マブラヴif短編集   作:地獄の一丁目

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武ちゃん何周目? 93式不知火開発裏話し③

《1992年12月下旬日曜日・南富士裾野演習場》

 

「なんなのこれー!ー?!!!」

 

 日本帝国陸軍技術廠での【新OS・XMシリーズ】の基礎シュミレーター訓練を終えた西ドイツ陸軍の女性衛士イーリス・アーデルグンデ少尉は、更に1週間掛けて慎重に改修作業を終えた【Tornado·Custom】に意気揚々と乗込み、愛機【Tornado·Custom】を始動させ勢い良く富士教導団のハンガーから発進させるが、新OSシリーズ搭載機に改修された【Tornado·Custom】は搭乗者の予測を超える速さでハンガーから飛び出してしまった。

 

 一瞬にして高度200mに達してしまい、危うく機体のコントロールを失い掛けてしまう。

 

「このぉー!」

 

 急いで試作新型オートバランサーを使い、空中一回転しながら機体制御を取り戻し、跳躍ユニットを逆噴射させ何とか機体を着陸させた。

 

「き、機体が敏感過ぎる。まさか、ここまで機体が敏感になるだなんて・・・」

 

 日本帝国に到着した翌日から、機体は全て帝国陸軍技術廠に運び込まれ、キルケ・シュタインホフ少佐達も、帝国陸軍技術廠で【XMシリーズ】に慣れて貰う為に、シュミレーター訓練で基礎を受けていた。

 

 シュミレーターでも敏感な操縦に四苦八苦したが、機体の改修作業が終わる頃には、【XM2】の基礎訓練過程を難無く熟せる様にはなった。

 

 次は場所を帝国陸軍富士教導団の南裾野演習場に場所を変えて、実機訓練と応用過程に入った。

 

『アーデルグンデ少尉、大丈夫か? 応答しろ』

 

「シュタインホフ少佐、大丈夫です。機体が思っていた以上に、敏感でして・・・」

 

『帝国陸軍とシロガネ・Erfinder(エルフィンダー(発明家))から言われていたはずだ。『実機訓練と応用過程訓練では操縦系がより敏感になる』と。もう忘れたのか?』

 

「そうでした・・・」

 

 西ドイツ陸軍が武の事を『Erfinder(発明家)』と呼ぶのは、武が軍属で無いのと、下手な教授、研究者、技術廠よりも戦術機に関する深い知識と造詣を持つ『クリエイター』から来る。

 

 戦術機開発の父にして鬼才の異名を持つ『フランク・ハイネマン教授』も、武の異才に一目を置き、年明け早々に来日予定だと言う。

 

 『フランク・ハイネマン教授』の日本帝国には初来日ではあるが、日本帝国との関係は深く、日本帝国の戦術機開発史に置いて大きな影響力を持つに至る。

 

 特に日本帝国の戦術機開発の『三羽烏』と呼ばれる3人巌谷榮二、篁祐唯、白銀影行の内二人、巌谷榮二と篁祐唯の2人はフランク・ハイネマン教授の直接の師事を受け、白銀影行はマクダエル・ドグラム社の品質管理部門の資料室に入り浸りの日々を送った。

 

 軍部代表として渡米していた巌谷榮二や篁祐唯はそんな白銀影行の行動に疑問詞していたが、意外にもフランク・ハイネマン教授は『彼は良い所に目を付けたね』と、白銀影行の行動を肯定した。

 

 白銀影行はかねてから、日本帝国工業製品の各社毎の品質と生産性のばらつきと不効率を何とかして是正したかった。

 

 優秀な戦術機を開発・量産をきちんと行うには、産業界の技術と品質と生産力の向上が必要不可欠と考えていた。

 

 そう言った意味ではマクダエル・ドグラム社の品質管理部門の資料室は宝の宝庫で、責任者エドワード・デミング氏を知己に持てたのは僥倖と言えただろう。

 

 本国に帰国した白銀影行は、戦術機開発を行う傍ら、エドワード・デミング氏を品質管理特別顧問として日本帝国に幾度か招聘しては【統計学的品質管理】の重要性を訴える。

 

 そして白銀影行の目論見は3年足らずで、生産性を300%も上昇させ、生産コスト40%削減で日の目を見せ、【統計学的品質管理】の正しさを証明した。

 

 その一人息子が戦術機開発で大きな才を見せ、技術的ブレイク・スルーを引き起こし、『発想と知識と技術が二十年先を行っている』と関係者を瞠目させる。

 

 今現在、武は殆ど学校に行かずに以下の新技術や新兵装の開発に邁進している。

 

