学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第一試合観戦① 匂坂キッカ

 

 そうして数日が経過し、第一試合が開催される土曜日となった。

 この間、雲川・鷹一の両名はチームの人材確保のため、それぞれが生徒の勧誘を行った。しかし、成果は無かった。

 雲川は内気で臆病な性格ゆえに、怖くて生徒に声をかけることができなかったのだ。一方で、鷹一の方は『声をかけること』には成功したものの、剣呑な目つきと雰囲気ゆえに逃げられてしまう事が多かった。何とか話にこぎつけられた生徒も既にチームに所属している生徒ばかりだった。鷹一は内心で『思ったよりも、リーダー達の行動が速い』と感心した。

 

 そして、本日土曜日、鷹一は一人で観戦会場に訪れていた。チーム戦は仮想空間で行われるが、その様子は観戦会場からリアルタイムで見ることができる。土曜日と日曜日にそれぞれ午前の部と午後の部があり、現在は午前の部が終わり、午後の部が始まる少し前であった。

 鷹一は既に午前の部の試合は見た。試合展開は鷹一の予想できていた点が多かったが、予想外の事態もあった。それらの情報を纏め、自分たちの本番である第二試合に活かすことが重要なことだった。

 

 ふと、鷹一の端末から新着の連絡が飛んできた。相手は雲川紫苑――鷹一の幼馴染であり、チームのリーダーであった。内容は『寝てました。ごめんなさい。すぐ行きます』だった。

 鷹一は小さく溜息をついた。本来ならば、雲川は午前の部から一緒に観戦する予定だったのだ。しかし会場には姿を現さず鷹一が連絡しても、繋がらなかった。鷹一は、十中八九『紫苑は寝ている』と予想し、試合に集中した。その予想は完全に正解であったが、だからといって呆れないわけではなかった。

 

(想像以上に、意識が低いな。目標意識を持たせたつもりではあったが……いや、紫苑にはその方向は難しいか。人材確保も難航しているし、Bランクは思ったより難しいかもしれないな)

 

 鷹一が考えている最中、隣の席が埋まった。誰かが座ったのだ。鷹一は反射的に相手を見た。相手も鷹一を見ていたためか二人の目が合った。

 

「隣、失礼いたします」

 

 隣に座った銀髪の美しい少女を、鷹一は不審そうに見た。現在、観戦会場には空いている席がいくつかある。しかも、鷹一の席は、少しモニターから遠く、良い席とは言い難い。実際、現在、鷹一の周囲の席の大部分は空いていたのだ。鷹一の隣にわざわざ座る必要性が薄かった。

 

「この席から試合を見たかったものですから」

 

 鷹一に視線に対して、少女が言い訳のような言葉を口にした。

 

「そうか。それは構わない。ただ、この後一人増える予定だが、大丈夫か?」

 

 概ね戦いとは程遠そうな、ゆったりとした身のこなしの少女を見ても、鷹一は普段の淡々とした態度を崩さなかった。

 

「勿論です。鷲島君」

 

 穏やかそうで、しかしどこか絡みつくような声が鷹一の苗字を口にした。

 

「俺を知っているのか?」

 

「ええ、よく存じております。鷲島鷹一君」

 

「リーダーか?」

 

「フフッ、その前に自己紹介を。匂坂(さきさか)キッカと申します。鷹一君の予想通り、学園からリーダーに指名されました。どうぞよろしくお願いいたします」

 

「鷲島だ」

 

 鷹一の鋭い視線が匂坂を貫いた。匂坂は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「……これは、失礼いたしました。鷲島君と距離を詰めたいと思い、ついファーストネームを口にしてしまいました」

 

「そうか。だが、すまないが、俺はあまりファーストネームで呼ばれるのに慣れていない。できれば鷲島と呼んで欲しい」

 

「かしこまりました。そのようにいたします。鷲島君。自己紹介もしましたし、連絡先も交換しませんか?」

 

「……? なぜだ?」

 

「実を申しますと……私、鷲島君のファンなんです」

 

「ファン? どういう意味だ?」

 

「文字通り鷲島君の熱烈な信者なんです。なぜかと言いますと、私は鷲島君に成績開示権を使いました。そこであまりにも超越した戦闘技術を見て、感動いたしました。私には到底無いものですから」

 

 そう言って、匂坂は両手を少し広げた。穏やかに微笑む少女からは、零のような戦いへの意欲も、飛山のような秘めたる強さも、鷹一には感じることはできなかった。平和的で、チーム戦など到底無理そうに見える。『単純に外見からの雰囲気だけで判断するならば紫苑と同レベルだろう』と鷹一は思った。

 

「そうか、誉め言葉として受け取っておこう」

 

「本心からの言葉です。鷲島君。私は貴方にとても憧れて……惹かれています」

 

「この場でそれを告げて、さらにわざわざ俺の隣の席を確保した、ということは勧誘か? 悪いが、俺は既にチームに所属している」

 

「いえ、そのようなことは……私ではきっと鷲島君を持て余してしまうでしょう。ですから、勧誘は考えてはいませんでした」

 

 鷹一は一瞬『それなら、なぜ自身に成績開示権を使ったのか』と疑問に感じたが、すぐに、順序が逆だと気付いた。そして、鷹一が考えている合間に、さらに匂坂が言葉を続けた。

