学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す   作:集団戦大好きマン

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五月第二試合のマッチング

 五月第三週の火曜日。

 秩父・天沢同盟への訓練をサポートし、さらには麻倉チームの慈善活動を視察した翌日。

 第二試合の対戦チームを見て、鷹一は唸るような溜息を洩らした。

 

(ついに当たったか。それにこれは……残りの二チームも厄介だな。この組み合わせだと……試合展開も読みにくい……)

 

 鷹一は一度、額に手をあてた。

 

「厳しい、な……」

 

 自室で小さく漏らした声は誰にも拾われることはなかった。

 

 

 

 

 普段と同じように午前と午後の授業を受けた後、鷹一は、対戦チームについての情報をまとめ、第二試合のために考えを整理した。

 そして、ある程度考えをまとめてから、作戦室に雲川・金崎を集めた。

 

「早速だが、次の試合――第二試合の話をしたいと思う。マップは前回と同じ【第五管区南東部】、そして対戦相手だが――」

 

【挿絵表示】

 

 そこまで口にして鷹一は、ちらりと二人を流し見た。

 いつものように対戦相手を調べていた金崎は、緊張した表情を浮かべていた。Aランク帯という強敵を思い浮かべたゆえだった。

 そして、五月からはマッチングをちゃんと見始めた雲川は、手元の端末を見てムムムと顔を力ませていた。端末に表示された鷹一製UIによると、雲川の狙撃成功率が0%と表示された相手が複数人いたからだ。

 二人の表情と振る舞いから、それぞれの日々の努力を感じ取った鷹一は、良きチームメイトに会えたことを感じつつも、それを全く悟らせない冷たい視線で、続く言葉を造った。

 

「今回の対戦相手は、Aランク帯、飛山チーム、星川チーム、それと中チームだ。星川チームとは二度目。中チームとは初めて。そして、2位をずっと維持する飛山チームとも初めてだ。

 最初に、このマッチングが決まって俺が思ったことを共有したい。『運が悪い』、これに尽きる。飛山とはいつか当たると思ったが、思ったより早かった。あと組み合わせも少し厳しい。読みにくい中チームに、選択の幅が広い星川チームだ。

 正直に言うが、次は実質『捨て試合』と思ってくれ。状況に左右されすぎる。勝ちを拾うのは難しいし、完敗する可能性もある。とりあえず、そうだな……目標は3人で合計3点だ。だが、状況が変に偏ったらこれも難しいと思っている。あまり勝敗や獲得チームポイントには拘らず、気負わず試合に挑もうと思う。どちらにしろ、次の戦いが終わっても、まだ六試合ある。今回、仮に負けたとしても、目標であるBランクに対して強い影響を与えるわけじゃない。気負わず、いこう」

 

 じっと鷹一の冷たい視線が金崎を捉えていた。もし常人であれば『前回のような失態は二度と晒すなよ?』と圧をかけていると判断してもおかしくない程の冷めた視線と意識が金崎に向けられていると判断しただろう。

 しかし、金崎はそのように思わなかった。

 

「あ、ああ……! わ、わかってる、鷲島……!」

 

 チームメイトの視線の意味を察していた金崎は慌てたように言葉を返した。そして、必死に気持ちが変な方向へ向かわないように、冷静であるように努めた。

 

(次の試合こそはって思ってたけど……たぶん鷲島が言うからには、かなり厳しい相手……3点なら、俺と鷲島と雲川さんで1点ずつ…………いや、駄目だ、気負わないようにしよう。鷲島が言った通りに……!)

 

 そんな金崎とは対照的な態度を示した者もいた。そう、ほのぼのまったりお寿司大好き時々必殺狙撃で実はリーダーの雲川紫苑だ。

 第一試合後の祝勝会により寿司パワーを回復させた雲川は、訓練のコンディションを上げることこそなかったが、しかし、その小さき体に宿りし『うにの力』は健在であった。

 

(うに! うに! いくら! うに! うに! いくら!)

