学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
★登場人物紹介
【
Aランク10位(暫定8位)、中チームのリーダーにして『中』担当。戦闘では指揮・戦術・支援を担当。
おもろを求めている。
おもろ!おもろ!おもろ!
【
中チームの『西』担当。エース。ブレード突撃を使いこなすブレード使いであり、また同時に熟練の射撃手でもある。『にしれおん』であり『にししし』ではない。
おもろを求めている。
おもろ!おもろ!おもろ!
【
中チームの『南』担当。試合では曲射砲・アサルトライフル・ブレードを臨機応変に使い分ける。
おもろを求めている。
おもろ!おもろ!おもろ!
【
中チームの『東』担当。西と同じくブレードと射撃の両方で活躍できる能力の持ち主。第二試合から参戦。
勤勉で生真面目な生徒。中チームに対して日々困っている。あと喜多見があんまり頑張っていないことも少し気になっている。
『東』という苗字のせいで中チームに入ることになってしまった可哀そうな人。最近自分の苗字に後悔している。また、名前が若干キラキラしていることが元から苦手だったが、中チームの西が同じようなキラキラネームであることを知り、以後名前にも後悔している。
『対策会議』ではいつも必死に『作戦会議』をしようと頑張っている。
【
中チームの『北』担当。戦闘では一応狙撃を担当。低魔力で戦闘力も低い。また試合以外においても、現状では秀でた点はない。第三試合から参戦。
良くも悪くも小市民的な価値観を持っている。やや気が弱くて周りに合わせることが多いが協調性が高いわけではない。
伊舎堂とは一時寮が同じであり、社交的で気が利く伊舎堂に好感を持っている。
『み』の危機から、現状の中チームに不満を持っている。『対策会議』ではいつも縮こまっている。
5月・6月シーズンの第二試合に向けて、各チームが努力を続ける中、Aランク10位(暫定8位)の中チームは次の試合に向けて『対策会議』を開いてた。
この『対策会議』は中チーム独自のものであった。これは、名目上は、『次の試合に向けての準備と作戦会議の場』ということになっているが、これは、ほぼ嘘だ。この会議では、チーム戦のことなど余談程度であり、主目的は明らかに中チームの雑談であった。この場は、
いつものようにフォーメーション(三馬鹿が行うふざけた配置であり、中から見て方角的に南に南が、西に西が座るというものだ)を組もうとする三馬鹿を東が防ぎ、それを三馬鹿がげらげらと笑うといった出来事を挟みつつも、なんとか、まっとうな着席を行わせた後、対策会議は始まった。
対策会議議長として、中が重々しく口を開いた。東は嫌な予感がした。
「それじゃあ、まず大事な話をするね。次の試合は、雲川チームと戦うけど、何か気づいたことあるかな? ヒントはチームの人数だよ」
まさか第一声から、次の試合の話がきけるとは思えず、一瞬だけ東は感動してしまった。しかし、すぐにこれは普通のことだと気づき、あまりにも作戦会議における希望ハードルが低くなっていた自分に気づき小さく溜息をついた。同時に、この流れを維持したいと考え、言葉を紡ぐ。
「雲川チームからは撃破点が最大で3点、現実的には2点までしか取れないという話か?」
珍しく自分の予感が外れたことに東は安堵しつつも、雲川チームの構成と彼らの特徴を脳内で思い浮かべた。狙撃手のリーダー、最強の遊撃手、サポート要員の選手。
しかし、真面目に脳を動かす東を嘲笑うがごとく中は首を横に振った。
「外れ。答えは、3が素数だということです。ちなみに中チームも5人構成つまり、素数のチームです」
「…………なぜ急に素数の話をする?」
自分の予感が当たっていたことに東は深い疲労感を覚えつつも、それを必死で抑えた。まだ、作戦会議ができるかもしれないという希望が彼にはあったからだ。人の夢と書いて儚い。儚い希望である。
「最近さ、何かあると素数を数えるのがマイブームなんだよね。なんか素数は勇気を与えてくれるって、大昔の人が言ってた気がする」
「あー! わかるわかる! 俺も最近トイレでずっとグロタンディーク素数を数えてる」
