学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
休み明けから、鷹一は、当然のように授業に出席した。日中は講義を受け、夕方になると、雲川・金崎と合流し訓練をする。四月と同じような生活リズムを送っていた。
雲川と金崎は授業はあまり受けず、訓練とそれ以外の時間を交互に過ごしていた。休み期間にじっくりと休んだことと、合同訓練の刺激とが合わさり、二人とも四月以上に意欲的に訓練に取り組んでいた。
そうして、比較的、順当に能力を伸ばしていき、五月第一試合のマッチング相手が決定した。
鷹一は相手を確認し、少し難しい顔で作戦を練ってから、チームメイトを作戦室に集めた。
「次の対戦相手が決まった。それとマップも決まった。マップは【第五管区南東部】、市街地マップだが、低密度エリアと高密度エリアが入り組んでいる少し複雑なマップだ。覚えるのが少し難しいかもしれないが、頑張って覚えよう。基本的には第二試合の【第三外縁部】と第三試合の【農業エリア】を混ぜたようなマップで、低密度区画は射線が通りやすい。そこを意識していこう」
五月第一試合の会場である【第五管区南東部】のマップを表示させながら、鷹一は概要を口にした。
そして、一拍挟んでから、鷹一は雲川と金崎を見た。二人とも鷹一が何を言おうとしているか理解した。今回の対戦相手のことだ。そう二人ともだ。今回は、鷹一に呼び出される前、金崎だけではなく雲川もマッチングについて目を通していたのだ。
鷹一は、当然のように対戦相手を確認していた金崎に対して、信頼の目を向け、そして、意外にもマッチングを見ていた幼馴染を見て、驚き半分感心半分の目を向けてから口を開いた。
「今回の対戦相手は、柚木チーム、下水流チーム、それと滝本チームだ。柚木と滝本は縁があるな」
名前を挙げた二人のリーダー。両方のリーダーが雲川チームのメンバーそれぞれと休み期間中に交流があった。
柚木は先日の乱闘事件の当事者の一人であり、金崎と雲川をエントランスから脱出させた。そして滝本は雲川チームと同盟を組もうとし、失敗し、その際、鷹一・雲川と会話した。
なお、実は、この後、滝本は金崎とも個別に会話していた。金崎は当然、そのことを鷹一に報告したが、鷹一は『問題なし』と判断を下していた。一方で、金崎は、目つきの鋭く、どこか高圧的な面がある滝本を苦手としていた。
(この学園の女子って、なんか美人だけどキツい子が多い気がする。滝本、梶田、零、谷崎……うん、やっぱり多い……)
金崎が内心で、これまで交流があった女子生徒を思い返した。
一方で、雲川は、マッチングについて考えていた。しかし、それは雲川チームの対戦相手についてではなかった。
「鷹一くん……キッカさんの今回の相手って……」
匂坂チームのマッチングに雲川は頭を悩ませていたのだ。今回の休み期間で、雲川は仲が良い友達が沢山できた。そこで、やる気のある雲川は、友達たちの対戦相手をまず調べたのだ。友達同士が戦ってほしくないと思ったのだ。そして、ついで、自分のチームの対戦相手も調べたのだ。
「……? 匂坂の相手か? 今回は梶田と高光だな。梶田チームはこれで二回目の匂坂チームの相手だ。運が悪い……いや、これまでの対戦相手を考えると、自然な流れかもしれないな」
幼馴染の小さな頭の真意には上手く気付けず、鷹一は同盟相手である梶田チームについて言及した。
「うん……種村さんとキッカさんが戦うことになるんだね……」
少し落ち込み気味に雲川が呟いた。どちらも雲川にとっては素晴らしい友人であった。それが思わぬ形で争うことになる。雲川は辛かった。辛くて、幸せを求めた。寿司を食べたくなった。種村と匂坂と一緒にウニを食べたかった。
なお実現すれば、種村の胃が痛くなる組み合わせであったが、雲川はそんなことは知らなかった。
「? ……? ……ああ、そうだな。同盟相手として梶田チームを応援するべきだな。それで、話を戻すが、今回の対戦相手だ。俺たちの対戦相手は、柚木・下水流・滝本だ。どこも強みがあるチームだ。一応解説するぞ」
少し悩んでから鷹一はようやく幼馴染の考えに気付いた。そしてどさくさに紛れて梶田チームの肩を持った。そして話を戻そうとした。
「う、うん……? いいよ……?」
「まずは柚木チームだが、ここは五人チームで数が強いチームだ。駒質と連携・戦術のバランスが良い。恐らくリーダーの柚木が上手く采配しているのだろう。両エースの七夜と堂前が強く、二人ともBランクならエース級のユニットだ。射撃とブレード、どちらも高いレベルで纏まっている。
それと、このチームは専任の狙撃手がいる。狙撃手の安倍は、動きが上手く、狙撃の練度も平均以上で、これまでの戦績も良い。試合の形式上、狙撃手というポジションは嵌れば強い。後で話す下水流チームも狙撃手がいるが、どちらも状況次第でかなり『厄介』になり得る。気を付けつつ対処しよう。
一応、後で、対狙撃手の考え方や訓練方法も教える。もし対策できる時間があったら対策してくれ。まあ、今回の狙撃手はどちらも生半可な対策では通用しにくいだろうから、対策の効率は悪そうではあるが、可能なら目を通してくれ」
鷹一の指示に頷きつつも、金崎は乱闘事件で助けてくれた柚木を思い出した。
(あの谷崎を煽り続けてた柚木が今回の相手か……なんか凄そうだな。持久力とか瞬発力とかも凄いリーダーだったし、俺は戦えるのか……? いや、とりあえず、鷲島の考える訓練メニューや対策をこなしていこう。それで少しずつは柚木にも近づいていくはず……!)
