学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第一試合⑤ 死力の一撃

 

 雲川との最後の通信を終えたのとほぼ同時に、再度視界が晴れた。マスタングの三セット目の攻撃が終わったからだ。有視界になったことで、マスタングの目には倒壊した建物群と、鷹一の姿が映った。

 今度は鷹一は距離を詰めなかった。マスタングはそのことに一瞬驚くが、すぐに納得した。なぜなら、鷹一は僅かにダメージを負っていたからだ。

 

(少し手応えはあったと思ったけド……距離が近くなったからカ。自然ではあル。納得もできル。ただ、良いのかナ、鷲島。距離を詰めなければボクが削り勝つヨ)

 

 そうして、四セット目の攻撃が始まった。鷹一は、防御に集中しつつも、時間を稼いだ。雲川が任務点を取るまでの時間。そして盤上の残り駒から発生する様々な可能性、それを待った。

 タイミングを待ちながらも、鷹一は次のダメージ調整に関して思案した。

 

(まだ十分防げるが、さっきのセットでダメージを受けた以上、今回も受けないのは不自然だ。できるだけ戦闘に関わる部位は避けつつ……ここだな)

 

 そうして鷹一は極自然に『まるで分散シールドを展開したが、すべては受けきれなかった』とばかりに、新たにダメージを受けた。マスタングに接近しない理由――『接近できない理由』作りの為であった。

 一方で、マスタングもまた思案した。マスタングにしてもこのどうにも決着がつかない状況が、第四試合での鷹一の活躍――零チームの五条愛に対して行った持久戦を思い出させたからだ。

 

(愛の時と同じように消耗戦狙いかナ? でも、愛の重シールドよりもボクの武器の方が遥かに効率が良イ。それにボクの方が愛よりも魔力は上ダ。魔力切れを待っているなら甘すぎる考えだヨ)

 

 両者が互いに考えを巡らせる中、四セット目の攻撃が終わった。鷹一のダメージが僅かに増えていた。

 先ほどと同じように鷹一は、マスタングのリロード中に接近はせず、そして五セット目の攻撃が始まった。

 

(だいぶ周囲の建物が倒壊したな……)

 

 攻撃を防ぎながら、鷹一は自身の作戦が上手くいくように願った。

 そして、五セット目の攻撃が終わり、マスタングがリロードを行うときに転機が訪れた。

 二発の魔力弾が次々とマスタングに襲い掛かったのだ。最初の一発をマスタングはシールドで防ぐが二発目が大型ライフルを打ち抜いた。高速の二連射とは思えないほど精確な射撃――狙撃手が誰であるか、鷹一もマスタングも瞬時に理解した。

 

(下水流! こっちに来たか!)

(雲母か、相変わらず嫌らしいタイミングだナ)

 

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 思考しつつも鷹一は駆けだした。戦況が動いたからだ。下水流がマスタングを狙い、そして下水流(狙撃手)の位置が割れたにも関わらずマスタングが鷹一を完全に意識している。これにより鷹一の選択は自然と一つになった。

 

 下水流の介入によって、鷹一が取れる選択肢は大きく分けて三つあった。

 

 一つは戦闘からの離脱だ。

 マスタングが想定以上の力量の持ち主であり、また持久戦も困難であり、当初の目標であった柚木が消えたことから、下水流の狙撃を隠れ蓑にして撤収するという作戦であった。

 しかし、これはマスタングが下水流の狙撃後も鷹一の方に完全に意識を向けているため優先度は下がった。マスタングの追撃を嫌ったこと、撤退を行った場合の下水流の反応が読めないこと、そして下水流をマスタングに取られるというリスクがあった。

 

 二つ目はマスタングを無視して下水流を討ち取るというものだ。

 隠蔽装備かつ練度が高い狙撃手という厄介な相手の位置が割れたのだから、すぐに潰すという作戦だ。

 しかし、これは最も困難であった。マスタングが下水流を無視して鷹一を意識しているという状況でそのようなことをすれば、最悪の場合は下水流とマスタングに挟まれることになる。鷹一にとって理想は、『狙撃を嫌ったマスタングが下水流を狙う』ことであったが、これは実現しなかった。

 

 三つ目、このまま下水流の狙撃に紛れてマスタングに接近し、得意のブレード戦で討ち取るというものだった。

 そして、状況から考え、『これは下水流が望んでいる展開』だと鷹一は考えた。『下水流は、マスタングの弾幕は脅威であるため、鷲島にマスタングを倒させて、その後鷲島を倒す』と鷹一は読んだのだ。

 これは強敵であるマスタングに対して勝算が高い行動であり、またマスタング撃破後、下水流の狙撃を受け止めれば、その後の展開にも大きく期待できる作戦であった。

 

