学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
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Aランク2位(暫定2位)、飛山チームのリーダー。機動戦術を得意とする。
金髪の美少女。好奇心がまあまあ強め。明るく、よく笑い、よく話す社交的な人物。理知的でもあるため、『話しやすい』と評価されることも多いが、一方で本心が見えにくい人物。鷲島からは、非情な面があると思われている。
戦闘・統率・戦術・戦略・謀略・運営と隙が無いリーダー。天は二物も三物も与える。
零とは学園に来る前からの親友であり、入学後にすぐに同盟を組んだ。親友とともに鷲島を勧誘したが失敗した。現在も鷲島とは「相互に友情を示す」という形でパイプを持っている。
親友の零をサポートしつつ、チームの管理もしつつ、自己訓練も行いつつも、今後を見据えた策謀も進行中。
でも大邪神様とマッチングした。うげー。誰か、たーすーけーてー。
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飛山チームの狙撃手。通信担当も兼任。高魔力。新入生最強の狙撃手であり、機動力と狙撃能力を高レベルで両立している。チーム戦において、活躍度合いも高く、鷲島には警戒されている。
一生懸命な努力家。リーダーの飛山のことを尊敬している。またチームは違うがストイックな努力家である鷲島のことも尊敬している。金崎も頑張ってるので一方的に好感を抱いている。
本質的には明るくよく喋るタイプだが、情報の流出やチームの足を引っ張ることを警戒し、あまり喋らないようにしている。
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飛山チームの近接担当。
機動力と接近戦能力に長け、近接高速戦闘を得意とする。あの佐々木緑山を試合で倒した生徒の一人でもある。正面戦闘能力も高いが、隠密潜伏し、重要なユニットを暗殺する技能も高い。
淡々として、どこか冷たそうに見えるが、口下手なだけで別に冷たくはない。リーダーである飛山を信頼しており、彼女の指示に忠実に従う。
大町とは幼馴染だが、ここ数年は会っていなかったため、学園で再会したときは、彼女の変貌(主に容姿的な意味で)に驚愕した。
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飛山チームの偵察担当。高魔力。非常に高い機動力の持ち主であり、飛山チームの『目』として活躍する。
戦闘力では飛山チーム最弱ではあるが、新入生の中では平均以上の実力の持ち主。偵察、陽動、特攻、時間稼ぎなどでチーム戦に貢献しており、特に試合序盤に行う走り偵察は飛山チームの初動を大きく手助けしている。
明るく、コミニケション能力が高く、親切で、そして同時に知的センスもあるためか、人に好かれやすい。交友関係が非常に広く、また記憶力も高いためほぼ全ての新一年生の顔と名前が一致している。
チーム戦以外でも、様々な面で飛山を支えており、飛山からは重宝されている。なお、伊舎堂は飛山のことを非情な人だと思っている。
飛山チーム。
チームランキング不動の2位であり、機動戦術を得意とするチームだ。
多方面に優秀な能力を持つ飛山が、戦略考え、チームメイトを選び、必要な戦術を講じ、そして、チームを運営・育成することで、この高みを維持していた。
チームの要である道合杏奈は、懸命な努力家であり、また狙撃手としての才能に愛され、さらに言えば二等級魔力という魔力面でも大きな素質を持っていた。
それらによって編み出された高精度高威力の一撃必殺の狙撃。そして生まれつきと努力により培った圧倒的な機動力。
この二つを持ち合わせる彼女は。一年生の間では、ある渾名で呼ばれていた。
