学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
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Eランク47位、天沢チーム所属。高魔力。戦闘は苦手なようで、試合では全くチームに貢献していない。
穏やかで大人しい。優し気なオーラを纏った人物で、雲川に懐かれている。天沢・雲川とは相互に友人関係。
休み期間では天沢とともに雲川と絆を深めた。ちなみに雲川に『ウニの軍艦のストラップ』を渡したのは明星であったりする。これも絆エピソードの一つ。
雲川を応援するために、観戦会場に馳せ参じた。
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Aランク10位、中チームの『北』担当。低魔力で戦闘力も低い。また試合以外においても、現状では秀でた点はない。
良くも悪くも小市民的な価値観を持っている。やや気が弱くて周りに合わせることが多いが協調性が高いわけではない。
伊舎堂とは一時寮が同じであり、社交的で気が利く伊舎堂に好感を持っている。
ある理由から、現状の中チームに不満を持っている。
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Aランク2位、飛山チームの偵察担当。高魔力。非常に高い機動力の持ち主であり、飛山チームの『目』として活躍する。
戦闘力では飛山チーム最弱ではあるが、新入生の中では平均以上の実力の持ち主。偵察、陽動、特攻、時間稼ぎなどでチーム戦に貢献している。
また、チーム戦以外でも、様々な面で飛山を支えており、飛山からは重宝されている。
時間は試合の開始前に遡る。
五月第一試合、雲川・下水流・滝本・柚木のチーム戦、その観戦会場では多くの生徒で賑わっていた。
この試合は、土曜日の部の中でも特に注目されていた。なぜなら、雲川チームと滝本チーム、最強格の選手二人がぶつかる試合だからだ。
そんな試合会場で、Eランク47位天沢チームに所属する明星灯は、使い捨て容器を両手で大事そうに抱えていた。
明星は試合を明日に控える身であった。実際、リーダーの天沢は、本日も試合の対策を行っており、観戦に来ることはなかった。
だが、明星は雲川紫苑の友人である。少なくとも、明星はそう思っていたし、雲川もまた同じように思っていた。大切な友人を応援するために、観戦席まで馳せ参じたのだ。
自身のチームの勝利よりも優先して……と表現すれば聞こえはいいかもしれない。
実際のところ、明星がここにいる理由は応援以外にもあった。まず、ここ以外にいる理由がないのだ。明星はチーム戦で全く役に立てない存在なのだから。
明星灯は、高魔力――それも、Aランクでも強い生徒と言われている秀川や零と同レベルの魔力を持つ存在であった。
しかし、全くと言っていいほど戦闘技術がなかった。まず鈍足で機動力に欠けた。そして、攻撃・防御両方の技術が致命的であった。さらに目立つ容姿と雰囲気を持っており、周囲から目標にされやすかった。特に下位では『危険な相手を優先的に倒す』というよりも『とにかく目についた相手を倒す』という判断をする生徒が多いことも拍車をかけた。また、明星は試合での動きに問題があり、行動に戦術性や合理性を欠けていた。
そして、精神性も問題であった。明星は闘争心に欠けており、そもそもとして戦いが苦手であった。相手を見ると撃つよりも怯んでしまうのだ。そんな性格的な問題もあり、攻撃も防御も上手くいかず、また性質的に隠れてやり過ごすことも難しかった。
魔力があっても、技術・精神・思考の面が大きく欠けていたのだ。
ゆえに明星は戦闘中にやることはない。精一杯隠れながら、天沢と通信をして、そして気づけばダウンして終わる。とくに時間を稼ぐことも、情報を伝えることもできず、何もできずに終わる。それが明星灯の天沢チームでのポジションであった。
