲されてしまった。

 

 日本帝国政府の外交筋と、親米派、絶対民主主義派も文春砲の号砲に頭を抱える事になる。日本国民の存在的反米ナショナリズムを煽るのだけは止めて欲しかったから。

 

 だが文春砲にして見ればそんなの知った事ではない。文春砲はひたすら国民の知る権利のみだけを追求するだけだ。

 

 

 

 

ーーーーーー《閑話休題》ーーーーーー

 

 

 

「・・・分かった・・・だが条件がある・・・」

 

「巌谷中佐、条件とは?」

 

「両親の承諾だ。その承諾が無ければ、絶対に認めん」

 

「分かりました巌谷中佐、両親の承諾を必ず得ます」

 

 この後巌谷中佐は白銀影行と連絡を取り、武の出征に反対する様伝えたが、斑鳩崇継が先回りし、武の両親の説得に当たっていた。

 

『自分が責任を持って横浜の家に帰還させるので、白銀武君の出征を認めて欲しい』

 

 横浜の白銀家に訪れた頭を下げた。

 

 武の両親からすれば、来るべきモノが来た思いだ。

 

 何時かはの思いは逢ったが、武の年齢を考えたら未だ後5年早いとも考える。

 

『武は未だ9歳の子供ですが・・・』

 

『重々承知している。ですがこの度の作戦を成功させるには御子息の参加は必要不可欠なのです・・・・』

 

 ロヴァニエミ・ハイヴ攻略が失敗した以上、重慶・ハイヴ攻略の失敗は許されなかった。

 

 この作戦には崇宰恭子政威大将軍の号令のもと、斯衛軍と帝国陸軍の総戦力の半数が投入する事が決まっている。

 

 日本帝国に取って乾坤一擲の大作戦だ。

 

 作戦名は『星1号作戦』

 

 重慶・ハイヴを抜け、一気にオリジナル・ハイヴ、喀什に迫ろうと言うもの。

 

 既に統一中華戦線、統一韓国軍、帝国陸軍中国派遣軍は3方向から重慶・ハイヴに迫りつつ合った。

 

 統一中華戦線は台湾派が主導権を握っているので、前回の様なサボタージュの心配はなかった。

 

 ただ不安材料が有るとすれば統一韓国軍の戦術機だ。

 

 戦車やロケット砲の質量は優れていたが、統一韓国軍主力戦術機はF-4とMIG-21の第一世代機で使用しているOSとCPUは依然として旧型のまま。

 

 第二世代機はあるにはあるが、国内温存で重慶・ハイヴ攻略戦には参加していない。

 

 統一韓国軍はハイはMIG-21に担当させ、ローはF-4に担当させる形を取る。

 

 帝国陸軍中国派遣軍は重慶防衛戦の失敗の雪辱を晴らさんと、愛知第10団、群馬第12師団を先陣にして、BETAを蹴散らしながら重慶・ハイヴに圧力を強めている。

 

 帝国陸軍栃木第一、茨城第二工兵師団は、愛知第10師団、群馬第12師団が切り開いた血路を、再編されたばかりの熊本第6師団の援護の元片道三車線の道路整備を急ぐ。

 

 大陸特有の炎天下に曝されながらも、三交代の24時間体制で道路整備を急ぐ。道路整備が1日でもずれれば、重慶・ハイヴ攻略が遅れてしまい、重慶・ハイヴの大深度地下にBETAが集結してしまうからだ。

 

 G弾も大深度地下に潜ってしまうBETAには、殆ど効果が無いのがロヴァニエミ・ハイヴ攻略戦の失敗で明らかになっている。

 

 それ故に武のハイヴ攻略案を帝国陸軍参謀本部内でも疑問視する声が出始めるが、当の武はこう説明をする。

 

「自分の作戦案はEMP兵器で、地上と一定震度のBETAを無力化し、後は脇目を振らずに反応炉に一直線に向かい反応炉を見付け次第、即座に破壊するのが目的です。ロヴァニエミ・ハイヴ攻略戦では、従来のBETA殲滅戦術を用いたばかりにBETAに地下大深度での迎撃体制を整えさせる時間的余裕を与えてしまいました。なら、その反省点に立ちハイヴ内ではBETAとの戦闘を必要最低限として、脇目も振らずに反応炉へと高速で向かいます。補給無しで」

