学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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★登場人物紹介

柚木永愛(ゆずきえあ)
 Bランク20位、柚木チームの自称天才リーダー。
 チーム戦では、前線である程度戦えるタイプの戦術型リーダー。鷲島や戦闘適正順位上位者を確保するのには失敗したが、今のチームメイトに不満はない。
 頭の回転は速いが、人を煽ることが多いためか、やや人間関係に問題がある。一方で、人の心の動きには詳しい。
 四月中に安重チームと同盟を結んだ。リーダーである安重とは比較的良好な関係だが、参謀役の乾とは形容しがたい関係。
 若干キラキラしている自分の名前はちょと苦手で、それを呼ばせないように「柚木」という苗字を強調している。

七夜時愛(ななやじあい)
 柚木チームの二枚看板(両エース)の一人。看板仲間の堂前よりは万能性で勝る。何でもそつなくこなし、落ち着いた性格の持ち主。柚木とは、一時寮が同じで、初めて会った時から、彼女を高く評価し、チームに入った。
 巨乳の美人であり、乱闘事件の際に、柚木の策により、マスタングとデートをすることになった。この一件で、チームメイトは憤慨し、しばらくの間、柚木とは口を利かなかったが、七夜自身は気にせず、むしろ、しょんぼりした柚木を慰めた。
 柚木のことを愛らしく思っている。
 また、人にものを教えるのが上手で、密かに堂前からは慕われている。


堂前佐助(どうまえさすけ)
 柚木チームの二枚看板(両エース)の一人。看板仲間の七夜よりは、1対1での戦闘能力に長ける。堂前以外の四人は堂前がチームで最も強いと考えている。
 真面目で、やや負けず嫌いの面があり、プライドが高い。よく柚木に煽られて、青筋を立てている。煽ってくる柚木は嫌いだが、戦闘時の真面目な柚木はリーダーとして認めている。
 七夜には、こっそり技術を教えてもらっている。
 戦闘技術の高さを重視しており、鷲島には恐ろしさを感じる一方で、雲川や金崎のことはナチュラルに見下している。


安倍雄一(あべゆういち)
 柚木チーム狙撃手。狙撃の技量は標準程度だが、立ち回りが上手く、撃破・援護・妨害・偵察など、狙撃手として必要な役割をこなせるため、チーム内での信頼がある。
 冷静で利己的な人物であり、自分が『ある程度、チーム内で地位を確保できる』という条件下で、勝算が高そうな柚木チームに所属した。
 自分の知力を誇っている面があり、実際、戦術的な動きができるが、人と摩擦を起こしやすい。五月の休み期間では、些細なことからAランク3位のリーダーである梶田と揉めた。安倍は気にしていないが、梶田は根に持った。


犬伏青虎(いぬぶしせいこ)
 柚木チームの遊撃担当。
 強気でシニカルで若干口が悪い。柚木の弱点に気付いている数少ない人物であり、煽られた場合は反撃する。柚木のことは煽りカスだと認識しつつも、優秀な面は評価している。
 少し接しにくい人柄とは裏腹に、全体をよく見ている選手であるため、試合ではチーム全体のサポート役に回ることが多い。




第一試合準備 柚木チームの作戦会議

 

 5月6月シーズンの第一試合に向けて、各チームが努力を続ける中、Bランク20位の柚木チームは次の試合に向けて作戦会議を開いていた。

 学園からマッチングが判明する前から五人で集まり、そして、マッチングが決まるや否や、リーダーである柚木が声を上げた。

 

「はいはい、対戦ありがとうございました~」

 

 もはや終わった試合とばかりの言葉に、野心溢れる選手である堂前は眉をひそめた。

 柚木にとって、マスタングも鷹一もまだ相手にするには時期尚早であったのだ。まだ、五人のチームメイトもチームそのものも熟しきれていない。こんな時に戦う相手ではないのだ。

 

「おい、諦めるのが早すぎるだろ」

 

 エースである堂前の指摘に対して、柚木は気だるげな態度で応じた。

 