いや、この表現も適切ではない。人は生きるのに資源が必要だ。そして、この学園で資源を得るには、
このことに、明星も罪悪感があった。ゆえに、明星も明星なりに必死になり、最近、なんとかシールドの基礎の基礎を天沢から学んだ。しかし、それでもまだ戦力としては全く期待できなかった。
戦闘面以外も、例えば戦術や戦略面、情報面でも明星は役に立たない。ゆえに明星は既に明日の試合のために何かできることはないのだ。
だから、友人である雲川の応援に来たのだ。応援したという実績は明星にはとても重要なことだった。だって、苦しい今を思えば、応援することは大事なのだから。
また切実な問題もあった。
今日の天気は五月にしてはかなり暑く、快適とは言い難い日であった。
そして、『天気』という問題は、明星にはとても重大な問題であった。
その理由は、まずEランクという待遇、身分が関わっていた。
この学園の待遇はランクで決まる。Aランクであれば学生とは思えない程の豪遊が可能だ。一方で、Fランクとなると、そもそも住む場所がない。いや厳密には『あるにはあるが、住む場所とは到底言えないようなナニカ』が用意されていた。
Eランクは、『宿すらないFランク』より十分にマシであったが、それでもBランクやCランクといった一般的な生活とはかけ離れていた。
支給される部屋は、いったい何時造られたかも分からない程にボロボロのワンルーム。小型キッチンとトイレは付いているが他には何もない。またBランク以上は無料である水道光熱費は、CDEランクは一定額までは無料だが、枠を超えると有料であった。そして、Eランクはその枠が非常に小さく、毎月の収入が心もとない天沢チームは当然、節約をする必要があった。電気・水道はできるだけ使わず、トイレなどもできるだけ学園内に設置されている共用のものを使う必要があった。
また特にEランクの生徒を困らせたのは入浴問題であった。まず部屋には設置されていない。Eランクの生徒は、Eランク専用のシャワー室を使わなければならず、そのシャワーには制限はあった。ひと月につき10回までの使用制限があり、またそのうち温水は5回までであった。1回につき使用時間も5分に制限されおり、制限時間を過ぎるとシャワーは容赦なくストップするというものであった。シャワー自体も質が悪く、水圧も温度も安定しない。当然だが、浴槽などという贅沢なものは存在しなかった。
シャワー制限があり、光熱費を節約するため冷暖房などは使えず、また明星は立場的にも水を浪費するのも避けたい。この暑い日に、それはあまりにも厳しい課題であった。
しかし、幸運なことに今日は土曜日――試合がある日であった。
試合が開かれる土曜日と日曜日は、E・Fランクの生徒にとって数少ない憩いの曜日であった。
なぜなら、観戦会場は快適に保たれているからだ。空調は当然、人間が快適に感じる温度と湿度を維持しているし、観戦用の椅子も比較的心地よいものが用意されていた。おまけに、ドリンクサーバーまで設置しており、無料で飲み物が飲めるのだ。
明星をはじめ、僅かでも知恵が回る下位ランクの生徒は土曜日と日曜日は観戦会場に集まった。観戦するためじゃない、少しでも酷い日常を改善するためだ。
ふと、明星は大浴場での極楽を思い出した
大浴場、本来であれば、Bランクの生徒しか使うことができない特権。明星は天沢とともに、雲川から招待券を渡されたことで、特別に利用が許されていた。
Eランクのシャワー室とは比べ物にならない程の設備、まるで天上にいるかのような心地、楽園、理想郷。それは明星を大いに癒したが、しかし同時に、Eランクの身では過度な贅沢でもあった。このような極楽を経験した後で、Eランクのシャワー室など衛生設備と言えないナニカだ。明星はゴミのようなシャワーを浴びるたびに、思ってしまった。また招待券が欲しい、と。いや、それだけではなかった。もっと深刻なことを考えてしまった。天沢チームに所属してから、いや違う、彼女のチームが躍進するたびに、つい考えてしまうのだ。