そう『最強狙撃手』だ。14点もの撃破点は全てが狙撃によるものであり、これまでに数々の猛者を討ち取ってきた。四等級魔力の氷橋、万能曲射砲手の南、多才な射手である立花、そして何より、常識外の暗殺者である山見。常人には決してできない功績を僅か一か月で積み上げた。ゆえに、誰もが、彼女を認めている、新一年生最強の狙撃手と。
彼女のことを、鷹一が『死神』と形容するのも無理のないことであった。
しかし、実力者である道合の自己評価はあまり高くない。
彼女は、自分はまだまだ未熟と考えていた。
尋常ならざる努力家であり、常に油断なく鍛錬を重ねる。それは、自身を見出し、才能を開花させたリーダー、尊敬すべき飛山の役に少しでも立ちたいからであった。
そんな道合杏奈の朝は早い。
彼女は午前五時には自然と目が覚める。大事な日にだけ目覚ましをかけて飛び起きて、そのあと結局二度寝をするようなどこかの『ほのぼのスナイパー』とは違う。道合は、起床時刻の少し前には意識がクリアな状態で静かに目を覚ますのだ。一人の狙撃手としても、アスリート、ないしエンターテイナーとしても、『格』が違うのだ。
起床後、道合は、カーテンを開けて朝日を浴びる。じっと十数秒ほど体に日を染み込ませた後、コップに水を注ぎ、静かに飲み込む。
軽く体操をして体を整えながら頭も整える。昨日のトレーニングを脳内で振り返る。どこが良く、どこが悪かったか、それをしっかりと意識して、体操終了後に、飛山から課された訓練内容の再確認を行う。
訓練進度と今日のやるべきことを確認したら、ある試合のログを流しつつ朝食を作る。
白米、焼き鮭、ちりめんじゃこ入り納豆、ほうれん草の胡麻和え、味噌汁、オレンジ。
ログを見ながら素早くそれらを作り終えると、席につき、両手を合わせて『いただきます』という言葉とともに僅かに頭を下げる。
しっかりとよく噛んで朝食を食べつつも、道合は、じっと試合のログを見つめた。何度も何度も同じシーンをループする。
ある狙撃手の、ある活躍をずっと見続けた。
朝食を終えると、歯磨き等、その他、朝にすべきことを片付けた後、訓練室へ向かい自主練に励む。
狙撃訓練、機動訓練、回避訓練、飛山チームの戦術や連携を意識した訓練。
それらを確実に一つ一つクリアしていく。
少しでも自分を鍛え、敬愛する飛山の恩に報いるために。
午前10時を過ぎたあたりで、チームメイトである針谷が訓練室に現れた。挨拶とともに軽く言葉を交わしたのち、道合からの提案もあり、二人は互いを活用した訓練に移る。
道合は高機動の針谷を打ち抜く訓練と迫りくる近接型に対抗する訓練、針谷は最強の狙撃手から逃れる訓練と高隠蔽高機動の相手を追い込み抹殺する訓練。
1時間ほど二人で訓練をした後、再度、互いに自主練を行う。
狙撃訓練をしながらも、道合の心の中には迷いがあった。いや、正確に言うと、それは疑問であり悩みであった。
五月第一試合のある試合を見てからずっと気になっていたことだ。
その試合のログを何度も何度も道合は見た。だがある狙撃手の行動が、ずっと道合には分からなかった。
「うにうにいくら、って何だろう……?」
思わずつぶやきが漏れた。
『最強狙撃手』、道合杏奈は頭に疑問符を浮かべつつも訓練を続けた。
※
そうして時間は過ぎていき、飛山からの招集がかかった。
道合・針谷は素早く飛山の部屋へと向かった。事前に、『本日の午後作戦会議を行う』という通達があったこともあり、二人は素早く動いたのだ。
リーダーの部屋には既に伊舎堂がいた。飛山の傍に控える彼女の姿からは、聡明さと明朗さが今日も溢れていると道合は感じた。
そして、リーダーの飛山は――
「うげー」
――だらしなくソファーに寝転がり潰れた蛙のような声を上げていた。
「だ、大丈夫ですか!? 龍華さんっ……!」
敬愛するリーダーの思わぬ姿を見て、道合が駆け寄った。
「うお~~~、大丈夫じゃない~~~、うげー、大邪神様と当たったー、あ~~、運が悪い~~」
「大邪神――鷲島君のことですよね……確かに、鷲島君は凄く強いです……でも、私、頑張ります。頑張って、龍華さんのお役に立ちます……! 鷲島君に勝てるかは分かりませんが、でも頑張ります……!」
道合はぎゅっと両手を握りしめて拳を見せた。
