マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

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やはり続きを書こう。


武ちゃん3周目、もし1年以上早く来て至ら?②

《2001年6月中旬》

 

「ユウヤ、来たぜ」

 

 日本帝国が表向きは国連日本支部との共同開発とした大型VTOL輸送機【富士】2機と国連軍使用の輸送機厶ーリア2機の姿が見え出した。

 

「ああ散々勿体振りしやがって、日本のやる気の無さが見え見えだぜ」

 

 アメリカ陸軍から国連第3軍に転属をしていたユウヤ・ブリッジス少尉は苛立ちを隠さない。

 

「俺は5月の頭からここに来ていたと言うのによ。おまけに【フリーダム・ガンダム】と専属パイロット・タケル・シロガネも来ないと言うじゃないか」

 

 国連横浜基地破壊と東京湾全域の壊滅的被害を狙った国連本部とアメリカ政府・軍部内の対日強硬派が引き起こした自滅テロ事件で、アメリカ太平洋艦隊の7割と第一海兵軍団全部隊を自滅当然の失敗で喪失した事件。あれ以降、事件の真相が明らかになるにつれ、日本帝国政府と国連本部及びアメリカ合衆国政府との関係は、今や開戦秒読み段階とも言われている程に最悪の状況に陥っている。

 

 それに伴い【XFJ計画】も大幅に遅れてしまい日本側の責任者帝国斯衛軍中尉である篁唯依のアラスカ・ユーコン基地への赴任も大幅に遅れた。

 

 国連本部とアメリカ合衆国政府は一部の過激派分子の仕業であって、国連本部とアメリカ合衆国政府はHSST自爆テロとは無関係と主張してはいるが、信用している者は誰1人としていなかった。

 

 事件の発端となったアメリカ空軍エドワーズ空軍基地は即座に閉鎖され、基地司令官はバスク・オム大佐は辞任、基地副司令官ジャマイカン・ダニンガン中佐は逮捕される前に拳銃自殺を遂げる。バスク・オム大佐は逮捕直前に逃亡に成功し雲隠れ中。DIAとFBIが行方を追ってはいるが、足取りすら掴めていない。  

 

 エドワーズ空軍基地の新司令官には、日系アメリカ人ハヤト・コバヤシ空軍中佐がほぼ内定済み。

 

 HSST2機の積荷をすり替えた整備員十名は、ロザモンドの町郊外で変死体として発見され、捜査に当たるアメリカ連邦警察FBIとアメリカ軍情報局DIAは、記者会見の席で口封じ為に殺されたとの見解を示す。

 

 アメリカ太平洋総軍の艦隊7割と第一海兵軍団の喪失の原因が明らかになるにつれ、日本帝国政府・軍内では反米反国連勢力が勢いを増し【XFJ計画】の中止と、国連横浜基地の強制接収を求める声が日に日に強くなっているのが実情。

 

 その中での【XFJ計画】が中止にならず、殆ど強行に近い形での実行、国連本部とアメリカ政府・軍内の対日穏健派は安堵したのは言うまでもないが・・・。日本帝国内では強行した巌谷中佐の更迭を求める声が溢れ返る。

 

 国連本部とアメリカ政府・軍内部では、対日強硬(オルタナティブ5)派への粛清の嵐が始まっており、北米防空司令官ケン・テイラー大将、大西洋総軍司令官ジーン・コニリー大将、大西洋総軍統合作戦本部室長ジャミトフ・ハイマン中将、太平洋総軍司令官ジーン・カンニガム大将、太平洋総軍参謀長スミス・エルラン中将、アメリカ宇宙軍参謀長エルヴィス・コミットマン中将らの指揮権は既に剥奪されており、既にDIAの監視化に置かれ、近い内に国家反逆罪で逮捕されるのは時間の問題と確実視されている。

 

 アメリカ太平洋艦隊と第一海兵軍団を喪失させた原因となったBETAの新種【超重光線級】は、1週間程前に国連日本支部所属と思われる光線兵器を装備した白、黒、青の3色トリコロール・カラーの新型戦術機【フリーダム・ガンダム】と、特殊部隊A-01部隊を中心にした横浜基地戦術機部隊によってエヴェンスク・ハイヴのモニュメントと共に倒された。

 

 ハイヴそのものは陥落しなかったが、僅か2個大隊規模の戦術機部隊がBETAの新種と、その護衛に付いていた師団規模のBETA2万弱を一掃出来たのは、新潟県防衛戦に続く大きな勝利として喧伝され、人類滅亡まで後十年と追い詰められた人類にとって大きな希望となったのだ。

 

 国連本部はこの功績を大いに讃え、作戦指揮を取った白銀武少佐とサウス・バニング少佐は共に1階級昇進させ国連軍中佐となり、サウス・バニング中佐は国連横浜基地の機甲戦術機部隊総隊長に就任。白銀武中佐はA-01部隊連隊長、機甲戦術機開発部隊隊長、教育教導隊隊長の三つを兼ねる事となる。

 

 2人の昇進祝辞の席には国連軍総司令官ハロルド・ゴップ大将が出席し、彼自ら中佐の階級章と勲章を授与した。

 

 国連横浜基地副司令官の大佐待遇香月夕呼博士に対してゴップ大将は、引き続きオルタナティブ4計画への手厚い支持と約束。続いて国連横浜基地への戦力増強も約束。戦術機、機甲部隊、戦闘工兵、機械化歩兵、砲兵大隊、後方支援大隊を各9個大隊=3個連隊に、戦闘ヘリ部隊も1個連隊120機への増強が決まった。

 

 それと同時に国連主導の別計画【プロミネンス計画】、日米次期主力戦術機共同開発計画【XFJ計画】への技術協力を求め、夕呼は【超重光線級】対策で武のアラスカ・ユーコン基地への派遣は出来ないが、【プロミネンス計画】と【XFJ計画】への技術協力は約束し、ゴップ大将もそれを了承した。

 

 ゴップ大将は【フリーダム・ガンダム】に関しては一言も言及しないで、【オルタナティブ4計画】の進捗状況を確認しただけに留まる。

 

 国連日本支部は3色トリコロール・カラーの新型戦術機(【フリーダム・ガンダム】)に関する詳細は、軍事機密を楯に公表を拒んでいる。だが通信が傍受されていたのか機体名【フリーダム・ガンダム】と専属パイロット【白銀武中佐】の名前だけは、電光石火の如く世界中に広まろうとしている。

 

 後日、ゴップ大将の腹心の部下にして懐刀のヤザン・ケーブル大尉(後の少佐に昇進し、A-01部隊副連隊長となる)が武と対面した。

 

「まあそう言うなって、ただでさえ今のアメリカと日本との関係は最悪なんだ。この状況下で【XFJ計画】を中止されなかっただけでもめっけ物だと思わないと」

 

「ああ分かっているよ、上の連中からも【XFJ計画】を何としてでも成功させろと言って来ているからな」

 

 ちなみに【XFJ計画】の日本側の現地責任者篁唯依中尉は【超重光線】討伐作戦には参加をしていない。

 

 本人は参加を希望したが、武が頑として認めなかった。

 

「いや、しかし、デカくないかこれ?」

 

 日本帝国軍と国連横浜基地が正式採用を決めている新型大型輸送機【01式富士】の大きさを、はっきりと視認出来る様になったヴィンセント・ローエル軍曹は空いた口が塞がらないと言った有様だ。

 

「ああ確かにデカいな、厶ーリアの2.5倍の大きさはあるな」

 

 ユウヤも【01式富士】の大きさに圧倒された。

 

 何しろ【01式富士】は戦術機4機を立たせたまま搭載し、簡易な整備や補給が出来る大型輸送機だ。航続距離は荷重限界まで積載しながら太平洋の往還を可能と来ている。

 

「おいおい、本当かよこれ?こんなデカブツがVTOL機だって言うのかよ」

 

 戦術機を搭載した【01式富士】2機はゆっくりと垂直着陸を開始する。

 

 誰も彼もが唖然とする中、【01式富士】2機は着陸した。

 

「こりゃあ日本帝国の奴ら、本気でアメリカと事を構える気でいるかもしれんぜ」

 

 アラスカ・ユーコン基地の整備班が急いで着陸した大型輸送機にタラップを取り付ける中、イタリア出身の衛士ヴァレリオ・ジアコーザ少尉が呟く。如何にも軍人らしく、垂直離着陸大型輸送機が持つポテンシャルに気付く。もし日本帝国がこの技術で戦略爆撃機を開発したらどうなると。

 

「出来ればそうなって欲しくはないけれど・・・」

 

 スウェーデン出身の衛士ステラ・ブレーメル少尉はどこか不安気な表情だ。

 

「勘弁して欲しいぜ。全くよう」

 

 国連本部とアメリカ政府・軍の対日強硬派《=オルタナティブ5派》が引き起こした自滅テロの詳細は、この国連アラスカ・ユーコン基地にも伝わっていて、結果としてアメリカ太平洋艦隊の艦隊戦力7割と、第一海兵軍団全部隊が喪われてしまう大失敗に終わってしまう。

