学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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★登場人物再掲
天沢桜花(あまざわおうか)
 Eランク47位(暫定51位)、天沢チームのリーダー。高魔力。チームの都合上、曲射砲・バトルライフル・ショットガンなどのガチガチの重装備を扱い、魔力消費度外視の短期決戦で戦うという戦闘スタイルを用いる。
 4月に学園内で雲川・明星と知り合い、相互に友人になる。雲川とは相互に明星を譲り合うが、雲川が、天沢チームの選手確保を優先したため、明星と無事にチームを結成することに成功した。
 休み期間では明星とともに雲川と絆を深めた。良い人で少し天然。少しぼーっとしているように見えるが、思考は深い。
 五月の試練では、鷹一の支援もあり、秩父チームとの同盟に成功した。

明星灯(みょうじょうあかり)
 天沢チーム所属。高魔力。戦闘は苦手のようで、試合では全くチームに貢献していない。
 穏やかで大人しい人柄だが、妙に目立つ。雲川・天沢とは友人関係。
 休み期間では天沢とともに雲川と絆を深めた。ちなみに雲川に『ウニの軍艦のストラップ』を渡したのは明星であったりする。これも絆エピソードの一つ。
 現在、困窮中につき、色々と大変な思いをしている。


寿司屋再び

 五月第一試合『雲川・下水流・滝本・柚木のチーム戦』の翌日の夜。

 

 約束の地――寿司屋にて、五人の生徒が寿司を食べるために集まっていた。

 雲川チームの三人、そして、天沢と明星であった。

 

 天沢と明星がここにいるのには理由があった。

 それは雲川が呼んだからであった。せっかくなので、仲が良い友達を呼びたいと雲川は思ったのだ。

 

 なお、これには裏話があり、雲川が鷹一に『友達を誘っていいか』と事前に聞いたのだ。

 これに対する鷹一の答えは『構わないが、匂坂を呼ぶのは駄目だ』という、特定の人物に対する気持ちを如実に表していた。雲川が鷹一に、なぜ匂坂が駄目なのか理由を問うと、鷹一はすらすらと次のような理由を口にした。

 

――匂坂はAランクだからだ。こちらから誘う以上、代金はこちらが持つべきだ。しかし、Aランクの生徒はプライドが高い。Bランクの生徒に支払わせるなどプライドが許さないだろう。だから匂坂は駄目だ。匂坂のプライドを傷つけてしまうかもしれない。友人であるならば、そういった配慮はするべきだろう。

 

 これに対して雲川は困ったような顔で、『じゃあ種村さんもだめ?』と問いかけた。鷹一は、内心で、『本当は種村は来てもいいが、しょうがない』と思いつつも次の言葉を淡々と口にした。

 

――そうなるな。

 

 とにかく匂坂を誘わせたくない鷹一であった。種村は必要な犠牲であった。

 

 そうして、呼ばれたのが天沢と明星であった。

 鷹一の言葉がなくても、雲川は友人である二人を呼ぶつもりであったが、鷹一の言葉はますます二人を呼びやすくした。なぜなら、雲川は『きょ、今日は、私がお寿司代出すから……!』と強気に二人を誘えたからだ。

 なお、二人は、さすがに雲川に申し訳ないという理由と、雲川チームの懇談会に勝手に入るのは良くないのではという理由から、最初は固辞した。しかし、友達とお寿司をたくさん食べたい雲川の意思が強く、また明星が口では断りつつも、どこか期待するように雲川と天沢を相互にちらちらと見たこともあり、天沢はしぶしぶ雲川の誘いを受けることになった。

 

 こういった理由から、雲川チームの勝利記念に二人が呼ばれたのであった。

 なお、このような理由ゆえ、天沢・明星の寿司代は雲川のポケットマネーから払われることになった。しかし、支払いが確定していても雲川は強気であった。雲川には11万ZPもの臨時収入があるからだ。これは第一試合による得点と投げ銭によるものだ。なお、厳密には鷹一が稼いだ投げ銭の割合が多かったが、雲川チームは『収入を等分にする』という約束があるため、雲川は活躍以上のZPを手にしていた。