「うぉ~~~、感激~~~! 頑張る~~~!! うぉ~~~~!! 飛山龍華再起動! よし、道合さんに気合を入れてもらったし、作戦会議に入ろうか」
「はい!」
起き上がった飛山に道合は強く頷いた。道合の後ろにいた針谷は無言ながらも小さく頷き、飛山の傍に控えていた伊舎堂も人の良さそうな笑みを浮かべた。
「それじゃあ、まず対戦チームと所属生徒の能力だけど……だいたい大丈夫かな。昨日の時点で共有フォルダのデータは更新したけど……だいたい皆確認済みだったよね。針谷さんは雲川チームのデータがまだ更新前かな? とはいっても、四月までのデータは見てくれてたと思うし、そこまで大きな変更はなかったかな。一応、後で雲川チームのデータ確認もお願いね」
飛山チームは精鋭である。
不動の2位であり、ずっとAランク帯で戦ってきたチームだ。伊舎堂・飛山の情報収集能力・分析能力により、一年生の全てのチームのデータがまとめられている。また情報に直接関わらない道合や針谷もそれぞれ狙撃と近接の専門家としての経験や感覚を飛山に随時報告しており、それも敵チームを分析する判断基準になっている。さらにこのデータは週二回以上の頻度で更新されており、それが飛山チームの共有フォルダに保管されているのだ。
精鋭たる四人は、必要に応じ、仮想敵のデータを確認しており、それがログとして残っているため、飛山は、チームメイトの三人がそれぞれどのタイミングでどのチームの情報を読み取っているかを把握しているのだ。
実際、道合は本日の午前の訓練前には、雲川チームのデータを確認していた。これは、マッチングのためではなく、最強の選手である鷹一への対策、努力家の金崎への共感、そして、謎の狙撃手に対する疑問が理由であった。
「うん、分かった」
飛山から名指しされた針谷は素直に頷いた。針谷は、口数が少なく、どこか冷たそうな雰囲気の持ち主であったが、彼女もまたリーダーである飛山を信頼していた。
「うんうん、ありがとう。じゃあ、まあ皆だいたい相手のことは分かってると思うし、実際中チームとは二回目の戦いだけど……今回の重要なポイントは二つだね。一つは鷲島君を中核とした雲川チームの抑止ないし制御、もう一つは星川チームの戦術読みだね。どっちから話そうかな……まあ、たぶん鷲島君も意識してそうだから、星川さんの方かな? うーん」
そこで、飛山は十数秒の間、「うーんうーん」と悩み声を上げた。そして決断した。
「うん、星川さんの方だね。今回の試合は星川さん達が全員隠蔽装備で来ると思う。ここまでは、ほぼ確定かな? まあ逆張りで星川さんが重装備で来るってこともありそうだけど、そうなったら、そっちの方が楽だから、個人的にはそっちがいいかな? でもたぶん星川さんは今回は隠蔽だと思う。だから隠れている星川さんの狙撃に気を付けなくちゃいけないのが、今回の試合の大変ポイントその1だね。星川さんの位置が分かるまでは、アクセルの使用はだいぶ気を付けてもらう感じかな。
あと、星川さん達の全隠蔽に合わせて、中チームや鷲島君の隠蔽からの完全隠蔽試合とかもちょっと警戒中。ただ、まあこうなっちゃったら、索敵はこっちが有利だし、駒質的に中チームには優位を取れるから、そこまで怖くないかも。星川さんと西山さんは普通に強いから、上手く対応だね。ただ星川さんは狙撃装備ならタイマンはしてこないから、そういう意味では今回の試合で怖いのは西山さんと鷲島君だね。んで、鷲島君だけど……」
そこで、飛山は一度言葉を切った。そして、悩まし気に目を瞑り、「うーん」と小さく唸り声を漏らした。
「鷲島君は普通に大邪神だから困るね。本当に困る……一応撃破する方法も考えたけど、基本は抑制・制御の方になるかな? 鷲島君がこっちの誰かを狙ってきたら、狙われた人は全力で逃亡。鷲島君と追いかけっこしてもらって残りの三人で撃破点を稼ぐ。
理想的には任務点も取って、最後に鷲島君と決戦、ないし最後までガン逃げって形かな。青井さんの時はガン逃げしたけど、鷲島君はちょっと悩む感じかな……生き残りが2人ならガン逃げ、3人以上で私と道合さんが残ってたら私が指示出しする、そうでないならガン逃げかな?
