学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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★登場人物再掲
秩父菫(ちちぶすみれ)
 Cランク24位(暫定21位)、秩父チームのリーダー。
 過去に鷲島を勧誘したが失敗した。現在も鷲島とのパイプを持っている。
 よく言えば人柄が良く、悪く言えば、甘い。
 鷲島からは「能力は高くはないが、人格面は良い」と評価されている。

門倉莉莉(かどくらりり)
 秩父チームの足手まとい担当。四月第四試合から参戦。
 戦闘能力も頭も弱い。おまけに魔力も低い。そのこともあってか、第三試合終了時、まだチームに所属していなかった。このままいけば追放となることに気付き、一発逆転を狙い暫定Bランクの雲川チーム加入を狙う。
 人の良さそうな金崎に目を付け、近寄るが、怪しんだ金崎により鷲島を呼ばれてしまう。金崎・雲川の心情を気にした鷲島により秩父を紹介され、なんとかチームに所属する。
 最初は暫定ランクが低い秩父チームよりも雲川チームを好んだが、チームメイトの楠木と郡上のレベルが低そうなので、ここなら自分でも活躍できるかもと思い直し第四試合に挑むが特に活躍はしなかった。ついでに五月第一試合でも活躍しなかった。
 トラブルメーカーで、しょっちゅう問題を起こす。現在は飛山チームの道合と若干禍根がある。なお、本人に悪気はない。


かわいい疫病神

 

 

 五人がそれぞれ鷹一の課題に取り組んでいる間、鷹一は一人一人の様子と、システムデータの確認を行った。

 それぞれの長所短所、戦闘の癖など分析しつつ、必要に応じてアドバイスを行うためだ。

 

 秩父チームのエース岩切は、高めの魔力と戦闘力を併せ持つ。万能性を持ち、ブレード戦以外もアサルトライフルを使った射撃戦や、狙撃などを行うことができた。主に奇襲によって得点を稼ぐことを得意とするが、正面戦闘能力でも秩父チーム随一の持ち主であり、状況が整えばBランク帯でも活躍できる可能性を持った生徒であった。

 鷹一は、多彩な戦い方ができる岩切を見て、匂坂チームの山見を思い出した。勿論、Aランク帯の戦闘で単独で6点も取るような超人と岩切を同等に語ることはできないが、それでも岩切の能力に魅力を感じた点は否めなかった。

 

 一方で秩父チームの残り――いつも二人組で活動しているらしい楠木と郡上は、まだまだ磨くべきところが多い生徒であった。

 

 楠木は岩切とは違い、レンジが短く、接近戦と近距離戦を得意な距離としていた。ブレード、サブマシンガン、アサルトライフルの三つの武器を使うというCランク帯ではやや珍しい装備選択をしていた。どれも練度はそこまで高くはないが、しかし不思議と使い分けは上手かった。また試合ごとに確実に一歩ずつ強くなっていく面を持ち、正面戦闘能力でも、得点能力でも岩切に次いでいる生徒であった。

 

 郡上は独特な口調と性格に反して、装備は最も一般的な中装備のアサルトライフルというものであった。一般的な射撃技術とシールド技術を持ち、装備面では特別に長所も短所もない生徒であった。もたもたとした振る舞いが目立ったが、なぜか戦闘中は速度が少し上がり、一般の生徒と同程度の機動力を持っていた。総合的な戦闘力は低いが、バランスが良いタイプであった。

 なお、これはあくまで装備面とその技術に関するものであり、郡上は他の面で問題が多かった。彼女は、鷹一に対する恐怖が強く、鷹一が助言してもまともに聞くことができなかった。そして何より、時々、何もない場所で転び、極稀に射撃訓練中に別の訓練をしている仲間を撃ち抜いてしまうなどといったトラブルがあった。本人に悪意が全くないということも問題に拍車をかけた。郡上は、チーム戦において不安な面が大きかった。

 

 どちらもBランク帯での戦いは厳しく、Cランク帯であっても確実に活躍できるとは言い難い生徒であった。鷹一の見立てでは、楠木の方が郡上よりも頭一つ上の戦闘力を持っていた。そして、郡上の戦闘力に関しては、金崎と同等か金崎よりも少し上と評価していた。