 

 闘志を瞳に、いや『うに』に宿した雲川は、脳内で何度も対戦相手を射貫くシミュレーションを行った。当然、それに伴う次なる祝勝会での『うに』への期待もいっぱいだ。

 少々意外な様子の幼馴染を見て、鷹一は少しだけ気になることがあった。

 

(前回のマッチングの際、種村と匂坂が戦うことを心配していたが……今回はいいのか……? 麻倉の優先度が低いのか、それとも、次の試合へ集中しているのか……どちらがいい事なのか判断に迷うな……)

 

 鷹一は、今回のAランク帯の組み合わせの一つである『匂坂・零・麻倉・壇上』のチーム戦について思い返した。

 しかし、すぐに『いや、作戦会議に集中しよう』と考えて、別の試合への思いを断ち切った。

 

「それで、各チームの構成と戦術についてだが……そうだな、まずは中チームからいこう。中チームは一人一人が強く、連携能力が高いチームだ。ブレード突撃ができる上にアサルトライフルを使いこなす西と東が主軸となって戦い、それを残りのメンバーが支援するというケースが比較的多い。エースの西の戦闘力は、Aランクでも上位だ。イメージとしては淡路を強くした、または(かずなし)を弱くした駒だ。東も装備的に西に近いが、西よりもやや弱いイメージだ」

 

 『東西』の名を有する主軸の二人について軽く説明して、鷹一は、一度言葉を切った。そして、このチームの特色である支援要員の三人について説明の矛先を向けた。

 

「支援要員の三人のうち、リーダーの中は、機動力がある隠蔽型のアサルトライフル使いで、おそらく通信・レーダー・指揮・戦術を担っている。伝え聞くところ、少々突飛な人物であるが、恐らくチーム内の役割的には柚木に近い相手だろう。ただし、戦闘技能、特に射撃の技能に関しては柚木よりも圧倒的に上だ。

 喜多見は狙撃手――これまでの狙撃手と違いボルトアクション型の狙撃銃を使うタイプだ。ただし技量は高くない。試合中の行動もあまり優れていない印象を受ける。狙撃手としてならば紫苑が勝つだろう。

 そして最後の一人、南は曲射砲使いだ。曲射砲使いというと、どうしても、あの危険な男を思い出すが、安心していい。南は『一般的な尺度で考えていい』曲射砲使いだ。勿論、僅か一か月程度で、しっかりと目標に曲射砲を当てる技術とセンスは凄まじいものだが、常識の範囲内だ。佐々木のような反則はない。大丈夫だ」

 

 麻倉チームの最終兵器『佐々木』への警戒心からか、鷹一は安心させるように二人に言葉を届けた。しかし、途中で、南に対する説明が不十分と感じ、捕捉するように再度口を開いた。

 

「ただ、南も十分強い援護能力を持っている。恐らく一年生では反町と並んで佐々木の次に曲射砲の扱いが上手いだろう。

 特筆すべき点としては、佐々木と違い軽量の曲射砲を使う点と曲射砲使いとしては魔力が低い点、曲射砲だけではなくアサルトライフルによる撃ち合いができる上にブレードまで所持している点だ。佐々木――いや、反町と比較すべきか、佐々木よりも爆撃力で劣る反町よりもさらに一回り以上威力という面で南の砲撃は劣る。

 しかし、その一方で取り回しがよく本人の機動力もある。『撃破能力』ではなく『支援能力』を重視した曲射砲使いだな。おまけに、射撃戦ができる点で味方と合流して弾幕を形成したり、ブレード戦に対応したりと、駒としての幅が広い。

 まとめると、中チームは、(かずなし)のような役割の駒2枚を、動けて多才な曲射砲使いと、隠蔽が高い射撃役二人がサポートするチームだ。何度もAランク帯にいるチームだけあって、強いチームだ。ただ、中チームは高度な連携をすることもあれば、無秩序な戦い方をすることもある。行動が読みにくいチームだ。何か特殊な目的があるのかもな」