中の脈絡のない言動。それを聞いた瞬間、西が閃き言葉を返した。そして、南も続く。
「ずっと『57』って呟いてるの? こわい!」
オチがついたため、中と南はげらげらと笑い、西は『にししし』と笑った。西が笑うとすぐさま中・南は「自己紹介っ!」と言いながら西の方へ人差し指を向けた。
東は青筋を浮かべた。
「お前らいい加減にしろ。次はAランク帯、しかも一度俺たちが負けている飛山チーム相手だ。色々と対策をする必要がある。馬鹿な事を喋ってるんじゃない」
じっと東が三馬鹿を睨んだ。静かながらも強い意思が宿った瞳。懸命な東を見て、考えを改めたのか、三人は神妙な顔を作った。
そして、その顔のまま、三人は同時に、自身の口にファスナーを閉めるような仕草をした。三人のモーションは寸分狂わず全く同じであった。
そんなふざけた様子の馬鹿たちに東は苛立ちそうになるが、しかしようやく話を進められると思いリーダーの中を見た。中は頷いた。
「――! ……! …………!」
中は必死に何かを話そうとした。しかし、声がでなかった。中は、必死に舌を動かし顎を上下させようとするが、声が出なかった。なぜなら、まるで、唇が縫い付けれたかのように封じられていたからだ。
驚愕を表情を浮かべながら中は必死に東に何かを訴えた。
だが、音はでなかった。
そんな盟友を見て、西と南も驚き、彼女を心配する言葉や東に異変を伝えようとする言葉を作ろうとしたが、しかしこれも失敗した。西も南も、中と同じように声がでなかったのだ。中と同じように唇が縫い付けられたかのように、二人は喋れなかった。
「――! ……! …………!」
「――! ……! …………!」
「――! ……! …………!」
必死な表情で懸命に何かを訴えようとする三人を見て、東はさらに苛立った。
「俺は、馬鹿な事を喋るなと言った。何も喋るなとは言ってない。ふざけるのも大概にしろお前ら」
東のツッコミ(勿論、これあくまで三馬鹿の認識であり、東はツッコミをしている気などないが)を見て、三馬鹿はにやりと笑って、ファスナーを解除するような仕草をした。なお、三人のモーションは寸分狂わず全く同じであった。
そんな三人に対して怒りを覚える東を見て、中と南はくすくすと笑い、西は『にししし』と笑った。西が笑うとすぐさま中・南は「自己紹介っ!」と言いながら西の方へ人差し指を向けた。
「いい加減、話を進めろ。作戦会議をしろ」
「分かった、分かったから。落ち着いて落ち着いて。試合の話ちゃんとするから。えっと、まずは試合の日だけど、今回は私たちは土曜日じゃなくて、日曜日だよね。あれ、今日は水曜日だから、日曜日は、えー、明日、明後日、明々後日――」
「――やのあさって!」
「――嘘をつくな」
「――嘘をつくな」
「ウソジャナイ! ウソジャナーイ!」
中の言葉に西が割込み、その西対して中・南が「嘘」と切り捨て、西がふざけた片言で返した。
これは中チームの定型文の一つだ。しかもこれは東煽りに該当する行為であった。
以前、対策会議があった際、中が思い付きで「明日の次は明後日、その次は明々後日、ではその次はなーんだ?」とクイズを出した。それに対して素早く西が「やのあさって!」と返したのだ。これを聞いた常識人の東は、普段の西の様子から適当な事を言っていると判断し「勝手に言葉を作るな」と注意した。西はその時「あるあるある! やのあさって、ある! ウソジャナイ! ウソジャナーイ!」と反論したが、普段の西の言動が災いし、東は「嘘をつくな」と切り捨てた。
しかし、その後、西が正しいことが判明、明々後日の次、四日後を指す言葉は実在し、それは『
中と南はげらげらと笑い、西は『にしししし』と笑った。中・南は「『し』が一個多い!」と言いながら西の方へ人差し指を向けた。
「……作戦会議をしないなら俺は自主練に行く」
東はそう言って席を立とうとしたが、素早く西と南がそれを抑えた。左右から馬鹿二人に挟まれた東は眉を顰め、そんな東西南に対して中が重々しく口を開いた。