 

 帝国陸軍参謀本部は武が戦術機開発でやって来た事は、全てハイヴの反応炉破壊を主目的なのを初めて理解した。

 

 EMP兵器の核弾頭はソ連が提供した。武のハイヴ攻略案に興味を持ったのも大きいが、裏取引でソ連の第三世代戦術機の開発技術協力を得られたのも大きかった。

 

 この事が後に、武と天才プログラマー不思議兎耳少女との出会いを促す事に。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

《1993年10月3日先勝》

 

 日本帝国政府は崇宰恭子政威大将軍の号令の基、『星1号作戦』を発動、日本全国の港湾から続々と渡洋能力を持った全ての艦船が集結し、兵員、物資類を続々と積み込む。

 

 出港しようとする部隊の中に重慶・ハイヴ反応炉制圧部隊『A-01部隊』の姿も。

 

 そして『A-01部隊』の中には軍属待遇少尉白銀武の姿も。

 

 武の務めは戦術ナビゲーション。斑鳩崇継の機体の後部座席に騎乗し、3個大隊180機の誘導を行う。

 

 『A-01部隊』の出征式が横浜で行われたのは、未だ9歳の少年白銀武の出征を認めて暮れた武の両親への配慮だ。

 

 国防軍と斯衛軍上層部の訓示が終わった後、出征する者達は思い思いに家族や関係者との別れを惜しんでいた。

 

 当の武はと言うと、数百人の女の子に囲まれていた。

 

 煌武院悠陽を始めとする百のお見合い相手と、地元の数百人の女の子達に・・・・・

 

「武ちゃん、これってどういう事なの!?」

 

 この状況に我慢出来ずに純夏が癇癪を起こす。純夏からしたら武の両親の公認の元で、公認の恋人宣言を出すつもりだったのだが、煌武院悠陽を始めとするお見合い相手に、地元横浜市の同年代の女の子達が、武目当てに殺到してそれどころではなくなる。

 

「俺に聞くなぁー!文句は巌谷中佐に言えー!」

 

 女の子絡みで何か理不尽な事が起きれば、巌谷中佐に責任転換すればいいと考える武。

 

「武ちゃんのすけべー」

 

「なにおー!」

 

 ぎゃあぎゃあと喧嘩を始める2人。

 

 そこに割って入る煌武院悠陽・・・・。

 

「鑑純夏さん、白銀武様の独占と独り占めはいけませんですわ」

 

「あなた誰よ?」

 

「白銀武様の伴侶となる煌武院悠陽と言います」

 

 側役として控える月詠真那は頭を抱える。武家は新体制への以降移行、これ以上の血族婚による弊害を無くす為に、向こう3代に渡っての武家間の婚姻を禁じた。その結果様々な悲喜劇が起こっており、結果として元譜代武家にして、煌武院家の流れを組む武への婚姻が集中した。どの家も目の色を変えて巌谷中佐経由で白銀家に婚姻の申し入れが殺到した。

 

 当の武本人は全く乗り気ではないのだが、武家間での武争奪戦は激しく苛烈の傾向が強くなり、お色気むんむんのお見合い写真が巌谷中佐の元に届く様になる。窓口たる巌谷中佐は『少し過激になっているのではないか?』と溢す。

 

 何しろ晴れ着や斯衛軍初等部制服姿だけではなく、水着姿の写真が使われてる見合い写真が大量に舞い込む。

 

 まあ最初に過激路線に走ったのが、白銀家と懇意の関係にあった篁家なのだが…しかもそう助言したのは巌谷中佐だ。

 

『裕唯、皇族と言う強敵がいる以上は、普通の見合い写真では武君の気は引けないぞ』

 

『榮二、そうは言うが。うーむ、唯依の水着写真をお見合いにか・・・』

 

『京都と横浜の距離感を考えろ。常に攻めの姿勢でなければ鑑純夏には勝てないぞ』

 

 愛人と隠し子発覚後、唯依の中で父・祐唯の扱いは最底辺だ。

 