 

 鷹一の流れるような説明を、金崎は必死に聞いていた。

 

(中チームは、俺もログを見た。喜多見以外は全員格上……! いや、俺が狙撃手相手に上手く立ち回れる自信もない。それを考えると喜多見も俺にとっては十分強い。実際、俺は雲川さんと試合で戦うと勝てない……)

 

 過去の雲川の『うに! うに! いくら!』実験による惨敗を思い返した金崎は、ちらりとほのぼの少女の方へと目を向けた。

 金崎は、雲川のムムムと力の入った顔を見て、これまで以上の闘志を感じ取った。

 

(うに! うに! いくら! うに! うに! いくら! ……う、かっぱまき……)

 

 なお、鷹一と金崎が真剣に試合について考えている合間も、雲川は意味不明な思考を巡らせていた。

 

「次は、星川チームだ。ここは以前戦った通りだ。全員のポジションには大きな変更はない。万能の星川、変則近接の西山、支援担当の黒井、そして射撃担当の姫乃だ。ただ、少し変わった生徒がいる。姫乃だ。五月第一試合での動きが、明らかに以前より良くなっていた。純粋に訓練を積んだか、何か掴むものがあったんだろう。以前よりも射撃役として強さが増した……柚木と近いレベル、といったところだろう」

 

 四月の第三試合で対戦していたこともあり、構成する生徒についてはさらりとした説明で流した。しかし、一方で、このチームの特色が、今回のチーム戦を難しくしていた。鷹一は、そのことへ言葉を向ける。

 

「そして、このチームの警戒点、特に今回警戒したい点は、星川の装備が読めないことだ。星川は何でもできる、そしてどの装備も殆どの生徒より上手く扱える。その上、強い。これまでの試合を見ると、恐らく総合的な戦闘能力はかなり高い。一応、今のところ考えられそうな星川の装備は三種類。

 一つは重装備。今回は重装備の生徒がいない。よって他のチームよりも攻撃力・防御力で上回る作戦だ。

 二つ目はこれまでと同じ汎用性重視の装備。色々と状況に対応する装備だ。まあ、拡張弾倉の有り無しで、かなりユニットとしての意味合いが変わるが、機動力・隠蔽力の点では重装備よりも高いという意味では、ここにまとめてしまっていいだろう。

 三つ目は隠蔽装備だ。これも細かく分けると狙撃主体・ブレード主体と分かれるが、隠れやすいというのがかなり重要だな。

 正直、完全には読めない。ただ、俺は、星川は隠蔽装備で来るんじゃないかと思っている。これの理由を説明する前に、飛山チームについての概略を説明したい。というのも、星川の装備構成も星川チームの戦術も、恐らくは飛山チームへの対抗という面が強いと考えられるからだ」

 

 鷹一の説明を聞いて、努力家の金崎は脳内で、星川チームを思い浮かべた。

 

(星川チーム。すごく可愛い子ばっかりの、あ、いや違う違う、そうじゃなくて、えっと……第三試合で当たったときは、俺は結局、戦わなかった。けど、このチームは鷲島の作ってくれたデータを見ると、かなり強い。特に星川と西山はずば抜けてる。戦闘AIも秀川と上村より強かった。姫乃はそうでもなかったけど、たぶん今の鷲島の説明的に、姫乃も強くなってるんだよな……雲川さん、大丈夫かな……?)

