学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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★登場人物紹介
滝本明里(たきもとあかり)
 Bランク16位、滝本チームのリーダー。平均以上の魔力と戦闘力の持ち主。鷹一からはチーム戦での「動きが固すぎる」と評された。
 実力主義者で、特に、試験順位など、『強い権力をもった機関が決める指標』を重視する。高圧的で、自分の能力に自信があるためか、やや他者を下に見る傾向がある。愚かと見做した相手に厳しく、特に雲川に厳しい。半面、戦闘適正順位・筆記順位上位者には一定の敬意を払う。
 四月試練では、鷲島・佐々木・青井などの勧誘には失敗するが、マスタングという得難い強者の勧誘には成功した。ただし、マスタングの加入理由は、滝本のルックスというものであり、滝本としては、そこは不満に感じている。
 
 
萩田恵梨香(はぎたえりか)
 滝本チーム所属のレーダー・通信担当。作戦面の補佐も担当。チーム内では、柔軟性と対応力に長けるため、戦闘中(特に滝本ダウン後)は、指揮と戦術を担当している。また、通信担当の中では、戦闘力が高い。
 穏やかな性格で、優しそうに見えるため、滝本チームの中で、唯一、雲川に怖がられていない。
 リーダーである滝本とは中学からの友人であり、彼女を支えたいと思っている。また同時に、空回りしやすい滝本を心配している。
 学園入学後は、やや人間関係に難がある滝本の代わりに、他チームとの関係構築に努めている。比較的良好な人間関係の持ち主ではあるが、下水流のことは嫌悪している。


【ビクター・マスタング】
 滝本チーム所属の大エース。戦闘適性順位4位。非常に高い戦闘力の持ち主かつ高魔力。鷹一からは「対等な状況で戦って、1対1でも鷹一が負ける可能性がある生徒」と評された。
 魔力識別技能に長け、目視していない対象であっても魔力パターンから個人を識別可能という珍しい技能の持ち主。ただし、魔力隠蔽を行う相手などは識別できないことが多い。「外界の認識を魔力に頼りすぎている」と鷹一に評された。
 自称フェミニストだが、特定の身体特徴を持つ女性ばかりに入れ込み、かつ女性の外面を重視しているため、周囲からは「ただの女好き」だと認識されている。なお、マスタングが滝本チームに所属した理由の9割は、滝本の外見。
 基本的に男相手にはあまり興味はないが、一方で戦闘は好きな方なので、ある程度の強さを持つ男子生徒のことは記憶している。同ランクの強者としては、鷲島と佐々木に興味があり、また喧嘩できるという意味で水渕のことも内心では気に入っている。
 わりと今の学園生活を楽しんでいる。


竹田栄一(たけだえいいち)
 滝本チーム所属の戦闘要員。頭はあまりよくはないが、本人も自覚しているため、その面ではチームに大してあまり迷惑をかけていない。
 やや熱血気味で、曲がった事が嫌い。人に馬鹿にされるのも嫌い。入学後、その性格ゆえに、トラブルを起こしたが、たまたま居合わせた滝本に助けられ、以後彼女を支えるためチームに入る。
 現実での身体能力に長けるが、銃撃戦能力は並であり、連携や戦術能力は低い。四月の試合では、チーム戦の難しさを思い知った。
 今は、少しでも強くなるために訓練中。


第一試合準備 滝本チームの作戦会議

 

 五月の第一試合が近づく中、滝本チームもまた次の試合に向けて作戦会議――いや、正しくは、リーダーの滝本は既に戦いを諦め、敗戦処理を考えていた。

 

「まず、はっきりと皆に告げておくわ。次の試合は勝てない」

 

「諦めるのが早いヨ」

 

 リーダーの滝本の宣言に、大エースのマスタングが素早く答えた。流石に、弱気すぎると感じたのだ。

 

(明里は強気なところが魅力なんだけどナ。ウーン、舞美の時もそうだったけど、順位とか意識しすぎてるんだよネ。そんなんじゃAランク1位なんて到底無理だと思うけド。まあ、いいカ。ボクは明里と仲良くできればそれでいいし、本気で1位を狙うなら、キッカとも戦わないといけないしネ)

 

 マスタングは、脳内に、銀色の怪物を思い浮かべ、面倒事は避けたいと考えた。

 大エースの考えには気づかず、滝本は自身の言葉の理由を口にした。

 

「鷲島君が相手よ。無理に決まってるわ。第一、こうならないように、雲川さんと同盟を結ぶつもりだったのよ……、一手遅れたのが悔やまれるわね……いえ、同盟相手がAランク3位となると、やはり厳しかったわね」

 

「明里。キミは、戦ってもいない相手のこと、なぜそんなに警戒してるんだイ?」

 

「戦わなくても分かるわ。彼の戦闘適正順位は1位、そしておそらく、あの無敵と言われている匂坂さんが2位よ。ついでに言うと、貴方を文字通り瞬殺した青井さん3位よ。どう、力の差が理解できた?」

 

 滝本は、馬鹿な人間に道理を説くかのように、上から目線で質問に答えた。そんなリーダーに対して、マスタングはニヤリと笑った。

 

「そして4位はボクだネ。大して彼らと実力差は無いヨ。むしろ相性を考えると、鷲島はそこまで脅威じゃないかもネ」

 

 強気なマスタングに対して、滝本は視線の圧を強めた。

 

「馬鹿も休み休み言いなさい。彼の試合を見たでしょ? 圧倒的な技量・機動力・得点能力、おまけに防御力も高いわ。Aランク上位の零さんのチームでさえ彼には敵わなかった。あの雲川チームをたった一人でBランクに押し上げたのよ。こんなこと他の誰にもできないわ」

 

「確かに技量はかなりの物ダ。特に機動力は中々だヨ。でも得点能力は運の面も大きいし、あの分散シールドはだいたい見切ったヨ。ボクなら壊せル。あと、アリシアのチームを倒せたのは、佐々木の存在も大きいヨ。彩が序盤で落ちなければ、結果は違っただろうネ」

 

