《2001年7月15日日曜日》
毎日毎日訓練があるわけが無く、毎日毎日ひたすら試験機や改修機の試験運用に明け暮れるこのアラスカ・ユーコン基地も日曜日ぐらいは休みなのだが、各PXや売店は平日と変わる事無く忙しい。
基地内の売店に関して言えば、平日滅多に利用しない基地要員が日曜日に買い溜めしようと殺到するとあって、逆に忙しいのかもしれない。
夏には西インド諸島での耐環境試験を控えている部隊は私物の買い物に忙しい。特に女性は。
「え、私と一緒に買い物がしたい・・・・」
「はい、西インド諸島の耐環境試験に行く前に、私達と一緒に買い物に行きませんかタカムラ中尉?」
アルゴス試験小隊のPCオフィサーの3人が、PXで唯依と同じテーブルに同席し、唯依を歓楽街での買い物に誘う。
「・・・別に私を誘う必要は無いのではないか?」
「たまには私達と一緒に息抜きをしましょうよ。タカムラ中尉はこの基地に着任してからは、日曜日も本国への報告書とか作っていらして、碌に休みらしい休みを取っていないではありませんか!」
捲し立てまくるPCオフィサー3人娘の最年少フェーベ・テオドラギス伍長、その両側を挟んで唯依に圧を加えるニイラム・ラワヌナンド軍曹、リダ・カナレス伍長の2人。
「うっ・・・・」
「それとも今日も報告書作りですか?」
「い、いや、報告書作りは昨夜の内に済ませ、もう既に本国に送信済みだ」
それを聞いたフェーベ・テオドラギス伍長が目をキラキラと輝かせる。
(しまった!)
目をキラキラと輝かせ乙女ポーズを取るテオドラギス伍長を見た唯依は、馬鹿正直に答え過ぎたと内心後悔する。
【XFJ計画】は【不知火一型丙】のボーニング社での部分改修が済んだ直後から、正式にスタート予定だった。だが、国連本部とアメリカ政府・軍の
これに安堵したのは国連本部とアメリカ政府・軍の
逆に現用機の
武や唯依をはじめ関係各所に類が及ばない要矢面に出ていた巌谷中佐の国会証人喚問決議案まで出る事態となる。
「俺の首一つで済むのなら、安いものさ」
と飄々としている巌谷中佐だが、唯依としては気が気では無かった。
皇帝陛下、煌武院悠陽殿下、榊政権、他の摂家、国防省上層部、城内省、内務省等は巌谷中佐を擁護しているが、はっきり言って先行きは不透明だ。
「しかし困ったものだな、今の帝国は・・・」
「伯父様・・・」
「今回の計画に使われる技術の大半は、帝国陸軍技術廠で開発された技術ではなく、国連横浜基地で開発された技術ばかりだと言うのにな。それがあたかも、帝国単独で開発された技術ばかりだと勘違いしている輩の何と多い事か・・・・」
自業自得に等しい自滅テロで、アメリカ海軍が保有する作戦用艦艇の4割を失うアメリカ太平洋艦隊壊滅。その真相が明らかになるにつれて、今まで抑えられていた反米・反国連感情が噴出、帝国内各地では連日反米・反国連デモが絶えない。
帝国軍内では大伴中佐を中心とした国粋派、保守派、将道派か結託をして、多数派工作に余念がなく帝国軍内での支持を急増しているのが実情。
このままでは8月末に予定されている佐渡ヶ島奪還作戦がすんなり上手く行くのかすらも危ぶまれていた。
先日の合同作戦会議でも、大伴中佐が作戦全般と全軍の指揮権を帝国軍に持たせろと要求。特にハイヴ内突入の役目を担うA-01部隊と傘下部隊の指揮・命令権及び【フリーダム・ガンダムMarkⅢ】の強制接収を要求。これに反発した香月夕呼と激論となり、合同作戦会議は概要だけは決まったが、中味はすかすかで各々が勝手に、ハイヴ反応炉制圧する内容になってしまう。
大伴中佐は佐渡ヶ島・ハイヴとG元素の帝国独占を目論んでおり、自滅テロの損害賠償金代わりにするつもりにいた。
国連本部もアメリカ政府も夕子もそれだけは阻止したかった。だが、他国が黙りを決め込み、国連本部もアメリカ政府も自滅テロの後ろめたさから強気に出れず、夕子もA-01部隊と【フリーダムMarkⅢ】を守るのが精一杯で、大伴中佐の憎悪と敵意に満ちた剣幕に押され、佐渡ヶ島・ハイヴとハイヴ内のG元素は帝国独占と決まった・・・。
「白銀中佐の愛機【フリーダム・ガンダム】もですか」
唯依は空いた口が塞がらない。あれは普通の人間が操縦出来る機体ではないからだ。それにあれは絶対に自分達の技術で造られた機体ではないとも確信もしている。
現在進めている現用機の改修計画も全て、【フリーダム・ガンダムMarkⅢ】の技術の応用なのも唯依は気付いている。
(じゃあ白銀中佐は何処から、あの機体を持って来たの?)
それとなく探りを入れても見たが、その都度自分の事を唯依ママと呼ぶ霞に邪魔をされていたのだ。
(今考えると、私に余計な探りを入れさせない為の芝居だったのかもしれない・・・)
それを知るのは神ならぬ霞だけが知る。
「大伴は純血日本人の英雄を創りたいからな。それを実現させる為には【フリーダム・ガンダム】が必要なのだろう」
(伯父様は疲れている・・・・)
未だ四十代にも関わらず心労から来るのかやつれ、白髪が目立ち始めていた。
「ですがあの機体は・・・」
唯依は一度だけ乗せて貰った事はあるが、常に20Gを超す加速Gに耐えきれずコクピット内で失神してしまう醜態を晒した経験を持つ。その後武にお姫様抱っこをされ、医務室に連れて行かれた事は記憶にはない。
あれですっかり唯依は武のお手付き扱いされてしまうが。
あれを思い出すだけで、唯依は顔が赤くなる。
何せ医務室のベッドで目覚めた時は全裸だった。
「ちゅ、中佐ぁぁぁぁぁぁ、どうして私は、はだ、はだ、裸でいるんですかぁぁ!?」
唯依は目覚めると心配な顔をしながらベッドの傍に居た武にが目に入り、慌てて上半身を起こすと、掛けていたシーツが捲れて自分の裸体が目に入り、次に自分が全裸なのに気付いてしまう。
「済まない唯依、責任は取る。元気な子供を産んでくれ」
武は芝居掛かった済まし顔で言うが、唯依には武の芝居に気付く余裕は無かった。
「いやぁぁぁぁぁぁ!見ないでくださいーーー」
慌ててシーツで自分の裸体を隠す唯依。だが、時既に遅しでもあったが。
「篁中尉安心して下さい。中尉の強化服を脱がしたのは私ですから」
唯依の絶叫を聞いて医務室で書類仕事をしていた看護師が唯依を落ち着かせ様とし、武を咎めた目で見る。
唯依も半分涙目で武を睨むが迫力はない。むしろ恥じらいが一杯で顔を真っ赤にして半分涙目であった。ちなみに、武はそれを見て可愛いと思ってしまった。
「中佐、幾ら婚約者とは言っても今は結婚前なのですから、少し自重してくださいね」
と言って武をベッドルームから追い出し、カーテンを締めてしまう。
その後も唯依は満足に立ち上がれなかったので、丸一日武にお姫様抱っこされ、食事も『あ〜〜〜〜ん』攻めされたのは言うまでもない。
思えば横浜基地での日々は武と霞に振り回された毎日と言って良いのかもしれない。
ーーーー《閑話休題》ーーーー
「ああ分かっているよ唯依ちゃん。あれは明らかに我々の技術で造られた物ではないのだと・・・」
「そんな機体を手に入れても、満足に整備も出来ず持て余すのは目に見えています」
【フリーダムMarkⅢ】には専属整備班が付いており、武は専属整備班以外には触れさせようとはしない。
戦術機は高度な機械工学の塊だ。ましてやその機体の動力が今は只の机上の空論に過ぎない小型レーザー推進熱核融合炉ならば、それ専用の設備と機材が必要。帝国軍にはそんな物は用意は出来ない。
カゲユキ式小型レーザー推進熱核融合炉を搭載しジェネレーターの最大出力12,000kw。イオン・プラズマ・エンジンは最大加速度9,000G、最高加速度3,600kph、瞬間加速秒速90〜120mと規格外の性能を誇る。
「時間断層と時間断層工場のお陰だな。でなければこんな化け物動力炉とエンジンを作れなかったよ武」
そう言ったのは【フリーダムMarkⅢ】に始めて乗って完全にへたばっていた武の父親である白銀景行だ。
「本当に、これ誰が作ったのかしらね?気が付いたらオーブの地下に合ったのよ。お陰様でこの数年で、全ての研究開発が一気に百年も進んだわ」
床に突っ伏していた武にそう説明したのはモルゲンレーテ社技術開発総責任者エリカ・シモンズ女史。
「ですが、せっかくかねてから研究していた縮退性理論に基づく波動エンジンの製造データが手に入ったと言うのに、MSに搭載出来るサイズへの小型化出来ませんでした。無念」
心底悔しがっていたのはアルバート・ハイラインだ。
【フリーダムMarkⅢ】にはサポートAI【レイ】が搭載されて居るので、武以外が無断で乗り込もうとすると、【レイ】が機体を強制ロックさせてしまうので、うんともすんとも言わなくなってしまう。【レイ】を機体から取り外すそうとすると【レイ】は自己防衛プログラムに沿って、過剰自己防衛行動に出る仕組みになっている。
「とてもではありませんが、横浜基地以外用意出来るとは思えません・・・」
機乗経験を持つ唯依も全部知っている訳ではない。ただ特殊な動力と機関を採用しているのは理解はした。
「ああ分かっているよ、あれは我が国の手に負える代物ではないのはね。ただそれを理解出来ない連中が、声を大にして怒鳴り散らしているのが問題なんだがね」
「中佐・・・・・・」
「やはり白銀中佐の背後には、とんでもない組織が控えているのは間違いない。連中は国連日本支部と横浜基地を隠れ蓑として利用し、我が国に希少価値が高い希少鉱物や、高性能な工作機械を格安で販売し、格安の技術料で帝国企業にライセンス生産を認めている。連中の真意は未だに読めないが、少なくとも我が国への悪意や敵意はない。今はそれだけで十分なのだがね」
これだけでも今の帝国に取っては大助かりで、資源や工作機械輸出国に足元を見られて、高く吹っかけられる可能性がぐっと低くなる。調達価格が安くなれば、兵器生産効率も格段に良くなり、佐渡ヶ島奪還の準備は当初の計画を大幅に上回ろうとしている。
他国の情報機関も絡繰りに気付いたのか、国連日本支部と横浜基地にスパイを送り込むが、生還して来た者は一人も居ない。まさか国連日本支部と横浜基地に『そちらに潜入させたスパイが全員行方不明なのですが、何が知りませんか?』等と間の抜けた事を聞く理由にも行かず、ひたすら苦虫を噛み潰したように沈黙をするしか無くなっていた。
「はい・・・・・・」
「唯依ちゃん本当に済まない。結局君に人身御供の役割をさせるしかないのだよ。本当に済まない」
巌谷中佐は唯依に頭を下げる。どんな綺麗事や糜竺美麗の言葉を並べ様が、武が帝国に三行半を突き付けるのが怖くて堪らないのだ。
「伯父様、謝らないでください。私も名門譜代武家篁家の当主です。政略結婚は覚悟はしています」
