学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
二年生二人の全体講評を聞きながら、伊舎堂は今回の試合についての考えをまとめていた。
(色々と考えさせられることが多いですが……収穫がある試合でした。最強さんはやっぱり強いですね。それにあれだけ狙撃対応能力があると、道合さんでも少し厳しいですかね? ……まあ投入運、マップもあります。飛山さんの戦術次第では、対抗策は十分にありそうですね。それに雲川チームは弱点が多い。人数不利というのもあって任務点の獲得も難しい。あまり上にはこないチームでしょう。Bランク上位かAランク下位、この辺りに雲川チームがいるときにマッチングしてしまったら不利という感じですが……今までのマッチング傾向を考えると、上位勢はおそらく雲川チームと平等に当たる。雲川チームの浮き沈みを考えると、あまり
適当に両隣の喜多見と明星に声をかけつつも、伊舎堂は思考を回し続けた。
(それに、雲川チームの対策を練るより、他のチームからいかにポイントを奪うかの方が戦略的な影響力は高そうですね。あとは……あー駄目ですね。どうしても性格的に、効率の良い排除法に意識が向いてしまいますね。飛山さんが警戒している相手っていう先入観故ですかね? んー、最強さん……私としてはあまり恐怖を抱けない相手というのが大きいかもしれません。なんだか軽く考えてしまっていますね。飛山さんが警戒するほどの相手を舐めるのはよくないことなんですが……うーん、でもやっぱり飛山さんは警戒し過ぎに思えてしまいますね。まあカタログスペックも実際の戦闘もまさしく『最強』さんですし、戦闘なら逆立ちしても勝てないですけど、チーム戦は個人戦じゃないですし、そもそも、この学園では試合だけが勝負じゃない。最強さんを倒す方法なんていくらでもありそうですし、飛山さんもそれは分かってそうですけど……まあうちのチームは四人ですし、可能性を残しておきたいってことですかね? ……とすると、明星さんが結構使えるかもしれませんね。早合点は良くないですが、準備くらいは私の方でしておきますかね。それを使わずとも飛山さんなら『意味のある筋』を作れそうですし)
そこまで考え、伊舎堂は自身の両隣にいる生徒――喜多見と明星に意識を向けた。
伊舎堂は、ここまでの試合観戦で彼女たちに親身に接し続けていた。優しく二人に寄り添い、彼女たちの悩みを聞き、それに対して求められている答えや、助言を口にしていった。試合の興味がない二人それぞれにあった話題――たとえば、喜多見には心の豊かな日常の送り方や『み』の奪還方法について一緒に悩み、また明星には雲川や天沢の話やZP効率の良い暮らし方について話した。
EランクやFランクの生徒とも交流がある伊舎堂にとって弱者の声を聞くのも、彼ら彼女らに対応するのも慣れたことであった。
各チームの視点に立ち、情報を整理し戦術を検証し、各チームの思考を読み取り、それに平行して弱者二人に対応をする。伊舎堂の非凡な才がこれでもかと発揮されていた。
そして、このおかげで伊舎堂は、喜多見とも明星とも友好を深めた。
もともと、伊舎堂に心を許していた喜多見には簡単に入り込むことができ、また明星とも知人以上の関係にはなった。
二人はどうして伊舎堂がここまで親身になってくれるか分からず、明星などはその疑問を口に出したが、伊舎堂は人好きのする笑みで二人に対して、『これも何かの縁ですから!』と明るく言い放った。
喜多見も明星も、伊舎堂に後光が差して見えた。
(とりあえず、喜多見さんとの関係改善は成功ですかね。どれくらい役立つかは分かりませんが、中チームで一番脆いです。直接的に中チームは
伊舎堂は、にこりと人好きのする笑みで明星を見た。
「明星さん、少し余計なお世話かもしれませんが、ちょっといいですか?」
「は、はい。なんでしょうか……?」
「いえいえ、緊張しないで下さい。大したことではない上に、だいぶ余計なお世話になるのですが、確か、明星さんは明日試合でしたよね? 対戦相手は周防チームと松尾チーム、それと流水チーム、ですよね?」
「え……? あ、ええっと、そうだったと、思います……」
明日の試合に対する意識が低かった明星は咄嗟に対戦相手のチーム名を思い出すことができなかった。