「妄想も大概にしなさい。4位の貴方じゃ、1位の鷲島君に勝つことは不可能よ。貴方の都合の良い耳は、さっきの私の言葉を聞き流したんでしょうから、もう一度言うけれど、貴方は3位の青井さんに瞬殺されたのよ。2位の匂坂さんにも1位の鷲島君にも勝てるはずないわ」

 

 鷹一に対する畏怖とマスタングに対する苛立ちからか、滝本の言葉は厳しいものだった。

 

「あんまり水渕みたいなことは言いたくないけどサ……明里、キミは戦闘適正順位を過信し過ぎだよ。アレはそこまで万能なモノじゃなイ。実際、舞美は結構強いからネ。もしかしたら、鷲島よりも上かもヨ?」

 

 マスタングは以前、Bランクの大浴場で話をした相手――Bランク13位のリーダー水渕と同じ言葉を口にした。

 

「1億歩譲ったとして、青井さんが鷲島君以上の実力者だったとしましょう。まあ、ありえない仮定でしょうけど、そう仮定しましょう。でも、そうだったとしても、マスタング君、貴方は零さんにも負けているわ。そして、鷲島君は、零さんではなく零チーム全体に勝っている。この意味が分かるかしら? 貴方が言っているのは、ただの屁理屈で、もっと言うならば、鷲島君への内に秘めた恐怖からなる虚勢よ。現実をちゃんと見なさい」

 

 第四試合では、滝本チームは蓮チームに敗北した。その点差は10点という凄まじいものであった。滝本チームは1点も取ることができなかったのだ。その原因の一つは開幕直後に蓮チームのエースである青井がマスタングを瞬時に打ち取ったためだった。マスタングを失った滝本チームは、戦闘力を大きく喪失し、撃破点を取ることはできず、また青井という脅威に晒された結果、任務点すら取ることができなかったのだ。

 滝本にとっては忌々しい試合であった。しかし、この試合はチームを見つめなおす切っ掛けになり、また現在の滝本の同盟相手である高光との繋がりを持てた試合でもあった。

 また、第二試合では零チームと戦った際、マスタングは零に敗れたのだ。この試合では、マスタングは根崎を単独で撃破するという功績を挙げた。しかし、その後、五条と秀川相手の重射撃組を崩すことができず、二人に対応している間、瞬間的に接近した零に打ち取られたのだ。

 

「明里。『相性』って言葉を知ってるかイ? 鷲島がアリシアに一方的に勝てたとしても、ボクに一方的に勝てるわけじゃなイ。というより五分五分か、ボクの方が有利だヨ。少なくとも『ある一定の距離』があればね。実際、秀川の弾幕に鷲島は近づけなかっただロ。ボクの弾幕は秀川より上だヨ。彼よりもボクの方が5倍以上魔力が上だしネ」

 

「完全に机上の空論ね。鷲島君には、あの分散シールドがあるわ。あれは正に鉄壁よ。攻略は無理ね」

 

 滝本にとって、鷲島の防御法は、まさに理外の技であった。それを見たとき、滝本は、まず始めに驚愕し、それから必死に分散シールドへの知識を深め、自分で使用しようと試み、二分割すら困難な技術だと確かめた。集中して二つにシールドを分割することが限界であった滝本には、当然戦闘中に分散シールドを使うことなど不可能であった。

 そして同時に、戦闘中に一度に十以上のシールド分割を行う鷹一への畏怖を強めた。

 

「さっきも言ったけど、ボクは、もう鷲島の分散シールドは見切ったヨ。まあ完全とは言い難いけど、だいたいは見切っタ。あの防御を攻略できれば、あとはバターを切るよりも容易いヨ」

 

「貴方が言っているのは根拠の無い妄想よ。鷲島君よりも上と示したいなら、根拠を出しなさい。根拠を。まあ無いでしょうけどね」

 

 何度言っても聞かぬマスタングに対して、滝本は苛立ちながら高圧的な態度を見せた。

 

「根拠は魔力の差かナ。それなら、ボクの方が鷲島よりも上だって分かるだロ?」

 

 一方で、マスタングは滝本に怒りなど気にせずに、作戦会議開始時から態度を変えなかった。

 

「そうね、そこだけは認めるわ。貴方の魔力量は大したものよ。おそらく一年生では匂坂さんの次でしょうね。でも、魔力量だけで勝負は決まらないわ。実際、私は稲葉さんや森合さんより魔力は低いけど、彼女たちに負けるとは思えないもの」

 

 滝本は、Aランク四位である蓮チームの二名の名前を出した。どちらも滝本よりも魔力量で勝っていたが、戦闘技量では劣っていた。

 

「そのレベルの話だと――」

「――ちょっと待って! マスタング君、滝本さん、一回話を止めよう……! 二人とも、さっきから堂々巡りになっちゃってるよ……!」

 

 マスタングの反論を、チームメイトである萩田が止めた。

 

「それは、確かにそうね……分かったわ。一旦、マスタング君と鷲島君の強さについては置きましょう。ただ、今回は負け試合よ。でも、ただ負けるつもりは無いわ。できる限り、撃破点と任務点を取る。そのための作戦の話を今からするわ」

 

 滝本は、『一旦置いておくと』と口にしながらも、『試合で負ける』という前提の話をし始めた。萩田は、『滝本さんのいつも癖が出ちゃった……』と内心で困りつつも、マスタングの顔色を窺った。マスタングは強気の笑みで滝本と、そして萩田を見た。

 そんな二人に気付かずに、滝本は言葉を続けた。

 

「まず、撃破点だけど、これは確実に取れる駒を狙うわ。私、萩田さん、竹田君は小駒――雲川さん・金崎君・犬伏君・木山さん、あと狙撃手の安倍君は必ず取るわ。中駒――小駒と鷲島君・百田君を除いた駒は、二人以上の連携で取る。大駒――百田君は、マスタング君に任せたわ。

 マスタング君、さっきは私もムキになってしまって貴方のことを悪く言ったけれど、本音で言えば、貴方は非常に強い選手よ。今回の戦いで、鷲島君以外に貴方を止められる生徒はいないわ。だから、鷲島君との戦闘は避けて、それで、代わりに他の生徒をすべて倒して。貴方ならできるはずよ」

 