――自分は元々、そっちに所属できたのではないかと。ほんのわずかな掛け違いだったのだ。そう、ほんのわずかな違いがあれば、今の自分は、こんな立場になかったのだ。
そして、その考えが過るたびに自己嫌悪も強くなった。なぜなら、この考えは、今、自分が最も迷惑をかけている天沢に対してあまりにも不義理な考えだったからだ。
明星は天沢のことを尊敬していたり、何より好感を持っていた。穏やかで懐が広く、善良で、不思議と人を引きつける。雲川も明星もそんな天沢に惹きつけられた。ただ、それでも、生活苦という迫ってくる絶望が、明星の心を少しずつ蝕んでいた。
そして不幸は重なった。
休み期間中、雲川が追加の招待券を鷹一から奪い取り、天沢チームに渡してしまったのだ。
もともと雲川が明星たちに渡した招待券は三枚。これに鷹一の分が加わって合計六枚。
このうち雲川に貰った三枚の内訳は、天沢一枚、明星二枚であった。最初に、天沢と明星で一枚ずつ使用し雲川とともに楽しんだ。残った招待券は一枚。明星は自身が何の役にも立っていないことを自覚し、必死に気持ちを抑えて、天沢に使うように進言した。しかし天沢は、辛そうな明星を見て、彼女に気にしないで使って欲しいと言って固辞した。明星は、しぶしぶ、本当に悩んで、本当に本当に悩んだ上で、嘘偽りなく本当に本当に本当に悩んだ上で、二枚目の招待券を自分のものにした。
そんな中で舞い込んだ追加の三枚。果たしてどのような分配になったのだろうか。
――答えは、明星が三枚だ。
これが天沢チームの不幸であり、また歪な点であった。
そして、明星は合計五枚の招待券のうち既に四枚を使用してしまっていた。
極楽のような大浴場は、辛い生活を一時的に忘れさせてくれて、そして強い罪悪感をもたらすものだった。
そんな記憶と感情を思い起こした明星は、喉が枯れるような感覚に襲われた。
大切に持った使い捨て容器を傾け、中に入った飲料で喉を癒した。
ごくりと音が重なった。
なぜなら、明星の二つ隣の席、一つの空席を挟んで座っていた生徒――Aランク10位中チームに所属する喜多見のどかも、同じように喉を潤わせていたからだ。
一瞬、明星と喜多見が互いを見た。二人とも、互いに面識がない生徒であった。
それも当然で、同じ一年生といえども二人はランクが違い、また授業にも試合にも熱心な生徒でなく、チームにおいて戦略や情報を担う生徒でもない。まだ一か月しか経っていないのだ。当然互いのことなど分からない。所属チームもランクも分からない。いや、もしかしたら、身なりから多少はランクなら推測は可能だったかもしれないが、明星も喜多見もそのような鋭さを持っていなかった。
二人は、目線があってしまい、互いに気まずくなり、何も言わずに、小さく頭を下げて視線を切った。ランクが全く違う二人であったが、表面的な行動に関しては類似点があった。
しかし、二人の内面はまったく違っていた。罪悪感を抱え、それでも自分の生活を良くしたいと願う明星。対して、喜多見は違った。彼女には大きな悩みがあったが、それは明星とは全く異なることであった。
喜多見は、Aランクの中チームの生徒だ。
誰もが羨むAランク、しかし、喜多見はこの中チームにいることが悩みであった。明星とは違い生活には一切不自由していなかった。それは当然だ、喜多見はAランクなのだから。むしろ、他の生徒よりも何倍も豪華な生活を送ることができた。しかし、喜多見はそういった生活には馴染めなかった。小市民ゆえに、身の丈にあわない贅沢をできず。せいぜい、おっかなびっくり高級スパを一度だけ使ったきりであった。変に贅沢を覚えたら後が怖いなぁ、と喜多見は思っていた。
そして、そんな贅沢や日常生活よりも、もっと重大な問題が喜多見にはあった。