 何しろ出張仕事とは言え、愛人・ミラと一緒に居る時間が長く時にはお泊りで帰って来ない日も。

 

 唯依としてはあまり面白くはなく、最底辺扱いにはなるのは当然だった。

 

 ミラ母子は離部屋住まいだ。

 

 母・栴納が何度か嗜めても中々改まる事はない。

 

 正直唯依の立場も微妙で、篁祐也(旧姓・ユウヤ・ブリジッス)が篁裕唯の実子と認められた事で、男子長兄家督相続の傾向が強い武家村では、『篁祐也が譜代武家篁家を相続すべし』の声が日に日に強くなっており、篁祐也が斯衛軍中等部の途中編入入試試験の際に、衛士適性検査で斑鳩崇継を凌ぐ適性数値を出した事で、城内省と近衛軍と武家村では『篁祐也が篁家を相続すべし』の声が大勢を占める。

 

 何しろ武家村では祐也を『白銀武の対抗馬に育てる』のが目的である以上は、必然と優遇されがちで五摂家の次期当主組と同じ英才教育を受ける。

 

 祐也自身も腹を括ったのか、譜代武家篁家次期当主の座を意識し始める。

 

 祐也の人気も上々で、生まれながらの2枚目にして、学業と運動神経抜群なのも合って同年代女子の人気は高い。

 

 さてこうなって来ると、唯依の処遇をどうするかで揉め始める。

 

 政威大将軍崇宰恭子がこれ以上の血族婚から来る弊害対策として、向こう3代の武家間の婚姻を禁じたのも合わさって、『元譜代武家白銀家に嫁がせるべきだ』との声が親類縁者一同から出る。

 

 祐唯本人にしても全く知らない家に嫁がせないで、良く知り懇意の関係である白銀家に嫁がせた方が安心感はある。

 

 画して唯依の花嫁修業が始まる事に。 

 

 

 

 

「たけるちゃんは私のだよ!途中から割って入らないで」

 

「まぁ、皇族たる御方がなんて器量が狭い事を仰るのですか?」

 

 そう言うと武の腕を取って武にしなだれる悠陽。

 

「ちょ、ちょっと、態と演っていますよね?」

 

「胸は小さいですが、何時かは武様が気に入られる胸に成長して見せますわ」

 

「いや、ですから」

 

「たけるちゃんから離れてよー!」

 

 純夏は武の右腕を掴むと、武を自分の方に引っ張り出す。

 

「いいえ離しません」

 

 悠陽も負けじと武の左腕を引っ張っる。

 

「痛い痛いって、2人とも」

 

 2人を強引に引き離す事は可能だが、それだと2人を怪我させてしまうから、強引に引き離す事が出来ない。

 

 そこに更に女の子1人が割って入る。

 

「姉上、端ない真似はお止め下さい」

 

 武を唐突に胸に抱きしめては、

 

「白銀武殿は稀代の英雄に成らねばならぬ身、もう少し労らなくてはなりません」

 

 武はもう1人の女の子の胸の中でジタバタと藻掻く。

 

 取り巻く女の子達から黄色い声が巻き起こる。

 

 ぎゅうー、ぎゅうー、ぎゅうー、ぎゅううううう

 

「・・・・冥夜、武殿を労らなければならないのは同意をしますが、それだと武殿が窒息死してしまいますが・・・」

 

「えっ・・・?」

 

 御剣冥夜は自分の胸元を良く見ると、藻掻いている武を発見する。

 

 ヘナ・・・・

 

 半分窒息仕掛けている武を見て血の気が引く冥夜。

 

「たける殿、たける殿、どうかしっかり!」

 

「たけるちゃん、しっかりして!」

 

 純夏と冥夜が武の身体をガクンガクンと揺らす。

 

「まあ冥夜、貴女も大胆だったのですね・・・」

 

「姉上、これはその・・・・」

 

「あの〜、し、白銀武さんでしょうか?」

 

 大きな手提げ袋を持った女の子と、重箱数弾重ねを風呂敷に包んだ熟女が姿を見せる。

 

「あ、篁唯依さん、どうしてここに?」

 