 ①即応性を30%から35%上昇させる新OS・XM3

 

 ②長距離飛行を可能とするフライトユニット

 

 ③3種類の電磁砲(面制圧の120ミリ電磁投射砲、対要塞・重光線級用120ミリ電磁加速狙撃砲、新型電磁加速投射砲)

 

 ④3種類の高周波刀(長刀、中刀、短刀)

 

 ⑤全天周囲モニター

 

 ⑥リニアシート

 

 ⑦新型装甲発泡金属装甲

 

 ⑧対BETAレーザー用電磁シールド

 

 ⑨【77式撃震】の後継機の設計開発

 

 等々。

 

 【第3世代機不知火】の開発でその才を示した武への帝国軍の期待は高まる一方で、帝国軍は母親・楓が訓練教官を務める帝国軍横浜訓練基地内に、武専用室を設けた上で開発・技術スタッフを常駐させる。

 

 まぁ中には未だ小学生の武を小学校に通わせないで、兵器開発に従事させている事への苦言も絶えない。

 

 PTAや教育委員会を中心に、国会、神奈川県議会、横浜市議会では、

 

『大の大人達が揃いも揃って、小学生に兵器開発させている事を対して恥じる気持ちはないのか!?』

 

『母親が武家の出身だから、小学生を小学校に通わせないでいるのは異常だ。政府は何故止めようとしない』

 

『武家の子弟や子供達は、白銀武君とは違い、親の脛を囓りながら、学校に通っているではないか。それとも、彼にはその権利は無いと言うのか?』

 

 非難の声が出始めていたのも確か。

 

 帝国軍もその非難の声に苦慮しながらも、日に日に悪化の一途を辿る東ユーラシア大陸と亜大陸の戦況を鑑みて武の才を手放せないないでいた。

 

 一応念の為に、横浜訓練基地に教員免許の資格を持つ者を集めて、小学校のカリキュラムは受けさせてはいる。

 

 そして慢性的に国内で燻っていた反武家感情が頭を覗かせてもしまった恰好にも。

 

 帝国政府城内省と元老院と斯衛軍総司令部は、この問題に関して統一見解を出すしかなくなる。

 

『我々は白銀武君に兵器開発を強制していない。彼が戦術機や兵器開発に従事しているのは本人の希望であって、我々が求めた事は一度もない』

 

 城内省、元老院、斯衛軍上層部は、徳永家、篁家、巌谷家へに対しては『何勝手に小学生の子供に、兵器や戦術機開発何かさせているの?! させるとしても、もっと上手く隠さないかあー!!!! おかげでそのとばっちりがこっちに来ているんねんど阿呆』と不満を漏らす。

 

 とは言っても斯衛軍も武が開発した新技術を積極的に採用しているので、余り偉そうな事は言えない。

 

 最も当事者である武が『馬の耳に念仏』『馬耳東風』で意に介さない。まるで何かに取り憑かれたの如く、兵器や戦術機開発にのめり込む。一分一秒でも惜しむかの如く。

 

 武の処遇をどうするかで、城内省、元老院、斯衛軍、五摂家は頭を抱える事に。

 

 未だ小学生の武を正式に任官させる訳にも行かず、15歳の元服を迎えるまでは、武の立場は『発明家』として扱うしかないのが実情だ。

 

 その事で一番不満タラタラなのが武の幼馴染の鑑純夏だ。

 

『お母さーん!武ちゃんがちっとも純夏と遊んでくれないー!!!』

 

『純夏、駄々を捏ねないの。武君は発明家として仕事に忙しいの、分かるでしょう・・・』 

 

『うん・・・』

 

 頷きはしたものの、どこか納得がいかない顔をする純夏。

 

『武君が頑張っているのは、全て純夏の為なのよ』

 

『純夏の為?』

 

『そうよ。今世界はBETAと言うとても悪い連中と戦争をしているから、武君も、純夏をBETAから守る為に、今自分をやれる事をやっているのよ。だから分かりなさい』

 

 とは言え純夏の母親にしても武の立場には疑問を持つ。

 

(傑出した才能は一方で何かを犠牲にするのかもしれない。けれど武君が子供としての日常を犠牲にしなければならないだなんて・・・・)

 

 武には帝国情報省、帝国軍情報部、公安警察が24時間体制で警護に当たってはいるのだが、御世辞にも連携が取れているとは言い難く、互いが縄張りを主張して、一歩も引かないでいる。

 

 つまりセクショナリズムの弊害だ。

 

 これに武が帝都京都に行くと、武の護衛に帝国斯衛軍が加わる。

 

 何故帝国斯衛軍が? 

