学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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互いに友情を示す

 質問には直接答えず、それでいて質問を返してきた鷹一に対して、飛山は内心で思考を深めた。しかしそれは表には出さず、どこかふざけた調子で言葉を紡ぐ。

 

「む、ガードが堅い……! 蓮さんの話になるといつもガードが堅くなるのが正直ちょっと気になるんだよね。なんかこう、ぼんやりと、ですが、最近よく怖い妄想をしちゃうというか、なんというか」

 

「どんな妄想だ?」

 

 飛山の続きの言葉を促すように鷹一が問いかけた。

 

「鷲島君と蓮さんが掌の上で私と匂坂さんを踊らせて、消耗したところを殴りこんでくるんじゃないかという恐怖があります……! これをやられると、なんか戦略の根本がひっくり返りそうでドキドキしています。 ビビリ飛山龍華です……!」

 

「そんなことは欠片も考えていない、と言っても、あまり信じてもらえそうにないな」

 

 冷めた視線と共に鷹一は淡々と言葉を返した。

 

「うーん、まあ、なんとなく鷲島君はそんなことしないだろうなーって霊感があります……! いや、霊感というより、期待とか、願いかな? そうであったら嬉しいなーみたいな。まあ、そこまで鷲蓮ラインが太いとは考えてないんだけど……でも可能性は潰しておきたいんだよね。特に危険な可能性は。鷲島君もそうじゃない? 私と匂坂さんが実は裏で組んで、あとで雲川さんのチームに『おらおらー』ってやってきたら、嫌だなーって思うでしょ?」

 

「なるほど、とても理解できる。確かにそんな展開は避けたいが……お前と匂坂だと……ああ、いや、そうか、そう見えるのか」

 

 鷹一は、匂坂と飛山の秘密同盟の難しさを言及しようとして、途中であることに気づき、言葉を止めた。

 それは鷹一自身の立ち位置だ。これまで、鷹一はできるだけ敵は作らず、どの陣営ともある程度の距離を保とうとしていた。特に、Aランクに対してはそれを意識していた。しかし、それは逆に言うならば、鷹一は、現状、どこと秘密同盟を組んでいたとしてもおかしくはないのだ。特に外側から鷹一を見ればそう見えてしまうのだ。

 僅かに考えてから、鷹一は再度言葉を紡いだ。

 

「ただ、そうだな……俺はそもそも戦う気は無い。匂坂とも、お前ともな。ついでに言うならば零や蓮ともな。覇権を握るためにお前や匂坂といった猛者たちと戦うのはリターンに対してリスクが大きすぎる。前にも言ったと思うが、Bランクの維持さえできれば十分だ。お前たちがBランクに落ちてくれば自然と席の奪い合いをすることになるだろうが、お前たちが落ちて来るとは到底思えないな」

 

 鷹一は考えていたことを素直に伝えた。

 これは本来であれば『しなくてもよい情報開示』だ。場合によっては『しない方が良い情報開示』と判断できる場面かもしれない。

 しかし、鷹一は、この情報を開示することを選んだ。元々、飛山相手にはBランクで十分と伝えていたこと、また鷹一の行動原理が飛山にはほぼほぼ読まれているという予想があったこと、そして、現状飛山との関係は『可能な範囲で』友好でありたいという考えから、鷹一はこの開示を行った。

 

「……鷲島君のその言葉は基本的に信じたいんだけど、やっぱり『そこ』がポイントなんだよね。鷲島君が覇権戦争に興味がないのは分かったし、たぶん本当なんだろうけど、これが嘘だった場合、結構取り返しがつかなくなっちゃうんだよねー。まだまだ私たち一か月の仲だし、そういう意味ではまだ互いを完全に理解したとは言えなくて、そこが不安なんだよね。たぶん鷲島君は大丈夫なんだと思うんだけど、この『たぶん』が間違ってると非常に悲劇かなーと思う飛山龍華です。

