学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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五月五日の出来事

 

 ここで、時間は第一試合が始まるよりも前に遡る。

 五月五日、かのBランクマンションエントランスでの乱闘事件の少し後の時間。

 Aランク専用高級スパにて、鷲島鷹一は、飛山龍華との約束を果たしにきていた。

 そう、約束だ――友情の確認、相互の信頼を確かめるため、相互に敵意がないことを確かめるためだ。

 鷹一も飛山も互いを敵としたくはなかった、少なくとも、今はまだ。

 

 なお、約束後に、鷹一の方は件の『乱闘事件』に巻き込まれてしまったが、それでも各勢力とのパワーバランスを考慮し、鷹一は延期はしなかった。

 

 待ち合わせ後、飛山とともにAランクの特権である高級スパへと入った。

 一歩目を踏み出し施設に入った瞬間から、鷹一は気後れした。

 施設の中は、静寂感があり、また同時に、鷹一の想像していたよりも、遥かに豪華で贅を尽くした空間だったのだ。

 ひんやりと湿り気を帯びた、深い森のようなシダーウッドの香り、高い天井から降り注ぐ柔らかな間接照明の光、磨き抜かれた大理石の床、驚くほど厚手の絨毯。

 ここには、秒針を刻む音も、急ぎ足の靴音も存在しない。ただ、どこか遠くで鳴る水の滴りだけが、この巨大な聖域の静寂を際立たせていた。

 鷹一は、どこか圧倒されつつも、飛山の助けもあり、なんとか、一歩一歩、高級スパの中へと入っていくことに成功した。

 

 本日、この高級スパでの過ごし方は飛山のエスコートプランとなっている。これは単純に飛山からの誘いであったこと、そして何より鷹一が施設をまったく把握していなかったからだ。

 そして、飛山のエスコートプランとしては、貸し切りエリアにて、『色々とゆったりしたり、お話したりしよう』とのことであった。

 

 飛山が占有したエリアに向かう際、いくつかの共有エリアを通り過ぎた。

 ガラス張りの共有フィットネスエリアでは、数人の生徒が最新鋭のマシンに身を預け、無機質な駆動音だけを響かせていた。そのうちの一人、零チームの秀川は、通り過ぎる一人分の気配を感じ取り視線を向けた。彼は、まず飛山を視界に収めて、『飛山か』とだけ思い視線を切ろうとした。なお、この間、飛山が笑顔で秀川に手を振ったが、秀川はそれに応じず、視線を完全に切ろうとしたあたりで、違和感を覚えた。そして、秀川は再度飛山の方を見て、ギョッとした。鷹一を視界に収めたからだ。

 これは秀川が鷹一に対して複雑な評価を持っていたこと、鷹一が本来Bランクでありここにはいないはずの人間であること、そして何より、一人分の気配のはずであったのに、なぜか気配なく鷹一が存在したこと、これらのことから秀川は驚愕し、思わずバーベルを落としそうになった。そして、慌ててそれを防ぎ、もう一度まじまじと飛山と鷹一を見た。飛山はずっと笑顔で手を振っており、それを横目で見た鷹一もなんとなく秀川に向かって手を振った。

 秀川は何とも言えない気分になった後、再度二人から視線を切った。手を振り返すことはなかった。

 

「どっきり、大成功だね……!」

 

 そういって飛山は微笑んだ。

 

「驚かす気は無かったんだがな……」

 

「鷲島君って悪気なく相手をびっくりさせるタイプだよね。佐々木君とかと同じで」

 

「その評価は心外だな。この学園で、佐々木ほど心臓に悪い生徒はいないだろう」

 

「いえいえ~、大邪神様も負けていませんよ……っと、プールもいいね、水着も貸出してもらえるし、後で一緒に泳ぐ?」

 