あと状況によっては擦り付けもありかな? 逃げながら誰かに擦り付ける又は、最初から他のチームの誰かと戦わせる作戦だね。柚木さんが頑張ってたやつ。でも、これはちょっともったいないかも。擦り付けられた誰かを鷲島君が基本的に三枚おろしにしちゃうし、西山さん以外はあんまり持たないだろうから、旨味が少ないかな。まあ状況によってはやるとは思う。
あと鷲島君がこっち完全無視して殺戮モードに入った場合と、鷲島君が隠蔽暗殺モードに入った場合の対策だけど……前者は鷲島君を挑発するか、または鷲島君に殺戮されてしまう人たちと協力して大邪神様討伐クエストを発行受注するかって形かな。
後者はちょっと凄く困るけど、うーん鷲島君はやらなそうなんだよね……ああ、でも鷲島君ってこっちが嫌がること凄くやる人だから、普通にやりそうだなー。一応、そうなったら、皆、死ぬときは必ず、『ぎゃー』って叫ぼうね。『ぎゃー』って聞いたら鷲島君が隠蔽暗殺しまくってるってことだから、気を付けよう! 動きとしては完全隠蔽試合と同じかな。細かいパターンに関しては後で作戦フォルダにまとめておくね」
再度、飛山は一呼吸入れた。次の話は、飛山としても難しい課題だったからだ。
「んでんで、実際の大邪神様討伐クエストクリア方法だけど……正直、難しいんだよね。一応、みんなに見せた飛山花火職人戦法か、道合さんの必殺狙撃にお任せする感じ、かな……?」
最強の怪物、鷲島鷹一をそもそもどのように倒すのかという話だ。これまでの戦績上、鷹一は弾幕攻撃に比較的弱いとされている。しかし、隠蔽高機動のチームである飛山チームに弾幕を張る能力はなかった。それゆえ対処が限られるのだ。
「飛山さん、花火戦法って実用化イケそうですか……?」
戸惑い気味に伊舎堂が尋ねた。
飛山の隠し玉は、彼女が持つ『空中戦』以上に突飛な技であり、実戦で使えるか疑問があったのだ。
「いやーキツイっす……なので、道合さんの狙撃が頼りです……!」
ぐっと飛山が懇願するように道合を見た。道合はごくりと喉を鳴らした。
「頑張ります……!」
「うぉ~~~!! えらい~~~~!! まあ、でも、実際はたぶん鷲島君と決戦するというより、避ける流れになりそうかな。道合さんにも撃ってもらうよりは、序盤は伏せてもらって、大邪神様アクセル禁止法を制定してもらって、その隙に私と針谷さんで点を取っていけるといいなーって思ってるよ。勿論、チャンスがあったら、道合さんにはどしどし撃ってもらうけど、まあ、序盤は大邪神様アクセル禁止法制定したいから、隠密重視かな? 朝令暮改にならないように頑張ります……!」
「私も頑張ります……!」
飛山の言葉に再度道合が頷いた。
「うんうん! よろしくよろしく! あと、中盤以降、というか主に、道合さんが鷲島君のターゲットにされた場合はだけど、この場合は、道合さんには頑張って狙撃&待避で粘ってもらう形になるかな。あとあと、普通に鷲島君の動きを止めたくてやってもらうかも。正直、鷲島君が強すぎて盤上コントロールが難しいんだよね。ちょっとキツキツだね、今回。うぇーっと、ここまでで質問とかある?」
そういって飛山は三人をそれぞれ見た。
道合は気になることがあった。しかし、発言するのは躊躇われた。ここで聞いて良いものかと思ったからだ。
針谷も聞きたいことがあった。しかし、手を挙げるよりも早く伊舎堂に先を越された。
「うぉ、何かな、伊舎堂さん」
「はい、ちょっと細々とした話で恐縮ですが……最強さん――鷲島君についてです。たぶん彼がいると、雲川さんと金崎君の暗殺って相当難しいですよね。恐らく、鷲島君は大出力レーダー持ちでしょうし、これまでの試合を見るに、雲川さんと金崎君はほぼほぼ『逆認識』持ちです。