「いえ、さすがにちょっと厳しいですね。というか面倒です。効率が悪い感じですね。ここで頑張るより雑魚狩りに徹したほうが良い……まあ、堂前君の言いたいこともわかります。一応、試合で手を抜くつもりはないですし、最大限の得点確保も考えます。ただ、今回は捨て試合ですね。最低限取りつつ、今後のための訓練ができればいいなーって感じですね」

 

「お前にしては弱気だな。いつも煽りカス精神はどこにいった?」

 

 堂前の鋭い指摘に、柚木はにやりと笑った。

 

「おや、堂前君は、柚木さんに煽ってほしかったんですか? 実はマゾでしたか? 良い傾向です。この学園では多分サドよりマゾの方が生きやすいです」

 

 柚木の突然の煽りに堂前は青筋を立て、安倍は『もう少し落ち着いてから口を挟もう』と考え、そして、七夜は優し気な笑みを浮かべた。

 

「あ? ふざけてんのか?」

 

「いや、ふざけてないですよ。なぜかって――」

「――おい、お前ら、やめろ。本筋から逸れてる」

 

 柚木と堂前が言い争うのを見て、犬伏がそれを手で制した。堂前は犬伏を睨み、一方で、柚木は興味深そうにチームメイトを見た。

 

「おや? 何ですか? 犬伏君。サドマゾ介入ですか? でも、犬伏君は、名前的にマゾっぽいですよね。名前が犬ですし!」

 

 煽られた犬伏であったが、こちらは堂前よりも口が強かった。

 

「オレと名前で競い合いたいのか? 永愛ちゃん?」

 

 即座に、犬伏は柚木の数少ない弱点に触れた。

 柚木は自分の名前があまり好きではなかったのだ。

 

「まあいいでしょう。柚木さんは平和主義者です。名前の話は止めましょう。ところで、何か言いたいことがありそうですね? 何ですか? 柚木さん、特別に聞いちゃいますよ」

 

「話を戻せ。作戦の話だ。お前の数少ない取り柄を見せろ。次の試合、オレたちはどう戦う?」

 

 逃げる柚木に追撃はせず、犬伏は本来の目的を進めようとした。

 

「人に頼みごとをするときは、『お願いします、柚木さん』と言わないことには……!」

 

「オレは暇じゃない。堂前とお前が乳繰り合ってるのを見る時間はない。さっさと話せ」

 

「おお、失礼しました。今日はデートでしたか? すみませんね。デートの邪魔しちゃって……!」

 

「いいから早く話せ」

 

 煽る柚木を無視し、犬伏が吐き捨てるように柚木に言葉を刺しこんだ。

 

「お! デートがバレて焦ってますね! 安心してください……! 柚木さんは秘密は守ります……!」

 

「五秒待つ。それまでに話せ。5、4、3、2――」

「――ちょっちょカウント早いですよ! せっかちさんですね……! まあ、いいです。良い感じに場が温まってきましたし、柚木さんも話します」

 

 しょうがないとばかりに柚木は態度を改め、自身の考えを口にすることにした。

 

「まず、前提の話、つまり7月のランク更新を見据えた、二か月間の戦略の話をします。

 とりあえず、Bランク維持を狙います。できればAランク入りたいですが、この辺りは、正直、八試合もあるので何とも言えないです。六月の試練とかもありますしね。ただ、八試合もあります。結構、余裕があると柚木さんは思っています。

 野心溢れる皆さん的には、今回も『突撃! 粉砕! 高得点!』と考えているのは、柚木さんも理解しています。ただ、今回は、どちらかというと練習試合という意識で行った方がよさそうです。一応、作戦はありますし、各選手の対策とかも考えてありますが、今回は、『負け』を前提に考えほしいです。それを受け入れた上で、作戦を聞いてほしい感じですね。いいですか?」

 

 柚木としては、今回の試合は少し難しいものだと考えていた。勝ちを諦めたわけではないが、負ける可能性が十分にある試合だったからだ。

 

「ちょっと気に食わないが、お前の言いたいことは分かる。で、作戦はどうする?」

 

 弱腰の考え方に犬伏は眉を顰めつつも、柚木の考えを察し、彼女に続きを促した。

 

