学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
その後も、鷹一は、飛山との交流――主に情報交換や学園環境への考察など、互いの考察を交わしつつ、高級スパでのゆったりとした時間を過ごした。
そうして、幾分か時間が過ぎた後、飛山が悪戯気な笑みを浮かべて、鷹一に話しかけた。
「そういえば、鷲島君や。最近はお疲れじゃないかね?」
「……いや、そうでもないが」
「むむ……四月のチーム運営とかで疲れたりしてないかなーって思ってたけど、そうでもないか……」
鷹一の答えに、飛山は少し困ったような表情を浮かべた。
「まあ、同盟の件や谷崎の件もあった。今後の試練や学園環境なども考えると気苦労はあるが、肉体の疲労はそれほど無いだろう。何かあるのか?」
「むー。まあ、でもいいか。疲れてなくても、やるだけで結構良かったりするしね……! うん……! よし……! 実は、今日のメインディッシュがこれからあります! じ、じ、じ、実は、セラピストさんを呼んでいます……! マッサージ師って言った方がいいかな? 凄く腕が良い人だし、何より色々お話してると面白い人です……! 今日は、その人の予約を鷲島君で埋めておきました……! もうすぐ来ます……!」
「なるほど? あまりそういった経験は無いが……」
飛山の思わぬ申し出に鷹一は、珍しく頭に疑問符を作った。
「ちなみに、今日の午前中、雲川さんが眠っちゃったのも、セラピストさんのおかげだったりします……! ちなみに、私も、初めて施術されたとき、ぐーぐー寝ました……! 鷲島君も寝ちゃって大丈夫です……! ちゃんと起こします……!」
「紫苑……雲川を寝かした相手か……なるほど……」
間接的に今日の谷崎の暴力事件の切っ掛けとなったと言えるかもしれない人物だと鷹一が考えた。しかし、その人物を鷹一は責める気は無かった。むしろ、チームメイトが迷惑をかけてないか気になった。
「あ、ごめん、ちょっと分かりにくい表現使った。別のセラピストです……! 雲川さんの施術をしたのは、サンさんで、今から来るのはナナさんです。別の人です……! ちなみに飛山龍華を爆睡させたのは今から来るナナさんです……! 鷲島君も爆睡して、飛山龍華の仲間になって下さい……!」
「なるほど、そのセラピストというのは複数人いるのか。お前の言い方からすると指名できるのか?」
鷹一は、なんとなく気になった情報を拾い飛山に問いかけた。
「できます……! ただし、早い者勝ちです。サンさんは予約多数で無理でした……! サンさんは人気があり過ぎて、予約がもう二か月待ちとかになっています。というか、某星川さんが無限に予約を入れているので、たぶん新規予約が取れません……! 星川さんのサンさん独占を許すな……! あ、でもでもご安心ください……! ナナさんも凄くマッサージ上手いです……! サンさんと同じか、もしかしたら、サンさんより上手いかもしれません……!」
どこかふざけたように、それでいて真剣でもあるような声音で飛山が次々と言葉を並べた。
「別にどちらでも構わないが……というより、俺は人にマッサージされた経験が恐らくない。そういう意味では、誰が相手でも緊張するな。ちなみにキャンセルは可能か……?」
「キャンセルすると、私が悲しくなるので、ダメです……! いや、まあ、鷲島君が本当に嫌なら全然キャンセルでいいんだけど……うーん、でも試しに一回だけダメかな? たぶん鷲島君はナナさんと会うと良いと思うよ……!」
飛山の言い回しに鷹一はひっかかりを覚えた。
「マッサージがとても上手いから、という理由以外に何かあるのか?」
「うーん、有るような無いような……でも、あれ、これ、あれですね。あれです。『友情』を示すってやつですね……! 飛山龍華なりに、『友情』アピールです……! マッサージが上手いセラピストさんを紹介するという『友情』アピールです……! 鷲島君が本当に嫌なら泣く泣く諦めます。でも、できれば受けてください……! あの、さきっちょだけ、さきっちょだけだから……!」
「その言い方は、最後まで終わらなそうだが……まあ、別に俺もそこまで嫌なわけではない。これも『友情』の一環なら受けよう」
飛山の申し出――これ自体は鷹一としてはどちらでも良かった。しかし、何かひっかかりを覚えたこと、また飛山が『友情』を持ち出したこともあり、受ける方へと考えが傾いた。
「うぉ! 『友情』アピール凄い! 何でも『友情』って言ったら、頷いてもらえそう……!」
「ほどほどにしてくれると助かる」
「了解であります……! お! 来た!」
飛山が頷くのと同時に、部屋にノックの音が響いた。
許可を得ると、一人の少女が部屋へと入った。
鷹一はその少女を見た時、不思議な違和感を覚えた。
(なんだ……? 年は同じくらいか……? 学園で働いている人物ならもう少し年上かと思ったが……若く見えるだけで年上なのか……?)
