学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
そうして、ようやく門倉というトラブルメーカーの対処を終えた鷹一は、『中断していたやるべきこと』――明星への助言をすることを思い出した。
「明星、少しいいか?」
「は、はい……なんでしょうか……?」
鷹一が問いかけると、明星はどこか不安気に答えた。
「シールドを展開する時は、もう少し落ち着こう。もしかしたら、弾丸が飛んでくるのが怖いかもしれないが、大丈夫だ。怪我をすることはない。訓練でも、試合でもな。まあ、こればかりは、本能的な恐怖もある。すぐには慣れるのは難しいだろうが少しずつ慣れていこう。目を瞑らないように、頑張ろう。ゆっくり、じっと息を整えて、弾丸をよく見るんだ。もしそれでも難しければ、最初からシールドを展開しておこう。弾丸をシールドで防ぐという感覚を身に着けるんだ」
明星へ助言するべきことは、かなり多かった。技術面でも精神面でも戦闘を苦手とする明星には、どのような訓練を課したとしても何らかの問題が発生する。
そこで鷹一は、とりあえず『身を守る』ことを優先させた。なかでも、シールドを確実に展開することを第一に目標とした。この目標達成のため、明星には、金崎に課しているシールド訓練法の簡易版を行わせていた。しかし、明星は弾丸を恐れてしまい、シールドを上手く展開できずにいた。それゆえの助言であった。
「最初から、シールドを、ですね……わ、わかりました……」
「ああ、展開するシールドは大きく、厚くしよう。自身の前に直方体の壁があるイメージで出すんだ」
「大きくて、厚く、ですか……? えっと、その、すみません、前、桜花さんに……天沢さんには、大きなシールドは出せないと言われてて……」
「それは装備が理由だ。今まで、お前の装備は軽いもので固めていた。これは天沢が少しでも明星に生き残れるように隠蔽を重視したからだ。だが、今のお前は違う。大出力シールドを装備した重戦士だ。だから、問題なく大きなシールドを展開できる。本来なら、魔力量がボトルネックになるが、お前はかなり魔力が大きい。俺や天沢より大きい。というより、秩父・天沢・雲川チームの中で最強の魔力の持ち主だ。よって、この程度のシールドなら、魔力は切れない。存分に使え」
「そ、そうなんですか……? 知らなかったです……え、えっと、展開しますね……?」
おっかなびっくり明星は大出力シールド発生器に魔力を込めた。明星の大きめのシルエット、それよりもさらに一回り大きな面を持つシールドが展開された。そして、それに合わせるように訓練装置から銃弾が発射される。
十分な貫通力を持った弾丸であったが、高魔力である明星の厚いシールドはびくともしなかった。
さらに数発の弾丸が発射されるが、それも明星の硬いシールドを破ることはできなかった。自身の展開したシールドの思わぬ成果を見て、明星は目を丸くした。
「魔力等級を考えると、当然の結果だ。それだけお前の魔力は大きい。まあ、装備の最大出力が高いというのもあるがな。だが、それを使いこなせるのは、お前のように選ばれた才能の持ち主だけだ。ただ、この装備は完璧な装備ではない。恐らく問題が起きる」
鷹一の言葉を聞いて、最初は少しだけ明るい顔になった明星であったが、言葉が進むにつれ暗くなっていった。
「問題、ですか……?」
「ああ、重量の問題だ。今、明星が装備している大出力シールド発生器はかなり重い装備だ。試合相手のレーダーにほぼ映ることになるだろう。つまり今まで以上に、居場所が露見しやすい。それも踏まえてのシールドの訓練だ。あと、もう一つ最大の問題がある。重装備は重く扱いにくい。機動力が大きく下がる。いや、恐らくだが、最初の方は、動くことすら難しいだろう。試しに少し動いてみてくれ」
「は、はい……。あっ……!」
明星は三歩も動かぬうちに転倒した。
