学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

116 / 134
第一試合⑩ 序盤南部の戦い

 

 

『はいどん! 初期投入決定! うぉ! 近い近い近い! これは滝本ちゃん10秒持たないなー』

 

【挿絵表示】

 

 生天目が言及したのは滝本と鷹一の初期位置であった。二人とも近距離から向かい合って投入されるというものだったからだ。

 

『さすがに10秒は持――あ、落ちた』

 

 坂口が否定の言葉を口にしている最中に、滝本はダウンした。生天目の予想は的中であった。

 

『ほれみたことか、って言ってる間に、南戦場が動いてる動いてる! まずはマスタング君の全力射撃が七夜ちゃんを襲いますが、七夜ちゃんは素早く回避、南東側に逃亡っ! そして街道ちゃんが金崎君に接近っ!』

 

 北側で鷹一が滝本を討ち取る一方で、南側の戦場も大きく動いていた。

 マスタングが七夜を、街道が金崎を狙い動いたのだ。

 

『金崎選手は撃とうか迷って逃亡を選択しました』

 

『お、わりと冷静な判断。己を知るって大事な――あ~、百田君に落とされたかー』

 

 金崎を撃破したのは百田であった。

 しかし、この撃破方法はあまりにも力技であった。なぜなら本来、金崎と百田の間には射線が通っていなかったからだ。

 

『百田選手の壁抜き射撃です。これは拡張弾倉を使ってますね。威力と手数で複数の建造物を無理やり貫通させて金崎選手を討ち取りました』

 

『今何枚壁抜いた? そこまでして金崎君狙うかな?』

 

 生天目が疑問を口にした。拡張弾倉の致命的な弱点――使用中はシールドを展開できない、ということを熟知しているが故の疑問であった。金崎を撃破するために、そこまでのリスクを負うというのが、盤面を見た限り納得できなかったのだ。特に生天目が評価している下水流チームに百田が所属していることも疑問を加速させた。

 

『金崎選手は四月最後の試合で秀川選手を討ち取っています。それだけ鷲島選手との連携を警戒したのかもしれません』

 

『でも街道ちゃんの陽動突撃までした上で、って駒の割き過ぎじゃない? 普通に街道ちゃんに討ち取らせればいい気がするけど……あーいや、分かった、金崎君の連携能力じゃなくて偵察能力を警戒したんだね。だから一秒でも早く退場させたかったのかな。実際、これで雲川チームは南側での視界を失った。肝心の鷲島君は北端だから、結構試合に響くかもね~。ととと、七夜ちゃんを追っかけるマスタング君を安倍君が狙撃っ!』

 

 話をしている間にも戦場に動きがあった。マスタングの射撃から逃れ東側へと向かう七夜。彼女の撤退を助けるために北側から安倍が一発だけ狙撃を行ったのだ。長距離狙撃ながらも精度があり、本来であればマスタングの胴体に命中する一撃であった。

 

『上手いですね。シールドで防がれましたが、意識が北側へ――おっと、これは……』

 

『ちょうど鷲島君が北側で顔を出したっ! マスタング君の弾幕攻撃――! でも、これは決まらずっ! なんか回避したようだけど、直前で一瞬シールド展開したかな?』

 

『分散シールドでしょう。確認できただけでも6枚ほど展開していましたが……しかし、さすがのマスタング選手です。鷲島選手の分散シールドを全て一瞬で破壊しました』

 

 この坂口の解説は誤りであった。マスタングが破壊できたシールドは1枚であり、残りは全て鷹一が『一瞬で破壊されたように見せかけて』シールドを解除しただけであった。

 

『この攻防の間に、鷲島君の近くにいた安倍君と柚木ちゃんが南側へ逃亡。うーん、見事な一射だ。七夜ちゃんを逃がしつつ、マスタング君を使って鷲島君を攻撃し、その間に自分と柚木ちゃんが逃げる時間を稼いだ~。頭が回るタイプの狙撃手っぽいね~』

 

 この生天目の解説は正しいものであった。安倍の一射はまさにその一石三鳥を狙ったものであった。

 

『柚木チームの連携が活きましたね……!』

 

 坂口は少しだけ誇るように言葉を口にした。坂口は生天目とは違い、柚木チームを高く評価していたからだ。

 

『はいはいっと、おっと、北東の孤立した二人も戦闘を始めたね。雲川ちゃんのアサルトライフル射撃が堂前君に命中……! 結構精度良いね。三連射……バースト射撃じゃないね。単発を高速で三回か。今まで使ってない技だけど五月の初めに練習したのかな? どっちにしろ、鷲島君無しで戦うのは珍しい展開だ』