 

 この自滅テロ事件を巡って国連本部とワシントンD・Cは荒れに荒れていると聞く。

 

 事件の真相が明らかになるにつれ、自滅に近い形で親族や友人を喪った数十万の遺族は激昂し、ニューヨークやワシントンに押し掛け、この自滅テロを防げなかった国連事務総長と大統領の辞任を要求。これに怒り心頭の群衆も加わり、警戒に当たっていた警官・機動隊と衝突し多数の逮捕者と負傷者を出した。

 

 国連本部内とアメリカ連邦議会も、国連事務総長と大統領の辞任を求める動きが出ている。

 

 アメリカ軍の軍組織もガタガタで、何も知らないでいた末端の兵士達ほどショックも大きく、連日連夜自分達の上官に詰め寄り、真相究明と全ての情報公開を要求。

 

 対日強硬(オルタナティブ5)派の自滅テロを後押ししていたアメリカ軍産複合体会長リー・ゴールドウェルも自宅で拳銃自殺。

 

 アメリカ連邦議会の方でも上院議長アルバート・マーセナス上院議員が、上院議長と議員の両方を辞職。

 

 国連本部でもオルタナティブ5派の中心的役割を果たしていたリチャード・ローゼンバークアメリカ国連大使が辞任。

 

 国連事務総長とアメリカ合衆国大統領の2人は自らの延命と権力維持の為に、消極的だった【XFJ計画】と【オルタナティブ4計画】成功に全力に投じる事になるのは、皮肉と言えば皮肉な話しだ。

 

 近くのアメリカ軍基地フェアバンクス基地には、アメリカ軍良識派として知られているブレックス・フォーラ少将麾下の水陸両用特殊部隊【ロンド・ベル隊】が、近日中に到着すると見られている。指揮官はフォーラ少将の腹心の部下に右腕のブライト・ノア大佐。

 

 このアラスカ・ユーコン基地でも対日強硬派の残党が【XFJ計画】を妨害しようと、破壊工作に出るのではと緊張が高まっている。 

 

「そうね、タリサの言う通りね。私達人類に残された時間はそう無いと言うのに・・・」

 

 今年に入ってからのユーラシア大陸では、2月の新潟県防衛戦の人類側の勝利以降、BETAは各ハイヴ近郊にまで後退して鳴りを潜めていた。だが、5月中旬にエヴェンスク・ハイヴにBETAの新種【超重光線級】の出現で、『BETAの目的が新種の【超重光線】の製造に乗り出したからだ』と、国連横浜基地副司令官の香月夕呼大佐が見解を述べ、世界中の軍事専門家達もこの見解に同意した。

 

 と同時に戦慄もした。

 

 もし【超重光線級】が各ハイヴに出現をしたら、ハイヴ攻略なぞ夢のまた夢でしかなくなる恐怖が蔓延し始める。

 

 何しろ【超重光線級】のレーザー照射は優に高高度衛星軌道上まで届き、しかもレーザー照射はためらいなく続く。これでは衛星軌道爆撃が不可能となってしまい、G弾も無効化されてしまう。アメリカ政府・軍も根本的な対BETA戦略・戦術の見直しが迫られていた。  

 

 ユーラシア大陸外縁部では、前線国家がBETAの戦線後退に合わせる形で、各戦線を押し上げていたが、BETAの新種【超重光線級】の出現で、戦線の押し上げを中止するしかなくなっている。

 

「デラーズ閣下、再度の前進命令はまだですか?」

 

 西ドイツ陸軍アナベル・ガトー少佐は苛立ちを隠さない。

 

 大欧州連合軍はイベリア半島解放以降、【超重光線級】の出現で停滞を余儀なくされていた。大規模な欧州解放作戦《第二次Dデイ作戦》も無期延期が決まってしまう。

 

 シナイ半島・アラビア半島戦線でも同様だ。国連軍・アフリカ連合・中東連合の3軍は、紅海とアデン湾の安全確保の為に、ガザから南西サウジアラビアとイエメン西部一帯を確保はしたが、【超重光線級】の出現で停滞をしてしまう。

 

 中東連合は一刻も早くペルシャ湾に到達したいが、ペルシャ湾北岸は依然としてBETAが抑え、中東連合の戦力と装備ではペルシャ湾に到達しても、そこから先へと進まないのが目に見えているし、アフリカ連合にしても資源と土地は欲しいが、だからと言って必要以上にBETAと戦って自国軍の損害増大は真っ平御免だった。

 

 アフリカ連合は大欧州連合にシナイ半島・アラビア半島戦線に参加を要請するが、大欧州連合委員会は欧州解放が最優先だとアフリカ連合の要請を却下した。

 

 これに対してアフリカ連合議会は激怒した。『欧州連合はアフリカを間借りしている流浪過ぎない集団の癖にして、何時もアフリカ大陸の支配者気取りして、永遠に自分達を見下し続けている!』と。

 

 アフリカ連合の幾つかの国は、欧州資本を強制接収して白人を自国から追い出そうとする動きか出始める。

 

「不味いなこの流れは」

 

 大欧州連合第222独立機甲戦術機アクシズ旅団所属、戦略予備遊撃大隊大隊長のキャスバル・レム・ダイクン少佐は、新しく駐屯地になった旧ジブラルタル市からジブラルタル海峡を眺めながら呟く。

 

 BETAの後退に合わせて戦線を押し上げ押せ押せ厶ードだった。しかし【超重光線級】の出現で冷水を浴びせられた格好となり進軍が停滞してしまった。

 

 そしてここに来て人類間のエゴが剥き出しになり、人類間の対立が表に出てしまう。

 

「アメリカも国連も欧州議会ももっと上手くやれないのか」

 

 国連本部とアメリカ政府・軍内の対日強硬派が引き起こした自滅テロで、アメリカ太平洋艦隊の7割が消滅し、随伴していた第一海兵軍団と揚陸艦群が全滅したのは自業自得でしかないのだが、それが連鎖反応的に不協和音が世界各地に拡大してしまうのが不味かった。

 

 今や世界中の反米反国連勢力の活動が世界中で活発になっており、難民解放戦線(RFF)が国連や強制徴兵を強要している各国組織に牙を剥き出しにして、武装闘争を活発にさせている。

 

「ダイクン少佐あ〜!」

 

「カーン少尉か、どうしたんだ?」

 

 振り向くと赤い癖っ毛の少女が手を振りながら小走りに走って来る。

 

 名前はハマーン・カーン少尉だ。

 

「もう、外出するのならせめて無線機位持ってください」

 

 ハマーン・カーン少尉は膨れ顔をして、持って来た無線機を差し出す。

 

「ああ済まない、しかし、良く私の居場所が分かったな」

 

 ダイクン少佐は苦笑しながら差し出された無線機を取る。

 

「女の勘ですよ少佐」

 

 ハマーン・カーン少尉はくるくる回りながらウインクする。

 

「怖いな女の勘と言う奴は(しかし、この娘の勘の良さは的中率が高過ぎるな)」

 

 キャスバル・レム・ダイクン少佐は目の前の少女が訓練兵の時代から知っていたが、特に最近は勘の良さに磨きが掛かっている様にも見える。

 

「そうですよ。あっ、父が、じゃなくて、旅団長閣下が少佐と話しがあるそうですから、旅団司令部にまで来て欲しいそうです」

 

「分かった、行くとしよう・・・・」

 

「そうですね、早く行きましょう」

 

 ハマーン・カーン少尉はダイクン少佐の手を取り引っ張り出し始める。

 

「こらこら少尉」

 

「少佐、早くぅー♥」

 

 なだらかな丘領地帯が続くフランスの原野では、【超重光線級】が出て来たら対処策が欧州連合軍の今の装備では見付からないのだ。

 

 何せ欧州連合軍には【XM3】も【レールガン】も【高周波刀】も【フリーダムMarkⅢ】もないのだ、のれでは前進したくても前進出来なかった。

 

「焦るなガトー、今は耐えるのだ、生きて栄光を掴むその日が来るまで良いな」

 

 西ドイツ陸軍デラーズ戦闘団司令官エギーウ・デラーズ中将も部下をそう説得するしかなかった。

 

 そしてオーストラリア・ブリスベンでは、

 

「コッセル、出発の準備だ!」

 

 商談から船団に戻って来た元西ドイツ陸軍シーマ・ガラハウ中佐は、自分に忠実な部下にして、長年共に辛酸を味わって来た一兵卒からの叩き上げデトローフ・コッセルに出発命令を出す。

 

「シーマ様、何処に向けて出発ですかい?」

 

「ニッポンのヨコハマだよコッセル、さあさっさと行くよ」  

 

「分かりました。船団に出発命令を出します」

 

 船長席に座った彼女は不敵な笑みを浮かべる。 

 