「まあ、だいたい読めてると思いますけど、機動戦術でいきます。強い駒は避けて、弱い駒を狙います。特に七夜さんと堂前君には期待しています。うちの二枚看板ですからね。

 あと、今回は、重装備の相手、大出力シールド使いが少ないので、こちらも軽量から中量装備で挑みます。大シールド使い、つまり百田君・マスタング君の二人と、プラスで場合によっては下水流さんですね、この辺り相手にはブレードで応戦します。

 まあ五人全員で合流してもマスタング君には勝てるか厳しいですし、鷲島君相手には弾幕力が不足するので、たぶん化け物二人は無理です。なので、鷲島君は他のチームとの連携で倒せたら倒したいです。てか、マスタング君を鷲島君にぶつけたいです。理想はマスタング君と鷲島君が決戦して、鷲島君がマスタング君を倒したあと、負傷した鷲島君を狙いたいです。あと、化け物二人の頂上決戦中に、機動的にアプローチして、他の駒を倒して撃破点確保が狙い、ですね」

 

 柚木の言葉に犬伏は、一度口を閉じ思考を整理した。犬伏が黙ると、今度は先ほど話していた堂前が口を開いた。なお、この間、安倍は話すタイミングを窺い、そして七夜はずっと優し気な笑みで柚木を見ていた。

 

「機動戦術……飛山チームみたいなもんか?」

 

 堂前が真剣な声音で問いかけた。先ほどまで柚木に煽られていたことは、一旦水に流していた。真剣で真面目な堂前は、リーダーが真面目な話を始めたら、それまでの煽りは許すという懐の深さを持ち合わせていた。

 

「お! わかりますか。柚木さんなりに飛山さんのアレンジ戦術です。あの人、頭がよくて話しやすいので好きです」

 

 柚木の言葉に、これまでずっと無言で笑みを浮かべていた七夜がクスリと小さく笑った。七夜は、この一か月間、柚木と一緒に行動する機会が多く、それゆえ、今の柚木の言葉が本心に近いと考えたからだ。柚木の変なところで素直になる点を、七夜は愛らしいと思っていた。それゆえの笑みであった。

 

「お前の好悪はどうでもいいが、その作戦、上手くいくのか? だいぶ他のチーム頼りだぞ、それ。しかも投入運にも左右されるだろ」

 

 思考を整理した犬伏が疑問の言葉を投げかけた。

 

「さすがです、犬伏君。鋭いですね。それで回答ですが……柚木さんもそこを気にしています。それゆえの練習試合、捨て試合です。正直、投入運に左右され過ぎます。チーム戦は投入運のウエイトがだいぶ大きいですが、特に、今回は大きすぎます。てか、鷲島君とマスタング君が両方とも強すぎるんですよ。二人とも互い以外は基本的に敵がいないです。二人いるのが嫌なんですよ。一人だけなら、残りのチーム全員でリンチすれば何とかなったりするんですけど、二人だと、どっちを先に倒すのかとか、戦うのをあきらめちゃうチームがいるとか、そもそも二人は決戦を避けるんじゃないかとか、そういうことが起こるので、いろいろと面倒です」

 

「――やっぱり、柚木も決戦を避けるって読みか?」

 

 これまで黙っていた、最後の一人、狙撃手の安倍が口を開いた。

 

「お! 安倍君! 今日はいつもより話し始めるのは遅かったですね! 柚木さんが完全に真面目モードになるの待ってました? 柚木さんに煽られるのが怖いんですか?」

 

 ずっと黙っていた頼れる狙撃手に素早く柚木は絡みついたが、対する安倍は堂前や犬伏とは違い、面倒くさそうに柚木を見た。

 

「別に怖くないよ。ただ、面倒なだけ。てか、いちいち話を脱線させるなよ。お前、そういうところが面倒くさいんだよ」

 

 これは正直な感想であった。安倍は柚木のことをある程度評価していたが、堂前ほど柚木を評価していなければ、犬伏ほどお節介でもなく、七夜ほど柚木に好意を抱いていなかった。自分の能力を発揮でき、それでいて、自分が切り捨てられず、かつある程度の地位を保てるチームに所属する、それが安倍のこの学園におけるスタンスなのだから。

 

「なるほど、とりあえず柚木さんの心のノートには『安倍君はビビってたと刻んでおきますね』。それで、まあ、二人は決戦を避ける可能性はあるとは思います。もし、『二人が互いの実力を警戒していて、かつ大敗を避けたいと考えているなら』という条件付きですけどね」