 

【挿絵表示】

 

『雲川リーダーは初陣以来、初の射撃です。初陣の時も長距離射撃を行っていたことを考えると、今まで出番がなかっただけでチームとしては狙撃手のポジションなのかもしれませんね。実際、狙撃後の待避やルート選択が上手いです。周囲をよく観察していますし、マップの研究もよくされています』

 

 真面目で勤勉、用意周到な坂口は、雲川チームのこれまでの試合を確認しており、四月第二試合で行っていた雲川の射撃もしっかりと確認していた。

 

『本当だね~。四月の試合だとあわあわしてたけど、今は動きに迷いがない。足は遅いけど、撤収が早かったし、うんうん、位置取りも良い、確かに一つ前の狙撃位置を考えると、二回目の狙撃はそこからがいいね』

 

 雲川が二度目の狙撃地点についたのを確認し、生天目が感心したように言葉を紡いだ。

 

『あ、ここで竹田選手ダウンです! 高架鉄道をくぐり抜けて南側へ移動中、下水流リーダーに狙撃されました!』

 

 雲川が北部で狙撃する一方で、南側の戦場では下水流の狙撃が深々と滝本チームの一人を貫いていた。

 坂口の報告を聞いた生天目は驚き、慌てたように手元の端末を見た。

 

『え? ちょ! しまった……! 下水流ちゃんの活躍見損ねた……! ちょっと手元で確認する……! お~、これは凄い! 初撃で足を潰して、二撃目でヘッドショットっ! 高速二連狙撃! 雲川ちゃんより速い! しかも二発の弾速が違う……! これは弾速変動カスタムを入れてるねー、あれ結構扱うの難しいだけど、魔力調整が上手い上手い! 位置取りも良かったし、狙撃のタイミングも絶妙。竹田君が大通りを渡り終わる直前、もう大丈夫かと安心したタイミングで打ち抜いたね……! いや~絶妙っ! 私なら角度的にもう少し早く撃っちゃうけど、これは計算してるね。これは撃ち抜かれる! 竹田君は相手が悪かったね~。ん? なんか木山ちゃんが南東部を徘徊してる。クリアリングかな?』

 

 下水流の技術力と巧みな判断に感動しつつも、生天目は南東部で一人活動する木山に注目した。

 

『恐らくはクリアリングです。こちらからは全ての生徒の位置が分かりますが、対戦中の生徒はそこまで情報がありません。ぽっかりと空いた南東部分の情報を集めたいんだと思います』

 

『んー、そうか、下水流チームは全員南側投入で、たぶん百田君が大出力レーダー持ってるから南西はだいだい盤面が見えるんだよね。下水流ちゃんとしては南西側に絡みたいだろうけど、南東が不明だと困るから木山ちゃんにローラーさせてるのかな。んで、ローラーもほぼほぼ完了かな? 下水流ちゃんが西に向かって動いてる』

 

『下水流リーダー、見事な采配ですね。生天目リーダーが評価されるだけあります。それに見事な狙撃でした……いえ、下水流リーダーに限らず、雲川リーダー、安倍選手、三人とも狙撃が普通に上手いです』

 

 坂口は三人の狙撃手を称賛した。実際二年生のBランクの彼から見ても、三人とも十分に『狙撃手』としての強みを押し付けることに成功していた。下水流は高い技術力と暗殺能力、雲川はシールドを突破する能力、そして安倍は偵察と支援能力。二年生の上位にはまだ劣るが、それでも彼らが一年生であることを踏まえれば、期待よりも遥かに優秀と言えた。

 

『その中だと下水流ちゃんが頭一つ、いや三つくらいは抜けてるけどね~。そして南西部の戦い……! マスタング君から逃げてきた七夜ちゃんを百田君が攻撃っ! 同時に街道ちゃんが一気に西に寄ってる! 二人で仕留める形みたいだけど……! おおっ! いい感じの射撃っ!』

 

『犬伏選手が背後から百田選手に攻撃しました。シールドで防がれましたが、これで七夜選手が自由に。七夜選手は、街道選手のもとへ向かいます!』

 

 南西部の低密度帯では、柚木チームと下水流チームの戦いが繰り広げられていた。現在の戦力は二人ずつ、七夜と犬伏、百田と街道。百田と七夜の戦闘力が相対的に高く、一方で、犬伏と街道は相対的に低い。しかし、戦場では、それぞれ強い方と弱い方の組み合わせで戦っていた。そして、そこに忍び寄る影があった。