「まあ落ち着いて。ちゃんとチーム戦の話もするから。じゃあ、雲川チームの話ね。うん、ここは一番大切なところだね。もっとも、私たちが警戒する相手、それは誰か。皆も分かってると思うけど、その話をしよう」
じっと真剣な中の瞳が部屋内の四人を捉えた。
やっと真面目な話になるかもしれないが、まだ警戒を解けない東。
『み』を守るため、そして、精神的疲労を避けるため(東に押し付けていたとも言う)気配を殺していた喜多見。
きっと『あの生徒』の話に違いないと、強く頷く南。
そんな、少しだけ緊張している三人対して、最後の一人。中チームのエース西は誰よりも自然な態度で口を開いた。
「狙撃手、やろなぁ」
雲川チームで、いや、この第二試合『飛山・星川・中・雲川のチーム戦』で最も警戒すべき相手、それは雲川紫苑であるという西の言葉。
それを受けて、真面目で常識人の東は声を上げた。
「なぜだ? 一番なら鷲島だろう」
東としては、雲川を低く見るつもりはなかった。金崎と同じく、雲川は、ある程度警戒に値する。しかし、それでも、やはり一番警戒すべき最強のエース鷲島であろう、と東は考えていた。
その東の疑問に答えたのは中であった。中はじっと東を見た。そして言葉を紡ぐ。
「うにうにいくらだよ?」
中のどこか拍子抜けな声音――いや、中だけではない、西と南もどさくさに紛れて中と同じ言葉を同じ音質・音程・タイミングで放っていた。声音まで中に寄せた南と西による異口同音、それを聞いて、東は一瞬、技術力の高さに驚きそうになり、すぐに不快だと切り捨てるべき場面であることに気づいた。
「やめろ、はもるな」
西と南にそう吐き捨てて、東は中を睨んだ。
『はもる! はもる!』と盛り上がる西と南をバックグラウンドミュージックにしながら、中が説明を始めた。そう、この上なく無駄な説明を。
「うにうにいくら、っていうのはね、雲川さんの必殺狙撃の名前だよ。まず語呂がいいよね。寿司屋にいる気分になれる。でもそれだけじゃない。これまで雲川チームは基本的に試合中に喋らなかった。無言のチームで、面白さは口にしない、行動で示すってチームだった。それでもある程度の面白さ、主に鷲島君が珍妙な事をする、とか、金崎君と雲川さんがしめやかに爆散する、とかそういう面白さを醸し出してきた。でも、前回の試合は違った。ついに雲川チームが喋った。その初めての試合、それで口にした言葉が『うに!うに!いくら!』だった。第一印象は大事、だから最初に試合で何を口にするか、それを鷲島君たちはずっと考えていた。その結論が『うにうにいくら』。つまり、『うに』とともに生き、『うに』とともに死ぬ。雲川チームの悲壮な覚悟を感じたね。でもその甲斐はあった。あれで観客席の注目をたった一言でかっさらった。解説の二年生たちにも度肝を抜かせた。これぞエンターテイナーだね。一流の生徒である証。この学園が求める人材だよ。だから、つまり雲川さんこそ、中チームが最も注目して最も警戒している相手、じーっと見つめるべき相手。間違いない。あとついでに言うと、シールドを惑わす系の狙撃だから普通にそこそこ強いんじゃないかな。西君なら対応できるけど、他は不意打ちされると厳しいと思うよ。まあ正面から警戒してる限りにおいて
流れるような無駄な説明、そして、その最後の最後で中が付け加えたまともな言葉、それを聞いて東は次のように思った。
――最後の言葉だけでいい、と。
そんな東の表情を見て、さらに中は追撃の言葉を放った。
「私も雲川さんと同じで、アサルトライフルを装備した隠蔽型だからね。雲川さんスタイルで行くよ。次の試合は『うに! うに! いくら!』対決になるよ」
じっと覚悟を込めた中の瞳が東を捉えた。雲川が知れば、思わぬ強敵に存在におののいたかもしれない。
「やめろ」
「私は曲射砲も使えるし、ちょっとアレンジするわ。『ほたて! 中トロ! 甘えび!』でいく」
じっと覚悟を込めた南の瞳が東を捉えた。雲川が知れば、『うに』と『いくら』が消えたことにおののいたかもしれない。
「やめろ」
「俺もアクセル使えるからちょっとアレンジするわ。『ラーメン! カレー! 牛丼!』でいく。
じっと覚悟を込めた西の瞳が
東が『やめろ。あと