(上等じゃないか、今時あれだけの好待遇と破格の条件を出してくれる所なんかありはしないしね)

 

 彼女の部隊は元西ドイツ軍出身者が中心だが、各地の戦線を転戦して行く内に、各戦線の生き残りや残兵を吸収して今に至る。今は西ドイツ軍から離脱し、傭兵団を結成した。

 

 傭兵団を創設したのは良いが、近年では彼女の傭兵団を高額で雇う所が無くなり、さてどうした物かと悩んでいたが、そんな彼女の所に、国連日本支部から【97式吹雪・改1式】の先行量産機48機を譲渡するから、国連日本支部と1年間雇用契約を結んで欲しいと言われ、それ以外の補給・整備・新規調達・支援装備・兵装の全費用と給料を国連日本支部持ちだと言う。

 

(フブキ・カスタムと言えば、あの胸糞悪いアメリカのラプターを一方的に打ち負かした機体。しかもそれを48機も暮れると言うんだからね〜。気前が良すぎて逆に怖くもある。さて鬼が出るか蛇が出るか、楽しみさね)

 

 南アフリカ共和国ケープタウン港では、深紅の機動兵器の積み出し準備が進む。 

 

 運び出しの準備が進む機動兵器の名前は大欧州連合の切り札とも言うべき機動兵器【ヴァル・ヴァロ】だ。

 

 その【ヴァル・ヴァロ】を眺める大欧州連合軍の士官に金髪の女性技術者が声を掛ける。

 

「ケリィ・レズナー大尉。もう間もなく【ヴァル・ヴァロ】の強襲揚陸艦アルビオンへの積み込みが始まります」

 

「ニナ・パープルトンさん。これを横浜に届ければMA【ヴァル・ヴァロ】は完成するんだな・・・・」

 

「はい。国連横浜基地からも、【ヴァル・ヴァロ】を完成させて佐渡ヶ島・ハイヴ攻略に使いたいとの事」

 

「・・・分かった、元々こいつはハイヴ攻略の為に開発される予定の機体だからな。佐渡ヶ島ハイヴが相手なら不足はないさ。それに・・・・」

 

「こいつが完成すれば【MAノイエ・ジール】の完成に大きく近付くはずだからな」

 

「はい・・・」

 

 1970年代後半、アメリカのHi-MAERF計画の対ハイヴ攻略兵器【XG兵器開発計画】を大欧州連合が真似た極秘計画だったが、アメリカと同様機関の開発が頓挫し、倉庫で埃を被るだけだったが、国連日本支部が単独開発をした?新型戦術機【フリーダム】の存在が、【MA開発計画】を再考させた。

 

 大欧州連合はダメ元で国連日本支部に【MA開発計画】を打診した所、国連日本支部からは【MAヴァル・ヴァロ】を国連横浜基地に技術者とパイロット毎、国連横浜基地への移送を要請。完成すれば機体テストも兼ねて、佐渡ヶ島・ハイヴ攻略戦で使いたいと言って来た。

 

 大欧州連合議会は国連日本支部からの話しを受諾、未完成の【MAヴァル・ヴァロ】の国連横浜基地への移送が決定したのだ。

 

「必ず完成させましょうケリィ・レズナー大尉」

 

「ああ・・・・」

 

 開発主任技術者ニナ・パープルトンは、後に横浜基地で単機で大気圏離脱が可能な第6世代試作戦術機【ブルバーニアン・ガンダム】を開発する事になる。だが、パイロットに掛かる最大加速Gが30Gに達してしまう戦術機になってしまい、非常に乗り手を慎重に選ぶ必要に迫られてしまう。

 

「いやーん、私のガンダムがあー!」

 

 

 

 

ーーーー《閑話休題》ーーーー

 

 

 

 

「それではやはり、ここにはシロガネ中佐と【フリーダム・ガンダム】来ないと言うんだね・・・」

 

 アラスカ・ユーコン基地に到着をした唯依は国連【プロミネンス計画】の最高責任者にして、ユーコン基地副司令官クラウス・ハルトウィック大佐に面通しした。そして開口一番、武が【プロミネンス計画】のゲストとして来ない事に、ハルトウィック大佐は失望を禁じ得ないでいた。

 

「はい、白銀中佐は横浜基地で佐渡ヶ島奪還作戦の立案と準備に加え、【超重光線級】対策の為に横浜基地に残る事を決めました・・・」

 

「・・・まあ、やむを得ないか・・・」

 

 国連日本支部は今年の8月末に佐渡ヶ島・ハイヴ攻略作戦を開始すると発表しており、日本帝国政府及び国連本部も佐渡ヶ島・ハイヴ攻略に賛同している。日本帝国軍及び国連第11軍の半数に、国連宇宙軍第5・第6軌道降下兵団、アイオワ級戦艦5隻を擁する国連太平洋艦隊も参加予定だ。

 

 唯依本人も参加をしたいのが本音だったが、武と巌谷中佐からは、【XFJ計画】に専念する様に言われている。

 

(これでは私の【武御雷】を【一型】に改修したのか分からない・・・)

 

 唯依の【00式武御雷】横浜を出発する前に大改修され、基本性能では世界初の第四世代機【94式不知火・改一型】に匹敵する機体になる。武の【フリーダムMarkⅢ】と同じコクピットに与圧機能も取り付けられ、【00式武御雷01型】の上昇限度は大出力の水素・プラズマ・ジェットエンジンの大出力も合って、高度2万mにも達する。

 

 唯依は初めて音速の壁を超え、【フリーダムMakuⅢ】と一緒に成層圏に到達した時、感動のあまり泣き出した程だ。

 

 今の唯依の心境は差し詰め、お預けを食った犬であろう。

 

「篁中尉、一つ宜しいですかな?」 

 

「はい、何でしょうかハイネマン教授」

 

「今回の【XFJ計画】は単なる戦術機開発だけではなく、人類の共通の敵であるBETAにどう立ち向かうかが問われています。アメリカ太平洋艦隊の犠牲の上にです」

 

「・・・・・・・・」

 

「極めて残念な事ですが、我が国は策謀を弄び過ぎてしまい、やってはいけない事を仕出かしてしまいました。アメリカ太平洋艦隊壊滅と引き換えにです。まあ日本の古い諺で言えば自業自得なのでしょう」

 

「・・・・・・・・」

 

「代償と言っては余りにも高過ぎる代償でした。だからこその今回の計画は何としてでも成功させなくてはなりません。その為にも、日本帝国と国連日本支部の全面協力が必要なのですが、どうやら分かってくれていない様子で、残念でなりません」

 

「御言葉ではありますが、白銀中佐本人からは、『【XFJ計画】遂行の為に、必要な技術協力はする』との言質は頂いて降ります。それに私が持って来た8機の戦術機には、白銀中佐と国連日本支部と帝国が開発した技術が使われています。これは我が国の誠意の表れなのではありませんか?」

 

 唯依は自分専用の【00式武御雷1型】以外にも、フェイズ3まで改修された【79式撃震01型】4機、【89式陽炎01 型】の4機の計8機をテスト機として持って来た。

 

 手土産も無しではアラスカ・ユーコン基地に行きづらいだろうと武と巌谷中佐の2人の配慮だ。

 

『何でこっちが身銭切ってまでそんな配慮しないと行けないのよ』

 

 と夕子にブツブツと文句を言われたが。 

 

「ですが白銀中佐と【フリーダム・ガンダム】と専属パイロット・シロガネ中佐がこの基地に来ていません」

 

 唯依はここで理解した。ハイネマンの本当の目的が自分の婚約者である武とその愛機【フリーダム・ガンダム】なのだと。

 

「ハイネマン教授、先程も申し上げましたが白銀中佐はとても多忙な方です。【XFJ計画】に直接的に関わっている余裕はないのです」

 

「BETAの新種【超重光線級】に対抗するには、【フリーダム・ガンダム】が世界に必要なのですよ篁中尉・・・」

 

 フランク・ハイネマンにして、BETAの新種【超重光線級】の存在は衝撃だった。あれと戦って勝てる戦術機のイメージは沸いたが、あまりにも非現実過ぎて、戦術機開発の構想から捨てるしかなかった。だがその非現実を具現化した戦術機が【フリーダムMarkⅢ】だった。

 

 機体全体が光線兵器の塊で、マッハ5の速度で空中を飛び回り、質量のある残像現象で【超重光線級】を振り回し、ビー厶・サーベルで【超重光線級】をバラバラに切り刻んだ。

 

 彼はこの映像を見た時狂気した。

 

 そして【フリーダム・ガンダム】を心から熱望をした。

 

 【フリーダム・ガンダム】の量産化に成功すれば、BETAが【超重光線級】を各ハイヴに一つや2つずつ置いても、人類はBETAに勝てると。

 

 だから【フリーダム・ガンダム】とそのパイロット白銀武が【XFJ計画】にゲストとして参加しなかった事に失望したのだ。

 