とは言いながらも、色仕掛けを苦手にしているのは他ならぬ唯依本人だ。
まあ生真面目過ぎるのも考え物だろう。
まあ唯依も武との政略結婚も満更では無いのは確かだ。
時代が時代で18歳〜38歳の成人男性の数が極端に不足をしている現状では、武が複数の妻や愛人を持つのも認めるしかないのも。
「はあ〜年内にも挙式かあ〜」
「タカムラ中尉、今、なんて言ったんです?」
フェーベ・テオドラギス伍長が食べながら聞いて来る。
祖国ギリシャをBETAに滅ぼされた彼女からすればBETAの侵攻を何とか食い止め、佐渡ヶ島から除く国土全体をBETAから奪還した日本帝国は憧れと偶像の的だ。そのエリート部隊たる斯衛軍出身の唯依は凛々しさも合って、尊敬の念も加わり、半ばお姉様扱い。抱かれたいお姉様No.1に上げている程。
『『こんな所でカミングアウトしないでよ』』
同僚の2人、ニイラム・ラワヌナンド軍曹とリダ・カナレス伍長からは引かれてはいるが・・・・。
「ああいや、何でもない。歓楽街で買い物か。まあ偶にはいいだろう。私も付き合おう」
「本当ですか?」
「ああ、偶には買い物で気分転換するのも悪くはない」
「ありがとうございます。良いお店を知っていますから、紹介しますね♫♫♫」
「それで、何の買い物をするんだ?」
「1週間後には西インド諸島で戦術機の部品の耐環境試験をやるじゃないですか、そこで必要になる物を買うんです」
「戦術機関連の書物を買うのか?勉強熱心だな」
唯依は感心してうんうんと頷く。
「違います。日焼け止めの薬と水着です!」
予想外の返答に唯依の手がピタリと止まる。
「日焼け止めと水着?何故それが必要なのだ?」
「だって、常夏の西インド諸島に行くんですよ。今持っている水着だと胸がキツく為ってしまって」
「そうか、大変だなテオドラギス伍長・・・・」
古い貞操観念が強い唯依からすれば、そんな話しはPXでして欲しくなかった。
周囲のテーブルに居る者は聞く耳を立ててジッと様子を伺う。
「ですから、中尉もご一緒に水着を買いませんか?」
「あーテオドラギス伍長、済まない・・・・」
「はい?」
「私はここに来る前に、水着を新着したばかりなんだ、だからその・・・・」
「つまり持って来ているんですね中尉は!」
「声がデカい、テオドラギス伍長」
「あ、すみません。でも意外でした中尉が水着をアラスカに持って来ているだなんて、用意が良いんですね」
「いやこれは私の婚約者が【XFJ計画】のスケジュールを見て用意して下った物で、私が買った訳ではないのだが」
「シロガネ中佐はタカムラ中尉にはゾッコンなんですね!他には何を買って貰ったんです?」
武が唯依に買って上げた水着は2着。
1つ目は競技用ワンピース三角スイム、もう一つは山吹色紐ビキニの二つだ。
国連横浜基地に居た時に武に誘われる形で、基地内のプールで競技用ワンピース三角スイムのお披露目はしたが、山吹色紐ビキニは未着のまま。
譜代武家篁家女当主として古い貞操観念が強い唯依からしたら、競技用ワンピース三角スイムでも着用に抵抗と羞恥心があるのだ。露出をぎりぎり迄攻めた山吹色紐ビキニなんて恥ずかし過ぎて着用出来た物ではなかった。
唯依はテオドラギス伍長の両脇に座る2人を睨む。
さっさと朝食を詰め込んだ2人は、椅子から立ち上がり、テオドラギス伍長に腕を掴む。
「テオドラギス伍長早く行くわよ」
「そうね、タカムラ中尉失礼します」
ラワヌナンド軍曹の合図でカナレス伍長も動く。
「あのちょっと、私まだ食べ切れていない」
「いいから来なさい」
哀れテオドラギス伍長は同僚2人に連行されてしまう。
唯依はホッとするが、その時になって周囲の視線に気付いてしまう。
「コホン」
唯依が軽く咳払いをすると、全員が一心不乱に食事に専念し始め、唯依もさっさと食事を片付ける。
ただ一人サングラスの男を除いて。
「ほほう、これは使えるな」
「おーい聞いたかあ!ユイ・プリンセスが婚約者に買って貰った水着をこのアラスカに持って来ているのを」
日曜日なのだから各々休日を楽しめば良いのだが、余り馴染みや土地勘が無いと、出歩く事もしないのが整備班とかの実情だ。
必要なのは基地内の売店で買い揃えられるのも大きい。
なので手持ち無沙汰になる整備班は、何時もの溜まり場でに集まり、カードゲームや盤上ゲームに興じて丸一日を費やす事に。
そこにヴィンセント・ローウェル軍曹がアルゴス試験小隊や日本人整備兵に声を掛ける。
「えー本当ですか?あの堅物な篁中尉が?」
「いや本当の話しだって、PXでそれを聞いた奴らから聞いたんだぜ」
「へーどんな水着なんだろうな?」
男組は興味津々に考え、女組は軽蔑の視線を向ける。
「もしかしたらよ。来週から始まる西インド諸島での耐久試験で、ユイ・プリンセスの水着姿を拝められるかもしれないぜ」
「それこそ無い気がするなあ。あの篁中尉の性格を考えると婚約者にしか水着姿を見せないんじゃないですかね?」
「じゃあ賭けて見るか?俺はユイ・プリンセスの水着姿が見られるのに10ドル賭けるぜ」
「いいですね!俺もその賭けに乗りましょう」
もうこうなって来ると、男組は我々も唯依の水着姿を見られるか見られないかの賭けの輪ができ始める。
女組は『もう男はこれだからいやねえ』の視線を向ける。
国連軍基地側が和気あいあいなのと対照的に、ソ連軍側の基地の一室の空気は悪い。
「正直に言ってこの状況は芳しくはありません・・・」
そう述べたのはソ連軍士官イェージ・サンダーク中尉だ。
「原因はなんだね、同士サンダーク・・・」
「やはり日本帝国と国連日本支部がこのアラスカに持ち込んだ新技術の数々でしょう。正直に言ってここまでとは思っていませんでした・・・」
サンダーク中尉はあの【フリーダム・ガンダム】ならまだしも、【F-4ファントム】系列の筈の第一世代機に、準第三世代機並の性能を持たせるとは想定外過ぎた。
お陰でスカーレットツインを除くイーダル小隊の対アルゴス小隊の模擬戦の成績は散々だった。
「やはり搭載しただけで、戦術機の性能を一世代以上向上させる奇跡のOSの触れ込みは嘘ではありませんでした」
「それだけではあるまいサンダーク中尉。戦術機用の新型CPUを始め、水素エンジン、ラプターのステルスすら無力化してしまう新型レーダーとセンサー。全てに置いて帝国の技術力が我々ソ連やアメリカに勝っている証拠ではないか?」
「同士ロゴフスキー中佐の仰る通りです。このままでは我々の計画π3計画が破綻しかねません。抜本的な対策が今まさに必要かと・・・」
「待って欲しい同士サンダーク中尉。スカーレットツインは善戦したではないか!」
「確かにあの2人は善戦はした。だが最後は相打ちに持ち込まれて撃墜判定を受けた。この事実はどう判断する同士ベリャーエフ」
「それは・・・・・・」
π3計画の開発主任イゴーリ・ベリャーエフ主任の言葉が詰まってしまう。
今回の模擬戦は最初の予定に無かった出来事だったが、あの【フリーダム】さえ出て来なければ、多少の技術的劣勢は合っても自分達の計画の優位性は動かず、日本帝国の技術的優位性を打ち砕いて、ソ連のπ3計画の優位性を示す好機だとして安直に受けてしまったのがケチの付け始め。
機動力と即応性と電子戦でソ連の戦術機の性能を凌ぐ【79式撃震・改】を擁するアルゴス試験小隊は、ユウヤ・ブリッジス少尉がスカーレットツインを引き付けている間に、イーダル小隊の他の3機を撃墜認定し、スカーレットツインを完全包囲したのだが、スカーレットツインはここから驚異的な粘りと強さを見せたのだ。
一気に勝負を決めようとタリサ機が突出。そのタリサ機をすれ違いざまに撃墜認定させ、アルゴス試験小隊の包囲の輪が崩れスカーレットツインが包囲の輪から脱出。その後をブリジッス機、ブレーメル機、ジアコーザ機が猛追撃したのだが、次にジアコーザ機もすれ違いざまに撃墜認定を受けて脱落してしまう。
ここでアルゴス試験小隊は作戦を変更。ブリジッス機が囮となりスカーレットツインを足止めにして、狙撃を得意とするブレーメル少尉が狙撃でスカーレットツインを仕留めよとする。だが、その意図を見抜かれたのか、スカーレットツイン機はブレーメル機に向かう。
そこで信じられない光景を全員が見た。
スカーレットツイン機はブリジッス機とブレーメル機からの前後の挟撃を難なく躱して見せた。
『そんな、あの動きは白銀中佐と同じだ。中佐と同じ機動が出来る衛士が他にもいただなんて』
しかもソ連機には【XM・3】と【CPU・梓】が搭載されていないのだ。唯依が驚くのも無理はない。
『ステラ、ランダム回避だ!』
『了解!』
ブレーメル機はランダム回避で、スカーレットツイン機の反撃を躱そうとするが、スカーレットツイン機は事もあろうか、【XM・3】の機能を生かしてのランダム回避先をまるで予測をしているかの如く、射線軸をきっちり合わせて正確無比の攻撃を加えて来るではないか。
『こうなったらッ』
ブレーメル少尉は考え方を変えて刺し違え覚悟での撃ち合いに変更。刺し違え覚悟が功を奏したのか、自機の撃墜判定と引き換えに、スカーレットツイン機から左手使用不能と、左足損傷認定を勝ち取った。
もしこれが無かったら、ブリジッス少尉は負けていただろうと観戦していた者達の共通見解で、ブリジッス少尉も認めるしかなかったと言う。
「いいかね同士ベリャーエフ。我々の計画には失敗は許されないのだよ。少しでも党に計画の成功を疑問に持たれる訳には行かないのだよ」
「十分承知している同士ロゴフスキー中佐。だからこそπ3計画は何が何でも成功させなくてはならないのを」
「日本帝国はもう既に世界初の第4世代機を開発し、しかも推定第6世代機と見られている【フリーダム・ガンダム】とやらも開発した。これは由々しき事態だ。対BETA戦後の世界で我が国が主導権を握る為にも、日本帝国の戦術機を圧倒する力が必要なのだ。その要がμ3計画なのだと肝に銘じて置きたまえ同士ベリャーエフ」
「しかと【プラーフカ】を使っての痛み分け、これでは計画に疑問を持たれても仕方ないかと」
「同士サンダーク中尉・・・・」
「2人の回復具合はどうなんだ同士ベリャーエフ」
「後数日は【繭】の中での調整は必要だ。だがどう言う訳なんだ。あの2人と分けたアメリカ人衛士が健在なのは?」
健在だったアメリカ人衛士と言うのはユウヤ・ブリジッス少尉の事だ。【フリーダムMarkⅢ】程ではないが、唯依が持ち込んだ【79式撃震・改】と【89式陽炎・改】のコクピット周りには、オノゴロ島から国連横浜基地経由で技術供与で開発された対Gキャンセラーが設置され、衛士に掛かる加速度が大幅に軽減されている。新型のパイロットスーツも一役買っていた。その反面エロスは大幅に現象、女性陣からは好評では合ったが、男性陣からはブーイングの嵐だ。
