学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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第一試合⑪ 伊舎堂の分析

 

 

 五月第一試合の実況・解説が盛り上がる一方で、観戦席にいる伊舎堂は二つのタスクを平行して進めていた。

 

 一つは喜多見に親身に接し、彼女の気持ちに寄り添い、悩みを聞くことだ。程度の低い悩み事に、伊舎堂は内心で苦笑しながらも、喜多見が求める言葉を舌に乗せ、彼女を満足させた。しかし表面的には喜多見に寄り添いつつも、そこには殆ど脳のリソースは使ってはいなかった。もう一つの重要なことに集中していたからだ。

 そう、今まさに繰り広げられる試合に関してだ。伊舎堂は脳内で、冷静に試合展開と各ユニットの情報を集めていた。

 

――初動の配置からの各チームの索敵状況、駒の動きから推測される駆け引きや戦術。

 

 それらを四つのチームに分けて視点と時間ごとの行動を整理し、瞬時に分析していく。

 飛山チームの『目』である伊舎堂にとって、『情報』に関する事柄は得意分野であった。

 

 そうして、南西部の戦闘をマスタングが制した時、伊舎堂は表情は変えなかったが、胸の奥で小さくため息をついた。

 しかし、その原因は、南西部の戦闘に関してのことではなかった。同時に行われていた北部の戦闘――鷹一と安倍の戦闘に関してだった。

 

(安倍君では手も足も出ず、ですか。まあ、予想はしてましたが、ちょっと厳しいですね。というか、なんか空中を飛んでませんでした……? フロートを使ったんでしょうか……? いえ、違いますね。恐らく他の装備を使っているか、特殊な技能を使っているか、ですね)

 

 適当に喜多見相手に言葉を紡ぎつつも、伊舎堂は思考を回した。

 

(最強さんに関しては、戦闘面で考えても仕方がないので後でログ解析することにしましょう。もうこの人の技量にツッコミ入れても仕方がないです。どちらかと言うと雲川チーム全体の意識は戦術指揮に思考を向けたいですが……うーん、ちょっと謎があるんですよね、このチーム。金崎君が死んで、初動でマスタング君が南で最強さんが北なんだから、雲川さんの方に援護に行った方が良さそうですけど、最強さんは南下しましたね。いえ、実際、雲川さんは単独で堂前君に優位を取っていますし、恐らくこのまま落とせるでしょう。そう考えると不思議ではないですが。それだけ雲川さんを信じているのでしょうか? 何の実績も無い雲川さんを信じる根拠が無いんですが……やっぱりちょっと最強さんは考えが甘いところがありそうです)

 

 試合会場の各戦場を俯瞰して観察しながらも、伊舎堂はこれまでの雲川チームの戦績と各試合の動きを脳内で思い返した。

 

(戦術能力は高い方だと思いますが、指揮官って感じじゃないんですよね。二年生Aランクの先輩が言ってましたけど、まさしく『頭が良い近接担当』って感じですね。まあ戦術能力が高い上に非常に強く生き残りやすい駒ってだけでも、チーム戦においては超危険ではあります。ただ、最強さんの戦術は自身を動かす事に特化し過ぎていますね。誰もが最強さんのように動けるわけではないですし、自身を軸に考えるなら、自身が落ちた後はどうしようもないわけですし。いえ、まあ現実問題としては、最強さんをダウンさせた人はいないですし、あれだけ機動力があると、戦場を縦横無尽に駆けることができますから、全然問題になってはいませんが……しかし、これは付け入る隙のようにも思えます)

 

 一旦鷹一についての考えをまとめると、伊舎堂は次に雲川に目を向けた。

 

(あとは、雲川さんが思った以上に強い技能を持っていますね。アサルトライフルを使っていますが、あれは狙撃手と見ていいでしょう。もちろん、道合さんどころか、下水流さんにも完全に劣りますし、総合力でも安倍君に劣るでしょうけど……ただ、それでも四月の試合結果を考えると、ここまで雲川さんが戦えるようになったのは称賛モノですね。五月の休みを挟んでの成長……最強さんの指導の良さもあるでしょうけど、梶田チームが関わっていそうですね。その辺りも気を付けた方が良さそうです)