「ハイネマン教授、もう良かろう。タカムラ中尉の言った通りサドガシマとチョルウォンの両ハイヴに【超重光線級】が何時姿を現すのか分からない以上、それに対抗出来る戦術機と衛士を前線国家から引き抜くべきではなかろう」

 

「仕方ありませんな・・・」

 

 ハイネマンは自信があった。自分なら【フリーダム・ガンダム】の謎を解き明かして、その量産機を設計・開発が出来る自信が。

 

「【フリーダム・ガンダム】の量産の暁にはBETAを一捻りなのですが・・・」

 

「私の方で国連日本支部と交渉をして、【フリーダム・ガンダム】の設計図と製造データの公開を求めるとしよう」

 

「分かりました・・・・」

 

 ハイネマンはこの場は引き下がる事にした。

 

 ハルトウィックは国連軍総司令官ゴップ大将が、日本帝国政府と香月夕呼に【フリーダム・ガンダム】に関する情報公開を求めていたらと思わずにはいられない。

 

 国連にしてもアメリカ太平洋艦隊の作戦用艦艇7割が自滅テロで失われてしまった以上、悪戯に日本帝国と国連日本支部を刺激して、最後の一線を越えられては堪らないと、今は日本帝国政府と国連日本支部の御機嫌取りをせざるを得ない状況なのだ。

 

 唯依はハイネマンとハルトウィックと大幅な見直しがされた【XFJ計画】の打ち合わせを終えた後、リダ・カナレス伍長の案内で今後自分が行動を共にするアルゴス試験小隊のブリーフィング・ルームへと向かう。と同時に日本を出発する直前の夕呼との会話を思い出す。

 

『私も白銀も【フリーダム・ガンダム】に関する情報は公開する気はないわよ』

 

『何故です香月副司令・・・?』

 

 唯依は夕呼の言葉に疑問を抱いた。オリジナルの真似は出来なくても、それに近い発生機種や支援装備を造る事が出来れば、【超重光線級】の脅威度が大きく減るからだ。

 

『【フリーダム・ガンダム】は世界唯一の機体だからこそ抑止力として存在価値があるのよ』

 

『抑止力ですか・・・?』

 

 唯依は武の様子を伺う。様子を伺った武の顔は苦虫を噛み潰したような顔だ。

 

『そう。もし【フリーダム・ガンダム】が量産化してみなさい。人類はBETAそっちのけで【フリーダム・ガンダム】を使って人類間戦争を始めるわよ』

 

『そんなはずは・・・!』

 

『そんなはずは無いって言う根拠はあるの?つい2週間も前に国連本部とアメリカ政府・軍の対日強硬派が、この国の中枢を破壊しようとしたのをもう忘れたの?』

 

 夕呼は『この能天気な馬鹿娘』と冷笑を浮かべる。

 

 唯依には根拠はなかった。結果として日本帝国にとって幸運の結果に終わったが、一つ間違えれば、日本帝国の中枢は破壊され、もう二度とこの国は立ち直れない被害を被っていたかもしれないのだ。

 

(世界は何処に向かっているのだろうか、こんなんでBETAに本当に勝てるのだろうか。私には分からない・・・)

 

「中尉、篁中尉」

 

「あ、なんだ、カナレス伍長」

 

 唯依はカナレス伍長に名前を呼ばれハッとする。

 

「付きましたよ・・・」

 

「ああ、済まないカナレス伍長・・・」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ大丈夫だ・・・」

 

 本音を言えば武に傍に居て欲しかったのだが、生憎と武は国連横浜基地で佐渡ヶ島・ハイヴと喀什・ハイヴ攻略の為の準備と戦力増強、今期の訓練兵の臨時教官と多忙を極めているので、アラスカに来る余裕がなかった。

 

(しっかりしなくては・・・)

 

「じゃあ入りますね・・・」

 

「ああ」

 

 唯依はカナレス伍長の先導でブリーフィングルームへと入って行く。

 

 

 

 

「バスク・オム大佐、貴殿だけでも助けられて本当に良かったと思っている。ジャマイカン・ダンカン中佐の自決の件は本当に残念だった・・・」 

 

 アメリカ軍バスク・オム大佐はロッキー山脈に麓に在るキリスト教恭順派の本部に匿われていた。

 

 キリスト教恭順派本部の建物はとても宗教関係の建物に見えず、富豪が山間に好んで造りたがるコテージ風の大きな邸宅と言った所。

 

 建物内には常に完全装備の信徒が100人以上を詰め、邸宅に通じる一本道には監視所が幾つも設置し、監視所には常に1個分隊12名が配備され、キリスト教恭順派本部に近付く部外者が居ないかの監視任務に就く。

 

 地下には核シェルターが完備され、信徒達の大半は戦略核攻撃に耐えられる核シェルターで寝泊まりしている。

 

「マスター、何故私を助けたのです。将官を助けるメリットは無い様に思われるのですが」

 

「私は以前から君を高く評価していた。こんな事で失うには惜しい人材だと。どうかね、私の下で働いて見る気はないかな?」

 

「もし私が嫌だと言えばどうなさる御積りですかな?」

 

 バスク・オムはまさか自分を自由にはしないと考える。何しろキリスト教恭順派の本部の居場所を知ったのだ。

 

 どう考えても自分を自由にはしないと。

 

 マスターは不敵な笑みを浮かべる。

 

 そして、

 

「その時はご自由にしたまえ。私は貴官を拘束する気もなければ、殺す気もない」

 

「なんと」

 

「私も暇な身ではなくてな。私の下で働く気が無い者を悪戯に殺傷も拘束もする気はないのでな」

 

 バスク・オムは予想外過ぎる返答に面食らう。口封じは疎か拘束もしないとは。

 

「私が命乞いの為にFBIやDIAにキリスト教恭順派のアジトを教えるとは思わないのですか?」

 

 バスク・オムはキリスト教恭順派が巧みにアメリカ東海岸の政財界に入り込み、思いの儘にアメリカ政財界を動かそうとしているのは知っている。

 

 FBIやDIAの中には、キリスト教恭順派のアメリカ国内での勢力拡大を危険視するものは少なくはない。 

 

(それを知らない男ではあるまい)

 

「もしそうなったら、私に人を見る目が無かっただけの話しだ。諦めが付く」

 

 マスターは苦笑しながら肩を竦める。

 

「・・・・・・・・」

 

 バスク・オムはマスターの真意を測りかねた。 

 

 目の前の男がとても嘘を言っている様に見えないからだ。

 

(もしかしてマスターは自分の生死に無頓着なのか?)

 

 稀にこういった人間が居るのは知っているが、直接目の当たりにするのは初めてだった。

 

「どうしたバスク・オム大佐?」

 

「マスター、貴方は死ぬのが怖くはないのですかな?」

 

「私だって人間だ。死ぬのは怖い。だがそれ以前に何もしない果たせないまま、死ぬ方が余程怖い」

 

「何も果たせないままですか・・・・」

 

「貴方もそうなのではないのかバスク・オム大佐?だから抗して私の目の前にいる。FBIやDIAに捕まって死刑台送りになりたくないから・・・違うか?」

 

 バスク・オムはマスターの言う通りだと思った。

 

 あの様な失敗を仕出かした以上は、アメリカ軍での自分のキャリアを絶たれたのも当然だし、このまま座して死刑台送りになるのは御免だった。

 

 だからキリスト教恭順派の救いに乗ったのだ。

 

「して、マスター、貴方は私に何をしろと?」

 

「貴方の力を私に貸して欲しい。そして自分を敗者に負いやった者達に復讐しないか。その為に私は貴官への協力を惜しまない。だから貴官も私に協力してくれ。私自身の目的を達成する為に・・・・・」

 

「ふぅ~、分かりました力を貸しましょう。どの道にしろ、私に残された道はもうマスター、貴方に協力するしか残されてしかいないのだから」

 

 バスク・オム大佐は決意した。座してこのまま死を向かえるのは趣味ではなかった。

 

 ならばとことん醜く足掻いて見せようと。

 

「ありがとうバスク・オム大佐、感謝を致します」

 

 バスク・オムを味方に引き込めたと確信したテオドールは彼を別室へと退出させた。

 

「マスター宜しいのですか?」

 

「何がだい?」

 

「あの様な者を味方に引き込んで?」

 

「なあに、アラスカ・ユーコンでの一件が終わったら、あの男には要はない。精々派手な死に場所を用意して上げようじゃないか。その方があの男の為だ」

 

「かしこまりました。後、マスターにお耳に入れたい情報があります」

 

「ほう、どんな情報かね?」

 

「どうやらブレックス・フォーラ少将とヴォルフガン・ワッケイン少将の2人が、ヨハン・イブラヒム・レビル退役大将を復帰させようと動いているのです」

 

「それは本当なのかい・・・・」

 

「はい、間違いないかと」

 

 テオドールの中で警戒指数が上がる。

 