「ウーン、ボクとしてはその評価は少し誤りがあると言いたいけど、でも、実際そうだネ。鷲島以外はどれも相手にならないだろウ。本当は、鷲島も明里が警戒するほどじゃないけド、まあいいヨ。明里、ボクは君のことは気に入っているからネ。キミの願いは出来るだけ叶えよウ」

 

「それは、つまり鷲島君からは逃げ、生き残ることを優先して、他の生徒を確実に倒してくれる、という認識でいいのよね?」

 

 滝本が確認の言葉を口にした。

 

「よくないけど、いいヨ」

 

「よくないけどって……貴方、どっちつかずな曖昧な表現は止めなさい。鷲島君とは戦わない、仮に戦うとしても他の相手を全員倒してから、それでいいわね?」

 

 強く念を押すように滝本が問いかけた。

 

「状況次第かナ」

 

「待ちなさい! 貴方! 私の指示を聞く気がないわね……!」

 

「いや、そこそこ聞く気はあるヨ。でも鷲島の方から仕掛けてきたら戦わざるを得ないだロ? というより、キミの言う言葉が正しいならば、鷲島はボクを真っ先に狙うはずダ。なら戦うしかないだロ?」

 

 このマスタングの指摘は滝本を詰まらせた。その指摘は正しいと滝本も感じたからだ。鷹一が、『重射撃能力を持つマスタングを盤上に残していけば、撃破点の獲得機会を損失する』と考えれば、真っ先に鷲島はマスタングを狙うはずだ。滝本の言う、鷹一がマスタングに必勝であるならば。

 

「それは…………確かに、そうかもしれないわね。正直に言うと、それは最悪のケースね。その時は、できるだけ、鷲島君から逃げて。他のチームに鷲島君を擦り付けるのが理想だけど、現実的ではないわね……もし、近くに私たちがいれば、間に入って少しでも時間を稼ぐわ」

 

 悩みつつも滝本は判断し、決意に満ちた表情でマスタングに答えた。それに対して、マスタングは内心で呆れた。

 

(この三人だと、鷲島相手に10秒も稼げれば奇跡だネ)

 

 心の内は言葉にせず、マスタングは言葉を紡いだ。

 

「それでも、戦いが避けられなかったら、どうすル?」

 

「その時は、玉砕覚悟で鷲島君と戦ってもらうわ」

 

 凛とした表情で滝本が言葉を返した。

 

「ボクはそもそも勝つ気で戦うけド……でも、そうだね、折角だから、もしボクが鷲島に勝ったらご褒美をくれるかナ?」

 

「折角って……貴方、さっきから自分で鷲島君に勝てると虚勢を張っていたでしょう」

 

 滝本が、訝し気にマスタングを見た。

 

「虚勢ではないヨ。でも明里は、ボクが負けると思っているんだろウ? だったら、ボクが勝ったらご褒美を貰ってもいいんじゃないかナ?」

 

「……ZPの分配ならもう十分増やしてるわ」

 

 マスタングの言葉に一理あると感じたのか、滝本は眉を顰めつつも、話を進めた。

 

「ZPも興味はあるけど、今はもっと別のものが欲しいかナ」

 

「何? 言ってみなさい」

 

 マスタングの笑みに嫌らしいものを感じた滝本が、警戒しつつも先を促した。

 

「ボクが鷲島に勝ったら、キスしてほしい、っていうのはどウ?」

 

「……なにを言ってるのよ。そんなことするはずないでしょう」

 

 マスタングの願いに、滝本は一瞬だけ固まるが、すぐに拒絶の言葉を返した。

 

「ほっぺでもいいんだけど駄目かナ?」

 

 真顔でじっと見るマスタングに耐えかねて、滝本は視線を逸らしつつ、話も逸らすことを決めた。

 

「駄目よ。それに、もう、貴方には返しきれないほどの『ご褒美』を渡しているわ。私のファーストネームを口にするという許可をね」

 

「それはケチだよ明里。ケチ臭いリーダーは大成しないヨ」

 

「ずぼらなリーダーよりも100倍マシよ。それに私はケチではないわ。むしろマスタング君、貴方が最初の約束を破っているのよ。『チーム戦で活躍し、チームをAランクに上げる』という条件で、私は『明里』という呼び方を許したのよ。本来なら、Bランクになった時点で、私のファーストネームを口にする権利は没収のところを、特別に許したのよ。むしろ、私はとても寛大だわ」

 

 この滝本の言葉は事実であった。マスタングはチームに所属すると同時に、滝本を名前で呼び、しかし、滝本に一度名前呼びを拒否されたのだ。なんとかマスタングが願い、最終的に、Aランク入りを果たすという条件付きで、滝本は名前呼びを許したのだ。マスタングとしては、Aランク程度余裕だと考えていたこともあっての条件であったが、今はそれを後悔していた。

 

(ウーン、それを言われちゃうとちょっと弱いネ……思ったより、この学園は優秀な生徒が多イ。それに『運』の要素が大きすぎるシ……あと思ったより明里たちが、いや、まあ弱い明里も可愛いけどネ)

 

 チーム戦の複雑な要素は、強者であるマスタングであっても一筋縄ではいかなかった。また、同時に、マスタングは、自身の所属しているチームが想像よりも弱かったことを僅かに嘆いた。

 

「墓穴掘っちゃったかナ? まあでも、今更呼び方を変えるなんてできないし、しょうがないネ」

 

 内心の嘆きを誤魔化しつつも、マスタングは話を流せないかと試した。

 

「鷲島君を倒したら、今後も『明里』呼びは認めるわ」

 

「ちょっと待ってヨ、明里。それはケチすぎるヨ。せめてほっぺにチューも付けてヨ」

 

「それはチームがAランク1位になったら考えてあげるわ」

 

「Aランク1位なら、ディープキスくらいは必要ダ」

 

 あまりに吝嗇だとマスタングは感じた。そのためか、少し踏み込んだ要求を口にした。

 

「絶対に駄目よ。私はそんな安い女じゃないわ……それで、話がだいぶ逸れたわね。ごめんなさい二人とも、話を戻すわ」

 