 

『七夜ちゃんと街道ちゃんなら、七夜ちゃんが勝ちそうだけど。いや、下水流ちゃんが寄ってる。これは下水流ちゃんが犬伏君を後ろから撃ち抜いて、百田君をフリーにして、七夜ちゃんを再攻撃する流れかな? 下水流ちゃん間に合うか? ちょっと街道ちゃんが突っ込みすぎじゃない? 七夜ちゃん逃がしたくないんだろうけど、これ間に合う?』

 

 生天目は、下水流の戦術が『街道を使い七夜を足止めし、百田の攻撃で確実に仕留めるもの』だと予想した。

 しかし同時に、下水流の現在の接近速度と犬伏排除にかかる時間を考えると、街道を失うリスクの方が高いと生天目は判断した。

 だが、それ以上のリスクが南西部の戦いに現れる。

 

 七夜を追いかけていたマスタングの参戦であった。

 

『いえ、それどころか――マスタング選手が乱入です! 犬伏選手に攻撃されていた百田選手を狙いました! 百田選手はシールドで防ぎますが……防げません! マスタング選手の重火力でシールド粉砕! 致命的部位は避けましたが、ダメージを負いました……! さらにマスタング選手の集中攻撃が――! お! これは!』

 

『協力プレイ来た! 犬伏君が百田君への攻撃をやめてマスタング君を攻撃! 百田君が受けて、犬伏君が攻める。実質二対一の作戦っ!』

 

 マスタングは最も危険な百田を狙った。超人マスタングの射撃は有象無象を容易く屠る。しかし、百田もまた強者であった。マスタングの攻撃による致命傷を防いだのだ。そして、全体像を把握した犬伏もまた動いた。

 

『しかし、マスタング選手もシールドを展開。射撃戦になりますが……やはり堅牢、それでいて圧倒的な弾幕射撃。二対一ですが、完全にマスタング選手が有利です』

 

『犬伏君がほとんど役立ってない感じだけど、でも上手いね。どさくさに紛れて七夜ちゃんがどんどん街道ちゃんに近づいてる。街道ちゃんが途中で引き返したけど、これは追いつかれそう。下水流ちゃんも頑張って移動してるけど、これは二人の救援間に合わないかな?』

 

『街道選手は厳しそうですが、百田選手はだいぶ粘っています……! あっ! 目標変更! マスタング選手、一瞬の隙を突いて、犬伏選手の方を攻撃! 犬伏選手ダウンです!』

 

 マスタングの圧倒的な弾幕が一瞬で犬伏を飲み込んだ。

 全体を見回す視野の広さとサポート能力に長ける犬伏であったが、一方で、彼は単純な戦闘力では柚木チームで最も弱かった。百田の影に隠れ、百田を支援することで、戦況の硬直化を狙い北側の柚木・堂前・安倍を待ち、七夜が街道を倒すための時間を稼ぐ。

 困難の中、柚木が立てた戦術を実施する頭脳と精神性を兼ね備えていた犬伏であったが、しかし、超人マスタングの攻撃を防ぐには魔力も戦闘力も欠けていた。

 

 そして、犬伏を失った百田は――いや、その百田から情報を得た下水流は即座に決断を下した。

 百田は防御を捨て拡張弾倉を起動した。そして、その目標は――

 

『犬伏君が死ぬと……お! そうきたか! 下水流ちゃんファインプレーって、おぉおぉ七夜ちゃん頑張った! 一気に落ちたね~』

 

 生天目の言葉とともに南西の戦局は大きく動いた。少し遅れて、坂口が解説の言葉を口にする。

 

『百田選手、なんと拡張弾倉を使って、街道選手を追いかける七夜選手を攻撃し、討ち取りました。しかし七夜選手もタダでは落ちず、ダウンしながらも街道選手を撃破。そして、シールドが無くなった百田選手はマスタング選手に討ち取られました』

 

『これで南西側の生き残りはマスタング君と、初動からマスタング君の近くでずっと活動してる萩田ちゃんだけだね。うん、いいね。マスタング君に近すぎず、遠すぎず、エースの戦闘に巻き込まれずに、それでいて何かあったら助けてもらえる距離。通信担当として良い位置取りだと思う』

 

 南西部の戦闘は終結した。現時点で滝本チームは2点を取り2枚(滝本・竹田)の駒を失い、下水流チームは3点を取り2枚(百田・街道)の駒を失い、そして柚木チームは1点を取り3枚(七夜・安倍・犬伏)の駒を失っていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。