「同士サンダークどう思う」
「はっ、日本帝国軍と国連横浜基地が改修した【F-4ファントム】には、コクピット周りに新開発された対Gキャンセラーが備えられ、衛士に掛かる加速度を大幅に軽減させる機能が付いているのが原因かと。後は宇宙服に似た新型の強化服もかなり高性能のスーツかと思ってよいかと」
「むぅぅぅぅぅ日本帝国め、そこまで我が国を引き離していると言うのか・・・・」
「我が国も、早急に日本帝国と国連横浜基地が開発した新技術の数々を導入しませんと、手遅れになるやもしれませぬ」
「我々の計画完遂の為にも、日本帝国と国連横浜基地が開発した技術を導入しろと言うのだな同士サンダーク」
「はい、私のイーダル小隊は我がソ連赤軍切っての精鋭の集まりでした。それが意図も簡単敗れとあっては、ソ連赤軍の面子以前の問題ですし、このままでは日本帝国に遅れを取るばかりです同士ロゴフスキー中佐」
「・・・分かった、党に掛け合うとしよう」
その頃ボーニング社への報告書を纏めていたフランク・ハイネマンは、自分の中の辻褄合わせに苦労していた。
「やはり合わない。どう考えても合わない・・・・」
遅れに遅れて漸く始まった【XFJ計画】だったが、大幅な見直しがなされて帝国陸軍技術廠と国連日本支部主導で始まった。
「それはそれでいい、面子等些細な問題だからな。最早旧式機に過ぎない【F-4】を第三世代機と互角に戦える機体へとアップデートさせた国連日本支部の技術の高さは見事としか言いようがない・・・だからこそ違和感が拭えない」
世界的に見れば第一世代機を第三世代機と同水準に引き上げられるのは福音だ。戦術機の半数が未だに第一世代機なのを考えれば明らか。国連日本支部が開発したとされる新技術を全て採用しなくても、【XM3】と【CPU・梓】を採さただけで第一世代機は第2.5世代機へとアップデートさせてしまうのだから。
新型機を買い揃えられない国々が、新OS【XM3】と戦術機用新【CPU・梓】に飛び付くのも無理はない。
その反面アメリカ製戦術機第2.5世代機をアメリカ側の言い値で国連や他国に売り付け、暴利を貪ろうとしていたアメリカ軍産複合体からすれば悪夢でしかない。
何しろ巨額の費用を投じて開発した第2.5世代機が途端に売れなく為ったのだ。
アメリカはもう既に第一世代機の生産は止めており、第一世代機に関する技術、生産ラインを第一世代機使用国に委ねていた。第一世代機はもう既に現地生産改修機なのだが、第2.5世代機に比べると隔絶の感は否めず、第一世代機ではBETAの侵攻を遅滞出来ても、押し戻せる切り札に成らないのははっきりしているので、アメリカ政府と軍産複合体は高を括っていた。たがそこに第一世代機を第三世代機並に高価なアメリカ製第2.5世代機よりもずっと安くアップデートが可能な技術が出来れば、高価な第2.5世代機を大量に買う余裕が無い前線国家はそちらに飛び付くのも当然であろう。アメリカ軍需産業は自滅テロの悪影響も加わり各国政府からキャンセルに次ぐキャンセルが相次ぎ、崖っぷちへと追い込まれつつある。
そして昨日、ニューヨーク・ウォール街の軍需産業関連株の下落に歯止めが全く掛からず、ニューヨーク証券取引所は遂に軍需産業関連株の取引中止を決定したばかり。多くの投資家が破産か破産一歩、いや、半歩寸前だと言う。
フランク・ハイネマンは以前から戦術機開発は技術的な問題と壁から、必ず第三世代機で行き詰まると予測していた。
実際に第三世代機を開発した日本帝国も大欧州連合も第三世代機を開発したのは良いが、技術的な問題の壁にぶち当たってにっちもさっちも行かなく為ってしまう。
長年個人的交友が合った巌谷中佐からそれを知ると、この技術的な問題を解決するには戦術機の大型化と大出力化で解決するしかないと考え、個人的なルートを使い数年掛かりで準備を進める。
その過程でYF-23 ブラックウィドウⅡの開発等をしたりもした。
全ての準備が80%整った時点でフランク・ハイネマンは巌谷中佐と連絡を取り、巌谷中佐に【XFJ計画】へのGOサインを出した。
だが全ての準備が整い日本陸軍技術廠から【94式不知火一型丙】2機がボーニング社のタコマ工場に届き、改修作業の真っ最中に突然の如く国連横浜基地にちゃぶ台返しに合ってしまう。
量産性、整備性を犠牲にしつつも近接戦闘なら第三世代機最強の評価を与えていた【00式武御雷】が、新OSと新CPUを搭載した【97式高等練習機吹雪】に良いように翻弄とコケにされ一方的に負けたと知った時、自分の耳目を疑い『私も齢を取り過ぎて耄碌したかな』と自分自身を疑った程だ。
その後に【97式高等練習機吹雪】には戦術機の瞬発力と反応速度を30%以上上昇させる新OSと、それをサポートする新型CPUが搭載されていると知った時、目から鱗が落ちるのを実感し天啓が舞い降りた心境だった。
そして最初にこのシステムを考えたのが誰かなのかを知りたかった。そして巌谷中佐経由で知った。かつての旧知の知り合い白銀景行の一人息子白銀武だと。
「【XM3】や【CPU・梓】に【水素燃料】とその応用技術なら私も指したる違和感は持たなかったかもしれない。だが【フリーダム・ガンダム】、あの機体はどこから持って来たのだ。ここまで来れば、今行われている日本帝国と国連横浜基地の戦術機開発・改修計画は、全てあの【フリーダム・ガンダム】がべースになっているのが分かる」
そう、フランク・ハイネマンが持つ違和感の原因が【フリーダム・ガンダム】に集約されている。機体全体がビー厶兵器の塊である【フリーダム・ガンダム】は推定第六世代機と見られているが、フランク・ハイネマンの見立ては違う。
「あの戦術機は第七世代機の性能を持ち、しかも我々以外の技術で開発された戦術機ではないのか?」
だからこそフランク・ハイネマンは【XFJ計画】のゲストとして武と【フリーダム・ガンダム】の参加を熱望したのだが、武と国連日本支部に佐渡ヶ島・ハイヴ攻略の作戦立案と準備を理由に断られてしまう。
「もし会う機会があるとしたら、佐渡ヶ島・ハイヴ攻略戦後になるのか・・・」
フランク・ハイネマンは佐渡ヶ島ハイヴ攻略成功を疑ってはいない。アメリカ軍を除く作戦に参加をする全ての戦術機には【XM3】【CPU・梓】【小型電磁モーター】【水素燃料電池】が搭載される【PHASE・1 】への改修が急がれていて、何とかぎりぎりで間に合う計算だ。
【97式吹雪・改】先行量産機が大隊規模で参加し、120ミリ電磁投射砲、120ミリ電磁加速狙撃砲、30ミリ電磁加速突撃砲と高周波長刀も十分に揃い、横浜基地から佐渡ヶ島を遠距離精密砲撃が可能な1200ミリOTHキャノン砲48門、新潟県沿岸からも203ミリラムジェット砲弾、帝国海軍戦艦部隊の主砲弾はS11砲弾が中心、軌道爆撃と対艦ミサイルを改良して大量の対レーザー撹乱膜を絶えず展開させ、BETAの光線級を常に無力化させる。
【超重光線級】が出て来れば【フリーダムMarkⅢ】が対処するだろうし、大欧州連合がハイヴ攻略用に開発した【MAヴァル・ヴァロ】が投入もされる。国連日本支部はそれとは別の【
戦艦だけでも大和級(=改)戦艦5隻、アイオワ級戦艦5隻の計10隻。
佐渡ヶ島に上陸する機甲戦術機部隊は約100個大隊、機甲戦車・自走砲部隊は約200個大隊、軌道降下部隊は国連軍軌道降下兵団第5・第6軌道降下兵団とアメリカ宇宙総軍軌道降下兵団第1・第2軌道降下兵団の4個軌道降下兵団。
作戦内容は宇宙から佐渡ヶ島へのレーザー撹乱膜の展開と大量散布でBETAの光線級を無力化、次に大和級(=改)5隻の艦砲射撃、MLRS多連装砲艦5隻、帝国軍203ミリ野戦重砲40両がラムジェット砲弾、国連横浜基地からはOTH1200ミリ超水平線砲48門で佐渡ヶ島を砲撃し、BETAの光線級を撃滅。その後に帝国軍が佐渡ヶ島に上陸し橋頭堡を確保し陽動作戦を開始。これが第一段階。
次に国連軍とアメリカ軍部隊が帝国軍の反対側からアイオワ級戦艦5隻の艦砲射撃の援護の元佐渡ヶ島に上陸、橋頭堡を確保し第二次陽動作戦を開始し、佐渡ヶ島の地上面制圧を開始、地上面制圧を目的に国連・アメリカ宇宙軍の4個軌道降下部隊が降下。地上陽動部隊と連携して地上制圧を終了させた後、BETAの反撃に備える。これが第二段階。
次にBETAの反撃が始まると同時に、【MAヴァル・ヴァロ】と【フリーダム・ガンダム】と国連横浜基地の新兵器を佐渡ヶ島に上陸させ、2門の大型荷電粒子砲、3種類の各種レールガン、S-11艦砲砲弾、ラムジェット砲弾、多連装ミサイル、1200ミリ多弾頭砲弾、小型無人戦術機【1式雷電】2個大隊96機でBETAの反撃を封じ込めつつ、ハイヴのモニュメントを破壊し、メインシャフトを確保する。これが第三段階。
問題はここからだった。ハイヴ内突入と反応炉の確保は当初国連横浜基地部隊の役目だったが、国連とアメリカへの憎悪丸出しの帝国陸軍作戦参謀の大伴中佐のゴリ押しで、富士教導団と帝都防衛軍から選抜された【94式不知火】部隊1個連隊120機も加わるが、反応炉とG元素の帝国独占を狙って国連横浜基地との共同作戦を拒否、それぞれが個別に反応炉制圧とG元素確保へと動く事になる。
大伴中佐は反応炉制圧とG元素帝国独占を国連軍とアメリカ軍が妨害するのなら、国連軍とアメリカ軍への攻撃を躊躇う気は更々無いのが問題だった。更にアメリカ軍内も一枚岩とは言えず、反応炉は諦めるにしても、G元素を帝国独占させるのは国家安全保障上反対とし、アメリカ軍独自のハイヴ内突入部隊を作り、帝国軍や国連軍よりも先に佐渡ヶ島・ハイヴのG元素を確保しアメリカ軍の管理化に置き、G元素の帝国独占を阻止すべきとの声が少数ながら出ていた。
そしてキリスト教恭順派の指導者マスター・テオドール・エーベルバッハはハイヴ内でのアメリカ軍、国連軍、帝国軍の同士討ちを狙い暗躍をする。
「今は彼等の勝利を祈るしかないか・・・」
フランク・ハイネマンは武に会うのは、佐渡ヶ島・ハイヴ攻略戦が終わってからでも遅くはないと割り切る事に。
特にやる事がないユウヤ・ブリジッス少尉は人気が無い基地内を手持ち無沙汰にぶらついていた。
そして苛立っていた。
何に対して苛立っているのか、自分自身で理解出来ないのが寄り一層彼を不機嫌にしていた。
先日のソ連赤軍イーダル小隊との模擬戦では圧倒的な優位な状況を作っていたにも関わらず、スカーレットツインに状況を引っくり返されて相打ちの痛み分けに終わる。
自分達が使っていた機体は第一世代機で、ソ連赤軍イーダル小隊が使っていた機体は第2. 5世代機と第三世代機なのを考えれば善戦と言っていいのかも知れないが、自分達が使っていた機体はPHASE·3への改修を終え第三世代機に勝るとも劣らない機体だった。
