学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
時間は少し遡る。
試合開始の投入時、雲川紫苑は不思議な感覚を得ていた。
頭がすっきりとしているような、でもどこかで不思議な靄があるような、でもそれは全然苦しくは無くて、むしろ自然なことのように雲川には思えた。
投入された場所が建造物の中だったこともあり、雲川は誰にも捕捉されることなく、試合を開始することができた。『逆認識』も発動せず、他のチームのレーダーにも雲川は映っていなかった。
一方で、雲川のレーダーは反応していた。南側に1体の反応。雲川は、こそこそと窓側へと移動し、慎重に外側を見た。
通信で、鷹一と金崎の危機的な会話を聞きつつも、雲川はレーダーと視界を交互に見た。
(あの辺りにいるはず……でも見えない……? あの建物の中にいるのかな……? 私と同じで隠れてるの……?)
じっと、ときどき瞬きをしつつも、雲川は敵が隠れているであろう建物の方を見た。そして、さらに自分の周囲を見た。
ふと雲川は首かしげた。どうして、自分が周囲を見たのか、その理由が分からなかったからだ。ただ、なんとなく見た方がいいと思ったのだ。
『紫苑、そっちは大丈夫か? 逆認識はどうなってる?』
金崎がダウンし、鷹一からの通信が入った。
『う、うん……逆認識は発動してないよ。見られてない。でも南側に一人いる……ずっといるあたりを見てるんだけど……』
そこまで口にしたところで、建物から人影が現れた。同時にレーダー上の駒も動いたことで、現れた人影が雲川がずっと見張っていた人物であることが示された。
『あ、出てきた……えっと、あれは、えっと……? 誰だっけ……? あ、堂前君だ』
どこかぼんやりと、だけれど頭はすっきりと、でもやっぱり靄があって、そんな形容し難い状態の雲川紫苑は、小さな頭から情報を引き出した。
堂前佐助――柚木チームの
『堂前は紫苑に気付いているように見えるか?』
『ううん? 気づいてないと思うよ……? ……背中向けてる。南に行くのかな』
通信を続けながらも、雲川は勝手に自身の中出力レーダーを解除した。その代わりとばかりに、狙撃用に調整されたアサルトライフルを顕現した。
そして自然な動作で構えた。
――うにの軍艦が、見えた。
『あ、撃てそう……』
心の中で、魔法の言葉を唱えた。
――うに! うに! いくら!
三連射の狙撃。一発目は堂前が反射的に展開したシールドに防がれ、二発目は回避された。しかし、二連の攻撃で堂前は大きく態勢を崩した。三発目が足へと命中した。
『当たった……』
そんな呟きを漏らしつつも、雲川はごく自然に、狙撃後の退避を行った。
走りながら、雲川は次の狙撃地点へと向かった。なぜか、どこが次の狙撃地点なのか自然と分かった。この理由は、堂前が建物の中にいた時、雲川が周囲を確認していたからだ。雲川の脳は認識していなかったが、雲川の体が自然と情報を集め、そして今、移動する先を教えていた。
『紫苑、狙撃はどうなった? 堂前を撃破したか? それと、ルート取りは良いが、移動の時は周囲を警戒してくれ』
『う、うん……えっと、堂前君は倒せなかったけど、足に当たったよ……あ、さっき私がいた場所に撃ってる』
堂前は反撃とばかりに狙撃地点を狙ったが、これは効果はなかった。すでに雲川が移動していたからだ。
そして、Bランクエース級のユニットである堂前はその手応えの無さを感じ取っていた。
(手応えがねぇ。それにさっきの三連射の狙撃……間違いなく狙撃手は下水流っ! クソ! データに無かった技だ! 新技……それも軌道が読みにくい……! 早く
堂前は、本能で、『ここで倒さなければならない危険な相手』と判断した。実際に、この評価は間違っていなかった。