 勿論、郡上のチーム戦での不安定さを考えると、総合力では金崎が郡上を上回るであろうことは明らかであった。しかし、同時に、現状では、金崎は総合力でも、楠木には勝てないだろう、とも鷹一は考えてしまった。

 

(あとで金崎の訓練の様子も確認しないとな……)

 

 努力家で一生懸命なチームメイトのことを考えつつも、鷹一は、天沢についても分析と助言を行った。

 

 天沢は、装備と戦闘スタイルから特殊な生徒だ。高魔力による短期決戦――明星が実質的に役に立たず一人で少しでも点を取るための構成であった。バトルライフル、ショットガン、曲射砲という高魔力の特質を活かした力押しの構成は、どこかまったりとした雰囲気を持つ天沢らしかぬものであったが、一定の成果を挙げ続けた構成であった。しかし、Eランクという環境的に訓練費の捻出も難しかったためか、『努力』のための時間を作ることができなかった。そのため、才能だけに頼った戦い方ををせざるを得ない。よって技術的には郡上以上楠木以下であり、戦闘力的にも楠木相当だと鷹一は評価した。

 ただし、天沢は人格面と頭脳面において強みを持っていた。穏やかで人柄が良くトラブルを起こさないというのは、下位チームでは稀有な特性であったし、またぼんやりした態度に反して頭の回転は早く、鷹一の助言を受け入れ学ぶ能力が高かった。

 

 そして、最後の一人、明星灯。

 彼女についての分析を終えた鷹一が、助言をしようと近づいたその時、疫病神が降臨した。

 

――そう秩父チーム随一のトラブルメーカーである門倉莉莉だ。秩父がついに彼女を見つけて、ここに連れてきてしまったのだ。

 

 天野チームに飛山チーム。Cランク最強格のチームとAランク最強格のチーム。

 そんなチーム相手に揉め事を起こした門倉に対して鷹一は警戒と不安があった。

 秩父に連れられてきた門倉(疫病神)は、なぜか、使い捨て容器に入った味噌汁らしきものとおにぎりを抱えていた。そのことに、鷹一はひっかかりを覚えた。

 

「みなさーん、秩父チームの可愛いエースが帰還しましたよー! って! 鷲島さんだ! 何でいるんですか!? もしかして、私のことを認めて、引き抜きに来てくれたんですか!?」

 

 妙に弾んだ声で、近づいてくる門倉を見て、鷹一は内心で頭を抱えた。

 

「いや、違う。それより、今日の話を秩父から聞いていないのか? 秩父チームと天沢チームの合同訓練、俺はその補佐として今日ここに来ている」

 

「え? そうなんですか? 菫さん、そんなこと言いましたっけ?」

 

 どこか呆けたように門倉が秩父に問いかけた。

 

「えっと、言ったわよ……? 昨日の夜、皆で話したでしょ。それに、さっきも言ったわよね……?」

 

 秩父は困ったように言葉を返した。

 

「ああ、そういえば、なんか言ってましたね! そんなことより、鷲島さん! 鷲島さん! 見てください、見てくださいこれ! 私、なんと、あの麻倉チームから、豚汁とおにぎりをゲットしたんですよ! 凄くないですか!」

 

 自慢げに、どこか称賛を求めるように容器の中身を見せてくる門倉(疫病神)を見て、鷹一は天を仰いだ。

 

(なんてことだ……まさかここまで愚かだったとは……よりにもよって麻倉チームの活動を妨害するとは……いったい何回揉め事を起こせば気が済むんだ?)

 

 鷹一は門倉(疫病神)の言葉から、全てを察してしまった。

 

 それは、麻倉チームが本日から始めると一年生中に宣言していた活動に関することであった。

 本日から、月・水・金の週に三回、麻倉チームは昼の前後の時間帯に炊き出しを行うというものであった。ただし、配給は下位ランクであるEFランクのみに行うという、但し書きも添えられていた。

 ZPが不足し、食費にも困る下位ランクを支援するため自腹を切っての麻倉の活動であった。また同時に衛生面でも厳しい立場に置かれているEFランクを気遣い、無償の洗濯代行まで行うという話もあった。