――それは、『み』の危機であった。
喜多見のどか。Aランク中チームに所属している彼女は、当然、その戦闘能力も学内で有数……などということはなく、むしろ平均以下であった。戦闘適正順位も筆記順位も平均以下である。当然試合でも活躍していない。ついでに言えば、魔力も低い。総合的な戦闘力は明星よりかはマシ程度の存在だ。
なぜそんな彼女がAランクチームにいるのか。それは、リーダーの中が、あまりにもふざけた方法でチームメイトを決めたからだ。
中チームは中・西・南の三人の生徒で結成された。そして、自分たちの名前に共通点を見つけてしまった
中は当然最後の一人に『北』を求めた。しかし、時代が彼女に微笑まなかった。新一年生で『北』はいなかったのだ。それどころか『北』とつく苗字の持ち主もいなかった。
――『北』がないなら『きた』で良いのだ。
そこで喜多見が選ばれた。
こうして、中チームの一員となった喜多見であったが、そこは想像を絶するチームであった。
中チームでは毎日のように『対策会議』と呼ばれる会議が開かれる。中は厳かな表情で『チーム戦のための会議』などと言っていたが、そんなものはなく、ただただ『お笑い会議』であった。そして、
また特に喜多見を困らせたのは三人が喜多見を『喜多』と呼ぶことであった。最初の方はまだギリギリ『喜多見』だった。しかし気づけば段々と、『喜多mi』になり、そして『喜多m』を経て『喜多』となった。というか、もう既に『喜多』ですらなく『北』だ。まるで既成事実かのように喜多見の苗字が変わっていた。
小心者の喜多見はエネルギッシュな三人の言葉を防げなかった。生真面目な東が何度か、三人を注意し、『喜多見』と呼んでくれた。しかし、東も所詮一週間の攻勢で敗れた身であった。完全に喜多見を守ってはくれなかったのだ。
――これは喜多見のアイデンティティは崩壊の危機であった。
そこで喜多見は、今日勇気を出した。なんと生まれて初めて……というか、中チームに所属して初めて、『お笑い会議』をサボったのだ。これは抗議の欠席であった。『み』の没収など許してはならない。人権侵害だ。
しかし、小心者の喜多見はサボったことへの恐怖があった。よって、言い訳として偵察していたということにするために観戦会場に来ていたのだ。
そうして、そんな二人の間の空いた席。その席に気付いた人物――Aランク2位飛山チームに所属する伊舎堂加奈美は、良い機会だと考えた。
(中チームの喜多見さんに、天沢チームの明星さん。ふむ、悪くないですね。近いうちに喜多見さんと関係を深めておきたかったですし……緊張の色、不安な態度、中チームはお気に召さなかったようですか。さもありなん、と言ったところですかね)
内心で納得と少しの呆れを胸にしつつも、それを態度には一切出さず、人好きな笑みを携えて、伊舎堂は、喜多見へと近づき声をかけた。
「喜多見さん。おはようございます。お久しぶりです」
「――っ?!」
伊舎堂の声を聞いた瞬間、喜多見はビクリと跳ねた。中チームの誰かが自分を連れ戻しにきたかと思ったからだ。しかし、すぐに声の主が誰かに気づくと、安心したような表情になった。
「あ……! 伊舎堂さん。どうも、久しぶりです……」
「一時寮以来ですね。あれからどうですか? こっちは色々と忙しくて、落ち着いたら、一時寮でお世話になった皆さんにご挨拶を、と思っていたのですが、いやー、中々忙しくて、日々飛び回っています……!」
喜多見と伊舎堂。この二人は、四月の一時寮が同じであった。そして、社交的な伊舎堂は、その時から、喜多見とは、ある程度の関係を持っていた。
「た、大変ですね……ええっと、私は、その、まあ何とかやってます……たまに今のチームに馴染みにくいって感じることもありますけど」
「おお! 何とかやっているのでしたら、良かったです。やっぱり同じ一時寮の仲間ですからね。ところで、隣を失礼してもいいですか?