投入位置にもよりますが、暗殺しようとしても鷲島君が割り込んできて、暗殺者が返り討ちにされる気がしますが、飛山さんとしては、対策などはありますか? 雲川さんと金崎君は鷲島君の危険性を上げるので、早々に倒した方が良さそうな気がしますが」
伊舎堂の明るく人の良さそうな顔つき、それでいて心に届く明るくはっきり、その上優しさや親切心を感じられる声。そんな顔と声で送られた言葉は『暗殺』についてだった。
「うぉ~~~、鋭い~~~。実は、私もそこ結構気になってて、ええっと、とりあえず、鷲島君が重めの装備で来るって前提で話すね。この場合は、たぶん『鷲島君の機嫌を取るゲーム』になると思う。伊舎堂さんが言うように、暗殺しに行こうとすると鷲島君の返り討ちが怖い。というか、たぶん索敵面からして結構危うくて、『雲川さんと金崎君を捕捉できる位置に移動しようとする』ことを鷲島君は嫌がると思う。だから、それを踏まえて動かないといけない。
変な話だけど、見えない雲川さんと金崎君の位置を予想して、見える位置に敢えて行かないみたいな行動をする必要がある。雲川さんと金崎君を捕捉していない状態で、雲川さんと金崎君がいそうな場所を見れる位置に行くと鷲島君のヘイトがたまるからね。鷲島君のヘイト管理が大事。
一応、鷲島君も自分が撃破点を取るために動かないといけないし、二人を暗殺する隙自体はあると思う。というか、鷲島君の動きで、ある程度二人の位置が絞れそうっていうのもあるかな。ただ、こっちが気付いていることに気づかれないようにしたいから、次の試合は、『逆認識』対策として、所々、伊舎堂さんのレーダーをOFFにしてもらうタイミングがあると思う。
まあ、これは雲川さん・金崎君暗殺に限った話じゃなくて、星川さんや姫乃さん・黒井さん・中さん・喜多見さんなんかの暗殺にも言えることかな? この辺りのことも作戦フォルダにまとめておくので、ご確認をお願いします。ぺこり」
そういって飛山は小さく頭を下げた。それに合わせて、伊舎堂も同じように小さく頭を下げ、それを針谷はぼんやりと見つめ、三人の様子に少し遅れて気づいた道合が慌てて頭を下げた。道合は、あることで思考がいっぱいであった。そう、今、飛山が名前を挙げたある生徒のことで。
そんな道合に気付くことなく、針谷が小さく手を挙げた。
「ほい、針谷さん、何かね、何かね」
素早く飛山が拾い上げる。
「次の試合までに重点的にトレーニングする項目があれば早めに知りたい」
針谷の落ち着いた声が室内に響いた。
「うぉ~~~、やる気がある~~~、助かる~~~。とりあえず、全員機動力と連携を鍛えよう。これは今回だけではなくいつでも役立つし、私たちのアピールポイントでもあるからね。それと、今回は一撃必殺が大事かな。一撃で倒さないといけない相手や、できれば一撃で倒したい相手が多いからね。特に、金崎君と雲川さんは一撃で倒さないと大邪神様降臨の儀式を使われちゃうかもしれないしね。
あとそれぞれの鍛えてほしいポイントは、伊舎堂さんは機動力と回避力と偵察能力、道合さんは得意を伸ばしてもらって、そしてそして、針谷さんには1対1で鷲島君以外に勝てるようになって欲しいかな。ちょっとがめついかな……? がめついリーダーです……!」
「鷲島以外は……龍華が言うなら、そうできるようにするけど、西山相手は厳しいかもしれない」