そんな明星の内心に気付いた伊舎堂は、苦笑を表に出さないようにしながら、続く言葉を口にする。
「ええ、ですから、少し大変かと思いまして。流水さんは非常に強い選手ですし、彼女を支える音羽さんも強い選手です。天沢さんと明星さんも頑張っているとは思いますが……正直、少し心配でして……」
「そ、そうなんですか……流水さんと音羽さん……」
二人の生徒の名前を口にしながら、明星は不安そうに視線を下げた。
「それで良かったらなんですが、実は私、リーダーの飛山さんから強い選手について調べるように言われていて、流水さんと音羽さんに関しても調べてるんです。ちょうど今、この端末に対策データーが入っているんですが、どうでしょうか……? 明星さんにお渡ししましょうか……? 明星さんから天沢さんに渡して貰えれば、お役に立てるのでは、と思っているのですが……」
「それは…………その、い、いいんですか……?」
この明星の問いかけがどちらの意味か一瞬伊舎堂は悩んだ。しかし、これまでの明星の性格から、どちらの意味であったとしても、自分の答えは一つだと気づき笑顔を共に言葉を作った。
「はい! 勿論です……! 先ほども言いましたが、ここで出会えたのも何かの縁です。それに明星さんはとても良い人ですから、私も仲良くしたいです……! 情報提供料、というわけではないですが、今後も、私と仲良くしてくれると嬉しいです……!」
人好きのする笑みのまま、伊舎堂は自身の端末を掲げた。流水チームの解析データをすぐにでもコピーできると示していた。
明星は少しの間、逡巡したが、こくりと頷き、自分の端末を取り出した。
――少し後ろ暗いことをしているのではないかという思いがあった。
試合の対戦相手の情報を相手に知られないうちに集める。相手の弱点をこっそりと狙う。
そういったことを、明星は『良くない事なのではないか』とぼんやりと思っていたからだ。
しかし、悩んだ末に、受け入れた。なぜなら、少しでも天沢の助けになりたかったこと、そして、たまたま出会えた伊舎堂という好人物がせっかく申し出てくれたので受け入れたかったという思い。
その二つがあったから、明星はしぶしぶ自分の考えを曲げたのだ。
いや、本当は悩むまでもなく答えは決まっていたのだが、それでも、明星は逡巡する必要があった。
「ありがとうございます……! 少しでも使ってくれたら嬉しいです……! あ、あと、すみません、このことは流水さんのチームや、あと飛山さんにも秘密でお願いします。あんまり特定のチームに肩入れしたって思われると怒られちゃうかもですし……」
少し困ったように伊舎堂は頭をかいた。
そんな伊舎堂に対して、明星はあわあわとしながら、こくこくと頷いた。
伊舎堂の浮かべる笑みは朗らかで、しかし心の内は冷ややかに明星を見据えていた。
(さて、この情報、どう利用しますかね? どうでもいい情報ですし、流出しても構いませんが……しかし、私の調べられる範囲での流水さんと音羽さんの弱点が書かれています。上手く利用できれば、勝率上げられるでしょう。お二人はどこまで私の情報を信じ、利用するでしょうか? 情報管理はどこまで徹底できるでしょう? 秘密は守れるでしょうか? 恩を返そうとするでしょうか? 明星さんは私の思った通りの人でしょうか? 明星さんの行動によっては、私も報告を変えないといけませんからね)
そこまで考えたところで、ふと伊舎堂は自嘲した。
(ちょっと策士を気取り過ぎましたかね? あまり未来のことばかり考えていたら足元を掬われそうですね。私も明日の試合については考えないといけませんね。明星さんの試合よりは、まずは自分の試合です。あの青井さんが相手ですからね。蓮チームと安重チームに対する作戦はあっても、青井さんに対する作戦はまだまだ完璧とは言えません)
伊舎堂もまた試合を明日に控える身であった。彼女の所属する飛山チーム、その対戦相手は蓮チームと安重チーム。Aランクの猛者たちであった。そして、何より、状況次第で鷹一を撃破できることを証明したビクター・マスタング、そんな彼を瞬殺した青井が蓮チームに所属している。伊舎堂もまた決して油断できない相手と明日戦うのだ。
そして、明日に試合があるのは明星と伊舎堂だけではなかった。喜多見もまたそうである。
それはつまり、恐ろしい魔の手が喜多見へと迫っているということだ。
「あ!