「武様の出征祝いに肉じゃがと重箱をお持ちしました。余り日持ちがしませんので、早めに食するのをお勧めします」

 

 顔を真っ赤にして俯き加減にして応える唯依。

 

 純夏、冥夜、悠陽の3人と、周囲の女の子達はしてヤラれたと思った。

 

 大抵の女の子達は花束と恋文だった。

 

「さあ唯依、自分の手で渡しなさい」

 

「はい」

 

 唯依は母親から言われて、静々と武の前に出て、肉じゃがが入ったランチボックスが数箱入った手提げ袋を差し出す。

 

「どうぞ受け取って下さい」

 

「あ、ありがとう篁唯依さん(・・・味の方は大丈夫なんだろうか)」

 

「あ、味の方は大丈夫です、父様のお墨付きです」

 

 両拳を握り締めてそう語る唯依であった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その頃ニューヨークのオフィス街の一室で、一人の男フランクリン・ビタンが失望を隠せないでいた。

 

「タケル・シロガネの暗殺計画を中止するのですか・・・」

 

「・・・フランクリン。今は出来ないだけで、完全に諦めた訳ではないよ」

 

 産軍複合体理事長リー・ゴールドウェル氏は諭す。

 

「状況は余りにも悪過ぎる。日本の写真週刊誌文春砲に寄って我々の計画は公になってしまった。その為に日本に送り込んだヒットマンに引き上げ命令を出すしかなくなった。素性顔がバレた暗殺者等怖くはないよ・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「ヨコタべースは日本警察とマスコミに取り囲まれ、基地の周囲は検問所だらけになり、ヨコタべースに出入りする全ての車輌や人も徹底的に検査を受け、少しでも怪しいと見れば即座に逮捕拘束され徹底的な取調べを受けている。そんな状況では暗殺等実行出来る筈がない。不可能だ」

 

「アメリカ国務省は協力してくれないのですか?」

 

「アメリカ国務省はこの件から完全に手を引くと言っているよフランクリン・・・」

 

「理由は何です?」

 

「ふぅ・・・」

 

 リー・ゴールドウェルはため息を吐くしかない。

 

 目の前の男は戦術機開発では有能だが、国際的政治的センスは著しく欠くだからだ。

 

「アメリカに協力関係にある親米派や完全民主主義派がタケル・シロガネ暗殺計画関与しているとし、次々と逮捕拘束や自宅軟禁状態に置かれている。大使館や領事館に出入りしている無関係な一般人も同様だそうだ」

 

 今や在日アメリカ在外公館は通常業務処の話しでは無くなってしまい、日本警察に逮捕拘束された無関係な一般人の釈放を求めて伴走を余儀なくされている。

 

「見捨てれば良いのではありませんか?」

 

「そうはいかんよ。もし見捨てれば、誰がアメリカに協力すると言うんだね?誰も協力しなくなる。アメリカ国務省にとっても、日本の親米完全民主政権の誕生は長年の悲願だ。ここで挫折する訳にもいかないと国務省は言って来ているよフランクリン・・・」

 

 自己顕示欲が強いフランクリンからすれば、戦術機開発分野で世界一の名声を得たいのだ。その為なら裏で政治家と繋がって権謀作術は平気で熟す。

 

 だからこそ自分の自信作とも言うべき【F-22A・ラプター】が日本帝国で大幅に強化された【YF-23・ブラックウィドⅡ】に完敗した衝撃は強く、試験評価後フランクリンは【YF-23・ブラックウィドウⅡ】の中身を隈無く調査し、更なる衝撃を受け武の暗殺計画を企てた。

 

『フランク・ハイネマンはもう既に死に体だ。放置していても問題は無いが、タケル・シロガネは放置するのは危険だ。私の地位と立場を脅かす者は排除しないと、私の立場と地位は脅かされてしまう。それだけは阻止しなければ・・・』

 

 武の暗殺を決意したフランクリンは即座にニューヨークへと飛び、産軍複合体理事長リー・ゴールドウェルに武の暗殺を提案した。

 

 リー・ゴールドウェルにしても試験評価の結果は衝撃だったらしく、このまま武を放置し続ければ、アメリカ産軍複合体は壊滅的な被害を被るとの危機感持ち始め、フランクリンの提案を受け入れる。