「全然、大丈夫ですよ」
平然とした風を装った喜多見であったが、内心では、感謝の念を抱いていた。
(伊舎堂さんは普通に良い人だし、隣埋めてくれるのは助かる……!)
これは、喜多見が明星を嫌っているというわけではなかった。ただ、さっき視線があって気まずかったのと、また知っている人――特に気の良い人が隣だと、安心できるというものであった。
「それなら、良かったです。明星さんも隣いいですか?」
喜多見から許可を貰った伊舎堂は、そのまま流れるように隣の明星にも問いかけた。これに対して、明星は驚きの表情を浮かべた。
「え……? その……、私のこと知ってるんですか……?」
明星は伊舎堂とは初対面だった。いや、厳密には二人は学園内ですれ違う程度の関係はあったが、それでも口を利いたのは初めてであったし、特に明星から伊舎堂への認知はなく、情報もなかった。伊舎堂は社交的で顔が広く、何よりチーム戦最強格である飛山チームの選手であることから、多くの新入生に知られている存在ではあったが、情報やチーム戦への意識に欠ける明星は、そんなことは知らなかった。
ゆえに、明星の現在の認知は、知らない人同士が近くで喋っていると思っていたら、片方が自分を知っていたという状況なのだ。
「知ってますよ。明星さん。確か、天沢さんのチームに所属してますよね。私、記憶力、良いんですよ」
伊舎堂はできるだけ多くの生徒を記憶している。いや多く、ではない。すでに、伊舎堂は新入生のほぼ全員を記憶していた。これは単に彼女の記憶力が良いというものもあったが、それ以上に彼女が意識して情報を集めようとしているという面が大きかった。そして、当然、明星の情報も伊舎堂の脳内には纏められていた。
「そ、そうなんですか……ええっと、すみません……私は、記憶力あんまり良くなくて……伊舎堂さんって言うんですか……? えっとチームは……?」
明星は何とか、隣の隣の人がしていた言葉を朧気ながら思い出して言葉を紡いだ。
「おお! 全然、記憶力良いじゃないですか。知らない人の会話を覚えるのって結構大変ですから、すぐ思い出せるのは記憶力良いですよ。あ、それとも喜多見さんとは知り合いだったりします? あ、ちなみに私は飛山さんのチームに所属してます」
気の良い笑みに朗らかな調子の言葉。小心者の喜多見を懐かせた伊舎堂が持つ容貌・雰囲気・言動は、少しずつ明星の警戒心を解いていった。
「あ、いえ、こちらの方とも初めてで……ええっと、ありがとうございます。私、どんくさくて、あまりそういう風に言われたことがなくて……」
「ほう? それは中々、厳しい人生を送ってそうですね。そのあたりも拝聴したいところではありますが、一旦、お隣いいですか?」
「あっ……! は、はい……どうぞ……」
「ありがとうございます。ではでは、お隣失礼しますね……!」
席に座りつつも、伊舎堂は外面では人好きな笑みのまま、そして、内面では、隣に座る明星についての脳内のデータを淡々と見返していた。
(明星さんは天沢チーム。あの、わりと寛容な道合さんがキレた秩父チームの同盟先。同盟の過程で最強さんが動いているのが気になるところ。ちょっと調べた感じだと、秩父さんと最強さんが元から仲が良い感じで、天沢チームの二人は雲川さんと仲が良い。まあ、この線を結んだ形の同盟ですけど……うーん、ちょっと秩父チームが不利っぽい同盟ですよね。まあ秩父チームも潜在的にはCランクよりDランクっぽいですし、そこまで不利じゃないんですかねー? なんか私の直感的には、最強さんが雲川さんに頼まれて仕方なく手伝ったってイメージがありますね。ただ……天沢さんがいまちい読めない人なんですよね……まあこの辺りは、明星さんの人柄読みつつ、ですかね。折角ですから、秩父天沢同盟の秘密の解き明かしも今日の目標に入れておきますか。まあ、どうでもいいっちゃどうでも良さそうですが……ワンチャン、最強さんの人読みの役に立つと嬉しいですかね)