「うーん、まあ、正直、西山さん相手は私も欲張り過ぎかもだけど……でも、できたら倒せるようになってほしい。まあ、でもこればっかりは訓練の調子とか、本番の体調、西山さんの状態とかにもよるから、まあ、できたら、って感じだね。西山さん・鷲島君以外は確殺いけそう? あ、星川さんは狙撃装備という前提として」
飛山の問いかけに対して、針谷は一瞬だけ悩んだが、すぐに答えを出した。
「西が強いけど、近寄ればなんとかなる思う……うん、鷲島と西山以外は大丈夫だよ」
「うぉ~~~頼りになる~~~~! あ、そうだ、頼りになるついでにもう一ついいかな?」
「うん、いいよ、なに?」
「ダブルアクセルはどんな感じかな。実戦で使えそう?」
飛山の問い――それは、アクセルの超高等技術に関するものだった。
ダブルアクセル。アクセルは本来使用後一定時間は使用できない。しかし、アクティブ装備に二つ以上のアクセルを積むことにより、クールタイム中にもう片方のアクセルを使用することができるのだ。この技術はダブルアクセルと呼ばれていた。
しかし、アクセルの重量変化に弱いという性質と、アクセルのクールタイム中は重量が変化するという性質により、このダブルアクセルは実用が非常に困難な技術であった。
第三試合『星川・雲川・近藤・淡路のチーム戦』において、西山が決死の覚悟で行ってから、新一年生のアクセル使いがこの高等技術を獲得しようと試みていたが、未だに、西山以外の実用例はなかった。
そんな中、機動力を重視し、全員がアクセル使いという飛山チームも、このダブルアクセル技術の獲得を極秘で進めていたのだ。
「……今はギリギリ成功くらいだけど、たぶん次の試合には間に合うと思う。でも、戦闘で使うというより移動用の方が安定すると思う。戦闘の細かい動きには対応するのは難しい」
針谷はいつものように落ち着いた態度で成果を報告した。
飛山は目を見開いた。想像よりも『上振れ』の結果だったからだ。
「いやいや、移動で使えるだけで十分すぎるよ! 物凄く助かる。これはかなり色々な作戦に使えるぞ~! というか、本当に実用化するとは……いやいや、本当にお見事だね……時間があるときにダブルアクセルの一般化とかしてみない?」
ダブルアクセルの一般化。もしそれができれば、飛山チーム全体と、同盟先である零アリシアがダブルアクセルを使用可能になり、純粋な戦闘力上昇の他、戦術の幅が大きく広がる。しかし、飛山のさらなる期待に答えることは針谷には難しかった。
「それはちょっと大変そうだから、あんまりやりたくない……龍華がやれって言うならやってはみるけど、でも、私たぶん説明下手だから、一般化できないと思う」
「うぉー、拒否られた……いや、うん、まあ、そうだね。あんまりやりたくない事やってもしょうがないし、一般化の夢は一旦置いておくね……ええっと、そうだね、うん。では、皆さん、ちょっとがめつい訓練要求ですが、答えてくれると嬉しいです。ぺこり」
再び、飛山は小さく頭を下げた。三人はそれぞれの反応を返し、さらに飛山が周囲を窺った。続く質問はなかった。
僅かな間、室内が無言となる。そんな中、じっと、飛山が道合を見た。たが、道合は飛山の視線には気づかなかった。頭の中でずっとあることを考えていたからだ。そう、ずっとだ。道合はずっと気になっていることがあった。そのことをつい気にしてしまい、訓練も作戦会議も心が籠っていなかった。
そんな道合のことを飛山が無言で見た。飛山の視線を見て、針谷は何も言わず、飛山と道合の方を交互に見た。一方で伊舎堂は少し緊張しながら道合を見た。
視線が自身に集まっていることに道合は気づかなかった。