金崎が真剣な気持ちで柚木を思い出す一方で、雲川は低レベルな記憶を思い出していた。
(あのジャンボパフェの人だ……! あの時、なんで、私は、大きい方を頼まなかったんだろう……)
過去の自分の行動を悔やんだ雲川は、落ち込みからどんよりとした表情を出した。それを見て鷹一は『もしかしたら、紫苑も紫苑なりに乱闘事件のことを気にしているのかもな』と誤解した。
「次は下水流チームだ。ここはリーダーの下水流とエースの百田が強敵だ。どちらも高魔力かつ重装備を巧みに扱える。百田の方はAランクレベルの強さだ。今回の対戦相手の中ではマスタングの次に強いと言えるだろう。下水流も優秀で、特に技量が高い。
あと下水流は重装備以外にも狙撃用の隠蔽装備で試合に出ることがある。どちらも十全に使いこなしていることを考えると、次の試合はどちらでくるか読みにくいが……恐らく狙撃装備で来ると思う。そして、下水流の狙撃技能は、安倍以上だ。『狙撃手』の厄介さを考えると、百田以上に危険になり得る。それと残りの生徒も侮れない。
特に下水流チームは『対戦相手の動きを読む』のが上手い。待ち伏せや追撃、不意打ちのタイミングが絶妙だ。恐らくだが、下水流がそういった事に長けているのだろう。下水流の個人的な戦い方もそういった面が強く、その力が下水流チーム全体にも働いているイメージだ」
下水流チームの名を聞いて、雲川は全然知らないチームであったため、頭にクエスチョンマークを浮かべ、一方で、ある程度予習していた金崎は、『たった二試合で20点取ったチームだ』と緊張した。
「最後に滝本チームだが、ここはずっとAランク帯にいたチームだ。四月の最後にBランクまで落ちたチームだが、ずっとAランクにいたという意味で強敵との戦闘経験は豊富だ。
そして、何より、ここにはマスタングがいる。あの男はかなりの強さの持ち主だ。魔力も戦闘技能もどちらも非常に高く、第四試合以外の全ての試合で大きな活躍をしてきた。攻撃・防御・機動の全てが高いレベルで揃っている。これまでの相手として考えると、根崎に近い駒だが、魔力量を考えると根崎以上と思っていいだろう。
他のメンバーも個人戦では戦闘技量が安定しているメンバーが多く、滝本・萩田・竹田の三人はBランクなら十分に戦えるレベルだ。ただ、このチームはチーム戦というものを苦手としている。突発的な戦闘や乱戦に弱いイメージだ。休み期間中に対策をしている可能性もあるが……正直に言うと、マスタング以外は脅威度が低い。
いや、逆だな。マスタングの脅威度が異常に高いチームだ。マスタングは単独で根崎を討ち取れる上に、抜群の連携を誇る舞島チームに個人芸で立ち向かえる程の技量の持ち主だ。俺も1対1という状況では負けかねない相手だ」
鷹一の言葉を聞いて、雲川は瞬時に反応した。
(あの怖い人のチームだ……怖い……萩田さんだけでいいのに……)
休み期間にあった出来事を思い出して、雲川は滝本明里という怖そうなリーダーを思い出して震えた。また滝本チームの一員である竹田やマスタングにも苦手意識があった。唯一、優しかった萩田だけは、雲川も好印象を抱いていたが、他のメンバーは何か嫌だった。楽しい楽しい休み期間に怖い思いをした雲川は滝本チームが嫌だった。
また偶然か、金崎もまた滝本チームに関して思考した。
(滝本って言えば、あのちょっと厳しそうな女子だよな……なんか頭が良さそうだけど冷たそうな感じがした。梶田をもっと頭良くした感じ……あ、いや、こういう言い方は梶田に悪いか……、一緒にいた萩田はなんか良い人そうに見えたな……マスタングは、いまいち分からない。そもそも根崎の強さがよく分からないんだよな。第四試合だとすぐダウンしちゃったし、なんか佐々木が凄いって話になってたし……いや、まあ、多分、根崎は無茶苦茶強くて、マスタングも同じレベルってことだと思うんだけど、雲の上の話すぎて、いまいち実感が湧かない……)
二人の考えを知ってか知らずか、鷹一は言葉を続ける。
「今回の試合の目標だが、まず前提条件として、俺は7月のランク更新でBランク維持を目指している。そしてこれに関しては、二人も目指してほしいと思っているが、そこはいいか?」
