学園チームバトルもの。才能と努力と計画と乱数で勝利を目指す 作:集団戦大好きマン
第二試合開始直後。
【第五管区南東部】へ投入されると同時に、雲川チームの三人は最初にやるべきこと――周囲の確認、安全の確保、レーダー・通信網の起動、それぞれが役割に従い行動した。
金崎飛燕は、自身の投入場所がマップ南側の建物の内部にであること、そしてすぐ傍には敵影がないことを確認すると、身を低くして、遮蔽物に隠れながらガラスの外――地上10メートルの高所から外を見回した。
『周囲に敵は見えない。紫苑、敵が見えなければ南側の指定した座標へ移動するんだ』
『うん……! 私も誰も見えないから、そっち行くね……』
鷹一と雲川の通信を聞きつつも、金崎は周囲を索敵し、僅かに動く何かを見た。その位置がレーダー上に映ったアンノウンと一致していることに気づいた金崎は、すぐさまアサルトライフルを顕現し、スコープを覗き込むことで、何かの正体を追う。そして得た情報を二人に伝えるべく言葉を紡ぐ。
『今、建物の中にいる。高所から良く見える……! ちらっと奥で見えた! 鷲島の南東のアンノウン……! 南がいる……! あ、え、……わ、鷲島! 南がこっちを一瞬見たかも……?』
『南だな? 分かった。俺が南を倒してそっちに向かう。紫苑は指定場所で待機して大通りを見張るんだ。誰か見つけ次第、報告をしてくれ。金崎、念のため待避の準備を。暗殺の警戒だ。すぐ向かう』
鷹一の指示を聞き、金崎は強い安堵と勇気を得た。そして、彼の指示通り、すぐ動けるように態勢を整えたところで、金崎はスコープの先、南が不思議な挙動をした。
――南が何か大きな物体を顕現した直後、遮蔽物へと身を隠し、金崎から視線を切ったのだ。
金崎は、頭に疑問符を浮かべた。そして、数秒後、察した。
遮蔽物の先から放物線を描くように砲撃が発射されたからだ。独特の音、そして、軽量化とともに連射性が上昇した曲射砲からは次々と軽い砲弾が連射される。
その目標は――
『鷲島! 南が砲撃してきた! 待避する! 東側の高密度帯に行く!』
鷹一の指示で心の準備ができていたからか、それとも何度も戦ってきた金崎なりの経験か、これまでの努力の賜物か。理由はさておき、南の砲撃と同時に金崎は動くことができた。
素早く部屋から待避し、扉を叩きつけるように閉め、階段を落ちるように降りたところで、先ほどまで金崎がいた部屋に数発の砲弾が命中した。
『――! ――! ―――――! ―――――!』
衝撃で建物が揺れるが、低威力の軽量砲ゆえに、壁を隔てた金崎にダメージを与えることはなかった。しかし、衝撃からか、金崎は、仲間からの通信を聞き逃した。
ポンポンと発射される砲弾は金崎へ迅速な決断を迫った。
即ち、建物外への待避だ。一階にたどり着いた金崎はすぐさま東側の出口から外に出る。
出る直前に再度鷹一が叫んだ。それを金崎は聞きながらも建物の外へと飛び出した。
『待て! 金崎! 暗殺に警戒!』
鷹一の制止の声と金崎が外へと飛び出してしまったのはほぼ同時であり、そしてまた、変幻自在の斬撃が金崎へと襲い掛かるのも同時であった。
視界に映る奇妙な刃、軌道が読めない、そして刃があるのに、鍔がないどころか柄もない、刃だけがどこからともなく伸び金崎の首元を掻き切るかのように伸びる――伸びる、伸びる。
なぜだか、この時、金崎は時間がゆっくり進むように感じた。
そうゆっくりだ。刃がゆっくりと金崎に近づく。一見すると回避できる速度。だが、不可能だ。なぜなら、金崎の体を動かす速度は、もっとゆっくりだからだ。
――時間がゆっくりだ。
ふと、金崎の脳内に入学当初の光景が浮かんだ。