 その話を知った鷹一は、麻倉と彼女のチームの行動に気高さを感じつつも、同時に、『この蟲毒のような学園で、そのようなことをするリスク』について危惧した。

 現状では、どう転ぶか分からない。関われば最悪、火の手が自分にまで回る可能性がある。そう考えた鷹一は、この活動からは一旦距離を置いた。勿論、鷹一としても、下位の待遇には気になる点はあった。しかし、今は自分と隣人を優先するべきだとも考えていた。ゆえに、とりあえずの中立。麻倉チームの活動に直接関わる危険も、麻倉チームと敵対する危険も犯さない。それが鷹一の選択であり、また中位以上の多くの生徒が行う選択ではないかと鷹一は考えていた。

 

 そんな中、門倉(疫病神)は、麻倉チームの活動を妨害することを選んだのだ。鷹一は、今すぐ、この門倉(疫病神)から離れたかった。自分まで祟られそうだと感じたからだ。

 

「あの配給は下位限定だ。門倉、お前はCランクだ。実際の実力は違うかもしれないが、それでもお前はCランクである秩父チームの一員なんだ。もっと自分を客観視するべきだな」

 

 驚愕もあったためか、それとも門倉(疫病神)への忌避感か、鷹一はいつもより辛辣な言葉を口にした。これは門倉の実力がCランク未満だという厳しい意味を持っていた。

 しかし、現状門倉はCランクだ。そして、Cランクは中位だ。Bランクに比べれば生活の質は遥かに劣る。しかし、それでも中位だ。質素な生活なら十分に送れるし、多少の散財もときどきできるくらいには収入がある。それがCランクだ。食べ物や衛生環境に困るEFランクではないのだ。

 

「実際の実力……!!」

 

 鷲島の言葉を聞いた門倉は、驚いたように目を見開いた。そして、鷹一の言葉に感極まったとばかりに薄っすらと涙を流した。

 

「やっぱり……! 鷲島さんは私の実力を認めてくれたってことですよね!! そうです! 私、分かってました! 私はCランクで満足するような女じゃないって……! 私なら、Bランク、いえ、Aランクも夢じゃないですよね! 最近活躍してますし……! やっぱり、鷲島さんが引き抜きに来てくれたんですよね……!!」

 

 可愛らしいが、しかし鼻水と涙で汚れた顔面を近づけてくる門倉を回避しながら、鷹一は話の通じる方へと視線を向けた。

 

「秩父。門倉は昨日立てられた計画を完全に忘却し、今日、無謀にも麻倉チームの配給所を荒らしていった、これで合っているか? いや、それより秩父、お前は、どの段階で門倉を取り押さえたんだ?」

 

 近寄ってくる門倉を、無駄のない洗練された動きで回避する鷹一を見て、秩父は何とも言えない気分になった。

 

「えっと、取り押さえたっていうより……その、なんて言うべきかしら? ええっと、とりあえず、莉莉が配給品を貰っちゃったから、そのことで、麻倉さんたちには謝罪したわ。あ、あと、それで、事後報告になってしまうのだけれど、流石に、莉莉が迷惑をかけてしまったのは良くないと思ったから、麻倉さんに配給を手伝うって申し出たわ。本当ならすぐその場で手伝うべきだったとは思うんだけれど、莉莉をその場に残すのは、ちょっと不安で……それで一旦連れ帰ってきたの」

 

 そこまで言って秩父は一度言葉を区切り、一拍置いてから再度鷹一を見た。

 

「……それで、その、ごめんなさい、鷲島君、できれば、莉莉とみんなの面倒をお願いしてもいいかしら……? その、できれば、今から、私は、配給所に戻って麻倉さんに謝罪と迷惑をかけた分を返そうと思うの……いえ、本当にごめんなさい、私の方から乗り気で提案した上、貴方にだいぶ頼り切りなのに、この上、さらに全部任せてしまうことになって……う、埋め合わせは、いつか必ずするわ……!」

 

 申し訳なさそうに、それでいてどこか決意をもった瞳で、秩父は鷹一に願った。

 