 マスタングに対して強く拒絶した後、今まで黙っていた二人のチームメイト――萩田と竹田に小さく謝ると、滝本は言葉を続けた。

 

「今回の対戦相手は、鷲島君が尋常じゃない位強いけれど、他はそこまででもない。特に柚木チーム・雲川チームの駒は小駒が多いわ。

 柚木チームの両エース(堂前君と七夜さん)は警戒すべき相手だけど、マスタング君の敵じゃないし、私たちも二対一なら十分倒せる相手よ。他の駒は一対一でも十分。

 雲川チームは鷲島君という最大の例外はいるけれど、他は信じられないくらい弱いわ。金崎君も雲川さんも、正直、Bランク帯で考えると論外ね。この二人は見つけ次第、確実に取るわ。

 最後、下水流チームだけど、ここは試合数が少なくてデータがかなり乏しいわ。でも、『得点力』がかなり高いチームね。エースの百田君とリーダーの下水流さんが優秀よ。下水流さんは私たちの連携で倒せそうだけれど、百田君はたぶん厳しい。よって百田君に関してはマスタング君に一任するわ。

 一応、各選手の戦い方についてはいくつか考えたわ。共有データに上げておいたから、確認してちょうだい。と、まあ、こんな感じなのだけれど、萩田さんも竹田君もこの作戦でいいかしら? 何か意見があったら聞くわ」

 

 二人、特に信頼している萩田の方を見ながら、滝本は問いかけた。

 竹田は戦術には乏しく、滝本の言う言葉を『まあ、滝本は俺より頭がいいし、なんか良さそうな気がする』と思い反論はなかった。一方で、萩田は滝本の態度に不安があった。

 

(鷲島君以外、眼中に無しって感じ……確かに、マスタング君は、凄く強いし、戦闘での立ち回りも上手いと思う。滝本さんには言えないけど、マスタング君が『勝機がある』と言うならば、鷲島君の相手をすることだってできる――でも、それはあくまでマスタング君個人の話。私も、滝本さんも、竹田君も、実力として、たぶんBランクじゃない。Cランクか、それ以下。柚木さんのチームは普通に優秀だし、『チーム戦』ってことを考えるなら、滝本チーム(うち)よりも強い気がする。あと、評価したくないけど、下水流チームもたぶん格上。私たちが警戒する相手は鷲島君じゃなくて、柚木さんのチームと下水流チームのはず。鷲島君相手は完全に諦めるか、マスタング君に全部任せた方が良さそう……でも、これ言ったら、滝本さん怒るだろうなぁ)

 

 萩田は悩みつつも小さく手を挙げた。

 

「意見ってほどじゃないけど、いいかな?」

 

「勿論よ。萩田さん、何でも言って欲しいわ」

 

 滝本のやや柔和に作られた笑みを見て、萩田は内心で頭を抱えた。

 

(だいぶ頑張ってるけど、まだ硬いよ……これだとまだ、こっちが『何でも』言ったら怒るんだろうなぁ……)

 

 萩田は個人的に滝本を慕っていたが、一方で、『リーダーとしては難しいところがある』とも認識していた。

 

「ええっとね、さっき言ってた小駒――雲川さん・金崎君・犬伏君・木山さん・安倍君、に関してだけど、できれば、この相手もあまり油断はしない方がいいと思うんだ。今回の試合、『負け』前提で考えるなら、確実に1点1点取っていった方がいいし、それなら、小駒相手でも油断するべきじゃないと思うの。どうかな……?」

 

 慎重に言葉を選びながら、萩田は滝本の考えに異を唱えた。

 

「萩田さん、そこは安心していいわ。私も油断しているわけじゃないし、それは竹田君も萩田さんも同じのはずよ。ただ装備の相性から考えて、安倍君は正面からなら問題ない相手だわ。あえて言うなら、木山さんと犬伏君は確かに、注意した方がいいけれど、でも、必ず二対一にできるかは投入運にも左右されるわ。木山さん・犬伏君クラスなら、こちらも積極的に攻めて、撃破点にするべきよ」

 

 滝本の答えは、萩田の挙げた五名のうち三名に関してのみであった。これは言外に残りの二人は『言うまでもない相手』であることを示していた。

 

「そ、そっか……まあ、確かにそれは一理あるね。……金崎君と雲川さんはどうかな? 雲川さんは正直、すぐやられてばっかりで情報は無いけど……でも、金崎君はたしか前の試合で秀川君を倒してたよね。状況が重なったっていう面もあるけど、あの秀川君を倒せるのは凄いと思う。実際、秀川君って百田君と同じくらいか、百田君より強いくらいだし……」

 

 最後の抵抗とばかりに、萩田は雲川・金崎の名を挙げた。

 滝本は、用心深い萩田の言葉を聞き、信頼と安心の目で彼女を見た。しかし、その心は変わらなかった。

 

「流石の用心深さね。貴方の思慮深さには、いつも助かるわ。でも、大丈夫よ。雲川さんも金崎君も、あの二人の能力は完全に把握しているわ。

 そうね……この際だから、はっきり言うと、二人とも、この学園では、非常に能力が低い生徒よ。私の見立てでは、どちらもFランク、せいぜいEランク程度の生徒ね。

 特に雲川さんは駄目ね。駄目なところを挙げたらキリがないけど、まず、彼女は信じられないほど、怠惰で愚かよ。知識も無ければ知性も無い。その上、その状態を改善しようとする意思の欠片もない。鷲島君がいなければ、間違いなくFランクに落ちてたわ。いえ、四月の試練をクリアできず学園追放もあり得るわね。

 唯一、彼女の長所を挙げるとすれば、鷲島君に選ばれたことだけど、これは能力ではなく、ただの運ね。おそらく、鷲島君が、無能の塊のような雲川さんを憐れに思って組んであげたのでしょう。ただ、これは鷲島君にとっては不幸なことだったわ。

 おそらく、僅かな気の迷いから雲川さんのチームに入ってしまったんでしょうけど、あんなレベルの低いリーダーと組むのは、本意ではなかったはずよ。もっと優れたリーダーと組んでいれば、彼は今頃、Aランクだったはず。彼も今、きっと後悔しているはずよ」

 

 想像よりも遥かに饒舌に雲川を酷評する滝本を見て、萩田は唖然とした。

 

(そ、そこまで言う……? 滝本さん、そんなに雲川さんが嫌いなの……?)