一時寮で同じだった三人、鷲島鷹一との出会い、雲川チームへ所属、初めての訓練、初めての試合、お膳立てされた撃破点、淡路との戦い、訓練の日々、秀川の撃破、訓練の日々、同盟、百田に一瞬でやられた記憶、訓練の日々、そして、この一週間、自分を支えてくれた、自分を導いてくれた二人の師匠。
高速に記憶が流れ、それに伴い徐々に徐々に刃が近づく、だが金崎は動けない。動けるほどの技術がない。金崎には速度が圧倒的に足りない。動体視力も反応速度も、何もかも足りない。
足りない、足りない、足りない。
金崎には何もかもが足りない。
だが、二人の師匠ならば、十分に足りる。十分に対応できる速度である。
その師匠が残したもの、刻んだものが金崎にはある。
――瞬間、金崎の体の中、鼓動とともに巡り巡った黒い魔力が爆発した。
キンッっと鋭い音が響いた。
刃は金崎が展開したシールドによって防がれた。魔力を集中させた小さなシールド。それは単なるシールドの展開ではない。刃をも防ぐ高密度のシールド。もちろん、鷹一の極小シールドに比べれば大きい。だが、Dランクの生徒にはできない程に優れたシールド技術によるものだった。
「嘘っ! 防いだっ!」
優れた容姿から放たれる声はとても可愛らしく、そして同時にその声音には驚愕の色が強く込められていた。
当然である。
魔力を集中させるシールドもさることながら、この尋常ならざる速度で放たれるウルミの攻撃を防ぐほどの反応速度。これは並大抵ではない。Bランク程度の生徒相手であれば簡単に切り裂き、致命傷を与えるのだ。それを金崎が反応し、防いだ。そのことに西山は驚愕したのだ。
しかし、彼女もまた並大抵の生徒ではない。Aランクの生徒である彼女は驚愕の声を上げた時には次なる攻撃を放っていた。
変幻自在のウルミの二撃目、高速かつ軌道を読ませない斬撃。それが再度金崎を襲う。
幸運は二度も三度も続かない。
『たまたま』はあくまで『たまたま』であって、何度も続かないのだ。
何度も続けば、それは必然であり、確実に起こる理由があるのだ。
――金属がぶつかるような音が鳴り響いた。
いつの間にか金崎が顕現したブレードが、西山の二撃目を防いだのだ。
(これも防いだっ!? 嘘っ!?)
本来ならば金崎では決して反応できない斬撃。それが二度も防がれた。
八割の驚愕と一割の喜び、そして一割の不気味さを西山は感じつつも三度目の斬撃を放った。今度の斬撃はこれまで以上に軌道が複雑であり、蛇のように這う斬撃が金崎の心臓を突き刺すように伸びる。
金崎はブレードを強く握るが、防ごうと思った時には斬撃は心臓を貫く直前まで伸びていた。反応できないのだ。そう、普通に金崎が戦おうと思っても速度が足りないのだ。そもそも金崎は一撃目も二撃目も本当は防げていないのだ。
(あ、無理だ――)
金崎は自身のダウンを悟った。
再度、キンッっと鋭い音が響いた。
心臓の寸前で刃は止まった。再び金崎が展開した集中シールドが刃を防いでいたのだ。いや、違う、金崎はシールドなど展開していなかった。少なくとも彼の認識では展開していないのだ。
(何で、さっきから勝手に、シールドが……?)
困惑しつつも金崎はなぜだか、身を引きながら持っているブレードを構えなおした。再度、金属がぶつかるような音が鳴り響いた。
西山がウルミを引き戻しながらも返す刃で金崎を切り裂こうとしたが、それを金崎のブレードが弾いたのだ。
(む、これ、おかしいですよっ……! さっきから妙にシールドが上手いですし、それにブレードの使い方が変ですっ……! 振るう速度は遅いのに、なのに、変に絡みつきます、金崎くんのブレードっ!)
