アスベル、女の子になる   作:友だち

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1 花畑で

「どうして俺が女の子になってるんだ━━━━」

 ここにいる全員が持つ疑問を、俺は普段よりはるかに高い声で声に出した。

「もしかして。アスベル様変なものをお食べになったのでは━━━━?」

 フレデリックの言葉に、俺は最高に心当たりがあった。

 昨日ソフィに作ってもらったお菓子。明らかに変なものが入っていた。せっかくソフィが作ってもらったものを無碍ににはできないと思い、昨晩カレーにディップして食べることのした。だが、俺はソフィが俺を性転換させた原因だと詰めたくない。

 もし自分に原因があるとソフィが知ったとしたら━━。優しいソフィのことだ。きっと傷つくだろうし、なんならもとに戻す方法を探すためにラントを離れるかもしれない。俺の愛娘の尊厳のために、昨日のことは俺の墓場まで━━━━。

「でも、基本的に夕食は屋敷に居るものが共通して食べるのに、どうしてアスベル様だけ......?」

「わかりました! 昨日ソフィ様が作っていたお菓子!」

「んんんんんんんんんん!」

 一瞬でメイドたちにその結論にたどり着かれた俺は慌てる。

「いやいやそんなことは無いさ。ほら、なにかあるだろ! 例えばさ、性転換しちゃう風呂に入ったとかさ! 妖しい術にかけられたとか。変な花の花粉にやられたとか━━━━」

「私……昨日のクッキーにお花入れてた━━━━」

「え……ソフィ……」

 頭の中で「そうして花なんていれたんだ!」という疑問は置いた。ソフィが原因をつくったであろうことを隠そうとしたが、逆効果になってしまった。

「いや。別にソフィは……」

 悪くない。そう言いかけたところで、自分の愛娘はこの場を走って離れようとした。玄関の方向だ。

「ちょっと待て!」

 俺は追いかけようとした。

「アスベル様。そのお恰好では」

「うぐ……」

 寝ぐせは付いたまま、まだ起きたばかりの寝間着でとても外にいくような恰好ではない、と頭の理性が待ったをかける。

 ソフィはすでに着替えていた。毎朝花壇に水やりをしているからだ。

 仕方ない。仕事は昨日で一段落ついたから、いつもの服に着替えて探しにいこう。

「実は私、クッキーについて気になったことがありまして━━━━」

 すると、警護を任せていたバリーが何かに気が付いたようだった。

「な、なんだ?」

「思い出したことがあるんです。この前ラントで祭りを開いたではないですか」

「ああ」

 ラントの祭りとは、大煇石の原素がなくなるという未曽有の事態を忘れないために、そして原素の恵みに感謝をするために、ラントで開催されたお祭りだ。町の広場には屋台が並び、りんご飴にかに玉焼きなどさまざまご飯が並んだり、射的やお化け屋敷などのアトラクションも並んだ。

 まあお化け屋敷に関しては、ストラタ共和国の名家《オズウェル家》の長男にして、養子として迎えられたヒューバートの義理の兄レイモンが、俺たちを陥れるために仕組んだ謀略だったわけだが。屋敷の中に現れた魔物によって、命を落としそうだった俺は、一命をとりとめる寸前、夢の中で死んだ親父にあった。

 最後は花火で祭りを締めた。夜空に咲く、大輪の花をソフィたちとともに見上げた。

 そんな祭りのことだが、どうして今関係が?

「アスベル様がお祭りの催しをすると言い出した時、私にクッキーを差し出しましたよね」

 ギクッ。

「あれ、もしかしてソフィ様が作ったものでは━━━━」

 あの時ソフィは、俺の大好物であるカレーをクッキーにいれた。俺は今回と同じようにソフィの頑張りを無駄にしないためにも、そのクッキーをおいしいと言い張り、逃げるようにその場を後にした。偶然出会ったバリーと出会い、会話の流れからお祭りを開くことになったわけだが、俺は勢いでソフィが作ったクッキーをあげてしまったのだ。