 レビル家はアメリカ独立戦争以来、アメリカ陸軍の重席を担って来た名門の家だ。もし彼が復職を果たせば、アメリカ軍の混乱を終息させてしまうかもしれない。

 

「面倒な事を考えてくれる。一番厄介な人物だと思ったからこそ、大統領を裏で動かして彼には円満退役をして貰ったと言うのにね・・・・」

 

 アメリカ太平洋艦隊壊滅は当初のテオドールの計画には無かった事だ。

 

 当初のプランでは国連所属の2機のHSSTを国連横浜基地に激突させて、国連横浜基地の消滅及び東京湾全域に甚大な被害を与えた上で内乱と混乱を誘発させ、アメリカ太平洋艦隊を日本列島に釘付けにさせる計画だったのだが、BETAの新種【超重光線級】の妨害で、当初の予定に無かったアメリカ太平洋艦隊壊滅と言う事態に至る。

 

 結果として見れば、アメリカ・国連と日本帝国の関係は極度に悪化させはしたものの、アメリカ太平洋艦隊壊滅でアメリカ合衆国の権威は失墜、オルタナティブ5派への大粛清の嵐が国連本部及びアメリカ政府・軍でも吹き荒れていた。

 

 早晩にはオルタナティブ5派は姿も形もなくなる。

 

 もしヨハン・イブラヒム・レビル退役大将が現役復帰果たせば、アメリカ軍の混乱を早期に終息させ、アメリカ太平洋艦隊の穴埋めは無理としても、組織としての再建を果たしかねないのだ。否が応でも警戒指数は上がるのだ。

 

「オルタナティブ5派の残党を吸収するまで、御老体には大人しくして貰わないと困るんだよね」

 

「どうなさいますかマスター?」

 

「今は動けない。下手に動いてこちらの動きを良識派連中に知られてはならないからね・・・」

 

「分かりましたマスター」

 

「なあに、慌てなくも良いさ。ホワイト・ハウスとラングレーはこちらが押さえているのだから。フェアバンクス基地の方の押さえは完璧なんだろうね?」  

 

「問題ありません、フェアバンクス基地の司令部はキリスト教恭順派や、我々の息が掛かった東海岸のアメリカ至上主義者はかりですので」

 

「大いに結構だ」

 

「後それと、西ドイツ陸軍のエギーユ・デラーズ中将閣下から、マスター宛の書簡が届いています」

 

「デラーズ中将閣下から?」

 

「はい」

 

 側近は恭しく書簡を差し出し、テオドールはその書簡を受け取り中身の文明を見る。

 

 エギーユ・デラーズ中将は今の西ドイツ政府・軍内きっての東西ドイツ統一派の中心人物だ。

 

「ほう、あの腰が重かったデラーズ中将閣下もこちら側に付く決断をしたか」

 

「では、デラーズ中将閣下は」

 

「悲願である東西ドイツ統一の為に、我らに全面的に協力して下さるそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が【XFJ計画】の概要である。何か質問は?」

 

 唯依は次期主力戦術機開発計画【XFJ計画】の概要を説明し終えた後、アルゴス試験小隊全員の顔を見回す。

 

 すると1人が手を挙げていた。

 

「ブリジッス少尉だな。何か気になる点でも?」

 

 ユウヤは椅子から立ち上がり質問をする。

 

「何故【フリーダム・ガンダム】と専属パイロットの白銀中佐が来ていないんです?」

 

(もうこんな所にまで知られているのか・・・)

 

 エヴェンスク・ハイヴに現れた【超重光線級】撃退作戦は国連第11軍横浜基地が主体だったが、ソビエト領土内の作戦だった為に、ソ連軍と強い繋がりを持つ国連第3軍の協力が必要不可欠だった。その為に【フリーダム】とその専属パイロットである武の名前だけは教える必要があった。そこから各国軍に知れ渡ってしまったのだろう。

 

 「【超重光線】対策の為にだ。知っての通り、BETAは2月の帝国本土での失敗以降、全てのBETAを各ハイヴへと引き揚げたのは記憶に新しい。これは国連横浜基地副司令官の香月博士の見立てだが、BETAは各ハイヴ防衛の為に各ハイヴで【超重光線級】の製造に乗り出している可能性が極めて高いと推測している。そして我が国は8月末に国連第11軍と共に佐渡ヶ島奪還作戦を企図し、作戦の準備と戦力増強で白銀中佐は多忙を極め、このアラスカ・ユーコン基地に来る事は出来ない。その辺りの事情を理解して貰いたい」

 

「分かりました・・・」

 

 ユウヤは内心舌打ちしながら椅子に座るしかなかった。

 

 『ハイヴ攻略は人類の悲願。そのためには現最強の戦術機と言える【フリーダム】が必要不可欠である。そして自分こそが、その【フリーダム】を操縦する衛士に相応しい。』そういった個人的な欲求や野心はハイヴ攻略の邪魔でしかないからだ。

 

(【フリーダム】こそが俺が求めていた戦術機なんだ)

 

 単機で【超重光線級】を倒せる砲撃戦能力に優れた【フリーダム】は、アメリカ軍の軍事【ドクトリン】の正しさを具現した理想的な戦術機だった。しかもレーザーを収束した光の剣を使い、電光石火でBETAを切り刻む。国連日本支部とソ連軍が公開した戦闘映像にユウヤは魅了され、その【フリーダム】をユウヤも心底欲していた。

 

 【フリーダム】こそが自分が求め、理想とした戦術機なんだと。

 

 その機体をよりによって自分が毛嫌いしている日本人が専属パイロットだなんて、認めたくなかった。だからこそ実力と才能で武より自分こそが、【フリーダム】のパイロットに相応しいのを証明し、奪いたかった。

 

 そして自滅テロでアメリカが失った自尊心と誇りを自分が取り戻すのだと。

 

(そうすればどこからも誰からも文句や抗議はでないはず。そして今度こそ俺を最強のトップガンにして、実力でのし上がる理想的なアメリカ人なのだと認めさせてやるのに)

 

「じゃあ俺ら、その新OS【XM3】対応機に改修された戦術機に乗って、改修機と非改修機の性能比較試験をやればいいんだな」

 

 ユウヤはタリサの言葉に我に返る。

 

(今更第一世代機かよ。ふざけやがって)

 

 ユウヤの頭の中には世界中で使用されている戦術機に関する情報は一通り網羅されている。

 

 そりゃあテストパイロットなんだから、乗れと言われれば乗るしなない。だが、大改修したかなんだか知らないが、今更鈍重な第一世代機はないだろうが本音だ。

 

「でも確か【撃震】って、第一世代機【F-4】系列の機体のはずだよな?」

 

 唯依とタリサのディスカッションは続く。

 

「不満か、マナンダル少尉?」

 

「不満つうか、あの鈍重な【F-4】をどんな大改修したのかは知らないけど、対して変わらないイメージしか沸かない」

 

 戦術機としては最古参の【F-4】だが量産性、整備性、拡張性に優れ【F-4】は世界中で運用されているが、ほぼ同時期に生まれた軽量化、機動力を重視した設計の【F-5フリーダムファイター】に比べられると鈍重の一言になる。

 

 【F-5フリーダムファイター】は軽量化、機動力、重視の設計思想で、拡張性の問題では日本帝国国産戦術機【不知火シリーズ】と同様拡張性に乏しい。だが、低コスト、量産性、整備性に優れているので、国によっては【F-5フリーダムファイター】を主力戦術機に採用している国もある。

 

 アメリカ政府の一方的都合で【F-4ファントム】の日本帝国の割り当てが無くされた《F-4 ショック事件》後、日本帝国政府・軍内では当面の対処策として後発組みの【F-5フリーダムファイター】を採用しようとする動きもあり、日本帝国政府国防省は製造元アメリカ企業《ノースロック社》に大量発注が可能かどうかを打診した所、輸出実績が欲しいノースロック社はすっかりその気になってしまう。

 

 だがこれに慌てたのは政治力に長け、世界初の戦術機を開発し日本との繋がりが深い《マクダエル社》だった。

 

 この問題を放置すれば後発組の《ノースロック社》に有望な日本市場が奪われてしまうと、《マクダエル社》の危機感は凄まじく連邦議会、国務省、国防省を総動員して巻き返し、アメリカ政府に日本帝国への戦術機の輸出割り当てを確保させた経緯がある。

 

 もし《ノースロック社》の【F-5フリーダムファイター】が採用されていたら、その後の日本帝国の戦術機開発の歴史は大きく変わっていただろう。

 

「大丈夫だマナンダル少尉、その懸念は無意味だ。フェイズ3に改修された【撃震】は貴様らが今使っている【F-15ACTV】に決して負けていない。新型技術を採用しる分、旧OS機の【F-15ACTV】に優っているはずだ」

 

 ブリーフィングルーム内に軽いざわめきが起きる。

 

