学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
安倍を倒し、南へと進む鷹一はレーダーを見て、小さく感心の声を漏らした。そして同時に、その感心の元から通信が入った。
『堂前君を倒したよ……結構魔力使っちゃった……』
リラックスしつつも、少しだけ気まずそうな声が、通信機から聞こえた。
通信内容自体は、鷹一はすでに知っていた。レーダーから堂前の反応が消えていたからだ。
『いや、紫苑、よくやった。残量はどのくらいある? レーダーを一度使えるなら、使ってくれ。戦闘音を聞いて、他のチームが紫苑の方に行くかもしれない。あと、レーダーで映っていなくても、隠蔽型の生徒が潜んでいる可能性はある。とにかく今は周囲を警戒してくれ』
雲川に指示を出しつつも、鷹一は南へ駆けながら自身の大出力レーダーに表示される光点を確認した。
(安倍と堂前を倒した。初期の俺の近くにいた中装備使いは南へ逃げた。北側で見える敵はいないが……南側の戦闘もほぼ終結したな。ほとんどの光点がない。一瞬映った駒は消えて、重装備の片方も消えてる。生き残った光点は二つ。そのうち一つは南戦場から逃げるように
鷹一は、現在のレーダーに映る光点から、『重装備・中装備使いのほとんどがダウンした』と考えた。
『えっと……レーダーは少しくらいなら使えると思うよ。魔力は、あと半分くらいかな……? あ、でも、これで最後かも……銃を作る魔力も必要だから……どうしよう……?』
雲川の言葉は、魔力とアクティブ装備の制限が理由であった。
まず雲川の魔力量はかなり低い。そもそも戦闘中に魔力を欠乏する可能性がある生徒なのだ。特に、装備の生成は魔力消費が雲川を困らせた。通信母機も中出力レーダーもカスタムアサルトライフルも、普通の生徒であれば、そこまで大きな消費ではなくとも、魔力貧者である雲川には大きな消費なのだ。
そして、アクティブ装備の同時使用制限が、雲川をさらに困らせた。試合中に6つのアクティブ装備を持ち込めるが、同時に使えるのは2つであった。通信担当の雲川は常に通信母機を顕現させ続ける必要があり、実質的な使用枠は1つである。
今回の試合では、雲川は序盤に通信母機の生成と中出力レーダーの生成、一度、中出力レーダーを放棄し、アサルトライフルを生成し、さらに堂前との戦闘でマガジン4回分の生成コストを払った。今、中出力レーダーを使うには、アサルトライフルを放棄する必要がある。そしてアサルトライフルを再度作る場合は魔力を消費し、しかも中出力レーダーを放棄する必要がある。すでに残魔力量が半分を切った雲川には重い消費であった。
鷹一は、走りながらも、素早く座標データを雲川に送信しつつ、助言の言葉を口にした。
『紫苑。今から俺が言う言葉を最後まで聞いてから行動してくれ。まず通信母機を切るんだ。まだ切るなよ。
それからアサルトライフルを保持した状態で、中出力レーダーを起動して周囲を確認する。また通信が必要になったら、中出力レーダーを切って再度通信母機を起動すればいい。
しばらく通信は難しいだろうから、指示を伝える。まず紫苑は周囲を警戒しながら俺が今から送る座標を目指してくれ。ついでに移動ルートも用意した。警戒しながら進んでくれ。任務戦までそこに隠れるんだ。敵に出会って対処が困難になるか、任務が始まるか、何か相談したくなったら、また連絡をしてくれ。もう切って大丈夫だ』
通信母機の生成コストが他よりも多少低いこと、そして、しばらくの間、必要になるのはレーダーであること、この二つのことを考えたが故の助言であった。
雲川が通信母機を切ったとほぼ同時に、鷹一は南から逃げてきた相手を捉えた。
(柚木だったか。ということは機動力から考えると、俺から逃げていたのも柚木か……? いや、それは今はいいか。とにかくマスタングが来る前に片をつける……!)
