学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
【
秩父チーム所属。凸凹二人組の凸担当。
ややレンジは短いものの、アサルトライフル、サブマシンガン、ブレードと多彩な武器を使い分けて戦うことができる。
日常的にやや突飛な言動が目立つが、試合で学べることを一つ一つ学ぶ姿勢がある。
秩父には好意的。チームメイトの郡上のことはかなり気に入っていて、隙あれば彼女に抱き着く。
【
秩父チーム所属。凸凹二人組の凹担当。
アサルトライフルにシールドという非常に汎用的な装備で戦う。
普段の生活での言動が独特かつ鈍いが、戦闘時は多少まともになる。
秩父を慕っているが、他のメンバーはあんまり好きじゃない。
【
秩父チームのエース。チームをCランクの引き上げた立役者。
色々あって甘ちゃんの秩父のチームに所属したが、やや先行き不安のチームなため、色々と考え中。
秩父天沢同盟結成の影役者。また、それを利用し鷲島と上手く関係を作ることに成功した。
寿司屋での団欒の翌日、五月第三週目の月曜日。
鷹一は天沢との約束を果たすために訓練室へと来ていた。
既に天沢チームと秩父チームのメンバーが全員揃い――などということはなく、二人ほど欠員が出ていた。
リーダーの秩父とトラブルメーカーの門倉であった。厳密には先ほどまで秩父はいたのだが、門倉が失踪したため、訓練室を出て捜索に向かったのだ。
昨日、寿司屋での団欒の際、鷹一は天沢と『秩父・天沢同盟の合同訓練』について計画し、その日のうちには秩父に話を通した。秩父は鷹一から合同訓練の提案を渡りに船とばかりに受け入れた。秩父チームは個性的な生徒によって構成されるため、リーダーの秩父は普段の運営で手一杯であり、合同訓練など考える余裕がなかったのだ。それを鷹一と天沢が準備してくれており、さらには、鷹一から指導を受けることができるという好条件であった。受ける一択であった。
そんな秩父の熱意もあり、翌日である今日の午前中には開始することになった。なお、鷹一は、内心で、『午前中は授業があるが……』と思ったが、これは鷹一自身が言い出したということもあり、午前の授業はアーカイブで受けることにしていた。
そうして、秩父も天沢も鷹一も準備万端で合同訓練を始めるはずであったが、門倉が突然姿をくらましたのだ。秩父曰く、「さっきまで一緒にいたのに……!」とのことであった。なお、チームメイトであり鷹一とは極秘な関係を結んでいる岩切は「どうせ、サボりたくなったとか、そんなんだから放っておこう」と冷めた言葉を口にしたが、秩父は一目散に門倉を探しに行ってしまった。
鷹一は、秩父の懸命さに圧されつつも、彼女に、『合同訓練を始めてしまっていいか』ということと、『秩父が席を外している中で、秩父チームの残った面々に訓練を施していいか』などを問いかけ、彼女に許可を貰った。
秩父と門倉を抜いた、五人の女子生徒――天沢、明星、楠木、郡上、岩切、彼女たちを前にして、鷹一は軽く自己紹介をした後、本題である合同訓練について説明しようとした。
しかし、これは簡単ではなかった。
なぜなら――
「あいつ、ヤバイの……絶対、人殺してるの……」
――ひそひそと小さな声で、とはいっても距離的に全員に聞こえる声とともに、秩父チームの郡上祈が怯えた目で鷹一を見たからだ。
「祈ちゃん、祈ちゃん、あの人、こっち超見てますよ!」
どこか面白そうに楠木杏里が鷹一に指をさしつつ郡上へと声をかける。
「ひぇ……! 殺されるの……! 私はこんなとこいられないの。部屋に戻るの……!」
そういって、郡上はもたもたとして動きで訓練室から出ようとした。
「こら、郡上、勝手に帰ろうとするな」
逃げ出そうとする郡上を岩切が取り押さえた。
「祈ちゃん、祈ちゃん、動きがちんたらし過ぎですよ!」
捕まった郡上の方へ人差し指向けながら、楠木がけらけらと笑った。
「嫌なの……! 嫌なの……! あいつ、怖いの……! 絶対人殺しなの……! 目つきがヤバいの……! ここにいたら殺されるの……!」
「鷲島さんはたぶん人殺してないよ。仮に殺してても、郡上は殺さないよ。だってメリットがないだろ? 郡上なんか殺しても」