雲川の特殊条件で放たれる狙撃は、初見で防ぐのが困難な技であった。
反応速度が遅い相手であれば、初撃で仕留め、速い相手であったとしても、三連射の攻撃が次々と襲い掛かってくる。
三連射それぞれが、どこを狙うかは、その時の雲川の寿司オーラ次第であるが、格上相手の場合は、足狙いを本命としていた。遠距離から致命部位を狙い相手のシールド展開を強要し、続く攻撃でさらに相手のシールド対応能力・回避能力を削り、最後の一撃で確実に足を射貫く。
そうして、機動力が落ちた相手を次の三連射で仕留める。これが雲川の新技『対シールド突破狙撃法』である『うに! うに! いくら!』であった。
堂前の『背中を見せられない相手』という判断は正しかったが、一方でもう一つの考えは間違えていた。狙撃手の正体が下水流ではなく、堂前が『ただの1点』と考えていた雲川なのだから。
しかし、これは堂前では予想不可能な内容であった。今まで撃破点をまったく取れず、試合でもほぼ何もしていない雲川にこのような技能があるなど分かるはずがないのだから。
『そうか……俺も報告が遅れたが、滝本を撃破した。紫苑、あまり無理はしないように。もしかしたら、狙撃に気づいて、堂前以外の相手が向かってくるかもしれない。それに警戒してくれ。俺は南側へ向かう』
鷹一の指示に頷きながら、雲川は自然動作で次の狙撃地点へとたどり着き、流れるような動作でアサルトライフルを構えた。
――うに! うに! いくら!
再度、三連射が、片足に負傷しながらも必死に駆ける堂前へと襲い掛かった。
先ほどとは別方向からの狙撃。堂前は、一射目を走りながら回避し、二射目も回避するが僅かに体にかすり、態勢を崩したところで襲い掛かってきた三連射をシールドで防いだ。
ほぼダメージを受けずに雲川の二セット目の攻撃を耐えたことで、堂前は閃いた。
(走りながらなら耐えられるか!? 三連射だと偏差狙撃の精度が悪い……! 恐らく狙撃銃をカスタムしているせいだ……!)
堂前は、この狙撃手の装備が『弾倉型狙撃銃』だと推測した。
狙撃銃は本来連射はできない。自動装填式の狙撃銃もあるが、それであっても、これほど早く連射はできないのだ。
しかし例外があった。それが『弾倉型』と呼ばれるカスタムだ。
このカスタムは命中精度や取り回しを犠牲にするが、代わりに高速で一定数までの連射を可能にしていた。ただし、欠点として、弾倉が大きくなるほど生成コストが大きく、重量や取り回し・反動の悪化があった。さらに、大きな欠点として、弾倉交換のリロード時間が極端に長いというものがあった。
ゆえに堂前は、この狙撃手が、一弾倉分の狙撃を行った後、移動中に弾倉を交換することで、狙撃地点についてからすぐに狙撃態勢に入っていると予想した。
優秀な敵に対して、思考を回しつつも、狙撃元へと駆け寄る堂前であった。今度は反撃はしなかった。なぜなら、すでに待避済みだと確信があったからだ。先ほどの素早い待避能力と、武器性質による弾倉交換、これらの理由から必ず待避しなががら弾倉交換を行っているはず。ならば反撃に意味はない。狙撃手が待避している間に少しでも距離を詰める。そして次の狙撃で位置を割り出し、突撃して仕留める。堂前は、そう考えていた。
これは大きな誤解であった。雲川はそもそも狙撃銃など使っていないのだから。
次の瞬間、狙撃が堂前の脇腹を貫いた。続いて二射目が堂前の無傷であったもう片方の足を射貫いた。三射目を、堂前はなんとかシールドで防いだ。
深い驚愕が堂前を襲った。
(な――っ! なんでこんなに弾倉交換が早い……!? アサルトライフル並だぞ!? どういうことだ!? いや、今はそれどころじゃない! 両足をやられたっ! まずい!)