 

 だがヒットマンをアメリカ軍ルートで日本帝国へと送り込んだのは良いのだが、日本帝国側の厳重な警戒の元では暗殺の実行は難易度が高過ぎて二の足を踏んでいた。

 

 そこに文春砲のスッパ抜き口外記事で暴かれ、逆に在日アメリカ在外公館と横田基地が孤立する事態を招く。在日アメリカ人や軍属と関係者が拘束されてはいないが常に日本側に尾行され監視化に置かれていて、自分達が接触した日本人が手当たり次第に目の前で逮捕拘束されているのが実情だ。

 

 在日アメリカ大使館は日本帝国側に逮捕拘束された日本人達の即時釈放を求めてはいるが、日本帝国側に冷笑されるだけに終わっている。対米強硬派の中心人物大伴少佐は強硬姿勢を更に強める悪循環に陥る。

 

「ヨコタ・べースに居るヒットマンは今どうして居るのですかな?」

 

「もう既に軍の輸送定期便に乗せて帰国させている」

 

「軍はどうなんです、軍がもう少し協力的なら・・・」

 

 フランクリンからしたら、ヨコスカベースのアメリカ海軍艦隊が武の家に向かって艦砲射撃なり、対地対艦ミサイルをすれば呆気なく終わる話しでしかない。

 

(アメリカの力を持ってすれば、誤射で片付けられる物を)

 

「軍は協力出来ないと言っている。日本帝国が国家の命運を賭けた重慶・ハイヴ攻略に動いている以上は、軍としては身動きは取れないとな」

 

 ハイヴ攻略は人類の悲願だ。いかに天下のアメリカ軍と言えど人類の悲願たるハイヴ攻略の妨害は出来ない。

 

 唯でさえロヴァニエミ・ハイヴ攻略失敗の件でアメリカ政府と国連本部の信用はドン底まで失墜していた。

 

 主力を担った国連第一軍と第二軍は国連本部とアメリカ政府への不信感から、イギリスとアイルランド防衛強化を名目としてイギリスとアイルランドに留まり、イギリス政府とフランス政府は自国の核兵器搭載原子力潜水艦を、所在不明にしてアメリカ政府と国連本部を牽制中だ。

 

 この様な状況下で表立っての妨害は出来ない。

 

 フランクリンは苛立ちを覚える。彼の栄光を邪魔をする存在が2人いる。フランク・ハイネマンと白銀武の2人だ。2人の頭脳が創り出した傑作機【YF-23ブラックウィドウⅡ】は間違いなく世界一最高の機体だった。最初からフランク・ハイネマンを蹴落とし失脚させる為の政治的出来レースでなければ、満場一致で【F-22Aラプター】ではなく、【YF-23ブラックウィドウⅡ】がアメリカ軍初の第三世代機として採用されていたはずだった。

 

(冗談ではない!)

 

「それにフランクリン心配しなくていい」

 

「と言いますと?」

 

「タケル・シロガネも重慶・ハイヴ攻略戦に【不知火】にパスファインダー(先導機)ナビゲーターとして直接参加するそうだ。だから心配しなくていい。彼の寿命はもう尽きる」

 

「それは本当なのですか理事長?」

 

「事実だ。しかも理由が自分が開発した兵器だからこそ、自分の手で兵器の性能を実証したいそうだ。何とも泣ける話しじゃあないか」

 

 リ・ゴールドウェルは失笑する。

 

「そうですか、それを聞いて安心しました」

 

 フランクリンは胸を安堵させる。G弾2発を使ってもBETAのハイヴは落とせなかった。G弾を持たない日本帝国がハイヴを落とせる筈がなく、無闇に大損害を出して撤退を余儀なくされると。

 

 だが彼等は知らなかった。日本帝国がソ連からEMP兵器用の核弾頭を入手していたのを。

 

 日本帝国はアメリカとの軍事同盟が原因で、核兵器を始めとする大量破壊兵器の開発と保有を禁じていたのだが、実際にEMP兵器のスイッチを押すのはソ連軍だった。

 