 あとあと、もう一つのポイントとしてはさ、鷲島君がスーパー平和主義の超良い人だったとしてさ、それでもそれは梶田さんと蓮さんの野心を留める理由にはならないんだよね。梶田さんは普通にAランク上位目指してるだろうし、蓮さんも、まあ、そんな感じじゃん? この二人が『鷲島君を利用してやるー、くらえ! 鷲島爆弾……!』とかやってきたら、困っちゃうかなーって思っています」

 

「言いたいことは理解できる。俺の信頼度に関しては、正直、飛山から見えて信じきれないのは当然だろう。そこは、もう、これまでの行動と今後の俺の行動で、そう思ってもらうしかないな。梶田と蓮の野心を危惧する気持ちも分かる。だが、これは俺の問題ではなく、梶田と蓮、それとお前と零の間の問題ではないか? 俺としては、俺の判断で動ける範囲においてAランクの生徒に何か仕掛けるつもりはない。チーム外からどのように願われたとしてもな」

 

 鷹一の答えを聞いて、飛山は内心で『鷹一が蓮の野心を否定しなかった』ことを記憶したが、それは一切表情には出さなかった。

 

「む、それはそうだけど……んー、その言い方からすると、梶田さんチームの妨害依頼は受けないってこと? 梶田さんとか反町さんはそういうお願いを鷲島君にするんじゃないかな? 私とか匂坂さんチームはターゲットじゃないの?」

 

 飛山のこの指摘は、いわゆる、『キングメーカー問題』だ。

 雲川チームは現状、Bランク12位。Aランクとマッチングする可能性があり、また鷹一やチームの能力次第ではさらに順位を上げる可能性もある。そうなれば、Aランクのチームとのマッチング率も上昇するだろう。そして、現状Aランク3位の梶田チームより上のチームである匂坂・飛山チームとマッチングした際、鷹一は彼女たちの得点機会を減らすことが可能なのだ。高い機動力と撃破能力を持つ鷹一が、雲川チームの勝利を度外視し、キング候補のチーム所属の生徒を集中攻撃することで、彼女たちの撃破点および任務点の獲得可能性を減らす。そうすることで、相対的に梶田チームが順位争いで優位になるのだ。

 鷹一は少しの間悩んだ。一歩踏み出すべきか、ここで留まるべきか。

 悩んだ末に、鷹一は決断した。踏み出す決断を。

 

「……、…………、そうだな、俺を信じろと言った手前、ここは言っておくべきところか。正直に言うと、梶田からそのようにしてほしいという話はあった。

 だが、俺はその話を受けなかった。理由は危険だからだ。ずっと言っていることだが、俺はお前とも匂坂とも敵対したくない。いや、匂坂に関して言えば、そもそも関わりたくない。俺があまりにも露骨にチームの勝利を無視してまで行動すれば、当然それはお前たちにも俺の行動の真意が露見する。勿論、そんな状況になれば、梶田が俺を動かしたことも伝わるだろうが、しかし実行したのは俺だ。俺に対して恨みを募らせる可能性もあるだろう。俺は、梶田が不機嫌になるリスクと、お前たちのような類稀なるリーダーに恨まれるリスクを天秤にかけた結果、梶田の不機嫌を甘んじて受け入れることにした。

 勿論、試合で戦うことになった場合は、雲川チームの勝利のために力を尽くすだろうし、それが結果的に、飛山チームや匂坂チームの生徒の早期脱落を誘発することはあるだろうが、俺として、故意に梶田チームのために行動してそういったことはしない。俺はできればAランクの争いには関わりたくないと思っている。関わるとしても、チーム戦でのみの関わりにしたいと思っている」

 

 鷹一は元々、このキングメーカー問題に干渉することを策の一つとして考えていた。

 特に五月試練でAランクと同盟を結ぶ場合は、これを交渉材料にすることを意識していた。

 

 しかし二つの理由から、この策は破棄することになった。

 

 一つ目の理由は、まず梶田チームとの同盟において、強く頼まれなかった点だ。梶田チームは、鷹一を非常に高く評価しており、同盟にあたって大きく譲歩したため、鷹一にキングメーカー問題への強制的な介入を要求しなかったのだ。厳密には梶田だけは鷹一の介入を望んだが、実質リーダーの種村は鷹一を味方につけた時点で満足し、参謀役の反町はそもそもチーム戦よりも鷹一に興味があり、残りの二人は発言力で劣っていた。