 話しながら、歩みを続けた二人は、共有フィットネスエリアの隣に設置されているプールエリアを流し見た。

 広く澄んだプールは、午後の光を乱反射させ、天井にゆらゆらとした水の紋様を映し出している。水面に浮いた一人の女子生徒が、音もなく四肢を伸ばす。彼女が動くたびに、青く澄んだ水がクリスタルのように砕け、またすぐに鏡のような平穏を取り戻した。

 

「プールは止めておこう。さっきの秀川ではないが、俺がいると驚く生徒もいそうだしな」

 

「そんなことはないって言おうかと思ったけど――」

 

 そこまで言ってから、飛山はちらりとプールエリアを再び見た。

 

「――水無月さんだと確かに気にするかもね。まあ、水無月さんは私と鷲島君が一緒にいることの方を驚きそうだけど」

 

「水無月とは直接話をしたことはないが、何かあるのか?」

 

「うーん、あると言えばあるし、ないと言えばないかな。まあ、どうせ反町さんとか蓮さんとかからバレちゃうだろうから正直に言うけど、私のチームと高光さんのチームって前ちょっと揉めちゃったんだよね。それでかな。あと、水無月さんって結構お堅い感じの人だから、私と鷲島君が遊んでたら、『こらー! 公共の場でいちゃいちゃするなー!』って言って来そうなオーラがあるかな? どうしますか、鷲島君、いっそのこと、水無月さんの前でイチャイチャプールしますか? 大邪神様が望むなら、不肖、飛山龍華、高光さんチームとの好感度をかなぐり捨ててプール遊びする覚悟であります……!」

 

 飛山の口から、蓮の名前が出て、鷹一は一瞬眉を顰めそうになるが、それを堪えた。

 

「いや、やめておこう。Aランクのリーダー同士の火種になるのは避けたい。……だが、意外だな」

 

「ほむ? 意外と言いますと?」

 

 鷹一の言葉に飛山は首を傾げた。

 

「お前が高光と揉めたというのが意外だ。お前はあまり正面から敵を作ることを好まないように見えたし、高光がお前と裏からやり合えるとは思えない。いや、それよりも、対匂坂を考えると、高光チームに手数をかけたのが意外に感じたな。そんな余裕がない、とまでは言わないが、お前らしからぬ選択に思える。それとも、既に匂坂相手に勝つ算段はつけているのか?」

 

「うぉおお……渾身の一撃、飛山龍華は1000ダメージを受けた。ばたり、飛山龍華は倒された……いやいや、本当に鷲島君は鋭い所を突いてくるよね。うーん、私も本当は高光さんとは揉めたくなかったんだよね。でも、なんかちょっと相性が悪いみたいで、高光さんには嫌われてるんだよね。いや、厳密には嫌われているっていうより、疑われてるって感じかな? ちょっと言い訳になるけど、高光さんってすごく理念的な人なんだよね。極論だけど、利害ではあまり判断しないタイプなんじゃないかな? 自分の感覚とかマイルールで生きてる感じ。で、たぶん、私が高光さんのルールに反してるんだと思うんだよね」

 

「そうか、高光はそういう人物か……だが、お前ならそんな高光相手でも……いや、そうか、そもそも高光にわざわざコストかける意味がないのか。高光も大変だな」

 

 飛山の口ぶりから、彼女の高光に対する評価に気付いた鷹一は、今後の高光チームを僅かに哀れんだ。

 そして、飛山もまた鷹一の言葉から彼の言わんとしていることを察した。

 

「なんか、また鷲島君に、冷酷な経営者みたいだと言われている気がする……被害妄想に浸る飛山龍華です……、ちょっとこの話題続けるとまた鷲島君にぽこぽこ殴られそうだから、話題変えてもいい?」

 

 どこか落ち込んだような声音を作って寸劇をした後、真正面から話題を変えようとする飛山を見て、鷹一は内心で、高光チームに対する哀れみを深めた。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 そうして、二人は雑談を軽く織り交ぜながら、占有エリアへと向かうのであった。

 

 

 

 