 

 煽る柚木の言葉を無視して、安倍は戦術的な思考に集中した。

 

「俺は大敗を避けたいと考える人間で、おそらく鷲島もそうだろう。ただ、マスタングは決戦を好むタイプだと思うが……いや、それ以前に実力が分からない。俺の技量だと二人が強いのはわかるが、どっちがどのくらい上かは分からない。堂前、お前なら分かるか?」

 

「あ? なんで俺に聞くんだよ」

 

 急に話を振られた堂前は、安倍を睨みながら答えた。鷲島とマスタングという二体の怪物に対して、堂前は内心で怯えがあったからだ。ただ、それは誰にも言えない秘密であった。話を急に振られたことで、秘密を気づかれてしまったかと動転してしまい、とっさに堂前は安倍を睨んだのだ。

 

「いや、お前が、俺らの中で一番強いからだよ。お前なら、あいつらの実力差もわかるかと思ったが、どうだ?」

 

 一方で、安倍は堂前の内心の怯えには気づかなかった。純粋に技量差を考えて、『堂前ならば』という期待があったのだ。

 安倍の純粋な言葉に居心地が悪くなってしまい堂前は小さく舌打ちした。

 

「なんとも言えねーが……ただ、適正順位は鷲島の方が上だが、マスタングも相当『デキる』奴だと思う。相手をするのはかなり厳しい」

 

「どっちが上だ? 魔力量ならマスタングが上だよな。弾幕攻撃っていう強みもあるし、相性を考えるとマスタング有利か?」

 

 これまでの戦闘経験から、鷲島への攻略方法が弾幕攻撃であるという見解を安倍は持っていた。そして、これはある意味では正しかった。

 

「……いや、違う。実況の二年どもは、マスタング有利と言うだろうが、俺は違う。俺の読みなら、6:4か、いや、7:3で鷲島が有利だ。鷲島はどこか人と違う。マスタングは高魔力だが、動きがまだ何とか人間味を感じる。鷲島はそれがない。1対1なら勝つのは鷲島だ」

 

「わかった。その情報は結構助かるな。じゃあ、柚木、さっきの言葉は取り消しだ。俺は、二人が決戦をすることは十分あると思う。マスタングは決戦を好む人格だし、鷲島が有利なら、鷲島はマスタングを速攻で潰した方が得だ」

 

「ふむ、さすがは頭脳派狙撃手。見事な読みです。ぶっちゃけ柚木さんも、マスタング君の人柄読みで、決戦はあり得ると思いました。まあ、鷲島君は決戦を避ける人間に見えますが……いえ、それでも鷲島君も決戦をやった方が良さそうではあります。まあこの辺りは初期配置次第ですけどね」

 

「柚木と安倍は、『鷲島とマスタングが決戦を避けて、それぞれ点の取り合いをする』って線は無いと見てるのか?」

 

 犬伏が確認も込めて問いかけた。

 

「無いわけではないです。ただ、機動力でも鷲島君が勝ってますし、点取り合戦は鷲島君が有利くさいです。それはマスタング君も嫌なはずですし、野心ある滝本さんはそういう選択をしないでしょう。まあ、滝本さんが鷲島君によほどビビっていたら、話は別ですけど、仮にも暫定Aランクにいたリーダーです。ビビってないでしょう。一応、二人が決戦を避けるようなら、こっちも上手く誘導して二人を戦わせますよ。ま、これも投入次第ですけどね。今回は投入に左右されすぎる試合です。練習試合と思って流しましょう」

 

「その『練習試合』って表現は気に食わないが、柚木の考えは分かった。一応、念のため聞くが、『勝ち』を捨てる気はないんだよな?」

 

 堂前が言葉とともにじっと柚木を見た。

 

「難しいですが、完全に諦めたわけではないですよ。投入に左右されるということは、こちらが有利な投入になる可能性もあります。都合の良い展開を手繰り寄せることもできるでしょう。勝ちもあり得ます。

 ただ、勝つにしろ負けるにしろ、盤上を支配するのが大切です。足止め・誘引・妨害、空間をどう活かすかが大事です。これは格上相手にも重要なところなので、皆さんも化け物に挑むときは意識してください。