 よって、鷹一は三つ目の作戦を選んだ。自然な選択であった。

 いや、あるいは、鷹一が、三つ目の作戦を選んだ際の最大の得点数を計算してしまったが故の選択だったかもしれない。鷹一がマスタングと下水流を撃破、その後、生き残った雲川とともに任務点を取り、残りの駒を倒す。そうなれば、雲川チームの勝利の公算が高い――懸命に頑張りつつも結果に繋がらなかった金崎と、ずっと試合で活躍できなかった雲川。二人に対して、今回の試合で勝利を届けたかった。

 

 アクセルが起動し、瞬間的な加速を受けた鷹一がマスタングへと距離を詰めた。

 

 マスタングは素早く大型ライフルを再形成し、射撃体勢に移るが、再度下水流の狙撃がマスタングの行動を阻んだ。マスタングはいつもの余裕ある表情を崩し、懸命にトリガーを引き、射撃を行った。超人的な魔力と戦闘技術を併せ持つマスタングゆえに、弾幕は瞬時に形成された。どんな選手であっても飲み込む弾幕。本来アクセルで突撃すれば間違いなく玉砕する。

 しかし、マスタングの重厚な弾幕は、旋回しながら接近する鷹一を捉えることができなかった。

 

――旋回アクセル。鷹一が零を討ち取った技は、第四試合の時よりもさらに研ぎ澄まされていた。現状で、この技に対して有効な攻撃があるとすれば、『位置が判明していない下水流からの狙撃』と『拡張弾倉を使用したマスタングの弾幕』であったが、それはどちらも今できることではなかった。

 

 鷹一のブレードが煌めいた。甲高い音が鳴り響いた。マスタングもまたブレードを抜いたからだ。

 

 本来ならば鷹一のブレード突撃に対抗するのは困難であった。超人のマスタングを以てしてもだ。それだけ鷹一は『速い』のだ。しかし、『距離』がまたしてもマスタングを守った。

 『距離』があったため、マスタングは弾幕を展開できた。そして、マスタングの重厚な弾幕を切り抜けるには、鷹一は最大限の旋回性を必要としており、加速は控え目にせざるを得ないのだ。また下水流が鷹一に狙撃対象を変更した場合の対策としても旋回性・操作性は十分高く取る必要があった。そして単純に二人の距離がある分、鷲島の接近にかかる時間が増え、マスタングでも対処可能であったのだ。

 

 こうして、マスタングが反応できたこともあり、始まったブレード戦であったが、それは鷹一が有利であった。

 

(近づけた……! あとはできるだけ早くマスタングを倒す――!)

(詰められた……! 不味い……! 雲母はなぜボクの方を――!?)

 

 二人のブレード戦の技量差――間合いの広さと斬撃の重さ、対人戦の巧みさはほぼ同じであった。一方で、剣速、剣捌きの鋭さ、動作の隙の無さでは鷹一が勝った。

 そして、達人同士である両者はその差を完全に理解していた。

 

 鷹一は、スピードを活かした『マスタングの僅かな隙』を突く方法で攻めた。

 

 一合、二合と剣戟が重なるたびに、マスタングの体は少しずつ切り裂かれていった。必死に、今までに無いほどに懸命に、マスタングは剣を振るった。その必死さとマスタングの類稀な戦闘技量が、致命傷を浴びることを防いでいたが、それでも傷は増える。

 

――そして、次の瞬間、下水流の高速二連狙撃が鷹一へと放たれた。

 

 鷹一は分散シールドを素早く展開し狙撃を防いだ。しかし、すぐに次弾が放たれた。これも鷹一は分散シールドで防いだ。だが、対応力を割かれた。

 

(さっきの狙撃より近い……近寄っているのか? 近距離狙撃は、命中精度は上がるが、近づくリスクを背負うことになる……いや、それよりも弾速が不自然だ。二連の狙撃、二発目の方が弾速が速い。特殊なカスタムを入れているな。タイミングが狂う)

 

 狙撃への警戒もあり、鷹一は目の前のマスタングだけに集中できなくなった。奇しくも先ほどのマスタングと同じ状況に鷹一が置かれたのだ。

 マスタングはこの機を逃さず食らいついた。同時に、下水流も連続で狙撃を放った。

 鷹一有利であったブレード戦が、ここにきて互角まで戻った。

 しかし、なお、ここにきて互角でしかなかった。

 マスタングという超人と下水流という優秀な生徒二人合わせて、ようやく互角であった。

 