 ちなみに、今回の報酬分配に関しては、金崎は全力で11万の受け取りを拒否した。開幕速攻でダウンした自分には貰う資格がないと考えていたからだ。だが、これは鷹一が決して許さなかった。最初の取り決めに反するし、また、活躍の大小で報酬を変えることを一度でもすれば、それは後の報酬分配に対して判断と精神コストを強く払うことになるからだ。明確な報酬基準を新しく作れば別であるが、そのような基準を現段階で作るメリットは少ないと鷹一は考えていた。

 

 感謝する天沢と明星を受け入れつつ、寿司屋へと乗り込む五人組。

 どこか強気な雲川が明星を引っ張りながら席へと座り、金崎が『強気の雲川』という若干珍しいようなモノを感じ取りつつも席へとついた。

 前日の試合結果から金崎に注意を払っていた鷹一は、『昨日よりも調子が回復してきたように見える。まだ少し落ち込んでいるようだが、少しずつ良くなるだろう』と判断し、そして、最後の一人、天沢へと目を向けた。

 天沢の僅かな表情の陰りから、彼女の考えを読み取った鷹一が、何と無しに話しかけた。

 

「今日のことはあまり気にしないでくれ。むしろ、紫苑に付き合ってくれて助かる。紫苑は、一度走り出すと、時々止まれなくなるからな。『返す』ことは考えなくていい。色々と、こちらとは事情が違うだろうからな。いや、勿論、どうしてもそれを『しなくてはならない』とまで考えているならば、そうしても構わないが、だが、それはずっと後でも良いことのはずだ。今は目の前のことに集中すべきだろう」

 

 鷹一としては、この言葉は本心に近かった。特に、雲川が仲間の言葉を無視して『それでも……!』と思い込み、匂坂を呼び出すなどという暴挙を防げたのは大きかった。そして、この暴挙は誰かしら友達を呼べば高確率で防げると鷹一は読んでいたのだ。つまり、天沢と明星が寿司屋に来ることは、鷹一にとっては、匂坂封印のお守りのようなものであった。

 一方で、鷹一と匂坂の因縁など知らぬ天沢は、ただただ、鷹一の言葉を不思議に思った。

 

「どうして、私の考えている事がわかったの……?」

 

 どこか、ぼんやりとした声が鷹一の耳を撫でた。それと同時に、うつらうつらとした、捉えどころのない瞳が鷹一を捉える。

 

(以前も思ったが……見た目だけなら紫苑よりぼんやりして見えるな。寝不足、というわけではないだろうが……ただ、恐らく、思考は鋭いタイプだ。あえて知り合いで例えるなら種村に近いタイプか?)

 

「……今までの言動から、そう考えるような人間に見えたからだ。ただ、さっきも言ったが気にするな。普段、紫苑が迷惑をかけているだろうからな。その迷惑代とでも思ってくれ。……俺は紫苑とは昔から知り合いだ」

 

 鷹一の言葉を聞いて、天沢は最初、『紫苑ちゃんはそんなに迷惑かけていないわ』と返そうと思った。しかし、鷹一が最後に小さく付け加えた言葉から、返答が変わった。

 

「そう……紫苑ちゃんと昔から……それは……色々、すごいわね……」

 

 ぼんやりと、まるで何も考えず適当に喋っているかのような天沢の言葉に、鷹一もまた察した。

 

(紫苑はだいぶ天沢に迷惑をかけているようだ……これは、二人の代金を雲川チームの予算から出すべきか……? いや、むしろ紫苑が迷惑をかけたのだから、そのまま紫苑が出すという形の方が自然か……?)

 

「いつも、すまない……」

 

 鷹一は純粋な気持ちから謝罪した。

 

「……えっと、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんだけど……言葉って難しいわね……ううん、そうじゃないわね……私もいつも紫苑ちゃんには元気づけて貰っているし、それに、色々あるけど、本当はとても良い子だって、私も知ってるから。色々あるけど……」

 

 ぼんやりとした天沢の瞳が遥か彼方を見た。

 鷹一は色々と察してしまった。そして、同時に、天沢に対して少し申し訳なくなる気持ちがあった。

 

 そして二人を悩ませている問題児――ほのぼのまったりお寿司大好き時々必殺狙撃で実はリーダーの雲川紫苑は、友人の明星相手に強気な態度を見せていた。

 

「灯さん……! このお店はね……! 『うに』がおいしいから……!」

 

 まるで何度も通っているベテランかのような雰囲気を出していたが、雲川がこの店に来たのはまだ一度だけだった。

 