 役割的には、おそらく、柚木さんと安倍君が盤上を動かして、二枚看板(堂前君と七夜さん)が撃破点を稼ぐ感じです。犬伏君は全体のサポートと遊撃ですね。特に安倍君が重要です。格上の妨害狙撃、あと場合によっては撃破点や二枚看板(堂前君と七夜さん)の支援もお願いしたいところです」

 

「別に構わないが……やること多いな」

 

 そういって安倍は小さくため息をついた。

 

「狙撃手は格上相手にも通用するユニットですからね。頑張ってください!」

 

「格上相手か……それは確かにそうだけどさ。一応言っとくけど、鷲島相手は厳しいよ。鷲島の足止めはできなくはないけど、30秒くらいか、最高でも2分が限界だ」

 

「2分は短くないですか? カップ麺もできないじゃないですか」

 

 再度、隙を見つけた柚木の煽りが入った。

 安倍はそれを無視しつつ、自身の考えを口にした。

 

「普通の相手なら、格上でも5分くらいは時間を稼げるけど、鷲島は化物だ。人間じゃない。あいつの全試合分のログを解析したけど、常に全方位警戒してる。並の狙撃手じゃ無理だ」

 

「安倍君は並の狙撃手なんですか? いつもの頭脳派アピールはしないんですか?」

 

「並だよ。頭脳派だけど、狙撃手としちゃ並だよ。てか、鷲島を倒せる狙撃手なんて、道合くらいだろ。あと、俺に道合と同じ働きは期待するなよ。道合も道合で人間辞めてるくさいからな」

 

 ここで安倍は、新入生の中で最強の狙撃手と呼ばれている飛山チームの道合の名前を挙げた。道合の強さと恐ろしさならば、当然柚木も理解できると考えたからだ。

 

「ちょっと謙遜が過ぎると言いたいですが……私もあまり狙撃は詳しくはありません。そこは現場の人の価値観に任せるとします。最大2分ですね。ちょっと脳内の情報を更新しておきます。しかし、2分ですか……安倍君が本気で言うならそうなんでしょうけど、やはりまだ鷲島君の相手は厳しいですね。何だかんだでマスタング君は普通に面倒ですし、滝本・雲川の両方を引いた運の悪さを呪いましょう。まあ、あの二つのチームは、Bランクで2チームしかいないTier1チームです。あまり気負わずいきましょう」

 

「Tier1って何だよ……」

 

 突然の柚木の謎単語に、堂前が突っ込みを入れた。

 

「柚木さんが決めた強さランキングです。数字が低いほど強いです」

 

「ケチつけるわけじゃないけど、麻倉チームはTier1じゃないの?」

 

 横から安倍が疑問を問いかけた。狙撃手にとって、最強の存在である道合。彼女を砲撃で追い詰めた麻倉チームの佐々木は、頭が回る狙撃手にとっては恐るべき存在であった。

 

「あそこはTier0です。Bランクで一番強いどころか、実質Aランク下位、ワンチャンAランク上位に食い込むポテンシャルがあります」

 

「そうか、数字が低い方が上だから、1より上に0があるのか……」

 

 真剣そうに堂前がつぶやいた。そんな二枚看板の強い方(堂前)を見て安倍は『こいつ、ふつうにバカ真面目だよな』と感じた。

 

「ま、麻倉チームはぶっちゃけ今はどうでもいいです。あそこはどうせ、ほっといてもAランクに行っちゃうので、しばらくは関わりがあんまり無さそうです。むしろ、今後もBランクで当たりそうな滝本・雲川チームの方が重要です。今回の試合で得られる情報は次につながります。そういう面でも頑張りましょう。相手に情報を落とさせるんです。戦術的に負けても戦略で巻き返します」

 

 柚木の宣言に対して、四人はそれぞれの態度を示した。堂前は少し誇らしげに、犬伏は鼻で笑いつつも少しだけ期待するように、七夜は優し気な表情で柚木を見て、そして安倍は何とも言えない表情を浮かべた。

 

「戦略ね……言いたいことは分かるけど……あーいや、やっぱいいや」

 