(下水流の裏切るタイミングが絶妙だった。相変わらずタイミングを読むのが上手いな……それに狙撃の位置を変えている。少しずつ近づいているな……弾速も速くなっている。まだ対応できるが……いや、大丈夫だ。状況的には五条戦に近い。持久戦に持ち込めば、最終的には下水流の魔力が尽きる。そのあと、マスタングを倒す)

 

 ブレードを振るい、マスタングと剣戟を重ねつつ、下水流の高速魔力弾を防ぐ。徐々に近づいてくる下水流との距離と変化する弾速に気を付けつつも鷹一は、持久戦の構えを取った。

 

(雲母が鷲島を狙ったのは良いが、タイミングが悪イ。これだとボクも雲母も削り殺されル。もう少し早く鷲島を狙えば良かったのニ。いや、それだけボクの方が警戒されたってことかナ)

 

 下水流の援護射撃により一命を取り留めたマスタングは、何とかいつものような強気な笑みで鷹一のブレードに対抗した。ただし、油断は全くなかった。先ほどよりも遥かに楽になっていたが、それでも鷲島鷹一という怪物の接近戦技量はあまりにも飛びぬけており、この下水流の援護がある状況でも、油断すればマスタングは討ち取られかねない。そのようにマスタングは認識していた。

 そして、この攻防の最後の一人、下水流雲母は自分の作戦の成功を確信した。

 

(はぁ、はぁ、はぁ、やばい。やばい。もう少しで鷲島を殺せる……! 最高すぎる! 木山! 私が鷲島殺したら、ハッピーバスデー雲母ちゃんって言ってくれませんか? 今日を私の新しい誕生日にします……!)

 

 怪物二人の方へと駆けながらも、高精度高速狙撃を行い、そしてチームメイトに意味不明な通信を送る。能力の優秀さと、精神の低俗さを思う存分見せつけていた。

 

――そして、ついに、その時が訪れた。

 

 既に接近に接近を重ねた下水流と鷹一たちの距離は100メートルを切っていた。狙撃手というポジションが位置するにはあまりに近い位置であった。

 二発の高速狙撃の後、下水流が駆けた。二発が鷹一の分散シールドによって防がれ、同時に攻めるマスタングのブレードも鷹一のブレードで防がれた。

 駆けながら下水流は再度狙撃銃による射撃を行った。狙撃銃による、驚異の走り撃ちであった。この二発も鷹一は分散シールドで防いだ。しかし、その結果を見る前に下水流は決断した。

 狙撃銃を破棄し、アクセルを起動。爆発的な加速力をもってして鷹一とマスタングへと急接近した。

 

(アクセル……! 速い……! 狙撃銃は捨てた……! 別の装備か? ショットガン? いや、ブレードか? だが、付け焼刃のブレードでは俺とマスタングの間には入れない。得意の狙撃銃を捨ててまで? どうする気だ?)

 

 高速で思考しつつも、鷹一は分散シールドを解除しハンドガンを顕現した。そしてマスタングと切り結びつつも、淡々と左手に持ったハンドガンで下水流に発砲した。

 鷹一のハンドガン射撃。速射かつ高精度、アクセルを使用し旋回性が低下している下水流に躱す術はなかった。

 いや、無いはずであった。

 下水流が奇怪な歩法でハンドガンを回避したのだ。その歩法に鷹一は驚愕した。なぜなら、その歩法が使えるのは、この学園ではただ一人のはずだったからだ。

 

(――っ!? なんだ、この歩法――!? いや、これは、俺の歩法か――!? 馬鹿な!? 何故――!?)

 

 驚愕する鷹一を嘲笑うかのように、下水流はアクセルによる接近を続け、ついに刺突爆雷を顕現させた。槍のような外見のそれを前に掲げ、一直線に鷹一目掛けて突撃した。

 

(ブレード突撃……! いや、スピアか……!)

 

 迫りくる『槍』と、同時にブレードで切りかかるマスタングを見て、鷹一は瞬時に決断を下した。

 まず、マスタングのブレードを鷹一はブレードで防いだ。僅かにマスタングのブレードが跳ねたその瞬間に鷹一は持っていたブレードを下水流へと高速投擲した。そして、これは下水流が刺突爆雷を鷹一へ突き出すタイミングと同時であった。この距離であれば歩法など関係なく両者が両者を突き刺せる距離。マスタングとの攻防を考えた鷹一は、熟練の戦闘経験から、極小のシールドを展開した。

 鷹一のブレードが下水流の脳を貫き彼女をダウンさせるのと、下水流の刺突爆雷が鷹一の分散シールドに接触したのは、同時であった。

 

 高魔力の下水流が全魔力を込めて発生させた爆発。それが、至近距離から鷹一を包んだ。

 

 

 

 