 

 ビジュアル面に特化した彼女たちの姿に金崎は混乱しつつも、必死に真面目な考えへと思考を転換。そして、ふと気になったことがあり、リーダーの方を見た。

 なぜなら、四月の第三試合で、雲川は開始直後に姫乃の狙撃で討ち取られたからだ。あの試合では雲川は何もしていない。そう究極レベルで何もしていないのだ。それこそ、五月第一試合の金崎と同じレベルに。それゆえ、金崎は心配した。

 しかし、それは無用であった。なぜなら、闘志を瞳と『うに』に込めた雲川は、以前の試合の出来事など考える暇がないのだから。

 

(うに! うに! いくら! うに! うに! いくら!) 

 

 雲川の意味不明な思考が加速する中、鷹一は最後のチームである飛山チームについての説明を始めた。

 

「最後は、飛山チームだ。チーム戦が始まって以来、ずっと2位のチームだ。トップの匂坂チームには勝てていないが、そもそも匂坂チームには誰も勝っていない。飛山チームは匂坂チーム以外には無敗、そして平均獲得点数は9点越えだ。運に恵まれた試合もあっただろうが、正直、『チーム戦』という意味において、他のチームとは実力差が山一つくらいはありそうだ。

 機動戦術を基本としており、チーム全員が高機動かつアクセル・フロート持ちだ。これまでの動きを見ると全員が隠蔽装備……いや、伊舎堂だけは隠蔽装備でない可能性もあるが、少なくとも重装備はいない。防御能力は高くは無いが、高機動の駒による連携が厄介だ。それと駒一人一人の役割分担も上手く、得点獲得能力が非常に高い」

 

 鷹一はそこで一呼吸置いた。これから説明する飛山チームを構成する四人の生徒――そのどれもが、チーム戦において『厄介』この上ない生徒たちであったからだ。

 全員が共通して高い素の機動力を持った上、アクセルの加速、フロートによる移動の柔軟さを持っている。そして、それぞれが何らかの『強み』を持った生徒たち。

 彼女たちの『厄介さ』に困りつつも、鷹一は最も『厄介』な生徒についての説明を始めた。

 

「まず、リーダーの飛山は戦術能力・戦略能力・指揮能力どれもが高く、チームにおける思考の中核だ。単純な正面戦闘力もチーム随一で、高機動で必要な場所に移動し、高い射撃能力とブレード能力で、様々な役割を柔軟にこなす。飛山以外の三人は特定の動きに特化しているが、飛山は色々なことができる戦闘担当だ。

 特にフロートを活用した『空中戦』ができる唯一の生徒でもある。まあ、空中戦は射撃とシールドの両立が難しいゆえに、『奇策』に近い技ではある。しかし、状況次第では強力な技だ。

 そしてあまり注目されていないが、軽装甲という防御力に反して生存性が高い。これまで一度しかダウンしていない稀有な生徒だ。しかもダウンした状況は谷崎・石河・山見の三人と戦うという地獄みたいな状況だ。チーム戦において、飛山チームはどの駒も厄介だが、個人的には一番厄介なのは飛山だと俺は思っている。試合では、できるだけ早く退場してほしい」

 

 そこで鷹一は再度言葉を切った。

 鷹一の説明を熱心に聞きながらも金崎と雲川はそれぞれの反応を示した。

 

(飛山……確かに、ログで見た感じ、どの試合も普通に強そうだった。ずっと2位にいるし、たぶん前、鷲島と話していた感じ、頭も凄くいいんだと思う。ただ、なんかちょっと怖い感じがする……気さくな感じがするし、見た目も可愛いのに、何でだろう……? って、あ、違う違う……ええっと、飛山、飛山……正直、かなり早くて、銃で当てるのが難しい気がする……)

 

(か、かっぱまき……詰まっちゃう……お水……う、うに! うに! いくら!)