 

 と思われるだろうが、これには五摂家の筆頭煌武院家の哀しい歴史が関係しているのだ。

 

 煌武院家は双子を御家騒動の元と忌み嫌う家でもある。

 

 にも関わらず定期的に双子が生まれて来る家なのだ。

 

 数代前に煌武院家に双子の男子が産まれた。

 

 当然の事ながら煌武院家の重鎮達は頭を抱えた。

 

 双子が禁忌とは言っても頭首の家の子供だ。右から左へと『はい、そうですか』と処分は出来ない。

 

 ここに当時、煌武院家派の譜代武家の一つであった《白銀家》から渡りに船に近い申し入れが合った。

 

『御館様、下の子を白銀家に引き取らせて下さい。そして煌武院家に反意の意図無しとして、娘3人を煌武院家に人質として差し出し、武家の地位も返上します。その上で関東八州武蔵国に都落ちをしましょう』

 

 当時の煌武院家の頭首もこれには驚いた。最悪下の子を自らの手で処分する事も覚悟していたが、まさか煌武院家派の重鎮とも言うべき白銀家から、忌み子と娘3人の交換の申し入れがあろうとは青天の霹靂だった。

 

『いくら何でも白銀家に取って不利過ぎる交換条件ではないのか?』

 

 煌武院家に取っては理想的な解決案だった。白銀家の娘3人を人質として引き取れば、白銀家の造反は防げる。

 

 だが、煌武院家の為に名門譜代武家白銀家を犠牲にするのは流石に躊躇われた。

 

『御館様、これしか事態を収集させる術は御座いません。ですから、どうか誤決断を・・・』

 

『相分かった。その方の申し入れどうりにしよう。そちの娘3人は煌武院家の正式な養女とし、親藩譜代武家に煌武院家の娘として嫁がせるのを約束しよう・・・・』

 

 白銀家の3人の娘達は正式な煌武院家の養女となり、長女は月読家、次女は徳永家、三女は紅蓮家へとそれぞれ煌武院家派親藩譜代武家へと嫁ぐ事となる。

 

 一方の白銀家は武家の位を返上し、関八州の武蔵国へと居を移し、武家の家から技術畑の家へと変化を遂げる。

 

 その様な事もあり、再び武家む(ゲフンゲフン)、帝都では武の存在が注目を集めてしまう。

 

 何しろ今の煌武院家には、直系の男子が存在していない。

 

 そして煌武院家の新しい当主は武と同じ9歳で、若年でかりながらも聡明とも言われているが、将来性は未だ未知数の要素が強いただの女の子。

 

 武の母親が煌武院家派の親藩武家徳永家出身で、武の母方の祖母が煌武院家本家出身の女性。

 

 もし煌武院家現当主の煌武院悠陽に何かがかった場合、現時点で武が煌武院家当主になる可能性が出て来る。

 

 可能性がある以上、若輩ながらも発明家として日本帝国の国防力大幅強化に貢献している以上、斯衛軍としても武の身辺警護に乗り出すしかなくなる。

 

 が、横浜は元から斯衛軍や武家村とは縁が薄く、横浜市民も斯衛軍と武家村を、時代錯誤のチャンバラ集団と揶揄する傾向が強い。

 

 武本人も過剰な身辺警護を嫌う傾向が強い。

 

『税金の無駄遣い。もう少し自由にさせて欲しい』

 

 何しろどこに行くにしても過剰な警備が武の周囲に付く。  

 

 この時期になると各国も武の存在に気付き、武とその両親との接触を計ろうとする。  

 

 今の所誘拐の危険性は低いが、日本帝国の国防力増強に大きく貢献している武に、もし何かがあれば、マスコミと国民にボロクソに言われるのは治安当局だからだ。

 

『白銀武は帝国の麒麟児にして鳳雛だ。その白銀武に何かあれば帝国の一大事。だから斯衛軍にも白銀武の身辺警護をさせい』

 

 と斯衛軍武術総師範代の紅蓮醍三郎大佐は息を巻く。

 

 普通に歩いて行ける距離の帝国陸軍横浜基地に行くのにだって、母・楓と一緒に警護車に乗らなければならないのだ。

 

『キャーハハハハハハ!ひぃ~ひぃ~!う〜ふふふフフ!』

 

 武の愚痴を聞いて腹を抱えているのは、帝都大学の大学生の香月夕呼だ。

 

 彼女は日本帝国政府が選んだ武の講師の一人で、空いた時間を利用して小遣い稼ぎ狙いで、通信教育で武に物理学の講師をしている。

 