「う、うに、ですか……た、確かに美味しそうですね……」

 

 どこか遠慮するように、しかし、何かの言葉を欲するように明星は周囲を伺った。

 

「うん……! おいしいんだよ……! 一緒に食べようよ……!」

 

 前日の試合の勝利ゆえか、はたまた初の試合の活躍ゆえか、それとも友達との寿司屋ゆえの喜びか、いや、単に『うに』を前にしたゆえの高揚か。ともかく、雲川は妙に強気であった。

 

「それは……嬉しいですけど……でも、お会計は紫苑さんが払うって聞いてますし……」

 

 悩むように、明星は、視線をメニューと雲川の間で彷徨わせた。

 

「大丈夫……! きょ、今日は、私がお寿司代出すから……!」

 

 雲川も当然理解している。明星の食べた代金は自分が払うことを。高級ネタである『うに』など食べれば、支払いはかなりのものになる。当然、理解している。しかし雲川は大金持ちだ。あまり散財する方ではなかったため、五月の支給ZPはまだ多く残っていたし、何より第一試合後に手に入れた11万ZPという大金がある。今の雲川は無敵であった。

 そして結局、明星は雲川の説得に応じて「うに」を注文した。

 うにを口にし、二人は喜んだ。雲川は以前と同じ美味しい「うに」を感じ、『これこそ、うにの力だ』と、自分の力の源を再認識した。明星は、純粋に「うに」という高級ネタの美味しさを楽しんだ。

 なぜか無敵モードに入った雲川を見て、鷹一は『久しぶりに見るな』と思いながら、鯛を口にした。

 どこか遠慮しているように見える明星を見て、天沢は『いつも通りだな』と思いながら、赤身を口にした。

 それぞれが無言で思考を巡らす中で、金崎もまた寿司を食べながら思案していた。

 

(やっぱり、ここの寿司屋は本当に美味しい。たぶん俺が今まで食った寿司屋で一番美味しい……値段は高いけど、それ相応なのかも……うん、何だかんだで元気が出てきている気がする。雲川さんの言うことは一理あるのかもしれない……でもいいのかな、俺、前の試合何もできてないし……いや、でもこうやって落ち込んでるのも悪いよな。雲川さんは元気づけてくれようとしてるし、それに、きっと鷲島はすごく俺に気を遣ってくれてるんだと思う。だから、そうだな……やる気を出さないと……!)

 

 そこまで考えて、金崎は、ばくりと、いくらの軍艦を口の中に放り込んだ。金崎が今までで注文した中で最も高価なネタであった。

 

(うん、そうだ、寿司を食う……! 美味しく食べて、それから、試合での失敗は一旦忘れる! いや、忘れちゃ駄目だけど、でも、今は、引きずらないようにする……! それで、鷲島が教えてくれた訓練をもう一度やる……! そうだ、俺でも状況が重なれば秀川を倒せた。秀川を倒せたのは第四試合までの間、ずっと訓練してたからだ。入学した日の俺だったら、どんなに状況が重なっても秀川は倒せないはずだ……! 入学の時よりずっと強くなってる。だから、鷲島の言う通り、進めていけば、また強くなるはずだ……! それでいつかは、この恩を返す……! 雲川さんにも、鷲島にも……!)

 

 気持ちを切り替え、美味しい寿司を食べ、少しずつ余裕を取り戻してきた金崎は、ここにきて、改めて、今回同席することになった明星チームについて考えた。

 どちらも雲川の友人であり、そして目を引く少女たちだ。金崎は存在は知っていたが、直接会うのは初めての相手であった。

 二人に対して、特に金崎は悪い印象はなかったが、しかし、どこか独特な雰囲気を持つ二人組だと感じていた。

 天沢の方は、神秘的で透明感がある少女であった。真っ白な髪に桜色の瞳という特徴を持っており、どこか神秘的で引き寄せられるような空気を持っている。しかし同時に、ぼんやりとした態度と気配の持ち主で、言葉から考えを感じさせない少女でもあった。目立つ容姿と空気がありながらも、実体のなさが影を薄くさせ、目立たせないのだ。

 明星は天沢とはある意味で正反対だ。非常に目立つ少女なのだ。服装などは特に華美なわけではなく、また性格も控え目に見えた。しかし、それでもなぜか目を引く少女なのだ。天沢よりもシルエットが大きいというのもあるが、それにしてもなぜか目立って見えるのだ。容姿が良いのは天沢と一緒だが、なんか視界や記憶に残ってしまう少女だと金崎は思った。

 そんな目立つ少女である明星に、なんとなく金崎が目を向けると、、彼女は次から次へとぱくぱくと寿司を口にしていた。

 

(食べるスピードがけっこう速い。雲川さんと同じくらいあるのは速いよな……? あ、いや、でも明星は体格が俺とそこまで変わらないし、おかしくはないか……? ん? それなら逆に雲川さんが早すぎるんじゃ……?)