この西山の指摘は正しかった。鷹一も言っていたように、金崎はブレードに関してはまだまだ未熟な存在だ。剣の速度も斬撃の重さも接近戦の巧みさも何もかもが足らない。
だが、金崎の剣は奇妙なのだ。その剣は、妙に絡みつくのだ。怪物、鷲島鷹一でさえそのように評した不思議な剣。それが、二度も西山のウルミを防いだのだ。
ウルミを手元に戻した西山は、一度攻撃をやめ、じっとりと金崎を見た。これまでの獲物を痛めつける肉食獣の視線ではない。冷静に相手を得点に変える狩人の目線であった。
(こんな強くないはずですし、それに金崎くんも驚いてるように見えます……マグレ……? でもそれにしては、マグレが続きすぎです。これはおかしいですが……いえ、そもそも、この斬撃、どこかで……? ――――っ!? そういうことですか……)
一方で金崎はひどく困惑していた。
(さっきから、何で、勝手に……? シールドはなんか勝手に出た……!? む、無意識か……訓練ずっとしてたから反射で出るように……? いや、でも俺はこんな攻撃反応できなかったし、こんなに集中したシールドを出せなかった……! それに、なんでブレードが、いや、なんか、ブレード出した方がいいって思って咄嗟に出したけど、なんで、二回も防いで……!? あっ!)
考えている最中に、金崎は大事なことに気付いた。雲川チームの一員として最もやるべきことを忘れていたのだ。失態であった。金崎は急ぎ失態を取り戻すべく通信を入れた。
『鷲島! 今! 西山と戦闘中! にらみ合ってる!』
『西山!? にらみ合い? 他に誰かいるのか?』
『いや、他にはいな――』
四度目の斬撃が金崎へと襲い掛かった。
その斬撃は、これまでの斬撃よりもずっと遅かった。
金崎でさえ反応できるほどに。
ゆえに金崎はブレードを自分の意志でしっかりとウルミ合わせることができた。この時、不思議なことが起こった。金崎はブレードをウルミを合わせてその斬撃を防ごうとするのと同時に、全く別の方向に集中シールドを展開させたのだ。
――また、勝手に……?
金崎は脳内に疑問符を浮かべた。一方で、西山は嗜虐的な笑みを浮かべた。
(まずは『右腕』貰いますねっ……!)
次の瞬間、西山のウルミは軌道を大きく変えた。そして金崎には到底反応できない速度で変化し、彼の右手で握るブレードを避けながらも右腕をいやらしく撫で、最後には剣先が首元へと迫った。
三度目の音が鳴り響いた。集中シールドが再び展開され、金崎の首を守った。
西山はその流れに納得しつつもウルミを引き、返す刃で金崎の左腕を切り落とした。今度は反応できなかった。ブレードを握る右腕が切り裂かれていたからだ。ゆえに対応できなかった。いくら金崎の剣が不思議な剣であろうとも、あくまでそれを扱う金崎の体は凡人のものにすぎない。ゆえに、利き腕が負傷した時点で、勝負はついていた。
(『両腕』になっちゃいましたね……種が分かれば別に怖くないですね。それにしても、こんな勝手なことするなんて、あの人ふざけてますね……)
両腕を失った金崎を見て、再度西山は嗜虐的な笑みを浮かべた。既に彼女の表情は狩人のものから肉食獣のものに戻りつつあった。
『西山はずっと一人だ――』
次の斬撃が放たれた。変幻自在のウルミの斬撃。一撃で三回の攻撃。致命傷となる心臓への攻撃を、なぜだか勝手に出てくるシールドが防ぐが、流れるように放たれた連撃が金崎の両脚を切り裂く。左足を切りとばされ、右脚を大きく傷つけられた金崎は態勢を保てず跪いた。
それを満足気に見ながらも西山はウルミを再度振るう。
『――俺の周りには誰もいない。西山は無傷。ごめん、鷲島、たぶん落ちる!』
素早く最後の通信を送りつつも金崎は必死に切り裂かれた右腕を動かそうとした。不思議な剣を少しでも再現しようとしたのだ。そして心のどこかでまたシールドが出ないかと期待した。
キンッっと音が響いた。そしてざっくりと金崎の胸部が切り裂かれた。
不思議の剣は出なかった。
だが、シールドはしっかりと出た。金崎の期待に応えてくれたのだ。ゆえに首元は守ってくれた。
しかし西山のウルミは、首元に展開されたシールドに弾かれた後、即座に軌道を変え金崎の心臓を切り裂いたのだ。
投入室にいたときの高揚感や万能感は既に金崎の中にはなかった。金崎の中を駆け巡っていた黒色の波動は既に収まっていた。最後のシールドを展開し、そして心臓を切り裂かれたことで、その力を引き出せなくなったのだ。
(また、何もできなかったな……)
そんなことを考えながら、金崎はダウンした。