 最初は気が進まなかったが、武の知識が思っていた以上に豊富なのと、自分が提唱した理論【因果律量子論】への理解者だったのも大きく、武のポケットマネー(新技術の発明及び特許料)から帝都大学事務室経由で研究資金が出ているのも理由の一つ。

 

(まあ、スポンサーは大切にしないとね)

 

 それに香月夕呼本人も少なからず白銀武に興味が合った。

 

『笑い事じゃないですよ夕子先生』

 

『まぁ年齢不相応の能力を持ったのが不運の始まりよ』

 

『んが』

 

 武は机の上に突伏してしまう。

 

『はいはい落ち込んでいない、時間は有限よ。さぁ次は教科書68ページ目を開きなさい』

 

『夕子先生の鬼』

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その頃武の父親・白銀影行は光菱重工横浜小机研究所で石川常盤重工の幹部と映像通信で水素プラズマ・ジェットエンジンと、イオンプラズマ・エンジンの開発進捗状況の打ち合わせをしていた。

 

「では、来年度中には純然たる水素プラズマ・ジェットエンジンが実用化出来るんですね」

 

『それについては約束しよう。我が社の風洞実験でもかなり良好な数値を出している。春には試作品を帝国陸軍技術廠に納品出来るだろう』

 

「そうですか、それを聞いて安心しました」

 

 白銀影行はそれを聞いて安堵した。今使っているのは、ジェット燃料との混合で、本来求めている水素プラズマ・ジェットエンジンの数値には達していない。

 

 とは言え、それでも作戦行動半径は従来の2倍強だ。

 

 世界初の第3世代機として開発中の【93式不知火】は開発機関の短さと、切り詰めた設計が原因で、どうしても拡張性が乏しい機体となる筈だった。

 

 その為に燃料タンクの拡張は見込めないでいたが、その問題を解決したのが水素燃料だ。

 

 水素燃料の発想はかなり前から合ったが、爆発的なエネルギー制御が難しく、実用化はずっと先の話しと思われていたのだが、その問題を解決したのが白銀影行の一人息子・白銀武だ。

 

 爆発的エネルギー制御の仕方と仕組みを解決させ、北海道と北九州の豊富な水と石炭、光菱重工が開発した化学薬品を使い、京都セラミック社のセラミック技術と石川常盤重工のエンジン技術を融合させて、水素燃料とジェット燃料の混合跳躍ユニットを武の案に沿って作った。

 

 最初は誰もが上手く行く筈が無いと思っていたが、白銀影行は武の名前を伏せて、自分の発案と設計の形で不眠不休で行った。そして結果はご覧の通りで、1992年4月下旬の光菱重工横浜小机研究所実験室で期待通りの数値を出した。

 

 そして武の発案の元新型OSと新型CPUを開発中だった帝国陸軍技術廠は、光菱重工横浜小机研究所からの報せを受けて歓喜した。

 

 燃料タンクを拡張しなくても、戦術機の作戦行動半径が2倍強に拡大し、純然水素プラズマ・ジェットエンジンが実用化されれば戦術機の作戦行動半径が3倍に伸びる。

 

 水素燃料は一度量産体制が確立されれば、ジェット・ロケット燃料の数分の1の価格での調達可能との試算。

 

『これはエネルギー革命だー!!!!!』

 

『良くやったぞ武君。君は紛うと無き天才だ!』

 

 巌谷榮二は万歳し、武の手を取って小躍りしたと言う。

 

 エネルギー資源に乏しい日本帝国に取って、自国だけで賄えるエネルギー資源の確保は、国家の悲願だった。

 

 中東の産油国がBETAの制圧化に入ってからは、エネルギー資源の確保に血眼になっていたのだから、その喜び様は想像出来るだろう。

 

 ほぼ当時進行で水素電池も武の(名前を伏せて白銀影行の発案・設計と言う形で)発案・設計の元で開発され、戦術機の連続稼働時間も倍に伸びた。

 

 日本帝国軍・斯衛軍上層部は爆発的に喜んだ。

 

 何しろ戦術機は世代が進む事に大型化が進み、一機辺りの調達価格と維持費が嵩む一方だった。

 

 それでいて開発技術の壁から、量産は兎も角、整備性と拡張性の問題を抱える様になる。

 

 武は技術的革新を引き起こす事で、これらの問題を解決したばかりか、更に十年以上も先へと進ませてしまう。

 

 しかも本人は単なる発明家に留まらず、今はシュミレーター限定とは言っても、開発衛士としても卓越した技量を新OS開発で証明してしまった。

 