 高級スパの華美な内装や凝った造り、高度なシステムに驚きつつも、鷹一は、広い個室へとたどり着いた。

 個室には大きな窓があり、窓の外に広がるのは、数フロア分を贅沢に貫いた、巨大な室内庭園の吹き抜けだ。熱帯の瑞々しい巨木や、霧を吹くシダ植物が、午後の柔らかな光を浴びて深呼吸を繰り返している。

 階下からは、人工の滝が岩を駆け下り、低く心地よい重低音だけが響いてくる。緑の深淵を見下ろすこの部屋は、鷹一の普段の生活とはかけ離れていて、違和感のようなものを彼に感じさせていた。

 

「なんとも、凄い部屋だな。部屋自体も質が高そうだが、真下に見える庭園は、もはや何と表現したらいいか、いったいこれを作るのにいくらかかったか、いや、どちらかというとランニングコストか。なんとも、この学園の凄まじさと、運営の性格を感じさせられるな」

 

「なんか凄いよね。私も、なんちゃってお嬢様キャラだから、高級品には気持ち慣れてる感じだったんだけど、この学園の『どどどーん』って感じの奢侈のラッシュを浴びると、自分の奢侈レベルの低さを感じさせられるよー」

 

「お嬢様なのか? 意外ではないが、意外だな」

 

「ん、それ、どっち? 意外なの? 意外じゃないの? 私、鷲島君的に、お嬢様っぽく見えそう? 扇子とか、ぱたぱたした方がいい感じ?」

 

 鷹一の不思議な表現に、飛山は首を傾げた。

 

「お前の能力の高さ、特にリーダーとしての多様な面での能力の高さを考えると、幼いころから英才教育を受けていたようにも見える。そういう意味ではお嬢様というのは意外ではない」

 

「うぉぉーー! すごい褒められてる! 嬉しいような怖いような、だね。でもでも、そんなことより、鷲島君的に、私ってお嬢様なんだ……! よし、今度から扇子持ってぱたぱた振ってお嬢様キャラアピールしようかな? あ、でも、なんか今の鷲島君の言い方って、結局『意外だ』に持ってく流れだよね。お嬢様飛山龍華は現実じゃなかった?」

 

「いや、俺も正直確信は無いが……お前の今までの言動、それと戦闘スタイルが寒門出身の人間のように見えた。特に深い根拠はないがな」

 

 ぐいぐいと喋る飛山に対して、鷹一は、確証がなかったこともあり、やや引き美味に言葉を返した。

 

「む……、……ちなみに詳しく言うとどのあたりが、お嬢様っぽくなかった? 飛山龍華貧乏ポイントを教えてください……! 頑張って改善してお嬢様になります……!」

 

「……いや、さっきも言ったが、深い根拠はないが。そうだな、たとえば、以前お前が言っていた、零がテーブルマナーに煩いという話だ。なんとなくだが、あれは本当の話のように思えた。いや、というより、飛山、お前はそんなに嘘をつかないタイプに見える。少なくとも意味のない嘘はつかないだろう。だから、なんとなくだが、零は豊かな家に生まれ、逆にお前はそこまで裕福ではない方の家に生まれたのかと思ったんだ。

 まあ、お前も裕福な家に生まれたにも関わらずテーブルマナーが悪いままだから零が煩くしているという線も考えたが……それは飛山らしくないように思えた。生まれ育った利点をわざわざ捨てるようなタイプではないだろう。勿論、本当はテーブルマナーも完璧だが、普段はあえて崩している、などという可能性もあるがな」

 

 僅かな沈黙を挟んで、飛山が口を開いた。

 

「……、……うむむ、なるほど、勉強になりました。鷲島君って他人に興味無さそうに見えるのに、他人の細かい情報を覚えてるよね。ああ、でも、まあ分析能力高い人だから、それは変なことではないか。実際、前、鷲島君が予想した、Aランク帯の話、殆どあってたからね。鷲島君の予想と違ったのは麻倉チームくらいだけど、そもそも麻倉チームのAランク残留を妨害したのって鷲島君だから、別に外れてるわけでもないんだよね」