 そして先日、アラスカ・ユーコン基地に流れて来た模擬戦の映像が脳裏を過ぎる。

 

「で、中尉さんよ。その機体には何時乗れるんだい?」

 

 期待を込めてジアコーザ少尉が聞く。

 

「機体事態は明日には乗れる筈だが、先ずは最初に新型のシュミレーターで新システムに慣れて貰う。新型シミュレーターで新システムに慣れてから実機の使用を行う」

 

「新型シミュレーターの方はどうなんです?」

 

「新型シミュレーターの方も明日から使えるはずだ。帝国から来た技術班と整備班に礼を言うのだな。彼等は今夜は徹夜になるはずだからな」

 

「うひょう、そいつは楽しみだぜ」

 

「他に質問は?」

 

 ステラ・ブレーメル少尉が手を挙げる。

 

「ブレーメル少尉何か?」

 

「このシステムを考えたのは篁中尉の婚約者白銀中佐で間違いないのですね?」

 

「そうだが?」

 

 ステラ・ブレーメル少尉の問いに《婚約者》のワードが入っていたので、唯依の顔が赤くなる。

 

 唯依と武の婚約は最早既成事実となっており、武が18歳の誕生日に東京武道館で挙式が既に決まっている状態だ。

 

 しかもその結婚式には皇帝陛下、政威大将軍殿下の出席が決まっていて、国家的結婚式となるのは避けられない。

 

 唯依としてはそんな派手な結婚式を止めて欲しいのだが、武を逃がしたくない、他国に鳶に油揚げされたくない日本帝国が国家ぐるみで決めてしまう。

 

 武の篁家への婿入りか、唯依の白銀家の嫁入りかの問題に関しては、皇帝陛下と政威大将軍殿下が特例措置を取り、唯依が白銀性を名乗っても篁家当主を続けられる措置を取ってしまい、武と唯依の退路を断ち切ってしまった。

 

 これは第一帝都・京都防衛戦以降、果てしなく続いた損耗の末に多くの武家の当主と跡取り息子が戦死し、深刻な後継者問題を抱える事になったのが大きい。

 

 後継問題解決の為に、嫁に出した娘を実家に呼び戻さなければならない武家が続出した。親藩譜代武家真壁家の様に子宝沢山の家は後継問題に悩まずに済むが、そうでない家はそうではなかった。

 

 この問題の解決策の一つとして、唯依が白銀家に嫁いでも篁家当主を続けられる様にしたとも言える。

 

 

 

 それ以外にも『戦災孤児特例福祉法』も国会で議決される見通しだ。

 

 此れも武家の跡取り問題が発端なのだが、対BETA戦の寸土を争う消耗戦で多くの戦災孤児が出来てしまう。そう言った戦災孤児を軍人や武家の家庭に養子として引き取らせよと言うもの。

 

 幼少の頃から将来軍人にする為に十歳未満の戦災孤児がその対象となる。 

 

 

 

 そしてだ!

 

 日本の婚姻制度を一夫多妻制に変えようとする動きも。

 

 これは十人兄弟を持つ親藩武家真壁家が、当主と長男が第一帝都・京都戦から続く戦いで戦死したにも関わらず、後継問題が起きなかったのは、真壁家前当主が節操の無い奴と言われながらも、元日本帝国空軍パイロット美人三姉妹を娶り長女との間に4人、次女と三女の間からはそれぞれ3人の子宝に恵まれたのも大きかった。

 

 それならば日本の婚姻制度を一夫一妻制から、一夫多妻制に変えてしまえと考えもしよう。

 

 実際問題として、一家の大黒柱が戦死し、子供を抱えて生活苦に苦しんでいる戦争未亡人も多い。

 

 なら一夫多妻制に変更して、戦争未亡人と戦災孤児の問題を一挙に解決して仕舞えと半ばヤケクソ気味ではある。

 

 こんな発想や考えが国側から出て来る事事態、国家として末期症状なのだろう。

 

 無論複数の妻を迎える夫には、それ相応の稼ぎと資産家であるのを求められるが。

 

 と言う訳で未だに独身の巌谷榮二と、未だに婚約者がいない斑鳩崇継、真壁助六郎の両名には、各方面から婚姻ないし婚約の話しが持ち掛けられる事態に。

 

 特に自滅テロでアメリカ太平洋艦隊壊滅と【XFJ計画】強行で逆風吹き荒れる巌谷中佐には、この問題を取り扱う内務省の役人が、子持ちの未亡人女性達のお見合い写真を大量に帝国陸軍技術廠に日参。巌谷中佐をげんなりさせた。

 

「どうでしょう巌谷中佐、人助けと思って十人の子持ちの未亡人女性と結婚なされたら?もし我々の頼みと願いを聞き入れてくだされば、今後は我々内務省が巌谷中佐の後ろ盾になりましょう」

 

 

 

 

 

 

「だから、鏡も納得するでしょう」

 

 とは夕呼の弁だ。

 

 唯依も自分が第一夫人の立場を武が保証さえして暮れるのなら、武が複数の愛人を持つ覚悟は持ってはいる。 

 

 それに近々白銀家も篁家と同格の譜代武家に叙せられる予定だ。

 

 これに関しては、武の母親の実家徳永家と、徳永家が属する煌武院家の後押しが合ったとされる。

 

 煌武院家の家老達は、御剣冥夜を武の第一夫人の座に座らせようと目論見、武の第一夫人の座を渡さないと、篁家が属する崇宰家との鍔迫り合いが。

 

 武からすれば『余計な事すんな!』の一言だが、国側からすれば武の功績を考えたら、これでも階位が足りないが本音。

 

 だからと言ってイキナリ白銀家を親藩譜代武家にする訳にも行かないので、譜代武家地位に付ける事にした。

 

「国からすれば、ここで貴方を功績に見合った地位に就けないと、メンツが問われるのよ。まあ諦めなさい英雄さん」

 

「所で夕呼先生、一つ聞いていいですか?」

 

「あら、何かしら?」

 

「何でビキニ姿で、俺と同じサウナに居るんです?」

 

「あら、据え膳食わぬわ男の恥を知らないの?」

 

 武の右腕に胸を当てて絡み付く夕呼。

 

「ちょっと夕呼先生」

 

「教師と生徒の禁断の関係のシチュエーションも中々悪くないわねウフ♥」

 

「ちょっと、何処を触っているんですか!」

 

「ここはしっかりと反応しているじゃない♥た・け・る」

 

 

 

 

 

ーーーー《閑話休題》ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このシステムを考えた白銀中佐は、将来戦術機の無人機かを考えているんでしょうか?」

 

 顔を赤らめた唯依を見ながら初心ねと思いながらも、ステラ・ブレーメル少尉はかねてからの疑問を聞いて見た。

 

「・・・良く気付いたなブレーメル少尉、その通りだ」

 

 唯依はステラ・ブレーメル少尉の洞察力の良さに関心するしかなかった。

 

「白銀中佐はこのシステムを考えた時から、戦術機の無人機化構想を視野に入れ、それに力を入れ始めている」

 

「やはりそうでしたか、無人機は何年後に完成予定なのか教えて貰えませんか?」

 

「今は遠隔操作しか出来ないが、佐渡ヶ島奪還作戦では、連隊規模の第1世代機の無人機が導入する予定でいる」

 

「もうそんなに早く・・・」

 

 ステラは目を丸くして驚く、自分の予想よりも数年早いからだ。

 

「戦術機の無人機化構想は以前からはあったが、技術が現実に追い付かないでいたのと、重金属雲の中では無人機の遠隔操作は困難で合ったのが原因で実現しなかった。だがレーザー撹乱膜下では通信・電波障害が起きないのは2月の新潟県防衛戦と、先日のエヴェンスク・ハイヴでの戦闘で立証済みだ。これで一気に無人機化構想が進む事になった」

 

 唯依は一息を入れ話しを続ける。

 

「今は遠隔操作限定ではかあるが、戦術機の無人機化で無意味な戦死者を減らせるのが最大の利点だ。これで年齢から来る衰えで引退を余儀なくされたり、傷病で現役を退くしかなかった元衛士。それと衛士としての適性低さに衛士に慣れなかった者達にも、戦術機を遠隔操作で操作出来る様になった。国連横浜基地と帝国陸軍技術廠では、試験的運用が既に始まっている。佐渡ヶ島・ハイヴ攻略戦が初の無人戦術機の実戦導入になるだろう」

 

 唯依の説明にブリーフィングルームは一瞬沈黙する。

 

「話しを聞く限り良い事だらけに聞こえるけど、『もう金が掛かる新型機の開発はもうやんねー』って聞こえるなあ〜」

 

 タリサはボヤく。

 

 唯依は沈黙をする。

 

「タカムラ中尉、その辺りはどうなのだ」

 

 アルゴス試験小隊の隊長イブラヒム・ドゥール中尉が問い質す。

 