「何ですか? 安倍君。そういう意味深な態度取られると柚木さん気になるんですけど」

 

「いやさ、戦略ってようは誰を取るかって話に行き着くだろ。それを考えると、戦闘適正順位の上位を抱きこんでるチームが普通に強いよな。零チームとか匂坂チームとかは絶対戦闘適正順位上位者で固めただろ」

 

「まあ言いたいことは分かりますけど、そこはもう今更議論してもしかたないのでは? 人生は配られたカードで勝負するしかないのです。それがどんなに弱いカードであったとしてもね。まあ! でも柚木さんは、今の手札、気に入ってますよ。何だかんだでいい感じの四人――いえ、五人を引けたと思ってます。まあ! この中で一番良いカードは天才リーダーの柚木さんですけどね!!」

 

 柚木の言葉に、安倍は呆れたような顔をし、犬伏は鼻で笑い、そして、七夜は愛おしそうに柚木を見た。

 そして、チームのエース堂前は、少し悩まし気な顔をして口を開いた。

 

「なあ、柚木」

 

「おお? 何ですか、堂前君?」

 

「いや、カードで例えるなら、一番良いカードは鷲島だよな。なんで、雲川は、あんなカードを引けたんだ?」

 

「ほう! 雲川チームの話をしたいわけですか? あのチームは一見すると意味が分からないチームですよね! でもでも、実は、ある補助線を引くと、とても分かりやすいチームだったりしますよ。聞きたいですか? 今なら、今後一年間、リーダーのことを敬いながら『さん』付けで呼ぶだけで、教えてあげますよ!」

 

 煽る柚木に対して、堂前は少し嫌そうな顔をした。堂前は、『真面目に戦術を考え、そして試合でも強さを持つ』柚木に対してリーダーとして好感があったが、普段の煽る態度は嫌いだったからだ。

 そんな堂前を見て、犬伏は少し呆れてから口を挟んだ。

 

「あのチームは極端すぎる。鷲島が強すぎるし、他の二人は弱すぎる。その辺を考えれば、答えは出るだろ」

 

 この犬伏の言葉は事実に近かった。そして、柚木チーム全体の総意に近い言葉でもあった。

 異常な戦闘能力を持つ鷲島を五人全員が警戒していたが、一方で金崎と雲川はそうではなかった。雲川に関しては、全員が『得点:1点』と考えていた。

 ただし、金崎に関しては考え方にグラデーションがあった。犬伏と堂前は、金崎を低く評価していた。これまでの活躍は全て『運』と鷲島のおかげであり、金崎個人の技量は過大評価されていると考えていたからだ。

 一方で柚木は金崎を評価しており、七夜も柚木の考え少し同意していた。狙撃手の安倍は金崎のことを特別低く見てはいなかったが、『そこまで警戒する相手ではない。というか鷲島が強すぎて警戒する労力を割く相手には見えない』と考えていた。

 

「そこら辺って……いや、俺だって、あのチームは鷲島のワンマンチームってのは分かってる。ただ、なんでそうなったかってのが分からない。なんで鷲島は雲川のチームに入ったんだ? ワンマンチームやるならどこだって一緒だろ。もっとマシなチームがあるだろ」

 

 犬伏の横からの言葉に、堂前が反論した。

 

「『柚木さん』といい加減呼んで欲しいんですが、まあいいでしょう。柚木さんは器が大きいリーダーです。行動で、尊敬に値するリーダーと示しましょう。とりあえず、鷲島君が雲川チームに入ったり理由で、一番有名な説は、鷲島君が雲川さんことを好きって説ですね。この好きは愛情的な意味です。ただ、これは柚木さん的には違うと思っています」

 

「あ? 違うのか? 鷲島の好き嫌いで選んだだろ」

 

 犬伏が梯子を外されたとばかりに声を上げた。

 

「いやー、普通にあのレベルを取らないって話です。鷲島君はプレイボーイって有名ですし、色々な女子生徒と関係がありますし、結構多くの女性リーダーから声をかけられたはずです。その中には雲川さんよりも見た目も中身も優れたリーダーが多いです。具体的に言うと柚木さんとかです。それなのに雲川さん選んだんですよ。愛情ではないでしょう。てか、そもそも雲川さんは鷲島君のタイプじゃなさそうです」