 

 飛山が口にしたのは、四月の第三試合後の雲川チームの祝勝会、その直前で飛山と鷹一の間であった話であった。

 

「麻倉チームとの戦いは正直、投入運や状況が良かったな。俺が比較的佐々木に近い位置だったこと、麻倉チームと根崎でほぼほぼ駒交換したところ、何から何まで雲川チーム有利だった。状況が少しでも違えば、麻倉チームはAランクになる可能性は十分にあっただろうな」

 

 この鷹一の言葉は、率直な気持ちが表れていた。四月第四試合、零チームも麻倉チームも強敵であり、あの時点の雲川チームでは厳しい相手であった。引き分けに持ち込めたのは、強い幸運の結果だと鷹一は考えていた。

 

「ふむふむ、なんか謙遜というか、言い訳っぽく聞こえるね。大邪神様なら麻倉チームくらい朝飯前……!って感じもしなくもないけど、その辺り、本当のところはどうなのでしょうか……!?」

 

 一方で、飛山は鷹一の言葉に疑念があった。

 

「俺としては、本当のことを言っているつもりなんだかな。実際、麻倉チームは強い。現在のBランクのトップだが、恐らく本質的にはもっと上の順位だろう。次の第一試合で大勝してAランク入りという展開も十分にあり得る。まあマッチング次第ではあるがな」

 

「これまでのマッチングを考えると、普通に大勝しそうだよね」

 

「そうだな。これまでの傾向的に、麻倉チームは次は『勝ち』の試合になりそうだな」

 

 鷹一の何気ない表現。この表現が飛山のある記憶を刺激した。

 

「む? なんか、今の言い方、聞き覚えがあるやつだ……! もしかしてですが、鷲島君の麻倉チームの評価って、『佐々木君を倒せる人がいない試合だと大量得点を獲得し、逆にそうでない試合だと佐々木君が早期に落ちやすいから、勝ちにくく、その時はいかに最低限の得点を取るか』みたいな感じだったりする?」

 

「…………前者はほぼ同意だ、佐々木を倒せない場合は、そもそも試合にならない。勿論、チームを跨いだ連携や戦術などで攻撃を集中させ無理やり撃破するというケースもあるだろうが、現状のチーム戦のルールだと中々難しいだろう。

 後者に関しては、…………、一応同意できるな。正直、佐々木がそこまで落ちやすい駒なのか、という点に俺は疑問があるが、しかし、飛山がそう考えるのならば、それは否定しない。お前やお前のチームならば早期に佐々木を撃破できるだろう。というより、実際に四月にそれを示したからな」

 

「なんか今日は、というか最近はやけに褒められて、どきどきするね。んー、でも、そうすると次は『勝ち』の試合っていうのは、どんな感じの意味かな?」

 

 嬉しさと興味と警戒、そんな感情の色を表情に浮かべながらも、飛山がさらに鷹一に促した。

 

「単にマッチングの傾向だな。おそらく次の麻倉チームの相手はBランクチーム、そして雲川チームとは当たらない。ゆえに、佐々木を止められる相手は少ない。滝本チームのマスタングならば佐々木を止められる可能性はあるだろうが、そのくらいだろう。

 勿論、Aランク上位とのマッチングがないこともないが……その場合は相手は恐らく蓮か梶田だ。梶田チームは機動力と防御力の関係で佐々木とはやや相性が悪い。蓮チームの場合は青井と佐々木の投入運勝負になるな。対決では青井が勝つだろうが、しかし、それまでの間に麻倉チームは得点を稼げる。青井が佐々木を倒すまでの間に何点稼げるか、という試合になる気がする。よって、麻倉チームは現在のマッチング候補の殆どに強い優位性を持ち、さらにマッチング運が悪いケースであってもそこまで悲観した状況にならないように思える。