 

 悩む金崎をちらりと見つつ、鷹一は次の『厄介』な生徒の説明に移った。なお、意味不明な思考を回していた雲川の方は大して確認しなかった。

 

「次、道合だ。知っての通り、最強狙撃手という渾名は有名だな。『僅か一か月の戦闘結果だけ見て最強などと評価するのは近視眼的だ』と言いたいところだが、恐らく、この渾名に偽りはないんだろう。

 実際、非常に優秀な狙撃手である一之瀬が道合を最強狙撃手だと認めているからな。もし、これに異議を唱えられるとしたら、それは匂坂チームの山見だけだろう。

 道合は、機動力と狙撃能力の二つを非常に高いレベルで両立している。特に狙撃能力は凄まじく、長距離狙撃を高い精度で行い、時には高密度建造物の合間でも目標に撃ち抜くという人外じみたことをやってのける。おまけに隠蔽装備だ。つまり見つけにくい上、高機動で戦場を駆け、長射程高精度高威力の攻撃で致命的部位を射貫くユニットだ。これまでの獲得撃破点も高く、チーム戦における死神だな。

 道合もかなり厄介だ。飛山と同レベルに厄介だが、最序盤と終盤の厄介度は飛山を超えるだろう。どこからともなく相手を倒せる駒だからな。位置が割れていない最序盤や、駒が少なくなって隠密しやすくなる終盤に残っていると危険度が高い。特に、俺としては、道合の位置が分からないとアクセルが使えないのが厳しい。もし道合の射線に入っている時に使うと、簡単に撃ち抜かれるからな。全体として見ると飛山の方が危険だが、局所的な危険度では道合は佐々木レベルの生徒だ」

 

 鷹一の道合への評価――『佐々木レベル』というものは、最大限の敬意と警戒を表していた。

 金崎はごくりと唾をのんだ。金崎は佐々木のことは特に悪い印象はなかった。第四試合の投入では人が良さそうな印象があったからだ。だが、しかし、何度も鷹一が『佐々木は危険だ』などという言葉を繰り返していたため、チーム戦において、最強クラスなのだと、金崎は考えていたのだ。

 

(佐々木レベル。実際、ログを見た感じ、撃破点をばんばん取ってた。凄い狙撃もしてた。ただ…………種村さんの話を信じるなら、この人、俺の事を評価してた、みたいなんだよな……? 何でだ……? 話したこと、なかったよな……? 他人に甘い人なのか? いや、どんな相手でも警戒する凄腕狙撃手、か? ちょっと分からないが真面目な人って感じか……? 一之瀬もそうだけど狙撃手は真面目な人が多いのか……あれ、でも……)

 

 ふと、金崎は近くにいる、ふわふわした生き物が気になった。

 なお、雲川はびくりと体を震わせていた。『うに』の集中が途切れてしまったのだ。これは金崎が雲川を見たせいではなかった。純粋に、怖いことを思い出してしまったからだ。

 

(道合さん……一之瀬さんがなんか言ってた……怖かった……)

 

 雲川が思い出した怖いことというのは、梶田チームとの合同訓練のことであった。この際、一之瀬が雲川への嫌悪感を募らせ、結果、彼女は『最強狙撃手の道合を見習うために雲川の走り込み訓練』を求めたのだ。雲川は怖くなって鷹一と種村の後ろに隠れたのだ。そして、それがますます一之瀬をヒートアップさせた。雲川は怖かったのだ。もう、何で怒られたのか雲川は忘れてしまったが、ただ怖かったことは覚えていた。ある意味、最悪の覚え方であった。

 思い悩む金崎、怖がる雲川を見て、鷹一は、『強者』についてこれ以上説明するのを止めるか少し悩んだ。

 しかし、情報として、これは知っておくべきだと思い、次の厄介な強者についての説明を始めた。

 

「次は厄介度が大きく落ちる針谷だ。だが、厄介なことには変わらない。機動力とブレード戦能力に優れる高速近接担当だ。正面からのブレード戦、ブレード突撃といったブレード使いとして役割をしっかりとこなし、また純粋に戦闘技術が高い。単純なブレード戦の技量が西山クラス――いや、崩しがある分、西山の方が優位に見えるが、西山に遅れは取らない技量の持ち主だ。