ずっとあることが気になっているからだ。
そして、つい口にしてしまった。
「うにうにいくら……」
そのつぶやきを、素早く飛山が拾い上げた。
「うにうにいくら! しちゃう!? しちゃう!?」
どこかテンション高く、飛山が声をあげ、道合は驚き目を見開いた。
「え!? あ、龍華さん……! すみません、もしかして、声に出てましたか?」
「うんうん、出てた出てた! だいぶ雲川さんの狙撃が気になるんだねー。ふむふむ、この前渡した解析データもだいぶ見てる感じ?」
五月第一試合『雲川・下水流・滝本・柚木のチーム戦』のログを飛山は当然購入していた。そして、そのデータを解析する際、道合がやけに雲川の狙撃について気にしていたのだ。狙撃の達人である彼女の感覚を重く見た飛山と伊舎堂は、集中的な調査と解析を行った。解析を行わずとも精鋭である四人にとっては雲川の狙撃はあまり脅威ではなかったが、この解析により雲川の能力はほぼ完全に読み解かれてしまった。
雲川の移動パターン・攻撃パターン・狙撃手法・狙撃間隔・使用している狙撃銃とそのカスタム・弾速・威力・弾道・連射速度・反動・取り回し・装填の速さ・射撃の癖、その他多種多様の雲川のデータを集め、その解析結果も対雲川チームの資料にまとめられ、試合のログにも入力された。そんな資料とログを道合は何度も何度も見直していた。それだけ、道合にとって雲川の狙撃は何か引っかかったのだ。喉に突き刺さって外れない魚の小骨のように。
「はい……! 飛山さんと伊舎堂さんのおかげで、いっぱい情報を取り込めてます……! 雲川さんの狙撃についてはだいぶ分かりました。ただ、すみません、何か引っかかって……やっぱり掛け声なんでしょうか……隠蔽する以上しない方がいいと思うんですが、たぶん何か大事な理由があるのかも……それに、何で、うにといくらなのかも、ずっと考えてるんですが、分からなくて……」
必死に懸命に考える道合を見て、飛山もまた真剣そうな顔で『うーむ』と頷いた。なお、伊舎堂はやや呆れていた。
(意味なんてないと思いますけどね。雲川さんはそこまで深く考えるタイプではないです。恐らくなんとなく口にした言葉というだけでしょう。まあ、射撃の際のルーティンということもあり得ますが……だから、なんだという話です。正直、雲川さん程度の狙撃手の解析にリソースを注ぎすぎですね。飛山さんの時間は当然貴重ですし、道合さんの時間だって貴重です。そんな下らないことに意識を割くくらいならば、もっと他にするべきことをした方がいいと思いますが……まあ、道合さんは非常に優秀な狙撃手ですし、それにかなり感覚的な人です。あまり理屈をこねくり回して当たるのは良くないでしょうし、飛山さんも何か考えがあるようです。ここは黙って、他のチームのことでも考えておきますか……)
伊舎堂が思考する一方で、飛山が優し気に笑みを浮かべた。
「ふむふむー、だいぶ悩んでいますなー。道合さんとしては、結構、雲川さんみたいにしてみたいのかな?」
「それは……、………………はい、その、龍華さんが許してくれるなら、やってみたいです……! 何か、突き刺さっている何かが抜ける気がするんです……だから、その、……やってもみてもいいですか?」
道合は精一杯誠意を込めて飛山に言葉を紡いだ。一方で、伊舎堂はそれを頭にいれつつも、思考は別のことに向けていた。
(……黒井さんはある程度情報源になりそうですが、西山さんはちょっと難しそうですね。あの人は結構珍しい技量の持ち主なので、ある程度探っておきたいですが……意外と隙が見えないですから、望み薄ですかね?)