 まあ、蓮チームあたりとマッチングして、佐々木と青井が向き合ってスタートみたいな状況になれば詰むが、そこまで極端な状況にはならないだろう」

 

 鷹一の言葉を聞いて、飛山は彼が自身と同じような解析をしていることに、複雑な感情を抱いた。しかし、それは表には出さなかった。

 

「それはたぶん、今の一年生の投入運で二番目に悪い投入運だね」

 

「一番目はなんだ? 匂坂の目前で投入か?」

 

 疑問符を浮かべつつも、どこか確信を持って鷹一は言葉を返した。誰だって匂坂の前から投入など最悪だろうと思っていたからだ。

 そんな鷹一の様子を見て、飛山は内心で少しだけ笑いそうになった。

 

「ぶぶー、違います……! 一番目は鷲島君の目の前で投入スタートです。大邪神様からは逃れられないからね……! まあ、そんな投入運が悪い試合になるなんて思わないけどね。あ、ちなみに匂坂さんの前スタートは青井さんと同じくらい酷い状況です。同着二位ですね……!」

 

 現時点で、鷹一の目の前で投入などといった不運に悩まされた生徒はいなかった。そう、第一試合より前であるこの時点では。そう、第一試合が始まる前までは。

 

「青井に……いや、まあ青井はこの際は置いておくが……匂坂に比べれば、俺の目前など大したことは無さそうだがな」

 

「いえいえ、大したことです。もし、次の第一試合でそんな可哀そうな生徒がいたら、飛山龍華、同情で涙しそうです……!」

 

「面白い冗談だな」

 

 飛山の涙などあり得ないだろうと鷹一は思ったが故の言葉であった。そして、それは飛山にも伝わり、彼女は笑みを濃くした。

 

「うんうん、実は私も、そんな極端な投入にはならないって思ってるかな。そんなの運が悪すぎるよね。というか、投入よりもマッチングの方が気になるかな。正直、鷲島君のチームは次の試合はたぶんBランク帯だと思うんだけど、そこまで確信は無いんだよね。あと、普通に、Bランクで戦ったら鷲島君は馬鹿勝ちしそうだから、次はAランク帯だよね。つまり第二試合はAランクでの戦いになると思うんだけど……うーん、それがもう憂鬱なんだよね。たぶん私か匂坂さんのどっちかと当たるでしょ。コレ。まあ、ワンチャン蓮さんのチームってこともあるけど、たぶんこれ私か匂坂さんだよー、やだよー、大邪神様と戦いたくないよー、たーすーけーてー」

 

 だらんと体を弛緩させながら、飛山はふざけた声音で鷹一に助けを求めた。

 なお、求める助けの内容は『鷹一とマッチングしたくない』というものであった。

 そして、この願いと全く同じ、されど向きが正反対の願いを鷹一も抱いていた。

 

「俺も飛山とは戦いたくないな。得点を全部毟られそうだ」

 

 飛山が鷹一とのマッチングを恐れると口にするのと同じように、鷹一もまた飛山とのマッチングを嫌った。理由は、まさに今言葉にした通りであった。

 Aランク2位である飛山チームの機動戦術。それに対抗する能力を雲川チームはまだ持っていないからだ。

 もし、戦いになれば、『得点力』の差で敗れると鷹一は考えていた。『速さ』を得意分野とする鷹一であったが、しかし、『チーム単位での得点を取る速さ』において、飛山チームに後れを取っていた。

 

「ふむ、では大邪神様的には、匂坂さんと戦いたい感じですか?」

 

 飛山は、鷹一の言葉から彼の考えを分析しつつも、それは態度には出さず、一方で、別の球を投げた。

 

「いや、匂坂とはもっと戦いたくない。というより、そもそも関わりたくない」

 

「そこまで……!? なんか、苦手なのは知ってたけど、そこまでなんだ……!」

 

 鷹一のあまりにも冷たい反応に、飛山は少しだけ驚いた。

 

「匂坂は……、いや匂坂チームは強すぎる。なんだあの強さは」

 