 そして、派手な西山とは違い、隠れて戦い、戦術的な虚をつく攻撃を得意としている。気づかぬうちに索敵網をくぐり抜けて接近し重要な駒をダウンさせるのが上手い。そういう意味では、正面戦闘だけのブレード使いではなく、戦術的なブレード使いと言えるかもな。この辺りは飛山の指示もあるだろうが、しかし、それをこなせる動きができるのは見事だ。エースというより暗殺者みたいな選手だな」

 

 説明しつつも鷹一はこの生徒には少しの親近感を感じていた。なぜなら、針谷の戦い方は本来の鷹一が好む戦い方に似ているからだ。消えて近づき殺してまた消える、そんな戦い方。

 現在、鷹一は大出力レーダーを背負い重装備として戦っている。しかし、これは鷹一の好むスタイルではない。情報が必要なために大出力レーダーを装備しているだけだ。

 鷹一は性格的にも能力的にも、隠蔽装備の方が向いていた。気配を殺す術に長け、圧倒的なブレード戦能力を持ち、そして局所的な環境では飛山以上の判断力がある。鷹一の暗殺者としての適正は十分であった。

 

 一方で、金崎は針谷に対しては強さを理解しつつもどこか不思議な感じもしていた。

 

(針谷はあの佐々木を倒した生徒だ。鷲島の説明でも凄いし、実際ログで見た感じも、とにかく速くて強い感じだった。だけど、なんで、あの時、大町の病室にいたんだ……? 大町とは知り合いなのか……? 雰囲気とか全然違ったけど……一時寮が一緒だったのか……?)

 

 少し思考がそれつつも金崎は再度鷹一の声へと耳を傾けた。

 

「最後は伊舎堂だ。少し難しい生徒だな。学園でも評価が分かれる生徒だ。人品に関しては、話好きで気さくで世話好きと、概ね好感触な生徒ということで有名だが、戦闘に関しては評価が分かれる。これは伊舎堂がこれまで獲得した得点が少なく、特にAランクの生徒でありながら総撃破点が0点というのが注目されているな。

 だが、俺は伊舎堂も厄介な生徒だと思っている。伊舎堂は機動力と回避力、そして索敵能力に特化している選手だ。機動力が非常に高く、試合中は常に走り回っている。そして恐らく大出力レーダーを装備していて、しかも他の装備をほとんどつけていない。ゆえに、装備としての重さは、重装備ではなく、一般的な中装備に近い。正直、中装備にしては足が速すぎる気もするが……飛山は最初から機動力を重視していたことを考えるとあり得ない能力じゃないな……」

 

 飛山の慧眼、飛山チームの個々の優秀さを改めて感じ、鷹一は困ったように息を吐いた。一拍置いた後、鷹一は、再度、伊舎堂へと視点を戻した。

 

「……いや、話を戻す。伊舎堂はこの高機動と大出力レーダーを使った走り偵察を得意としている。特にフロートを使って建造物の屋上を渡り回って無理やり視界を通し、高機動と大出力レーダーの組み合わせでマップ内の駒の位置を割り出す。

 飛山チームは、この伊舎堂の初動偵察から始まり、その偵察情報から飛山と道合が浮いた駒や弱い駒を速攻で撃破、並行して針谷が危険な相手を暗殺し、その後は数的有利に持ち込んで勝つというパターンが多い。そういう意味ではチームの戦術の起点とも言える駒だ。駒の性質的にややダウンしやすい傾向があるが、飛山が伊舎堂の死に場所を作るのが上手く、ダウンする時ですら有益な行動に繋げやすい。特に第四試合では、匂坂相手に回避戦術で時間を稼いだのが見事だった」

 

 伊舎堂に関しては、金崎も雲川もあまり深い関わりはなかった。ゆえに、金崎は純粋に戦う場合はどうするかを考え、雲川は撃ち抜けるかどうかを考えムムムと顔を力ませた。

 思い悩む二人を視界に収めつつも、鷹一はまとめに入った。

 