『彼を絶対に外国に接触させるな!』

 

 との声が帝国軍・斯衛軍関係者の間で広まってしまう。

 

 なにはともあれ大陸派遣軍の編制に追われていた帝国軍としては、新型OS、新型CPU、水素電池、水素燃料、ジェット燃料・水素混合プラズマ・ジェットエンジンの5つに絞って既存機の改修を急ぐ。

 

『他の技術は後回しだ、新OS、新型CPU、新型跳躍ユニット、水素燃料、水素電池の5つを大陸派遣軍の全戦術機部隊に最優先で配備するんだ!』

 

『ですが、既存機で新技術を採用しますと、兵站部門への負担が増大しますが・・・』

 

 そう、新技術の開発と採用で既存機の性能は目覚ましく向上はしたものの、その一方で部品の著しい劣化と摩耗を招いてしまい、耐久性を増した部品は【93 式不知火】や【F-5Eトーネード】、【77式撃震】、【82式瑞鶴】の改修機での試験運用を重ねながら耐久試験中だ。

 

 従来の部品で長期戦を想定した場合、3倍以上の部品の調達が既に試算されており、帝国軍の兵站部門関係者の顔色は蒼白と言っていい程に悪かった。

 

『今は兵站部門の負担は増大するが、長い目で見れば悪い事ではない。だから今は耐えてくれ』

 

 既存機の即応性が20%から25%も上昇し、機動力も第3世代機に並になる。

 

 10月には【77式撃震】と【82式瑞鶴】の改修機が旧OSと旧型CPUを搭載したアメリカ軍の【F-15Eストライク・イーグル】、【F-16Cファイティング・ファルコン】、【F-18Aホーネット】と模擬戦に勝利したので、新技術の数々に自信を深める。

 

 それに反比例する形でアメリカ側の衝撃は大きいが。

 

 この直後からアメリカ連邦議会は大荒れとなり、アメリカの戦術機開発・製造企業の株価は暴落した。

 

 アメリカでは、大金を掛けずに既存機の性能を短期間で一世代以上も引き上げた武の名前を因んで『インヴェンダー・タケル・シロガネ・ショック』と言われている。

 

『戦術機の性能を短期間で一世代以上引き上げたとなれば、ハードではなくソフトウェアの開発にもっと力を入れるべきなんだ』

 

 武のコメントは《ワシントン・ポスト紙》にも掲載され、今や一躍時の人と化していた。

 

『やれやれ、イオンプラズマエンジンの方は試作エンジンが出来るまでは後5年の時間は掛かるか・・・・』

 

 映像通信が終わった後、白銀影行は報告書を纏める。

 

『水素にしてもイオンにしても、実用化は二十年先だと言われていたのだから、これでも驚異的な早さか。問題はそれまで大陸が持ってくれるかどうかだ・・・』

 

 それについては厳しいと言うのが実情だ。

 

『武の予測が正しければ持って5年か・・・・』

 

 課題や問題は山積み。技術革新で日本帝国の国防力は数段増しはしたが、それでも足りないと言う。  

 

『電磁、高周波兵器の開発も急がないとな』

 

 光菱重工は帝国陸軍技術廠と共に武の発案・設計の元にした電磁、高周波系兵器兵装の開発を急いでいる。

 

『後5年で何処までやれるか・・・・』

 

 白銀影行は頭を振る。  

 

『弱音を吐いている場合ではないな。小学生の武がここまで頑張っているのだ。大人の私達が踏ん張らなくてどうする。何が何でも間に合わせてみせる』

 

 白銀影行は気合いを入れ直す。

 

『だが武の周囲は騒がしくなり過ぎだな。年が明ければフランク・ハイネマン教授も来日予定だと来る。フランク・ハイネマンの本命は、間違いなく武だ』

 

 今回の欧州連合の半ば押し掛けに近い訪日にしても、欧州連合の目当ては武なのは明らか。

 

 国連本部、ソ連、統一中華戦線からも、武の両親との面会を望む声と要望が増える一方だ。

 

 日本帝国側にしても武への不用意な接触を警戒し、帝国陸軍技術廠での新OSの基礎訓練の初日だけに限定。その後の対応は帝国陸軍技術廠が一任し、武とはいかなる接触を認めてはいない。

 

 他国にしても武が子供の内は目くじら立てて、『武に会わせろ!』とは言い難く、むしろ親の方と接触しようとしていた。

 

 まあ《将を射ようとするのなら馬から射よ》と言った所なのだろー。

 