決断した鷹一は、柚木に素早く駆け寄り、ハンドガンを顕現した。しかし、発砲はしなかった。
柚木は鷹一を視認するや否や、すぐに引き返し、さらに、遮蔽物を巧みに使い、鷹一と射線が通らないようにしたからだ。
鷹一は柚木を追いかけながらも思案した。
(動きが巧みだ……不味いな。このままだとマスタングとかち合う……! 柚木を諦めるか? いや、俺が諦めれば確実にマスタングが柚木を取る。南戦場の状況を考えると、滝本チームが大量得点した可能性は十分にある。柚木の点をマスタングには渡せない――仕方ないな。仕掛けるか)
駆けながらも鷹一はハンドガンを発砲した。柚木は必死に遮蔽物とシールド、そして運に任せた回避能力で、必死に駆けながら弾丸を避けた。
徐々に徐々に、鷹一と柚木の距離が縮まり、それに伴い、魔力弾の精度も上がる。まず一発が柚木の腕をかすめ、二発目が髪の一部を奪い、三発目が柚木の左肩を撃ちぬいた。
柚木は鷹一を背にしながら、不敵な笑みを浮かべた。
(何とか、間に合いましたか――)
そして、同時に、南戦場を制したマスタングもまた柚木を捉えた。すでに、マスタングは高威力弾幕型にカスタムされたアサルトライフルの照準を柚木へと定めており、あとは引き金を引くだけであった。高魔力・高技量によって放たれるマスタングの魔力弾は柚木には回避不可能な弾幕であり、そして防御不可能な破壊能力を持つのだから。
(これで追加の1点、ウン、ギリギリ、ボクの勝ちかナ――)
――引き金を引く瞬間、マスタングは強い悪寒を感じた。
本能からか、マスタングは引き金は引かず、代わりに武器を構え直し、北側――まだ距離があるはずの鷹一の方へと向けた。
アクセルによる凄まじい加速を纏った鷹一が既に迫っていた。鷹一は、柚木を倒すよりもマスタングを排除することを優先したのだ。
脅威に対処すべくマスタングが引き金を引いた。
(気づかれたか――)
鷹一はアクセルを強制終了させ、弾幕が自身に到着するまでのほんの僅かな時間に大出力レーダーを起動し、すぐに光点を確認した後、破棄した。迫る弾幕を躱しつつも、躱せないものには分散シールドで対抗し、身を守った。
背後の弾幕音を聞いて、怪物同士の潰し合いが始まったことに安堵した柚木は、そのまま戦場を離脱し南東方向へと逃れた。
(一瞬だけ近くに光点が見えた。今までは見つからなかった駒、この距離で初めて映ったということは隠蔽装備。マスタングが移動経路上にいたはずなのに生きているということは、恐らく萩田だろう。横槍に注意だが……いや、恐らく萩田は逆認識を装備している。今の俺のレーダーにも気づいたはず。ならば、俺から距離を取る可能性は高い)
分散シールドを使い、マスタングの攻撃――次々と雨あられに降り注ぐ高威力の弾幕を防ぎつつも鷹一は思案した。
あの五条愛以上の、あまりに莫大な魔力を有するマスタングの攻撃は圧倒的であり、本来であれば鷹一と言えども対応が困難な攻撃であった。実際、鷹一に命中しなかった魔力弾の多くが周囲の建物に甚大な被害を与えている程だ。
しかし、鷹一は複数の細工を仕掛けることで、防御を可能にしていた。
一つは、試合開始直後の分散シールドの強度細工。これにより、マスタングに分散シールドの本来の強度を誤認させることに成功した。
二つ目は、魔力の攪乱であった。
自身の魔力を周囲の瓦礫の一部――マスタングの弾幕によって破壊された建造物の成れの果てへと纏わせることで、自身の存在をブレさせ、さらに分散シールドのシールド面の位置を隠蔽した。有視界ではあまり意味のない行動ではあるが、マスタングの圧倒的な弾幕により両者の視界に制限があった。