鷹一が思考する一方で、飛山は笑みで少女を迎えた。
「ナナさん、今日もありがとうー、と、今日もよろしくです……! で、ここにいる殺伐系と見せかけて、じつは結構ゆったり系の男子が鷲島君です……! 鷲島君、こちらが、今日のセラピストのナナさんです……!」
「ご紹介に与りました、『A-7』でございます。鷲島様、本日はよろしくお願いいたします」
少女は、胸につけられた『A-7』と書かれた名札がしっかりと鷹一に見えるように姿勢を正した後、深々と頭を下げた。
「あ、ああ……よろしく頼む……」
やや気圧された鷹一は、何とか言葉を作りつつも、目の前の少女について考察を続けた。
(不思議だ……ゆったりとして、包み込むような雰囲気。あえて言うなら秩父に近いか……? それに、声音や態度から少し緊張しているように見える。俺の容姿や雰囲気が悪いというのもあるだろう。向こうが心配になる気持ちは分かる。だが、なぜだ……? なぜ俺まで気圧される……?)
そう、これは珍しいことであった。
戦闘適正順位一位。怪物、鷲島鷹一。そんな彼が今、気圧されているのだ。目の前の少女に。しかも匂坂とは違い、魔力の圧もなければ、淀んだ空気もない。むしろ、穏やかで包み込むような、他者を支えるような優しさを目の前の少女から感じる。
そんな鷹一の様子を飛山はちらちらと見て、意味深に笑うと、
「では、あとはお若い二人で……! 施術が終わるまで、ちょっと別のことしてきます……!」
などと言って、部屋をあとにした。
残された二人。
最初に動いたのはセラピストの少女であった。
「……、……それでは、鷲島様。本日のカウンセリングを行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
一拍置いて、鋭く呼吸を挟み、強い意志を胸に宿して、少女が鷹一に話しかけた。
鷹一は咄嗟に了承しそうになるが、寸でのところでそれを抑えた。
「……すまない。ちょっと待ってくれ。先ほど、飛山がナナと呼んでいたが、それは名前か? できれば、苗字を聞きたいが……」
「名前でも苗字でもありません。学園では、私は、この名札にある通り、『A-7』です。飛山様はナナと呼んでくださいますが、呼び方は、皆様の自由でございます」
自身の名札に軽く触れながら、少女が鷹一の問いかけに答えた。
「そうか……苗字を聞いてもいいか?」
「それは……申し訳ございません。鷲島様。学園の禁止事項に触れますので……」
温和で控え目な態度ながらも、同時に強い意志を宿した瞳からは、彼女の芯の強さを鷹一に感じさせた。
「学園の禁止事項か。分かった、俺も呼ぶことがあれば、ナナと呼ぼう。それと、なぜ俺の名前を……いや、違うな。俺のことを知っているのか? つまり、飛山がチケットを渡した相手というだけではなく、他の面で俺の事を知っているのか?」
ナナと呼ばれる少女の態度と、そして自身が目の前の少女に感じる不可思議な感覚。それらが重なりあった結果、鷹一は通常とは異なる答えを導き出した。
鷹一の問いかけに、少女は一瞬詰まった。
「……飛山様から鷲島様のことはかねてからお伺いしておりました」
「そうか……」
一瞬、僅かに会話が途切れた。
少女はその僅かな時間に思考を巡らせ、そして一歩踏み出した。
「それと……これは学園から許されているので、お話しますが、私たち奉仕員はAランク様や招待状をお持ちの方に奉仕する際、その方が過去に参加された試合の一つを閲覧することができます。飛山様から鷲島様のご予約をお受けした際、学園に申請して、第四試合のログデータを拝見いたしました」
ナナと呼ばれる少女の言葉を聞いて、鷹一は四月の第四試合である、『零・麻倉・雲川のチーム戦』について思い出した。そして同時に、『学園から許された事項』という不思議な情報へと思考を向けた。
「なるほど第四試合か……試合の閲覧……閲覧できるのは、一人の生徒につき一試合分までか? それとも一つの予約につき一試合分か? それて、試合は丸々見れるのか? それともその生徒のみにスポットライトを当てる形で見るのか?」
「一度の予約につき一試合閲覧できます。試合の閲覧では、その試合のすべてを見ることができます。ただし、時間制限がございます。閲覧は一つの予約につき30分までとなります」
「それは全て学園の決めたルールか?」
「はい、そうです」
鷹一の問いに対して、少女は間髪を入れずに答えた。
強い意思を宿した少女の瞳がじっと鷹一を見た。
視線を交えながらも、鷹一は思考を回し、そして、口を開いた。
「…………随分、細かなルールだな」
「ええ、……私もそう思います……」
不必要な程に細かなルール。そんなルールの存在理由と、そして目の前の少女の立場、それらに対して鷹一は無言で思考を巡らせた。
そして、そんな鷹一をどこか期待するようにナナと呼ばれた少女が見ていた。
時間にして僅か数秒ほど。鷹一は無言で考えをまとめ、再度少女に問いかけることにした。