 アメリカ政府は武の両親にボーニング社の戦術機開発部技術部長待遇主任の椅子と、武をボーニング社専属テストパイロットに、シアトル郊外一等地の邸宅を提示し、日本帝国側の警戒心を刺激した。

 

 年明けのフランク・ハイネマン教授の訪日は、白銀家のアメリカへの移住とボーニング社への勧誘なのは目に見えていたので、日本帝国側はフランク・ハイネマン教授への対応は全て巌谷榮二と篁祐唯に一任させ、白銀家との接触は何が何でも阻止する構えだ。

 

 アメリカ政府は日本帝国政府に抗議抗議の連続で、白銀家へのアメリカへの移住と父子のボーニング社への勧誘をさせようと目論む。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「皆待っていて。必ず生まれ変わった【Tornado】をアフリカに持ち帰って見せるから・・・」

 

 キルケ・シュタインホフ少佐はハンガーで整備中の【F-5E Tornado】を見上げながら呟く。

 

 拡張性の乏しい機体なのでこれ以上の性能向上が難しいとされていた機体だったが、日本帝国の最新技術が入った加わり、【F-5ETornado】は【93式不知火】に次ぐ第3世代機の仲間入りを果たそうとしていた。

 

 だがその見返りとして、【XMシリーズ】対応機のフレー厶や部品の開発に協力する事になった。

 

「でも仕方ないし。ハニトラで籠絡するなんて、やはりやりたくないもの・・・」

 

 遠路遥々アフリカから持って来た【F-5E Tornado】も装甲とフレー厶を除けば、機体部品の大半は今はメイド・イン・ジャパンになっている。

 

 技術交流の観点で言えば大成功と言えるだろう。

 

「だけど日本帝国も何か隠しているわねきっと」

 

 これは一種の軍人としての皮膚感覚だ。

 

「いくら日本人がお人好しでも、私達に全てを公開したり教えたりはしないはず」

 

 欧州連合情報部もそれは感じており、兎に角それを知ろうと探りは入れているのだが、日本帝国側のガードが矢鱈と硬いので全く何一つとして掴めていない。

 

「鍵を握って要るのは、エルフィンダー・タケル・シロガネか・・・」

  

 武と会ったのは交流初日だけで、その後は一度も武とは会っていない。

 

 キルケ・シュタインホフは、武ともう一度会う必要性を感じていた。

 

「問題は日本帝国がエルフィンダー・タケル・シロガネに会わせてくれるかどうかね・・・」

 

 難しいと感じていた。日本帝国側が故意に武とは接触させない様にしているのは実感しているだけに。

 

「地中海打通作戦は上手く行っているのかしら?」

 

「どうやら順調な様子ですね。シュタインホフ少佐」

 

「貴様はアーノルド・アスクマン大尉」

 

 キルケ・シュタインホフはアーノルド・アスクマンの顔を見ると嫌悪感を顕にしてする。

 

「お久しぶりですな、シュタインホフ少佐」

 

「何故貴様がここに居る」

 

「きちんと正規の手続きを取ってここに居ますよシュタインホフ少佐」

 

「シュタージがッ!」

 

「今は欧州連合軍情報部日本支部の正規エージェントですよ、シュタインホフ少佐」

 

「どの口が裂けて言う」

 

「そう嫌わないで欲しいですね。この計画が順調に進んでいるのは、ひとえに我々日本支部の働きがあればこそですよ」

 

 彼の言う通りで、元シュタージの構成員を中心とした欧州連合軍情報部日本支部の働きがあればこそ、日本帝国の第3世代機の技術を得る《クリスマス計画》が順調に進んでいると言っていい。

 

 横浜港に碇泊している大型貨客船《ハンブルク》では、連日連夜極秘の酒宴が儲けられ、美人美女美少女達が招かれた日本帝国の政財官武軍の関係者を歓待していた。

 

 もし気に入った娘・女が居れば、引き取っても良いとも。

 

 聞けばもう数人が妻として、愛人として、養女として引き取り先が決まっていると言う。

 

 コンパニオンに選ばれた彼女達は全員欧州系難民キャンプの中から選ばれた者達とあって、全員粒揃い。日本帝国側の同情を買う為に、身寄りが無い戦災孤児や家族を養う為に志願した生娘達が集められた。

 

 このまま難民キャンプに帰っても、飲まず食わずで貧困生活を送る位なら一層の事、愛人でも良いから日本帝国の有力者や金持ちに気に入られる形で、引き取られる方がずっとマシと言う訳だ。

 