 

 二つ目の理由は、匂坂キッカという怪物の存在だ。元々、この怪物は存在していた。しかし、日が経つごとに危険度が増し、ついには傘下の生徒が暴力事件まで引き起こした。匂坂との敵対関係が進みつつある中で、Aランク帯でこれ以上敵を作ることを鷹一は避けたかった。最善は匂坂と関わらないことであった。しかし、もし匂坂と完全に敵対するのならば、匂坂との戦いにのみ集中すべきであり、他の敵を同時に作りたくはなかったのだ。特にAランクという厄介な敵は避けたかった。

 

 なお、この策の放棄には少しだけ問題があった。それは順位表の非共有だ。梶田が『鷲島の背信行為だ、許さん』とへそを曲げたため、梶田チームが入手した順位表の情報提供は凍結となった。

 これは特にメリットの無い行為であり、むしろ鷹一が触れられる情報が制限されるため、同盟にとってデメリットとなる行為であった。種村と反町が梶田の機嫌を直そうと努力したものの、梶田の怒りが大きく、また鷹一自身も梶田の怒りには納得があったため、順位表の情報提供は諦めることとなった。

 勿論、鷹一にとって、順位表の価値が下がっていたこともあった。鷹一は、四月の戦闘データの殆ど全てを個人的に集めており、またそれらの解析を進めていたためだ。ある程度の順位の予想は既についていたため、『代替可能な情報』の優先度は低かった。

 

 この情報の開示は鷹一にとっては踏み出した一歩であった。

 場合によっては弱みになるかもしれない。しかし、鷹一は踏み出した。

 

 それは、飛山龍華は匂坂とは別の意味で危険なリーダーであり、同時に鷹一を惹きつけるほどに優秀なリーダーだからだ。

 総合的な能力の高さ、チーム戦での強さ、何より、特定条件下では匂坂チームとも渡り合えるという強さ。このリーダーと敵対関係になることは、鷹一にとっても避けたい展開であった。そして『ある程度』友好的でありたいリーダーであった。しかし、同時に、近づきすぎるのも現状では良くない選択だと鷹一は考えていた。バランスが大事なのだ。

 そして、荒れ狂う匂坂チームの脅威。これが鷹一の決断を後押しした。天秤が匂坂に傾いている。ならば、飛山の側に錘を乗せる必要があった。

 

 この鷹一の決断は、飛山に対して効果的であった。

 純粋な驚きが抑えられず飛山はそれが表情に出てしまい、慌てたようにそれを取り繕って、いつものような明るい態度を故意に表に出そうとした。しかし、僅かに動揺が足を引っ張った。

 

「うぉ……乞食精神でクレクレやったら、凄い秘密情報を教えてもらっちゃった……どうしよう……? これは見返り期待されてますか……?」

 

「見返りを要求するつもりはなかったが……もし、今の俺の情報開示を評価してくれるなら、その評価を俺への信用に注いでくれると助かる。前にも言ったが、お前に敵として処理されないかは、そこそこ不安なんだ。できれば、友好的でありたい」

 

「それはむしろ私の方からお願いしたいことなんだけどね。うーん、たぶんこれアレだよね。ハリネズミじゃないけど、お互い仲良くなりたいけど、なんかアレなんだよね、私たち」

 

 どこか鷹一の顔色を窺うように飛山が悩まし気に言葉を作った。

 

「そうだといいと俺は思っているが……」

 

「んー、ならさ、もっと仲良くなろうよ。そして、ゆくゆくは友達になろう……! お互い好感度上げてさ、うんうん、どうかな?」

 

 飛山の提案、それ自体には鷹一は異存はなかった。しかし、気になる点があった。

 

「……それは構わないが……だが、そうだな……揚げ足取りになるが、今までは友達ではなかったんだな。俺の記憶では飛山の好感度は100になっていた気がしたが、100だと友人足りえないか?」