それに対して、西は『にししし』と笑った。西が笑うとすぐさま中・南は「自己紹介っ!」と言いながら西の方へ人差し指を向けた。
東は席を立とうとしたが、素早く西と南に抑えられた。そんな東西南を視界に入れつつ中が次のチームへ矛先を向けた。
「よし、じゃあ次、星川チームだね。うん、まあ可愛いね。西山、黒井、姫乃、隙がないと思うよ。でも私たち負けないよ」
「いや負けてるわ! このチーム全員可愛すぎるわ! 特に星川ちゃん、めっちゃ可愛い! 超絶美少女! この学園で一番可愛いわ!」
中の宣言に対して素早く西がツッコミを入れた。だが、これは対策会議を不穏にさせる言葉であった。
『可愛い』という言葉は年頃の女子生徒には、時に重要な意味を持つのだから。
「おいごら!! わ゙だじら゙が゙可愛い゙ぐな゙い゙っ゙でが?」
中と南、本来ならば相応以上の容姿を持つ二人であったが、今の二人は故意に大胆に顔を歪め、まるでゴリラにような迫力と怒声で西へ迫った。
突然の仲間の変貌――主に顔芸的な意味で、に対して、西は驚くことも無く冷静に対処した。
「いや、お前らは家族みたいなもんだから、姉とか妹とかを可愛いとかいちいち言わないだろ」
「姉なのか妹なのか、どっちだコノヤロー! そこ重要だぞ! 私はどっちだ? 姉貴か?」
西の言葉に、素早く南が切り込んだ。普段の南よりも前のめりかつ、どこか力が籠っていたが、それに対しても西は平然と答えた。
「まあ普通に考えて、地図っていうのはな、北を上にすんだよ。だから
「き、きたみ、きたみですぅ……」
これまでずっと気配を殺していた喜多見であったが、耐えられず小さく声を上げた。
「んで、俺と
ひまわりのような笑顔で西が
「お前とは全く似ていない。勝手な設定を作るな」
東がじっと西を睨んだが、西はそれを無視して南へと言葉を向ける。
「だから、まあお前は末っ子、末妹な!」
「おいごら! 私はお姉ちゃんキャラだぞ!」
西の宣言に耐えられぬと南が激怒したかのような声を上げた。
「え? 妹か弟いるの? 初耳なんだけど?」
「設定上はいる。ただ現実にはいない」
「いないじゃん」
不思議そうに中が尋ね、心底真面目そうに南が応じて、最後に西が淡々と事実を突き刺した。
三人は一度、無言で互いを見合った。一泊置いて中が口を開いた。
「というかさ。私はなんなの? 家族だとどのポジション? 西君の家族案に私だけいないじゃん。ちゃんといれてよ」
「中は、うーん、中はまあ俺と東と一緒だな、位置的に。だから一卵性の三つ子ってことにしようぜ」
「それだと私が男の子になっちゃうだろ。ちゃんと設定を生物学的に正しくしろ」
西の言葉に素早く中がツッコミを入れた。
「じゃあ三卵性で……あ、だめ、俺、
「それならよし」
「よくない。やめろ、不快だ」
無意味な設定を詰める西の言葉に、中は頷き、東は眉を顰めた。
「そうだよ、私が末っ子とか、不快だわ。私は、お姉ちゃんだぞ!」
「いや、もう決まった事だから」
南の言葉に対して、西は面倒くさそうに答えた。西の態度にカチンと来た、いやカチンと来た風を装った南は必殺技を使うことにした。
「はぁー! これはないわ! 今度まいぴっぴに西が『星川が一番可愛くて、まいぴっぴは可愛くないって言ってた』って事実陳列してくるわ」
「いいね! 今度まいぴっぴに言おう」
「おいバカバカ! ヤメロ! 俺もうちょっとで青井さんとデートできるんだから、好感度下げるような事言うんじゃない!」
オチがついたと思ったのか、中と南はげらげらと笑い出した、それに合わせて西は『にししし』と笑った。西が笑うとすぐさま中・南は「自己紹介っ!」と言いながら西の方へ人差し指を向けた。
そんな東西南に対して、喜多見はあわあわとしつつも気配を殺し、東は徒労感から深い溜息をついた。
三馬鹿が荒らしまわりつつも対策会議は進み、最後のチームである飛山チームの対策の話になった。
「ここおもろくないわ。なんか道合が強すぎるし、気づいたら私たち死んでるし、見せ場を作りにくい。ボケる前に
南が不満そうに感想を口にした。四月の第二試合で中チームは既に飛山チームと戦っていた。その時の『おもろくない』試合結果を思い出したのだ。