「す、すまん……」

「それについては後程。私が言いたいのは、ソフィ様にクッキーについて何も言わなかったのですか?」

「そりゃあソフィは頑張っているんだし……。変な味がするなんて言えるわけがないさ」

「確かにそのお気持ちは理解できます。ですが、アスベル様のやり方では限界があるのではないでしょうか……」

 バリーの目は真剣だった。

「そうだろうか」

「ええ。お嬢様は純粋で頑張り屋さんですから、大抵の失敗は許されるでしょう。ですが、それが通用しなくなる時や相手もあるかもしれませんよ」

 

 

 

 俺はメイドから服を貸してもらい女性服に着替え屋敷を出た。

 一応ソフィの部屋にもいなかった。街の中でいそうなところを探してみたが、それでも姿は見えなかった。

「となると、あそこか」

 俺とソフィが出会い、リチャードを交えて《友情の誓い》をしたラントの裏山。

 ラントの北門を出て、裏山に向かう。

 一応剣は腰にかけてある。だが最近は、ラムダが生み出した暴星魔物も、フォドラの核の活性化によって生まれた変異魔物もほとんど現れていない。

 ふと親父のことを思い出す。親父は俺に、弟のヒューバートをオズウェル家に養子に出すということを最後まで黙っていた。俺が知ったのは、ヒューバートがラントから去った後だった。

 その理由は、かつてラントの跡継ぎをめぐって親父と、親父の兄にして俺とヒューバートの叔父であるアドルフという人と対立したらしい。結果、次男である俺の親父アストンが後を継ぐことになり、叔父は追放されたらしい。そのことを知ったのは、親父が死んだあとのことだ。

 俺も一度ラントを追放された。歴史は繰り返すように、ストラタ軍としてラントにやってきた実の第であるヒューバートに。どうしてあの時、ヒューバートは俺に対してあんなに冷たい態度をとっていたのか話さなかった。

 どうやらラント家は、人に大切なことを話さない血筋らしい。

 もちろん、親父やヒューバートと今回の件の重さは全く違う。だが、親父は俺たちに大切なことを話さないことを続けた結果、親子の関係は拗れて、拗れて、結果俺たちは決して超えることはできない生死の壁に阻まれるところまでいってしまった。

 ソフィは、親父に反抗しかしてなかった俺と比べて素直だ。だが、俺が叱られて反論するのも、それは一つの会話でもある。逆にソフィがそんなことをするだろうか。言われたことを疑いのなく聞くだろう。だから怒ればソフィは真面目に自分が悪いと思うだろうし、結果自分で自分を苦しめるだろう。

 そんな風に自分を押さえてほしくない。そんあ風に思っているのは、事実ではあるのだが。

 そうこう考えるうちに、裏山の花畑についた。

 海風が吹いた。周りを見渡せば、崖から見える大海原に、青い空に薄く見える俺たちが住む星を取り囲む巨大な《羅針帯》。そして地面には季節問わず一面に咲く花々。奥には誓いの証として、俺とソフィとリチャードの名前が彫られた大樹が崖っぷちに立っていた。

 そして大樹のそばにソフィの姿を見つけた。

 彼女は俺に背を向けて、海を見るように座っていた。

「ソフィ」

 俺は迷わずソフィに話しかけた。

 呼び止められた俺の愛娘は、ぴくりと体を震わせた結果、ゆっくりと首をひねり俺に視線を向けた。

「え……。あ……。アスベル......」

 どうやら一瞬俺が誰だか忘れていたようだ。そういえば女体化していたことに、俺も思い出した。

 ソフィの顔に元気は無かった。なにか言ってやらなけらば、ずっとそのままだろう。

 俺はソフィの隣に腰かけた。

 体が女体化した俺は、女性相応に背も縮んでいた。逆にソフィは《リトルクイーン》の一部と一体化したことにより、体が大きくなっている。だから俺とソフィの頭の高さはほとんど変わらなかった。