 

「ギクッ! そ、そ、そ、そんなことはありません……! 今までも友人です……! ただ、まあその、これからはより友人であろう、ということです。お互いに友人であることを示しましょう……!」

 

「そうだな。互いに友人でありたいな。ちなみにだが、互いに友人と示す場合は、どういった条件が必要だ?」

 

 飛山が向ける好感度など殆どないと考えていた鷹一は、条件の確認を行った。

 

「お互い友人と思う……! と言いたいところですが、これ、たぶん条件決めないと、お互いアレなやつだよね。うーん、とりあえず、今までもやってたけど、定期的な交流と情報交換、試練とかでは可能な範囲で互いに協力とか、かな? あとは、今後も、今日みたいに、一緒に遊んで、『友情』を確認しよう……!」

 

「定期的な交流と情報交換、可能な範囲での協力はこれまでもしていたことだし、それは問題ない。だが、一緒に遊ぶのは、どうなんだ……?」

 

 鷹一は内心で、『そんなことをしても意味はないだろう』と思った。

 

「そこが一番、友達として大事なポイントです……! 友情……! 友情……! お互いに好感度を上げていきましょう……! あ、そういえば、好感度といえば、今日、来てくれたのは凄く嬉しかったよー。好感度めきめき上がりました。正直、来てくれないかもなーって思っていたので、『おお!』と思いました、まる」

 

 友情をアピールしつつも、飛山は思い出したかのように、鷹一に喜びを伝えた。

 一方で、鷹一は、飛山の言葉に心当たりがなく、疑問符を浮かべた。

 

「約束していたし、当然来るが……」

 

「いや、谷崎さんとかのことで忙しいのかなーって思ってたから。来ないかもなーって」

 

 飛山の何気ない言葉。それが鷹一を一瞬だけ詰まらせた。

 

(谷崎が暴れてからまだ少ししか経っていない。しかも、これは概略だけでなく詳細まで知っているな。……速すぎるな)

 

 鷹一にとって、谷崎の起こした事件『Bランクマンションエントランス事件』は衝撃的な出来事であった。あまりに衝撃的で、鷹一は、脳内の関わりたくないリストに、谷崎ミホを新たに書き加えたほどだ。しかし、あの騒動に無関係であった飛山がこうも素早く、そして正確な情報を持っていることに僅かな恐怖と不安を覚えた。

 

「耳が早いな。……いや目がいいのか? どちらにしろお前は相変わらずだな。……確かに谷崎には少し困った。だが、お前との先約があったし、日時も配慮してもらっていたからな」

 

「うぉーー! 友情の音~! 大邪神様に結構優先してもらえている……! これはありますか!? 飛山龍華、ワンチャンありますか……! 源内君を倒して、大邪神様人気投票ナンバーワンになれそうですか……!?」

 

 飛山が期待を込めた瞳で鷹一を見た。鷹一も冷めた瞳で飛山を見た。

 視線が交錯した。

 

「いや、悪いがまだ源内の方が上だな。源内の方が友情を感じやすい」

 

「うげー、梯子を登ったら外されたー」

 

「だが、そうだな……さっきお前が言った通り、俺もお前も、もう少し、互いに友人であることを示すことは必要なのかもしれないな。互いの安全保障のためにもな……」

 

 鷹一の言葉、これは先ほど飛山が提案した、『今後も定期的に【友情】を表し、確認すること』への言及であった。鷹一は、この意味ない行為は本来望ましくないと思っていた。しかし、Aランクの勢力図、そして何より匂坂と谷崎という迫る猛威が、鷹一にさらなる決断をさせた。

 

(先ほどの谷崎の話を出してきたのも、恐らくそういうことだろう。既に匂坂チームとの関係が厳しい以上、学園の戦力バランスという面以外でも、こちらとしてはやや飛山に寄る形にする方が良い。完全に協力関係を結ぶことは難しいが、しかし、これまでよりは飛山に寄る形となる。勿論、同盟を考えると、梶田チームとの関係を優先することになるが、しかし飛山とも簡単に切れる関係になるべきではない。少なくとも、今はまだ、な)