 

 そこまで考えて、口では喜多見の相手をしつつ、また意識は試合へと向けながらも、伊舎堂はちらりと隣に視線だけ向けた。明星がじっと雲川を見守っていたのだ。その表情と体の強張り方に対して伊舎堂は思考を回した。

 

(どうやら快適な環境だけが目的ではないようですね。ふむ、驚愕、不安、喜び、そして僅かに見える苛立ち、だいぶ複雑な感情を抱いていますね。まあ当然でしょう。友人であり、そして、優秀とは言い難い能力を持つもの同士。されど片方はBランクのリーダーで片方はEランクの選手。そして、予想外の活躍。拗れない方がおかしいです。まあ、天沢さんの方は、少し読みにくいですが、明星さんは結構普通ですね)

 

 感心と納得を感じつつも、伊舎堂は、さらに思考を回した。もちろん、口では適当に喜多見の相手をしていた。

 

(南西部の戦闘は戦力的には滝本チームが優勢だったんですが……色々と拙い。下水流チームにまんまと出し抜かれましたね。この辺りは、マスタング君というより滝本チームの戦術指揮に問題がある……いえ、まあ、マスタング君自体も、非常に強い生徒ではありますが、戦術的なタイプではないですし、仕方がない面もありますかね? ただ、恐らく実質的なリーダーである萩田さんが、『マスタング君を有するチームの指揮官』としては、少々能力不足と言えますね。ただのCランクやBランクチームなら全然良い選手だと思いますが、『マスタング君を動かす』生徒として考えると二流以下です。個人として見ると、文武両道で人柄も好ましい人ではありますし、恐らくチームの普段の運営や情報関係の処理、外部との折衝とかも担っているでしょうから、むしろ総合的には優秀な人だと言っていいでしょうけど……いえ、まあ元凶は滝本さんの能力不足が原因ですけどね。あの人、ちょっとBランクのリーダーにしては足りないところが多いです)

 

 思考をある程度回したところで、一度、伊舎堂は喜多見の方へと意識をしっかりと向けた。喜多見は嬉しそうに口を動かしていた。さっきからずっと、伊舎堂と喜多見は会話をしていた。伊舎堂にとって殆どどうでも良い会話であって、あまり記憶すらしていないが、喜多見にとっては大切な会話であった。

 

(それにしても喜多見さん、試合に興味無さそうですね。もう試合よりも完全にこっちの話に集中しています。踊らせてる私が言うことではないですが、もう少しチーム戦について興味を持った方が良いのでは……まあ、何を言っていようが、結局は中さんのチームで穀潰しを止める気はないでしょうし、中さんに切られるという発想も無いでしょうから、チーム戦に興味を持つインセンティブが無いんですよね)

 

 内心で呆れつつも、伊舎堂は喜多見に対して言葉を紡いだ。

 そして、再び意識を試合へと集中させた。

 

(柚木さんは踏んだり蹴ったりですね。このままいけば、鷲島君とマスタング君の間に挟まれて圧死。堂前君はもうおしまい。まあ、上手くいけばマスタング君と鷲島君の決戦を誘発できそうではありますが……ただ、それを今からやっても柚木チームの挽回は難しい。柚木さん視点だと……おそらく南東部に逃げたいのでしょう。柚木チームの動きを見るに、雲川さんが下水流さんと誤認されている可能性が高いです。もしそうならば、柚木さんとしては、南東は安全に見える。上手く行けば、隠れている弱い駒を狩れるかもしれないという期待が持てる。でもいるのは下水流さん。これは乾さんが高笑いしそうな展開が来ますかね?)

 

 各チームの行動から思惑を読み取り、そこからさらに彼らが参照したであろう一次情報まで考察しながら、伊舎堂は本心からの笑みを僅かに浮かべたのであった。

 

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