「試合してるんだ。ちゃんと試合をしろ」
至極当然のことを東が口にした。
「そうだよ。南。ちゃんと見ろよ」
急に南を注意し始めた西を東が訝し気に見た。信用できないからだ。東の視線に促されるかのように西がさらなる言葉を続けた。
「飛山チームは結構おもろいだろ。というか、飛山が結構おもろい、前、高級スパで鷲島と一緒にいた。この時点でおもろい……!」
「高級スパで鷲島君とイチャついてたの? なんでそんな大事なこと報告しないの?」
中がじっと西を見つめた。
「いや、俺じゃなくて飛山がね。飛山がね」
自身が『鷲島と高級スパでイチャついていた』という疑惑をかけられたと思った西は慌てたように否定した。そしてチラチラと東の方を意味深に見た。東は純粋に不快に思ったので無視した。
「知ってるよ? そうじゃなくて、それも重要情報でしょ。なんで報告しなかったの?」
西の渾身のボケをスルーして中がさらに追撃した。
「いや、俺だけが知ってる秘密にしたかったからだけど?」
ボケを拾ってもらえなかった西は、とりあえず適当な言葉を口にした。
「急に嘘くさくなった。鷲島と飛山が高級スパでイチャついてたとか西の妄想だよ! 間違いない!」
「ウソジャナイ! ウソジャナーイ!」
素早く西の言動を南が切り捨て、それに対して西が大声で喚きだした。片耳をふさぎながら南が次なる
「飛山チームとマッチングするより麻倉チームとマッチングしたいわ。
「俺たちは先週、麻倉チームに負けたばかりだ。お前は何を言っているんだ?」
東が鋭く南に言葉を突き刺した。先週の五月第一試合で、中チームは麻倉チームにダブルスコアで敗れていた。東も南も、いや中も喜多見も、西以外全員が佐々木の砲撃でダウンしたのだ。なお、西は、『麻倉チーム名物』である【佐々木と七宮の連携】に敗れたため、実質中チームは麻倉チームによって全滅していた。
そんな辛辣な東の指摘に対しても、南はけろりとした顔で口を開く。
「あの試合おもろかったわ。私、任務点しか取れてないと思ってたら、なんか有坂倒してて笑ったし、
この試合では複雑な読み合いの結果、南の砲撃が黒沢を狙ったが命中しなかった、と思いきや近くで隠蔽していた有坂を討ち取るという奇妙な事象が発生していた。そして、曲射砲使いの南は砲撃地点を簡単に読まれてしまい、そこに雨あられと佐々木のカウンター砲撃が集中し討ち取られたのだ。
また、東も仲間たちが次々とダウン・負傷し戦えなくなる中、逆転の一手のため佐々木に肉薄し彼を近接戦で討ち取るということを試みたが、それは失敗に終わった。
「
東は一瞬、佐々木以外にも能力、いや正しくは根性や献身を評価した生徒がいたが、それは口に出さず、そもそもの問題点――飛山チームの話題ですらなくなっていることを言及した。既に作戦会議になっていないが、それでも僅かに中がぽろりと飛山チームの対策を口にする可能性があった。それゆえ、東は懸命に話題を戻そうとしたのだ。涙ぐましい努力である。
「あ! 今日、麻倉チームの活動日じゃん。行こう行こう! また行こう!」
そしてそんな努力を無に帰すように南が気づいてはいけないことに気づいた。今日が水曜日であり、麻倉チームによる炊き出しの日であることだ。
立ち上がろうとした南を今度は東が防いだ。
南を抑えながら、常識人であり、またそれなり以上の良識を兼ね備えた東は、一昨日に三馬鹿が行った暴挙を思い出した。
第一試合で麻倉チームと戦った翌日の月曜日。興奮冷めやらずの三馬鹿は『おもろ』を求めて学園を徘徊していた。そして、下位の生徒たち集まっているのを見て、『あれはなんだろうか』と気になった三馬鹿は、いつものようにフォーメーション(三馬鹿が行うふざけた行動であり、中から見て方角的に南に南が、西に西に位置するというものだ)を組みながら接近した。そして、目撃してしまった。群がる下位たちの中心にいる麻倉チームを。
昨日の試合を余韻が十分に残っていたこともあり、三馬鹿は突撃した。勿論、フォーメーションを組みながら。