 

 明星は良く言えばスタイルが豊満であり、より露骨に言えば「がたいがいい」女子生徒だ。ちんちくりんで直方体の雲川、やや小柄な天沢に比べると、明星は、相対的にシルエットが大きいのだ。

 それゆえ、必要なカロリーも、食べる速度も速いのだと金崎は考えた。だから寿司が大好きな雲川と食べる速度が同じなのはおかしくはない、とまで思い至ったあたりで、そもそも雲川が速すぎないかと疑問を覚えた。

 雲川は、普段は動きが鈍いのに、こんな時だけやけに機敏なのだ。

 

 何とも言えなくなる金崎であったが、そんな金崎の様子、いや正確には金崎の先ほどの行動を盗み見ている者がいた。

 そうリーダーである雲川だ。

 先ほど、金崎が勢いよく「いくら」を食べたのを見て、雲川もまた「いくら」を食べたくなったのだ。素早く注文し、そして、現れた「いくら」を見て、雲川はムムムと顔を力ませた。

 「いくら」は強敵である。

 美味しいが、食べにくいのだ。「いくら」を箸でにぎり、そして醤油につけようとすると、高確率で「いくら」がこぼれてしまうのだ。これまで雲川は何度も「いくら」をこぼしてしまった。

 

――今度こそは……!

 

 決意を新たに、「いくら」を傾け醤油へと突っ込む。

 同時に、「いくら」がぼたぼたと零れ落ちた。何連敗となるか分からないほどの、雲川の敗北記録更新であった。

 半分ほどの「いくら」が醤油皿へと流されたのを見て、雲川は悲しい気持ちになった。

 そして、一部始終を眺めていた天沢が小さく呟く。

 

「あら……? 半分残ったわね……」

 

「何がだ?」

 

 突然の天沢の言葉に素早く鷹一が反応した。

 

「ぜんぶこぼれちゃうかと思ったから……」

 

 鷹一の問いかけに、天沢は視線を雲川の醤油皿へと向けながら答えた。

 

「なるほど……確かに、それはそうだな」

 

 天沢の考察に感心しつつも、同時、鷹一は、『そういえば』とあることを思い出し、それを問いかけることにした。

 

「そういえば、秩父チームとは、どうだ? 上手くいっているか?」

 

 秩父と天沢の同盟関係。鷹一は、その結成に関係したこともあり、その後の状況――天沢視点ではどのような状態なのかを、少し気にしたのだ。

 

「菫は……、秩父はとても良い人よ……あなたに紹介してもらえて良かったわ……それに、色々としてくれて。改めて、あの時は、ありがとう……」

 

 同盟結成の際、鷹一は、事前に天沢から要望を聞き、秩父や岩切と調整をしていたのだ。天沢の感謝はそのことについてだった。

 

「いや、別に大したことじゃない。というより、普段から紫苑が迷惑をかけているみたいだからな。同盟でトラブルが起きてないようなら何よりだ。それと……そうだな、これは余計な話かもしれないが……この後の試合、勝てそうか?」

 

 鷹一の冷めた視線が天沢を貫いた。天沢チームは本日の試合で流水チームに敗北した。明星はいつも通り何もできずにダウンし、天沢は撃破点を1点取ったが、流水チームの音羽に討ち取られたのだ。

 ゆえに、常人であれば、敗戦を責められているように感じられる冷たい視線だ。しかし、天沢は、鷹一の視線に冷たさは感じられなかった。むしろ、逆であった。それ故か、彼女は、いつものように、どこか朧気でぼんやりとした視線を返した。

 

「…………難しい、と、思うわ……ただ、そうね、……折角同盟を組んでくれた秩父にも、あなたにも悪いから、勝てるようにはなりたいと思っているわ……それに、きっと、ちゃんと試合で勝つことが一番正しいことだと思うから……」