 欧州連合、東欧社会主義同盟、国連にしても、面倒を見切れない難民達は、人身売買であっても、未だ後方国家に位置する日本帝国の有力者に、引き取って貰った方が良いのが本音になる。

 

 行きの船の中では、どうやれば日本帝国の有力者や金持ちに気に入られ身請けをして貰えるか。そんな期待と不安を込めて半分笑顔で話し合う彼女達を何度も見ていた。

 

 キルケ・シュタインホフもその辺りの事情は分かってはいるのだが、どうしても感情面では納得仕切れないのだ。

 

 だから帰りは別の船か、輸送機で帰りたかった。

 

「貴様を見ていると、貴様の兄の顔を思い出す」

 

「私は兄の様な失敗はしませんよ。兄・ハインツはいささか権力欲に走り過ぎましたからね。第一、兄とは違いますよ」

 

 彼の兄の名前はハインツ・アスクマン。元東ドイツ国家保安省武装警察軍の幹部で階級は中佐。1983年の冬に起きた東ドイツ革命で死亡した。

 

 当時のシュタージは国家の中の国家と化し、東ドイツ政府の統制下から外れ、東ドイツ政府に対してクーデターを引き起こし国家権力を掌握した。

 

 国家権力を掌握したシュタージは何故か即座に《親ソ連・モスクワ派》と《親西側・ベルリン派》に分裂し内紛、東ドイツ人民陸軍西方方面軍を中心とした、《反体制・革命派》に倒されて敗北してしまう。

 

 ハインツ・アスクマンは《親西側・ベルリン派》のトップだったが、東ドイツ革命で負けて死亡した。

 

 死亡後にハインツ・アスクマンの数々の虐殺や犯罪行為が露見した為、悪名だけが知れ渡った。

 

「欧州の難民の女娘達を売って起きながら、どう違うと言うのだ」

 

「ではあのまま、その日の生活にも困るアフリカの劣悪な難民キャンプで飢えて暮らせと言うのですか少佐?」

 

「ッ!」

 

 アーノルド・アスクマンはキルケ・シュタインホフの痛い所を突いた。 

 

 キルケ・シュタインホフはアーノルド・アスクマンを睨み付けるが、彼は微風の如く受け流す。

 

「まあ良いでしょう、今日は少佐と口論する為に、ここに来た訳ではありませんので。少佐が今一番欲しがっている欧州戦線の情報を持って来ましたよ」

 

「聞こう・・・」

 

 

 イギリスとアイルランドへの圧力緩和を狙ったイベリア半島とシチリア島の奪還作戦、地中海打通作戦は一進一退の消耗戦の様相を呈していた。

 

 最初は順調に進み、イベリア半島とシチリア島を奪還し、BETAの迎撃も疎らだったのだが、イタリア半島を奪還したいイタリア軍が欲を描いたのがケチの付き始め。イタリア軍がイタリア半島に無断で上陸し、一気にイタリア半島南部を制圧しようとしたが、BETAの逆撃と地中侵攻で半包囲されイタリア軍は進退窮まる。

 

 そこにBETAが山間部に軽光線級を展開、一方的な損害を被りイタリア軍はほぼ全滅してしまう。 

 

 欧州連合軍、国連軍、アフリカ連合軍、中東連合軍は先走って全滅したイタリア軍を散々罵倒したが、罵倒したからと言って戦局が覆る訳でも無し。

 

 12月中旬に入り、H-9アンバール・ハイヴからのBETAの圧力がシナイ半島増大し、サウジアラビア王国のメディナ市が遂に陥落し、アラビア半島防衛線はジュダ=メッカまで後退を余儀なくされてしまう。

 

 それまで国外脱出を拒んでいたサウジ王家とサウジアラビア政府は、遂にマダガスカル島へと政府機能を移す事に。

 

 インド亜大陸戦線も劣勢の一言で、ボパール・ハイヴ攻略の失敗が尾を引き、戦線をじりじりとインド南部へと後退させていた。

 

「やっぱりこのままじゃあ持たないよな・・・」

 

 横浜基地で戦局を審に見ていた武は、マル秘を印した極秘ファイルを開いて一頻り溜め息を吐く。

 

「このままじゃあ来年になったら重慶にハイヴが作られてしまう。重慶にハイヴが作られたら、BETAの東進が今以上に本格化してしまう・・・」

 

 武からすれば重慶・ハイヴとマンダレー・ハイヴの建設を阻止出来るかどうかが、日本帝国に取って大きな分岐点になると見ている。

 

「はぁあああああ、やっぱりやるしかないよな・・・」

 

 そして極秘ファイルを開きながら帝国陸軍技術廠の巌谷榮二少佐と連絡を取る事に。

 