「今まで軽い隠蔽用の装備だったから、より落差を感じるはずだ。だが、これも訓練していけば少しずつ慣れていく。シールドと同じだ。……理想として言うと、次の試合までの間に、安定したシールドの展開と、重い装備で最低限の動作の安定、できれば早歩きが試合中にできるようになろう。幸い、お前は高い魔力等級を持っている。シールドの精度や強度に関しては後回しでいい。大出力シールド発生器に魔力を十分に込めれば、それだけで大きく厚いシールドを張れるからな」
「シールドの展開と、歩けるように……私にできるでしょうか……?」
「……できる。大丈夫だ、お前は、できる。お前はそういう人間だ」
「え……? そ、それは、その……えっと、……わ、わかりました、やってみます……」
どこか逡巡しながらも、明星は鷹一の言葉を聞き入れた。
それから、少しの間、鷹一からシールドの展開方法についてコツを教わりながら訓練をしていた明星であったが、ふと気になっていた事を鷹一に問いかけた。
「あ、あの、鷲島君、聞いてもいいですか……?」
「ああ、なんだ?」
「えっと、その、魔力等級って何ですか……?」
「……ああ、そういえば、説明していなかったな。魔力等級は高魔力の階級だ。高いほど、魔力が高い。本来、そこまで意識するものではないんだが、近年、魔力がずば抜けて高い人間が増えてきた。特に、この学園、いや、この学年はそれが顕著だ。俺が見た資料によると、ここまで魔力が高い学年は滅多にないそうだ。
いや、話が逸れたな、元に戻す。高魔力は定義の仕方が様々だが、一般に俺たちのように魔力操作ができる人間の平均値、その値の四倍以上を高魔力と定義する。ただ、近年、高魔力の中でも上下があまりにも大きすぎて、もっと項目を増やす必要があった。それで考えられた概念が魔力等級だ。これまでの高魔力ラインを一等級魔力と定義する。一等級魔力の二倍から四倍までの魔力を二等級魔力、二等級魔力の二倍から四倍までを三等級、以後、四等級、五等級と上がっていく。簡略化した定義はこんな感じだ。実際はもっと厳密な定義があったり、定義の改定などの話もあるが、おおよそ、このぐらいの知識があれば十分だろう」
そこで、鷹一は一旦言葉を切った。
「俺と天沢が一等級魔力だ。一等級魔力は学年にもよくいるラインだ。挙げればキリがないが、Aランクチームは一等級以上の魔力の持ち主が多い気がするな。たとえば、高光チームは全員が一等級以上の魔力の持ち主だ。特に、釘野にいたっては、おそらく四等級レベルだな。
そして、明星、お前の魔力等級だが、恐らく二等級だ。そして二等級の中でも上位だな。俺の三倍以上はあるだろう。今挙げた高光チームにいてもおかしくはないし、他にも零チームの零や秀川あたりも、これまでの振る舞いから見て二等級魔力だろう。高魔力というのは、それだけで優位性がある。戦闘において攻防のどちらにも関係するからな。だから、明星、お前は才能がある。この面に関して言えば、お前の才能はAランクチームに比するレベルだ」
明星を評しながら鷹一は内心で他のメンバーの魔力量に関して思考した。
(天沢・秩父・雲川チームの中で明星がトップ。一等級の俺と天沢を足しても追いつかないだろう……残りのメンバーだと、楠木と岩切が平均以上の魔力で、郡上が平均程度、秩父が平均以下。そして門倉の魔力は……かなり低い。金崎以下で紫苑と良い勝負だな)
鷹一がブートキャンプの参加メンバーについて考える一方で、明星は暗い気持ちになっていた。鷹一の言葉から、苦手な生徒を思い出してしまったからだ。
そう、鷹一が今名前を挙げた高光チーム、そのリーダー高光亜輝は明星にとって忘れたい相手であった。
たまたま一時寮で同じだった生徒。高光と話をして、そして、明星は後悔した。今も、時々、彼女を思い出すと後悔する。
できれば、思い出したくない相手であった。
なぜなら、明星にとって、高光は、酸っぱいぶどうなのだから。
暗い顔になってしまった明星を見て、鷹一は誤解した。
(プレッシャーを与える言い方になってしまったか……? それに、現状では少し厳しい訓練だったかもしれないな……まあ、最悪の場合は次の試合は元の装備で出場する手もあるか)
「まあ、まずは少しずつ色々と慣れていこう。あまり難しく考えなくていい。今できることを少しずつやっていこう。次の試合までの目標も無理なら達成できなくてもいい」