「飛山チームをまとめると、個々の力量が高く、それぞれが自分の役割を全うし、しかも、飛山という類稀なリーダーが戦術面でそれをまとめ、まるでひとつの生き物のように指揮をするチームだ。そうだな、最初の言葉をもう一度言おう。今回のマッチングは『運が悪い』、それに尽きる。1対1で正面から戦ってくれるならば、俺でも勝ち目はあるが、そうはならないだろう。そして、肝心の試合の展開だが……正直読みにくい。ただ、ここで各チームのこれまでの戦績とAランクでの振る舞いから、『あり得る可能性』をいくつか考察した」

 

 そこで鷹一は、一度間を置いてから次の言葉を紡いだ。

 

「カギを握るのが星川チームだ。星川としては、Aランクで何度も当たる可能性がある飛山チームへの対策を重視するだろうし、何より、星川チームの同盟相手は匂坂だ。匂坂が背後に立っている状態で飛山チーム対策を疎かにはできないだろう。

 そして、星川の飛山チーム対策は、全隠蔽――つまり全員が隠蔽装備で来るんじゃないかと思っている。この理由は飛山チームの索敵網に引っかからないためというのと、『初動のアクセル封じ返し』をするためだ。

 まず現状、道合がいるせいで、飛山チーム以外は初動でアクセルを使えない。道合の居場所が分からないと撃ち抜かれる可能性があるからな。一方で、全員がこれまでの装備の場合は、今回の試合では、『移動中の飛山チーム』を撃ち抜ける狙撃手がいないから、飛山チームはアクセルを使いたい放題だ」

 

 ただでさえ機動力で圧倒する飛山チーム。その機動力の差をさらに拡大させる戦術性について鷹一は言及した。ごくりと金崎が唾をのんだ。雲川はごくんと『うに』を飲み込む妄想をした。鷹一は一瞬雲川を見た後、何事もなかったかのように説明を続けた。

 

「……だが、これまでの実績から考えると、飛山チームのアクセルの隙を狙える生徒がいる。星川だ。

 星川が隠蔽狙撃装備で来れば恐らく飛山チームを撃ち抜ける。それは星川も分かっているはずだ。だから星川は隠蔽狙撃装備で来る。

 星川・西山・黒井がレーダーに映りにくいのなら、姫乃もレーダーに映らない方が好ましい。ゆえに星川チームは全隠蔽で来るだろう。姫乃の装備換装可能性が少しだけ気になるが、五月第一試合の姫乃の成長度合いと星川の経験があれば、十分に姫乃を隠蔽装備に換装できるだろう。

 こうして星川チーム全隠蔽と言う形になると、中チームもそれを読んで全隠蔽で、俺と伊舎堂以外の全員が隠蔽装備というふざけた試合になる可能性もあり得る。そして、飛山はこれを想定して作戦を組みそうではあるな。

 一応、俺も隠蔽装備で行くことも考えたが、そうすると飛山チームに索敵能力で圧倒的に差をつけられてしまう。恐らく点数を全て毟られて終わるだろう。ゆえにこちらの装備を変えるのは難しい」

 

 中チームの全隠蔽は可能性としては40%くらいのケースで発生すると鷹一は考えていた。駒数と索敵で劣る以上、そのよう状況は避けたかった。ただ、一方で、中もまたその状況を避けるのではないかという期待を鷹一は持っていた。全チーム隠蔽ならば運勝負が加速するが、同時に機動力と戦術力、索敵力に長ける飛山チームが一番『運』を拾いやすいのだから。

 制御できそうにない次試合の盤面にもどかしさを覚えつつも鷹一は、最終的な方針について口にする。

 