呆れつつも、どこかおどけながら岩切が答えた。
「そうですよ! そうですよ! 祈ちゃん、祈ちゃん、自意識過剰ですよ!」
それに合わせて楠木がまたしても人差し指を郡上へと向けた。
「お前、さっきから余計なことばっかり言ってないで、少しは助けろなの……!」
遠くからいらない事ばかり言う楠木に対して郡上は怒りを露わにした。
「話を進めてもいいか? 秩父からは、合同訓練を始めてもいいということと、必要であれば指導を行ってもいいと許可を貰っている」
「ダメ……! ダメなの……! 私は帰るの……! だから、殺すのは私じゃなくて他の奴にするの……! とくに杏里がお勧めなの……! こいつを殺して黙らせるの……!」
笑いながら自身を指さす楠木に対して、郡上もまた鋭く人差し指を向けた。
「始めちゃっていいよ、鷲島さん。秩父がいない今、私がこのチームのリーダー代理だからね。天沢もいいかい?」
郡上を抑え込み、岩切が答えた。そして、天沢もまた頷いた。
「嘘なの! こいつはリーダー代理じゃないの。そもそも――」
抵抗する郡上の口を岩切が封じた。そして、彼女の耳元で何か呟くと、急に郡上は大人しくなった。
郡上の態度の変化に鷹一は訝しんだものの、こだわる点でもないかと思い、話を進めることにした。
「とりあえず、今回の訓練の参加者用にいくつかメニューを用意した。この訓練メニューは、これまでの試合での振る舞い――性格、戦闘技術、魔力量、チームでの求められている役割などから考えたものだ。長所を伸ばしやすく、短所を改善しやすくなるように作った。基本はこのメニューに従ってほしい。分からない所があれば適宜聞いてもらおうと思っている。ここまでで何か質問はあるか?」
鷹一の問いかけに対して、真っ先に楠木が手をピンと伸ばした。
「はい! 質問があります……!」
「なんだ?」
「鷲島の兄貴は、姉御のことが好きなんですか!?」
「……? 姉御というのは誰を指す?」
鷹一は、これまでの楠木の振る舞いから、秩父のことかそれとも岩切のことかどちらか判断がつかなかった。
「菫の姉御でございます!」
「秩父のことは人間として好ましい人物だと思っている。穏やかで寛容、いくつもの美徳を持った人物だ。リーダーとして尊敬できる人物かもしれないと思っている」
「恋愛的にはどうでありますか!?」
「恋愛感情は抱いていない」
「兄貴! それはつまらないです! 姉御のことを好きになってください! そっちの方が面白そうです!」
「……? 今日の合同訓練について質問がある者はいるか?」
悩んだ結果、鷹一は楠木の質問を無視して話を進めようとした。
しかし、再び楠木がまっすぐ手を上げた。
「はい! 質問があります……!」
「合同訓練に関してか?」
「いいえ! 兄貴の私生活に関してです!」
「そうか。合同訓練について、質問がある者はいるか?」
再度、鷹一は楠木の質問を拒絶した。そして、再度楠木が手をまっすぐ上げるなか、同時に、岩切が口を開いた。
「ないよ。それと丁寧にありがとう。でも、このメンバーだとまともに質問するのは私か天沢のどっちかだけだし、天沢は鷲島さん側なんでしょ。それなら、そこまで丁寧に進めなくても大丈夫だよ。言ってくれればこっちは言われた事をやるし、やらせるよ。まあ、明星の尻を叩くのは天沢の仕事だけどね」
そういって、どこか皮肉気に明星へと視線を飛ばした。明星は岩切の圧に押されて視線を下へと向けた。
岩切の答えに鷹一は少し思うところがあったが、数秒ほど周囲を見回し、他に手を上げるものがいないと確認すると(勿論、楠木は未だに手をまっすぐと上げたままであったが)、訓練プログラムを各自の小型端末に転送した。また同時に、訓練室のシステムにも鷹一が作成したプログラムをアップロードした。
各自がそれぞれの方法で訓練プログラムを確認する中、真っ先に概略を掴んだ岩切が再度声を上げた。
「基礎中心のプログラムだね。私以外はこれでいいけど、私はもう少し実戦的なのが欲しいかな」
「実戦的か……確かに、その意見は分かる。どんなのが欲しい?」
鷹一は、岩切が秩父チームのエースであることから、彼女の提案に納得を示した。