 

 この萩田の読みは正しかった。

 滝本は怠惰で臆病な雲川を嫌っていた。同盟結成試練では何度も居留守を使われたことは非常に不快であった。また、四月の結成試練で、鷹一を取られたことに対する恨みも多分に含まれていた。

 そして、滝本は次に金崎に矛先を向けた。

 

「金崎君も雲川さん程ではないけど、能力が低いわね。以前、彼とは、食堂で会って少し話をしたけど、典型的な凡人、いえ、凡人以下の生徒だったわ。魔力も技術も拙く、性格も惰弱で優柔不断。秀川君を打ち取ったのは、完全に鷲島君の能力と戦術、あと秀川君の油断ね。私は彼とは違い油断しないわ。雲川さんが相手でも金崎君が相手でも、負けることはあり得ない。私も、萩田さんも、竹田君もね」

 

 断言する滝本を見て、萩田の不安は強くなった。

 

「それはそうかもしれないけど……鷲島君との連携もあるし、一応、金崎君と雲川さんはもう少し警戒度を上げてもいいかもなって」

 

 萩田は、鷲島の名前を挙げることで、金崎と、ついでに雲川への警戒を促した。ただし、萩田は言葉にはしたものの、本心としては、そこまで、金崎も雲川も警戒していはいなかった。ただ、滝本が、相手を下に見て油断するのを防ぎたかったのだ。

 

「ありがとう、萩田さん。でも大丈夫、その心配は必要ない、いえ、心配するところでは無いわ。雲川さんは連携なんて高度なことができるはずがないし、金崎君はできたとしても、その連携の怖さはつまり鷲島君の怖さ、強さよ。鷲島君のことは最初から警戒しているし、そもそも、鷲島君とは、今回の試合では、最後まで戦わないから、連携への警戒は不要よ。一応、金崎君に見つかったとき、近くに鷲島君がいて駆けつけてくることは警戒ね」

 

 滝本の答えを聞いた、萩田は『これはダメかも……』と内心で思った。そんな萩田の心を知らず、滝本がチームメイトに確認の言葉を向けた。

 

「他に何かあるかしら?」

 

「あー、一応いいか? ちょっと気になるんだけどよ、装備は今のままでいいのか? 隠蔽とかしなくていいのか? 鷲島って強いよな?」

 

 この竹田の指摘は、『雲川チームからの発見を少しでも避けるために隠蔽用の軽装備にしないか』を問うものであった。

 

「装備は従来通りのものを使うつもりよ。私の考えとしては、皆の装備、現状最適構成よ。それに、慣れない装備に変えるのは完全に愚策――隠蔽用に装備を軽くすれば攻防に不安が出るし、逆に戦闘力を上げるために、装備を重くすれば、今度は動きにくい上に『慣れ』が必要よ。装備を変えるというのは、小手先の技よ。私はそういったものには頼らないわ」

 

 滝本の回答は、一部正しさを含むものであった。装備の変更には『慣れ』が要求される。実際、その理由から、鷹一は、あまり金崎や雲川の装備を変えることを好まなかった。しかし、もし鷹一がここにいれば『小手先の技』という考えは否定しただろう。『慣れること』、そして『装備の変更による役割の変更』を、これらをしっかりとこなすことさえできれば、『装備変更の可能性』は『拡張性の高さ』を示すのだから。

 ただ、ここには幸か不幸か鷹一はいない。萩田と竹田は滝本には真っ向から逆らうことはなく、そして、唯一意見できそうなマスタングは、滝本の考え方にあまり興味がなかった。マスタングにとって、滝本は、気に入っている異性でしかない。仕えるべきリーダーでもなく、信頼できる戦友でもなく、尊敬できる好敵手でもないのだ。

 

「いや、滝本が考えた上でなら、俺は全然問題ない」

 

 マスタングの考えなど知らずに、竹田は、滝本の考えに納得し言葉を返した。

 

「ありがとう、二人とも。今回の試合は、負けを覚悟するといったけれど、それでも、取れる点は取っていくわ。そして、八試合で、確実にBランクを維持することを目標とするわ」

 

「ちょっと待ってヨ。Aに行くんじゃなかったノ? ご褒美のディープキスはどうなル?」

 

 滝本の宣言に対して、マスタングが口を挟んだ。

 呆れるように滝本が息を吐いた。

 

「そもそも、そんなことを私はしないわ。たとえ天地がひっくり返っても、あり得ないと言っておきましょう。まあ、Aランク1位になったら、頬にキスくらいなら考えてあげるわ。

 それと、私はAランクを諦めていないわよ。これから『力』をつけて、ゆくゆくはAランクを狙う。ただ、それは今じゃないわ。正直、チーム結成時よりも、Aランクの壁は高いと再認識した。だからこそ、今は確実にBランクを狙う。体制を盤石にしてから、Aランクよ。

 まあ、幸い、鷲島君と佐々木君以外は、Bランクで怖い相手はいないわ。雲川チームと麻倉チーム以外は問題ない……いえ、麻倉チームも佐々木君の砲撃は脅威だけど、一対一なら、マスタング君の方が強いはず。それを考えれば、麻倉チームにはある程度優位に立てるかもしれないわね……」

 

 Bランクの二つの強敵――雲川チームと麻倉チームについて口にする滝本の感情は複雑だった。

 

 まず雲川チームの相手は諦めていた。やはり鷹一には勝てないという思いが強かったのだ。

 

 一方で、麻倉チームに関しては複雑であった。四月の試合での佐々木の砲撃は、あまりに衝撃が強く、非常に脅威に感じたのだ。

 しかし、試合から時間を置いて、冷静に考えれば、『あんな曲芸砲撃が現実的にありえるのか』とか、『運の要素も大きいのではないか』とか、『マスタングの戦闘適正順位は佐々木よりも上』だとか、『実際麻倉チームは四月では一勝しかしていない』とか、『佐々木君も生き残れた試合は一度しかない、ゆえに生存性に問題がある』などと考え始めてしまったのだ。それゆえの複雑な評価であった。