(正直、門倉(疫病神)にはあまり触れたくないが……しかし、秩父の言うことはもっともだ。麻倉チームに悪感情を持たれるというのは、かなり危険だ。いや、紫苑を許せる麻倉ならば、そこまで危険ではない可能性もあるが……しかし、他のチームメイトがどう判断するかは分からない。それにあのチームは佐々木がいる。極力刺激せず、落ち度があるならば、それを弁明、いや挽回するべきだろう)

 

「分かった。確かに、以前の……天野チームとのこともある。麻倉チームへの埋め合わせを優先すべきだろう。こちらは構わない。一応、今、こっちは訓練プログラムを一通りやっているところだ。門倉もそこに混ぜることにしよう。あと、秩父、一応、お前の分も作ってある。後で渡すこともできるから、あまり今日の合同訓練に無理に参加しなくてもいい。今は麻倉への対応を優先してくれ」

 

 鷹一が言及したこと。それは以前、門倉と天野チームが揉めたことであった。その件は鷹一の干渉もあり一応は解決した。しかし、天野チームは麻倉チームと同盟を結んでいる。ここで麻倉に敵視されるのは、天野チームとの問題を再燃させる危険性もあった。

 

「わ、分かったわ……! ありがとう、鷲島君。いえ、今日だけではなく、いつも本当に、ありがとう……! それじゃあ、行ってくるわ……! 少しでも麻倉さんに借りを返してくるわ……!」

 

 決意と共に去っていく秩父の背中を見送りながらも、鷹一はすらりと門倉のタックルを回避し続けた。

 

「鷲島さん……! そんなに恥ずかしがらなくても……! いえ、莉莉ちゃんは可愛いですし、鷲島さんも男の子ですから、気持ちはわかりますけど……! で、でも、鷲島さんのチームに入れてくれるなら、ハグくらいいくらでもいいですよ……! キスはまだちょっと恥ずかしいですけど……で、でも鷲島さんのチームに入れてくれるなら、私、頑張ります!」

 

 ぐっと気合を入れた表情で迫る門倉を見て、鷹一は冷たい視線を返した。

 

「頑張るな。ハグもキスも求めていない。必要のないことをするな」

 

 いつもよりも数段冷めた鷹一の声。もしここに雲川がいれば『お、怒ってる……?』とわなわなと身震いしただろう。しかし、常人よりも数段上を行く図太さを持った門倉には、鷹一の感情は通じなかった。

 

「?」

 

 可愛らしい顔で、門倉はきょとんとするのみであった。

 数秒の間、互いに無言となった。

 そして、何かが伝わっていないと誤解した門倉が再度口火を切った。

 

「でも私、可愛いですし、それにスタイルもいいですし、ほらっ」

 

 そう言うと、えへんと発育の良い胸を張った。 

 可愛らしい童顔に反して、胸や腰などの凹凸にしっかりしたスタイル。四月に金崎を誘惑しようとして失敗した門倉であったが、それは彼女の容姿が劣っているわけではなかった。むしろ逆に優れているからこそ、より金崎を警戒させ、鷹一への通報に至ったのだ。

 

「そうか。ところで、合同訓練に参加する気はあるか? 秩父と天沢は同盟を結んでいる。これは当然知っているだろう。そして、今回は、同盟間での戦力向上を行うための合同訓練をしている。今、ここで、しているんだ。俺は、その補佐のためにここにいる。秩父と天沢からは、今回の合同訓練における指揮を許されている。お前のチームメイトである岩切も楠木も郡上も、今、訓練プログラムをやってくれている。秩父からはお前も参加するように期待されている。お前用のメニューも考えておいた。やるか?」

 

「? でも、今日から、私、鷲島さんのチームに入るんじゃないんですか? もう菫さんのチームメイトじゃないなら、やらなくてよくないですか?」

 

 能天気な頭で、いや、あまりにもふわふわの頭で喋る門倉を見て鷹一は天を仰ぎそうになった。

 

(なぜ俺がこんな門倉(疫病神)を仲間に入れると思っているんだ……? こいつを入れた次の日にはAランクのどこかとトラブルになり、一週間もしないうちにAランク全てと敵対する可能性すらあるだろうな)

 

「違う。お前は秩父チームだ。雲川チームじゃない。そして、それは今後も変わらない。俺はお前を勧誘に来たんじゃない。秩父と天沢に頼まれて、お前やお前のチームメイトを強くするために来たんだ」