「そうだね……できれば、鷲島さんと手合わせを希望するよ。私もブレード使いだからね。一年生最強の剣技、直接見て学びたいかな」
岩切は、どこか試すような視線を鷲島へ向けた。
「それは構わない。ただ、一旦このプログラムを終えてからでいいか? 俺としては、お前の基本的な戦闘力を見てから決めたい」
この鷹一の回答は、『岩切の長所短所を訓練プログラムで見極めてから、適切な速度で手合わせをすることで、岩切の経験の効率化を行う』という意味を持っていた。
なぜなら、鷹一と岩切は速度が違いすぎるからだ。鷹一の本気の速度に反応できる人間など一年生に数えるほどしかいないのだ。
西山、零、マスタング。鷹一と何合も剣戟を繰り広げた彼らは、皆、尋常ならざるブレード使いであった。彼らと岩切との間には圧倒的な差があった。本気の鷹一が、ブレードで正面から戦えば一瞬で勝負がついてしまい、何の訓練にもならないのだ。ゆえに、鷹一が岩切の訓練を考えるならば、速度を抑えて戦う必要があった。そして、訓練プログラムにより岩切の速度やブレード戦における他の強みと弱みを正確に知ることができれば、鷹一は岩切に成長において最適な速度で手合わせできる。それゆえの言葉であった。
岩切は、そのことを理解しつつも、内心でいらりとした感情を覚えた。
「それだと、私のことを対策されちゃって鷲島さんが有利になっちゃうでしょ。今からやらない? それとも、対策してからじゃないと嫌?」
あえて挑発するように岩切はにやりと笑みを浮かべた。
「お前の出場した試合は全て見た。そういう意味ではすでに対策はできていると言えるが……?」
「試合の情報だと全部は分からないでしょ。でも、鷲島さんのこの訓練プログラムは、参加者の能力を丸裸にする。全然違うよ」
「そこまで差はないと思うが……まあ、別に先でも構わないが……恐らく効率が悪くなるな」
岩切の態度に疑問を覚えつつも鷹一はブレードを顕現した。それに合わせて岩切もまたブレードを顕現した。
既に訓練室のシステムが展開しているため、ここでも試合と同じようにダメージはフィードバックしない。つまり、いつでも、自由に安全に殺し合いが可能であった。
しかし、理解が遅い郡上は慌てて声を上げた。
「剣を抜いたの……! ヤバイの! 皆、殺されるの……!」
そうしてもたもたと逃げようとする郡上を、今度は楠木が抱き着いて取り押さえた。
「祈ちゃん! 祈ちゃん! 兄貴とモカさんの対決です! これは見ないともったいないですよ!」
「離すの……! 私はこんなところで死にたくないの! 死ぬのはお前だけにしろなの!」
そんなおとぼけ二人組に内心で呆れつつも、さらに岩切が言葉を作る。自身ができる最良の状況を作るために。
「そういえば、鷲島さん、ルールとかどうする? ブレードだけ使って、あとの装備は禁止、先にダウンした方が負け、でいいかな?」
「ブレード戦の技術だけで考えるなら、それで十分だな。始めるか?」
「うん、鷲島さんから斬りこんでくれていいよ」
岩切の誘いに、鷹一は少し悩んだ。
「お前から来てくれた方が良さそうなんだがな……」
この期に及んでも鷹一は効率について考えていた。岩切から仕掛けてくれば、鷹一は受けで戦い攻撃はせずに、その場で岩切について分析し、彼女の訓練になる戦い方ができればなどと考えていたのだ。
これは、見方によっては、非常に岩切を下に見ているかのような言動であった。
「もしかして、怖いの? 案外、鷲島さんも普通なところがあるんだね」
後手を取るため、再度、岩切が挑発した。
そんな岩切の態度に鷹一は疑問を感じつつもゆっくりと岩切に近づいた。
「お前は奇襲で攻めることを強みとするタイプだったと思うが、『受け』の方が強いのか?」
「それはお楽しみに、だね」
「そうか」
その言葉を最後に鷹一が一気に駆け寄り距離を詰めた。
試合の時よりかは速度を抑えた接近であったが、しかし、独自の歩法ゆえ岩切のリズムが僅かに崩れた。
そして、十分に剣速を抑えた――それでも通常の生徒であれば対応が難しい速さで鷹一が斬りこんだ。
金属と金属がぶつかる音が響いた。
なんとか岩切がブレードを合わせることに成功したのだ。
(速い――! でもやっぱりかなり加減した速度。これは、ワンチャンあるかな?)