 

 冷たい目で飛山を見ながらも、鷹一は、彼女と彼女のチーム、そしてAランク全体の勢力図について考えを巡らした。

 そして、鷹一の冷たい視線を浴びながらも、飛山は、弾むような笑みを作った。

 

「うぉーー! 鷲島君がデレた! やったやったやったー! デレた! デレた! わーい、わーい、これからも仲良くしようねー」

 

「そうだな。ほどほどに友情を確認していこう」

 

 一方で、鷹一は冷たい表情のまま応えた。

 

「ほどほど!? もう少し頻度があってもいいよ……!」

 

「あまりいきなりだと、驚く生徒もいるだろう」

 

「あー、まあ、それはそうかも……? んー、あー、でも、私は別にこれまで通りこっそり会う感じで全然大丈夫だし、まあ気づく人は気づくだろうけど、公認彼女じゃなくて、こっそり彼女で大丈夫だよ……! 通い妻みたいな?」

 

「彼女彼氏の関係というのは実体と大きく乖離する。とりあえず、まずは友人となれるのが理想ではあるな」

 

 淡々とした態度を崩さない鷹一を見て、飛山は口元に弧を描いた。

 

「やっぱり蓮さんと付き合ってるの?」

 

「お前は蓮の話を定期的にしないと気が済まないのか?」

 

 飛山から向けられる疑惑。何度も向けられるうちに慣れたこともあり、今回は鷹一は、間を空けることなく言葉を返した。

 

「蓮さんの話になるとガードが堅い……!」

 

「俺と蓮は別に特別な関係ではない。Aランクのリーダーと、Bランクのただの一生徒の関係だ。お前と変わらない、と言いたいが、接する時間や関係、互いの意識を考えると、お前と俺の方が親しい可能性があるな。それに今後の友情確認を定期的に行うならば、まず間違いなく、お前は俺と一番親しいリーダーになるだろう」

 

「うぉ……ついに鷲島君の一番か……! なんかどきどきするね……! 緊張してきた……あ、ちなみに、だけど、さっき、私のチームは狙い撃ちしないって言ったじゃん。それは嬉しいんだけどさ、……匂坂さんチームを狙う気は無いっていうのも本当? 今、確か、谷崎さんと揉めてるんだよね。あと反町さんと匂坂さんで鷲島君を同時に引っ張りっこしたって噂も聞いたよ。これもう匂坂さんとの関係はアウトだと思うんだけど、鷲島君的には、まだ匂坂さんとのゴングは鳴らさない感じ? それともまだこの情報は秘密? ちょっと乞食すぎる? 乞食飛山龍華です……!」

 

 望ましい答えは得られない事を理解しつつも、飛山が鷹一に問いかけた。

 鷹一は返答に少し悩んだ。

 

「…………ああ、匂坂チームも狙わない。というより、さっきも言ったが、俺は匂坂とは関わりたくない。あれは人間じゃない。関われば碌なことにならない…………そうだな、ここから先の言葉は、『友人』として、『友情』を示すためにも言うが、お前も匂坂とはあまり関わらない方がいい。チーム戦ならお前にも勝ち目はあるだろうし、特に他のチームも含めた点取り合戦なら、Aランク1位になることも可能だろう。だが、俺ならやらない。匂坂は危険だ。あいつは何を考えているか分からないし、何をするかも分からない。関わらない方がいい」

 

 これは鷹一なりに飛山の身を案じた言葉であった。

 鷹一の真摯な言葉から、彼の気遣いを読み取った飛山は、少し真面目な顔を作った。

 

「むむ……鷲島君がそこまで言うなら、できる限り、その助言には従いたいけど……うーん、これってアレだよね、ぶっちゃけると、匂坂さんが暴力してくるって話だよね。確かに、匂坂チーム、というか谷崎さんはそういうことするイメージがあるよね。でも、するかな? 匂坂さんって直接暴力は振るわないじゃん。ついでに言うと、山見さんも石河さんもしない。あそこって谷崎さんだけ急に暴れだすっていうチームだと思うけど、谷崎さんが暴れるのは結構法則性があるし、たぶん適度に関わってる限りにおいては、安全というか、逆に私は、むしろ適度に関わってる方が安全な気がする」