堂前は驚愕しつつも本能でアサルトライフルを顕現し、狙撃元へと連射した。今の狙撃間隔と、そして堂前の負傷状況を考えると、待避せずに追撃の狙撃を放つことは十分にあり得たからだ。それゆえの射撃。真っ向からの撃ちあいならば、狙撃銃とアサルトライフルという武器性質の違いから、下水流相手でも分があると、堂前は知っていたからだ。
ただし、今、堂前を狙う小さな狙撃手の武器は、狙撃銃ではなく、狙撃用にカスタムされたアサルトライフルであり、そして、何より下水流ではなかった。
堂前の放った魔力弾が次々と、狙撃元へと放たれたが、一発も雲川には命中しなかった。すでに、雲川は待避し、次の狙撃地点へ走っていたからだ。
雲川の体は、戦場にいるとは思えないほどリラックスした状態であった。いつもと違って、恐怖をあまり感じていないし、不思議と周りが良く見えた。
『紫苑、安倍を撃破した。俺は南へ逃げた相手を倒したら、そのまま南側の戦場に向かう。恐らく、主戦場は南だ』
そんな幼馴染の言葉を耳にしながらも、雲川は不思議な感覚を味わいながら、自然な動作で引き金を引いた。だって、こんなにも、うにが美味しそうなんだから。
――うに! うに! いくら!
三連射のうち堂前は二発を防ぐが、最後の一発が右肩へと命中した。少しずつ、少しずつ、ダメージが蓄積していくことに堂前は焦りを覚えた。
(まずい……! このままだと削り殺される……! しかも右肩……! 射撃がしにくい。どうする!? 柚木に来てもらうか? いや、今は南で手一杯! それはあり得ない選択だ! それに西側に鷲島がいる……! むしろ鷲島を引き込んで……いや、俺も下水流も鷲島にやられるだけだ……! クソっ……打つ手が無ぇ……!)
シールドで防御を固めつつ、隙を見てはアサルトライフルの射撃で反撃する堂前であったが、その攻撃は雲川を捉えることはできなかった。
そして、それは堂前も肌で感じ取った。僅かに、堂前が息を吐いて、思考を整理した。狙撃後の反撃が命中していないということは、つまり、現在、狙撃手は移動中ということだ。タイミング的に考えて、狙撃はもう少し後であった。
(下水流の三連射、仕組みは分からないが、とにかく下水流は高速で三連射の狙撃を撃てる。リロードが早い。下水流はこっちの動きを読んで狙撃後、移動したりしなかったりする。今は移動中だ。三連射は高速だが威力はそこまででもない。そして弾道が読めない。おそらく下水流は、こっちの対応能力を乱して少しずつ削り殺す気だ。つまりこの攻撃の弱点は――)
――うに! うに! いくら!
堂前の想定よりも遥かに早いタイミングで、再び三連射の脅威が迫った。
(なっ!? 早いっ! 弾倉交換だけじゃねぇ!? どういうことだ!? 命中してないってことは移動中ってことじゃないのか!?)
焦りながらも堂前は直前まで考えていた、対三連射防御を行った。
二枚のシールドを使い、一枚を致命部位の防御に固定し、もう一枚を反射で『削ってくる場所』に展開した。こうすることで、一発目や二発目の致命攻撃を防ぎ、本命と思わしき、削り攻撃も防ぐ。土壇場の対応であったが、堂前は見事に成功させ、雲川の五セット目の攻撃を無傷で耐えることに成功した。
だが、これは諸刃の剣であった。
なぜなら、二つのアクティブ装備をシールドで使っている間、堂前には反撃手段が無くなるからだ。反撃してこないということは、雲川は待避する必要がない。そして雲川はアサルトライフルを使っているため、装填速度が非常に速い。つまり――
――うに! うに! いくら!
――うに! うに! いくら!
――うに! うに! いくら!
次々と、三連射の攻撃が堂前へと襲い掛かった。
堂前は対三連射防御を行い必死に耐えた。しかし、すでにダメージの蓄積は多く、両足と右腕の使用は困難、さらにシールドを毎回狙撃に対して的確に合わせるというのは、高い技量と集中力を要求した。堂前は高い技術の持ち主であったが、それでも限度があった。
誰もが怪物鷲島のように数百発の弾幕に合わせて防御をできるわけではないのだから。
――うに! うに! いくら!
――うに! うに! いくら!
――うに! うに! いくら!
そうして、堂前は狙撃の波に飲み込まれていった。