 

 そんな滝本の内心に気付いたのか、それとも気づいていないのか、どちらとも取れるかのように、マスタングはニヤリと笑って、一週間以上前の出来事について話し始めた。

 

「そういえば、佐々木の偵察をこの前しておいたヨ。彼、なかなかの強さだネ」

 

「『なかなか』ね……それはつまり、一対一なら、貴方の方が強い、ということでいいのよね?」

 

 滝本は期待するようにマスタングを見た。

 

「どうだろうネ。接近戦に持ち込めば勝てると思うけど、佐々木は魔力が高イ。力押しになったら、どうなるか分からないかナ」

 

「……? 何を言っているの? 魔力は貴方の方が上でしょう。力押しなら貴方が勝つわ。唯一の懸念は、遠距離からの砲撃で削られたり、第四試合の根崎さんのように隙を突かれること。でも、これは貴方が油断せずに、佐々木君と戦えば何とかなるはずよ」

 

 マスタングの言葉に、滝本は疑問符を浮かべるが、すぐに彼の戯言だと思い、自身の正しい考えで押し流そうとした。

 

「ウーン、明里にはちょっと悪いんだけどサ。魔力は佐々木の方が上だヨ。彼、魔力を隠蔽してるみたいなんだよネ。この前ちょっといろいろあって、隠蔽なしの佐々木の魔力を見たんだけど、ボクより大きかったヨ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい……!? さっきから貴方は何を言っているの……!? 貴方の魔力は絶大で、一年生の中では匂坂さんの次のはず。貴方自身もそう言っていたはずよ。唯一五条さんだけが、貴方に近い魔力を持っているけど、それでも貴方の方が上……佐々木君の魔力はかなり高いけど、それでも五条さんより遥かに低いわ。根崎さんや梶田さんにも劣る。私も何度か確認したわ。これは間違いない事実のはずよ……!」

 

 『まるで正直に本当のことを話している』といったようなマスタングの態度に、滝本は慌てた。戯言ではない可能性が出てきたからだ。そして、必死に自分の正しい考えを口にした。

 まずマスタングより魔力が上などあり得ぬ話なのだ。マスタングは学園でも最高峰の魔力の持ち主であり、滝本自身も、初めて彼を見たとき、その魔力量に圧倒されたのだ。そして、そのマスタングが自分のチームに加入したときに勝利を確信したほどだ。その後、匂坂キッカという理外の怪物が現れたため、相対的にマスタングの価値は下がったものの、それでもマスタングの魔力は二番目に高い。マスタングよりも上の魔力の持ち主がこれ以上出てくるなど考えられない話だったのだ。

 

「明里、人の話を聞いているかイ? 佐々木は魔力を隠蔽しているんだヨ。見える魔力は佐々木の本来の魔力じゃなイ。隠蔽されて、調整された魔力ダ。本来の彼の魔力は、ボクより上だよ。ああ、でも流石にキッカよりは下かな。キッカは魔力が大きすぎるネ。佐々木とボクの魔力を足しても勝てないんじゃないかナ。彼女は、『人間』じゃなくて、『魔王』とかそういう種族だと思うヨ」

 

「貴方こそ人の話を聞いていないのかしら? 私は何度も確認したのよ。間違いはないわ。

 それに『隠蔽』って言ったけど、そんなことは不可能よ……貴方は座学をちゃんとやっていないようだから、説明してあげるけれど、隠蔽技術は極めて難しい技術よ。そもそも、取得している人は少ないわ。15歳程度の佐々木君ができるとは思えないし、何より佐々木君の魔力量がネックね。彼は、貴方には劣るけど、かなりの高魔力よ。仮に貴方の言葉が本当ならば、佐々木君はさらに上の魔力を持っていることになる。隠蔽は魔力量が大きいほど困難よ。

 今の佐々木君の魔力量でさえ、技術的には不可能に近いわ。マスタング君を超える魔力の持ち主が隠蔽なんで、無理よ」

 

 勉強熱心な滝本は、筆記試験でも平均を大きく上回る得点を取り、相応の知識を習得していた。それゆえの否定であった。一方で、滝本の言葉通り、マスタングは勉強熱心ではなかった。故に座学は平均程度である。しかし、彼の戦闘技術と魔力感知能力・操作能力は、滝本では理解できぬ程の高さを持っていた。

 

「隠蔽技術はボクも少し知ってるヨ。まあ、佐々木がやってたから気になってデータベース漁ったんだけどネ……しょうがない、実演してみせよウ」

 

 そういうと、マスタングは目をつぶり集中した。突然、無言になり、そして真剣そうな表情を浮かべるマスタングに、三人は小さく驚いた。こんなマスタングは初めて見たからだ。

 そうして、一分ほど時間をかけて、うっすらとマスタングの魔力が薄まった。さらに一分経過し、マスタングの魔力は一般的な高魔力――零や秀川程度まで落ちた。その状態を10秒ほど維持したあと、マスタングは大きく息を吐いて、隠蔽を解除した。彼の表情には疲労があり、顔には汗が幾重にも走っていた。

 二つの驚愕が滝本達を襲った。一つは魔力隠蔽という高度な技術をマスタングがこの場でやってのけたこと。そしてもう一つは、いつも涼しい顔でふざけた態度をするマスタングが真剣に技術を見せて、おまけに、疲労を顔に出したことだ。

 

「明里、どうだイ? これが隠蔽ダ。まあボクはこっちの専門じゃないから、佐々木ほどスマートにはできないけド、でも15歳程度でも、高魔力の隠蔽はできるって証明にはなっただロ?」

 

「…………ちょっと待って、理解が追い付かないわ。正直、なんで貴方がこんな高度な技術が使えるか、とか。そもそも、そんなに真剣にできるなら、いつも真面目にやりなさい、とか、いろいろと言いたいことがあるわね……」

 

「そこは見逃してヨ。というより、努力とか真剣とか、いちいち見せびらかしてたら、格好悪いだロ。魅力的な女の子は、男のそういう面は見ないふりをするものだヨ、明里」

 