実際に【OS・XM3】効果で、イーダル小隊4機中3機を素早く片付け4対1と圧倒的優位を確立したが、スカーレットツインにものの見事に引っくり返されて仕舞う。例えタリサの突出があったにせよだ。
模擬戦終了後のデブリーフィングでは、唯依の御説教が始まるのではと皆で身構えたが、そんなに唯依は怒ってはいなかった。
『皆、御苦労だった。模擬戦それ事態は残念な結果に終わってしまったが、そんなに気にする事はない。スカーレットツインが我々の想定を遙かに上回る衛士だったからに過ぎないからだ。次に対戦する時は第四世代機【不知火】4機を用意するから、余り気落ちしない様に。私からは以上だ』
唯依はそう言うと足早にブリフィングルームを去ろうとしたのだが。
『あのー』
痛み分けに終わった戦犯マナンダル少尉がすごすごと手を挙げる。
『何だマナンダル少尉?』
『篁中尉は怒っていないんでしょうか?』
他3人は余計な事を言うなとマナンダル少尉を睨む。
『怒って欲しいのかマナンダル少尉?』
『怒って欲しいのではなくて・・・その・・・』
『確かに突出した件は問題だが、それを怒るのは私の役目ではなく、アルゴス試験小隊隊長ドゥール中尉の役目だ』
マナンダル少尉は恐る恐るドゥール中尉を見る。
そこには阿修羅の顔をしたドゥール中尉が、仁王立ちをしていた。
『ひっ!』
『私が気にするなと言ったのは、スカーレットツインの操縦技量の高さの事だ。まさか白銀中佐と同じ操縦技量を持つ衛士がソ連赤軍に居るとは思っていなかった。それに尽きる』
唯依が驚愕したのは、スカーレットツインが乗っていた機体が第2.5世代機Su-37UBチェルミナートル、しかも新型OSや新型CPUのサポート無しで、3次元立体機動をやって除けてしまった。例え複座型で分業していたとしてもだ。
だから唯依は気にするなと言ったのだ。
「次からは第四世代機を用意するか・・・」
唯依がPHASE·3に改修された【97式撃震】【89式陽炎】計8機をこのユーコンに基地に持ち込んで以降、PHASE改修型機と非PHASE改修型機との性能比較試験の毎日だった。
それなりに充実していたし、第一世代機を第三世代機並に改修した国連横浜基地の技術力の高さには驚き、一目二目も置くようにはなった。ボーニング社のタコマ工場では、【94式不知火一型丙】の改修作業が行われており、西インド諸島での耐熱耐久試験には間に合う予定だと知らされている。
【94式不知火一型丙】にはアメリカ製パーツと国連横浜基地で開発された新技術が盛り込まれ、カタログスペックだけなら、世界初の第四世代機【不知火・改】を上回る。自分はそのテストパイロットに選ばれたのだから、テストパイロットとして本懐とさえ言っていい。
ボーニング社の開発部では引き続き更にその上を行く【不知火弐型】の開発が進んでいる。国連横浜基地が新しく建てた【PHASE・PROJECT】で言えば世界初の宇宙戦使用を前提にした戦術機でPHASE·4に当たる。
【不知火弐型】は脚部を1.5m、胴体部を50cmも伸ばし、燃料タンクを増加し、拡張性を持たせた機体だったが、国連横浜基地が機体を大型化せずに、準第四世代機【97式吹雪·改】と第四世代機【94式不知火・改】を開発した為に、一時は御蔵入り仕掛けていた。だが、【不知火弐型】を寄り長時間の稼働を求められる宇宙戦使用機にする事で、【不知火弐型】再開発がボーニング社、帝国陸軍技術廠、国連日本支部との間で決まり、何とかして点数を稼ぎたい国連本部、アメリカ政府とアメリカ連邦議会は即効で承認。
再開発が決定した【不知火弐型】は脚部の燃料タンク増加は予定通りで変更無しだが、胴体部に酸素タンクと生命維持装置を増加し、宇宙で漂流してしまった時の生存率を上げる装置が取り付けられる事に。
ジェネレーターとエンジンは日本帝国製で、国連横浜基地と帝国陸軍技術廠が共同開発中のイオン・プラズマ・エンジンが採用が決まった。装甲は発泡金属装甲を採用、ボーニング社は特許を持つ武と審査券と使用許可券発行権を持つ国連日本支部との交渉を始めていたが、武と国連日本支部は国連本部とアメリカの散々なやらかしを理由に、発泡金属装甲製造及び使用を認める気はなかった。
【不知火弐型】が開発されれば世界初の第4.5世代機に成ると見られており、アメリカ合衆国の意地と執念が掛かった一大国家プロジェクトの様相を呈している。
このプロジェクトを成功させる為に、アメリカ合衆国政府はアラスカ・ユーコン基地に近いフェアバンクス基地に、ブレックス・フォーラ少将指揮下の水陸両用作戦群の一つブライト・ノア大佐の部隊を駐留させ、【XFJ】の妨害はアメリカ合衆国政府の威信に賭けて許さないと万全を期す。
「だが【フリーダム・ガンダム】には及ばねえ・・・」
ブリジッス少尉からすれば唯依の言い方が気に入らない。
「まるで第四世代機が無ければ、俺達があのスカーレットツインに勝てない言い方をしやがって・・・」
ブリジッス少尉は道端の小石を蹴飛ばす。
彼からしたら全てが気に入らない。
技術的先進性や向かうべき方向性も正しい。
だが気に入らない。
まるで引かれている線路の上をひたすら走らされている様で気に入らないのだ。
「これじゃあ達成感も何も無い。どうせ新型機を造るのなら【フリーダム・ガンダム】以上の戦術機を造るべきだ!」
ブリジッス少尉はここで何に対して苛立っているのか漸く理解した。
達成感の無さだった。第一世代機を準第三世代機化、第二世代機を準第四世代機化して仕舞う技術力の高さは大したものだと思う。だがそれはブリジッス少尉でなくても、出来る仕事だ。
「俺がしたいのは、俺しか出来ない仕事なんだ!プロとしての達成感がある仕事なんだ!俺がNo.1であるのを証明する困難な仕事をだ!」
「まるで見下されているようで面白くないぜ」
「どうやら荒れている様だなブリジッス少尉」
ブリジッス少尉は振り向くとサングラスをしたスーツ姿をした男が視界に入る。一目見てユーコン基地に所属していないのが分かる。
「あんたは誰だよ?この基地の人間じゃないな・・・」
「正解だブリジッス少尉。私はアメリカ国防省情報局DIAの捜査官デイル・ウェラーだ」
「情報局の人間が何でこんな所に居るんだよ?日本人に見付かったら半殺しにされても知らないぜ」
「アハハハ、大丈夫だブリジッス少尉。自分の身ぐらい自分で守って見せるさ」
「で、俺に何の用だ?」
「なあに、たまたま君を見掛けただけだ。だが随分と荒れている様なので声を掛けさせて貰ったんだ」
「じゃあこの基地の上層部に用があったのか?」
「ああその通りだ。地下に潜った対日強硬派の残党が、【XFJ計画】を妨害しようとしている情報があってね。ユーコン基地の司令部と対策を練っていたんだよ」
「はっ、その対日強硬派とか言う連中、落ちる所まで落ちたもんだな。正真正銘のテロリストに成り下がったか。アメリカの面汚しが」
ブリジッス少尉は軽蔑侮蔑を隠そうとしない。BETAの妨害があったとは言え、何も知らない数万のアメリカ軍将兵を自滅テロで無駄死にさせてしまった罪は万死に値すると確信しているだ。
「上も神経をピリピリさせていてね。何があっても【XFJ計画】を妨害させるなと、地下に潜ってしまった残党探しに躍起になっているのさ」
「で、そいつらがここを襲って来る可能性は?」
「今のところはフィフティー・フィフティーだな。このまま大人しくはしていないだろう。時間が経てば経つ程連中の方が不利になるからな」
「ちっ、そんな事をして何が楽しいのか俺には理解出来ねえよ」
「まあ君はテストパイロットとしての仕事に専念すればいい、その者達への対処は私の仕事だからな」
「あぁ分かっているよ」
「で、話は元に戻るが、随分と荒れていたが、何か面白く無い事があったのかなブリジッス少尉?」
「はぁ~、みっともない所を見せち待ったな~」
「愚痴ぐらい聞いてやってもいいぞ。少しは気が晴れるだろう」
・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
「なる程な。つまり仕事それ事態は順調だが、敷かれたレールの上を走らされている様で、テストパイロットとしての達成感が無いと言う事か?」
「あぁそうだよ、旧式機を近代改修して、準第三世代機にするコンプセントは理解はするし、どこの国も高価な第2.5世代機や第三世代機を買える訳じゃあないかな。【XM3】や【CPU・AZUSA】だけを取っても、第一世代機しか買えない国からしたら、救世主に等しいだろうさ。だけどさぁ、それは俺で無くても良いはずだ。俺がしたいのは俺しか出来ない仕事なんだ」
「まぁ確かに必ずしも君である必要は無いはずは認めよう。恐らくは日本帝国でも同様のテストはしているだろう」
「だったら「ならば視点を変えて見たらどうだね?ブリジッス少尉」
「視点を変える?」
「あぁそうだ、日本帝国でも同様のテストが行われているとしたら、何が目的なのかを」
「そりゃあ一つでも多くのデーターが欲しいからに決まっている」
「多分君の言う通りだろう。一つでも多くのデーターを得る事で、癖が違う衛士に合ったOSを提供出来るはずだ。つまりは前線で戦う衛士達の生存率は上がる。そして劣勢を余儀なくされている前線国家は楽に戦える様になる。今の日本帝国の様にだ。違うかねブリジッス少尉?」
「ッ」
「君の気持ちも分かる。大方旧式機や現用機の改修機ではなくて、【フリーダム・ガンダム】を操縦したいのだろう?」
「何故それを?」
「何故って、君は全く隠そうとしないではないか、【フリーダム・ガンダム】を操縦したいと」
「ああそうだよ、俺は【フリーダム・ガンダム】操縦したいんだ。そして【フリーダム・ガンダム】の量産機をアメリカで製造して量産する。そして地球からBETAを一掃してアメリカの威信と誇りを取り戻す。俺が取り戻してみせる!」
ブリジッス少尉は両拳を握り締めて力説する。
そんなブリジッス少尉を見て、ウェラー捜査官はそっとため息を吐く。そして、
「ユウヤ・ブリジッス、流石は南部の名門ブリジッス家の跡取り息子だけたって誇り高きアメリカ人だ。そして君の愛国心の強さと高さには敬意を表したい。だが今のアメリカには君の愛国心と要望に応えている余裕はないんだ。悪いがね・・・」
「なんでだよ・・・」