 

 そういって、天沢はちらりと明星の方を見た。明星は熱心にぱくぱくと寿司を食べていたため、天沢の視線には気づかなかった。

 鷹一は、今の天沢の言葉、そしてこれまでの天沢と明星の言動、さらに雲川と二人の関係など、様々な事柄を脳裏に描き、一つの仮定を導き出した。

 

(四月終了時点で、いや、それよりも前に、天沢は追放されることを考えていた可能性があるな。そして、その場合残った明星を、紫苑が見捨てられない。よって明星は雲川チーム所属となる。自然な流れだ。実際、雲川チームは人数が少ない。紫苑と仲が良く、それでいて魔力が高い明星を受け入れるというのは、おかしな話ではない。天沢だけが損をするという点に目を瞑ればあり得る流れだが…………だが、そうなると……)

 

 思考を回しつつも、鷹一は自身の考えを悟られないように隠し、言葉を作った。

 

「そうか。確かに、そうだな。ZPに支給などもある。勝てるようにするのが一番良いだろう。ただ、実際、勝てるための準備、たとえば訓練をするにも訓練室の利用にはZPが必要だ。Eランクの収入だけだと訓練も厳しいだろう。そこで、提案があるんだが、一旦聞いてもらえるか? 正直な話、余計な干渉だと自分でも思っているが、一応話しておきたい」

 

「余計な干渉だと思わないわ……だから、教えて……」

 

 朧気に天沢が頷いた。

 

「とりあえずの案だが、秩父チームと同時に訓練室を使うのはどうだ? 別のチームでも訓練室は使える。利用時間に応じてZPを払うというシステムだから、二チームで使って、料金を半々にすれば、とりあえずは、訓練費用を半分にできる。秩父チームもな。勿論、秩父チームがCランクであることや、秩父とお前の関係性を考えると、もう少し支払いが秩父寄りになるかもしれないがな」

 

 考えを口にしつつも、鷹一は内心で別の案についても考えていた。

 

(紫苑が訓練する時に、一緒に訓練室を使い、ZPの支払いはこちらが持つという手もあるが……実際、天沢や明星は紫苑と仲が良い。最近同盟を結んだばかりの秩父チームより接しやすいだろう。ただ、秩父チームとの方が好ましいという気もする。同盟相手と関係を深めるのは今後の学園生活において重要になる可能性がある。それに、ZPの支払いをこちらが持つことは負担ではないが、天沢は性格的に気にするだろう。それに何より、情報漏洩のリスクがある。こちらの情報が漏洩すれば対策を取られる可能性があり、それは今後のチーム戦において不利になる。天沢は情報漏洩をする人間ではないだろうが、明星は……いや、これは心配のし過ぎか。総合的に考えると、どちらかと言えば天沢たちは秩父チームと合同訓練をした方がいいか? いや、もう一つ別の案もあるが……正直、俺が干渉し過ぎるのも良くないか……?)

 

 鷹一が思考を回す一方で、天沢もまた鷹一の提案に対して、自分の考えを口にする。

 

「そうね……その考えは、とても良いと思うわ…………ただ、秩父はあまり訓練をできていないみたい……その、門倉や、それに他の子も、あまりチームで訓練していくのが苦手みたいで……秩父も頑張ってくれているけれど、こればかりは、他の子の考えもあるから、上手くいかないみたい……」

 

「秩父チームは、今、そういう状態にあるのか。確かに、あのチームは岩切以外は少し動きが悪い。訓練があまりできていないというのは納得感があるな。……しかし、そうなると、少し難しいな」

 

 そこで、鷹一は一度言葉を切った。一手踏み出すか少し悩んだのだ。

 しかし、すぐに踏み出すことを決めた。主な理由は、岩切の件であった。鷹一は岩切とは特殊な契約を結んでおり、また、彼女に対して、『秩父を頼む』と言った手前、少しは秩父天沢同盟の総戦闘力の底上げに協力すべきだと感じたのだ。

 

「……そうだな、もし『良ければ』の話になるが、場を整えようか? 俺は秩父とは一応ある程度の関係がある。それに門倉とも一応面識はあるしな。他の三人は……いや、まあそれはいいか。合同訓練を定期的に行える空気を作るくらいならできるかもしれない。余計な手出しになってしまうかもしれないが、もし、構わないようなら、こちらから打診してみるが、どうだ?」