 下水流雲母による至近距離の自爆攻撃。

 鷹一のすぐ近くにいたマスタングは、爆発の直前にシールドを展開し、少しのダメージのみで耐えることに成功していた。

 これは、マスタングが下水流の刺突爆雷に気付いたからではない。むしろ、下水流の想定外の爆発とその威力に驚いていた。

 ではなぜ、シールドを展開することができたかというと、高い展開能力、そして強い悪寒を感じたからだ。

 マスタングは、下水流が『槍』を鷹一に突き出した時、強い悪寒と脅威を感じた。ゆえにマスタングは、鷹一への攻撃に失敗した直後、追撃をせずに、全力でシールドを展開し自身を守ったのだ。

 本来下水流と同時に鷹一を攻めることが得策であったはずの場面、その場面でマスタングは合理ではなく、自らの悪寒に従った。

 

――そして、それが、彼を救ったのだ。

 

 また、彼は状況をよく見ていた。

 

(雲母を落とされタ。それに、爆発が大きいが、まだ鷲島は生きていル。だが、あれが直撃したならば、おそらク――)

 

 爆発によって発生した一時的な視界の不調、それが晴れた。

 マスタングは鷹一の姿を捉え、半分は納得、そして半分は不思議な驚きを覚えた。

 

(半死半生か、見事ダ、雲母。これで明里のキスはいただいタ!)

 

 怪物、鷲島鷹一は死にかけであった。

 『近接武器は貫通力が高いが、集中シールドで防げる』という知識と、それを行える技術が仇となり、下水流の自爆が直撃したのだ。鷹一も尋常ならざる反射能力で、爆発直後に分散シールドを再展開し、少しでもダメージの軽減を試みた。

 しかし、それでも爆発の全てを防ぐことはできなかった。下水流の読み通り、分散シールドは、仕組み上、至近距離での爆発に対応できないのだ。また、下水流が高魔力であり、この一撃に全ての残魔力を込めたというのも、鷹一のダメージを甚大なものにした。

 既に、鷹一は片腕・片目はなく、そのほかの部位も尋常でないほどのダメージを受けており、とても戦闘ができる状態には見えなかった。

 

 マスタングは片手に持ったブレードで鷹一へと切りかかった。

 

――安全を期すならば、後退しつつ得意の射撃で圧し潰すべきだったかもしれない。しかしマスタングはブレードで戦うことを選んだ。それは、これまでブレードで鷹一に追い込まれたが故の意趣返しだったかもしれないし、射撃戦よりも近接戦の方が早く決着をつくと考えたからかもしれない、いや単純に手にブレードを持っていたが故の選択だったかもしれない。

 

 とにかく、マスタングはブレードを選んだ。そして、その選択は間違っていなかった。

 

 鷹一は残った片腕で、なんとかブレードを構えた。

 

 一合、剣と剣が衝突した。

 

 強い衝撃が鷹一の体を走った。

 既に状況はブレード戦を始めた時とは違った。

 ブレード戦の力の差は逆転しているのだ――鷹一の負傷故に、間合いの広さと、斬撃の重さ、対人戦での動きの良さ、剣捌きの鋭さでマスタングが勝り、なんとか剣速と動作の隙の無さで互角となった。

 

 二合、三合と剣戟が続くたびに鷹一は押されていった。

 

 そして、四合目でマスタングの斬撃を鷹一は受けきれなかった。鷹一のブレードが跳ね飛ばされ、再生成するまでの間、一瞬無手となった。

 

(もらっタ――!)

 

 マスタングの刃が煌めき、同時に彼は悪寒を感じた。

 咄嗟に体を逸らした。その一瞬後に、マスタングの頭部があった場所を魔力弾が通過した。

 驚愕をマスタングが感じるのと、彼の脇腹と脚部に魔力弾が命中したのは同時であった。

 

 三連射の狙撃。

 

――マスタングのこれまでの弾幕射撃と、下水流の大爆発。これにより周囲の建造物は完全に破壊されていた。それは即ち、射線が通っているということであった。

 

 脇腹と脚部のダメージは、攻撃態勢にあったマスタングをよろめかせた。

 

――そして、それは怪物を前にして、あってはならない程の致命的な『隙』であった。

 

 鷹一の満身創痍の全身全霊、すべてを賭けた刺突が、マスタングの心臓を貫いた。

 最後の最後に幼馴染を信じて待った。そのためにすべてを、一瞬の隙を突く攻撃に捧げた。ゆえに防御も回避の用意もない。

 死にゆくマスタングのブレードが倒れるように鷹一の胴体を袈裟懸けに切り裂いた。

 雲川チームと滝本チームの大エース、鷲島鷹一とビクター・マスタングは同時にダウンした。

 

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