 

「関わる方が安全……なぜだ……?」

 

 飛山の見解が自身と異なることに疑問を感じつつも鷹一はそれを解き明かすために、理由を促した。

 

「んー、これは人読みというかメタ読みというか、ちょっと適当な考えも入るんだけど……谷崎さんが『情』の人、だからかな? 谷崎さんは親しい人は殴らないイメージがあるかな。というか、ある程度定期的に挨拶する仲になると、急に殴らなくなるイメージがある。何回か話したけど、話す度に、話す難易度が下がってる気がする」

 

「お前がそう言うなら、谷崎はそうなんだろう。だが、匂坂はどうだ? 俺は匂坂が直接暴力を振るわないというのに疑問がある。匂坂は状況が整えば暴力など全く気にしない人間だと、俺は思っている」

 

 谷崎についての間接的な知識ばかりである鷹一は、自身の考えよりも飛山の考えを優先した。しかし、一方で、匂坂に関しては、直接目に触れていることもあり、鷹一は意見を変えなかった。

 

「ん~、それは、……どうなんだろう? そういうオーラ出してるみたいな話は確かに聞くけど、でもそうかな? もしそうなら、たぶん、私はもう数十回はボコボコにされてると思うけど、まだ一回もボコボコにされてないよ」

 

「それはお前が条件を…………いや、そうか、たぶんお前だと条件を満たさないんだろう。飛山チームと零チームに限れば、特に問題が無いのか……いや、だが、本当にそうなのか? 『たまたま』条件が満たされなかっただけの可能性がないか?」

 

「まあ、その可能性はあるけど……うーん、私が2位でいる間は大丈夫だと思うし、1位になっても大丈夫だと思うけどなー。まあAランクから落ちると危ないかもだけど、でも匂坂さんは意外と大丈夫なんじゃないかな?」

 

 やや推測の度合が大きい飛山の意見を聞いて、鷹一は、彼女が何を根拠としているか察した。

 

「それは、匂坂の性格の予想を踏まえての考えか?」

 

「うん、そうなるかな。何て言うか、たぶん匂坂さんって結構負けず嫌いでしょ。試合で負けたからって暴力でそれを覆すってことはしないんじゃないかな。試合で負けたからには必ず試合で勝つってイメージがあるかな。まあこっちから暴力のカードを切ったら普通に反撃して、何ならそのまま病院送りにしてきそうだけど、こっちから手を出さなければ、そこまで危険でもないんじゃないかな?」

 

「それは俺には楽観的な予想に見えるが……」

 

 不安、そして少しの心配を胸中に秘め、鷹一は冷たい視線で飛山を見た。

 

「うーん、実は話してて気づいちゃったんだけど、言っていい?」

 

「何だ?」

 

「これ言うと、鷲島君に大ダメージかもだけど……『友人』なので、言っちゃいます……! 匂坂さんって、割と本気で鷲島君のことが好きなんじゃない? だから、たぶん鷲島君に対する態度が他の人に対するものと違うんじゃないかな? 好きな子にちょっかいかけちゃうみたいな……! それが、鷲島君にはよくわからなくて、危険に見えるんじゃない?」

 

 飛山の言葉を聞いて、鷹一は固まった。

 それから、彼が復帰するのに数秒以上の時間を要した。

 

「……………………恐ろしい仮定だな」

 

 なんとか現実世界に復帰した鷹一は必死に言葉を作った。

 

「凄い大ダメージだったみたいだ……! 匂坂さん、あんな美少女なのに……!?」

 

「容姿がいくら優れているとしても、恐怖を感じない理由にも、脅威度を下げる理由にもならないな」

 

 匂坂についての事を口にしながらも、鷹一は内心であることに気付き苦笑した。それは、今の言葉が目の間にいる少女にも当てはまるということだ。

 

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