「ソフィ。すまなかった。俺が変に隠しとおそうとしたせいで、ソフィを苦しめてしまった」

「ううん。私が、クッキーに花なんて入れなければ━━━━」

「それでソフィ。どうして花なんていれたんだ」

「私、お花を見ると元気をもらえるの。だから━━━━」

「そうか」

 俺に元気になってほしい。その一心でいれたんだろう。

 俺と出会ったときのソフィは、俺の中に眠るラムダと共に消えるという使命を与えられたヒューマノイドで、激しいラムダとの戦いの後回復のために眠りにつき、ラムダを感知して目覚めた時には使命を忘れていた状態だった。だから、俺たちが持つ感情を全く知らなかった。

 もちろん、そんな使命なんて許せない。ソフィはそこから俺たちと同じように、怒り、悲しみ、そして笑うことができるようになった。花を美しいと思い、元気をもらえると表現する姿は、俺たちヒトと同じ魂を持っていることの証だ。

 だからこそ。

「俺は、ソフィに悲しい気持ちなんて思ってほしくはなかったんだ」

「うん。アスベルは優しいもんね」

 あまりそんな自覚はないけれども、ソフィにそう言ってもらえるのは嬉しい。永久に続く人生の中で、ソフィにはこんな気持ちでいてほしい。だけど、そのためには話し合うことが大切なのだ。

 女体化した体でも、煌々と紫に光る左の瞳を感じた。

「これから先、ソフィにはできる限り思っていることを伝えることにするよ。そのほうがきっと、未来につながると思う」

「わかった。じゃあ私も、アスベルには思ったことを伝えるね」

「そうだな。でも言うからには、責任が伴うぞ」

「責任━━━━?」

 まだ幼いソフィは首を傾げた。

「自分が言ったことや自分がどういう立場にあるのかで、しなければならないことがあることだ。リチャードは、国王として国民を守る責任があるし、俺は領主としてラントのみんなを守らないと駄目なんだ」

 ソフィに名前をあげたときは知らなかった。己の非力さも、無責任さも。

 王都地下でソフィが死んだと聞かされた俺は、弱さを痛感し、家を出て、王都の騎士学校へ入学した。だけど俺は無知だった。ただ剣の腕と、自分の命を懸ける勇気があればいいと思っていた。自分がラント領主の子ども、しかも長男で生まれたことの意味を知らなかった。だからこそ俺は、親父を守れなかったのだ。

「でもアスベル。私は、ラムダを消さなければならなかった。でもアスベルは私にそんな使命は捨てろっていったよね」

「ソフィ。責任っていうのは誰かを守るためにあるんだ」

「守る……」

「もし、俺がソフィの命を守るために死んだとしたら、ソフィはどう思う」

「とても悲しい。そんなことを考えるだけで、胸がいたくなるの」

「ソフィはあのまま《プロトス1》としてラムダと対消滅したらと考えると、俺もソフィと同じように、胸が痛くなる。俺は誰かのために消えるなんて、本当の意味で守ることとは思えないんだ」

 

 

 

「それじゃあフレデリック、家のことは任せたぞ」

「承知いたしました。アスベル様もお気を付けて」

 フレデリックは丁寧に頭を下げた。

 俺が家にいる必要のある仕事は無くなったので、これからパスカルを頼って《アンマルチアの里》に実際に向かうことにした。実際に女体化した俺の体がいるほうが、パスカルも助かるかなと思ってのことだ。

「それじゃあ行ってくるね」

 もちろんソフィもついてくることになった。

「はい。ソフィ様。アスベル様を頼みましたぞ」

「おいフレデリック。逆じゃないか」

「いえいえ。ソフィ様はしっかりしておられますよ」

「……知ってる」

 こういわれたら、何も言い返せない。

 俺とソフィは二人、屋敷を出る。

 ラント西の港から、闘技島経由でザヴェート港に向かい、そのままアンマルチアの里に向かう。シャトルは乗れないことは無いが、操縦が難しくあまり乗りたくないので、船と徒歩で移動をした。

 俺とソフィは、俺の女体化させた不思議な力を持つ花を求めて歩き始めた。

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