 Aランク1位に対する評価としては適切であった鷹一の言葉であったが、しかし、もし、彼に敗れた生徒たちが、今ここにいれば、次のように答えただろう――『お前が言うな』と。

 そして、飛山は彼らの期待に応えた。

 

「それ、大邪神様が言うのは凄いブーメランだよ」

 

「そんなことはない。俺は匂坂に比べればまだまだ常識の範囲内だ」

 

 淡々と鷹一が答えた。

 

「でも、考え方は少し匂坂さんと似てるよね~」

 

「そんなことはない。俺は匂坂に比べればまだまだ常識の範囲内だ」

 

 一つ前の言葉とまったく同じトーン、同じ声音で鷹一が繰り返した。

 

「一言一句同じ言葉を言った……! では、ここでネタバレします。さっきの麻倉チーム予想ですが、あれ鷲島君も結構納得してたよね。あれは、私のものではありません……!」

 

「そうか、誰の予想なんだ?」

 

 嫌な予感がしながらも鷹一は、飛山に言葉を促した。

 

「じ、じ、じ、実は、匂坂さんの言葉です……! つまり、鷲島君と匂坂さんが麻倉チームに向ける考え方は結構似ています……! やっぱり、強すぎると考え方も似るんでしょうか……!?」

 

「……そんなことは、ない。俺は、匂坂に比べれば、……まだまだ常識の範囲内だ」

 

 鷹一は再度同じ言葉を作ったが、全く同じような調子で話すことができなかった。

 

「さっきより言葉が詰まってる……!? これは鷲島君に1000ダメージ与えてしまったでしょうか!? 飛山龍華、ここにきて、ついに反撃成功ですか……!?」

 

「ああ、そうだな。1000で済めばいいんだが……」

 

 少し落ち込んだような様子の鷹一を見て、飛山は冗談を言っているのか本気で言っているのか分からなかった。

 

「1000は大ダメージだよ……! 私ならダウンしてるよ……! とっとっと、なんか思ったより鷲島君が深刻そうなので、正直に言います。鷲島君と匂坂さんはそんなに似てないと思います。いや、まあ、無茶苦茶強い上に、頭が良いし解析能力が高い所とかは似てると思うけど、考え方、いや、感じ方かな? その辺は違うよね。というか、もっと言うと、野心とか、性格とかは結構違う気がする。匂坂さんは、こう、なんというか、覇王……! って感じだけど、鷲島君は、案外穏やかなところがあるよね。つよつよなのに」

 

「そうだな。匂坂と俺はだいぶ違う人間だと俺も思っている。飛山もそう認識していたようで何よりだ」

 

「なんか、思ったより強く頷かれている……! そんなに、苦手だったんだ……ふーむ、ふーむ、なるほど? なるほど? というか、それで反町さんと蓮さんなのかな、てっきり可愛い女の子が好きなのかと思っちゃったけど、普通に戦略的に準備してる感じなんだね。虎視眈々と、匂坂さんを倒す感じ? あれ、というか、さっき私に『対匂坂さん準備できてるー?』っていう質問は、『みんなで匂坂さんリンチしようぜ』って提案だったりする感じだったり?」

 

 飛山は、どこか探るように鷹一を見た。

 

「…………いや、そんなつもりはない。反町、というか梶田チームは、単に向こうから話があって、だいぶこちらに配慮したものであったから受けただけだ」

 

 鷹一は少しだけ返答に時間がかかった。

 

「蓮さんは?」

 

「お前はやけに蓮の名前を出すな。蓮とは何か関係があるのか?」

 

 鷹一は質問に直接答えなかった。

 

 





★時系列について
第一試合前の話で、飛山と高級スパで遊ぶ話です。
タイミング的には「超人たちの戦い方」の直後、「彩り豊かな策略の華」の前になります。
おそらく全3話です。

この振り返り編が終われば、時間は戻り、五月第二試合準備編になります。
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