「……すまないもう少し質問させてくれ。まあ、これは恐らく禁止事項に触れる質問になるから答えられないと思うが……お前は今後の試練に関与する人間か?」
強い意思を持った少女の瞳。それがこれまでよりも一層強く、鷹一を見つめた。そこには強い期待が籠められていた。
「鷲島様のご想像通り、禁止事項に触れてしまいます……」
瞳の色とは裏腹に、少女は少しだけ困ったような音色の声を奏でた。
しかし、その声音は少女の持つ雰囲気には適したものであった。
なぜなら、このナナと呼ばれた少女が持つ雰囲気は、穏やかで、優し気、それでいて包み込むようなもので――言葉遣いも含めて、どちらかと言えば、主従でいうところの従のような雰囲気の少女。
けれど、鷹一は彼女と視線を交えて、そのようには思わなかった。むしろ逆だと鷹一は思った。
「そうか。すまない。……飛山も俺のように面倒な質問を延々としてきたか?」
この鷹一の質問に、少女は初めて小さく笑い声を漏らした。
「……ご無礼を承知で申し上げますと……飛山様と鷲島様は似ていらっしゃいます……」
「飛山のような優秀なリーダーと比べられるとは光栄だな。色々とすまないが……最後に一つだけ、俺や飛山以外にこういった面倒な質問をする一年生は他にいるか? もし可能なら人数だけでも教えてほしい」
「…………名前は申し上げることはできませんが、人数でしたら、お教えできます。鷲島様と飛山様を除くと、三人になります。そして、そのうちの一人は、今鷲島様がされた質問と全く同じ質問をされました」
「……ありがとう。それと、突然、色々と質問責めにしてすまなかった」
「いえ、お気になさらないでください。私たち奉仕員はAランク様やそれに比する方々のご希望に応えるのが使命ですから」
ナナと呼ばれた少女はそこまで口にした後、ほんの僅かに唇を動かし、小さな言葉を作った。
あまりにも小さく呟いた言葉であり、通常ならば鷹一に届かぬ声。
しかし、それは、ゆったりと鷹一の耳に響いた。
――それに、むしろ、期待通りの方でした。
耳に届いた言葉の意味を思案しながらも、鷹一は、施術を受けるためのカウンセリングに入るのであった。
※
そうして、いくつか言葉を交わし、鷹一は施術を受けた。
じっくりと、一時間以上に及んだ施術を終えた鷹一の内側は、凪いだ海のような静寂であった。
何よりも特筆すべきは、ナナと呼ばれた少女の手のひらが鷹一の肌に触れた瞬間に生じた、抗いようのない『親和性』だった。彼女の指先は、鷹一の日々の緊張で硬く結ばれた筋繊維の結び目を、まるで磁石が引き寄せられるように正確に探り当てていったのだ。
強すぎず、弱すぎず。その絶妙な圧の変遷は、鷹一の心身と重なり合い、深く同期していた。
まるで、鷹一の全てを知るかのような知識と、その知識を活用する絶妙な技術。それらが存分に活かされ、鷹一の肉体と精神を深く癒した。
施術が終わると、鷹一は深いリラックス状態へと至った。
これは鷹一にとって、非常に珍しいことであり、睡眠時以外では中々ない『眠気』を覚えるほどであった。
(これほどとは……紫苑が寝落ちするのも分かるな……それに、金崎だけ未経験なのは少し悪いな。今度、反町から融通してもらって、招待券を渡そう)
チームメイトのことを漠然と考えつつも、鷹一はぼんやりと少女を見た。
「鷲島様、お気に召していただけましたか?」
ゆったりとした、他者を落ち着かせる声、それが鷹一の耳を優しく撫でた。
鷹一は、ぼんやりとしていた感覚を払い、少女に感謝を告げた。サービスに対する感謝、高い技術に対する感謝、そして、今後の学園生活において重要になり得る情報の断片への感謝。
様々な感謝を受けた後、ナナと呼ばれた少女は再度鷹一に深く頭を下げて、言葉を紡いだ。
「鷲島様、またお会いできる機会を楽しみにしております」
そうして、彼女は静かに、部屋を去るのであった。
少女の背を見送りつつ、鷹一は普段よりぼんやりとした頭で頭を回した。
――ナナと呼ばれた少女の存在、彼女が残した情報の意味、飛山が少女を自分と会わせた理由。
飛山が部屋に戻るまで、鷹一は思考を巡らせ続けた。
いや、より正確に言うならば、飛山と合流後、彼女と過ごし、高級スパを出た後も、少女の存在は鷹一の頭に引っかかったままであった。
※
こうして、鷹一の高級スパ初体験は幕を下ろした。
飛山との友好関係、高級スパでの疲労回復。
目的を十分に達成した鷹一であったが、疑問と不審が頭に残った。
ナナと呼ばれた少女への疑問。そして、言語化はできなかったが、学園へのさらなる不審。
何かがおかしい、おかしい何かがある。
鷹一はただただ、その『言語化できない何か』が、今後、雲川チームにとって良からぬものにならぬよう願った。
次回、楽しい楽しい第二試合マッチング決定です。
★おまけ
五月にAランクになったチーム+雲川チームの相関図です。
【挿絵表示】
※チーム関係というより、若干リーダー関係(雲川チームは概ね鷲島)みたいなところもあります。
※ちょっとぐちゃぐちゃになり過ぎるので書ききれなかった関係もあります。