 

「それは凄く助かるわ……でも、いいの? あなたに苦労をかけさせてしまうし……きっとその苦労に見合うだけのものを、私も秩父たちもあなたに返せないだろうから」

 

 『恩を返せない』――この表現は、見方によっては、恩を返す気はないとも受け取られかねない表現だ。しかし、天沢にはそんな気はない。ただ、天沢は理解しているのだ。鷲島鷹一という怪物の価値を。彼の時間の価値は、他の生徒と同じではない。一分一秒は常人とは違うのだ。それを理解しているが故の回答であった。

 そして、鷹一は、天沢の考えをすぐに理解した。

 

「……いや、そこまで繊細に考える必要はない。さっきも言ったが、紫苑が世話になっている。それに何より、こちらも今はある程度安定していて余裕がある」

 

 そこまで言って鷹一はちらりと金崎と雲川を見た。

 

(それに秩父には、門倉を押し付けてしまったからな。あのトラブルメーカーが雲川チームに入っていたらと考えると、正直恐ろしい)

 

 今回の一件は秩父チームのためにもなるだろうと鷹一は考えていた。チームの訓練費の削減、天沢という下位の生徒では十分な強さと魔力を持つ存在との関係強化、訓練相手が増えることによる刺激、また、場合によっては鷹一自身が多少訓練の相手をすることも考えていた。

 

(……今後を考えると俺にとっても悪くはないな。俺は秩父と、紫苑は天沢・明星と繋がりがある。友好的な関係のリーダーを強化するのは今後の学園生活においても悪くない選択だ。それに岩切の戦闘技術に関しては、俺ももう少し知っておきたいからな)

 

 以前の契約から、鷹一は、『岩切の時間を利用する権利』を所持している。彼女の技術を正確に把握するということもまた悪い選択ではなかった。

 

「ありがとう……そう言ってくれるなら、私もお願いしたいわ……頼める、かしら……?」

 

 天沢は、ぼんやりと、そして朧気な空気感のまま鷹一に頼んだ。常人であれば、『やる気があるのか?』と思ってしまいそうな態度であったが、しかし、鷹一は、天沢の態度から真剣みを感じ取った。

 そうして、鷹一と天沢はしばらくの間、『秩父・天沢同盟における合同訓練』の計画案についての詳細を詰めるのであった。

 

 

 

 

 そうして、宴もたけなわ、皆――特に雲川と明星の二人は、大いに寿司を食べ、楽しんだ。

 しかし、楽しむだけでは寿司は終わらない。

 そう、『お会計』というとても重要な時間が待っているのだ。

 

 鷹一は覚悟を決め会計に挑んだ。

 

 料金は驚きの30万ZPオーバーであった。

 これは、雲川だけの力ではなかった。明星も雲川に勧められてしまったために、高級ネタを食べ漁ったからだ。二人の友情の力であった。

 友情の寿司から大満足であった雲川はすでに会計のことなど頭から吹き飛んでいた。ただただ、明星と一緒に、わちゃわちゃと、あのお寿司が美味しかっただの、今度はあれを食べるなどと口にしていた。

 

――今日のお寿司はとても美味しかった……! 友情の味がした……!

 

 そんなことをほのぼの頭で考える雲川であった。

 一方で鷹一は、淡々と会計を済ませつつも、全員の食べたものの内訳から、各人の支払いに占めた割合の計算を素早く脳内でまとめた。

 雲川チーム三人の食べた額は、約20万ZPであった。これはチームの予算から支払われる。前回の倍というのは純粋に恐怖もあったが、これは鷹一と金崎が前回より少し食べるものの質と量を上げたことも原因であった。勿論、支払い額上昇の大半は雲川が原因であるが。

 天沢分は2万ZP、雲川とともに高級ネタを楽しんでしまった明星の分は9万ZP、よって天沢チーム分は11万ZPであった。これは事前の取り決めから、雲川個人の支払い分となる。

 11万ZPという大金は、第一試合での雲川の取り分まるまる全てであった。

 

 天沢チームと別れ、マンションに戻った後、徴収に来た鷹一から金額を聞いた雲川は目を丸くした。

 なお、事前の約束もあったため鷹一は、『11万出すように』と無情に取り立てるのであった。

 友情の味はちょっぴり苦かったことを知った雲川であった。

 

 

 

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