伊舎堂が思考する一方で、飛山は明るく言葉を作った。
「全然いいよ! 道合さんはいつも頑張ってるからね! あ、でも、できれば、試合中にはあまり音を出さない方向で行ってくれると嬉しいかな……! 鷲島君とかたぶん無茶苦茶耳良いだろうしね。どうしても言いたくなったら、小声だね! ちっちゃい声で『うにうにいくら!』しよう!」
「――! はい! ありがとうございます! 龍華さん! 私に、雲川さんと同じことができるかは分からないですけど、でも頑張ってやってみます!」
尋常ならざる覚悟を胸に、道合は敬愛するリーダーに宣言した。一方で、伊舎堂はそれを頭に入れつつも、思考は別のことに向けていた。
(……むしろリーダーである星川さんを狙うべきですかね。あの人があのチームの頭脳ですし……ただ、星川さんもちょっと独特な人ですからね~。多彩な能力があって、思考力もある、人間関係も比較的良好、それなのに、あの人、自分から匂坂さんに首輪を付けられに行ってますからね……星川さんの能力があれば独立している方が良さそうですし、仮に匂坂さんに降るとしても、もう少し後の方が良さそうに見えますが……それだけ匂坂さんを評価している、ということでしょうかね……? なんかそれだけだと説明がつきませんが……まさかアイドル発言が本物で匂坂チームが容姿端麗だから、みたいな理由だったりしませんよね……?)
「うぉ~~! がんばれ~~!」
明るい笑顔を作りながら飛山は道合に激励の言葉をかけた。敬愛するリーダーの言葉に感極まった道合が強く頷くのを視界に収めながら、伊舎堂は他のチームについて思考を重ね、針谷もまたあることを思い出していた。
今回の試合で対戦するある生徒のことだ。
(南ってどんな人なんだろう……意外と親切な人なのかな?)
五月上旬、Aランクになったばかりのころ、針谷は高級スパの施設の使い方で悩んだことがあった。そんな時、珍しく一人でいた南陽詩乃が声をかけてきたのだ。そして、無駄な話も馬鹿な話もアホな話もふざけた話もすることなく、親切に使い方を教えて去っていったのだ。中チームの三馬鹿にして、東からは一番危険ではないかと恐れられている南。そんな彼女が一人でいる時の不思議な静かさと親切心を針谷は不思議に思っていた。
※
その後、いくつか必要な事項について話し合いをして、飛山チームの作戦会議は終了となった。
会議後、飛山の許しを得た 道合は覚悟を決めて『うにうにいくら』について修行を始めた。
――同時に彼女は考える、『うにうにいくら』とは何か?
これは無意味な疑問であった。
なぜなら、道合がどれだけ努力しても、『うにの力』が道合に宿ることはないのだ。『うに』は道合に微笑まない。道合には素質がなかった。
道合は狙撃の才能でも魔力の才能でも雲川を凌駕している。努力の面でも雲川を大きく上回るだろう。
だが、『うに』の素質、この一点にのみ絞れば、道合は雲川の足元にも及ばない。なぜなら、道合には素質がないからだ。
僅かな素質すらない。ゆえに、生涯をかけたとしても、『うに』で道合は雲川に追いつくことはできない。いや、一歩たりとも進むことができないのだ。
――雲川の戦闘中にたまたま漏れた言葉。それが、飛山チームの要、一年生最強の狙撃手を停滞へと誘った。