そう言って鷹一は、チームメイト二人をじっと見た。冷たい声音に冷たい目線。もし鷹一を知らない人が見れば、『当然頷けよ?』と圧をかけているように見える状況であったが、幸いにして、二人のチームメイトは、真剣であり、そして優しくもある最強のエースの人柄をある程度分かっていた。
二人は強く頷いた。自分たちもBランクの待遇を維持したいという気持ちも当然あるが、鷹一の気持ちに答えたいという気持ちも強くあった。また雲川に関しては、ウニの軍艦を食べるにはある程度ZPが必要だと理解していた。これもお寿司のためだ。
「ありがとう。それで、だが、Bランクの維持となると、5月・6月に行われる八回の試合で『ある程度』のチームポイントを獲得していく必要がある。今後の環境の変化や試練の内容、第七試合終了時の状況にもよるから一概には言えないが、大きく考えて二パターンの戦略があると思う。
一つはとにかくチームポイントを獲得しまくる方法だ。撃破点も任務点も可能な限り全て取る。恐らくだが、学園の推奨している方法だと思われる。この学園は問題も多いし、倫理観も歪であるから、正直、学園の推奨など従う義務は無いが、しかしメリットも多い戦略だ。
まず第一に分かりやすい。とにかく各試合ごとに全力でぶつかればいいからな。あと恐らくだが、VIP受けがいい。つまり各試合ごとの投げ銭が期待できるということだ。ZPはあって困ることはないし、そういった面でも良い戦略だ。
それにもう一つの戦略よりも獲得できる最大チームポイントが大きい。上手く行けばAランクも狙える可能性がある。高得点で逃げつつ、どこかで落ちても最悪Bランク維持という考え方だな」
一つ目の戦略は、分かりやすさ・最大チームポイント獲得力・Aランクの可能性・投げ銭によるZPの確保が強みであった。
ここで言う『投げ銭』とは、五月から始まる制度の一つだ。五月の試合ではVIP向けに生放送されており、ここではVIPはお気に入りの生徒に対して、試合中から試合終了後30分までの間に限り、ZPを付与することができるのだ。付与されたZPはチームごとに纏められて、試合後にリーダーに一括で付与される。
また、その際、チームメイト全員は、投げ銭の内訳――いったい誰がどのくらいチームのために投げ銭を稼いだのかを、学園側から通知される。余談になるが、鷹一はこの内訳システムを知った時、この学園の運営部の性格の悪さを感じた。
鷹一の一つ目の説明を聞き、雲川と金崎は『良い事尽くめに聞こえる』と思った。なんかそれでいいじゃないかと思ったのだ。だが、勿論二人とも、鷹一の次の言葉を聞き逃さないようにした。鷹一が二つあると言ったのだから、たぶん二つ目も重要な選択肢なのだから。
二人の顔つきを見て、真剣に聞いてくれていることを察した鷹一は、このチームに入ったことは間違いではなかったことを再確認した。
「二つ目だが、これは得点調整策だ。獲得する得点を調整して、常にBランク中位から上位を維持する方針だ。後半の試合の結果にもよるが、調整しながら、最後の二試合、第七試合と第八試合は全力で攻めるという方向になると思う。これで第六試合までは『できるだけAランク帯、特にAランク上位との戦闘を避けつつ、Bランクに留まる』というアイディアだ。
一つ目の最大得点策は、状況によっては、暫定Aランクになることがあり、Aランク上位陣と何度もマッチングすることは考えられる。Aランク、特にAランク上位は魔境だ。匂坂・飛山・蓮・零、どのチームも尋常じゃなく強い。第四試合では運よく零チームと引き分けたが、あれはこちらに隠し玉もあったし、何より配置と根崎が真っ先に倒れたことが良かった。根崎が序盤で死ななければ、零チームが勝っていただろう。
他の三チームも当然強い。勿論、梶田チームもな。梶田と一之瀬は状況次第ではかなり面倒な駒だし、反町の戦術能力も脅威だ。正直、あそこと同盟を結べたことは良かった……話が逸れたな。