怒涛の勢いで雑談してくる三馬鹿に対して、警護役であった七宮・佐々木が必死に対応した。しかし、この二人の登場は火に油、いや、三馬鹿に『おもろ』であった。
二人の関係性について追及する中、ボンバーやってやってと強請る南、どこからともなく取り出した色紙にサインを求める西、懸命な活動をする麻倉チームの邪魔にしかならなかった。
梃子でも動かぬ三馬鹿に佐々木は困りつつも、しょうがないので、七宮との関係(信頼しているチームメイトという関係)について説明し、包装材を打ち上げて、色紙にサインをした。三馬鹿はにこにこしながらもさらに佐々木に雑談絡みをしたのであった。
なおこれらの行動により麻倉チームの計画が乱れ、その後の配給に若干の悪影響を及ぼし、配給所をにぎやかにした。
後に、三馬鹿の行動を知った東は、三人を叱った後、麻倉チームに謝罪した。
そして、今、一昨日の暴挙が繰り返されそうになっていた。ゆえに、東は南を抑えたのだ。
ちなみに、なぜ、三人のうち南を抑えたかと言えば、それは東は三馬鹿の中で最も危険な馬鹿は南ではないかと、最近考えているからだ。以前は、アグレッシブで多動気味の西こそが危険人物だと考えていたため、西を積極的に抑えたが、一か月間の交流で考えを改めた。西は僅かばかりの常識を保持し、また中は冷静さを持っていて最後の一線は超えないのではないかという期待があるが、一方で、南は一番頭のネジが緩いと東は思っていた。
南を抑える東――見方によって女子生徒にしがみつくような東を見て、西が絶望の表情を作った。
「イチャついてるのか、俺以外のヤツと……」
まるで伴侶を寝取られてしまった男のような顔で、西が東を見た。女子生徒である南を見たのではない。東を見たのだ。
東は不快な気分になった。
「念のため言っておくが、麻倉チームの活動を妨害するんじゃないぞ。お前たちの馬鹿の尻ぬぐいをこれ以上俺にやらせるな」
「違うもん!
南のとぼけた回答を聞いて、
「
常識人であり、人の話を聞く努力をする東は、当然麻倉チームの告知を読んでいた。それゆえの真っ当な言葉であった。
「でも下位以外の生徒もいたぞ。鷲島とかもこっそり来てたし、別によくない? 鷲島はBランクだけど、強さはAランクだし、おもろさもBランク越えてそうだし、そんなやつが配給所に来てたんだから、俺らが来たっていいだろ」
西が自然体で自分の考えを口にした。なお本当は、もっと嫉妬に狂った男の演技をしながら喋るか悩んだが、東がだいぶ嫌がってそうなのでやめておいた。西は『自分は気を遣える人だな』と内心で思った。だが、そんな西の思いは東には通じなかった。
「嘘をつくな」
東、いや、東だけではなく、東の発言を先読みした中と南(しかも声音を東に寄せていた)、三人の声が一斉に西の言葉を『嘘』と切り捨てた。
勝手に声を重ねられた東は眉を顰めた。一方で西はすぐに反論した。
「ウソジャナイ! ウソジャナーイ!」
当然、片言煽りだ。
東はこれを取り合わなかった。なぜなら鷹一のこれまでの試合での行動から、東は鷹一を非常に高く評価していた。特に鷹一から知性と勤勉さを強く感じ取っていた。『配給は下位限定という麻倉チームの告知』を鷹一が無視するとは思えない。同じチームの西よりも、まだ見ぬ鷹一を東は信頼していた。
また同時に、中と南も西の言葉をあまり信じていなかった。なぜなら、二人とも鷹一の姿など配給所で見ていなかったからだ。Aランクの実力ある生徒であり、相応の
だが、これらは全て誤りであった。その日、本当に鷹一はいたのだ。月曜日、鷹一は、『秩父・天沢合同訓練』の後に、配給所を視察に来ていた。中も南も、麻倉チームも、配給所にいた下位も彼には気づけなかった。しかし、西は気配を完全に消していた鷹一に気づいていたのだ。
自分は狼少年だ、と感じつつも、西は、
「ウソジャナイ! ウソジャナーイ!」
と、必死に片言で周囲を煽り続けた。
信用されるよりも大事なことがあった。
そうして『対策会議』と呼ばれる『お笑い会議』は、無意味に長引いていった。
★お知らせ
ストックが尽きました。
急いで書いていますが、GWがちょっと忙しいこともあるので、ちょっと次回更新は遅くなるかもしれません。