魔の手が現れた。
喜多見はビクりと体を降らせた。そして、ギギギと壊れた機械のように首を声の主へと向けた。
リーダーの中がじっと喜多見の方を見ていた。
「き、きたみ、喜多見ですぅ……」
「試合で活躍したらね。そんなことより、ここで何してるの? 今日、対策会議だよ?」
訴えを退けた中は、すぐに重要なことを問い詰めた。せっかく東西南
「て、偵察……偵察してました……」
喜多見は用意していた言い訳をさっそく使った。
「そっか。でも対策会議をしないとね。
言い訳を即座に切り捨てた中は、そのまま喜多見を連行していった。
雷のように現れ、霧にように消えていった中を見て、残された二人は何とも言えない気分になった。
★★おまけ★★
★五月第一試合結果★
★土曜の部★
(暫定Aランク)
匂坂・梶田・高光のチーム戦:10-3-2で匂坂チームの勝利。
零・舞島・星川のチーム戦:13-0-4で零チームの勝利。
(暫定Bランク)
雲川・下水流・滝本・柚木のチーム戦:7-5-5-1で雲川チームの勝利。
(暫定Cランク)
淡路・天野・源内・ザベリンスカヤのチーム戦:2-11-8-2で天野チームの勝利。
★日曜の部★
(暫定Aランク)
飛山・蓮・安重のチーム戦:9-3-4で飛山チームの勝利。
(暫定Bランク)
中・麻倉・大町・有坂のチーム戦:6-12-0-5で麻倉チームの勝利。
水渕・神岡・劉・壇上のチーム戦:8-7-2-10で壇上チームの勝利。
(暫定Cランク)
秩父・近藤・清沢・畑中のチーム戦:6-8-11-1で清沢チームの勝利。
★ざっくり講評
匂坂・梶田・高光のチーム戦:序盤は梶田チームの戦術が嵌り、匂坂チームを各個撃破する形に誘引し、谷崎の撃破に成功した。赤岡の活躍により石河がダウンしたこともあり、梶田チームは匂坂チームに数的有利を得るが、縦横無尽に駆ける山見に翻弄され、得点機会を逃した。最終的に匂坂と山見の暴力が戦いを制した。
飛山・蓮・安重のチーム戦:序盤の西戦場で戦闘が各方面に影響を与えた。蓮チームがババを引く形となり、大エース青井が二手三手遅れる形となった。飛山チームの機動的なアプローチにより青井以外が全滅。その後、飛山チームは、ひたすら青井から逃げ時間切れ勝利。
零・舞島・星川のチーム戦:舞島チームが最悪の投入位置により、零・星川両チームから集中攻撃を浴び壊滅。星川チームは一人一人が捨て駒となり時間を稼ぐことで任務点を3点確保した。零チームが圧勝。
中・麻倉・大町・有坂のチーム戦:試合開始直後、有坂チームの詭計により麻倉・双葉・如月が相次いでダウン。その後、序盤の展開は中チームと有坂チーム、麻倉チームと大町チームが衝突する形となる。最序盤で駒が欠けているにも関わらず、麻倉チームが大町チームを鎧袖一触。さらにその後、中・有坂チームを襲撃し勝利した。
雲川・下水流・滝本・柚木のチーム戦:マスタングと鷲島が南北でそれぞれ無双した後、決戦で相打ち。残った駒同士の戦いを雲川が制した。これまで情報がなかった雲川の特殊狙撃が嵌る形となった。
水渕・神岡・劉・壇上のチーム戦:非常に複雑な戦術の読み合いが続いた試合。投入運に負けた劉チームが得点機会を失う。最終的には水渕・神岡・壇上チームの三つ巴の試合となるが、最後までチャンスを待ち合流を優先した壇上チームが勝利した。
淡路・天野・源内・ザベリンスカヤのチーム戦:投入運と総戦闘力で劣った淡路・ザベリンスカヤチームが序盤から中盤でほぼ全滅。それまでに点数を稼いだ天野・源内チームで決戦となるが、天野チームの圧倒的正面戦闘力により源内チームが壊走した。
秩父・近藤・清沢・畑中のチーム戦:畑中チームが序盤で壊滅。清沢・近藤チーム優位の中、最終戦へ。秩父・近藤・清沢チームで激しい戦いの末、岡野のみが生き残るが、清沢チームが得点を多く獲得し勝利した。
★第一試合終了後の暫定順位(暫定Aランクから暫定Cランクまで)
順位 チーム名 合計点
1位 匂坂 52点
2位 飛山 48点
3位 零 44点
4位 梶田 36点
5位 蓮 35点
6位 麻倉 35点
7位 星川 29点
8位 中 29点
9位 雲川 29点
10位 水渕 29点
11位 壇上 29点
12位 安重 28点
13位 天野 28点
14位 高光 27点
15位 神岡 27点
16位 清沢 26点
17位 舞島 25点
18位 下水流 25点
19位 滝本 24点
20位 近藤 24点
21位 秩父 23点
22位 源内 23点
23位 有坂 22点
24位 劉 21点
25位 三宮 21点
26位 木下 21点
27位 氷橋 21点
28位 大町 19点
29位 柚木 19点
30位 淡路 19点