またこの攪乱は、マスタングの魔力認識能力を逆手に取ったものだった。マスタングの稀有な能力の一つである高度魔力認識能力――試合会場では現実世界ほど上手くは使えないが、それでも有視界に頼らないという強みがあった。しかし、それは魔力攪乱により大きく狂ってしまうという弱点があった。
もちろん、これはあまりに限定的な弱点であった。有視界に頼れない状況でかつ、相手が魔力攪乱などという高度技術を使うという限定的な状況。しかし、それが今であった。
そして三つ目は、魔力の中和シールドだ。
シールドを展開する際、シールド面の一部を、マスタングの魔力の指向性に合わせて構築することで、弾幕攻撃の威力を減衰させることに成功した。
この中和は非常に緻密な行為であり、戦闘中にやることは困難であった。また、絶妙な調整が必要であり、鷹一をもってしても『シールドに集中し、攻撃・移動を行わない』『対戦相手の魔力の指向性を事前に研究し細かく分析する』『相手が魔力パターンを変えないように、こちらが中和していることを悟らせない』といった難しい条件を満たす必要があった。
しかし、その分、効果は大きく、マスタングの必殺の弾幕を鷹一は防ぐことに成功した。
なお、この二つ目と三つ目は大浴場での出来事――佐々木緑山の湯煙修行と中和技術を参考としていた。
自身の防御力の隠蔽、敵の命中率の低下、敵の攻撃威力の低下。鷹一の神業ともいえる技量とマスタングの稀有な特質。この二つが見事に嵌り、鷹一は強敵の攻撃を無傷で耐えていた。
一方で、マスタングは、あまりに手応えが無く困惑した。
(何ダ……? おかしイ。いくら何でも攻撃が通らな過ぎル。さっき分散シールドの強度は確認しタ。ボクの攻撃に耐えられるはずが無いガ……強度を調整していル? 先ほどよりも強度を上げたカ? さっきの時は、ボクの射撃だと気づかず普通の強度で対応し、今はボクの射撃だと分かっているから強度を上げたって所かナ……? いや、どちらにしろ鷲島の魔力なら防げるはずガ……ああ、そういうことカ。キミも佐々木と同じなんだネ。全くキミたちは意味不明な技術の持ち主ダ)
鷹一の防御があまりにも頑強すぎるため、マスタングも細工の一部には気づいた。しかし、肝心の魔力攪乱と中和には気付けなかった。
一瞬、視界が晴れた。マスタングのカスタムライフルの弾倉がついに尽きたからだ。
素早くリロードするマスタング、僅かな隙に距離を詰める鷹一。視界が晴れたがゆえに両者が互いをはっきりと見た。
(傷一つ無しカ、困ったナ、何か他にも種がありそうだガ……あとリロードは3回が限界カ)
(リロードが早い。思ったより距離を詰めれないな……そして拡張弾倉を使わないか。ということはまだ下水流は生きているな)
鷹一は思案しつつも、分散シールドを展開し、再び足を止めた。再び先ほどの焼き直しかのように弾幕と、それに対する攪乱と防御が行われた。
防御に徹しつつも、鷹一は周囲を警戒した。萩田と下水流の横槍を警戒したのだ。萩田は、過去に何度もマスタングと連携をしている生徒であるがゆえの警戒。そして、下水流は、これまでのレーダー状態から恐らく狙撃隠蔽装備で出撃しており、またマスタングが、鷹一に対して拡張弾倉を使わなかったことから、まだ生きている可能性があるための警戒であった。
もし滝本チームが下水流の死を知っていれば狙撃手への警戒を解き、防御を捨て拡張弾倉の使用が可能なのだから(ただし、これはマスタングが、柚木チームの安倍から狙撃されており、鷹一が安倍がいる方向から来たことから、マスタングは安倍の死を計算に入れている可能性が高いという前提に基づくものだ)。
一方で、マスタングも打開策を考えた。現在、マスタングと鷹一の関係には『距離』が重要なポイントだった。
まず現在の距離ではマスタングは鷹一を一方的に攻撃できる。しかし、本来ならば、撃破可能な程の圧倒的な攻撃力で攻めているにも関わらず鷹一は無傷でこれを突破していた。