「BETAにEMP攻撃がどこまで効果がかるかは不透明だけれど、やってみる価値はあると思う」

 

 武は8月の末に帝国陸軍技術廠に、核兵器とG元素を使ってのEMP兵器の起爆装置の設計図を送って研究・開発を依頼していた。

 

「極秘で依頼した時の巌谷少佐の驚いた顔が印象に残っているなぁ・・・」

 

 目を丸くした巌谷榮二の顔を思い出して武は微笑む。

 

「いずれにしてもアメリカの協力は必要不可欠なんだよな」 

 

 アメリカに対して言いたい事は山程あるが、アメリカしか両方(核兵器とG元素)を持っていない以上、アメリカの協力が必要なのだ。

 

「なんかか今頃になって、榊千鶴(委員長)の親父さんの気持ちが解るだなんてね・・・・」

 

 清濁を飲み込めなければ、戦乱が続く一国のトップは務まらない。

 

 武は寝ている時に、記憶領域の向こう側にある虚数空間へと意識を飛ばして、虚数空間に蓄積されている何百、何千もの白銀武の記憶情報を引き出しは、発明家として日本帝国産業界に技術革新を進めていた。

 

 武は始めて日本帝国を動かす立場に立ったと言えるが、その反面難しい舵取りを余儀なくされ、清濁を飲み込むのを求められてもいた。

 

 武が委員長と呼んでいる榊千鶴の父親・榊是近の現職は外務大臣で、総理大臣の椅子に一番近い立場にある。  

 

「委員長の親父さんが総理大臣に就任するのは3年後か・・・。翌々考えたら、長期政権だったんだな・・・。アメリカの内政干渉を退けながら、どれだけの清濁を飲み込むのを余儀なくされていたのだろう・・・」

 

 武に取って核兵器とG弾のEMP兵器としての活用策は対米交渉の切り札に等しい。  

 

 衛星軌道上で核兵器とG弾を爆発させ、大量のガンマ線やエックス線をBETAやハイヴの頭上に降らせ、地上のBETAの機能を停止させ、ハイヴも一時的に機能を停止乃至阻害させるのが目的。

 

「BETAが機能を回復する前に、ハイヴ内に突入して最短距離時間で反応炉に到着し、反応炉を破壊する。どう考えてもこれしかないよな」 

 

「このまま何もしないで、指を加えて黙って見ているよりはマシかな・・・」

 

「出来ることなら核エネルギーを使ってガンマ線をコヒーレント化して、強力なガンマ線レーザー砲対地攻撃衛星とか造れないかな?」

 

 武の中で妄想とアイデアが膨らんで行く。

 

「ガンマ線レーザー砲が出来れば、宇宙から一方的にハイヴを破壊する事が出来る」

 

「でもそれだと、ハイヴと周辺の土地が強力な放射線に汚染されてしまうんだな」

 

「出力ももう少し上げたいから、中性子同士を反応炉内でぶつけて、中性子反応を増大出来ないかな?」

 

「それなら核エネルギーの応用で、中性子レーザー砲だって作れるよね」

 

 ぶつぶつと言いながら作業に没頭する武。

 

(((((そんなの小学生が考える事?)))))

 

 室内のスタッフ全員はドン引きしていた。

 

 

 

 そして白銀家の日曜日の日常の一コマ。

 

「ねぇ楓おばさん、一つ聞いていい」

 

「あら何かしら純夏ちゃん?」

 

「影行おじさんが浮気したらどうするの?」  

 

 暖房が効いている筈の白銀家の居間は、一気に氷点下へと下がってしまう。

 

 武は驚いて目が点になり、影行は顔面蒼白になる。

 

「う〜んとそうね?その時は影行さんの目の前で笑いながら影行さんの浮気相手を殺すって決めているわよ」 

 

「殺すの?どうして?」

 

「その方が、男の人に取って効果的だからよ」

 

「ちょっと母さん、純夏に変な事を教えないで!?」

 

 武が慌てて母・楓を止めようとするが、

 

「ほんのちょっとでも怪しいと思ったら、私はあの事を知っているのよと言ってあげなさい。必ず効果あるから」

 

「うん」

 

「待て楓、お前は何を知っているんだ?(汗)」

 

「えっ? 父さん?何慌てているんだよ」

 

「キルケ・シュタインホフ少佐でしたか?あ・な・た」

 

「待て、何か誤解しているぞ。私は一度も彼女とは会った事はないぞー!」

 

 白銀家の今日の日曜日の昼下がりは平和でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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