Aランク帯との戦闘は避けたい。特に最悪のケースとして想定されるのは、俺たちが第六試合終了後に暫定でAランク中位あたりになり、そこから第七試合でAランク上位に惨敗するが、Aランク下位からBランク上位に留まり、その後第八試合でまたしてもAランク上位と当たり、惨敗してギリギリBランクから落ちるというケースだ。
これは『可能性としては』あると思っている。というより、自惚れになるが……俺たちがCランクに落ちる可能性は、今言ったケースくらいだと思う。『現状の環境が続けば』という前提になるがな」
鷹一は説明しなかったことがあった。それは一つ目の案では、Aランク上位との戦いが頻発し、結果『匂坂チームと戦う』という可能性が高いという点だ。鷹一は匂坂と戦いたくなかった。というか関わりたくなかった。
二つ目の案は匂坂と関わる可能性を減らすことができるのだ。そこだけでも鷹一としては選びたい案であった。勿論、『万が一のCランク落ちを回避する』というのも本音ではあるが。
「そこで、俺としては、二つ目の案も有用だと思っている。二つ目の案はAランクは難しいが、Bランクはまず落とさない。Cランクに落ちる可能性をほぼゼロにできるというのは重要だと思っている。というか、俺は元々、考え方的には二つ目寄りの人間だからな……ただ、二つ目はかなり面倒な面も多い。それに学園に試合に対する怠慢と思われる可能性もある。色々と訓練以外にも考えることが増えるだろう。それで、だ。どうする? 二人はどっちの方がいいと思う?」
鷹一の問いかけに二人は困った。雲川も金崎も、そういった戦略的な見方はよく分からなかったし、『自分たちがよく分かっていない』ということも分かっていたからだ。二人は、鷹一が決めるのじゃダメなのかと思った。
しかし、すぐに、『いや、鷲島ばかりに全部任せるのは良くないし、いつかは自分もそういったことを考えなきゃいけないんだ……!』と金崎は思い直した。
なお雲川は、そんなことは思わず、ずっと『分からないから、鷹一くんが決めて欲しい……お寿司がいっぱい食べれる方がいいな……』などと図々しいことを考えていた。
悩む二人の顔から、それぞれの心のうちの読んだ鷹一は、少し悩んだが、問題を先送りにすることにした。
「……まあ、今すぐに決めなくても大丈夫だ。そうだな……とりあえず今回の試合は調整はせずに可能な範囲で点を取っていこうと思う。実際、最大得点案を進めつつ、Aランク帯と戦ってみて、無理そうなら、後半の試合は調整する方針に変えるというのもアリだ。八試合もあるからな。
それで、今回は一応点数を取ることを意識するとなると……目標は6点としよう。この『6』という数字は、あまり深い意味はない。何となく決めた数だ。実際の得点がこれよりも上でも下でも構わない。ただ、6点を目標にしよう。もし俺たち三人が任務を取れれば撃破点は3点でいい。逆に任務が難しそうなら、撃破点で5点程度は必要だ。俺も生き残り任務を取ることを目指すが、二人も今まで通り、生き残ることを意識してくれ。そして可能なら撃破点も狙って欲しい。
後で、それぞれの選手と対策法も話す。次の試合までの間に、対策を踏まえた上で訓練しよう」
その後、鷹一は二人に対狙撃の考え方や今回戦う選手一人一人の対策について説明した。また、今回の試合の対戦する生徒は皆、Bランクで最低限の戦闘をできる生徒たちばかりであり、金崎も雲川も1対1では勝てないほどに強いということも説明した。
これは、『もし仮に負けてしまったとしても、あまり気にしなくていい』という意味の言葉であったが、金崎は『自分の実力では、やはりまだまだなのか』と少しだけ落ち込み、一方で雲川は、『そんなに強い相手と戦うなら、今のうちにお寿司屋さんに行きたい……』などと図々しいことを考えていた。
★おまけ★
★五月第一試合マッチング(Aランク~Cランク)★
★土曜の部★
(暫定Aランク)
匂坂・梶田・高光
零・舞島・星川
(暫定Bランク)
雲川・下水流・滝本・柚木
(暫定Cランク)
淡路・天野・源内・ザベリンスカヤ
★日曜の部★
(暫定Aランク)
飛山・蓮・安重
(暫定Bランク)
中・麻倉・大町・有坂
水渕・神岡・劉・壇上
(暫定Cランク)
秩父・近藤・清沢・畑中