 日本帝国陸軍参謀本部と技術廠では未だにEMP兵器が本当に機能し効果があるのか疑問視する声は少なくない。

 

「今さら四の五を言っても仕方がない。コンピューターシュミレーションでは、十分な効果が認められているのだぞ」

 

 幕僚総監部室長彩峰少将は反対意見を封じる。

 

「我々に残された時間は少ないのを理解しろ!」

 

 そうこのままBETAの東進と勢力拡大を許せば、後5年もすれば帝国本土が戦場になるのだ。それを阻止する為の重慶・ハイヴ攻略。母艦級の存在が明らかになった今、重慶・ハイヴ攻略の成否は帝国の命運を決するのだ。

 

 帝国陸軍海軍の主力の出発した数日後、日本帝国政府は重慶・ハイヴ攻略が失敗したら、年明け早々にも西日本に住む5000万人の人々の強制疎開を段階的に開始すると発表した。

 

 そして多くの日本国民は来るべきものが来たと実感した。

 

 

 

次回予告『鉄血回廊』

 

突き進むその道は希望か絶望か、地獄への扉が開く。

 

181名の衛士達が己の誇りと存在意義を賭けてハイヴ内へと突入して行く。そしてまた一人、また一人と脱落を・・・

 

 

だが、ただ脱落する気は誰一人としていなかった。

 

この作戦は目的はただ一つ、そうたった13名の衛士達を無事に反応炉に送り込むのが目的なのだから。

 

ただで死ぬ訳には逝かなかった。

 

「白銀武、目を逸らすな。しっかりと見届けるんだ。それが我等をここまで導いたそなたの責務だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

《追記 アンゴラ国ベンゲル州》

 

 シュタインホフ家の館は海に面した高台に存在している。

 

 現地では一流リゾート地だ。

 

 シュタインホフ家は現地で広大な土地を所有し、ダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、シルバー鉱山を保有し、塩と砂糖を始めとして農業、茶葉、牧畜、養鶏を営んでもいる。

 

 そのシュタインホフ家の館のテラスではいち早く育休に入ったキルケ・シュタインホフの姿が合った。

 

 十月に入り妊娠4ヶ月が過ぎ丸みを帯びて来た腹部を一冊の本を読みながらそっと愛おしく撫でる。

 

 テーブルの上には日本帝国出発前日に、白銀影行本人から手わされた《統計学的品質管理》の英語原本の他、白銀影行が20年以上に渡って蓄積して来た品質管理に関する英語翻訳された資料があった。

 

 キルケはアンゴラ国ベンゲル州に戻った後、その本と資料を全てコピーし、西ドイツ政府と軍、欧州連合に提出した。

 

 西ドイツ政府と欧州連合は、カナダ、メキシコ、南米、アフリカでの工業生産性を上げるべく、《統計学的品質管理》を積極的に採用。《統計学的品質管理》の発案者たるデミング教授を招聘し生産性向上に取り組む。

 

 当初は数年掛かると思われていた《統計学的品質管理》ではあったが、僅か数ヶ月で部品工場で目覚ましい生産性向上の報告が相次いでいた。

 

 これにびっくりしたのが西ドイツ政府と欧州連合だ。

 

 H8ロヴァニエミ・ハイヴ攻略失敗で、意気消沈していた西ドイツ政府と欧州連合だが、生産性向上に伴い、工場から排出される兵器の増大、新型第三世代機の開発が思ってた以上に進み出すのを見た西ドイツ政府と欧州連合は、俄然とやる気を取り戻す。

 

『まだ我々は終わっていない』と。

 

 キルケは日本帝国を出発した後、白銀影行とは一切連絡を取っていない。迷惑を掛けたくなかったからだ。

 

 無論お腹の子供の父親が誰なのかも話していない。

 

 とは言え周囲や関係者は気付いてはいるが。

 

 キルケはお腹をそっと愛おしく撫でながら言う。

 

「私は貴方に会えて幸せです。お腹の子供も私達の愛の子としてきちんと育ててみせます・・・」

 

 海の方では第三世代機に生まれ変わった戦術機【F5-G トネードⅡ】の中隊編隊が、複数飛んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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