「太平洋艦隊と第一海兵軍団を壊滅させた自滅テロが原因だよブリジッス少尉。あれで我がアメリカ合衆国は、世界中の信用を失い、自分達の足元が崩れ始めている。多くの国が我が国の戦術機を買わなくなった。自業自得と言えばそれまでなのだろうが、軍需産業株の値崩れは止まらず、ニューヨーク証券取引所は軍需産業関連株の取引を停止してしまい、多くの投資家が破産か破産手前に追い込まれた。そして多くの前線国家が日本帝国と国連横浜基地の軍事技術と戦術機に、苦しい戦局の打開の活路を求めている。日本帝国と国連日本支部はここぞとばかりに、軍事技術と新型機の輸出の商談を始めてもいる」
「【XM3】と【CPU・AZUSA】と【フブキ・Custom】か・・・·」
「その通りだブリジッス少尉。価格も安くてね【XM3】は数千ドル、【CPU・AZUSA】は数十万ドル、【フブキ・カスタム】はF-16Ç・TYPEと同じ国内向け価格だそうだ」
「・・・幾ら何でも安過ぎるぜ。ダンピングしているんじゃねえの?」
ブリジッス少尉からしたら信じられない思いだ。あれだけ価値が高い物を、買値側の言い値で自分達から売りに出している感じだ。そして輸出実績欲しさに、ダンピングしているのではと疑ってしまう。
「その可能性は否定出来ないが、日本帝国と国連日本支部は他国の足元を見て、暴利を貪ったりしないと声明文を出している。我が国が前線国家の足元を見て、我が国の言い値で戦術機を買わせようとしたのと大違いだ。前線国家が相次いで我が国との契約を止めようとするのは当然だよ」
「これから先どうなるんだ・・・」
ブリジッス少尉からしたらショックだった。まさかこの短期間でここまで事態が悪化しているとは予想外過ぎた。
「今はこれ以上事態が悪化しない様打てる手は打って置くしかないな。我が国も対BETA戦に積極的に戦闘参加でしか信頼回復は難しいだろう。自滅テロはアメリカ合衆国に取って本当に高く付いてしまった、この信頼回復は並大抵な努力では回復しないだろう。だから君には多少の不満を飲み込んででも、【XFJ計画】をやり切って貰わないと困るのだよ」
ーーーーー《ハワイ州オアフ島》ーーーーー
アメリカ陸軍所属アルフレッド・ウォーケン少佐は佐渡ヶ島・ハイヴ攻略アメリカ軍司令官ロバート・スミス中将に呼ばれ、第25軍司令部に出頭していた。
「アメリカ陸軍所属アルフレッド・ウォーケン少佐、ただ今出頭しました」
金髪碧眼白人でアメフト選手かと勘違いしそうになる程の立派な体格をしたウォーケン少佐は、アメリカ東海岸白人保守層の理想を体現したアメリカ軍人と言えよう。
彼の父親も元アメリカ軍軍人で今はアメリカ連邦議会上院議会上院議員で、有力な次期大統領候補でも或る。
佐渡ヶ島・ハイヴ攻略アメリカ軍司令官ロバート・スミス中将は、ジェラルド・ウォーケン上院議員とはアメリカ陸軍士官学校の同期で、無二の親友の間柄だ。
「まあ座って楽にしてくれ、話しが長くなるからな」
「はっ」
ウォーケン少佐は勧められる儘にソファーに座る。
ロバート・スミス中将は葉巻に火を入れ、ゆっくりと椅子から立ち上がり外を見る。
「・・・葉巻はお止めになったのでは?」
「最近ストレスが溜まる事が多くなってね・・・・」
ウォーケン少佐はストレスとは自滅テロの事を意味するのを理解した。今目の前に居る中将は、その後始末に奔走扠せられているのを知っていた。多くの将官が国家反逆罪で罷免や逮捕され、アメリカ軍軍組織はその穴埋めが出来ず後遺症に苦しんでいるのを実感していた。
「君の目から見て今のオアフ島はどう見えるかね?」
「はっ、漸く活気が戻って来たかと・・・」
ウォーケン少佐は我ながら嘘が下手だと思った。このオアフ島はアメリカ合衆国建国史上最悪の自滅テロでアメリカ海軍、海兵軍団合わせて10万余の将兵を失い、その家族関係者が一番多く住んで居る場所なのだ。
自滅テロで父・母・夫・息子・娘を失った家族や関係者は自滅テロの真相が明らかになるに連れ、自滅テロを企んだアメリカ軍上層部に激昂した。連日連夜海軍司令部、海兵軍団司令部に押し掛け、家族を返せと喚き散らし、手当たり次第物を壊した。
ウォーケン少佐も暴動発生に備え、部隊に24時間警戒体制を取らせ駐屯基地で待機していた。
(自滅テロを引き起こした首謀者達は、アメリカに取って都合の良い傀儡国家を作るに当たって、一度日本帝国の政治・軍事・経済の中枢を破壊する必要があったと言うが、人類の盟主を自負するアメリカが破っていい事ではない!)
思い出すだけでも腸が煮えくりかえる思いだ。
日本帝国でも反国連反米でもが絶えず起こり、日本帝国軍内も国粋派を中心とした反国連反米勢力が力を増大させ、榊政権を中心とした国際協調路線派は窮地に追い込まれていると言う。
「アルフレッド、嘘はつかなくていい」
「はい・・・」
今のアメリカは自信を失っている。
自滅テロで10万もの将兵を一度に失い、対BETA戦始まって以降の最大規模の損失が、自滅テロと合ってはアメリカンジョーク一つすら飛ばせる元気も出て来ない。
今回の佐渡ヶ島・ハイヴ攻略戦に参加するのは、対BETA戦勝利と言うカンフル剤がほしいからだ。
「今度の佐渡ヶ島・ハイヴ攻略をどう思う・・・」
「何が何でも成功させなくてはと考えています」
「結果的に我が国の国家安全保障を大きく脅かす事になると分かっていたとしてでもかね?」
「それはどう言う意味でしょうが中将?」
「君に見せたい物がある」
スミス中将はそう言うと、デスクの引き出しから一つのファイルを取り出して、ウォーケン少佐に差し出す。
「これを見た前」
「失礼します・・・・」
ファイルを手にした彼は、ファイルの内容に目を通す。
すると次第に顔が強張り出す。
「中将、これは・・・」
「そうだ、日本帝国軍の国粋主義派のリーダー・オオトモ中佐が密かに計画している
「これは事実なのですか!?」
「今裏付けを取らせている最中だ。だが、残念な事にかなりの角度が高い情報と見ている。しかも厄介な事に、ソ連の阿呆共もオオトモ中佐の計画に裏で協力している」
「交渉で止める事は出来ないのですか?」
「現時点では止める事は出来ないが大勢の見方だ。私も全くの同感でね、それ程までに、我が国はやり過ぎてしまった。だから君に来て貰った・・・」
「私に何をしろと言うのです中将?」
(まさか私に政治交渉でもしろとでも言うのか?)
思わず身構えるウォーケン少佐。
オオトモ中佐の計画を知ったホワイトハウス、国務省、国防省は頭を抱えている。
普通に考えて自分達を殺す事に何の躊躇いもない連中が海の向こう側に存在し、大量の大量破壊兵器を持って居て、そのボタンを笑いながら押そうとしている。
なのに自分達だけ大量破壊兵器を持たないで居るのは馬鹿阿呆を通り過ぎて、ただの愚劣でしかない。
とある国務省幹部は
「奴等の愚行で向こう百年間は祟られる!」
「何が愛国者だ!奴等は只の愚者の集まりだ!」
口を開けば罵倒する言葉しか出て来ない。
国務省は食糧支援増大、国防省は武器支援の拡大と、東ユーラシア大陸戦線でのアメリカ軍、国連軍、日本帝国軍の3軍共闘を日本帝国側に働き掛けてはいるのだが、日本帝国内の国際協調路線派の力は弱まる一方なのだ。
「そこでだウォーケン少佐、貴官を本日付けで持って中佐に昇進させる事にした」
「中佐に昇進ですか?」
「そうだ、貴官には中佐に昇進させ、機甲戦術機部隊1個連隊を任せる事にする。就任祝いとして、アメリカ陸軍が保有している【ラプター】4個中隊48機、【ストライク・イーグル】6個中隊72機、計120機を任せる事にした」
「・・・狙いと目的は何でしょうか?」
「G元素の確保だ。帝国軍、国連軍寄りも早くハイヴ内に突入して、佐渡ヶ島・ハイヴ内のG元素を確保するのだ」
「国連軍は兎も角としても、帝国軍が黙っているとは思えませんが・・・」
最悪背後から帝国軍に攻撃されてしまう危険が伴う。
前門のBETA、後門の帝国軍。両方から前後を挟撃されてしまうのは真っ平御免だった。
「今の帝国軍にG元素を渡すのは余りにも危険過ぎるのだアルフレッドよ・・・」
「仰りたい事は分かります。ですが、部下を無駄に死なせたくはありません・・・」
「大丈夫だ。帝国領土内へのG弾使用を匂わせればいい。そうすれば帝国軍も無茶はすまい。その後の外交交渉でG元素を帝国に別けるにしても、あくまでもアメリカの監視下での平和利用に限定させれば良い」
「それでは自滅テロ事件を引き起こした対日強硬派を笑えないではありませんか・・・」
「そうだ笑えない話しだ、だが我々はもう既に日本国内にG弾の無警告使用を行った上に、S-11爆薬を満載したHSST2隻を帝国の東京に落とそうとした。幾ら日本人がお人好しだとしても、もう日本人がアメリカに信を置こうとは思わないさ。だったらアメリカは悪役に徹するしかないのだ。アメリカの安全保障を守る為にだ」
「だったらせめて特殊部隊を使って、日本の大量破壊兵器の研究開発施設を爆破する等をして、日本に対する警告で済ますべきではありませんか?」
「無理だな」
「無理ですか?」
「ああ無理だ。研究開発施設がかる場所が極めて悪い。ワッカナイ市はBETAの北海道侵攻に備えて要塞化され、従事3万もの兵が駐留する強固な都市要塞だ。しかも北海道の地形が邪魔をしラプターを使っても、必ず日本帝国軍の警戒網に引っ掛かる。更に研究開発施設の直ぐ側には、一般人が数多く住む高層住宅街が在る。間違いなく一般人を巻き込む戦いになる」
「なる程、例え目的を達成出来たとしても、脱出は困難を極めますね」
北海道とその周辺の地形及び、日本帝国軍の北方軍の配備状況を見て唸るしかなかった。
「その通りだアルフレッド。ラプターがステルス機だとは言っても、あれだけのデカい図体した機体が、全く一目に触れずに目的地に近付くはまあ不可能だな」
「そうですね・・・」
ウォーケン少佐は特殊部隊やラプターを使っての研究開発施設の破壊計画を捨てた。
結局は日本帝国を大量破壊兵器で持って頭ごなしに抑えるしかないのかと思うと、自分が情けなく為って来る。
「なあに、日本帝国が引き続きアメリカ合衆国の衛星国として存在するのなら、きちんと利益と飴玉は与え続けてやるから心配するな」
「私が心配しているのは日本人の国民感情です。このまま頭ごなしに抑え続けていれば、何時かは最終的破局が訪れてしまうのが見えています。その時どうすれば良いのかと・・」
「ならアルフレッド、お前が大統領になれ、アメリカ軍切っての日本研究家のお前なら、私達の世代寄りもずっと上手く日本と付き合って行けるだろう」
「中将、私には父程の政治家の才能はありませんよ」
「そう思っているのはお前だけかもしれんぞ。少なくともお前なら、今の大統領よりも上手く大統領が務まると思っているんだがな」
ウォーケン少佐からすれば核のロシアンルーレットを遣っている心境だった。いつ臨界爆発するのか分からない原子炉の上での核のロシアンルーレット。