(反応がギリギリだったな。この速さだとこうなるのか。もう少し遅い方がいいか?)
岩切と鷹一、それぞれが考えを巡らせつつ、二合目の刃が衝突した。
鷹一の斬撃は、非常に速度が落とされたものであった。しかし、それでも岩切にとっては『何とか耐えられる』レベルの攻撃であった。
ブレード戦において、勝負を決定するのは速度だけではない。様々な要素が勝敗を決める。
剣速、斬撃の重さ、接近戦の巧みさ、動作の隙の無さ、他にも多数の要素が絡み合う。そして、鷹一はどの要素でも一流のブレード使いだ。
勿論、鷹一は全ての面で加減している。速度だけではなく斬撃も軽くし、動作もあえて重くしている。
これも岩切に合わせ、彼女の能力を知り、彼女の戦闘力を向上させるためであった。
加減された鷹一の斬撃を岩切は懸命に防いだ。どこか飄々とした彼女の表情は今はこわばり、必死さを隠せずにいた。
そんな岩切を淡々と見ながら、鷹一はこれまで自分が戦ったブレード使いについて思案した。
零、マスタング、西山。奇しくも、三人とも一年生では並外れたブレード使いだ。そして、それぞれが異なる長所を持っていた。
たとえば、零は鷹一と同じで剣速が特に速いタイプだ。また他のブレード技術も軒並み高い。
一方でマスタングは剣速では鷹一と零に劣るが、しかし、彼にはずば抜けた斬撃の重さと間合いの広さがあった。
そして、ウルミ使いの西山は剣速と間合いの広さ、さらには変幻自在の攻撃を持ち合わせていた。
では岩切モカの強みは何か? 五合、六合と剣を振るいながら鷲島は思考した。
ブレード使いとして剣の速度がやや速い、そして接近戦の巧みさもある。また動作の隙も上手く殺している。そして、時折振るう独特のモーションからなる『薙ぎ』――この薙ぎは僅かに間合いが広い技だ。視覚で見るよりも少しだけ伸びるように感じられる技。実際、この技は岩切にとって切り札のようなものであった。
ただし、あくまで、これらの強みは、下位や中位の生徒としての強みであり、上位のブレード使いとは『まったく勝負にならない』レベルのものであった。
一通り岩切の技を見た鷹一は、速度を上げた。
慌てたように岩切がブレードを用いて防ぐ。咄嗟の防御ゆえか、鷹一が一歩踏み込む形となり、岩切が踏み込まれる態勢となる。そして、それは岩切の狙い通りであった。
――次の瞬間、岩切は空いた左手に『もう一本のブレード』を高速で顕現した。
このためだけに特訓した高速顕現。それが鷹一に牙を、いや、刃を向けた。
なぜなら岩切の左手を軽く握り、グリップがちょうど左手の中に形成されるようにブレードを顕現させたからだ。そして、ブレードの切っ先が鷹一の方へ向くようにした。二人が至近距離で剣戟を行い、その上でのブレードの高速顕現。つまり、ブレードは鷹一を貫くように顕現されたのだ。
虚空からの刺突。これが、岩切が考えた必殺技であった。
心臓を切り裂く音が、はっきりと岩切の耳に届いた。
片方がダウンし、戦闘が終了する。
「……やっぱり強いね、鷲島さん。手加減されてたのに負けちゃった」
ダウンしたのは岩切であった。鷹一は岩切の刺突を淡々とブレードで受け、弾いた。そして返す刃で岩切の胸部を破壊したのだ。
「いや、最後の技は見事だった。高速顕現を使った攻撃というのは初見ではまず防げないだろう。二刀流は実戦的ではないが――いや、そうか、だから最初に『実戦的』と敢えて言ったのか。そういえばルールも破っていないな。お前はブレードしか使っていない。となると、剣速も、あえて遅くしていたのか?」
鷹一の最初の指摘である『二刀流』は、試合では現実的に難しい技であった。
なぜなら、試合中、持ち込めるアクティブ装備は6つだが、同時に使用できるのは2つだけだからだ。二刀流をするにはブレードを2つ持ち込み、同時に使用する必要がある。つまり、その間他の装備が使えなくなってしまうのだ。ゆえに『実戦的』とは言い難い技であった。