「はっ、その辺りの判断は難しい物があります。国連横浜基地で開発された数々の新技術、新システムは既存機の性能を一世代分引き上げるのには成功しています。これによって我が国の国防力が格段上昇し、我が国が一息付いたのも確かなのです。ですが、【超重光線級】の出現で第4世代機開発が必要性なのも確かです。【XFJ計画】は必然的に第四世代機開発計画として動くべきかと」

 

「必要に決まっているだろう。冗談じゃないぜ」

 

 ユウヤは吐き捨てる様に言いながらそっぽを向く。

 

「だが帝国には【フリーダム】と【シラヌイ・カスタム】の2種類の第4世代機がある。今は急いで第4世代機の開発をする必要はあるのか?」

 

「はい、【XFJ計画】は当初【94式不知火】の大幅な性能向上を目指した計画でしたが、あくまでも第3世代機の枠内に収まる物でした」

 

「ふむ、確かにな」

 

「これは技術的な問題を解決出来なかったのが原因で、白銀中佐と国連横浜基地がこの問題を解決したので、一気に第4戦術機の開発が可能になり【94式不知火・改01型】が誕生したのです。しかし今後【超重光線】や新たな新種が出て来る事を考慮した上で第4世代機の開発に当たるべきかと」

 

「つまり、政治ショーとして終わらせる気はなく、【シラヌイ・カスタム】の上を行く新型機開発に本気で取り巻むと思っていいんだなタカムラ中尉」

 

 彼が危惧しているのは【XFJ計画】が単なる政治ショーで終わってしまう事だ。やるからには成功させたい。曖昧な結果で終わらせたくはなかった。

 

「はい、それについてはお約束します」

 

「聞いての通りだブリジッス少尉、そう不貞腐れるな。開発主任衛士が不貞腐れていたら、成功する物も成功しなくなるぞ」

 

「りょーかい」

 

「だがタカムラ中尉、この【XFJ計画】の最終到着地点をどう考えているのか聞かせて欲しい」

 

「はい、【XFJ計画】当初の計画を大幅に見直し、【不知火弐型】を宇宙でも仕様出来る戦術機に仕上げる事に致しました」

 

「宇宙だと?」

 

「はい。実はこれも白銀中佐の発案で、計画がフェイズ3に入った段階で、横浜基地と帝国陸軍技術廠で試作中の新エンジン【イオン・プラズマ・エンジン】を使い、【不知火・改フェイズ4】と【不知火弐型】の両方で運用試験を行う手筈です」

 

「え、宇宙? 俺ら宇宙に行くんか?」

 

「そう言ったはずだがマナンダル少尉」

 

「・・・・・・」

 

 驚きから口をあんぐりと開けてしまうマナンダル少尉。

 

「タカムラ中尉、その【イオン・プラズマ・エンジン】とは初めて聞く名前なのだが・・・・」

 

 ドゥール中尉の顔に困惑が広がる。そりゃあ試験小隊である以上は、新技術のテストの為に、断崖絶壁の峡谷、灼熱の砂漠、極寒時のツンドラ地帯に行く覚悟はある。だがイキナリ宇宙に行くと言われて、はいそうですかと言える者はいないだろう。ましてや聞いた事もない新エンジンの為に。

 

「【イオン・プラズマ・エンジン】は1990年代に入ってから帝国で研究開発が始まった宇宙用エンジンです。本来の使用目的は宇宙探査用人工衛星に取り付け、効率的に外宇宙に向かわせるエンジンでした。それに目を付けた白銀中佐と横浜基地の技術開発スタッフが、戦術機用に再設計し実用化しようとしている物です。もう既に帝国陸軍技術廠に置いて燃焼試験を行っており、連続1週間連続燃焼をしてもエンジンには異常が見られないとの報告を受けています」

 

「その〜なんだ、もっと具体的に説明してくれると助かるんだかなあ・・・・」

 

「コホン、言葉足らずでした。推定ではありますがイオン・プラズマ・エンジンの最大加速は4,000G、最高加速度は1,200kph、秒速約30〜50m「ちょっと待てや、あんたらは俺達を殺す気かあー!最大加速度4,000Gだあー!そんなの人間の身体が耐えられる訳がねえだろー!」

 

 唯依の口から出て来る非常識な数字に、ジアコーザ少尉が怒鳴りだした。

 

 悲しいかな、唯依も僅か数ヶ月で横浜基地の色に染まってしまったのだ。

 

 余りにも悲しい現実である。

 

 

「武パパ、唯依ママは気付いていないと思います」

 

「何をだい、霞?」

 

 武は最早諦め顔だ。佐官用の部屋は完全個室で、武は佐官用の部屋で最もグレードの高い部屋。

 

 部屋の間取りは1DKでバス、トイレ・風呂は別々。部屋は南向きで日当たりも良くエアコンも完備。クローゼット、冷凍機能付き冷蔵庫、都市ガスキッチンも備わっており、調理が好きな佐官は自分で調理もしたりする。

 

 佐官用部屋は多くの兵士にとって憧れでもある。

 

「唯依ママは横浜基地の色に染まっているのに気付いていないと思います」

 

 霞は武の部屋にきっちりと自分の居場所を作り、寝台まで持ち込んでいた。

 

 まあそれだけなら許容範囲内だろうけど、

 

「悲しい現実です・・・」

 

「言いたい事は判るけど、お風呂場でする会話じゃあないと思うんだけど・・・」

 

 何度も止めさせようとしたし、部屋の電子キーの暗証番号も何度も変えた。MPも配置したりもした。だがその都度ペットロボットハロを使う霞に突破され、ほぼ毎日一緒にお風呂に入り、添い寝する羽目になってしまった。

 

 霞的には擬似的親子関係を楽しんでいると言うが・・・

 

「武パパのエッチ、身体は正直です」

 

 湯船に浸かりながら背中を武に預けていた霞だが、向き直って武に跨ぐ格好で武に抱き着く。

 

「武パパ、私とエッチしたい」

 

 全裸の霞の上目使いに武の理性は吹っ飛びそうになる。

 

 これぞ本当の蛇の生殺しである。 

 

 

 

 

ーーーー《閑話休題》ーーーー

 

 

 

 

「大丈夫だジアコーザ少尉、全員が乗って貰う【不知火型】には、慣性制御装置が搭載しているから問題ない。それに白銀中佐の【フリーダム】のイオン・プラズマ・エンジンの馬力はこの2倍強の加速と速度を持つぞ。白銀中佐はそんな機体を自分の手足として扱うぞ」

 

「それもう人間じゃあないだろう・・・」

 

「兎に角だ、安全な様に設計されているから安心しろ」  

 

「本当かよ」

 

 やる前から泣きが入り始めているジアコーザ少尉だった。

 

「あの、もしかして、これらのプランを考えたのはシロガネ中佐ですか?」

 

「その通りだ、これらのプランはシロガネ中佐が考えたものが下書きになっている」

 

 唯依はブレーメル少尉の洞察力の高さに益々感心する。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「何だ、ブリジッス少尉・・・」

 

「見直しされた【XFJ計画】の本当の目的は月のサクロボスコ・ハイヴ攻略だな」

 

 唯依は驚きから目を見開く。不貞腐れていた男が、見直しされた【XFJ計画】の真の目的に気付くとは思っていなかったのだ。

 

「・・・その通りだブリジッス少尉、シロガネ中佐は常に長期的視点に立って物事に当たっておられる。第4世代機開発の目的は、宇宙戦仕様の戦術機開発だと言われている。フェイズ4の【シラヌイ・カスタム】とフェイズ3の【シラヌイ・セカンド】の2機種は、コクピット周りの気密性を重視した設計になっている」 

 

「それで上手く行けば、他の機種にも、と言う訳か・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ユウヤ、どういう訳だよ?」

 

 マナンダル少尉はブリジッス少尉に聞く。

 

「なあに極簡単な話しさ。世界中の戦術機の過半数が未だに第一世代機なのを考えれば一目瞭然さ。そしてシロガネ中佐が考えた新システムは、全世代機で使えるとなれば、シロガネ中佐の本当の目的は見えて来るのさ。そうだろ中尉」

 

 ブリジッス少尉の不貞腐れた顔は消え去り、俄然やる気に満ちた表情となる。

 

「その通りだブリジッス少尉、シロガネ中佐は2つのハイヴ攻略を目指している。一つは喀什・ハイヴ、もう一つは月、サクロボスコ・ハイヴ攻略だ。この2つのハイヴを落とさない限り、人類に未来は無いと考えている」

 

 

 

 翌日の午後、日本帝国から持って来た新型シミュレーターの設置と調整が終わり、唯依、ドゥール中尉、ブリジッス少尉、タリサ少尉、ジアコーザ少尉、ブレーメル少尉の計6人は強化服を着用し、多数の見学人が見守る中で、新型シミュレーターの機能と性能を確かめようとする。 

 

 

 

 

《2001年6月末》

 

「よう、シーマ・ガラハウ。元気そうで何よりだ」

 