 

「ですが、どのようなチームを選ばれたのかは気になります。教えていただけませんか? やはり鷲島君のような圧倒的な強者で構成されるチームなのでしょうか?」

 

「……それは、おそらく第二試合を見れば分かる」

 

「フフッ、秘密ということですね? 分かりました。鷲島君のチームの試合、しっかりと拝見させていただきますね」

 

「期待に応えられるかは分からないが、チーム戦では精一杯戦おう」

 

「ありがとうございます。鷲島君の圧倒的な戦いを見るのが今から楽しみです」

 

 鷹一の言葉を聞いて、匂坂は嬉しそうに口元を緩めた。

 

「第二試合の流れ次第では、俺が早期に脱落する可能性もゼロではないから過度な期待はしない方がいいだろう」

 

「そのようなことは、決してあり得ません、もしあるとすれば――」

「――あ! 鷹一くん、ご、ごめんね、待った、よね……?」

 

 匂坂の話を遮るように現れた雲川が声を上げ、そして途中から言葉が尻すぼみになっていった。隣に見ず知らずの少女――それも大変美しい少女がいたからだ。雲川は一瞬だけ気圧されそうになるが、すぐに安心したような顔になった。

 なぜなら、雲川から見て、鷹一の隣にいる銀髪の美少女はとても穏やかそうに見えたからだ。この学園の生徒は試練やチーム戦のせいか、どこかピリピリしている生徒が多い。そんな中で、こんなに、おっとりとしたような少女が雲川には珍しかったのだ。故に安心した。

 

「いや、そこまで待っていない。ちょうどもうすぐ午後の部が始まる。間に合って良かったな」

 

「う、うん……えっと、隣の人は……? あ! もしかして、新しいチームメイトっ! 鷹一君が誘ってくれたの!?」

 

 雲川は嬉しそうに鷹一を見た。『優しいけれども、目つきが殺人鬼みたいな鷹一』よりも、『穏やかで、分かりやすく優しそうな目の前の少女』の方が雲川には接しやすい相手だった。

 

「いえ、違います。私は匂坂キッカと言います。学園からはリーダーとして指名されています。先程、鷲島君と会って、意気投合しまして、一緒に観戦することになったのです。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか? 鷲島君のチームメイトの方ですよね?」

 

「あ、そっか……リーダーの匂坂さん……え、えっと、私は、雲川紫苑っていいます。えっと、よ、よろしく……」

 

「雲川紫苑さんですね。ここでお会いできたのも何かの縁です。私の事はどうか、キッカとお呼びください。そして、もしよろしければ、紫苑さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

 そう言って匂坂は雲川に手を差し伸べ握手を求めた。

 

「も、勿論ですっ! 匂坂……キッカさんは優しそうな人で、仲良くしてくれると、嬉しいです……」

 

 匂坂の伸ばした手を雲川が握った。握手する二人は平和的な雰囲気が似ているが、体格が違い過ぎた。背の高さも体の厚さも匂坂が大きく上回っていた。そして魔力の大きさも。そう尋常ではない程の魔力の違いがあった。二人の少女の魔力の違いは、蟻と巨象ほどであった。そして、魔力を読むのが苦手な雲川はそのことには気付かない。一方で、鷹一はそのことには当然気付いていた。

 

――瞬間、匂坂が手に魔力を込めた。

 

 そしてそれとほぼ同時に、鷹一が匂坂の握手をしている方の手――右手首を掴んだ。匂坂が意味深に微笑んだ。雲川は突然の鷹一の行動にも匂坂の笑みの意味も分からず困惑した。

 

「鷲島君、突然、手首を握られますと、緊張してしまいます……」

 

 匂坂は頬を赤くしながら、恥ずかしそうに鷹一に言葉をかけた。

 

「そうか。分かった。お互い、平和的に行こう。俺は試合以外では暴力を振るいたくないし、仲間が傷付くのも見たくはない」

 

「勿論です。私も鷲島君と同じ気持ちです」

 

 鷹一と匂坂、二人の視線が交錯した。鷹一が強い圧力を込めて匂坂を睨み、一方で匂坂は嬉しそうに微笑んだ。

 

「え? えっと……?」

 

 雲川は話が分からず、握手をしたまま困ったように二人を見た。

 

『あー、あー、マイクよし! さて、お集りの皆さん。そろそろ午後の部の試合が始まります! ご着席お願いします! えーそれでは、実況は私、二年生の中島晴香がお送りします。また解説役には同じ二年生の岡本選手と小山選手に来てもらいました。両選手、本日はよろしくお願いします』

 

『よろしくお願いします!』『お願いします』

 

「そろそろ試合が始まりそうだ。席につこう」

 

 会場に響き渡る実況の声を聞き、鷹一が二人の少女に着席を勧めた。匂坂と雲川の握手が終わり二人の手が離れたのをしっかりと確認してから、ようやく鷹一は匂坂の手を放した。

 

「もう少し握って下さってもよかったんですよ?」

 

 鷹一の耳元で囁くように言うと、匂坂が満足気に観客席に腰かけた。鷹一はそれには取り合わずに着席した。

 

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