気を遣う鷹一を見て、明星は、今はとにかく、訓練をするしかないと感じた。
それをすることは、尊敬するリーダーである天沢のためにもなるし、戦闘適正順位一位である鷹一に教わることは大事なことであると理解していたからだ。
そして、何より、雲川の友人として、何もできないままではいられないと思ったからだ。
※
そうして、各自が訓練を進め、鷹一が巡回し助言を続けて、時間が進んでいく中、再び秩父が帰還した。
無事、麻倉チームへの補填を終えた秩父を出迎えつつ、鷹一側も必要な事項――現状の秩父・天沢チームの戦力分析とその強化方法、及び、現在進行形で訓練している内容とその達成度、次回の試合までに予想される戦力値の上限と下限、そういった情報の報告を行った。
秩父に報告を行い、そして秩父からも麻倉チームの配給所の様子を聞き、鷹一は、訓練室を後にした。盟主たる秩父が帰還し、また必要な訓練プログラムは秩父の分も含めて一通り残したため、最低限の訓練は維持できる状態になったと判断したからだ。
訓練室から出た鷹一は、軽く軽食を済ませた後、偵察へ出た。
一度、直接、麻倉チームが行っている炊き出しの様子を確認しておきたかったからだ。
配給所に指定されたエリア――事前に、麻倉チームが学園に申請し許可を貰ったエリア、そこに近づくにつれ、食欲をそそる豚汁の匂いと、またそれに紛れて小さな異臭が鷹一の鼻を刺した。
下位の生徒の服からする異臭であった。Eランクの生徒は月に浴びることができるシャワーの回数に制限があり、また洗濯用の費用も心もとない。それゆえ、彼らの衛生レベルは中位の生徒よりも一段と劣っていた。そして、さらに酷いのがFランクであった。彼らはまともな居住地を持たず、シャワーすら浴びれず、当然洗濯などできない。ランクが決定してから、すでに10日以上が経過していた。ゆえに、彼らは周囲に異臭をまき散らしていた。
配給所では、麻倉チームの五人全員の姿があった。リーダーの麻倉と黒沢が配給を担当し、七宮が洗濯物を整理し、双葉と佐々木が雑務全般を対応していた。
鷹一は、彼らの活動の邪魔をしないように距離を取った。また普段と同様に気配を完全に消していたため、麻倉チームも、取り巻く下位の生徒も鷹一に気づくことはなかった。
そして、遠目から、忙しなく活動する麻倉チームの面々を見つつも、鷹一は、しばらくの間、観察した
見たところ、現時点では、大きな問題は起こっているようには見えなかった。少し揉めているような会話は聞こえるが、麻倉が上手く対応していた。
勿論、批判しようと思えば、色々と批判はできる状態ではあった。しかし、配給活動が初めてであることや、慈善活動の難しさ、下位の生徒の劣悪な環境と彼らの心境などを考えれば、かなり秩序が保たれていると言えた。
これも麻倉を始めとした麻倉チームの優秀さなのだろうと感じつつも、鷹一は無言で、近くにいた生徒を視線で制した。
その生徒は、気配を消しつつ配給所に近寄ろうとしていたが、鷹一の視線を受けた途端、蛇に睨まれた蛙のように動きを止めた。
鷹一は、試合に出場している全ての生徒――つまり一年生239人の顔と名前を記憶している。また、特に、秀でた長所を持つ生徒はその長所やチームでの役割、試合での動きから考えられる思考パターンの分析も行っていた。
今、鷹一が視線で動きを制した生徒のことも、鷹一はしっかりと記憶していた。Dランクでありながら、非常に高い戦闘力の持ち主であり、Bランクのエースクラス相手でも見劣りしない能力の女子生徒であった。
Dランクは中位のランクであり、麻倉チームの配給対象ではない。そのことを理解していないという可能性もあった。しかし、鷹一は、どうにも、この女子生徒の振る舞いから怪しさを感じた。まるで戦いに備えるかのようなほど良い緊張と平時とは思えぬ強い歩調、なによりポケットに隠された数発の石弾、『配給を貰う』という様子には見えなかった。また、彼女が所属するチームが二人チームであるため、ZPに余裕があるであろうという推測も、配給目的ではないという考えを強くさせた。
鷹一が、二、三、その生徒に言葉をかけると、彼女は慌てたように配給所から離れていった。