入学時の戦闘適正順位一位である鷹一の情報を、伊舎堂は非常に重視していた。ゆえに、鷹一の動向はできる限り確認し、またその情報の解析も行っていた。天沢チームに関する情報も、そんな鷹一に対する情報収集から手に入れた成果の一つだ。
伊舎堂は、鷹一と直接の交流が無いにも関わらず、一方的に鷹一を知っていた。そして、その知識量はすでに、鷹一と同じチームである金崎を凌駕するほどであった。
「いやー、どんな試合になるか、楽しみですね。お二人は応援しているチームや選手はいますか?」
気の良さそうな笑みと共に問いかけられた質問に対して、二人は詰まった。喜多見は試合を見に来たわけではないし、明星も来た理由の半分以上が観戦会場の快適な空間を求めたからだ。
一瞬無言になるが、しかし、明星の方が回復が早かった。なぜなら、雲川を応援に来た気持ち自体は嘘ではないのだから。
「えっと……実は、私、雲川さんとは友達で……だから、応援してます……」
「ほう。雲川さんですか。ちょっと噂の謎の人ですよね。明星さんは雲川さんに詳しいですか? 雲川さんって結構、秘めたる人っぽいですけど」
「え? そうなんですか? ……私は、あんまり、雲川さんはそんな感じはしなかったですけど……」
明星は素直に思ったことを口にした。
「まあ雲川さんが直接というより、やはり鷲島君が原因ですね。鷲島君は戦闘適正順位が1位ですから。そんな彼が所属するチームのリーダーが雲川さんですから、皆さん色々と気にしてるみたいですよ」
「…………え? 1位なんですか……? 鷲島君って……?」
伊舎堂の言葉に明星は驚いた。なぜなら、雲川も天沢も鷹一の順位を明星に教えていなかったからだ。雲川はいつものほのぼの精神から伝えてなく、また天沢は鷹一に迷惑をかけたくなかったから伝えていなかったのだ。
そして、明星の驚きが伊舎堂の思考を刺激した。
「――? ――っ! ええ、鷲島君は戦闘適正順位1位の生徒ですよ。リーダーは順位表を持っていましたし、1位というのは印象的な順位ですから、覚えている人は多いと思います。気になるようでしたら、天沢さんに聞いてみたらどうでしょうか?」
「そ、そうですね……1位……1位……」
何かを考えるように呟く明星を尻目に、伊舎堂はもう片方の隣の相手に声を向けた。伊舎堂にとって、どちらかというと本命の相手は喜多見なのだから。
「喜多見さんはどうですか? 『これは……!』という相手はいたりしますか? やはり、戦闘適正上位の鷲島君とマスタング君でしょうか? この二人のマッチングは中々興味深いですよね」
「えっ? あー、えっと、そうですね……! じ、実は、私も、その辺りを見るために来たんです……! ええ、その、二人の生徒の対決を。鷲島君とマスタング君の。まあ、実は、その伊舎堂さんには正直に話しますが、私は、偵察をしに来たんです。強い人たちの情報を得るのは大事だと思うので……!」
試合に興味などなかった喜多見であったが、途中で大事な建前を思い出した。
「おお……! さすがは喜多見さん。真面目で勤勉なあなたらしいですね。きっと、喜多見さんの偵察を知ったら中さんも喜びますよ」
「え? そうですかね? それなら、その……『み』、返ってくると思いますか……?」
喜多見の言葉を聞いて、伊舎堂は脳内で一瞬疑問符を浮かべるが、すぐに優先度が低い情報と判断した。
「あ、実況の席が埋まりましたね。先輩方の実況解説が始まりそうですよ!」
そして、喜多見の問いかけには答えずに実況席へと目を向けた。