 

 鷹一の明確な拒絶。それを受けてもまだ、門倉は頭に疑問符を浮かべた。

 しばらく、きょとんと小首をかしげる門倉であったが、途中ではっとした顔になった。

 

「? ……? あっ! もしかして、脱退条件を心配してるんですか? 大丈夫です……! 私、ちゃんと、それ読みました……! こんなこともあろうかと、です……! 脱退用のZPは用意してますから、菫さんが渋っても、私、ちゃんと脱退できます……! 安心して下さい……! 私、ちゃんと鷲島さんのチームに入れます……!」

 

 門倉の気づき、それはチームを脱退するための条件であった。

 まず、現状の一年生において、他のチームの選手を直接引き抜くことはできない。しかし、『選手枠に余りがあるリーダー』が『どこにも所属していない選手』をチームに引き入れるのは、双方の合意があればいつでも可能であった。

 ただし、四月の試練により、チームに入っていない選手は追放となった。よって、『どこにも所属していない選手』というのは通常なら発生しない。

 

 しかし、ここで『脱退』という特殊なルールがあった。五月以降、選手は条件を満たせばチームを脱退すること可能なのだ。

 

 そして、その条件は二つのうちどちらかを満たせばよい。

 一つは、リーダーと該当選手双方の合意による平和的な脱退だ。

 もう一つは、リーダーか選手どちらかの意思のみによる脱退だ。この場合は、脱退の意志を持つ側が持たない側にZPを一定額支払う必要がある。支払額は、特殊な計算式によって決定されるが、その仕組み上、有力な選手は自分から脱退するには多額のZPを支払う必要があり、また無能な選手を強制的に脱退させる場合は少額とは言い難いZPをリーダー側が負担する必要があった。

 また、一度脱退した選手は、同じリーダーのチームに再度加入することは一年生の終わりまでは原則禁止となる。

 

 門倉は条件のうちの二つ目、ZPを使った脱退について言及した。これはある意味、盲点をついた方法であった。選手側から脱退を望む場合は、その選手が優秀でチームに貢献した人物であるほど、リーダーに対する支払い額は大きくなる。しかし、門倉は未だに獲得チームポイントが0点であり、チームに貢献していなかった。そのため、最低限のZP消費のみで、無理やり秩父チームを抜けることができるのだ。

 普段であればこんな細かく複雑なルールを門倉は読み取ったりはしない。しかし、『やはり雲川チームに入りたい』という思いがあったためか、門倉は珍しく努力し、このルールを理解していたのだ。

 

――そう、Bランクに入るために……!

 

 期待を込めた視線と向ける門倉に対して、鷹一は冷淡な視線を返した。

 

「違う。脱退条件を気にしているわけではない。そもそもお前を雲川チームに入れる気はない。諦めろ」

 

「そんなこと言って……! 本当は、私のこと気になるんですよね、ねっ……!」

 

 門倉は、さりげなく鷹一に近寄り、彼の腕を抱き寄せようした。鷹一はひらりと回避した。

 再度、鷹一の腕を狙う門倉であったが、それを岩切が制した。ここまでずっと鷹一の訓練プログラムを無言でこなしていた岩切であったが、流石に許容できないと感じたからだ。

 門倉を取り押さえつつ、岩切が口を開いた。

 

「おい、門倉、いい加減にしなよ。鷲島さんが困ってるだろ」

 

 そういって、岩切がじっと門倉を睨んだ。

 

「ちょっと、邪魔しないで下さい……! 私のBランク生活がもう少しなんですよ……!」

 

「無理だね。キミはBランクになれるような器じゃない。秩父チームでさえ、キミはまともに活躍できていないじゃないか。そんなキミがどうやって、Bランクのチームで貢献するのかな?」

 

「こ、この前の第一試合ではもうちょっとで撃破点を取れましたし、それに四月の第四試合は私が長山君を足止めしたから勝てたんですよ……! 私のおかげでCランクになれたんです……!」

 

 岩切の鋭い言葉に、門倉はやや押されたが、それでも必死に自分の貢献をアピールした。

 しかし、この『貢献』は、事実とは程遠いものであった。

 