そして攻撃と攻撃の間のリロード、この隙に鷹一が距離を詰めた。鷹一の接近速度と自身のリロード速度の関係から、マスタングはあと3回までしかリロードができず、3回目のリロード後の攻撃を終えると、鷹一の射程に入ってしまうと計算した。ゆえに、マスタングは、今回を含めて、あと四セットの攻撃以内に鷹一を撃破しなければ近接戦をすることになる。あの零すら倒す近接能力。接近戦で零に敗れているマスタングにとっては避けたい展開であった。
それゆえ、マスタングは弾幕を展開しつつも必死に思考した。拡張弾倉の使用も考えたが、狙撃手の存在が脳裏を過り、使用を躊躇わせた。
弾幕で一方的に攻撃しているのはマスタングであったが、現時点での心理面ではマスタングの方が劣勢であった。鷹一はそのことを理解しつつも、一方で、次のリロードからは自身にとっても厳しくなると感じていた。
(マスタングの射撃能力は想定よりもずっと高い。次のリロードは近づけるが……その次は厳しいな。近づけば近づくほど弾幕は濃くなる。マスタングの魔力認識精度も上がるだろうし、それに有視界になる可能性が出てくる。そうすると厳しいな。このまま距離を取って魔力切れを狙うか……? だが近接しないのは不自然だ。攪乱と中和のトリックにもいつかは気づかれる。ならば、距離を詰めつつ、一瞬の隙を……いや、下水流がいる以上、あまりアクセルは使えない。停止点を狙われる可能性がある……狙撃位置さえ分かれば旋回アクセルで近寄れそうだが……どちらにしろ次のリロードは近寄るほかないか)
両者が思案を重ねる中、二回目のリロードの時間がやってきた。
先ほどと同じように鷹一が接近し、素早くマスタングがリロード。そして再度弾幕が展開され、三セット目の弾幕攻撃が始まった。
弾幕に対して、鷹一の防御方法は同じであったが、これまでよりも、より効率化されていた。ただし、それは負担が減っているわけではなかった。効率化せざるを得ないのだ。なぜなら、距離が近くなった分、マスタングの弾幕はより濃くなったのだから。しかし、効率化もあり、鷹一はこのセットも無傷で切り抜けそうであった。
三セット目の攻撃が終わる前に、任務が発行された。
『鷹一くん、さっき言われた場所についたよ。誰も見つけてないし、『逆認識』は発動しなかったよ……任務どうしよう……?』
おっかなびっくりと、それでいてどこかリラックスした声が鷹一に届いた。
このあまりにも忙しい中、悩める雲川の声に、鷹一も頭を悩ますが、しかし、こちらの指示が原因だったこともあり、仕方がないと思った。
『紫苑。無事ならよかった。俺は今、マスタングと戦闘中だ。手短に話す。任務位置が近いから紫苑は任務を優先してくれ。ただし先ほどと同じように警戒しながら生存優先で移動してくれ。萩田がそっち側に行っている可能性がある。他にも、堂前との戦闘に気付いてそっちに行っている生徒がいるかもしれない。任務を達成したら――』
それから鷹一は、任務達成後に雲川に対してある頼み事をした。
『――こんな感じだ。難しいが、できればやってくれ。ただ、正直、俺も少し難しいことを頼んでいる。無理そうなら別にいい。任務後に生き残ったら、可能なら撃破点を、無理そうなら頑張って隠れてくれ。これで通信は終わりだ。恐らく残りの魔力からもう通信はできないだろう。紫苑、お前は、最近よく頑張っている。今日の試合もその成果が出ている。だから、この後、1点も取れなくても気にするな。それじゃあな』
『う、うん……がんばる……! 鷹一くんも、気を付けてね……!』
どこかいつもよりも気合が入った幼馴染の声を聞いて、鷹一は明日は季節外れの雪が降るかもしれないと考えた。