「……とりあえず、貴方がビクター・マスタング本人ということは分かったわ。誰かが変装しているわけではない……ということは、本当に技術的には可能……? いえ、待って。マスタング君、貴方は、今の技術を見せて、かなり疲れているわよね? それなら、やはり佐々木君には無理よ。たった10秒程度の隠蔽で、それだけ疲れているのよ。もし貴方の仮説が正しいなら、佐々木君はほぼ常時隠蔽していることになるわ。貴方ですら苦戦するものを常時しているなんて、正気じゃないし、そもそも現実的にあり得ないわ」

 

 滝本は内心で必死に、佐々木の隠蔽について否定した。しかし、心の中では、佐々木に対する恐怖が少しずつ募っていった。

 

「ボクがこの分野が苦手ってだけで、佐々木が得意なだケ……って言いたいけど、確かにそれにはボクも同意だ。最近、隠蔽できるようになって分かったけど、この技術はかなり難しイ。ウン、佐々木はかなり異常だネ。こんな非効率的な意味のない技術に投資するのは無駄しかないヨ。どうせ、曲射砲の威力でバレちゃうんだし、一体彼は何を考えているんだろうネ?」

 

「待ちなさい。佐々木君が常時隠蔽していることを前提に話を進めないで。あり得ないでしょう、そんなこと……」

 

「そんなに驚くことかナ? 明里、キミだってキッカの魔力量には驚いただろウ? それに比べればマシだヨ」

 

「匂坂さんは鷲島君と同じで例外枠よ……佐々木君は戦闘適正順位10位よ。それが、貴方より強いなんてありえな……いえ、もしかして……!? そういうこと!? 佐々木君は、魔力を隠蔽して試験を受けたってことね? それなら、実際の順位より低くなるはず……なら、彼の本当の順位は……? 3位? それともまさか、1位……!?」

 

 隠蔽技術という想定外の技術を見た衝撃と、『あの』マスタングが他の生徒を高く評価したこと、また自身が佐々木に対して複雑な評価をしていたこともあり、滝本の発想が飛躍した。この考えは現時点では大きな勘違いであった。たとえ佐々木緑山が全力で試験を受けたとしても、人外の怪物である鷲島鷹一よりも高い順位を収めることはできなかったからだ。

 

「なんで当然のようにボクより上の順位に置こうとするのかナ? 明里、キミはもう少し、チームメイトを信じたほうがいいヨ」

 

「そんな……佐々木君が本当の1位だったの……それなら、あの時、私は……!? 私は、鷲島君だけじゃなくて、佐々木君も取れなかった。10位だから諦めがついたけれど……鷲島君じゃなくて、佐々木君を優先して勧誘するべきだった……? でも、佐々木君は、勧誘以前の問題だった気がする……麻倉さんはいったいどうやって彼をチームに加えたの……? 私は、やっぱり彼女には……」

 

 二つの理由から滝本の心がぐらついた。

 

 一つ目は過去の失敗であった。四月の試練で、滝本は、鷹一だけではなく、佐々木も勧誘していたのだ。しかし、ある不幸から、佐々木には断られてしまったのだ。

 ちなみにその不幸とは、宝珠山というリーダーと会話した佐々木は珍しく不機嫌になり、その状態で、やや高圧的な面がある滝本が勧誘してしまい、宝珠山の影を幻視した佐々木がすぐに勧誘を断った、というものであった。

 もし宝珠山がいなければ、結果は変わったかもしれなかった。しかし、滝本は当然そのことは知らず、ただただ、自身に不甲斐なさを恥じたのだ。

 

 二つ目の理由は、Bランク11位のリーダー、麻倉優愛であった。五月の試練の際、滝本は麻倉チームとの同盟を考え、交渉を行ったのだ。こちらも結果は失敗に終わった。その上、滝本は麻倉に何とも言えぬ苦手意識を覚えたのだ。

 最初、滝本は麻倉と交流する際、彼女についての情報を調べており、その時、『人柄がよく柔和な人物で、戦闘能力はBランク程度、全体的に普通な人』という結論を出していた。

 しかし、この考えは、同盟交渉の時、大きく覆された。麻倉は人柄に関しては、伝聞の通りであり、交渉は終始柔和な雰囲気で進んだ。だが、麻倉から、言葉では言い表せぬ圧にようなものを滝本が感じ取ってしまった。

 ここで滝本が感じた『圧』というのは、攻撃的なモノではなかった――押しつぶすような圧、踏みつけるような圧、相手を屈服させようとする圧、この学園にはそういった圧を持つ者はたくさんいる。しかし、麻倉の『圧』はそれらのような圧とは全く別のものであった。

 まるで相手を包み込むような圧。生来のカリスマとでも言うべきか。本来ならばそれほど変わらない、むしろ、リーダーシップや頭の回転では自分の方が上だと思っていた麻倉相手に、滝本は圧倒されてしまった。それゆえの苦手意識であった。

 

 過去の二つの出来事が、今の佐々木の脅威と交わり、滝本を沈ませた。

 

(しまったナ……ちょっと意地悪しようと思っただけだったのニ、思った以上にショッキングだったようダ。ウーンどうするかナ? とりあえず口説くカ)

 

「そんなことはないよ明里。ボクは明里の方が好みだヨ」

 

(明里の方が胸が大きいし、顔も好みダ。優愛も顔はいいんだけど、胸はそこまでないし……ちょっと性格が面倒くさそうかナ。佐々木は優愛みたいな面倒な子が好みなのかナ?)