なお、この模擬戦はそもそも、岩切は、鷹一に『実戦的』なメニューが欲しいと言って、その流れで始まったものだ。また岩切は最初、使用装備をブレードに限定した。普通に考えれば、『アクティブ装備にブレード1つを入れて戦う』という認識になるが、しかし、岩切はブレードを何本アクティブ装備にいれるか、などといった限定はしなかった。
見方を変えれば、『卑怯な手段』の連続であった。しかし、鷹一は、岩切のそれを『柔軟さの現れ』と考えた。勿論、卑怯な面でもあると鷹一も認識していた。しかし、それ以上に、『鷹一相手にそう言った面を隠さず見せる』という点を評価した。岩切への評価が上がったこともあり、鷹一は、『今回の剣戟での岩切の剣速は調整されたものではないか』『普段の試合で見せている速度も実際より遅くしているのではないか』とも考えた。
「普段は全力は出さないで少しだけ遅くしてるけど、今のは、普通に鷲島さんが速すぎたから、ほぼ全力の速度だよ。まあ、戦っているうちに少し目と体が慣れていったから、最後の方は本当はちょっとだけ余裕があったよ。……それを見せないようには努力したつもりだけど、鷲島さんの反応的に、私の演技はそこそこ効果はあったかな?」
「ああ、表情を隠すのが上手いな。それに土壇場での判断も良い」
「ありがと。鷲島さん相手に強さをアピールしても意味無さそうだから、そう言った面で評価してもらえないかなって思ってたけど、想像以上に好感触で良かったよ」
そう答える岩切であったが、他にもこの模擬戦には意味が込められていた。
それは、エースの岩切が必死で鷹一と戦う姿を見せることであった。鷹一は最強の選手である。そのことは多くの生徒は理解している。しかし、鷹一は、現状、Bランクという高みにいるため、Cランク以下の生徒にとってはやや距離がある存在であった。つまり、情報として知っていても、実際にその強さを体感できていないのだ。勿論、優秀な生徒であれば、鷹一の試合を見るだけで彼の強さを理解できる。だが、この場にいる者で、それを理解しているのは、自身と天沢だけだと岩切は考えていた。
そこで、『秩父チームのエースである岩切が直接鷹一と戦うことで、その視覚効果により楠木や郡上、そして明星といった生徒が、鷹一の言うことを聞きやすくする』という隠れた目的があった。
またさらに隠れた目的としては、『自身の考えた最高の一撃』は鷹一に通用するのかという試みもあった。なお、余談になるが、最後の一つについては、『たぶん効かないだろうけど、ワンチャンあるか?』と岩切は考えていたが、今回の結果から、『完全に無謀であった』と感じていた。
「試合は正面からの戦いだけではないからな。色々な方法で得点に繋げる工夫をするのは良いことだと思う。まあ、あまり顰蹙を買うようなやり方は良くないと思うが、お前のやり方は問題だとは思っていない。むしろ、VIPにもそういった面を評価するであろう人間はいるだろう。投げ銭が期待できるかもしれないな」
「そりゃいいね、ZPはいくらあっても困らないからね。……さてと、私の我儘でだいぶ時間を使っちゃったね。そろそろ皆で訓練するかい?」
「そうだな。他に何か気になることや、やっておきたいことはあるか?」
念のため、鷹一が残りの四人――郡上、楠木、天沢、明星を見回した。郡上以外の三人はそれぞれが了承の態度を取った。
なお、郡上だけは鈍い動きで体を出口へと動かそうとしていたが、楠木がずっと抱き着いていたため、それも叶わなかった。
こうして、鷲島鷹一の『秩父天沢同盟強化ブートキャンプ』が始まった。
なお、未だ、盟主である秩父は門倉捜索のため不在であった。