「もしG元素を巡って帝国軍と武力衝突した場合、本当にG弾をお使いになるのですか?」
「そうならないよう、国務省と国防省が日本帝国政府と交渉中だ。私とて、無闇矢鱈と大量破壊兵器を使いたい訳ではないのだ。それに大量破壊兵器に関する最終的決定権はアメリカ合衆国大統領に帰する。一介の軍人が決めて良い事ではない」
「・・・・分かりました、正式な辞令と命令が交付された以上、アメリカ合衆国軍人としての本分を尽くすまでです」
ウォーケン少佐はソファーからゆっくりと立ち上がり、ロバート・スミス中将に敬礼する。
「ああそうだ、一つ聞くのを忘れていた」
「お前は【フリーダム・ガンダム】をどう思う」
「どう思うと言いますと?」
「我々の手に追える代物かどうかだ、専門家としての意見を聞きたい」
「先ず無理ですね、あれは我々の手に追える代物ではないからです」
「理由は?」
「【フリーダム・ガンダム】は間違いなく核動力機だからです」
「やはりそうか、戦術機開発の専門家でも【フリーダム・ガンダム】が核動力機かどうかで意見が別れていてな。やはり核動力機だったか。分かった、あれは我々の手に負えない機体なのが分かればいい。では部隊編制を急いで暮れ」
「はっ」
ウォーケン少佐は帰隊する車の中で考え込む。
(ステイツはかなり焦っているな・・・)
自滅テロで太平洋艦隊の7割喪失、第一海兵軍団消滅事件以降ホワイトハウスとペンタゴンの混乱と狼狽は酷く、混乱と狼狽が収まる気配がない。佐渡ヶ島・ハイヴ攻略への直接参加を決めたのも、混乱と狼狽を鎮める為でも合った。
BETAを敵として戦えば当面の目標が定まり、混乱と狼狽が収まると考えたからだ。
実際に混乱と狼狽は収まりつつある。
だが次に来たのは、自国民や世界中からの憎悪、敵意、悪意、不審、侮蔑、軽蔑等の負の感情を込めた目だ。
幾ら日本帝国をアメリカに取って都合が良い傀儡国家にしたかったからと言って、一国の政治、軍事、経済の中枢を大規模破壊テロで破壊して良い法は何処にも存在しない。
明日は我が身と恐れた国々は一斉にアメリカと距離を取り始める。
核兵器保有国たる中国、ソ連、南アフリカ、フランス、イギリス等はもしアメリカが自分達に仕掛ければ、即座に核兵器無制限使用に踏み切ると警告し、核原潜が所在不明だ。
非核兵器国は我が身をアメリカから守ろうと、核兵器保有国に接近し、核兵器保有国に核兵器の開発に非公式に打診し始めている状況。
核兵器保有国も自分達の味方を増やそうと、非核兵器国に核の傘を打診中。ソ連も日本帝国に軍事同盟締結、核の傘の提供と核兵器とG弾の共同開発を非公式に打診中。
『どうして何故こうなった、いったい誰の責任なんだ!』
アメリカ合衆国大統領はホワイトハウスで喚き散らす。
ホワイトハウスは実質機能しているとは言い難く、対日本帝国に関して言えば国防省と国務省に丸投げで、丸投げされた国防省と国務省も窓口毎に、バラバラに対応しており日本帝国政府側が困惑を隠せないでいる。
現政権下で散々冷や飯を喰わされていた知日派は、空いたポストを手に入れようと個別に勝手に動いていた。
それでも今回の佐渡ヶ島・ハイヴ攻略の為に必要な戦力の抽出と、作戦参加する全軍が消費するであろう補給物資の5割を用意する辺りは、超大国アメリカ故なのだろうか。
(一度合同作戦会議で日本帝国側に押し切られた恰好とは言え、佐渡ヶ島・ハイヴの反応炉とG元素の全て日本帝国側にすると認めた手前、これをひっくり返すのなら、間違いなく日本帝国軍の鷹派は黙っていない。間違いなく武力衝突は起きる)
ウォーケン少佐は頭の中でシュミレートするが、自分達アメリカ軍に勝ち目がある様には思えなかった。
(相手は間違いなく【TYPE94シラヌイ】だ。しかも新型OSと新型CPUを搭載した機体なのは間違いない、この二つを搭載しただけで戦術機の即応性は30%も増大する・・・)
アメリカ軍内では【XM3】と【CPU・梓】は未だ未採用で、テストもされていない。ウォーケン少佐は早期導入派では合ったが、《バイ・アメリカン法》でアメリカ軍は外国産兵器・装備の導入には厳しく制限され、国家安全保障委員会とアメリカ連邦議会上下両院の2/3以上の承認と賛成多数決議が必要になる。
これだけでも数年の月日が掛かってしまうのだ。
4月上旬に【YF-22Aラプター】4機が一方的に【TYPE97フブキ・カスタム】4機に一方的に負けた記憶は新しく〘YOKOHAMA・SHOCK〙事件として記録に残る。
早期導入派のウォーケンからすればこの時点で、国連横浜基地の先進的技術を全面採用すべきだったと考えていたのだったが、アメリカ軍は国産品以外の使用を制限する《バイアメリカン法》が立ちはだかった。
〘YOKOHAMA・SHOCK〙事件後にアメリカ連邦議会で公聴会が開かれたが、数日間の議論の末に、アメリカ連邦議会と国家安全保障委員会は、国連横浜基地が開発した新技術と新型機の高性能を認めながらも、〘バイアメリカン法〙に基づいて全て不採用とし、これらを上回る新技術と新型機の開発を行うで終わる。
公聴会に参加したウォーケン少佐や他の早期導入賛成派は落胆したのは言う迄もない。
(帝国軍の【TYPE94】が何処まで改修されているのかは不透明だが、少なくとも【ラプター】のステルス技術は帝国軍には通用しないと思った方がいい。そうなるとこちらの方が圧倒的に不利だな)
こうなって来ると国産推奨法たる〘バイアメリカン法〙が疎ましくなって来る。
(自国の国防の要を外国に依存したくない気持ちも解らなくはないが、行き過ぎれば自分達に跳ね返って来る。ワシントンの連中にはそれが分かっていない)
それでいながら【XFJ計画】を利用して、国連横浜基地と帝国陸軍技術廠の技術の吸い出しを狙ってもいる。
その為なら佐渡ヶ島・ハイヴ攻略にも直接参加もするし、全補給物資の半分も用意するし、佐渡ヶ島・ハイヴの反応炉とG元素もくれてやるの気前の良さを見せもするが、土壇場でちゃぶ台返しも平気でやるし、同盟軍の背後を撃つ事も一切躊躇わない。
アメリカの闇を良く知るあるアメリカ人は語る。
「アメリカを敵にするのは最悪だが、友人にするのはもっと最悪で、借金するのはそれ以上の最悪である」
と。
(補給を受け難いハイヴ内での戦闘は極力避けたい。一度でも弾薬と推進剤が尽きたらOUTだ)
ウォーケンはハイヴ内での限定された空間での30%も即応性を向上した【TYPE94シラヌイ】とは戦いたくはなかった。
《2001年7月末西インド諸島》
「おいユウヤ見ろよ、ユイ・プリンセスのあの姿。かぁーあれで婚約者持ちだなんて残念でならないぜ」
「・・・別に興味ねえよ。しかし、良くあんなのが通ったなぁ・・・」
「何でもオルソン大尉の発案らしいぜ。シロガネ中佐からユイ・プリンセスにプレゼントした品物の中味を知ったオルソ大尉が上層部の許可を取ったんだと。軍の広報も兼ねてシロガネ中佐宛のビデオレターも製作するんだとよ」
「それでかよ。だから広報部の連中がタカムラ中尉の周りに居るのかよ」
ブリジッス少尉は心底呆れてた。
「国連軍がシロガネ中佐に頭が上がらないとは言っても、特別扱いが過ぎるだろう」
唯依の恰好は山吹色の夏用サマードレスとサファイア付き純銀製ネックレスに純銀製の指輪姿。
唯依本人は最初は嫌がったが、国連軍広報部主任オルソン大尉の拝み倒しに負け、胸元と身体のラインがくっきりと陽射しに映える夏用サマードレスの着用に至る。
ついでに山吹色の紐ビキニが贈られても来たが。
サマードレスには申し訳程度に階級章と記章が付く。
「タカムラ中尉、顔が硬い、もっと柔らかく、もっと笑顔に、愛しの婚約者シロガネ中佐にもっとSEXアピールしないと駄目ですぞ」
オルソン大尉の唯依への演技指導?にも熱が入る。
「あー、第3カメラ、そこじゃない!もっと前から撮影するんだ!そう、そこだ!タカムラ中尉の凛々しさと艶やかさを映える様に撮るんだ!」
「オルソン大尉、熱入っているなあヒュウ」
そう言うジアコーザ少尉もカメラを持って口笛を吹きながら熱心に写真撮影をしていた。
周りを見ると、どこもかしこもカメラを持った野郎達ばかりだった。
「まあそう言うなよ。上も必死なんだよ。佐渡ヶ島・ハイヴ攻略まで一月を切った。BETAの【超重光線級】に対抗出来るのはシロガネ中佐と【フリーダム・ガンダム】だけなんだからさ」
「だからこそ、【フリーダム・ガンダム】の量産機とあれ以上の戦術機を開発すべきなんだ。シロガネ中佐もコウヅキ大佐もそれを拒否しやがって」
ブリジッス少尉は吐き捨てる様に言う。
「だがなあ、シロガネ中佐とその上官コウヅキ博士とやらが拒否する理由も分かるぜ」
「佐渡ヶ島・ハイヴ攻略迄一月も切ったと言うのに、聞こえて来るのは不協和音ばかりだ。肝心要の日本帝国と我らがアメリカ合衆国は一向に相手を信用せず、互いを後門の狼扱いして相手が裏切る事を前提にしているんだからさ」
「ッ!」
「そんな状況の中で、【フリーダム・ガンダム】の量産機やあれ以上の戦術機を開発して見ろ。間違いなくBETAそっちのけで人類同士で戦争を始めてしまうぞ」
「・・・・・・・・・」
「それでなくてもアメリカは前科複数犯持ちだ。アメリカにだけは【フリーダム・ガンダム】の製造データは渡せないのは無理もないさ」
ローウェル軍曹が言う前科複数犯は、佐渡ヶ島陥落後に一方的に日米安保条約を破棄しアメリカ軍を撤退させ、それが原因で国連第11軍司令部もグアム島へと避難。結果として国連軍の増援部隊の到着が遅れ、相模川防衛戦の構築が出来ず関東防衛戦の一角が突破されてしまい、更にそこにBETAの侵攻も阻止出来ず横浜の惨劇へと繋がってしまう。
もしここでBETAが多摩川を渡河し第二帝都・東京へと攻め込んでいたら、日本帝国の命運は尽きていただろうが共通認識だった。
その後の明星作戦でもアメリカ軍は全く動かず、浦賀水道の沖合で高見の見物に終始し、戦況が不利になるなら否やG弾の無警告使用に踏み切り、BETA諸共帝国軍、国連軍、大東亜連合軍、その他の義勇軍を吹き飛ばしてしまう。
そして2001年5月には日本帝国をアメリカにとって都合が良い傀儡国家にしようと、戦術核に匹敵するS-11爆弾の爆薬を満載したHSST2機を国連横浜基地に突っ込ませ、国連横浜基地だけではなく東京湾全域を壊滅的被害を齎せ様とした自滅テロ事件が記憶に新しい。
「・・・・・・・・・・・・」
「まあアメリカに復讐の機会を伺う日本帝国軍内の反アメリカ鷹派に、【フリーダム・ガンダム】の製造データを渡さないのは国連日本支部なりのアメリカへの配慮だろうさ」
結局アメリカ政府が取った措置は大伴中佐の大量破壊兵器開発の暴露と、経済制裁、食糧支援の打ち切り。アメリカ軍の佐渡ヶ島・ハイヴ攻略作戦の不参加をチラつかせた事だ。