 

 マスタングは麻倉のことは左程評価していなかった。顔は整っているが、それだけであり、むしろあの性格は扱いに困ると思っていた。

 

「貴方程度じゃ……いえ、そうね、ありがとう。確かに、理由はどうであれ、貴方は私を好んでチームに入ったのよね。正直、裏切らないか時々心配になるけど、でも、頼りにはしているわ」

 

 マスタングの適当な言葉に、滝本は一瞬良からぬことを口走りそうになるが、それを押さえて、なんとかリーダーらしい言葉を作った。しかし同時にマスタングのいまいち信頼できない面にも言及した。

 

「ボクは明里を裏切らないヨ。この学園では一番好きだからネ、今のところハ」

 

 じっと、滝本が半眼でマスタングを見た。マスタングはニヤリと強気に笑った。

 しばらく無言の二人の圧に耐えられず、竹田が口を開いた。

 

「お、おい……マスタング、お前、裏切らないよな……?」

 

「なんでそんなことを聞ク?」

 

「いや、だって、お前いつも言ってるから……ほら、その、巨乳がどうとか……」

 

 竹田は滝本の方をちらりと見つつも、恐る恐る言葉を紡いだ。最後の方は小声になったが、しっかりと滝本と萩田の耳にも届いてしまった。滝本は呆れたように息を吐き、萩田は態度には出さなかったが、竹田の評価を僅かに落とした。

 

「フム? つまり、竹田、キミはこう言いたいわけダ。ボクが他の可愛い女の子のリーダーのところに行っちゃうんじゃないかってネ。それなら安心しなヨ。さっきも言ったけど、ボクは明里が一番気に入ってるしネ」

 

「いや、でもお前、さっき『今のところは』って言ったしよ、それに、いや、もう言っちゃうけどよう、高光に寝返ったりしないよな?」

 

 竹田が出した名前。それはAランク7位のリーダーであり、また滝本チームの同盟相手のリーダーでもある、高光亜輝であった。

 

「ああ、亜輝のことが心配なのカ。……ウン、どうやらキミだけじゃないようダ。明里も恵梨香も気になってるみたいだネ。確かに亜輝は魅力的な子だネ。明里と同じでスタイルが良いし、顔も美人ダ。強気なところも良イ。何より彼女はAランクのリーダー、この一点に関しては、明里より上だネ」

 

 マスタングはニヤリと笑って滝本を見た。

 

「……確かに高光さんは優秀よ。でも、貴方は裏切れないはずよ。高光さんのチームは定員上限の五人に達しているわ。チームメイトの誰かを追放しなければ、貴方を引き抜くことはできない。そして、高光さんは筋を通す人よ。同盟相手から勝手に人材を引き抜いたりしないし、引き抜くために今のチームメイトを切り捨てたりはしない。貴方が高光さんのチームに入ろうと思っているのなら止めた方がいいわ」

 

「随分、必死な態度だね、明里。そういうところも可愛いけど、でもあんまり意地悪すると、嫌われちゃうから、正直に言おウ。まあ、さっきから言ってるけど、ボクは明里一筋だヨ。……亜輝も好みではあるけど、性格面と目的意識で、ボクは明里の方が好きだヨ」

 

(まあ一番重要な差は顔かナ。ボクは明里の気が強そうな顔が好きだからネ。亜輝も悪くないけド、ちょっと柔らかい感じが減点かナ。二人のスタイルは同じくらいだから、そこは同じダ。ウン、やっぱり顔だナ)

 

 マスタングは、内心で滝本と高光の違いを判断した。しかし、彼はそれを声には出さなかった。代わりに口にしたのは、滝本が好みそうな性格や目的意識といった言葉であった。こちらに関しては、マスタングからすると大きな違いはなく、あまり評価に影響を与えていなかったものの、一応建前くらいにはなるかと思っていた。

 

「いまいち信用できない言葉ね。適当なことを言っているように見えるわ。私の性格や目的のどこが好きなのか、言ってみてちょうだい。それで裏切ってないか判断するわ」

 

 滝本は内心では、マスタングは恐らく裏切っていない、と判断していたが、純粋に『なぜ高光よりも性格で好ましいと思ったのか』が気になったこともあり、問いかけた。滝本からすると、筋を通し、ある意味で高潔と言えなくもない高光の方が、自分よりも性格的に好まれるのではないかと思ったからだ。

 

「説明しても良いけど、怒らなイ?」

 

「内容によるわね。でも説明しなかったら確定で怒るわ」

 

 滝本が冷たい表情でマスタングを見た。

 

「ウーン、そう言われるとこっちも別の手段を取りたくなるけド……まあいいカ、明里なら意外とこの説明でも喜んでくれそうだしネ。

 誤解を恐れずに言うと、ボクは明里の自分勝手なところが結構好きなんだヨ。明里がこの学園に入った目的は自己実現だロ。確かお爺さんだっケ? その人のようになりたいとか言ってたネ。でも亜輝は違ウ。まあ、自分の為というのもあるだろうけド、彼女は一族と自分の会社のために戦っていル。つまりは『他人の為』だ。

 他にも性格面も違ウ。亜輝は誰が相手でも態度を変えなイ。誰にでも突っかかル。たぶんキッカや鷲島が相手でも突っかかるし、きっと同じ理由で低ランクの生徒にも突っかかるだろウ。でも明里、キミは違ウ。キミはちゃんと相手によって態度を変える人間ダ。キミは紫苑のことは見下しているが、きっと同じような醜さを持っている生徒であっても、それがAランクの生徒ならば、見下したりはしないだろウ。ボクはそういう自分本位に生きる明里が好きだヨ」

 

「…………勝手に、人の性格を悪く言わないで欲しいわね」

 

 言葉に詰まったが、一方で、滝本はマスタングの言葉に不快感はあまり感じていなかった。

 

「でも合ってるだロ?」

 

「貴方が思うほど、私は邪悪な人間ではないわ。でも私は高光さんほど、理念的ではないわね。そこを評価してもらったと思うことにしましょう」

 

「その解釈でボクは構わないヨ。まあ、Aランクの生活に魅力を感じるのは嘘じゃないし、早く明里と一緒にAランクになりたいかナ。明里がAランクリーダーになれば、ボクは間違いなくキミのことを亜輝より上だと思うヨ」

 

 マスタングの強気な笑みを見て、滝本は眉をひそめた。

 

「……そういうところが信頼できないのよ」

 

 滝本はどこか吐き捨てるように言いつつも、内心では、マスタングのことを『得難い相手』だと再認識した。どのような理由であれ、圧倒的な戦闘力を持つマスタングが自分に従うならば、それは今後の学園生活において、重要なことだと分かっていたからだ。

 

 それから、滝本チームは少しの間、第一試合の対戦相手についての細かい対策法を決めていくのであった。

 

 

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