 国連横浜基地で旧知の間柄のシーマ・ガラハウと再会したヤザン・ゲーブルは手を振りながら声を掛ける。

 

 とは言え旧知の間柄とは言っても友好的な間柄では無いのは確かだが。

 

「あんたもね・・・・」

 

 シーマは苦笑しながら応える。彼女からすればまさか横浜基地でヤザンと再会するとは思っていなかった。

 

「聞いたぜ。タイプ97のカスタム機、全部貴様の隊に配備されたんだってな」

 

「ああその条件として、あんたの所の隊と一緒に、2つのハイヴ内に突入しろってさ・・・・」

 

 彼女は肩を竦める。

 

「佐渡ヶ島と喀什だな。だがシーマ・ガラハウ、あんたが新鋭機の配備と引き換えとは言っても、そんな危険な任務を引き受けるとは思わなかったよ」

 

 ヤザンはニヤニヤしながら言う。

 

「あんたは相変わらず嫌な笑いをするねぇ・・・だけど引き受けるしか無くなってしまったんだよ。色々とね・・・」

 

「どうやら色々と教えて貰ったらしいな・・・」

 

「ああ、BETAがあそこまで厄介だったとはね・・・」

 

「だから生還の確率が低い任務を引き受けってか。生き残る事をモットーとしているあんたらしくないな」

 

「それはあんたも同じだろ?ヤザン・ゲーブル」

 

「チゲいねえ」

 

「で、ヤザン。あんたシロガネ中佐を見たら、真っ先に逃げ出したと言うのは本当かい?」

 

 シーマ・ガラハウは嫌味たらしく言う。

 

「・・・ああ本当の話しだ。隊長の若さと見てくれに騙されるなよシーマ。俺の目は絶対に誤魔化されない。あの隊長は絶対に何度も死んでいる。そして生き返りこの地獄に舞い戻って来ている・・・」

 

「なるほどね~。私もさっき合って目を見た時、全身が泡立つのを感じたよ。今でも鳥肌が収まらないでいるよ・・・」

 

「隊長はこのクソったれな世界を誰よりも知り尽くしているのは間違いない。だから自分から地獄の釜の底へと向かおうとしている。それしか人類が生き延びられる手段が無いのを知っているからだ」

 

「そう言う根拠はあるのかいヤザン」

 

「ほう、どんな?」

 

「今、A-01部隊でシミュレーターで喀什・ハイヴ攻略の訓練をしている最中だ。そのシミュレーターの内容が精密かつ精巧過ぎている。あれは経験者で無ければ、あのシミュレーターの内容は作れないだろうよ」

 

「つまりあんた達の隊長は、喀什・ハイヴ内への突入経験者だって言うのかい?」

 

「その辺りは言葉を濁して話さないが、少なくとも俺は確信しているよ」

 

「それを聞いて安心したよヤザン」 

 

「安心した?何処が?」

 

「つまりあんた達の隊長さんは、喀什・ハイヴ内に突入して尚且つ生還したんだろ?だったら今の内に入念準備をすれば生還する確率が高くなるって事だろう。だから分が悪いだけの賭けに乗らずに済んだ。だから安心したと言った」

 

「・・・・・・・・」

 

「どっちにしろ、BETAの頭を潰さなければ、私らの未来は無いのだから殺るしかないのさBETAの司令塔をね」

 

「チゲぇねな」

 

 

《2001年7月1日》

 

「私と白銀中佐が婚約・・・・」

 

 総合総技演習評価に向けて訓練への熱が入っていた第207B分隊所属の御剣冥夜だったが、訓練終了後に自分の身辺警護を担当する斯衛軍中尉の月詠真那から大事な話しがあると申し渡され、彼女の部屋へと入ったのだが、予想外の話しに呆然自失してしまう。

 

「はい、この様な大事な時期にこの様な事は話すべきではありませんが、城内省元老院と煌武院家家老会議の決定とあれば話すしかない次第です・・・・」

 

 真那は申し訳なさそうに恭しく冥夜に頭を下げる。

 

 後2週間もすれば、衛士になる為の最終試験と言うべき総合総技演習評価試験が待っている。本来ならこの様な話しは冥夜の正式な任官を待ってからすべきなのだが、城内省元老院と煌武院家家老達の決定である以上は、大事な時期でも話すしかない。

 

「月詠よ待って欲しい。確か白銀中佐には、譜代武家当主篁唯依殿がいたはずだが!?」

 

 一瞬の呆然自失から我に返った冥夜は、真那に問い質す。

 

「はい、その問題に関しては法律を変え、一夫多妻制へとこの秋の臨時国会で法律の変更を目指すとの事。その上で白銀中佐が18歳の誕生日に、篁唯依中尉と冥夜様の御結婚式を挙げると・・・・・」

 

 真那は武と(御剣冥夜)の結婚に賛成・反対を問われたら消極的賛成と言うだろう。

 

 武の帝国への功績は絶大の一言。本来なら両手を挙げて万歳三唱と言った所だ。しかし、彼女は武への警戒心を解いてはおらず、武が帝国と人類の為に武勲や功績を立てれば立つほど、武への違和感が増して来るのだ。

 

『白銀武の才能は異常過ぎる』

 

 そう、帝国と人類にとって武が必要な存在だと理解してはいるのだが、異常過ぎる才能が彼女の警戒心を招く。

 

 

「わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、」

 

「冥夜様?」

 

「私が白銀中佐と結婚、結婚、結婚」

 

 壊れた録音機材のように同じ言葉を発する主に真那が戸惑い様子を見る。見ると当の彼女の顔はまるで茹でタコように真っ赤な状態に。

 

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、夢ではないのだな月詠」

 

 顔の表情が十代後半の少女らしい、恋に憧れる女の子の表情へ。

 

「あの、冥夜様」

 

「夢ではないのだな月詠」

 

 冥夜は前のめりになり、真那の両肩を掴んで彼女の身体を前後に揺さぶる。

 

「夢ではありません冥夜様、ですから落ち着いてください」

 

「これが落ち着いていられるか月詠!私が白銀中佐と結婚出来るのだぞ!」

 

 男経験皆無な冥夜にとって白銀武は初めて触れた異性で、帝国と人類の窮地を二度も救った英雄で、自分達の訓練教官だ。自分達の長所をひたすら伸ばし、短所を改めて自分達の才能を伸ばす理想的な教官だ。そりゃあ訓練は厳しいの一言だか、ただ武に付いて行けば一流の衛士へと導いてくれる。そういう御方だと彼女はそう思っている。

 

 そして憧れの異性だ。

 

 その武との結婚ともなれば舞い上がるなとは言えない。

 

 普段は凛々しい姿をする彼女だが、その顔は、恋に、アイドルに、スターに憧れる年頃の女の子だ。

 

 その冥夜に身体を前後に揺さぶられる真那は、冥夜の額にチョップして落ち着かせる。

 

「いた!」

 

「冥夜様、どうか落ち着いてください」

 

「済まない月詠。だけど、私は明日から白銀中佐と、どんな顔をして会えば良いのだ?」

 

「そうですね・・・・」

 

 真那にしても頭が痛い。もう一人の婚約者篁唯依は遠いアラスカだ。城内省元老院と煌武院家家老達は、明らかに唯依の不在を狙っての決定と通達したのが見え見えだった。

 

 つまり『鬼の居ぬ・・・(ゲフンゲフン、失礼)、唯依が居ない間に既成事実を作ってしまえ』の考えなのだろう。

 

「いや、それだけではない・・」

 

「と、言いますと冥夜様?」

 

「私は今夜から白銀中佐の部屋に通えば良いのだろうか?」

 

「はい?」

 

 もし鏡がここにあれば、真那は物凄く間の抜けた自分の顔を発見するだろう。

 

「だってそうであろう。私は白銀中佐の婚約者だ。もう一人の婚約者の不在と寂しさを埋めなくてはならないはずだ」

 

「冥夜様?」

 

「ど、どうすれば良いのだ月詠、私に教えて欲しい」

 

 真那は別の意味で自分の主のこれからが心配になってしまう。

 

 自分の主が実は物凄く舞い上がり易い可哀想な性格をしているのではないかと。

 

 

 

 

《2001年7月7日》

 

 

 

 

 

 この日、国連安全保障理事会は【佐渡ヶ島・ハイヴ】の攻略を満場で可決した。

 

 総司令官は日本帝国海軍小澤大将、副司令官は国連太平洋艦隊司令官マクファティ・ティアンム中将。

 

 作戦決行日は2001年8月25日土曜日に決定。

 

 動員される兵力は帝国軍、国連軍、アメリカ軍、大東亜連合軍、オセアニア連合軍、大欧州連合軍義勇兵団合わせて述べ80万余で合った。

 

 人類は幾つかの不安定かつ不確定な要素を抱えたまま、残された力を使って反撃に出ようしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次の話しどうすっかなあ・・・・
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