「第一試合でキミは狙撃手相手に近距離戦で負けて、第四試合では長山相手に的になった。それだけの醜態を晒したのに、よくそこまで自分を美化して喋れるね。感心するよ。でも、この際だから断言しよう。キミ程度の選手だと間違いなく鷲島さんの足を引っ張るよ。というより、今、鷲島さんにはっきり断られてるでしょ。もう無理だから諦めなよ。それとせっかく鷲島さんが門倉のためなんかに時間を割いてプログラムを作ってくれたんだから、やった方がいいよ」

 

 呆れと軽蔑が混ざった態度を示す岩切に対して、門倉は何かを言い返そうとしたが、すぐにはっとした顔になった。

 

「……! さては、岩切さんも雲川チームの座を狙っていますね……! そんなの絶対ダメですよ! 私が最初に雲川チームを見つけたんです! 雲川チームに入るのは私です! ねっ! ねっ! 鷲島さんっ!」

 

 どこか懇願するように門倉が鷹一を見た。

 鷹一は、内心で『特殊なケース』を引いてしまった場合は、岩切を雲川チームに加入させる可能性は存在すると思いつつも、それを口には出さなかった。なお門倉をチームに入れるなどといった狂った選択肢はそもそも存在しない。

 

「今のところ……いや、違うな。何度も言うが、門倉、お前を引き抜く気はない。お前は秩父チームであって雲川チームじゃない。そしてそれは今後も変わらない。秩父は良いリーダーだ。お前のようなトラブルメーカーを引き受け、面倒を見ているくらいだからな。…………もう少し、秩父に敬意を払え。秩父がお前を切り捨てる判断をしたとしても俺は秩父と関係を断とうとは思わない。だが、お前から秩父を裏切るなら、俺はお前と関わることは今後二度とないだろう。この話はもう終わりだ。それで、訓練に参加する気はあるか?」

 

 あまりにも自分勝手な妄想を語る門倉に対する嫌気からか、鷹一は断りの言葉だけではなく、普段なら言わない言葉まで口にした。

 直後に、『言う必要のない言葉まで口にしたか』と僅かに後悔したが、同時に、門倉と友好的な関係を結ぶメリットは特にないことにも気づき、むしろ都合が良いかと考えた。

 

「う……、……」

 

 取り付く島もない鷹一の態度から、ようやく状況を察し始めた門倉は辺りを見た。岩切は呆れたように門倉を見ており、楠木と郡上は二人で戯れつつも鷹一のプログラムをこなしており、天沢はぼんやりとした空気に反して鷹一のプログラムを真剣に取り組んでいた。明星だけが、どこか心配そうに鷹一・岩切・門倉の三者の様子を窺っていたが、しかし、窺うだけで門倉に助け船を出す気配はなかった。

 

「…………、え、えっと、その、今のは、冗談~、冗談ですー! 本当は、私、菫さんのチームを抜ける気なんて無かったです……! なんていっても、私、秩父チームのエースですし、ムードメイカーですからね……! 菫さんも、私が抜けたら困っちゃうでしょうから……! あの、これは、アレです……! 鷲島さんや岩切さんを試したんです……! 私が菫さんを裏切るはずないじゃないですか……!」

 

 上ずった声で、門倉は必死に秩父との関係をアピールした。自身が完全に孤立していること、鷹一に嫌われてしまったと思ったこと、そして最悪の場合、秩父チームを追放される可能性を考えてしまったことから、門倉は必死になった。門倉は、追い風には乗るお調子者であったが(なお不器用なため上手く追い風に乗れないが)、向かい風には弱い面があった。今、門倉には逆風が吹いているように感じられていた。

 なお、これには誤解があった。逆風など吹いていなかった。ただただ、門倉がそう思っただけで、特に現状は変わっていないのだ。チームで孤立していること、エースの岩切からは呆れられていること、そして、鷹一からは問題児だと思われている事。全て元からの状態で、この問答で変わったりはしていないのだ。

 そして最大の誤解は、『秩父チームを追放されるかもしれない』という誤解であった。秩父は門倉を追放しようなどと、全く考えていなかったからだ。今の秩父の頭の中は、『頑張って麻倉さんを手伝って、少しでも借りを返さないと……!』という善良で懸命な思いだけであった。

 

 

 

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