 

「じゃあ、どんなのがタイプなんだよ?」

 

 話がそれつつあることに気づきつつも、圧倒的な強者である鷲島についての柚木の考えが気になり、犬伏は追加の質問をした。

 

「ん~、具体的に誰がタイプって言われると難しいですけど、相性が良い異性なら分かりますよ」

 

「誰だよ」

 

 思わせぶりな柚木の態度に、素早く犬伏が切り込んだ。

 

「柚木さんの読みですが……たぶん鷲島君は谷崎さんと相性が良いです。あの二人は似てるところと似てないところがあって、それが良い感じに噛み合うと思うので、相性良いと思いますよ」

 

 出された名前は、匂坂チームの蹂躙担当――学園における暴力の化身、谷崎ミホであった。

 思わぬ名前が出て、柚木以外の四人はそれぞれが納得できないかのような表情を浮かべた。

 

「流石に鷲島もゴリラは選ばないだろ」

 

 犬伏が真剣な表情で、自分の中の真理を口にした。それに対して、堂前が目線でうなずいた。

 

「見た目は結構可愛い系ですよ?」

 

「見た目が良くてもゴリラはゴリラだろ」

 

 素早い柚木の返しに対して、犬伏もまた素早く返した。同時に、堂前が強くうなずいた。

 

「いえいえ、性格面の相性は大きいですよ。柚木さんの読みでは、匂坂チームで一番鷲島君と相性が良いのは谷崎さんです。というか、他が結構壊滅的に鷲島君と相性が悪いです。匂坂さん然り、石河さん然り、山見さんなんかは最悪な気がします」

 

 柚木のあまりに理に外れた答えに、犬伏と堂前は言葉に詰まるが、安倍はすぐに疑問を声に出した。

 

「そうか? あの中なら、山見か、石河じゃないか?」

 

 言外に、匂坂は論外と言うかのような言葉であった。

 

「石河さんは自分にも他人にも厳しく冷徹な人です。ゆるふわ雲川さんのチームに浸ってる鷲島君とは相性が悪いです。山見さんは……まあ、これはあんまり根拠ないんですけど、たぶん鷲島君と相性が悪いです。あの二人は色々と正反対なイメージがあります」

 

「冷徹で厳しい人間が駄目なら、谷崎も完全アウトだろ。あいつは他人に厳し過ぎる」

 

 なんとか冷静さを取り戻した犬伏が再び自分の中の真理を口にした。

 

「ぶぶー、外れです。谷崎さんは他人に厳しいのではなく、自分の考えるルールを遵守するタイプです。他人に厳しいわけではありません。そして谷崎さんのルールを鷲島君は書き換えることができるので、何も問題がありません。というか、柚木さんの読みでは、もし谷崎さんが匂坂さんと出会わなければ、雲川チームに入った可能性が結構あります。てか、そもそも他のチームに入れません。谷崎さんはルールを破れないので」

 

 柚木の言葉に、犬伏は頭が痛いとばかりに、手で頭を押さえた。

 

「ちょっと待て話が……いや、そうか、話は逸れてないのか。つまり……雲川チームは鷲島の楽園ってことか?」

 

「楽園ですか。ふーむ、柚木さんの考えとは、少しニュアンスが違いますかね。楽園というより安息地といった感じです。まあそれ以外にも何かありそうではありますが……でも、だいたいは正解です。流石は犬伏君です。そういう聡くて、気を利かせるところが女子にモテる秘訣ですか!? 最近、彼女さんとはどんな感じですか!?」

 

 再度煽り始める柚木に対して、犬伏・安倍・七夜がそれぞれの反応を見せる中、堂前だけは、理解できぬ怪物を思いながら小さく言葉をつぶやいた。 

 

「安息地か……」

 

 その言葉は誰にも拾われることはなかった。

 

 そして、そのあとも、柚木チームの面々は各チーム対策の話を詰めていったのであった。

 

 




★お知らせ

パソコンを買い替えまして、データ移行や新PCでの執筆体制の準備など、かなりいろいろと忙しく、申し訳ないのですが、次回の更新は少し遅れるかもしれません。
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