これに対して日本帝国側は昨日今日なので反応はない。
アメリカ政府は国連本部と国連日本支部に対して個別に対応し始める。
焦点に為ったのは佐渡ヶ島・ハイヴの反応炉とG元素の管理と所有権の問題。国連日本支部が所有する【フリーダムMarkⅢ】の製造データの問題だ。
アメリカ政府はアメリカが独自に進めていた国連予備計画オルタナティブ5計画を断念した上で、国連決議無しでのG弾は使用しないと約束。ユーラシア大陸での人類反攻作戦では国連軍の優先的指揮権を認め、国連主導計画オルタナティブ4計画の支持と参加し、出し渋っていたXG-70の国連横浜基地に無償提供すると言うもの。
これに対して国連横浜基地副司令官兼オルタナティブ4計画の最高責任者香月夕呼は、
『XG-70は最早不要ですので、【フリーダム・ガンダム】に関する製造データの公開は拒否させて頂きます』
丁寧かつ冷徹にアメリカ政府の申し出を拒んだ。
【フリーダム・ガンダム】の製造データが欲しいアメリカ政府からしたら、宛が外れ釘をさされた恰好だ。
『本当に要らないのですかなドクター・コウヅキ?』
トマカク国務長官は3月末頃からXG-70は要らない不要の通達を受けていたのだが、足元を見られない為のブラフだと思っていたのだ。
『国連横浜基地はもう既に、XG-70に取って代わる戦略航空機動兵器を保有しているからです』
『そんな馬鹿な。ドクター・コウヅキ、変な見栄を張るのは止めた方がいい!』
『見栄ではありませんわ。今証拠をお見せします』
そう言った夕子は映像を切り替え、オノゴロ島から昨日届いたばかりの『デストロイ・ガンダムMarkII』の映像をトマカク国務長官に見せる。
映像を見たトマカク国務長官は全身を黒ずくめにした禍々しい異様を放つ『デストロイ・ガンダムMarkII』に息を呑んだ。
『・・・・ドクター・コウヅキ、これは一体・・・』
夕子は一世一代の女優と演技力を発揮する機会と内心張り切る。
『【フリーダム・ガンダム】の製造データー元に造られた【デストロイ・ガンダム】です。基本性能は軍事機密に当たりますので教え出来ませんが、これ一機で軽々と一千万人級都市を壊滅させる事が可能です・・・・』
夕子本人も【デストロイ・ガンダムMarkII】の性能を知った時は目を剥いたものだ。
何しろ半恒久的動力炉【太陽炉】を2基搭載し、エンジンは【イオンプラズマエンジン】で、大気圏内での最高時速は
マッハ20も出るし、航続距離は無限大、トランザムを使えば大気圏離脱も可能で、正面から【超重光線級】との撃ち合いを想定して造られた航空戦略機動要塞だ。
オリジナルのデストロイ寄りも全長は20 mも長く、全幅は6mも広く、ビー厶シールド内蔵複合兵装防楯を12基装備し【サイコミュ】で高速誘導し、【超重光線級】をズダズダに切り裂く。
『オノゴロ島の連中、物理学の法則を頭から無視しているんじゃないわよ!』
金属バットで大暴れ。
『夕子先生落ち着いてください』
『放せー!白銀ー!』
『離しません。霞、鎮静剤だ!』
『はい、武さん』
霞が武に渡したのは伝説のハンマー【香100tハンマー】だった。
ーーーーー《閑話休題》ーーーーー
代用ODLも完成し、当面必要な代用ODLが届いたので後は00ユニットを作り純夏を覚醒させるだけになる。
そして鑑純夏はオノゴロ島機関に保護されているメンデルグループの生き残りの研究者、科学者達の協力で、ほぼクローン体として復元されていた。
ただテロメアの問題は解決されたとは言い難く、あのラウ・ル・クルーゼより増しな程度なのかも知れない。
『お分かり頂けましたかトマカク国務長官、もうXG-70を必要としない理由が』
『・・・・・・・・』
『それに欧州連合から提供がありました【MAヴァル・ヴァロ】も完成しました。アメリカ軍が佐渡ヶ島・ハイヴ攻略に参加をしなくても十分に勝算はあります。あぁアメリカは
佐渡ヶ島・ハイヴのG元素を独占したいんですね?』
『そ、そうだ、我が国の安全保障上他国にG元素を持たせる気はない。これだけは譲れぬ』
『では私達にアメリカの為に態と負けろと仰るのですか?』
『誰もそんな事は言っていないー!』
トマカク国務長官は図星を突かれ、激昂して立ち上がる。
もう一つの画面の向こう側には、国連本部の安全保障委員会のメンバーが揃っていて、頭を抱える者、頭を振る者、今にも新任したばかりの国連アメリカ代表に殴り掛からん顔で睨む者と様々だ。
新任したばかりの国連アメリカ代表の目は泳いでいる。
『私にはそうとしか聞こえませんが』
『ドクター・コウヅキ、私が言いたいのは、今の日本帝国にG元素を渡すのは危険だと言いたいんだ。もし今の日本帝国にG元素が大量に渡れば、我が国への復讐心からG弾を搭載したICBMを必ず作り出す。それだけは阻止しなくてはならないし、それに協力してくれと言っている・・・・』
トマカク国務長官は言うだけ言うと席に座る。
『日本帝国をここまで追い詰めた責任は我がアメリカ合衆国にあるのは承知している、だが我が国の国家安全保障の観点から、我が国への復讐心を強く持つ日本帝国にG元素を渡したくはないのだ』
『ですが日本帝国が核兵器保有国ソ連や中国からG元素を手に入れれば意味はないかと』
アメリカが常に日本に対して頭ごなしになるのは、日本帝国が核兵器保有国では無いのが大きい。日本帝国のG元素保有に目鯨を立てないのは、ソ連と中国が核兵器を持っているのが大きい。
『平和利用ならG元素の利用は認める。だがそれはあくまでも我が国の監視、管理下が前提条件になる』
アメリカ政府としてはG元素の監視、管理を理由に合法的にアメリカ軍を日本帝国内に進駐・駐留させたい。その為にこれまで『臆病』と蔑まれても動じる事なく拒否していた、アメリカ正規軍の東ユーラシア大陸への派兵も決定もした。
だからと言って、アメリカにBETAとどこまで本気で戦う気は有るのかは不透明だ。そしてどこの国もアメリカを信じていない。
『・・・先ほども言いました。日本帝国が核兵器保有国ソ連と中国からG元素を入手すれば意味を無くします。私が言っている事を理解していますかトマカク国務長官』
もしその時は日本帝国はソ連と中国から核兵器も手に入れるだろうし、ソ連も中国も日本帝国と国連日本支部の力を利用とするだろうし、頭ごなしに自国を押さえよとするアメリカの軛から解放され様と民族・国家の存亡を賭けて徹底的に足掻こうとするだろう。
過ぎた時間を言っても詮無き事だが、アメリカが日米安保条約を一方的に破棄をせずに、踏みとどまっていればこの様な事態は避けられただろう。アメリカに隷属するのなら、刺し違え狙いで死兵と為って最後の一人まで戦うと。
『ではドクター・コウヅキ、我々はどうしたら良いのだ』
夕子はここでカードを切る事に。
『そうですね、アメリカが保有する全てのG弾の所有権を放棄し、国連本部及びオルタナティブ4に移管する事をオルタナティブ4計画の最高責任者として、正式に提案します』
夕子は然りげ無く言うが、アメリカ政府と国連本部に特大級の爆弾を炸裂させた。
国連本部では夕子の提案に国連軍総司令官ゴップ大将がにやりとほくそ笑む。
『ドクター・コウヅキ、それは・・・・』
『アメリカ政府・軍が私の提案に賛同し、直ぐに実行に移して下されば、G元素の平和利用の為に、佐渡ヶ島のG元素を国連本部の管理下に置くのに賛成をします。G元素は地球の復興の為に平和利用されるべきあ合って、特定の国が自国の利益の為に独占して良い物ではありませんですので』
「白銀、殿下が貴方と話しがあるそうよ」
「殿下が・・・・・」
武に即座に頭に浮かんだのは第207訓練小隊の事だ。
第207訓練小隊は全員無事に総合総技演習評価に合格し、晴れて戦術機の訓練過程へと進んだ。
国連軍第11軍、帝国軍、斯衛軍の今期からの訓練生から【XM3】と【CPU・梓】【水素燃料電池・エンジン】【間接・駆動用小型電磁モーター】【全天周囲モニター・リニアシート】【耐Gキャンセラー】を搭載、つまりPHASE・2に改修された訓練機に乗って戦術機訓練を受けている。
訓練機と最新型シュミレーターには3Dデフォルメされた訓練教官担当の【まりもちゃん】、アグレッサー担当の【たけるくん】が訓練生のサポート役として、コクピットに3D立体映像として表示される仕組み。
これは採用されている訓練部隊では好評で、来期からは国連軍、帝国軍、斯衛軍全訓練部隊で採用される見込みだ。
「この忙しい時に、貴方を帝都城に呼び出さなくても良いのにね?」
佐渡ヶ島・ハイヴ攻略戦迄もう一月を切り、国連横浜基地と国連第11軍は作戦準備に余念がない。
武も佐渡ヶ島・ハイヴ攻略を優先するしかなく、第207訓練部隊を見てやる余裕は余りなかった。まりもからは、
『中佐殿は国連軍中佐として果たすべき役目をお果たしください!』
と言われ、訓練生達からも、
『中佐殿は私達の英雄にして、憧れであり目標です。ですから中佐殿は国連軍中佐として、BETAを倒す事に専念を』
全訓練生を代表して、榊千鶴に言われてしまっては、手隙の時に様子を見るだけに留まっている。
『お前達、白銀中佐の期待に応えろ。お前達の為にここまで環境を整えて下さった白銀中佐を失望する結果を出すな!』
とまりもの叱咤激励罵倒が訓練生に飛ぶ。
『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』
まりもからすれば、今期の訓練生は恵まれているの一言だった。一型に強化された【97式高等練習機吹雪一型】は即応性に置いてノーマルタイプの【94式不知火】より優り、機動性は第2.5世代機【F-15 ストライク・イーグル】と同格の性能を持ち、電子戦能力は【YF-22Aラプター】をも凌ぐ。
十分に実戦に耐えられる高性能機に仕上がっている。
それでいながら訓練生でも操縦しやすい機体でもある。
(私達の時代にもこんな機体があったのなら、友軍の戦死者の数を減らせて、京都も陥落しなかったかもしれない)
まりもは頭を振って教導に専念をする。
『白銀中佐が後十年早く産まれていたら・・・・』
そんな声が国連軍、帝国軍、斯衛軍の古参組から漏れる様にまりもの耳に入って来る。
まりももそんな声が聞こえて来る度に、それに同意してしまう自分が居るのが嫌だった。
今期からの訓練生の一人辺りの実機での訓練量が平均2倍から3倍に増えたのは朗報だろう。
シュミレーターでの訓練も重要だが、実機での訓練に勝る物はなかった。
これは【水素エネルギー】実用化が大きい。
水素エネルギーは野球ボール1個分の大きさでガソリン20リットル分の燃費が良く、調達価格もガソリンの数分の一なのも実機での訓練量増大に一役買っていた。