「正直な話、大まかな装備や戦略が予想できても、投入後の索敵・戦術・機動力・連携でこちらが劣る以上、飛山チームの相手は厳しい。運が良ければ星川チームと飛山チームが戦っている間、漁夫の利を得たり、中チームを攻撃して点を稼ぐという展開も十分あり得るが……中チームが読みにくいチームということもあって、確かなことは言えないな。

 ただ、そうだな……色々話したが、今回は実質『捨て試合』だ。二人にはこれまで通り生存を……いや、金崎は生存を優先して鍛えて欲しい。紫苑は、まあ、俺が作ったメニューの中からやりたいと思うものをやってくれ。俺も自分の戦い方の改善を進めたいと思う。一応、自主訓練と言う形で次の試合までは行きたいが、何か分からないことがあったら連絡してくれ」

 

 鷹一は二人に自主訓練用のプランを提示しつつも、どこか冷めた目で二人を見ていた。

 

(正直、今回の戦いは二人には厳しい……紫苑は技が露見した上、今回は狙撃が通りにくい相手が多い。金崎は懸命に努力してくれているが、やはり基本的な力量がAランク帯では厳しすぎる。それに、金崎はかなり警戒されている気がする。秀川を撃破したというのもあるが……やはり上位リーダーは優秀な生徒が多い。油断をしないのだろうな。しかも今回は飛山と星川、それに中だ。金崎への油断は期待できない。いや、中なら可能性はあるか……? だがどちらにしろ、序盤で見つかれば二人とも助からないし、序盤を生き残っても暗殺の危険がある。二人の得点は0点前提で進めてもいいかもしれないな。やはり、今回は勝てない試合と割り切ろう。……最悪終盤まで俺が生き残れば、撃破点と任務点で数点はもぎ取れるはずだ。そのためにも、道合の狙撃には要警戒だ。今回の相手は幸い重量級はいない。つまり、道合の狙撃さえ防げれば即死はない。対道合を意識すれば数点は取れるはず……いや、全員に包囲されてスタートという形でも厳しいか。だが、もしそうなれば、何人が道連れにして撃破点を取る。3点だ。3点取れれば十分だ)

 

 この試合は、あまり大きな意味のある試合ではないと鷹一は考えていた。

 いや、そもそも鷹一にとって、『チーム戦』というのは、あまり大きな意味がないのかもしれない。

 鷹一は、Bランクの維持さえできれば十分であった。あまり試合の勝敗にも自分のダウンにも拘っていない。当然、あまりに低得点の試合が続き、Bランクから落ちることがあるのは問題だが、それでなければ、問題ではないのだ。仮にここで、鷹一の言う『3点』もしくは、それ以下の点数を取ったとしても、次の試合で得点を取ればよい。そして、もし低得点ならば、次の試合はBランク帯以下で戦う可能性が高い。勿論、麻倉チームや滝本チーム、その他Bランク帯に落ちそうなAランクチームなど不安があるにはあるが、それでも、そう何度も低得点が続くとは思っていなかった。

 

 戦術面では、飛山チームとの戦いでは悲観的な想定をしつつも、しかし、戦略面においては、ある程度、鷹一は、楽観的に全体を見ていた。

 

 勿論、匂坂チームをはじめAランクチームとの関係や、やや治安に問題がありそうな学園生活、倫理観に問題がありそうな学園が出す試練など不安はあるのだが、こと現在の環境におけるチーム戦においてはそこまで不安は抱いていなかった。

 

 こうして、次の第二試合『飛山・星川・中・雲川』のチーム戦のための方針が決まった。

 いつも通り、鷹一が説明し、鷹一が方針を決めて、他の二人がそれを聞いて準備をするという流れであった。

 雲川と金崎のチーム戦に向ける意識や、学ぶ姿勢、チーム戦能力などは格段に上昇していた。しかし、未だ、作戦と指揮において、ただ一人に依存しているチームであった。

 





★おまけ
五月第一試合終了時の雲川パネル表

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