逃げる少女の背を見ながらも鷹一は思考した。
(麻倉チームの活動は、おそらく純粋な善意が元となって行われている。もしかしたら、多少の利害を考えての行いかもしれないが、しかし、麻倉の人柄を考えると、善意の割合が大きいだろう。……だが、善意の行いであっても、妨害する者は現れる。そこには様々な理由があるんだろう。麻倉チームへの妨害、困窮した下位生徒の利用、あとは、学園の秩序の低下か……? 他にもありそうだが……やはり、この学園にいると、おかしくなりそうだな)
穏やかな生活と、勉学に励む環境、あとはチームメイトが健やかに過ごせればそれで良いと鷹一は考えていた。
それは高望みかもしれないし、そうでないかもしれない。鷹一にはどちらかは分からなかったが、けれど、この学園で一か月半を過ごし、穏やかな日々を送るのは難しいのかもしれないと考え始めていた。
※
最後まで麻倉チームの面々に気付かれず配給所を後にした鷹一は、午後の授業を受け、さらに午前中に受けれなかった授業のアーカイブを確認した。
そうして、一日のやるべきタスクを片付けた鷹一は再度、訓練所へと向かった。今回の目的は秩父天沢同盟の様子を確認するわけではなかった。チームメイトの個人訓練の様子を見にいくためであった。
特に、今日、訓練をするという話はしていない。というより、雲川も金崎も鷹一から訓練メニューを受け取っているが、その進捗管理は基本的に各自に任せていた。勿論、試合に向ける重点対策や、長期的な成長を考えたチェックポイントなどもあるため、鷹一から、『この時期までに終わらせると、とても良い』などといった目安は教えられているが、鷹一は全てを徹底管理する気はなかったため、本人たちの自主性に任せていた。
だが、鷹一は、二人が訓練しているだろうという感覚があった。これは統計的な面もあるし、二人に対する理解の面もあった。金崎は当然、そして最近では意外なことに雲川も訓練に熱心であり、ほぼ毎日訓練を行っているからだ。特に午後の時間は高確率で訓練を行っていた(ちなみに、雲川は朝ぐっすり寝てしまうと彼女の午前の訓練はスキップされることがある)。
ゆえに、鷹一は訓練所入口の大型モニターに表示されている各チームの占有状態を見て、少しだけ驚いた。
(紫苑も、金崎も、今日は訓練をしていないのか……少し意外だな。特に金崎は性格的に、今日はハードな訓練をしているかと思ったが……紫苑は、まあ昨日寿司を食べ過ぎていたし、それでお腹を休めているのかもしれないな)
雲川についてはすぐ納得しつつも、金崎が訓練をしていないことへの違和感はぬぐえなかった。鷹一がここに今来た理由の八割は金崎の状態を見たかったからであった。一昨日の第一試合後の様子。彼の痛ましい様子を見て、無理な訓練をしていないか心配したのだ。勿論、昨日の寿司屋での様子を見たところ、予後は悪くないようには思えていたが、それでも鷹一は心配していた。
(まあ、悪いことではないか。金崎は努力し過ぎている面があった。こうやって休憩を取るのはむしろ良いことだろう。案外、金崎も昨日食べ過ぎたのかもな……少し気合が入っていたようにも見えたし、あり得そうだな……)
訓練の様子を見るという目的は空振りに終わったが、しかし、金崎もちゃんと休みを取っているという情報を得られた鷹一は少しだけほっとした気持ちになった。
(チーム戦だけ考えるなら、どちらにしろ、Bランクはしばらくの間安泰だろう。まあ、暫定Aランクに入った以上、次はAランク帯の戦闘になりそうだが……それも明日のマッチング次第か)
自室へと戻る途中、鷹一は、次なる試合のことを考えていた。
未来を考え、そのことへ対策をする。それはとても重要なことだ。長期的な計画を立てることは、チーム戦において、運や才能・努力と同じくらい大切なことだ。
しかし、未来のことばかり考えてはいけない。
今、現実で、足元で起こっている事。それは未来と地続きであるのだから。
どうして、二人は訓練をしていなかったのか。いや、正しくは『訓練室を雲川チームが占有していなかったのか』、鷹一がそのことに気づくのは、まだ先の話であった。