国連軍、帝国軍、斯衛軍の各訓練部隊から国連横浜基地と白銀中佐宛に、感謝状が届いていた。
日本帝国政府にはPHASE·2迄改修された【97式高等練習機吹雪1型】への問い合わせが殺到し、予約注文がちらほらと出始めている。
アメリカ軍需産業株が下落しているのとは対照的に、日本帝国の軍需産業株には世界中の投資家が買い始め右肩上がりの曲線を描き始めていた。
月詠真那は武への警戒心は減らしてはいないが、以前程露骨に警戒はしていない。
これは武と冥夜の婚約話しが城内省、五摂家間の間で持ち上がっているのと、武に冥夜を利用して武家村で出世してやろうの野心が無いのをどことなく理解をしたからだ。
「当然の事ながら冥夜の件ですよね?」
「・・・恐らくそうでしょうね。煌武院家も、御剣冥夜とあんたを婚約させて、一定の発言力と影響力を保持したいのが見え見えね」
「なんでまた、そんな話しに」
「あちらもオノゴロ島の存在に気付いたって事よ。篁家のお姫様だけでは心持たないから、この基地に居る御剣冥夜も宛がおうと言うんでしょう」
夕子はバカバカしいと肩を竦める。
「つまり俺経由でオノゴロ島からの更なる支援を引き出したいんですね・・・」
「オノゴロ島を打ち出の小槌か何かと勘違いしているんじゃないかしら?」
「でも、武さんのハーレム作りが一気に進みます」
其れまで書類仕事を黙ってしていた霞が混ぜっ返す。
「か、か・す・み?」
「言われて見ればそうよね、一層の事、まりもを含めた207訓練生全員と婚約したら?」
「はい?」
武は間の抜けた顔をする。
「法律も一夫一妻制から一夫多妻制に変わるし、男の数が激減してしまったから選り取り見取りよた・け・る」
「神宮寺軍曹からも訓練生の間では、白銀中佐の話題が尽きる事はないって聞いています。私も武さんのハーレムに加わりたいです」
「良かったわね武。一層の事この横浜基地を武のハーレム城にしていいのよ」
夕子と霞の2人はいつの間にか武を挟み込んでソファーに座っていて、自分の腕を武の腕に絡ませ身を寄せている。
「コホン、あちらには多忙を理由に断ってください」
「断れると思っているの?」
「ちょっと夕子先生、何処に触っているんですか?」
「元気ね此処は?」
「武さん、身体は正直です」
「ちょっと霞まで、夕子先生の悪い所を真似しなくていいから」
「武さん、これは妻の勤めです」
「うふ、社も言う様に為ったわね」
ーーーーー《閑話休題》ーーーーー
唯依は宛行われたコテージの一室で武から贈られて来たピアスと山吹色の紐ビキニをジッと見る。
「確かに迷惑を掛けてしまった自覚はあるが・・・・」
迷惑とは遭難である。東西交流の一貫として、東側の女性衛士と同じボートに乗った時に、東側の女性衛士が急に倒れてしまい、偶々近く居たブリジッス少尉、ローウェル軍曹の2人に助けを求め、ブリジッス少尉が唯依のボートに乗り込んでローウェル軍曹が引き換えしたのだが、急な悪天候に見舞われてしまい、急遽近くの無人島へと避難した。
現地の国連大西洋方面第4軍は3人が行方不明になった一報を受けた後、急遽対策本部を立て第4軍総掛かりで捜索を行おうとした。だが、悪天候が更に悪化したので天候の回復を持って3人の捜索を行う方針を立てた。しかしそこで、どう言う訳か国連本部国連軍総司令部経由で唯依が行方不明になったのが国連横浜基地に伝わってしまい、武が殿下との会談をキャンセルをして大気圏往還ロケットブースターを使い、宇宙経由で【フリーダム・ガンダムMarkⅢ】で西インド諸島グアドループ基地へと駆け付けた。
「しかも白銀中佐が煌武院悠陽殿下との会談をキャンセルしてまで、私の捜索活動を優先されてしまわれた。たたでさえ佐渡ヶ島奪還作戦の準備で忙しいにも関わらず・・・」
面目も無いとはこの事だが、今更後悔しても後の祭りに過ぎないし、帝国本国の反応が恐ろしかった。
婚約者が居る身でありながら、他軍、しかも帝国国民からはBETA以上に嫌われ憎まれているアメリカ軍の男性将校と一緒に行方不明。しかも水着姿で遭難し、帝国国民から今や救世主的存在となっている武に、煌武院悠陽殿下との会談をキャンセルさせ、佐渡ヶ島奪還の準備で忙しい時期に地球の反対側まで自分の捜索救助をさせてしまった。
帝国本国に知られでもしたら、お家お取り潰しも有り得る事態でもある。
一番怖いのは下世話な誹謗中傷だ。それでなくてもアメリカ軍の自爆テロ以降、国際協調路線派が国内の反対を押し切って計画の大幅な見直しを行い、実行した【XFJ計画】の評判は悪いの一言だ。反国連・反アメリカを標榜する帝国陸軍参謀本部所属の大伴中佐の勢力が日に日に増大し、巨大な軍閥政治集団化し始めている現状で、アメリカ陸軍ブリジッス少尉と如何わしい関係等と疑われてはならない。
「身の潔白を証明しなくては・・・・」
唯依は斯衛軍では禁止されているピアスを手に取る。
「篁家を守る為にも、私が白銀中佐の女である事を証明しなくてはならない」
唯依はピアスをグッと握り締める。結果として斯衛軍に居られなくなるかも知れないが、篁家の存続の危機、体裁を取り繕う場合でもないし、羞恥心にも耐えなければならない。
結果悪天候にも関わらず無人島に避難していた3人は、武と一緒に捜索協力をしてくれたイーニャ・シェスチナ少尉の協力も合って武は3人を発見。
決して広いとは言えないコクピット内、総勢5名を乗せ無事にグアドループ基地への帰還を果たした。
これは【フリーダム・ガンダムMarkⅢ】の多少の悪天候なんぞモノとしない馬鹿げた大出力エンジン・イオン・プラズマ・エンジンがあればの話しだろう。
そして反省会と言うか罰ゲームで、武が唯依に買って上げた山吹色紐ビキニを武の前で披露する羽目に。
「タカムラ中尉、シロガネ中佐を何時まで持たせるの?」
時間に為っても唯依が中々表に出て来ないので、ステラ・ブレーメル少尉が唯依の部屋を訪ねる。
「ブ、ブレーメル少尉、い、今行くから、もう少しまて」
中からの唯依の返答についクスクスと笑ってしまう。
それから更に5分が過ぎ、少しばかり心配になったブレーメル少尉がもう一度中に声を掛けようとした時、コテージの扉が開く。そして恐る恐る唯依が顔を出す。
「ま、ま、ままままま待たせたなブレーメル少尉」
顔を真っ赤にしたピアスを耳に付けたバスルーム姿の唯依が姿を現す。
「あら?ピアス、しかもエメラルド・グリーンの・・・」
「白銀中佐が国連横浜基地を離れる前に私に買って下さったのだ、本来斯衛軍では禁止されている物だが・・・」
「ふう〜ん」
意味ありげな笑みを浮かべるブレーメル少尉。女が男が暮れたピアスで耳を開ける意味は深い。つまり悟ったのだ。
「な、なんだブレーメル少尉」
「何でもないわよ。さあ、行きましょうタカムラ中尉。これ以上シロガネ中佐を待たしては駄目よ」
「わ、分かった・・・」
ブレーメル少尉は唯依の手を取り、顔を真っ赤にした白のバスローブを山吹色紐ビキニの上に身に纏った半ば強引に撮影会場へと連れて行く。
撮影会場では電源を落とし右膝を砂浜に付けた【フリーダム・ガンダムMarkⅢ】と、上半身をチャック式パーカを身に着けている脚本を読まされている武。熱弁を振るうオルソン大尉の姿がある。
今回の撮影曰く遭難罰ゲームは、【フリーダム•ガンダムMarkⅢ】バックにしての武と唯依のラブシーン!だ。
多くのカメラ小僧と化したギャラリーがフラッシュを炊くなか、唯依はブレーメル少尉に連れられて武の前に。
「シロガネ中佐、オルソン大尉、タカムラ中尉をお連れしました」
唯依は武の顔を真っ直ぐ見る事が出来ないでいた。
長い軍隊生活、こう言っては何だが、衛士の強化服は男女共に身体の線がハッキリと分かり、男性衛士強化服は普段からどれだけ身体を鍛えているのか良く分かる仕様だ。
特に武は無駄な贅肉が何一つ無い女の唯依から見ても付い見惚れてしまう程に引き締まっている。
チャック式パーカーは開いており、引き締まっている胸元と腹筋が良く見える。
見慣れている筈の男性の身体の筈だが、改めて見ると武が男性で、自分が女性なのを意識してしまうのだ。
「御苦労ブレーメル少尉。それではタカムラ中尉、先日の遭難事件での東西交流レクリエーションが中止となり、色々とタイムスケジュールが押している中、大幅な見直しと相まってしまった。そこでだ、我が広報部は考えた。我ら人類に取って一番大切で普遍的なモノは何かを。それは愛だ!」
「さっ」
オルソン大尉が熱弁を振るう中、ブレーメル少尉は今にもオーバーヒート寸前で硬直して動かない唯依の背中を押す。
押された唯依はバランスを崩して武の胸に抱き着く。
一斉にカメラのフラッシュが炊かれ、撮影班に加わったカナレス伍長、ラワヌナンド軍曹、テオドラギス伍長の3人は何故か追加で横浜基地から送られて来た、横浜基地製試作デジタル8ミリビデオを使い3方向から撮影する。
尚もオルソン大尉の熱弁は続く。
「任務とは言え、遠く引き離された2人、そしてタカムラ中尉が嵐で遭難、それを知ったシロガネ中佐が、最前線に近い横浜基地から【フリーダム・ガンダム】に乗って地球の反対側へと駆け付け、悪天候にも関わらず救助を行い、見事タカムラ中尉を救助に成功した。諸君、これぞ正に『愛』、普遍的な『愛』と言わずにして『愛』とは言えぬ!」
(これでは晒し者だ)
オルソン大尉の熱弁が続く中、唯依は心底思った。そして周りを見たくなかった。
「捜索救助活動が上手く行ったのは、ソ連側の全面協力が合ってからなんだよな。ソ連側の協力が無ければ、あの悪天候の中では、唯依達を見付けられなかったよ」
武はボソッと呟く。
唯依もその辺りの事情を知りたかったが、サンダーク中尉と武の間でどうやら密約があるのか、武は唯依には詳しく話してくれなかった。
「ちゅ、中佐、一回離して貰えますと助かります」
「どうして?」
「どうしてでもです」
「でもオルソン大尉が用意した脚本だと、俺がこのまま唯依のバスローブを脱がして、次に唯依が俺のパーカーを脱がすって段取りになっている」
「そ、そうなんですか?」
「ピアス付けて暮れたんだね唯依」
ピアスに関して言えば武の落ち度だ。斯衛軍の軍規ではピアスの使用は私生活でも禁止され、最悪斯衛軍からの強制除隊も有り得る。国連軍の軍規を基準に考えてしまった。
その唯依が耳に穴を開け、ピアスをする。唯依が本当の意味で武の妻になる覚悟を決めた証だ。
「それではシロガネ中佐、タカムラ中尉始めてください」
オルソン大尉の合図で唯依の公開処刑が始まる。
「唯依、いいね」
「コクン」
唯依は武の腕の中で頷いた。
唯依の公開処刑の続き、要望が有れば書くよ。